勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    度重なる習近平氏の失政に、国内から批判が上がっている。大学教授クラスの批判に対しては、脅迫して震え上がらせている。だが、人民解放軍のタカ派が相手となると、そう手荒に扱うワケにも行かなくなる。内部闘争が始まったのでないか、との観測が出てきた。

     

    『大紀元』(8月13日付)は、「中国共産党の内部闘争激化、習氏の戦狼外交に軍有力者が反対ー豪メディア」と題する記事を掲載した。

     

    豪メディアnews.com.auのジャーナリスト、ジェイミー・サイデル氏は8月10日、「バッシングを受ける習近平の戦狼術(注・好戦的で過激的な外交手法)」と題する記事を執筆した。記事は「米国を挑発し、『戦狼術』の乱用で世界を支配するチャンスを台無しにした習氏は、軍の主要な将軍たちから非難されている」と書かれている。さらに「全ての独裁者と同様、習氏も多くの内外問題に直面しているが、軍中の将軍たちが反対意見を表明し始めたら最悪の局面になる」と述べた。同記事中の「反習将軍」とは、「超限戦」の作者であり元空軍大佐の喬良氏と現役空軍大佐の戴旭氏の2人である。

     

    (1)「サイデル氏は記事の中で、「中国共産党の『過ちを他人のせいにする』という常套手段は、もはや通用しない」と述べている。同氏は「中国共産党の強烈な脅迫と威嚇に直面し、毅然とした態度をとれるようになった国として、ファイブアイズメンバー国を含むオーストラリア、イギリス、カナダ、インド、日本、ベトナムなどを挙げた。この変化は習氏にとっては、まさに「メンツ丸つぶれ」のはずだと述べた」

     

    これまで、中国の強硬策に対して多くの国が、柳に風で対応して来た。最近は、毅然として対抗する姿勢に変わっている。中国の横暴を許さないという方向に転じたのだ。その最たる国が米国である。中国の前面に立ちふさがったからだ。

     


    (2)「中国は経済制裁でオーストラリアを脅かしているにもかかわらず、豪政府は屈することなく、東シナ海と南シナ海の国際法の堅持を主張している。マレーシアは中国の度重なる経済侵略や南シナ海での商業活動への干渉を受け、ついに昨年、正式に抗議文を発表した。そしてベトナム、ブルネイ、フィリピンやインドネシアなどの近隣小国もこれに追随した。ソマリアのような小さな国でさえ弱みを見せまいとしている。報道によると、同国の中国大使秦健氏は最近、同国大統領に対して「恫喝外交」を展開しようとしたが、「追い出された」という。また同国政府は中共の脅しに屈せず台湾との国交を開始した」

     

    中国の「悪行」は、一帯一路による「債務漬け」で世界中に知れ渡った。ソマリアのように、中国の圧迫を毅然としてはね返す国も現れている。これは、背後に米国の支援の手が差し伸べられている結果であろう。

     

    (3)「習氏は、国際社会で壁にぶつかっているだけでなく、国内でも社会的影響力のある人から反対の声が上がっているという。サイデル氏は、豪ローウィー国際政策研究所の中国問題学者リチャード・マクレガー氏の観点を引用し、「北京のエリートの間では、習への不満がくすぶっている」と述べた。同氏はまた、「北京当局が元清華大教授の許章潤氏を逮捕したのは、エリート層への警告と見せしめだ」と指摘した。 この教授の罪名は「中国人の法的平等の権利を提唱したため」だという」

     

    習近平なる人物が、ここまで強硬姿勢を取る裏には、中国経済の疲弊があるためで、それを隠蔽しようという狙いであろう。

     


    (4)「同氏は、記事の中で「習に反発している軍部関係者は、『超限戦』の作者であり元空軍大佐の喬良氏と現役空軍大佐の戴旭氏の2人だ」と明かした。喬良氏は中国軍の著名なタカ派将軍であり、1999年に著書『超限戦』を出版した中国の現代軍事理論の創始者の一人でもある。その彼が今、「台湾は武力で解決すべきだ」という習近平の両岸政策にあえて異論を唱えた。同氏は今年のインタビューで、「中国の最終的な目標は台湾統一ではなく、重要なのは14億人が幸福な生活を送ることだ」「台湾統一は現実的か?もちろん不可能だ」と語った。さらに「台湾問題の背後には米中関係があり、これは米中の競い合いだ」との見解を示した」

     

