勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    韓国ソウル首都圏は、秋を待たずコロナの第二次感染が7月に到来するリスクが高まってきた。7月初旬、1日800人を越す爆発的な感染者が出てくるという予測が登場している。韓国では、これまで「K防疫モデル」と自画自賛してきた。集団感染発生により、その脆さが浮き彫りになっている。

     

    東京では、14~15日にわたり連日40人を上回る感染者が出ている。この半分は、歓楽街の関係者を事前に検査した結果だ。「後追い」でなく、「三蜜」のリスクが極めて高い場所での事前検査である。それだけに、ゆとりを持って対応できる。早期発見で、今後の感染者を減らす効果があるのだ。

     

    『中央日報』(6月15日付)は、「新型コロナの2次大流行、手遅れでは阻止できない」と題する社説を掲載した。

     

    韓国はもちろん、中国と米国など世界で一時停滞していた新型肺炎が強い勢いで復活している。ソウルと京畿(キョンギ)の場合、感染者がそれぞれ1000人を突破して不安感が高まっている。特に、ソウルでは高危険群である高齢者の介護施設で集団感染が初めて発生した。新型肺炎に対する警戒心を緩めたのが大きな原因に選ばれる。特に「しばらく病んで過ぎ去る病気」程度に軽く思う若年層の防疫に対する警戒心が失われたという指摘もある。「痛くて死ぬ前に飢えて死にそうだ」という人々は防疫より経済活動を優先する。

     

    (1)「一時、海外で好評を得たK防疫の成功に酔ったのではないか、冷静な自省が必要な時点だ。実際に、防疫対策をみると、先制的な対応よりはほとんど手遅れの対策だ。防疫の死角地帯は目に見えるが、なぜもう少し先制的に対応できないのか。感染者1人が数人にウイルスを移すかを見せる再生産指数(R値)は最近、首都圏(1.2~1.8)が非首都圏(0.5~0.6)の2~3倍にもなる。人口の50%が集中している首都圏がさらに脆弱ということだ。ついに政府は12日新規感染者が一桁に落ちるまで「首都圏防疫管理強化案」を無期限維持すると発表した。すでに効果が小さい対策をそのまま維持して新型肺炎を撲滅できるのか疑問だ」

     

    感染者1人が、何人にウイルスを移すかを見る再生産指数(R値)は最近、首都圏(1.2~1.8)であり、非首都圏(0.5~0.6)の2~3倍にもなる。この驚くべき結果に、韓国防疫当局は青ざめている。「K防疫」と自慢した韓国の防疫体制に、大きな穴が開いているのである。自慢するのが早すぎたのだ。

     


    (2)「専門家らは、距離確保の水準を直ちに高めなければ、「2次大流行」が秋より早く発生する可能性があると警告する。国立がんセンターのキ・モラン教授チームは4月30日~6月11日平均R値(1.79)が維持される場合、7月9日には一日感染者が826人にもなり得ると警告した。一歩間違えれば社会的距離確保を再び施行することを含んで準備に万全を期しなければならないという意味だ」

     

    韓国のコロナ防疫体制では、大統領府が口出しをしている。「全数調査」は、大統領府の素人集団が政治的思惑で強引に実行させたもの。中国でも、武漢市で先頃600万人のPCR検査を行ない、胸を張っていた。その矢先に、北京市の総合卸売市場で大量感染が発生している。この600万人分の検査の「偉業」も色あせるのだ。全数調査には、こういう的外れなことが起こる。

     

    防疫専門家の勘を働かせて、リスクにあるところ(総合卸売市場)で先回りして検査すべきだった。東京が、歓楽街の関係者を「予防的に検査」して多くの陽性者を発見したことは大手柄である。韓国も中国も、「三蜜」の場所を集中的に検査すべきであった。

     

    日本が、このままで推移して大事に至らなければ、「日本モデル」が脚光を浴びるであろう。「K防疫モデル」は、世界で先行して評判になった。現状では崩れかかっている。日本は、韓国失敗の轍を踏まないように「三蜜」回避で全力を挙げるべきだろう。日本の暫定的「成功要因」は、次の3点である。

     

    1)クラスター調査に全力を入れた

    2)横浜の大型クルーズ船による教訓で、「三蜜」回避に全力を挙げた

    3)保健所の防疫機能がフル回転した

     

