勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    ムシトリナデシコ
       

    インドネシアのジャカルタバンドン間の高速鉄道建設は、日本が入札寸前で中国へ横取りされた案件である。中国は、日本のつくった設計図を使うという杜撰な計画で始めた工事である。案の定、その後に工事遅延が発生しており難航している。業を煮やしたインドネシア政府は、日本を工事に加えて、早期の完工を目指す方針に変わった。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月7日付)は、「インドネシア、日本に高速鉄道参加打診へ、中国主導で遅れ」と題する記事を掲載した。

     

    インドネシア政府は近く、中国の支援で建設する首都ジャカルタと近隣のバンドンを結ぶ高速鉄道の計画に日本を加える案をまとめ、日本側に打診する見通しだ。日本が協力するジャカルタと第2の都市のスラバヤを結ぶ既存鉄道の準高速化計画と統合し、事業を効率化する狙いだ。中国側を刺激し、工事が遅れている高速鉄道建設を前進させる効果も期待する。

    ルトノ外相は4日のオンライン記者会見で「高速鉄道の延伸と、日本を共同事業体に加えることが可能かどうかの議論が始まった」と明らかにした。「日本はインドネシアのインフラ開発の重要なパートナーだ。両国が協力すれば、インドネシア国内(の都市)は(鉄道などで)さらにつながり、一段の経済成長を見込める」とも強調した。

     


    (1)「日本は現在、ジャカルタスラバヤ間の約750キロメートルを結ぶ新たな幹線鉄道計画に協力している。インドネシア政府内ではジャカルタから南東と東に2本の鉄道を新設するより、1本にまとめる方が効率的だとの見方が強まった。事業を担当する国営企業省は新しい計画の作成に入り、完成し次第、日本側に正式に打診するとみられる。ジョコ政権は2015年、ジャカルタバンドン間の高速鉄道建設で、インドネシアに財政負担を求めないという中国の提案を受け入れた。ジャカルタバンドン間の140キロメートルを時速350キロメートルで結び、所要時間を既存鉄道の3時間半から45分に短縮する計画だ。16年1月に起工式を開き、19年の開業をめざした」

     

    中国は、インドネシアから受注して、その後の新幹線受注で日本より優位に立とうというのが狙いであった。その意味で、インドネシア工事計画は最初から実態を無視したもので、日本関係者を呆れさせていた。その予感が当り、19年完工予定が21年に延びる見込みという。インドネシア政府にとって、高速鉄道建設は大きな目玉政策である。完工遅延を何としても避けたいところ。日本の支援を求めた形だ。

     

    (2)「事業費の75%を提供する中国の国家開発銀行が融資条件として土地収用の完了をあげ、事情が変わってきた。土地収用が難航して作業が遅れ、開業予定を21年にずらした。追い打ちをかけたのが新型コロナウイルスだ。感染を防ぐため工事の一時中断に追い込まれた。アイルランガ経済担当調整相は高速鉄道の開業がさらに1年遅れる見通しを示した。インフラ開発事業全体の見直しを進めた結果、費用が新たな予算を上回ることがわかった。55億ドル(約5900億円)と見込んでいた総事業費は60億ドルに膨らむ。持ち上がったのが高速鉄道をスラバヤまで延伸したうえで日本を共同事業体に加える案だ」

     

    工事遅延で事業費はさらに膨らむ。予定より5億ドル増えて60億ドルになるという。この負担増は、インドネシアにとっては痛手である。そこで、日本を工事に加えて、工事遅延を取り戻そうという狙いである。

     

    (3)「ジャカルタバンドン間の高速鉄道の建設事業に日本を加える案は529日に表面化した。ジョコ大統領と関係閣僚が新型コロナウイルスの感染拡大に伴う予算の見直しに伴い、16年から19年にかけてのインフラ計画をまとめた「国家戦略プロジェクト」の内容を洗い直す会議を開いたのだ。会議直後のオンライン会見でアイルランガ氏は「大統領は高速鉄道をスラバヤまで延伸し、共同事業体に日本が加わることを求めている」と明らかにした」

