勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    中国は、生産者物価(卸物価)指数が今年2月まで連続17ヶ月マイナス状態に陥っている。過剰生産が原因だ。2月の卸売物価指数は前年同月比2.%下落した。マイナス幅は1月の2.%から拡大した。泥沼状態である。この結果、輸出で大攻勢を掛けている。この被害国は、ブラジルやベトナムなど発展途上国へ広がっている。 

    『フィナンシャル・タイム』(3月17日付)は、「ブラジル、中国製品にダンピング調査 輸入急増で」と題する記事を掲載した。 

    ブラジル開発商工省は、中国の工業製品にダンピング(不当廉売)の疑いがあるとして数件の調査に乗り出している。南米最大のブラジル経済は、安価な輸入品の大量流入を受けて揺らいでいる。同省は業界団体の要請を受け、この6カ月間で少なくとも6件ほどの調査に着手している。対象製品は金属シート、塗装鋼板から化学製品、タイヤに及ぶ。ブラジルが調査に乗り出したのは、中国の輸出品が殺到すると世界が身構えるタイミングだった。

     

    (1)「世界第2の経済大国の中国は不動産不況と内需不振を背景に、過剰生産能力の問題を抱えている。中国は経済テコ入れのため、太陽光エネルギー、電気自動車(EV)、電池などの先進の製造業に投資を行っている。中国の鉄鋼製品の輸出はブラジル向けだけでなく、ベトナム、タイ、マレーシア、インドネシア向けもここ数カ月で急増している。先進国市場は、中国からの輸入品に対して広範にわたる対策を取り始めた。欧州連合(EU)は中国製EVへの反補助金調査に着手し、米バイデン政権は最近、中国製自動車に対して安全保障上の懸念を募らせている」 

    中国は、異常なほどの過剰生産能力を抱えている。地方政府が、補助金を出して生産を奨励してきた結果だ。市場経済であれば、こういう事態まで悪化することはない。 

    (2)「中国の2024年1〜2月の輸出は前年同期比で7.%増え、輸入の伸びを大きく上回った。野村のアナリストは15日付の調査報告書で「中国の輸出価格が長期的に下落しているため、中国と一部の経済大国の間で貿易を巡る緊張が高まる可能性がある」と指摘した。中国の税関データによると、同国の対ブラジルの輸出入は12月にいずれも3割以上増えた。 

    中国は、「巨船」が傾いているだけに、見栄も外聞もない切羽詰まった事態になっている。中国は、一部の経済大国の間で貿易を巡る緊張が高まる可能性を秘めている。

     

    (3)「中国との貿易摩擦は、対中関係の発展とブラジル国内産業の保護・育成を目指す左派のルラ大統領にとってジレンマとなる。23年に大統領に返り咲き通算3期目に入ったルラ氏は就任以降、産業政策を経済戦略の中心に位置づけている。だが、ブラジル政府はおそらく中国政府との対立を避けようとするだろう。中国はブラジル最大の貿易相手国であり、ブラジル産の大豆や鉄鉱石などの商品を大量に購入している。ブラジルの23年の対中輸出額は1040億ドル(約15兆5000億円)を超えた一方、中国からの輸入額は530億ドルにとどまる。ブラジルは23年に大豆1億100万トンを輸出したが、対中輸出はその70%、金額にして約390億ドルに上った」 

    ブラジルは、中国へ大豆や鉄鉱石で23年の対中輸出額が1040億ドルにも達している。中国は、ここをついて輸出を急増させ対ブラジル貿易赤字の帳消しを狙っている。 

    (4)「ブラジルが最近着手した調査の一つは、同国の鉄鋼大手CSNの要請を受けて今月に入って開始された。CSNは22年7月から23年6月に特定の種類の炭素鋼シートの中国からの輸入が85%近く増えたと主張している。調査は1年半かかる見通しだ。開始に当たり、ブラジル開発商工省は「中国からブラジルへの輸出でダンピング行為があったことを示す要素が十分存在し、この行為により国内産業に損害が生じている」と表明した。ブラジルの鉄鋼メーカーは、輸入鉄鋼製品に9.6〜25%の関税を課すよう政府に求めている。中国からの鉄鋼・鉄製品の輸入総額は14年の16億ドルから23年に27億ドルに伸びている。鉄鋼の輸入急増は、ブラジル政府にとって特に頭の痛い問題だ。ブラジルは鉄鋼の主な原料である鉄鉱石の輸出で世界有数の規模を誇る」 

