インドネシアのジャカルタ―バンドン間の高速鉄道建設は、日本が入札寸前で中国へ横取りされた案件である。中国は、日本のつくった設計図を使うという杜撰な計画で始めた工事である。案の定、その後に工事遅延が発生しており難航している。業を煮やしたインドネシア政府は、日本を工事に加えて、早期の完工を目指す方針に変わった。
『日本経済新聞 電子版』(6月7日付)は、「インドネシア、日本に高速鉄道参加打診へ、中国主導で遅れ」と題する記事を掲載した。
インドネシア政府は近く、中国の支援で建設する首都ジャカルタと近隣のバンドンを結ぶ高速鉄道の計画に日本を加える案をまとめ、日本側に打診する見通しだ。日本が協力するジャカルタと第2の都市のスラバヤを結ぶ既存鉄道の準高速化計画と統合し、事業を効率化する狙いだ。中国側を刺激し、工事が遅れている高速鉄道建設を前進させる効果も期待する。
ルトノ外相は4日のオンライン記者会見で「高速鉄道の延伸と、日本を共同事業体に加えることが可能かどうかの議論が始まった」と明らかにした。「日本はインドネシアのインフラ開発の重要なパートナーだ。両国が協力すれば、インドネシア国内(の都市)は(鉄道などで)さらにつながり、一段の経済成長を見込める」とも強調した。
(1)「日本は現在、ジャカルタ―スラバヤ間の約750キロメートルを結ぶ新たな幹線鉄道計画に協力している。インドネシア政府内ではジャカルタから南東と東に2本の鉄道を新設するより、1本にまとめる方が効率的だとの見方が強まった。事業を担当する国営企業省は新しい計画の作成に入り、完成し次第、日本側に正式に打診するとみられる。ジョコ政権は2015年、ジャカルタ―バンドン間の高速鉄道建設で、インドネシアに財政負担を求めないという中国の提案を受け入れた。ジャカルタ―バンドン間の140キロメートルを時速350キロメートルで結び、所要時間を既存鉄道の3時間半から45分に短縮する計画だ。16年1月に起工式を開き、19年の開業をめざした」
中国は、インドネシアから受注して、その後の新幹線受注で日本より優位に立とうというのが狙いであった。その意味で、インドネシア工事計画は最初から実態を無視したもので、日本関係者を呆れさせていた。その予感が当り、19年完工予定が21年に延びる見込みという。インドネシア政府にとって、高速鉄道建設は大きな目玉政策である。完工遅延を何としても避けたいところ。日本の支援を求めた形だ。
(2)「事業費の75%を提供する中国の国家開発銀行が融資条件として土地収用の完了をあげ、事情が変わってきた。土地収用が難航して作業が遅れ、開業予定を21年にずらした。追い打ちをかけたのが新型コロナウイルスだ。感染を防ぐため工事の一時中断に追い込まれた。アイルランガ経済担当調整相は高速鉄道の開業がさらに1年遅れる見通しを示した。インフラ開発事業全体の見直しを進めた結果、費用が新たな予算を上回ることがわかった。55億ドル(約5900億円)と見込んでいた総事業費は60億ドルに膨らむ。持ち上がったのが高速鉄道をスラバヤまで延伸したうえで日本を共同事業体に加える案だ」
工事遅延で事業費はさらに膨らむ。予定より5億ドル増えて60億ドルになるという。この負担増は、インドネシアにとっては痛手である。そこで、日本を工事に加えて、工事遅延を取り戻そうという狙いである。
(3)「ジャカルタ―バンドン間の高速鉄道の建設事業に日本を加える案は5月29日に表面化した。ジョコ大統領と関係閣僚が新型コロナウイルスの感染拡大に伴う予算の見直しに伴い、16年から19年にかけてのインフラ計画をまとめた「国家戦略プロジェクト」の内容を洗い直す会議を開いたのだ。会議直後のオンライン会見でアイルランガ氏は「大統領は高速鉄道をスラバヤまで延伸し、共同事業体に日本が加わることを求めている」と明らかにした」
この日本参加案は、日本にとって困惑させられているという。その事情は、次のパラグラフが示している。
(4)「日本側は困惑しているようだ。すでにジャカルタ―スラバヤ間の鉄道の事業化調査を始め、計画変更は難しい。これは既存のジャワ島横断鉄道を活用する方式で、中国主導の高速鉄道とは線路の規格も異なる。「(インドネシア側が用意する提案が)どんな内容になるのか想像もつかない」(日本の外務省関係者)」
こんな結果になるのだったら、最初から日本に任せれば良かったのだ。日本の技術で走らせている中国の高速鉄道である。本家の日本が、最後は面倒を見る形なのだろう。中国には、大きな汚点になる。