勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    韓国政治は、なし崩し的に北朝鮮化を進めている。教科書から、韓国の高度成長期である「漢江の奇跡」の記述を大幅に縮小させたり、北朝鮮に民主主義が存在するなど、事実と反することを教え込んでいる。韓国の国是は、「自由と民主主義」であるが、文政権になって「自由」を削除して「民主主義」のみにした。こうした小細工を通して、韓国と北朝鮮は、同じ政治システムであると子どもたちに説くことで、南北統一を実現しようという狙いである。

     

    韓国と北朝鮮の統一は、短期間に成し遂げられるものではない。天と地ほどの差がある経済的格差や、金ファミリーという「家族政治」が障害になるはずだ。そういう現実面の壁に焦点を当てることなく、夢のような軽い気持ちで南北統一を話題にしている。

     

    南北統一を急ぐあまり、日本を踏み段にしている。「日本悪者説」を広く流布して、南北は協力して、日本に対抗しなければならないという空気をつくっているのだ。この流れのなかで、朝鮮戦争の意義を矮小化している。

     

    その典型的な例が、朝鮮戦争で北朝鮮軍の猛攻撃を少ない兵力を率いて撃退し、韓国を北朝鮮占領から守ったペク将軍の死に対する目立った冷遇である。韓国が、現在の姿で残っているのは、朝鮮戦争で北朝鮮の侵略を撃退したことにある。米国を核とする国連軍が、北朝鮮・中国義勇軍と戦った結果である。こういう犠牲の上に、現在の韓国が存在する。この歴史を、南北統一という錦の御旗で隠そうとしている。歴史の改ざんである。

     


    『朝鮮日報』(7月13日付)は、「2020年大韓民国衰亡史」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の金泰勲(キム・テフン)論説委員である。

     

    英国の歴史家エドワード・ギボンは名著『ローマ帝国衰亡史』で、ローマ滅亡の理由に破たんしたローマ精神を挙げた。滅亡を説明した節の名称は「ローマ精神の衰退」だ。次の通り書かれている。「ローマ人は自由と栄光に対する自負心を失い、(中略)自身も知らない間にオドアケルとその野蛮族の後継者たちの王権を承認する準備をしていた」。

     

    (1)「今、ここでも大韓民国の自由と栄光に対する自負心を失ったと疑うしかない出来事が起こっている。大韓民国の自由を守るために戦った戦争の70周年を記念する場で、その自由を奪おうとした人々の国そっくりそのままの音楽が鳴り響いた。国会外交統一委員長は「将軍様」という表現が出てくる北朝鮮の童謡を口ずさんだ。私たちがお金かけて建てた建物を北が「報復」という表現まで使って爆破したのに、この国の統一外交安保特別補佐官は「北朝鮮の領土で起こったことなので挑発ではない」という奇怪な主張を展開した」

     

    朝鮮民族が、南北に分断されているのは悲劇である。分断を乗り越えるには、北の金ファミリー支配体制を終わらせなければならない。だが、それを待っていると「百年河清を待つ」になる。こういう矛楯から、見切り発車して朝鮮版「一国二制度」をモデル化しようとしている。だが、北が核を保有している中での統一は、韓国が核の人質になることを意味する。こういう厳密な分析をせずに、北朝鮮の童謡を歌ったところで、問題が解決するはずがない。南北統一を、浮ついたお祭り気分で促進させようという「戦略」であろう。

     

    (2)「生徒たちが学ぶ教科書は民主主義を「人民」が支配する統治形態だと教える。「人民」は「民衆」と共に階級的な意味合いを持つ。そうした点で、人民に関する教科書の叙述は「民主主義は国民すべてが享受する価値」であることを明言した大韓民国のアイデンティティーに対する挑戦だ。全羅北道選挙管理委員会が公式ブログに「北朝鮮は民主主義国家」「私たちとほぼ同じ(選挙)原則を持っている」という文をなんと2年間も掲載し、最近削除された事実も明らかになった。3代世襲のための見せかけに過ぎない北朝鮮の選挙を民主主義で包んだ。

     

    韓国の南北統一派は、北朝鮮の問題点に目を塞いでいる。あたかも理想郷のように扱っている。ここに、南北統一の危険性が潜んでいる。

     

    (3)「このような主張が勢いを得れば、国民の支持を正統性の根拠と見なす大韓民国の民主主義は立つ瀬がなくなる。そうする間に私たちの国家的自負心は崩れつつある。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長を「偉人」と呼ぶ、まともではない若者グループはこうしたあらゆる形態の産物であって、空から突然降ってきたわけではない。