    ブラジルは、中国へ鉄鉱石を輸出して大量の中国製鉄鋼製品の輸入を招いている。

     

    (5)「中国産工業製品の流入急増に対して懸念を表明している新興国はブラジルだけではない。タイでは反ダンピング課税をすり抜けていると政府が中国企業を批判し、業界団体は市場に安価な鉄鋼が出回っているせいで多額の損失が出る可能性があると表明した。ベトナム政府は国内業界の苦情を受け、中国から輸入する風力発電タワーや一部の鉄鋼製品についてダンピング調査を始めた。 

    タイやベトナムも、中国製品の輸入急増に音を上げている。これまでは、中国企業の進出で潤っていたが、それを上回る輸入ラッシュに晒されている。 

    (6)「23年8月、メキシコは自由貿易協定を結んでいない国からの輸入品数百点に対して5〜25%の関税を課した。これにより中国は特に大きな影響を受けている。メキシコの措置は、米政府関係者からの圧力増大を受けて取られた。米国はメキシコが第三国から輸入する鉄鋼の原産地を明確にする努力が不十分ではないかと指摘している。貿易の専門家によると中国を念頭に置いた言葉だという」 

    メキシコは、中国へ数百点に対して5〜25%の関税を課している。米国は、メキシコ経由で割安な中国製品の流入を警戒している。

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    中国の住宅販売に回復への動きは見られない。1~2月は例年、春節(旧正月)の大型連休で住宅展示場は賑わうが、今年は静かなものだったという。中国国家統計局が、18日発表した12月の新築住宅販売面積は、前年同期を24.%も下回った。2023年まで2年連続で減少した流れが続き、マイナス幅も拡大している。

     

    経営再建中の中国不動産大手、碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)の法的整理を申し立てた債権者が18日、開発物件の譲渡などによって債務返済も可能だと提案し、碧桂園側に対話の継続を求めている。有り余る在庫住宅を債権として引き取るという提案だ。少しでも傷を浅くするという債権者側の戦術であろう。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月18日付)は、「中国新築住宅販売、12月24.8%減 地方予算にはや狂い」と題する記事を掲載した。

     

    かつて春節(旧正月)休暇の期間中は住宅展示場を訪れ、物件購入を考える人が多かった。不動産企業によってかき入れ時とされたが、過去の話となった。シンクタンクの中国指数研究院によると、2月中旬の春節休暇の新築取引面積は23年の休暇より3割近く少なかった。

     

    (1)「先行きへの懸念から購入をためらう人が多い。政府は20〜21年に不動産金融への規制を強め、不動産企業の資金繰りが悪化した。「青田売り」物件の工事停止や引き渡しの遅延が相次ぎ、消費者に不安を与えた。これが、今回の不動産バブルの引き金になった。不動産市場の低迷が長引き、地方都市を中心に値下がりが目立つ。「住宅は値上がりする」との神話が崩れ、資産運用として住宅を購入する需要もしぼんだ」

     

    住宅バブル崩壊が、中国経済の財政構造も脆弱化させている。住宅建設の不振が、地方政府の土地売却益の減少となり歳入減に拍車を掛けているからだ。

     

    (2)「中国人民銀行(中央銀行)は2月20日、事実上の政策金利と位置づける最優遇貸出金利(LPR、ローンプライムレート)のうち住宅ローンの指標金利を下げた。不動産調査の貝殻研究院によると、主要100都市の1軒目のローン金利は平均3.59%と最低を更新したが、需要を刺激する効果は読みにくい。オフィスビルの需要も冷え込む。企業収益の伸び悩みで賃貸などのニーズが減った。新たな供給も増え、空室率が上昇した。不動産コンサルタントの戴徳梁行の調べでは、23年末時点で上海の一級オフィスビルの空室率は21.%1年で5.1ポイント高まった。北京や深圳の空室率も上がった。