    以上の3点に、全数調査は入っていない。疫学の原点に立った防疫対策の成果である。


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    韓国与党と大統領府は、旧徴用工補償で担保に差し押さえている新日鉄の株券(約6500万円)を現金化する方向に傾いている。日本の報復は大した痛手にならないという見方だという。しかし、1億円に満たない金額で、日韓が外交的に激突するデメリットを考慮しない辺りに韓国の狭量さが滲み出ている。

     

    日本のGDPは、韓国の約2.4倍である。この違いを頭に入れるべきである。しかも、日本の技術と資本が韓国経済の隅々までに浸透している。こういう毛細血管の役割を果たしている日本と、角付き合わせの関係になったらどうなるか。冷静に考えられないのが、韓国の一大欠陥である。しかも、繰返すが1億円未満の金額である。「感情8割、理性2割」の国民性を100%示した動きである。

     

    『中央日報』(6月15日付)は、「『日本の報復にも耐えられる』韓国与党、年内日本企業資産現金化論」と題する記事を掲載した。

     

    最近、裁判所が強制徴用被告企業の国内資産売却手続きに入ることで韓国政府の中では「今年中に日本企業の資産の現金化が避けられず、日本の2次報復措置に備える必要がある」という雰囲気が強まっていると複数の消息筋が14日、明らかにした。

    (1)「外交部の公式立場は、「現金化する前に最大限日本政府と解決方法を探りたい」というが、青瓦台など与党核心部では「現金化以降」に備える必要があるという声がますます高まっている。このままなら結局「現金化→日本の2次報復措置→韓国の追加措置」に続き、1965年韓日国交正常化以来55年ぶりに両国関係が最悪の状況を迎える兆しも見せている。与党の内部事情に詳しいある消息筋はこの日、中央日報に「裁判所が年内日本製鉄の韓国資産を強制売却することに対して青瓦台内でもこれを既成事実として受け止めている雰囲気」として「これに伴い、日本の2次報復に備える動きがある」と明らかにした」

     

    韓国与党は、先の総選挙で議席の6割を握ったので、野党の追及を恐れることなく「反日は何でもできる」と超強気になっている。危険である。この際、日本はこういう韓国に対して「教育効果」を狙った対応も必要だろう。つまり、隣国・日本とはどう付合うべきかを深く考えさせる対抗措置である。

     

    (2)「与党の内部事情に詳しいある消息筋は、「昨年から(現金化以降の)日本の予想される各種経済報復措置を検討した結果、日本が使えそうなカードが多くなくその衝撃による波も思ったより大きくないという判断が作用している」と伝えた。政府のこのような判断の背景には昨年日本の「輸出規制」に対する“予防注射”の効果が働いているという。経済産業省が昨年7月1日付で韓国の主力輸出品目である半導体素材・部品の3品目を対象に規制したが、体感打撃がそれほど大きくなかったという結論を下したということだ。

    下線部分は、日本が韓国の生産に影響を与えないという配慮で行なった措置である。日本が、「手心」を加えた緩いムチであった。そのムチが痛くなかったから、「体感打撃」が大したことはなかったと言っている。WTOへ提訴した理由とは、全く違った矛楯した発言である。ここら辺りに、韓国の軽率さを感じるのだ。つまり、論理が一貫せず、行き当たりばったりである。日本への対応を間違える土壌がこれだ。

     

    (3)「3日、産業通商資源部は日本の輸出規制問題で世界貿易機関(WTO)への提訴手続きを再開した。このような一連の措置は日本の2次報復措置に「耐えられる」という与党核心部の判断にともなう実行措置という観測も出ている。日本は強制徴用問題で自国企業の国内資産処分を韓日関係のレッドラインだと数回言及してきた。茂木敏充外相は今月3日、康京和(カン・ギョンファ)外交部長官との電話会談で「日本企業の韓国内資産現金化は深刻な状況を招くだろう」と警告したことをはじめ、数回にわたって日本の立場を伝えてきた」

     

    韓国は、日本から供給される中間財を加工して輸出している関係にある。その大事な供給先の日本と一戦、交えようという話だ。日本の国内世論がどう反応するかを、計算に入れていないのである。日本は売られた喧嘩であれば、「韓国と戦え」という世論になることを忘れている。日本の世論が少々、「手荒」なことでも要求するリスクを見落としているのだ。

     