     

    この日本参加案は、日本にとって困惑させられているという。その事情は、次のパラグラフが示している。

     

    (4)「日本側は困惑しているようだ。すでにジャカルタスラバヤ間の鉄道の事業化調査を始め、計画変更は難しい。これは既存のジャワ島横断鉄道を活用する方式で、中国主導の高速鉄道とは線路の規格も異なる。「(インドネシア側が用意する提案が)どんな内容になるのか想像もつかない」(日本の外務省関係者)」

     

    こんな結果になるのだったら、最初から日本に任せれば良かったのだ。日本の技術で走らせている中国の高速鉄道である。本家の日本が、最後は面倒を見る形なのだろう。中国には、大きな汚点になる。

     

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    パンデミック後の世界は、従来の景色と一変する。これまでの歴史では、それが明らかに見られた。今回の新型コロナウイルスでは、何が起こるのか。今、浮かび上がってきた構図は、米中のデカップリングである。中国が、世界のサプライチェーンのハブであることは、世界の経済と防疫の安全保障にとって不安定である。そういう見方が急速に台頭している。

     

    その意味で、中国は重大な計算違いを行なったことになろう。コロナ禍の発症地を曖昧にしておき、中国への非難をかわし他国への「マスク外交」で防疫先進国を装う。こういう偽装が、一挙に剥がされてしまった。西側諸国は、中国への深い懐疑心を強めている。米国は、サプライチェーンのハブを中国からアジア諸国へ移す壮大な計画に取り組んでいる。折からの南シナ海における「反中ブーム」が、この勢いに力を増す気配だ。韓国にも、この勢いが押し寄せている。

     

    『中央日報』(6月6日付)は、「韓国外交部に米国から電話『反中経済同盟』圧力が始まった」と題する記事を掲載した。

     

    キース・クラック米国務次官(経済担当)が5日、米国が主導する新しい経済同盟構想「経済繁栄ネットワーク」(EPN)について韓国側に説明したと、韓国外交部が5日明らかにした。外交部によると、クラック次官はこの日午前、李泰鎬(イ・テホ)外交部第2次官と電話会談し、EPN構想について説明した。EPNは、米国が新型コロナ事態以降に「信頼できるパートナーと世界サプライチェーンを構築する」として持ち出した構想だ。核心は中国を排除した経済インフラを構築するというもので、一種の「反中経済同盟」だ。

    (1)「今回の電話会談は米国側が高官級外交チャンネルを通じて韓国のEPN参加を公式要求したもので、米国の圧力が本格的に始まったとも解釈できる。これに先立ちクラック次官は先月20日(現地時間)、アジア言論テレカンファレンスで、「昨年、韓国と高官級経済協議会議(EPN)関連の対話をした」と述べた。しかし当時は米国もEPNを構想していなかった時期だった。今年、新型コロナの感染拡大で「世界の工場」中国が閉鎖されると、米国は中国との戦略的分離(デカップリング)を迅速に進めている」

     

    米国は、中国が世界のサプライチェーンのハブになっている現状を、大変革する壮大な計画に取り組んでいる。それには、新しい経済同盟構想「経済繁栄ネットワーク」(EPN)へ韓国を取り込む必要があるのだ。韓国は、半導体産業が一枚看板である。この韓国半導体を中国の絆から切り離して、EPN構想へ加えなければならない。米国は、これに向けて全力を挙げている。

     