     

    住宅不況は、商業ビルの空室率を高めている。理由は、不動産バブル崩壊による過剰債務が、ビジネス活動全般を抑制しているからだ。

     

    (3)「マンションなどを建てても売りさばけない不動産企業は、新たな開発を抑制する。12月の不動産開発投資は前年同期より9.%少なかった。住宅販売と同じように23年まで2年連続で減少した流れが続く。国家統計局の劉愛華報道官は18日の記者会見で「不動産市場は現時点でなお調整・モデルチェンジの段階にある」と語った」

     

    12月の不動産開発投資は前年同期より9.%少なかった。これは、今後の住宅販売減となって現れる。

     

    (4)「不動産開発の停滞は地方財政を直撃する。中国は土地が国有制で、地方政府が国有地の使用権を不動産会社に売って貴重な財源としてきた。不動産企業が新たな開発を減らせば土地使用権の売買も低迷し、地方政府の歳入が減る。不動産開発投資が減少した22〜23年、使用権の売却収入も落ち込んだ。2年間で売却収入は33%の大幅減となった。売却収入を管理する特別会計の歳入は計2兆8000億元(約58兆円)の予算割れを記録した。不動産不況に対する財政当局の見通しが楽観的だったことは否めない」

     

    22〜23年の2年間で、土地売却収入は33%の大幅減となった。約58兆円の歳入減である。まさに「土地本位制」(学術用語でない)の象徴的事例だ。

     

    (5)「全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が承認した24年の政府予算は、特別会計の歳入を前年比0.%増と見込んだ。不動産開発投資の底打ちに時間がかかるなか、同歳入の8割を占める売却収入も減少し、予算で見込んだほどの歳入を確保できない恐れがある。歳入が下振れすれば、追加の歳出削減が必要になる。公共工事の進捗に響くと、地方経済の停滞感が強まる」

     

    24年の政府予算は、土地売却益を示す特別会計の歳入を前年比0.%増と見込んでいるが、完全な計算違いとなろう。12月の不動産開発投資が、前年同期より9.%少なかったことからもわかるように、マイナスは確実だ。

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    捨てる神あれば拾う神あり。この格言通りのことが起こっている。中国は、福島原発処理水排出に反対して、日本産海産物の全面禁輸措置に出ている。中国は、日本のホタテを輸入して皮剥きし、米国へ輸出してきた。ホタテは、この中国輸出ルートが消えて混乱したが、メキシコで皮剥きを行い米国へ輸出可能なことが分った。しかも、メキシコでは「生」で米国へ輸出するので鮮度が保たれ、価格は中国向けの2倍になるという。 

    日本産ホタテは、メキシコ経由で米国へ輸出可能となったことで、さらなる販路拡大が可能である。結果論だが、中国の禁輸措置はホタテ業界にラッキーであった。 

    『日本経済新聞 電子版』(3月18日付)は、「ホタテ、メキシコ加工で価格2倍 中国禁輸で狙う米市場」と題する記事を掲載した。 

    中国による禁輸で行き場を失った北海道産のホタテをメキシコで加工し、米国の高級品市場に売り込む試みが本格的に始動した。中国への依存度を減らす一方、価格は中国で加工していた当時の2倍程度に跳ね上がる。高級食材として、まずは米西海岸で独り立ちさせるのが目標だ。

     

    (1)「日本貿易振興機構(JETRO)が、主催した16日までの現地ツアーには8都道県から14社の日本企業が参加し、メキシコ北西部エンセナダ(バハ・カリフォルニア州)の現地3社によるホタテのからむき加工を視察した。JETROが1社に1トンずつ、北海道産の冷凍ホタテを支給し、手法や設備にも助言した。現地企業、アテネア・エン・エル・マルのミネルバ・ペレス社長は、「本格的にやるとなれば人も増やす。3シフトで対応したい」と意欲を見せた。ミル貝やアワビなど月間40トン程度を輸出しているが、日本産ホタテを扱うのは初めて。米国内で流通する可能性のある新たな高級食材としてホタテに注目する 