    (4)「日本側は自国企業の韓国内資産が強制売却されれば報復措置に踏み切ると公言してきた。昨年3月には「日本政府は現金化に備えて100件余りの報復リストを作っている」という共同通信の報道もあった。
    韓国政府が検討してきた日本の2次報復措置の中で有力な案の一つに日本国内の韓国企業の「資産没収」の措置もあると確認された。韓国側が日本製鉄などの財産を強制処分するように「目には目を歯には歯を」の報復措置だ」

     

    日本が、行なう韓国企業の資産没収は序の口である。1億円未満の金額であるから、韓国には痛くも痒くもない話である。問題は、その後につづく日本の報復である。金融措置が大きいと見られる。日本の金融機関が、韓国金融機関に貸付けている。それに圧力をかけることもできる。

     

    (5)「その他にも日本の2次報復措置は通貨スワップを延長しないなど金融措置とビザ制限の延長などにつながり得る。しかし、日本との通貨スワップは独島(ドクト、日本名・竹島)問題などで2015年2月すでに停止され、韓国は現在米国〔600億ドル(約6兆4000億円)〕をはじめ中国・スイス・カナダなど9カ国と1932億ドル規模の通貨スワップを締結している」

    韓国に通貨危機が起こった時、日本の支援は一切、受けられないことが自明であれば、投機筋は安心してウォン売りに拍車を掛けてくるだろう。韓国は、その防戦で失うドルが巨額なものになるはずだ。日本の円という「安全通貨」から切り離されている「ウォン」が、どれだけ弱い立場であるかを存分に知ることになろう。日本との不和は、韓国にとって何一つメリットにならないのである。

     

    (6)「ある外交消息筋は、「日本側も報復措置の実効性が大きくないということを分かっているが、自国企業の資産に対する競売段階に入れば国内政治的のレベルで何でも報復措置をしようとするだろう」と話した」

    韓国は、この点を完全に忘れている。自国の立場だけで問題を考えている。この際、日本は100年の計で韓国への対応策を決めるべきであろう。再び、こういう事態が起こらないようにするにはどうするか。日本が、妥協しないことだ。


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    韓国の民主主義は未熟である。政界の多数派(与党)は、国内で何をやっても良いという錯覚に陥っているからだ。これが、民主主義と錯覚しているあたり、極めて危険である。戦時中の日本の「大政翼賛会」韓国版が、進歩派によって推進されている。言論の自由を圧迫しているのだ。

     

    韓国進歩派に、言論の自由は存在しない。文大統領は、ことあるごとに「自由・平等・民主」を語っているが、実態は与党進歩派の自派だけに許される「自由・平等・民主」である。保守派には、これを認めないという極端な陣営論理である。韓国は、大きく左旋回している。いつでも、北朝鮮と統一できる精神状態である。北朝鮮の偏屈さと韓国進歩派の独断主義は、ほぼ同じような危険性を秘めている。「反日運動」は、こういう偏向した立場から行なわれている。

     

    『朝鮮日報』(6月14日付)は、「金於俊を批判した出演者を再び呼んで謝罪させたKBS」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「記者会見文を読むと、李ハルモニ(慰安婦被害者の李容洙〈イ・ヨンス〉さん)が書いたものではないのは明白なように思える。臭いがする。誰かが歪曲(わいきょく)に関与しているのではないか」。与党寄りのジャーナリスト、金於俊(キム・オジュン)氏が、自身が司会を務めるTBSの番組『ニュース工場』で、旧日本軍慰安婦被害者の李容洙(イ・ヨンス)ハルモニ(おばあさん)=92=について提起した陰謀論です。「ハルモニには誰か黒幕がいる」というキムさんの発言は、多くの人々の怒りを買いました」

     

    李容洙(イ・ヨンス)さんは、旧慰安婦支援団体の「正義連」が寄付金を横流ししているのでないかと記者会見で告発した。これが、きっかけで「正義連」には検察のメスが入っている。進歩派には、これを苦々しく思い「李容洙非難」を続けている理由だ。与党寄りのジャーナリスト、金於俊(キム・オジュン)氏が、自身が司会を務める韓国TBSの番組で、保守派の「陰謀論」として李容洙さんを非難したもの。

     

    韓国進歩派は、問題の是非を純粋に論じず、陣営にとってプラスかマイナスかという視点で捉える偏狭さがある。およそ言論の自由という普遍的な立場で論じることがないのだ。こういう相手と「反日」で議論しても空転は必至で、噛み合うことは絶無である。

     