    (2)「政府筋の話を総合すると、まだ米国もEPNが何を意味するのか具体化された計画を持っているわけではない。ただ、昨年11月に米政府がタイ・バンコクのインド・太平洋ビジネスフォーラムで発表した「ブルー・ドット・ネットワーク(BDN」がEPNの一つという。
    BDNはアジア市場にドルを供給し「米国的価値」に合う企業を育てるのが核心だ。米国・オーストラリア・日本の民間開発庁が協力してアジア・太平洋地域に進出する企業を支援するという構想だ。米金融開発庁(DCF)が600億ドル(約72兆ウォン)を支援し、輸出入銀行は1350ドル(160兆ウォン)ほどの貸出保証人になるという内容などが盛り込まれている。さまざまな面で中国の「一帯一路」と比較される」

     

    米国は、中国の「一帯一路」に匹敵する「BDN」構想を進めている。「一帯一路」は、中国による搾取機構へ変質している。その一例は、パキスタンに見られる。中国国有企業に工事を請け負わせた裏で、信じがたい「誤魔化」をして搾取している実態が明らかになった。BDNは、こういう不条理な搾取を排除し、中国の影響力を削ぐ目的である。

     

    (3)「これに関しポンペオ米国務長官は昨年10月、「我々は透明で、競争的、市場性向的なシステムを望む」とし「これは閉鎖的な国家主導的な経済とは反対」と述べた。中国市場を念頭に置いた発言だ。ウィルバー・ロス米商務長官もアジア太平洋地域を言及しながら「我々は今後もずっとこの地域にいるだろう」と述べ、影響力を拡大していくと明らかにした。「米国の力」をアジア太平洋地域に見せるという意味としても解釈が可能だ」

     

    米国は、BDNによってアジア経済を安定的に発展させる上で、市場経済ルールを完全に定着させる意図を明らかにしている。GDPを増やせば良いというGDP主義を排し、中国の影響力を遮断する構想だ。その先兵は、ベトナムであろう。今や、米国と密接な関係を深め、反中国の砦になっている。

     

    (4)「BDNが具体的な投資計画を含む場合、EPNは「市場標準」とさらに関係深いものになると、政府は解釈している。ある政府筋は「米国が要求する市場経済の基準を満たせない企業は自然に排除されるようにする構想と理解している」と伝えた。この言葉は、韓国の立場ではEPNに参加する場合、望まなくても中国市場から断絶される可能性があることを表している。これまで、韓国政府は「米国のインド太平洋戦略に参加することは必ずしも中国との断絶を意味するわけではない」と判断してきた」

     

    米国はEPN構想によって将来、韓国へ中国との経済的な断絶を要求したいのだ。具体的には、半導体輸出の禁止や、中国に進出している半導体工場の閉鎖要求だ。まさに、米韓軍事同盟を厳格に適用する腹積もりであろう。韓国に、その決意を求めているはずだ。トランプ大統領は、韓国を釣るために「G7拡大」を持ちかけたに違いない。韓国は、まんまとこれに乗せられて、しばし「先進国クラブ」の夢に酔った。

     

    韓国は、中国へ付けば完全な属国扱いである。それは、過去の経験で明らかである。「先進国クラブ」のほうがはるかに精神衛生上も良いはず。トランプ流の「G7拡大論」が、韓国大統領府に陣取る「親中朝・反日米」派へ大きな揺さぶりを掛けたことは疑いない。「G7拡大」は、全参加国がOKしなければ不可能だが、中国の属国に成り下がるよりはるかに夢が持てるのだ。

     

     

     

     

     

     

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    米国は、1930年代の世界恐慌を上回る失業率に落込むと予告されていた。5月の失業率は、意外なことに4月に引き続きさらなる悪化を免れたのである。一段の悪化を予想していたエコノミストは、真っ青になるほど。先ずは、「めでたし」というところか。

     

    米労働省が6月5日発表した5月の雇用統計は、失業率が13.%となり、戦後最悪だった4月(14.%)から一転して改善したのである。市場は20%程度の失業率を見込んでいただけに、うれしい誤算になった。景気動向を敏感に映す非農業部門の就業者数も、前月比250万人もの増加である。

     