    メキシコは、日本から冷凍のホタテを受入れ、すぐに皮剥きし陸路で米国へ供給する。こういう新たなルートが開けそうだ。日本海産物が、高級食材として米国へ輸出される。中国の全面禁輸が、思わぬ形で日本へ福音をもたらしそうである。 

    (2)「本産ホタテの輸出金額は、2023年、8万1000トンあまりと前年比4割弱減った。東京電力福島第1原子力発電所からの処理水放出に中国が態度を硬化させ、日本産水産物の全面禁輸に踏み切った。輸出の8割を占めていた中国向けは5万3700トンあまりと5割減。多くを中国に輸出していた北海道ホタテは大打撃に遭った。北海道産の養殖ホタテは人件費の安い中国に冷凍の状態で輸出され、からをむき、貝柱を再冷凍させて米国に再輸出されてきた。中国ではリン酸塩水を入れた水につけて膨張させる「加水加工」処理が一般的で、見た目を良くして米国に出荷されていた。この加工をすると生食はできず、すしネタとしての可能性は閉ざされていた」 

    これまでの「中国輸出ルート」は、ホタテにリン酸塩水を入れた水につけ膨張させる「加水加工」処理をしてきた。これでは、生食として不可能である。すしネタには使えないのだ。

     

    (3)「エンセナダは、水産国メキシコでも屈指の規模で加工工場が集積し、米輸出に必要な米食品医薬品局(FDA)の認証を取得済みの施設も多い。米西海岸、ロサンゼルスの飲食店なら加工後24時間以内に納品可能で、ニューヨークなど他の米大都市向けにも冷凍の物流ルートがすでに確立されているアドバンテージがある。メキシコでは加水加工をせず、「ドライスキャロップ」として米国に運ぶ。「加水加工した『ウェットスキャロップ』に比べ、ドライの価格は2倍程度」(JETROメキシコ事務所の志賀大祐氏)。米国での最終消費者はこれまで低価格の中華料理店が8割以上を占めていたが、メキシコ加工によって高級スーパーやすし店に照準が移る」 

    メキシコは、米食品医薬品局(FDA)の認証を取得済み工場が、ホタテの皮剥きをするので衛生面の懸念はない。しかも、加水加工をせずに「ドライスキャロップ」として米国へ輸送する。中国輸出が止まった結果、ホタテは新たな需要地を得られることになったのだ。これまでの日本産ホタテは、米国では中華料理店の食材にすぎなかったが一躍、高級スーパーやすし店の食材へ格上げである。価格が、2倍に跳ね上がるのは当然であろう。皮肉にも、「習近平ありがとう」だ。

     

    (4)「エンセナダは、すし店も多く立地する米ロサンゼルス(カリフォルニア州)まで陸路で5時間程度、からをむいた貝柱を再冷凍せずに届けられるメリットがある。視察した日本企業からも「米国市場で新たなニーズが出てきた時、一番早く対応できる」(ハイブリッドラボ=宮城県=の石橋剛社長)と期待する声が出ていた。16日、ロサンゼルスで開いた食材のバイヤーとの商談会では、24時間前にメキシコで加工された生ホタテが振る舞われた。米国内で魚介類の会社を経営するドン・サブリーさんは「味は申し分ない。日本企業と長い関係を築きたい」と意気込んだ」 

    メキシコのエンセナダから米国ロサンゼルスまで、陸路で5時間程度である。これは、生ホタテの鮮度維持の上で大きな優位性を持つ。 

    (5)「築地で仲買人経験もある横田清一さんは、「24時間以内に届けたとは思えない。生食用として十分に合格点」と評価した。JETROによると、カリフォルニア州の日本食レストランの数は約5000店(22年)と全米一の規模で、2010年と比較すると1000点以上増えている。ホタテも、寿司ネタとして人気が上がり、高品質品の引き合いが強い」 

    カリフォルニア州には、日本食レストランが約5000店もあるという。日本産の食材がますます必要になろう。

     

     

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    中国は、不動産バブル崩壊による衝撃をEV(電気自動車)・電池・太陽光発電の3業種の輸出で乗切る基本方針を立てている。だが、EVの過剰生産につづき、太陽光発電も過剰生産に陥っている。世界最大の太陽電池メーカー隆基緑能科技は、従業員の3分の1を削減するという「大手術」に出る。