    (2)「KBS第1テレビ『ジャーナリズムトークショーJ』が先月31日、金於俊氏の発言について取り上げました。西江大言論文化研究所のホン・ソンイル研究員は「李容洙顧問が個人的意見を表明する上で多くの方の支援を受けているということが、それが何だというのか」「金於俊氏が李容洙顧問の孤立を狙っているのではないか」と指摘しました」

     

    他のテレビ番組で、金於俊氏の発言を取り上げて批判が出た。当然な言論活動である。ところが、この批判は後述のパラグラフのように、感情論で押し潰されたのである。これは、問題の本質を捉えず「正義連」を擁護し、ひいては文政権を守ろうという姿勢に通じるものだ。

     

    (3)「これに対し、予想外の悪質なコメントが殺到しました。「クズ記者(のような放送人)をたたこうと番組に呼んだら、本人がクズ記者同然のことを話している」「新たな時代のジャーナリスト、金於俊に対する劣等感が赤裸々に表れていた」「ジャーナリズムトークショーが工場長(金於俊)の悪口を言っているって? おぞましい」などのコメントが相次ぎ、番組のファン交流サイトには「有名なスピーカー(ジャーナリスト)をたたく自分をかっこいいと思い込んでいる『ナルシスト』」などのコメントが寄せられました」

     

    ここに思わぬ非難が殺到したという。金於俊氏の発言を批判した西江大言論文化研究所のホン・ソンイル研究員を「クズ記者同然」と罵倒したのだ。まさに、陣営論理である。ことの正邪の判断ができず、すべて「自派への批判」と受け止める陣営論理である。韓国が宗族社会の遺制を色濃く受け継いでいる結果である。口では立派なことを言うが、実態は近代化されていないのだ。

     

    (4)「金於俊氏のファンたちにそっぽを向かれるかと怖くなったのでしょうか。『ジャーナリズムトークショーJ』の制作陣は今月3日、「金於俊狙撃以降のJとホン・ソンイルの立場」とのテーマで、動画共有サイト「ユーチューブ」でのライブ配信を実施し、ホン研究員に直接謝罪させました。ホン研究員は「恐縮だ。私の至らない討論のせいだ」として「私が見ても憎たらしいものだった。反省した」と話しました。そう言いながらも、このように続けたのです。「金於俊氏が李容洙顧問をあまり尊っていない、と判断いう判断が(私の中で)働きました。その部分を論理的に綿密に組み立てて話せばよかったのでしょうが、私の力不足です」。ホン研究員の表情は後味が悪そうに見えました」

     

    KBS第1テレビは、金於俊氏を批判した前記のホン研究員を呼びつけて謝罪させ、「ユーチューブ」で流したというのだ。ここまで来ると、韓国の言論の自由は完全に死んだのも同然である。韓国進歩派は、宗族社会の遺制を引き継いでいる。「共に民主党」という宗族社会で生きているに過ぎない。大韓民国という共通の舞台ではないのだ。呆れたと言うほかない。

     

    (5)「『ジャーナリズムトークショーJ』は初回放送から2年間、ずっと「政府寄り」との批判を受けてきました。出演者で評論家のカン・ユジョン氏はこの日「保守メディアの行き過ぎた陰謀と画策に反応することが私どもの中心(的な目的)だった」と話しました。特定の政派を擁護するこの番組の「ファンダム(熱狂的ファンの集まり)」はそういう意味で確実なのです。金於俊氏が聖域となり、制作陣が『ニュース工場』を怖がる理由がここにあるのです」

     

    韓国の放送メディアの後進性は酷いものだ。韓国のテレビはほとんど進歩派に支配され、「政府寄り」の内容を臆面もなく流していると言われている。この韓国が、反日で騒いでいる。あえて、騒いでいると言おう。言論の自由がない彼らに、日韓問題を冷静に議論できる土壌はない。「百年河清を俟(ま)つ」である。つまり、不可能なのだ。


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    コロナが奪う小康社会の夢

    PCR全員検査の政治目的

    露店経済拒否へ習派が結束

    メディアで地方に反旗促す

    毛沢東vs鄧小平の再現へ

     

    中国共産党は2021年、創立100周年を迎える。本家筋の旧ソ連共産党は、創立100周年を祝えず、1991年に解散の憂き目を見た。創立(1918年)から74年目で、その命運が尽きたのである。これに比べれば、中国共産党は「健闘」している。ただ、共産主義という市場経済原理を否定する経済制度に寿命がある。これは宿命である。中国は、その胸突き八丁の苦難に直面している。