    中国軍部のタカ派が、習批判に回っている。下線部のように台湾の軍事解放に反対姿勢を見せているのだ。それは、多大の犠牲を伴うことが分かっているからであろう。米軍が、総力を挙げて台湾防衛に当ることを認識しているに違いない。

     

    (5)「喬氏と同じ考えを持つ空軍大佐の戴旭氏の主張はもっとストレートだ。同氏は「米国に関する4つの誤認と10の新認識」と題する論文を発表し、「中国は米中冷戦の代償を払うことになる」と主張した。さらに「米国が中国に300億ドル分の関税をかければ、これは国際的に600億ドル、900億ドル分の効果がある。これがまさに「米国の本当の強さだ」。中国は米国を相手にする時は、怒りではなく、理性を持って臨まなければならない。知恵と勇気で戦わなければならない」と同氏は主張した。豪ローウィー国際政策研究所の中国問題学者リチャード・マクレガー氏は、「これらの現象は北京に『影の政府』の存在を示唆している」と考えている」

     

    中国軍部のタカ派が、ここまで米国の総合力を深く分析していることは、米国の怖さを知ったのであろう。日本は、太平洋戦争で十分にそれを理解させられた。危機に立ち向かう米国の強さは、平常時の10倍も発揮される。これが、民主主義の底力と認識すべきなのだ。

     


    (6)「同氏によると、「中国のリベラルな学者たちは、習の傲慢な外交と軍事政策が米国を怒らせたことを非難している。そしてこれらのリベラル派は1980年代に鄧小平が強調した「韜光養晦」( 才能を隠して、内に力を蓄える)という中国の外交・安保の方針を好み、そこから身を守る方法を学んだ。だから、彼らが習のやり方を批判する時は通常、習の名前を直接出さない」という」

     

    中国人が最近、「韜光養晦」を唱え始めたのは、反習近平を意味するという。中国は、まだ建設途上の国である。米国と事を構える余裕はゼロのはず。それが、習自身の虚栄心で米国と立ち向かう局面へ落込んでしまった。愚かというべきか、新興国の宿命と言うべきか。大きな「時間と富」の浪費を始めている。中国は、こうして中途半端な国で終わるのであろう。

     

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    韓国政治は、めまぐるしく変化する。4月15日の総選挙では、与党「共に民主党」が全議席(300)の6割を占め、国会運営はやりたい放題。各委員会の委員長は、慣例に反して与党が独占した。法案審議では、事前に野党に法案内容を説明せず、いきなり採決するという、「数の暴力」を楽しんできた。

     

    だが、「好事魔多し」である。不動産価格の騰貴が止まらない。大統領府主席秘書官は、複数のマンションを所有して値上り益を期待するという行状に、政権支持者が見切りをつけて、支持層からの離脱を始めている。こうして、鉄壁の与党高支持率が転機を迎えたのだ。

     

    『中央日報』(8月13日付)は、「韓国、民主党と統合党の支持率が朴前大統領弾劾政局後で初めて逆転」と題する記事を掲載した。

     

    野党の未来統合党が、与党「共に民主党」の支持率を上回った。保守政党が民主党の支持率を上回ったのは朴槿恵(パク・クネ)元大統領弾劾政局以降で初めて。中道層の離脱が増える中で民主党の核心支持基盤である湖南(ホナム)と進歩層でも一部支持勢力が下落した結果だ。リアルメーターが8月10~12日に全国の成人1507人を対象に実施した調査の結果、民主党支持率は前週より1.7ポイント下がった33.4%、統合党は1.9ポイント上がった36.5%と集計された。両党の支持率格差は誤差範囲内である3.1ポイントだが、統合党は党旗揚げ後初めて民主党を上回った」

     

    民主党支持率は33.4%。統合党は36.5%である。この差は、3.1%ポイントで誤差範囲内。つまり、統計的に見れば有意な差ではない。ただ、保守系の統合党が、与党を支持率で逆転したという事実は初めてである。4月の総選挙から4ヶ月で、与党は野党にその座を脅かされる気配を見せ始めたのだ。それにしても与党は調子に乗りすぎた。子どもじみて、はしゃいだのである。当然の報いであろう。

     


    (2)「保守系政党が、民主党の支持率を逆転したのは、朴槿恵前大統領弾劾局面だった2016年10月以降で初めてだ。3年10カ月ぶりに順位が逆転した。2016年10月第3週のリアルメーター世論調査の結果、統合党の前身であるセヌリ党の支持率は29.6%、民主党は29.2%だったが、第4週で民主党が31.2%となり、セヌリ党の24.7%を追い抜いてから逆転を許したことはなかった」