    5月の非農業部門の就業者数は当初、エコノミスト予想の中央値で750万人もの減少であった。ブルームバーグが調査したエコノミスト78人の中で、最も楽観的な予測ですら80万人の減少が見込まれていた。それが、蓋を開けたら前月比250万人増である。

     

    なにが、これほどの予測外れを起こさせてかである。それは、4月の失業率に問題を解くカギがあったのだ。4月の米雇用統計は、失業率が前記のように14.%と大恐慌以来の水準だが、失業者の大半は「一時的な解雇」で、経済が再開すれば早期の職場復帰も可能な状態であった。10年間にわたって失業率が高止まりした大恐慌時と異なり、雇用の回復が比較的早かった1980年代の「ボルカー不況」に近いと指摘されていたのだ。5月の実績で、今回のコロナ禍による失業者の過半が「一時的な解雇」であったことを証明する形になったのである。

     


    4月の失業者のうち「恒久的な解雇」は11%にすぎず、78%は「一時的な解雇」だった。08~09年の金融危機時は、逆に「一時解雇」が10%前後にすぎず、50%前後が「恒久解雇」と圧倒的に多数だった。統計をさらに遡ってみても「一時解雇」の割合は、新型コロナの発生前は1975年6月の24%が最大であった。以上は、『日本経済新聞』(5月9日付)が報じたものだ。

     

    米産業界は景気悪化時に、労働者を一時的に解雇したり帰休させたりするレイオフ制を利用している。雇用そのものを景気の調整弁に使う一方で、企業自体は固定費を削れるため存続しやすくなるためだ。雇用統計上の「一時的な解雇」は、恒久的な失職ではなく、景気回復時には失業者が早期に元の職場に復帰できる可能性があることを示している。

     

    5月の新規雇用が増加に転じたのは、「一時的な解雇」からの復帰であったことを示している。ここで重要なのは、トランプ政権がロックダウン政策に固執せず、弾力的に対応したことであろう。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月25日付)は、「ロックダウンの是非、モラルで語る危うさ」と題する記事を掲載した。

     

    科学と経済学の細かいところが理解できない単純な人間には、新型コロナウイルスによる都市封鎖(ロックダウン)をめぐって全米で繰り広げられている複雑な議論を明快に説明してくれる「物語」が必要だ。つまり、ロックダウンに伴う便益と費用の比較検討である。ここでは、死者数がピークを打てば一部、経済活動の解除が必要という結論である。

     

    (1)「経済を再開した州のほとんどで状況は同じかそれほど変わらない。これらの州の知事はただやみくもに賭けに出ているわけではない。彼らが科学とデータ、それに経済学を活用しているのは明らかだ。彼らはウイルスによる死者数がピークを超えると、リスクのバランスが変化することに気が付いた。ロックダウンの便益はますます費用に見合わなくなっているように見える」

     

    フロリダ州やジョージア州の2州は、ウイルス死亡者がピークを越えると、ロックダウンの便益と費用の関係が逆転することに気付いていた。これは、極めて重要な「発見」と言える。ロックダウンを長期継続すれば、その費用が便益を上回って市民は損失を被るのだ。死者数がピークを打ったら、その時点で、ロックダウンを解除すれば、便益が費用を上回るのである。これを、前記2州は経験値で理解していた。米国流合理主義の勝利と言えよう。

     

    (2)「ただ考えようによっては、そこが一番肝心な点だ。真実は複雑で、このウイルスについてわれわれが知らないことはあまりにも多い。経済上のリスクと健康上のリスクのバランスを適切に取ることは容易なことではない新型ウイルスへの対応は科学か無知か、あるいは善か悪かといった単なる道徳話ではない。だがそれでは「物語」にはなりにくい」

     