     

    韓国は、朝鮮戦争という犠牲を払って民主主義を守った。韓国進歩派は、その貴い犠牲を評価せず、北朝鮮を理想郷のように扱っている。何とも言えない愚かさを感じるのだ。盲目的な南北統一論である。

     

    (4)「北朝鮮の童謡を歌った与党・共に民主党の宋永吉(ソン・ヨンギル)議員は、「在韓米軍は韓米同盟軍事力のオーバーキャパ(過剰)ではないか」と南の心配をしてくれる発言をした。大統領はさらにその上を行った。「北朝鮮より50倍もいい暮らしをしているから、南北の体制競争は終わった」と勝利を宣言し、「共にいい暮らしをしようと思う」という言葉で国民の警戒心を崩した。人口2000万人の大国ローマが、たかだか100万人のゲルマン人に滅ぼされた歴史を知らないで話しているのだ」

     

    北朝鮮が核を離さない理由は、核で韓国を脅す手段に使う意図であるからだ。北が核を放棄すれば、同じ民族として協力すればいい。核が、北朝鮮の最終兵器として韓国の頭上に釣り下げられているのだ。文大統領は、この危機の構図を忘れている。

     

     

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    韓国では、「二人の著名人の死」に対する文政権の対照的な動きが注目されている。お一人は、ソウル市長の朴氏である。もうお一人は、朝鮮戦争で北朝鮮軍の猛攻撃を少ない兵力を率いて撃退し、韓国を北朝鮮占領から守ったペク将軍の死である。現在、ソウルでは約900メートル離れた場所に、それぞれの焼香所が設けられている。

     

    文在寅大統領は、朴氏に「大統領文在寅」と書かれた花輪を送った。ペク将軍には無反応である。この極端な例の中に、文政権が政治(朴氏)を重視し、安全保障(ペク将軍)を軽視するという思潮がはっきりと浮かんでいる。

     

    『朝鮮日報』(7月13日付)は、「ペク・ソンヨプ将軍を弔問するのは大韓民国大統領の義務だ」と題する社説を掲載した。

     

    (1)「享年100歳でこの世を去った6・25戦争の英雄、ペク・ソンヨプ予備役大将に各界から弔問と哀悼の声が相次いでいる。ペク将軍がいなければ、今日われわれが享受している自由と平和と繁栄はなかったし、大韓民国そのものが存在しなかっただろう。70年前に破竹の勢いで押し寄せてきた北朝鮮軍の前で、洛東江に最後の防衛戦を敷いたペク将軍は、恐怖におののく兵士たちに「われわれが引き下がれば米軍も撤収する。私が後退したらおまえたちが私を撃て」と言って先頭に立って突撃した。ペク将軍は8000人の兵力で北朝鮮軍2万人の総攻勢を1カ月以上防ぎ、戦況をひっくり返した。奇跡のような出来事だった。ペク将軍は仁川上陸作戦成功後、米軍よりも先に平壌に入城し、14後退後のソウル奪還の際にも先頭に立った

     

    ペク将軍は、韓国を共産主義から守った英雄である。文政権は、その英雄の死に対して、国民を代表して弔意を表わすこともなく無視している。一方では、セクハラ疑惑で命を絶った朴ソウル市長に花輪を送る。余りにも落差の大きいこの行動に、文氏の人間性が現れている。文氏の人権論が、虚しく響くだけである。

     

    文大統領が、このような極端な行動に出ている背景は何か。朝鮮戦争が、北朝鮮による民族統一という「聖戦意識」で臨んでいる結果であろう。ペク将軍は奮闘せず、北朝鮮軍に敗北して貰った方が良かったという認識だ。これが、韓国大統領と与党「共に民主党」の共通の考え方と言える。

     


    (2)「この偉大な護国元老が、自ら命懸けで守り抜いた祖国から晩年に受けた仕打ちを考えると、惨憺たる思いがするどころか信じられないほどだ。左派執権勢力は彼が日帝強占期に日本軍にいた記録だけを強調し、機会があるたびにあしざまに非難し罵倒してきた。ペク将軍は日帝治下で生まれた。その世代の人たちにとって、大韓民国という国そのものが想像もできないものだった。今の観点からその時代を裁き、ペク将軍を「独立軍を討伐した親日派」と呼んでいる。ペク将軍は「当時は中共八路軍とは戦ったが、独立軍など見たこともない」と語ったにもかかわらず、その言葉は聞こうともしない」