     

    保守党が、支持率で「共に民主党」を上回ったのは、3年10カ月ぶりだ。この逆転劇が、一時的なのか。基調的に逆転したのか不明である。ただ、与党にとっては首筋に冷たいものを感じたはず。検察も「大統領紅衛兵」に成り下がっている。政権交代が起これば、「積弊一掃」で、獄窓に繋がれる身に転落するはず。この際、紅衛兵を止めて、本来の検察に戻るシグナルとなればよいが、まだ目がさめないとすれば悲劇である。

     

    (3)「民主党は核心支持基盤である光州(クァンジュ)・全羅道(チョンラド)で11.5ポイント下落の47.8%、大田(テジョン)・世宗(セジョン)・忠清道(チュンチョンド)で5.6ポイント下落の28.6%となった」

     

    民主党は、その支持基盤で大きく支持率を落としている。

     

    (4)「統合党は釜山(プサン)・蔚山(ウルサン)・慶尚南道(キョンサンナムド)で5.7ポイント上昇の48.5%、大邱(テグ)・慶尚北道(キョンサンブクド)で5.4ポイント上昇の50.9%、ソウルで4.1ポイント上昇の39.8%、大田・世宗・忠清道で3.8ポイント上昇の39.0%など各地域で広く支持率が上がった」

     

    野党・統合党は、各地域で広く支持率を上げている。これは、フロックによる支持率上昇でなく、「確信」に基づく野党支持の回復と見ることも可能であろう。


    (5)「年齢別では、民主党は70代以上で5.9ポイント下落の21.8%、50代で5.1ポイント下落の34.7%と支持が下がった。これに対し統合党は50代で8.2ポイント上昇の41.1%、70代以上で5.4ポイント上昇の49.4%、20代で5.1ポイント上昇の34.7%などと上がった」

     

    年代別支持率

           70代以上   50代    20代

    共に民主党  21.8%    34.7%

    統合党    49.4%    41.1%   34.7%

    (6)「民主党はやはり核心支持層である進歩層で55.4%と3.9ポイント支持率が下落した。統合党もやはり支持層である保守層で59.7%と3.5ポイント下落したが、5.1ポイント上昇で16.9%の進歩層を吸収し対照的な姿を見せた。

     

    民主党は進歩層が離脱し、それが統合党に流れた。理由は、与党の不動産対策が不発で、高騰を許したことへの怒りであろう。



    (7)「中道層の支持率を見ると、民主党は前週より0.7ポイント下落の30.8%、統合党は2.2ポイント上昇の39.6%をそれぞれ記録した。格差は8.8ポイントだった。リアルメーターは中道層で格差がさらに広がった点が、与野党の支持率に最も大きな影響を及ぼしたと解説した」

    韓国の政治地図は、中道層の支持が右(統合党)か、左(民主党)へ動くかで、勢力図が大きく変わるとされている。今回の世論調査では、鍵を握る中道層が右へ動いて野党支持率を押し上げたもの。文政権の失政が続けば、中道層は民主党へ戻らないだろう。

     

    いまにして思えば、与党の大勝利による「乱痴気騒ぎ」は、転落への第一歩であったのかも知れない。国民を欺いてはいけないのだ。
     

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    香港は、英国植民地として特異の発展を遂げてきた。英統治下で制度化された市場の規律と透明性の確立によって、国際的な投資家には魅力的な市場へと発展した。「自由な市場競争と政府不介入と共に、言論の自由がこうしたリベラルな印象の一部を成している」と指摘されてきたのだ。

     

    この香港は、国家安全法施行によって一転した。国際金融都市として不可欠の言論の自由が消えかかっているからだ。1995年、黎智英(ジミー・ライ)氏は民主化支援も視野に香港紙「アップル・デーリー(蘋果日報)」を創刊したが、黎氏が8月10日、国家安全法違反容疑で逮捕された。翌日、拘束は解かれたが、「アップル・デーリー」本社が家宅捜査されるという緊急事態を迎えている。今後は当然、発行内容に干渉してくるだろう。香港の言論の自由は潰されたのだ。

     

    こういう緊急事態の中で、香港企業の脱出ブームが起こっている。その脱出先の候補に日本が挙がっているという。

     

    『中央日報』(8月12日付)は、「日本のドア叩く香港企業、金融ハブランキング東京は3位、ソウルは33位」と題する記事を掲載した。

     

