勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    サンシュコ
       

    習近平氏が、いよいよ歴史の歯車の回転に取り込まれそうな状況を見せ始めている。中国の経済失速原因をつくったのは、「習独裁システム」が生み出したものだ。胡錦濤政権下であれば、武漢コロナの発症はすぐに北京へ報告されたであろう。党内の厳しい締め付けが、地方党幹部にコロナ隠蔽へ走らせたのだ。党内の風通しが良ければ、このようなパンデミックもたらすことはなかったであろう。独裁が、中国のみならず世界を破綻へと追い込んでいるのだ。

     

    中国経済は惨憺たるものだ。地方から北京へやってきた農民工は、2ヶ月間で2日しか働けなかったとNHK・TV(5月24日夜9時)で放映された。これでは、食っていけないと農民工が再び地元へ帰らざるをえなくなっている。街では、「仕事をください」と僅かな工賃(100円)でも稼ごうと、街頭でミシンを踏み作業している姿が映し出された。店舗の売却の張り紙も増えている。中国経済は、徹底的に打ちのめされている。不平・不満が溜まって当然という状況になっているのだ。

     

    コロナの不満に、仕事のない不満が重なればどうなるか。中国の群集心理は、過去の歴史が示すように暴動へ向かう。中国社会は、簡単に暴動へ加わる精神構造である。ここで、習近平氏が編み出したのは、不満を外に向けさせる「帝国主義」手法である。香港へ国家安全法を適用して、民主化要求デモを取り締まろうという強硬策に打って出る方針を固めたのだ。

     


    『日本経済新聞 電子版』(5月24日付)は、「香港で『国家安全法に反対デモ』180人以上を逮捕」と題する記事を掲載した。

     

    香港で24日、社会統制を強める「香港国家安全法」に反対する数千人規模のデモがあった。警察は物を投げつけた若者らに催涙弾を発射し、180人以上を逮捕するなど混乱が広がった。香港では国家安全法が「一国二制度」を骨抜きにして、言論の自由や政治活動の抑圧につながるとの反発が強い。今後、抗議活動が激しくなる可能性がある。

     

    (1)「今回のデモは香港政府が新型コロナウイルス対策で9人以上の集会を禁止してから最大規模。警察は違法なデモだと解散を命じたものの、若者らは制止を振り切って幹線道路を行進した。デモはSNS(交流サイト)で呼びかけられた。香港島の繁華街、銅鑼湾(コーズウェイベイ)に集まった若者らが「天滅中共(天が中国共産党を滅ぼす)」「香港独立」などと書かれたプラカードを掲げた」

     

    中国の「一国二制度」を踏みにじる行為は、絶対に認められない。これが、民主化要求側の姿勢である。自由と民主主義の拠り所である「一国二制度」が崩れれば、香港の良さはなくなるのだ。その危機感が、デモ参加者を増やすのであろう。

     

    (2)「デモ参加者は道路に障害物をおいて火を付けたり、一部の店舗を破壊したりした。新型コロナがほぼ終息した香港の繁華街は多くの買い物客らでにぎわっていた。多数の武装警察が出動し、公共交通機関が止まるなど混乱した。香港政府は「暴徒が傘や物を警察官に投げた。警察は暴力行為を阻止するために催涙ガスを使用した」と取り締まりを正当化した。香港では逃亡犯条例改正案をめぐる一連の大規模デモから6月で1年の節目を迎える。中国が開催中の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で香港議会を通さずに国家安全法を制定する方針を突然打ち出し、市民の間では「一国二制度」が崩壊するとの危機感が高まっている」

     

    香港民主化要求側は、死に物狂いの抵抗をするであろう。実は、中国の暴挙に制裁を加える準備が、米国政府によって着々と進んでいる。

     

    『共同通信』(5月24日付)は、「香港安全法導入なら制裁も、米高官『自治保てず』」と題する記事を掲載した。

     

    オブライエン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は24日、中国が全国人民代表大会(全人代)で審議中の香港への国家安全法制を導入すれば、米国は中国と香港に制裁を科す可能性があると述べた。米NBCテレビに語った。

     