    5月の全米失業率で悪化に歯止めがかかったのは、コロナ死亡者がピークを打ったという確認を経て、経済活動を再開させた政治的決断の結果と見られる。ここで比較すべきは、中国流の強権によるロックダウンが、経済活動に決定的なマイナスをもたらしことである。米国では「一時的解雇」で済んだのが、中国では「恒久的解雇」につながる恐れが強いのである。

     

    中国のようなロックダウンを行なったからと言って、コロナを全面駆除できる訳でない。ロックダウンは、再考すべきであることを示唆している。こうなると、日本型のコロナ対策が最も経済的にも有効であった。そういう結論になるのかも知れない。


     

     

     

     

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    習近平氏が強権発動すればするほど、これまで中国の持っていたソフトパワーがニセ物であるという検証が始まっている。ますます攻撃性を増す中国共産党の「戦狼(戦うオオカミ)」外交は、国際社会から反感を買っているのだ。中国外交が一変しているのは、国内矛楯が深刻化している結果であろう。国内不満を、海外に向けさせるためなのだ。

     

    中国不信の影響を強く受けているのが、台湾野党の国民党である。中国と友好的になろうという主張で台湾大統領選に立候補した国民党候補の韓氏は、蔡総統に大差をつけられて敗北した。また、高尾市長の椅子もリコールされて辞職に追い込まれる事態だ。台湾市民の中国共産党嫌いが、ここまで影響を及ぼしたもので、注目すべき現象である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月6日付)は、「台湾の韓国瑜・高雄市長が罷免へ『親中』に逆風」と題する記事を掲載した。

     

    台湾南部の主要都市、高雄市で6日、韓国瑜(ハン・グオユー)市長に対するリコール(解職請求)の賛否を問う住民投票が行われ、賛成多数で成立した。韓氏は1月の総統選に対中融和路線の野党・国民党候補として出馬し大敗。市長の座も追われることになった。香港問題で対中警戒感が強まり、親中派に逆風が吹く政情を映している。

     

    (1)「高雄市選管によると賛成票は約93万9千票と、「有権者の4分の1」(約57万5千票)という成立条件を大幅に超えた。7日以内に結果が公告され、韓氏は失職する。台湾の主要県市の首長が罷免されるのは初めて。リコールの成立を受け、韓氏は6日夕に記者会見し、対中強硬路線の与党・民主進歩党(民進党)が罷免に向け「メディアやネット工作員を買収した」などと不満をぶちまけた」

     

    高尾市は、旧日本統治下の色彩が色濃く残っている都市である。戦時中に建てられた記念碑の碑文は、コンクリで塗り固められたにもかかわらず、現在はそれが取り除かれて読める状態になっている。親日派がやったのであろう。そういう雰囲気の都市だから、親日=反中というのは歴然としている。こういう都市で、「親中」などと言えば反感を買うのだろう。

     


    (2)「韓氏は2018年11月の統一地方選で高雄市長に当選した。総統選出馬に向け、就任後1年足らずの19年秋から市長職を休職したことから、市民団体などが「市民への約束を破った」とリコール運動を展開していた。韓氏は中国ビジネスで人々を「大金持ちにするぞ」などと主張してきた。独特の風貌と話術で人気を博して「韓流」と呼ばれる社会現象を巻き起こし、統一地方選での国民党大勝の立役者となった。余勢を駆って総統選に参戦し、党内予備選では電子機器の受託製造サービス(EMS)世界最大手である鴻海(ホンハイ)精密工業の創業者、郭台銘(テリー・ゴウ)氏を破ったが、総統選では民進党から再選出馬した蔡英文(ツァイ・インウェン)氏に敗れた」

     

    国民党が、本土を追われて台湾へ撤退した当時、台湾住民を弾圧した。このことから、植民統治下の日本の方がはるかに親切であった、という再評価に繋がった。以来、日本評価は高く「親日台湾」になっている。日本語が、街で普通に通じるほどだ。米中間の対立が激しくなればなるほど、日米への信頼が高まる政治情勢だから、中国は台湾市民から敵視される構図になっている。