     

    韓国進歩派は、ペク将軍が日本軍に属したという理由で排撃している。日韓併合時代に生きた朝鮮人が、日本軍に入隊するのは不可避的な選択であろう。その経験があったから、北朝鮮軍を撃退できたのだ。こういう因果関係を無視した議論は、空論である。韓国進歩派は、空論を好む。事実を無視して、「反日」という一点でペク将軍の輝かしい業績をマイナス評価する。この偏向した人々に対しては、話す言葉すら失うのだ。

     

    (3)「文在寅(ムン・ジェイン)大統領はペク将軍のような人物ではなく、南侵の功績で北朝鮮で重用された人物を「韓国軍のルーツ」と呼んだ。韓国与党・共に民主党はペク将軍の死去に哀悼の声明は一言も出していないが、これはどう考えても異常だ。ソウル市長の自殺について「過は過、功は功」として美化する人間たちが、国を救ったペク将軍の「功」からは顔を背け、「過」ばかりを無理やりつくり上げ歪曲しているのだ」

     

    韓国進歩派政権が誕生して、満3年が経った。この間の行動原点は、「親中朝・反日米」である。この単純な図式で、あらゆるものを評価している。恐ろしいほどの「没理論」的な振る舞いである。ここまで日本と対決して、何の利益が得られるだろうか。日本への「甘え」は、もはや限界を超えている。

     


    (4)「韓国政府はペク将軍を12万人の6・25(朝鮮戦争)戦友が眠るソウル顕忠院に埋葬するよう求める各界の求めを無視した。「場所がない」というあり得ない理由で大田顕忠院に埋葬するという。しかも与党の一部議員らは「親日派破墓法」の成立を推進しているのだから、後になって何が起こるか分からない。左派団体からは「ペク将軍が行くべきところは顕忠院ではなく靖国神社」という言葉まで出ている。国と民族のために命をささげた英雄の安息の地である顕忠院にペク将軍が入れないのなら、一体誰が入るのか。金元鳳(キム・ウォンボン)のような人物を移葬するのだろうか。今の大韓民国を存在させた護国英雄の最後の道が、このような論争の対象になるのは恥ずかしいことだ。全ての国民を代表する公職者であり、韓国軍統帥権者である大統領がペク将軍を弔問するのは最も基本的な義務だ」

     

    韓国を共産主義から守った英雄に対して、朝鮮戦争の戦友が眠るソウル顕忠院に埋葬しないという文政権の「仕打ち」は、人間として理解し難い行動である。人間の心を持たない文政権が、韓国の民心を一つにまとめられる訳がない。文氏は、韓国大統領でなく進歩派の大統領に過ぎないのだ。

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    米国大手IT企業は、香港国家安全維持法が施行され、その去就について思案中である。社名は定かでないが、1社は香港から完全撤退の方針という。他社は、国安法でどこまで自由なビジネスが展開可能かを見極めると慎重だ。これまで、明るい展望に包まれていた香港ビジネスは一転、地獄へ突き落とされた感じだ。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(7月9日付)は、「米IT大手、国安法下の香港から撤退検討」と題する記事を掲載した。

     

    香港のインターネットを統制下に置こうと目を光らせる中国政府の大がかりな新法制定を受けて、米シリコンバレーに本社を置くIT(情報技術)企業も対応を急いでいる。少なくとも大手1社が香港からの完全撤退を検討している。

     

    中国が香港への統制を強める「香港国家安全維持法」が6月30日に制定され、香港のインターネットは事実上、「グレートファイアウオール」と呼ばれる中国の検閲システムの下に置かれ、警察はウェブを検閲する権限を得る。IT企業が利用者の個人情報の提供を拒めば、トップが逮捕される可能性も考えられる。

     


    (1)「この状況を受けて米企業であるフェイスブックやツイッター、グーグル、ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ、マイクロソフト傘下のビジネスSNS(交流サイト)、リンクトインの各社は、法執行当局からのデータ提供要請に対応することを全面的に「一時停止」し、自社の法的な立場を確認するとしている」

     

    米大手IT企業は、香港当局からのデータ提供要請に対して、全面的な「一時停止」措置に止めている。だが、「一時停止」であることから、時間は限られている。間もなく、撤退か残留かを決めなければならない。すでに1社は、完全撤退を決めた。

     

    (2)「米IT企業の中では中国本土で最大規模の事業を展開するアップルは、状況を「評価中である」としか述べていない。クラウド事業を手がけるアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)は、新法の「細部を確認している」という。西側企業は現在、どれほどの自由の余地が残されるのかを見極めなければならない。新たな体制に従うことが可能なのか、あるいは最終的に香港から去らなければならないのかという判断を下さなければならない