     

    『ブルームバーグ』(3月18日付)は、「太陽電池世界最大手の隆基緑能、従業員の約3分の1削減計画ー関係者」と題する記事を掲載した。

     

    世界最大の太陽電池メーカー、中国の隆基緑能科技はコスト削減を図るため、従業員の約3分の1を削減する計画だ。事情に詳しい関係者が明らかにした。太陽光産業は過剰生産能力や激しい競争に見舞われている。

     

    (1)「経営陣から説明を受けた人物を含む複数の関係者によると、隆基緑能はピーク時に約8万人いた従業員の最大30%を削減する方針。計画が公になっていないとして匿名を条件に話した。この動きは、隆基緑能が昨年11月に開始した人員削減の加速を示す。今回の決定前にどの程度減らされていたのかは明らかになっていない。隆基緑能の担当者に人員削減についてコメントを求めたが、すぐに返答が得られなか」

     

    太陽光発電パネルは、世界的な過剰生産に陥っている。2022年現在で、世界の平均操業度は2割程度と大赤字状態に陥っている。中国の隆基緑能科技が、世界最大企業といえども耐えられる限界を超えているのだ。過剰生産は、2015年頃から始まっていた。すでに8年もこういう状態であり、ますます悪化している。それにも関わらず、習氏は、太陽光発電パネルを中国の先端産業に位置づけるという見誤りを冒してしまった。

     

    『ブルームバーグ』(3月18日付)は、「習主席の新スローガン『新質生産力』、技術革新で中国経済の再生狙う」と題する記事を掲載した。

     

    (2)「中国ではスローガンが極めて重要だ。「中国の特色ある社会主義」から「共同富裕」に至るまで、新たなキャッチフレーズの採用は政策の重大な転換を告げることがある。そうした意味では、3月5日に公表された今年の政府活動任務の筆頭に、「新質生産力(新たな質の生産力)」が挙げられた際、習近平国家主席が昨年9月に初めて言及していたこの表現が意味するところを読み解こうとする動きは強まった。2014年以降、産業政策のスローガンがトップとなったのは他に1度しかなく、通常、この枠にはマクロ経済政策に関する方針が充てられてきた」

     

    これは、「質の高い成長」という意味で技術革新を前提にする。EV・電池・太陽光発電パネルが「三種の神器」になっている。

     

    (3)「政府支出の増加や市場の拡大による恩恵を受けるとの思惑から、人型ロボットから航空機部品のメーカーに至るまで、関連銘柄が大きく値上がりした。このスローガンは「中国製造2025」や「デジタルトランスフォーメーション(DX)」など、バリューチェーンの向上を視野にここ数年行われてきた呼びかけの再パッケージに過ぎないとの見方がある。新たな表現は、経済面の課題が山積しているにもかかわらず、これまでの路線を堅持する決意を固めていることを地方の当局者らに強調するのに役立つとの受け止めも目立つ」

     

    習氏は、「新質生産力」が魔法のような力を持っているように振る舞っている。不動産バブル崩壊による過剰債務が、この新質生産力」によって解消されるような幻想を与えているのだ。これが、現実認識を誤らせる大きな原因である。

     

    (4)「テクノロジーの利用を巡り米国との対立が激しくなる中、中国は技術革新の強化に取り組んでいる。米政府は中国による半導体へのアクセス制限をさらに強化するよう同盟国に迫っており、中国は人工知能(AI)化を進める上で先端半導体の調達は不可欠だ。13日には、李強首相が中国AI大手の百度(バイドゥ)を訪れ、政府による支援強化を示唆した。アジア・ソサエティー政策研究所の中国分析センターで中国政治担当フェローを務めるニール・トーマス氏は、「このフレーズは共産党と政府の官僚機構への新たなかけ声だ」と指摘。「中国経済の成長軌道を巡り先行きがより不透明になる中、生産性を高める技術革新に対する習氏の大きな賭けはますます重要になっている」と述べた」

     