    (3)「オブライエン氏は、同法制について「中国が香港を乗っ取ろうとしている」と批判した。導入すれば、「一国二制度」の下で中国が香港に保障した「高度の自治」が維持されていると、米国務省が認定するのは難しくなると指摘。「そうした事態が起きれば、中国と香港に制裁が科されることになる」と強調した」

     

    中国と香港にとっては、取り返しのつかない事態が始まろうとしている。米ホワイトハウスは5月21日に発表した「対中国戦略的接近」報告書で、中国共産党の略奪的な経済政策、軍事力拡張、偽情報の散布および人権侵害など「悪質な行為」を概説したうえ、対中戦略の転換を打ち出した。この20ページに及ぶ報告書にトランプ大統領が署名し、米議会に送られた。中国にとって、まことに間の悪い事態となってきた。

     

    香港問題が、大きくクローズアップされ、習近平氏の想像もしていなかった事態が起こりそうである。専制主義が嵌り込んで、歴史の歯車の回転が始りそうである。

     

     

    a0960_008417_m
       

    米国は、公然と中国を敵と捉える報告書の「対中国戦略的接近」を発表した。しかも、中国の全人代開催日の5月21日に合せる念の入れようである。韓国は、米中の間を上手く泳ごうという「ヌエ的」な存在である。漁夫の利を狙った情けない外交姿勢を取っている。この報告書では、「韓国も味方に」と誘われている。韓国はここで、米韓同盟の原点に立ち返らないと、流浪の民になる危険性が極めて大きい。この煮え切らない態度では最後に、中国に釣り上げられ、「料理」されてしまう運命だろう。

     

    『中央日報』(5月23日付)は、「中国、両会開始日に事実上の宣戦布告、米国『韓国と手を握る』」と題する記事を掲載した。

     

    米国政府が21日(現地時間)、「中国の不公正な経済と人権弾圧、安保不安などが米国の国益に挑戦課題となっている」と明らかにした。中国の習近平国家主席の名前を取り上げた「中国に対する米国の戦略的接近」報告書で、だ。この報告書の左側上段には米国大統領紋章が入っている。韓国・亜洲大のキム・フンギュ中国政策研究所長は「中国に対する宣戦布告レベル」と述べた。

    (1)「中国の最大の国家イベントである両会(全国人民代表大会、全国政治協商会議)が始まった21日に公開されたこの報告書は、中国発イシューの筆頭に経済を挙げた。報告書は「中国は自称『成熟した経済』と話しながら、世界貿易機関(WTO)体制などでは開発途上国の地位を手放そうとしない」とし「自国企業を不公正に優遇する」と指摘した。また「オンライン上での窃盗行為を通じて全世界に数千億ドルにのぼる損害を与えている」と主張した。習主席の「一帯一路政策」については、「中国の内需経済発展のためのものであり、同時に世界市場で中国標準を広め、自国企業の地位を高めようという目的」と分析した」

     

    ここでの中国分析は、すべて正鵠を得ている。中国は、「チャイナ・ファースト」である。すべてを国益中心に考えており、将来の世界覇権につなげるという戦略である。紀元前の秦国(前221年)が描いた「統一戦略」の現代版と言える。可笑しくもあり、哀しくもあるカビの生えたようなものだ。これが、実現すると考えているところに現代との大きなズレがある。

     


    (2)「韓国も登場する。報告書は「中国による問題に対応するうえで同盟国と緊密に連帯する」と明らかにし、日本の「自由で開かれたインド太平洋ビジョン」を支持すると主張した。韓国がまだ明示的な参加を選択していないこの構想は、2017年に安倍晋三首相が米国と共感して発表したものだ。トランプ大統領が同年、日本を訪問し、安倍首相とともに共同外交戦略とすると公言した。中国の一帯一路に対応するための戦略だ。報告書は、日本の次にインドの「域内すべての人々のための安全保障と成長」、オーストラリアの「インド太平洋構想」を挙げた。

     

    インド太平洋戦略に参加するメンバー国に触れている。日本、印度、豪州の対中戦略の基本は自由と民主主義を守る戦いである。

     

    (3)「続いて韓国の「新南方政策」、台湾の「新南方(政策」に言及した。韓国も反中同盟グループで含めたのだ。経済分野ではすでに具体的な構想と提案も出ている状態だ。米国が中国を孤立させる「経済繁栄ネットワーク(EPN)」を構築しようとし、韓国の参加を公式提案した」