    香港の国家安全法施行で民主化運動関係者が相次ぎ検挙されるなど香港情勢が悪化し、日本の東京が注目を集めているとの現地報道が出ている。香港から拠点を移そうとするグローバル企業の間で東京に対する関心が高まっているという。



    (1)「昨年4月に設立された東京国際金融機構の動きがあわただしくなっている。この機関は「世界金融都市東京」を掲げて海外企業誘致活動を行う専門化された窓口だ。最近になり香港にアジア・太平洋本部を置いていた西欧の投資会社から移転の問い合わせが殺到しているという。香港企業と人材の東京への誘致に力を入れることにした日本政府と政界は鼓舞された雰囲気だ。麻生太郎財務相は4日の閣議後の記者会見で、「香港は危ないというのであれば、(企業などが)ほかのところに移り始めるのは当然の話。日本としても金融ハブとしての意識というようなものを持って対応していく心構えは持っておかなければならない」と改めて意思を示した」

     

    自民党は、下記のような対案をまとめた。『ブルームバーグ』(6月23日付)が報じた。

     

    資産運用や金融などの海外プロフェッショナル人材の受け入れ促進とともに、サポートスタッフを含めた在留資格取得の円滑化を進めるほか、アメリカンスクールの誘致など家族の教育や医療の環境整備にも取り組むとした

     

    海外企業の拠点設置・開設のサポート体制も抜本的に強化し、新規参入の際に必要な金融行政サービスの英語対応を進め、投資運用業登録などを迅速に進める。新規に開業した独立系新興資産運用業者の資金繰り対策や、海外資産運用業者などの緊急的な受け入れを可能とする環境整備も行う。資産運用業者の声を踏まえ、市場の効率化に向けた業界慣行の見直しを進める考えも示した。

     

    (2)「7月、香港から東京に移転を決めたある投資運用会社の幹部は、日本メディアとのインタビューで「香港でデモが活発になった2年前から東京進出を検討してきた。香港国家安全法施行で決心した」と明らかにした。その上で「これ以上香港に優秀な人材を呼ぶのは難しくなった」と説明した。東京に対する国際的な評価が上がったのもこうした雰囲気に一役買っている。英調査会社のZ/Yenが発表する国際金融センター指数(GFCI)ランキングで、東京は昨年9月の6位から今年3月には3位に跳ね上がった。奇しくも3位から6位に下落した香港とその座が入れ替わったのだ

     

    東京は、国際金融センター指数ランキングで今年3月、世界3位になっている。従来の香港の地位を東京が奪った形である。東京の質が充実している以上、周辺関連部門(子どもの教育など)を充実すれば、香港の座を継げる可能性も出てくる。

     

    (3)「東京が躍進したのは何より十分な社会・文化インフラだ。欧米に比べ人種差別も少ない方だ。ここに1800兆円を超える天文学的な個人金融資産は国際投資会社が目を付けるほかない要素だ。日本は現在も香港、シンガポール、オーストラリアに次いでアジア・太平洋地域で4番目にヘッジファンド投資規模(運用残高、会社数)が大きいところだ。だが弱点も明らかだ。高い税率と英語が通じにくいのが代表的だ。脱香港誘致戦で最大のライバルであるシンガポールと比較するとこうした点がさらに際立ってくる」

     

    東京は、「世界の東京」に成長している。どこの大都市にも引けを取らない「品格」を備えているのだ。この魅力を生かせば、「第2の香港」になり得る。

     

    (4)「シンガポールの法人税率は17%で香港の16.5%と同水準だ。これに対し日本の法人税の実効税率は29.74%で、所得税率も1000万円の課税所得基準で日本は33%であるのに対し、シンガポールは香港の17%より低い15%だ。シンガポールは金融所得に対しては税金を課していない。日本の税率は15%だ。日本政府が7月17日に「経済財政運営と改革の基本方針」に国際金融都市構想を盛り込み、核心課題として「減税」を挙げたのもこうした背景からだ」

     

    日本も対抗上、減税の方針を立てている。国際金融都市になることは、高所得者を誘致することでもあり、関連消費が活発化するメリットも大きい。

     

    (5)「シンガポール当局は、国の顔色をうかがい大々的な広報ができない。この隙を狙って台湾、オーストラリア、英国なども香港企業にラブコールを送っている。熱を帯びる誘致戦に飛び込んだ日本の姿には、相当な意欲が感じられる。小池百合子東京都知事は「東京をもう一度アジアナンバーワンの国際金融都市として復活させることが知事就任以来の決意」と公言する。バブル崩壊後に失われた金融ハブとしての地位を挽回する絶好の機会を逃さないということだ」