     

    香港当局へデータ提供したということが分かれば、その企業の信用失墜はいうまでもない。その辺の状況判断が大事だ。

     

    (3)「香港政府はIT企業に対し、ネット上の投稿やアカウントの削除、利用者の個人情報の提供を強制できるようになった。例えば、IT企業がSNS上の投稿の削除を拒んだ場合、警察はその投稿を保管する香港域内のサーバーを差し押さえることが可能だ。海外のサーバーに投稿が保管されていても、警察は香港と外の世界をつなぐインターネット接続事業者(ISP)に対し、当該サイトへの接続を遮断するよう求めることができる。英法律事務所ピンセント・メーソンズの香港駐在パートナー、ポール・ハズウェル氏は、香港企業であるISPは海外に本社を置くIT企業より要請を拒みにくいだろうと指摘する。IT大手はおそらくサーバーを香港域外に移すが、最終的に各社のサイトは遮断される可能性が高いと同氏はみている」

     

    海外に本社を置くISP(インターネット接続事業者)の方が、香港企業よりも当局の情報提供要請を拒否しやすいとみられている。だが、最終的に各社のサイトは遮断される可能性が高い。となれば、撤退という結論しか浮かばなくなろう。

     


    (4)「IT企業はすでに、香港警察から犯罪捜査のためのデータ提供を求められている。要請件数を開示している会社もある。例えばフェイスブックは2019年、提供する全サービスにおいて384件の要請を受けており、そのほぼ半数に応じた。だが、新法の下で国家安全に関わる犯罪捜査は国家機密とされる可能性があり、いかなる裁判であっても非公開となり得る。IT企業も、警察から何を求められたかを明かすことを禁じられるかもしれない

     

    下線部のように、IT企業は有無を言わせずに協力させられることになりそうだ。利用者の疑心暗鬼は、深まるばかりであろう。

     

    (5)「英系調査会社ウィー・アー・ソーシャルによると、リンクトインやツイッター、フェイスブックにとって、人口700万人余りの香港市場は世界のユーザー基盤の0.%にも満たないという。大手インターネット企業はいずれも香港にオフィスを構えているが、地域統括本社を置いているところは1社もない。IT各社は新法による影響の掌握につとめているものの、まだ香港での将来について語れる状態にはなっていない。各社とも、アジアの別の国にもオフィスを持っているが、その中でもシンガポールが人気のハイテク拠点として台頭している

     

    人口700万人余りの香港市場は、世界ユーザー基盤の0.%にも満たないという。この程度であれば、大手IT企業の営業成績にとって大きな問題でなくなる。他社が香港を引き揚げれば、追随するのは時間の問題だろう。香港に残留して、あらぬ疑惑の目で見られる方が、はるかにマイナスになるからだ。中国と関わらないビジネス展開に、魅力を感じる企業も出てくるだろう。

     

    (6)「データ提供要請への対応を「一時停止」しても、各社が新法に従わなければならないことに変わりはないと、香港の黄宇逸(ウォン・ユヤット)弁護士は指摘する。「合法的な理由ではないため(一時停止は)法的責任に対する盾にはならない。あくまで、外国企業がとった方針としかみなされない」

     

    米IT大手は現在、「一時停止」措置が可能でも有効期間があるはずだ。結局、多くのIT企業の撤退になりそうな感じだが、どうなるか。残留すれば、中国と妥協したという「黒い噂」が待ち構えるであろう。

    テイカカズラ
       

    一国二制度破棄の落し穴

    他国民の中国批判も処罰

    香港ビジネスは衰退必至

    超強気の中国外相が白旗

     

    中国の習近平政権は、やたらと民族主義を振りかざしている。民族主義とは、自国領土が他国に支配されている場合、その回復を求める政治運動である。中国が、民族主義を煽り立てる客観的な状況にないことは明白である。他国から占領されていないのである。習近平氏は、自分の政治的野心を満たす手段として、この民族主義を利用している。周辺国の領土を侵害し、グローバルな自由世界へ大きな障害をもたらしているのだ。

     

    中国経済は、グローバルな世界経済システムの利用により、発展することができた。自由貿易の利益を最大限に吸収して、GDPが世界2位へ上り詰めることに成功した。ここから、習氏の野心が芽生えたのだ。民族主義を悪用して、南シナ海への不法進出を始めたのだ。無意味に、周辺国と軍事摩擦を引き起しているのである。