    新質生産力」の推進には、先端半導体が不可欠である。だが、米国との政治的な対決が「中国包囲網」をつくり出している。原因は、習氏が台湾侵攻方針を捨てない点にある。台湾侵攻方針を捨てれば、習氏の国内権力基盤は弱体化する。一方、これを強調すれば、包囲網を強められるという二律背反に遭遇しているのだ。二進も三進もいかない状況に追込まれている。

     

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    世界1位となった台湾半導体企業TSMCは、AI(人工知能)半導体需要の急増に合わせ、台湾で10工場の増設を検討していると伝えられた。その後、「後工程」について日本が技術的に進んでいることから、日本での生産を新たに検討している模様だ。これは、従来の日本における半導体工場建設と別プランみられる。

     

    米インテルも、日本での開発拠点設置を検討しているという。サムスンは、すでに開発拠点設置にむけて動いている。こうして、日本の持つ半導体総合力(製造設備・素材・後工程)に注目して、世界の半導体企業が日本へ集結し始めている。

     

    『ロイター』(3月18日付)は、「日本に先端半導体『後工程』の生産能力、TSMCが検討ー関係者」と題する記事を掲載した。

     

    半導体受託生産大手の台湾積体電路製造(TSMC)が、人工知能(AI)向け半導体の生産に不可欠な先端パッケージング工程を日本に設置する検討をしていることが分かった。AI半導体の需要急増でTSMCは同工程の処理能力が不足しており、製造装置や材料メーカーが集積する日本を候補として考えている。事情に詳しい関係者2人が明らかにした。検討は初期段階で、規模や時期など詳細は決まっていない。

     

    (1)「同関係者らによると、TSMCは「CoWoS」(チップ・オン・ウェーハ・オン・サブストレート)という同社独自のパッケージング工程を日本に導入することを選択肢の1つに入れている。回路を微細化する前工程の技術による性能向上が限界に近づく中、複数のチップを1パッケージに実装するチップレットや立体的に重ね3次元実装して性能を向上させる先端パッケージング技術の重要性が後工程の中で高まっている。TSMCは2022年、パッケージング工程の研究開発拠点を茨城県つくば市に設立したが、CoWoSの本格的な生産設備は、台湾だけにとどまる」

     

    TSMCは22年、筑波に研究開発拠点を設けた。これには、日本の大学や半導体製造設備メーカーや素材メーカーなどが参加する大掛かりなものだ。TSMCはすでに、日本技術を利用している形である。この延長で、日本においてAI半導体の後工程を生産するのはごく自然な流れであろう。日本企業も、ここで「技」を磨いているので遅れを取ることもない。

     

    (2)「同社は1月の会見で、CoWoSの生産能力を24年に前年比で約2倍にする計画を公表し、25年以降も増強する方針を示した。先端パッケージングは半導体各社が注力しており、別の複数の関係者によると、米インテルも日本での開発拠点の開設を検討している。インテルはコメントを控えた。韓国サムスン電子は、すでに横浜市に先端工程の試作ラインを新設することを決めた」

     

    インテルは、非メモリー半導体でサムスンへ挑戦している。TSMCに次いで世界2位になることを宣言し、米国政府も後押しする。こうなると、インテルはTSMCが日本で展開する戦術を傍観している訳にいかず、日本で研究開発拠点を設けるほかないと判断したのかも知れない。サムスンも横浜で先端工程の試作ラインを新設する。

     

    (3)「各社とも、半導体の素材や製造装置に強みを持つ日本企業と連携し、開発力を強化したい考え。とりわけTSMCは、年内に稼働する熊本県の前工程の工場建設が順調に進んだことから、労働文化が似た日本を有望視していると、前出の関係者2人は言う。 半導体産業の復興へ多額の補助金を投入してきた経済産業省の幹部は、日本で先端パッケージングの生産能力が確保される場合、「支援したい意向がある」と話す。AIの普及により、急速に高まる先端パッケージングの需要に対して「タイムリーに対応していく」とも述べた」

     

    AI半導体は、世界的な供給不足に陥っている。生産の主力は台湾である。日本が、その製造工程の半分を担うとなれば、これまで予想もしていなかった「半導体展開」が始まる。1980年代後半、世界半導体の頂点に立った日本が、再び脚光を浴びる環境が整い始めた。

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