     

    習近平国家主席の就任は、2012年である。それまでの市場経済を中心とした経済運営は、大きく左旋回した。従来の「民進国退」という民営企業中心主義が、「国進民退」という国有企業中心へ180度も変わった。習氏が再び、国有企業を前面に据えたのは、共産主義指導方針を高く掲げたことと、習氏の支持基盤である「紅二代」(革命運動へ参加した子弟)の利権を守る隠された事情があった。

     

    習氏は、前任者の胡錦濤氏が強力な支持基盤を持たなかったという弱点を克服し、人民解放軍への足がかりも生かし長期政権の構えで発足した。こうして、「第二の毛沢東」を目指し、3期以降の国家主席の座を視野に収め、米国覇権へ対抗し「中華再興」という夢で民心把握に乗出している。習氏の構想では、中国共産党創立100周年の来年が、「小康社会」(少しゆとりある社会)実現になるはずであった。「あった」と、あえて過去形にしたのは、その夢がすでに破れたからである。「小康社会」の概略については、後で取り上げる。

     

    コロナが奪う小康社会の夢

    今年初めの新型コロナウイルス発症が、すべての夢を奪った。昨年12月に武漢市で発症したコロナ禍が、WHO(世界保健機関)への報告が遅れ、かつ原因を隠蔽したこともあり、中国自体が大きな被害を被っている。その上、パンダミック(世界的大流行)化させたので、中国経済を支える輸出が大きく後退し、「小康社会」実現は幻と消えた。庶民は職を失い、街頭で露店を開くか、否かで最高指導部の意見対立が起こっている。具体的には、習国家主席と李首相である。

     

    習氏は、「新型コロナウイルスの流行がなければ、今年の経済成長率目標は6%前後になる可能性が高かった」と述べている。5月22日の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の内モンゴル自治区分科会でこう明らかにしたのだ。習氏の無念ぶりを伝えている。ただこれは、内々の話である。公式には、来年の「小康社会」実現の旗を降ろしていないのだ。それが、中国最高指導部内での意見対立の火種になっている。詳細は、後で取り上げる。

     

    中国は、恒例の全人代(今年は5月開催)で今年の経済成長率目標の発表を取り止めた。コロナ禍で、見通しが付かない事態に見舞われたからだ。強力なロックダウン(都市封鎖)を行い、これが高い自営業比率の産業構造を直撃したこと。輸出の急減で大量の失業者が出ていること、が引き金になった。失業者数の実態が、掴めないほどである。これが、驚くなかれGDP世界2位である国家の現実だ。

     

    中国は現在、経済立直しの第一要件として、コロナ陽性者を一人でも多く見つけ出すことに置いている。その結果、ウイルス検査を国内のどこでも、誰に対しても行うようにするのが目標である。これには、政治的な狙いが込められている。「中国はコロナを克服した」と宣言して、内外で失われた共産党への信頼を回復させようという戦略だ。具体的には、次のようなことを始めている。『ロイター』(6月11日付)から引用した。

     

    中国国家衛生健康委員会は6月8日、新型コロナウイルス核酸検査を標準化させると発表。「検査したければ全員検査してもらえる」とぶち上げた。新型コロナの流行が最初に確認された湖北省武漢では5月、9億元(1億2700万ドル)を投じ、10日間余りで約600万人を検査した。中国の多くの組織機関が、職員に定期的な検査をさせるとみる。感染症が把握されないうちに流行が発生し、地域や都市全域を封鎖する事態に比べれば、負担は軽いという認識である。

     

    PCR全員検査の政治目的

    この「全員検査方式」によって、陰性者を職場へ復帰させようという狙いである。だが、農村からの出稼ぎ労働者は、やっとの思いで北京や上海へ辿り着いても仕事がないのだ。これで再び帰郷するという「Uターン」が増えている。中国が引き起したパンダミックは、中国経済を徹底的に破壊し尽くしと言える。

    (つづく)

     

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    韓国と言い中国と言い、「コロナ第一波収束」と胸を張っていたが、上手の手から水が漏れることになった。最初に感染者が拡大した国は、どこか基本的に防疫面で脆弱性を抱えているのだろう。手を洗う習慣がない、などの生活面で衛生観念が欠如しているのだ。

     