     

    一国二制度破棄の落とし穴

    この過程を見ていると、戦前の日本と瓜二つである。日本は、昭和に入って中国・満州へ軍事進出して傀儡政権をつくり正統化した。現在の中国は、南シナ海の9割は「中国領海」と荒唐無稽な主張を始めて、領土拡張に動き出している。2016年7月、常設仲裁裁判所は、中国の主張を100%否定した。「なんら法的根拠はない」とし、中国が敗訴したのだ。それ以後、さらに軍事施設の拡張に乗出すという、許されない不適切行動を展開している。

     

    その極致と言うべきは、中国が6月末に中英で交わされた「香港一国二制度」(2047年まで有効)を破棄したことである。新たに、「香港国家安全維持法」を制定して、香港を中国領土に組入れた。その暴走が現在、皮肉にも中国の「運命」を大きく左右する気配となってきた。欧米諸国を中心にして、「反中国熱」が一気に盛り上がっているのだ。

     

    習近平氏の最大の失敗は、自身の民族主義がグローバル経済と衝突することに気付かなかったことである。グローバル経済の背後には、自由・平等・人権といった普遍的な価値観が控えている。中国は、この価値観へ無謀にも挑戦したのだ。「香港国家安全維持法」が、グローバル価値観に挑戦した以上、西側諸国はこれを死守せざるを得ない立場になった。中国は、無法国家である。厳重に警戒すべき、危険国家に成り下がったのである。

     


    米国は、すでに香港への制裁措置を発表している。一国二制度を前提にして、与えてきた香港への特恵(関税率・輸入品・ビザ発給など)を廃止する意向を表明した。中国では、「香港国家安全維持法」に関わった人物へのビザ発給を規制する。このリストには、王毅外相も入っている。中国指導部の家族では、米国へ子弟を留学させるほか、資産を移している例も多く報告されている。これら資産が、米国によって凍結される恐れも出ており、中国指導部では、大きなダメージを受ける羽目となった。

     

    EU(欧州連合)の事実上の盟主であるドイツは、中国と貿易面で強固な関係を築き上げてきた。在任15年になるメルケル首相は、12回も訪中するという「熱の入れ方」である。中国自動車市場では、ドイツ車が外資系としてシェア・トップを維持するなど、中国政府から手厚い支援を受けている。これも、メルケル首相の度重なる訪中が、無形の支援材料になっているはずだ。

     

    メルケル首相は、香港問題に対して次のような発言に止まっている。7月初旬の記者会見では、中国との「相互尊重」や「信頼関係」に基づき、香港問題について「対話を模索する」必要性を強調しただけであった。このメルケル発言が、ドイツの与野党から厳しく批判されている。中国批判が足りないという理由だ。『フィナンシャル・タイムズ』(7月7日付)が次のように報じた。

     

    「メルケル氏が所属する最大与党キリスト教民主同盟(CDU)の有力議員で、ドイツ連邦議会(下院)で外交委員長を務めるノルベルト・レトゲン氏は、『ドイツ政府が香港について言明したことは最小限にとどまっており、全く不十分だ』と指摘した。連立政権に参加する社会民主党(SPD)の外交政策担当報道官、ニルス・シュミット氏は、『メルケル氏の対中政策は時代に遅れている』とみる。『我々が中国との経済関係を深めるにつれて同国のリベラル度や欧米志向は高まるという発想にいまだに固執している』と同氏はいう。『だが、それは単なる時代遅れだ』」

     

    「ドイツ政界の対中強硬派は、メルケル氏は協調の必要性を強調するのではなく、同法を巡って中国政府を全面的に非難すべきだったと語る。彼らはメルケル氏の発言と、英国や米国の厳しい対応とを比較した」(つづく)

     

     

     

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    世界をパンデミックの坩堝に落とし込んだ新型コロナウイルス起源が、中国出身の若き女性研究者の米国亡命で明らかにされようとしている。これまで、中国のウソ説明とWHOの初動の遅れは、意図的にされていたことが明らかにされた。

     

    『大紀元』(7月12日付)は、「香港大の女性ウイルス研究者が米に亡命、『中共ウイルスの真実を明らかに』」と題する記事を掲載した。

     

    香港大学の女性ウイルス研究者は4月、香港を脱出し、米国に亡命したことが分かった。同研究者は710日、米フォックスニュースの取材を受け、亡命は「中共ウイルス(新型コロナウイルス)の真実を明らかにするためだ」と述べた。