     

    韓国は、中国にも色目を使う「ヌエ的」存在である。こういう存在は、最も信頼の置けない国となる。台湾も「経済繁栄ネットワーク(EPN)」に入っている点に注目すべきである。台湾は、「一つの中国」という縛りを超えて米国陣営に数えられている。これは、米国が防衛面で絶対に中国の「侵略」を許さないという強い決意を示している。

     

    (4)「これはクラーク米国務次官(経済担当)が20日(現地時間)、国務省がアジア・太平洋地域の記者を対象に行う電話ブリーフィングで明らかにした。これに対し青瓦台(チョンワデ、韓国大統領府)関係者は22日、記者らに「確認はできない」という立場を表した。クラーク次官は韓国に対して「ファーウェイ(華為技術)の装備を使用すべきでない」と何度か要求した人物だ。ファーウェイは中国戦略報告書にも登場した。中国が速い成長を見せている5G(第5世代)情報通信技術分野について、報告書が「安保の懸念がある」とした部分で、だ。報告書はファーウェイなど中国企業を具体的に挙げながら「中国は国家サイバーセキュリティ法など差別的な規制に見らえるように、不公正な方式で世界情報通信業界を掌握しようとしている」と指摘した。ファーウェイとZTEは「海外で他国とその企業に安保脆弱性イシューを呼んでいる」代表事例として言及された」

     

    ファーウェイは、世界中でスパイ行為を働いていることは周知の事実だ。これを否定する方が、中国との関係を怪しまれるというほどになっている。

     


    (5)「中国の人権弾圧イシューにも触れた。新疆ウイグル地域のムスリム弾圧やチベット・法輪功弾圧などを問題点として取り上げながらだ。米中関係に詳しい当局者は「中国が嫌う言葉ばかりを選んで書いたようだ」と解釈した。今回の報告書はトランプ米大統領が就任後の2017年12月に発表した報告書「国家安全保障戦略(NSS)」の後続版で、対中国戦略に集中した。米国務省も「重要な文書」として同盟国の官僚と学界に一読を勧めている」

    今回の報告書は、アジアの同盟国の集団安全保障という枠組を提示し、経済繁栄もこのネット内で完結させようという狙いが込められている。TPP(環太平洋経済連携協定)に似たもの。ならば、米国がTPPへ復帰した方がはるかに効果的である。


    (6)「習主席の名前まで入れた今回の報告書は、トランプ政権が対中国基調を敵対的に変更するという公式発表と変わらない。米中対立が舌戦レベルを越えているのだ。キム・フンギュ亜洲大中国政策研究所長は「(1979年の)米中国交正常化から41年間守ってきた中国との『戦略的協力』基調を『戦略的競争』に修正するという意味」と解釈した」。

     

    米中関係は、もはや昔の協調関係に戻らず、米国が冷戦に突入する宣言をしたもの。中国の王毅外相は24日、記者会見を開き、米国トランプ政権が新型コロナウイルスをめぐり中国批判を繰り返していることについて、「政治ウイルスが拡散している」と批判した。また、「新型コロナウイルスとは別に、政治ウイルスもアメリカで拡散されている。政治ウイルスはあらゆる機会をとらえて中国を攻撃し、汚そうとしている」と猛反発している。中国もいつの間にか、世界のリーダーという態度だ。いつまで保つか。

     

    a0070_000030_m
       

    今年のGDP目標掲げず

    国内不満を外圧で逸らす

    香港弾圧で米の反撃必至

    台湾島嶼占領で勝利宣伝

    韓国は第二次朝鮮戦争へ

     

     

    先に開催された中国の全人代(国会に相当)は、コロナ禍で約2ヶ月半の遅れであった。注目の政策発表では、従来にない特色が見られた。以下の3点である。

    1)今年のGDP成長率目標を発表しなかったこと。

    2)香港へ本土の国家安全法を適用して、民主化デモなどを強権で排除・弾圧すること。

    3)台湾との統一について、「平和的手段」という従来の言葉が消えたこと。

     