     

    日本の有力対抗馬は、シンガポールである。だが、1800兆円の個人金融資産を抱える日本の魅力は大きい。これから世界は、高齢化社会に向かう。その実験国が日本・東京になる。日本は、こういう有利な条件を大いに売り込むべきだ。

     

    テイカカズラ
       

    新型コロナウイルス・ワクチン開発は大詰めを迎えている。一方、従来のワクチン開発では10年単位の長時間を必要としたことから、現在の「遺伝子操作」による新型コロナワクチン開発に納得できない人々の多いことが分った。さらに、欧米よりも科学的レベルの低いと見られてきた中国やロシアが、ワクチン開発に取り組んでいることで一層の疑問を抱くという悪循環に陥っているようだ。

     

    米英では、こうしたコロナワクチンへの複雑な気持ちから、ワクチンが完成してもすぐに接種する人は7割程度という調査結果が出てきた。大規模な最終治験を経て製造されるワクチンが、新しい製造法ゆえに信頼を得にくいとしても、最新の「科学力」を信じることは必要と思う。

     

    『ロイター』(8月6日付)は、「コロナワクチンに接種拒否懸念、開発『急ぎすぎ』に不信感」と題する記事を掲載した。

     

    新型コロナウイルスのワクチンの一刻も早い実用化を目指す競争が加速する中で、果たして接種しても安全なのかを巡る懸念が高まっている。各国政府や製薬会社は、ワクチン開発が人々の不信感で台無しにならないよう万全の対応が必要だとの認識を強めている。通常はワクチンの開発から安全性と効果を証明するまでの期間は10年かそれ以上とされるが、トランプ米大統領は年内にワクチン接種を可能にすると表明した。

     


    (1)「各国の規制当局は、通常は順番に行う試験を並行して実施すればより迅速に結果が得られるので、開発スピードによって安全は損なわれないと繰り返している。だが西側諸国をはじめとする多くの地域では、既に新型コロナのパンデミック(世界的大流行)が起きる前から広がっていたワクチン全般に対する不信感を、そうした主張で払しょくすることはできていない。
    米国と英国で政府などが一部を出資して立ち上げられた団体「ビジネスパートナーズ・トゥ・CONVINCE」がVCPと共同で、過去3カ月間に19カ国を対象に行った聞き取り調査の暫定結果によると、英米では新型コロナワクチンが利用可能になった場合に接種すると答えた人は全体の約7割にとどまった。同団体のスコット・ラッツェン氏がロイターに明らかにした。これは5月にロイター/イプソスが実施した世論調査結果とほぼ重なる」

     

     

    コロナワクチン接種希望者は、ワクチン開発が短時間であることと、ワクチン全般への不信感から7割程度に止まっているという。双手を挙げて歓迎する雰囲気でないようだ。個人それぞれの信条に従うしか方法はないとしても、最先端の研究レベルから生み出されるワクチンは、100%の信頼を得るには時間がかかるようだ。

     

    (2)「接種をためらったり拒否したりする「ワクチン忌避」は、多くの場合、単純に副作用や業界の倫理水準への懸念から、また時には陰謀論とともに厳然と存在する。世界保健機関(WHO)は昨年1月、この年世界で予想される10大脅威の1つにこのワクチン忌避を挙げていた。欧州では、今回のパンデミックのずっと前からワクチンへの懐疑論が根付いていた。それは製薬会社の不適切な行為が報じられていたことや、子どもの頃に受けた予防接種と自閉症の因果関係を示唆する間違った学説の影響もある」

     

    「ワクチン忌避」は、漠然とした不安感がもたらすケースが多いという。子どもの頃に受けた予防接種と自閉症の因果関係を示唆する間違った学説の影響もある。不安とは、こういう複雑な根拠不明ものが絡み合っている。これを解消するには、啓蒙運動が欠かせない。

     


    (3)「欧州連合(EU)欧州委員会の委託で2018年に行われた調査では、フランスでワクチンは安全とみなしていたのは全体の7割だった。EU平均では82%だが、インフルエンザワクチンに関する信頼度では68%に下がっていた。VCP(注:ワクチンの信頼確保に向けた世界的な取り組みである「ワクチン・コンフィデンス・プロジェクト」)は欧州委員会や製薬会社から資金援助を得て、そうした人々の不信感を示す兆候や、その原因を見つけ出し、手遅れになる前に正しい情報を届けることを目指している」