     

    (1)「亡命したのは中国青島出身の閻麗夢(えん れいむ)博士で、世界保健機関(WHO)のリファレンス研究施設として指定されている香港大学公共衛生学院の研究室に所属していた。同博士の話によると、昨年12月31日、上司でWHOの顧問であるレオ・プーン教授の指示を受け、中国本土で発生したSARSに類似するウイルスの研究に着手した。同日、中国疾病予防管理センターの科学者でもある友人から「家族全員が感染した事例を確認した。すでにヒトからヒトへの感染が起きている」との情報を入手した」

     

    昨年12月31日時点で、新型コロナウイルスの発症が中国で確認されていた。すでに、ヒトからヒトへの感染が起きている事実も分かっていた。

     


    (2)「この情報を複数回、プーン教授に伝えたが、「中国共産党のレッドラインを踏むな」「われわれが消される可能性がある」との警告を受けた。同じ情報を同大の著名なウイルス学者、マリク・ピーリス教授にも報告した。同教授も行動を起こさなかった。WHOのウェブサイトでは、ピーリス氏について「新型コロナウイルスによる肺炎の国際保健規則緊急委員会」の「アドバイザー」と記載されている。

     

    WHOの顧問であるレオ・プーン教授は、閻麗夢博士からの報告で新型コロナウイルスが危険であることを認識したにもかかわらず、動こうとしなかった。同じ情報を香港大の著名なウイルス学者、マリク・ピーリス教授(注:WHOアドバイザーの資格保有者)にも報告した。同教授も行動を起こさなかったのだ。これは、WHOのアドバイザー役の肩書きが無意味なことを示すほど、責任を回避していた。

     

    (3)「WHOは感染発生の早期、すでにヒトからヒトへの感染を把握していた」と亡命した閻博士は主張している。WHOは今年19日と14日、ヒトの間での感染を示す証拠はないと発表した。同博士は「WHOと中国政府が癒着しており、彼らは真実を隠すと予想していた」と述べた。4月28日、米に逃亡後、中国青島にある実家は警察の家宅捜査を受け、家族は脅迫された。香港大学はフォックスニュースに対して、彼女はすでに大学に所属していないとコメントし、ウェブサイトから同博士のページを削除した」

     

    WHOは感染発生の早期、すでにヒトからヒトへの感染を把握していた。WHOは、今年19日と14日、ヒトの間での感染を示す証拠はないと虚偽の発表をした。これは、中国の立場を慮った結果である。この段階で、WHOがヒトからヒトへの感染事実を公表していたならば、パンデミックを防止できたはずだ。

     

    亡命した閻麗夢博士は、昨年12月時点で「WHOと中国政府が癒着しており、彼らは真実を隠すと予想していた」と述べている。実に、おぞましい話である。

     

    習近平国家主席が3月2日、新型コロナウイルス感染症について「ウイルスがどこから来たかはっきり調査すべき」と語った。習主席の発言は、中国で「コロナの発現地が中国でないこともあり得る」という主張が相次ぐ中でなされたもので、ウイルス発現地論争をけしかけたものとみられる。

     

    中国は、こういう自信ありげな発言をしながら、WHOによる現地調査を受入れなかったのだ。原因が、中国にあることを自覚しているので、現地調査を拒否したのであろう。

     

    中国の専門家や国営メディアは2月から、武漢コロナに関連して「武漢が震源地ではないこともあり得る」と主張し始めた。呼吸器疾患の専門家である鐘南山・中国工程院院士(最高の科学者に与えられる称号で、中国工程院のメンバー)は、2月27日の記者会見で「(ウイルスは)中国で最初に出現したが、すなわち中国から発現したとみることはできない」と主張したほど。

     

    中国国営の『環球時報』は、「武漢コロナの発現地はまだ不確実」「(中国に)汚名を着せてはならない」という記事を掲載して発生源をカムフラージュするなど、国を挙げて責任回避の動きに出てきた。こういう「偽証工作」は、今回の亡命で完全に覆された。

     

    WHOのテドロス事務局長は7月7日、新型コロナウイルスの起源を究明するためのWHOの調査団が、今週末(注:7月11日)に中国入りすると明らかにした。WHOで緊急事態対応を統括するライアン氏は、「人への感染が最初に拡大した場所から調査を始めるのが最善だ」とし調査団が中国湖北省武漢市に入るとの見通しを示した。新型コロナウイルスが発症して満6ヶ月も経ってようやく現地調査である。WHOと中国の共同責任は重大である。

     

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