     

    (3)「「香港」が韓氏の足かせとなった。19年6月から反政府デモが拡大。中国に統一されれば「香港の二の舞いになりかねない」との警戒感が台湾でも高まり、総統選での敗北につながった。直近では中国で香港への統制を強める「香港国家安全法」の制定方針が採択され、台湾では中国への反感が一段と強まる。今回のリコールは特に対中警戒感の強い若者らが推進しており、香港問題に刺激されて活動に弾みがつき、賛成票が膨らんだ面がある」

     

    米中の冷戦化は、台湾の軍事的価値を高めている。米国は、一段と台湾防衛に力を入れる構えを見せている。中国が、香港の「一国二制度」を破棄した結果、各国へ約束させた「一つの中国論」も消えている。中国が、台湾へ高圧的姿勢を取れば取るほど、台湾市民の支持を失うジレンマに立たされている。

     


    『日本経済新聞』(6月6日付)は、「国際世論で問う 中国の発生責任」と題する寄稿を掲載した。筆者は、インド・ジンダル・グローバル大学教授 スリーラム・チャウリア氏である。

     

    中国にパンデミックの罪を償わせることはできないのだろうか。法律以外の手段で、中国を罰する方法がある。米国や日本が探るように、中国のサプライチェーンへの依存度を引き下げるのだ。対中投資を縮小すべきだという声も広がっている。

     

    (3)「ソフトパワーという点では、国際世論における中国のイメージは、新型コロナによって大きく損なわれた。中国がどのように言い繕っても、パンデミックを引き起こしたことに対する人々の怒りが消えることはないだろう。正式な法廷ではなくとも、「国際世論の法廷」で中国の罪を問うことは重要だ。長い目で見れば、コロナ危機は、中国の力と威信を低下させる可能性がある

     

    下線部分は、極めて重要な指摘である。台湾で親中派の市長がリコールで罷免されたのも、中国のソフトパワーのメッキがはげたことの証明である。コロナ・パンデミックの後、世界に大きな変革が起こるという歴史の教訓に従えば、中国の噓によって築かれてきたソフトパワーは、簡単に消え去る運命とみる。世界に共通する普遍的価値観を持たない中国のソフトパワーが、今後も生き残れる保証はどこにもない

     

     

     

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    周辺国による中国への軍事的な警戒は、日一日と強化されている。中国の対外的膨張強化と共に、これを阻止する防衛線が強化されている。一体、中国は何を狙っているのか。広大な国土を持ちながら、さらに領土を拡大しなければならない理由は、国内矛楯の激化による圧力を、外へ逸らすという古典的な「帝国主義」に過ぎないのだろう。はた迷惑な話である。

     

    豪州とインドが、経済・防衛で協定を結ぶ。共に、中国の領土膨張に悩まされている結果だ。これまでインドは、安保面で他国との協定に慎重であった。それが、一転して豪州との協定に踏み切ったのは、中国という共通の相手が存在するからだ。こうして、日米主導で進んできた「インド太平洋戦略」は、日米豪印の4ヶ国が団結して、中国に対抗する構図ができあがった。

     

    『日本経済新聞』(6月6日付)は、「防衛・経済で首脳合意 日米との連携深める」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「オーストラリアとインドがインド太平洋での防衛協力を拡大させる。両国は4日、オンラインで首脳会談を開いた。両国軍の相互運用能力を高める協定で合意し、共同声明を発表した。通商や領土を巡り中国との緊張が高まる中、豪印は日米主導で中国に対抗する「自由で開かれたインド太平洋」構想に賛同、対中けん制で足並みをそろえる。豪州のモリソン首相とインドのモディ首相は豪印関係を従来の戦略パートナーシップから包括的戦略パートナーシップに格上げすると決めた。相互後方支援協定の締結でも合意した。ロイター通信によると、この協定で両国の軍隊が互いの艦船や航空機に燃料補給したり、整備施設を利用したりできるようになる」