    今年のGDP目標掲げず

    今年のGDP成長目標を掲示できないのは、コロナ禍で国内経済が深いダメージを受けたことを物語っている。来年は、中国共産党の結党100周年を迎える。中国指導部は、GDPを10年前の2倍にする意欲的計画を発表してきた。これが実現するには、今年のGDP5.5%成長を達成する必要がある。これに備えて、昨年は過去のGDP再計算をして嵩上げし、今年の「6%成長以上」という前提を5.5%にまでハードルを引下げる工作をしてきたのだ。

     

    その甲斐もなく、コロナ禍に見舞われた。「見舞われた」という受け身表現では、中国が被害国に映る。現実は、コロナ加害国である。習独裁体制に傷がつかぬよう、コロナ発生を隠蔽して、自らも大きな被害を受けるという皮肉な結果となったのである。

     

    中国当局者は、既に今年のGDP成長率への期待値を引き下げ始めている。国家発展改革委員会(NDRC)の何立峰主任は5月22日、記者団に次のように語った。今年のGDP成長率がわずか1%だとしても、GDPの規模は10年前の1.9倍となり、2倍に近くなるとした。だが、GDP成長率目標発表を抑えたのは、今後の中国経済に多くのリスクが迫ることを示している。以上は、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月23日付)が報じた。

     

    中国当局者が、今年の成長率を「1%だとしても」と語っていることに注目したい。つまり、現実にあり得るという示唆である。問題は、数字遊びではない。「1%成長」に陥った際の雇用状態がどうなるかだ。今年の大卒予定者は870万人と過去最大が見込まれている。現状では、卒業=失業という最悪事態に落込む。李首相は、GDP成長率よりも雇用確保、と号令を掛けている。低成長下では、雇用確保できるはずがないのだ。

     


    国内不満を外圧で逸らす

    大卒者は就職もできず、失業者の群に身を投じるが、社会不安を招かないはずがないのだ。ここで習氏の取る政策は、国内不満を海外に逸らすという、独裁者共通の対外強硬策の採用である。いつの時代でも、独裁者が取る手法である。歴史では、これを「帝国主義」と呼んでいる。習氏が、李首相に香港へ国家安全法を適用すると発言させ、台湾との軍事統一を示唆させたのは、国内不満を逸らすして香港と台湾へ向けさせる常套手段(帝国主義発動)を意味する。

     

    日本の過去にも、こういう汚点がある。昭和恐慌(1927~31年)では、世界恐慌(1929年)に巻き込まれ、大量失業者が出た。「大学を出たけれど」という言葉が、大流行した時代の話である。現在の中国とまさに同じ状況である。この時、日本軍部(陸軍)が編み出して手法は、満州(中国東北部)で傀儡(かいらい)政権をつくって、日本進出をカムフラージュしたことだ。日本は、失業問題解決と領土拡大を狙ったのである。侵略行為である。

     

    この一件が、米国を筆頭にした国際連盟(国連の前身)の強い反対論に出遭い、日本外交は孤立した。後に、日本は国際連盟脱退(1933年)という暴挙で自滅し、日米開戦という悲劇的結末となった。こういう経緯を見ると、今回の中国全人代での動きは、かつての日本を彷彿とさせる危険な道である。習近平氏を支える民族主義者は、明治維新以降の日本を入念に研究している。その結果、軍事力の増強が国威発揚の近道との結論を出しており、旧日本軍部と同じ道を選択していることは間違いない。余りにも危険である。

     

    中国民族主義者の結論に従えば、香港と台湾に向けて強硬策を取るのは既定路線であろう。これは、米国の地政学的最大関心事と真っ向からぶつかる危険性を秘めている。日本の満州進出が、米国の経済的利益に反した点を見逃せないのだ。米国が、日本に対して断固として満州撤兵を要求した事情の一つである。(つづく)

     

     

    a0960_008779_m
       

    韓国輸出産業の一つであるテレビが、インドネシアへ移転することが分かった。西側諸国では、コロナ禍に伴い製造業の国内回帰(リショアリング)の動きが盛んである。文大統領は、「K防疫の完璧さで世界の企業が韓国を注目する」と胸を張っているが、現実は国内企業の流出という逆の結果を招いている。

     