     

    EUでワクチン忌避論が強いのは意外である。伝統的な考え方が強い、地域的な特性を表わしているのであろう。

     

    (4)「VCPのスコット・ラッツェン氏は、特にロシアと中国でワクチン開発が進んでいると発表されていることも、懐疑ムードを強める要因だとし、その上で「われわれは透明性が与えられず、彼らのデータの正確さや妥当さがどの程度なのか見当がつかない」とも指摘。この地域でのデータの誤りが世界のあちこちでワクチンへの懐疑的な見方を誘発する恐れがあるとも述べた」

     

    先にロシアのプーチン氏が、ワクチンを開発したと発表した。これは、最終治験を経ていないもので、早くも「危険ワクチン」と名指しされる始末だ。中国もロシア同様に最終治験を済ませていない「未完成ワクチン」である。各国は、ワクチンの医学的効果と安全性をチェックする。ロシア製や中国製のワクチンが、他国へ輸出されることはあり得ない。こういう制度的なチェックシステムを信じて、漠然としたワクチン忌避は危険であろう。

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    韓国では、「反日不買運動」で日本企業の売上を減少させたと自慢して報道している。だが、日本製品の売り上げが落ちれば、現地での雇用を減らしたり、韓国撤退を決断して大きな損を被るのは韓国である。そういう負の連鎖を考えない点が、韓国世論の短慮ぶりである。

     

    『中央日報』(8月12日付)は、「韓国から撤収した外国人投資企業、昨年3倍増、日本企業が最多」と題する記事を掲載した。

     

    昨年、韓国から撤収した外国人投資企業は173社であることが分かった。前年(68社)比で3倍近く増えた。

    (1)「国会立法調査処が10日に出した報告書「国政監査イシュー分析-産業通商資源中小ベンチャー企業委員会」によると、韓国から撤収した外国人投資企業は次のような推移だ。

    2016年 68社

    2017年 80社

    2018年 68社

    2019年 173社」

     

    昨年が173社も撤退した。前年比2.5倍もの急増である。最低賃金の大幅引き上げや、週最大52時間労働制がネックになった結果であろう。国内企業は、賃金コストの増大で利益が大幅に減少している。外資系企業も、同様の負担になっているはず。文政権の失策である。

     

    韓国は、国内企業・外資系企業を問わず、経営環境は厳しくなっている。この事態を深刻に受け止めないと、手遅れになることは必至。「地震の前の前兆現象」と捉えて、しっかりと対策を立てるべきである。最低賃金の大幅引きは、中止するくらいの度量が求められている。

     


    (2)「立法調査処が引用した産業研究院のイム・ウンジョン研究員の報告書「外国人投資企業の撤収決定要因と示唆点」によると、撤収企業のうち日本企業が45社で最も多かった。イム・ウンジョン研究員は「日本企業の大挙撤収は昨年の韓日関係悪化も影響を及ぼしたようだ」と述べた。日本に次いで米国(35社)、香港(17社)、ケイマン諸島(10社)、オランダ(8社)、バージン諸島(8社)、中国(7社)、シンガポール(7社)、ドイツ(5社)の順に多かった」

     

    撤収企業のうち日本企業が45社でトップ。次いで、米国企業35社、香港企業17社となっている。米国企業も多いことから、韓国のビジネス環境が悪化している証明であろう。韓国政府は、真剣に受け止めるべきだ。

     

    (3)「産業別には次のような分類だ。

    製造業46.2%

    卸小売業13.3%

    出版・放送通信・情報サービス業8.1%

    専門・科学・技術サービス業7.5%など

    製造業では機械・装備21.3%、電子部品20%、自動車・トレーラー10%、一次金属8.8%など分野で撤収が多かった」

     

    製造業が、46.2%も占めていることは深刻な事態だ。製造業は、雇用吸収力が最も大きい産業である。その「大口雇用先」が、撤退企業の半分近くを占めている。韓国では、製造業が成り立たないことを示唆していることに留意することだ。文政権は「能天気」ゆえ、何とも感じないであろう。悲劇だ。

     

    (4)「立法調査処は、「外国人投資企業の国内撤収は関連の勤労者、企業、地域に衝撃を与えるため、撤収決定要因などに関する研究とこれに基づく政策的対応が必要だ」と指摘した」

     

    問題点は、私がすでにコメントした通りである。繰返せば、問題の本質は外資系企業問題として特殊化するのでなく、韓国企業として分析することだ。そうでなければ、解決策は見つかるまい。

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