     

    インド太平洋戦略は、もともとは日本の構想であった。それに、米国が乗りさらに豪印が加わる形で、中国の海洋進出をけん制する。中国が海洋進出する狙いは、米国との軍事覇権争いである。総合覇権は、経済・科学・軍事・文化などの総合力で形成されるものだ。中国にとっては、どれ一つ世界で突出したものはない。中国の場合、単なる勢力争い。消耗だけを伴う「見栄」が推進している無駄である。それだけに、破綻する時はあっけない崩壊となろう。第二のソ連である。

     

    (2)「インド太平洋地域での海洋協力に関する共同宣言では、「(豪印には)インド太平洋地域で航行の自由を確保する共通利益がある」と指摘した。両国が同地域で「安全保障などの課題に対し共通の懸念を抱いている」とも表明し、南シナ海とインド洋を結ぶシーレーン(海上交通路)の確保を目指す中国を強くけん制した。両首脳は海軍間の協力を深め、情報交換を進めることも確認した。米印海軍と日本の海上自衛隊による共同訓練「マラバール」への豪州の参加も協議されたとみられる。豪州は2007年マラバールに参加したが、中国が不快感を表明したため、その後は参加していない。外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)に関しても、少なくとも2年ごとに開催し、日米との連携も進める方針だ。両首脳は貿易や投資活動の拡大に向けた協力も協議した。豪州の投資家向けにインドのインフラ部門についての情報提供を行うなどの連携を進める」

     

    ドイツの哲学者カントは、『永遠平和のために』(1795年)で、共和国(民主国)が独裁国に対抗するには、同盟を結ぶことが最も重要だと説いた。古今東西、同盟は安全保障の要諦である。中国は、この同盟が苦手である。秦の始皇帝が、中国を初めて統一したときの戦略は「合従連衡」である。「合従」(同盟)を崩してバラバラにさせ、「連衡」(一対一)の関係に持込み相手を征服するもの。「合従」を崩す策が、「ニコポン」である。「ニコッ」と笑って接近し、相手の肩を軽く「ポン」と叩いて警戒心を解かせる。得意の「ニーハオ」である。

     

    中国の外交戦術を観察しているとすべてこれである。台湾の外交締結国を奪って断交させる中国のやり方は、多額の資金贈与である。これで、相手の歓心を買い中国の手元に引き寄せる。後は、返済不可能なほどの債務を負わせて、担保に相手国の領土を取り上げる。「一帯一路」プロジェクトは、こうやって他国を食い物にしている。これに引っかかる国が、後を絶たないのは貧困ゆであろう。中国の経済力が下降に向かう今後は、そういう余力がなくなる。中国の軍事覇権は、行き詰まる運命だ。

     

    (3)「豪印がここにきて中国へのけん制を強める背景には、中国と摩擦や緊張が高まっていることがある。豪州は今年4月、新型コロナウイルス感染拡大の経緯に関する独立調査を求め、中国の強い反発を受けた。中国は5月、一部の豪産食肉の輸入停止に踏み切り、大麦にも80%超の追加関税を課すと発表した。18年には豪州は安全保障上の懸念から次世代高速通信規格「5G」から中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)を排除している。インドと中国の国境付近では、1カ月ほど前から両国軍の小競り合いが続く」

     

    中国が、隣接国と領土争いをする目的は国内向けである。愛国心を高めるには、隣国との紛争を仕掛けて緊張関係に持込む「演出」が不可欠である。中国経済は、自らが引き起したコロナ禍で失業者が激増している。この不安不満を外に向けさせるには、インドと国境紛争を起こすことがどうしても必要になるのだ。隣接国である豪印が互いに協力して、中国へ対抗する。自然の動きである。中国の経済力低下は、海洋進出を一層、激化させる要因となろう。凶暴化するに違いない。警戒を解いてはならない理由だ。


     

     

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