    このように、他人事のような書き方をしていると、いつ日本に第二波が襲来するか分からない。用心に用心を重ねて、前車の轍を踏むということだけは避けなければならない。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月14日付)は、「中国・北京市が『非常時』宣言、新たに44人コロナ感染」と題する記事を掲載した。

     

    市内の食品卸売市場で新型コロナウイルスの集団感染が判明した中国・北京市政府は14日、記者会見し、新たに44人の感染を確認したと発表した。市内最大であるこの卸売市場と全員が関係しており、市政府は「非常時に入った」と宣言した。

     

    (1)「新たな感染者を13日に36人、14日午前7時までに8人確認した。11~12日にも7人が発症しており、この市場に関連する感染者は50人を超えた。集団感染が発生したのは、市内の豊台区にある北京新発地卸売市場。海鮮や牛肉、羊肉のほか、野菜や果物などを扱う。市当局はすでに周辺の居住区を封鎖し、人の出入りを規制。周辺住民と、14日以内に同市場を訪れた人全員にPCR検査を実施する方針で、すでに確認調査を始めている」

     

    新型コロナの流行が最初に確認された湖北省武漢では5月、9億元(1億2700万ドル)を投じ、10日間余りで約600万人を検査したという。全数調査をやった訳だが、北京市の集団感染予防には役立たなかった。当然のことだが、全数調査よりも、発症の危険性があるところに目星をつけるのが防疫専門家の仕事だ。「明後日の方」に焦点を合わせていた点が、手抜かりであったと言うほかない。後手、後手になっているようだ。

     


    (2)「現在、市内にあるほかの大規模な卸売市場も営業を休止している。市場の相次ぐ閉鎖を受け、食料品など生活必需品への不安が広がらないよう、市政府はスーパーなどへの検査を徹底する方針を表明した。食品の買い占めによる品薄や価格の高騰を防ぐ狙いがある。北京市では4月中旬以降、2カ月近く、新型コロナの新たな感染が確認されていなかった。市当局は感染の「第2波」への警戒を強めている。中国政府は14日、13日に確認した感染者数が中国本土外から来た19人を合わせて、合計57人だったと発表した。50人を上回ったのは4月13日以来となる」

     

    海鮮や牛肉、羊肉のほか、野菜や果物などを扱う大規模卸売市場が、集団感染の舞台になった。北京市では4月中旬以降、2カ月近く、新型コロナの新たな感染がなかったという。油断していたのだろう。武漢も食品市場が感染症発症の舞台とされている。こうなると北京の場合は、明らかに油断と言うほかない。歯がゆいほどの不注意である。日本では、こういうケースを聞かない。日本と中国では、心構えが違うのだろうか。

     

    『ロイター』(6月11日付)は、「中国がコロナ検査を急拡充、いつでもどこでも誰にでも」と題する記事を掲載した。

     

    (3)「中国が新型コロナウイルス検査施設を何百も作り、検査件数を積み上げつつある。健康な人さえも対象にした検査態勢を増強するためで、国内の感染はほぼ押さえ込めている形だ。ウイルス検査を国内のどこでも、誰に対しても行うようにするのが当局の狙い。文書や当局の各種通知は、政府が検査能力を急拡大させており、既に世界最大級の態勢を津々浦々に広げようとしていることを示している。国家衛生健康委員会は8日、新型コロナウイルス核酸検査を標準化させると発表。「検査したければ全員検査してもらえる」とぶち上げた」

     

    湖北省武漢では5月、10日間余りで約600万人を検査したという。これが、北京市で行なわれていたら、集団感染を事前に防げたであろう。防疫の勘というか、発症しやすい場所を先ず狙い、集中的にやるべきだった。それが、防疫専門家の職業的勘であろう。それが働かない全数調査では、余りにも幼稚という判断を免れまい。

     

    (4)「他の多くの国と異なり、中国では広く検査が受けられる。香港大学の感染症専門家のベン・コーリング氏は、中国の多くの組織機関が職員に定期的に検査させるとみる。「検査は高価だが、中国ではたぶん、それほどかからない。検査試薬や機器が中国で生産されていることが多いからだ」と指摘。「把握されないうちに流行が発生し、地域や都市全域が封鎖される事態に比べれば、負担は軽い」と述べた。

     

    下線の部分は、まさに今回の北京市に当てはまる。卸売市場の閉鎖による経済コスト発生は、生活に直結するだけに大きくならざるを得まい。今回の教訓を生かすべきだ。


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