    理由は、国内での製造業を取り巻く環境悪化である。最低賃金の大幅引き上げ、週52時間労働制、強い労組。これら「3点セット」が揃えば、韓国企業が海外へ逃げ出すのは当然であろう。すべて、文政権が「反企業」で行なった政策が招いたもの。「K防疫」だけでは、切り札にならないのだ。

     

    『中央日報』(5月24日付)は、「国内企業も守ることができない韓国の現実」と題する記事を掲載した。

     

    LGエレクトロニクスが慶尚北道亀尾(クミ)のテレビ生産ライン2本をインドネシアに移転することにした。OLEDテレビなど高付加価値製品も含まれている。移す理由は自明だ。莫大な移転費用を考慮しても移す方が有利であるからだ。残念なことだ。新型コロナウイルス感染症が韓国に投資誘致機会をもたらすと考えられる時期であるだけになおさらだ。

    (1)「いま世界は生産施設の再配置を始めている。新型コロナがこうした流れを呼んだ。核心は脱中国だ。米国は中国などを離れて自国に戻るリショアリング(reshoring)企業に莫大な支援を約束した。このため250億ドル規模の「リショアリングファンド」設立を推進している。日本政府はすでに脱中国リショアリングファンドを設立すると発表した。欧州連合(EU)各国も「産業主権」と「国内生産」を叫んでいる」

     

    日米欧の世界3極は、リショアリングで国内への回帰策を打ち出している。米国が打ち出した米中デカップリング論は、コロナ禍で自然に強まる動きを見せている。当然、韓国へも回帰が期待されているが、現実は逆の動きである。それを阻む国内要因があるからだ。



    (2)「グローバル企業の動きも現実化している。本国に戻るリショアリングだけではない。巨大な中国市場をターゲットにしながらも、リスクを分散するために隣接国に生産施設を移転し始めた。アップルはほぼ全面的に中国に依存していたiPhone・AirPodsの生産施設をインドやベトナムに分散するという海外の報道があった。中国に隣接する韓国には投資を誘致して雇用を増やす機会だ。文在寅(ムン・ジェイン)大統領が就任3周年の演説で「我々には絶好の機会」とし「韓国企業のUターンはもちろん、海外の先端産業と投資を誘致するために果敢な戦略を推進する」と述べた背景だ」

     

    文大統領は、韓国が世界の先端産業の工場になる」とぶち上げている。それを実現するには、ふさわしい国内体制を整備しなければならない。現実は逆である。労組の主張する「反企業」に乗っかかり、規制を厳しくしているだけだ。

     

    (3)「しかし今のままでは不可能だ。国内企業さえも離れていくのが韓国の現実だ。LGエレクトロニクスだけが海外に出ていくのではない。昨年、韓国国内の設備投資は7.6%減少した半面、企業の海外投資は619億ドルと過去最大だった。「投資エクソダス」「投資亡命」という新造語までが登場した。一方、昨年、外国人の韓国国内投資は前年比21%減少した(全国経済人連合会の調査)。OECD各国は投資誘致が平均6%増えたが、韓国は大幅に減少した。硬直した労働市場と融通性のない週52時間勤務制、険悪な労使関係、規制のジャングル、反企業・親労働組合一辺倒などの政策がもたらした結果だ」

    韓国企業ですら、国内での設備投資を渋り海外に回すほど。それは、国内投資では採算が合わないためだ。そういう阻害要因をつくっているのは文政権である。韓国の労組は、世界の動きと逆走している。賃金を上げるには生産性向上が前提である。労組は、この前提を拒否し、「働かないで高賃金実現」という倫理的にも許されない要求を重ねている。

     

    (4)「政府はいわゆる「K-防疫」に期待しているようだ。感染病から相対的に安全な国という認識が広がったため、それだけ投資誘致に有利になると考えている。しかしこれは我田引水式の解釈だ。人口が韓国の2倍のベトナムは新型コロナ感染者が324人にすぎない。韓国の30分の1にもならない。死者は一人もいない。人件費は韓国に比べ20-30分の1にすぎない。グローバル企業がどこを選択するかは明らかだ」

    韓国政府の独り善がりの態度は、ここにも現れている。「K―防疫」を自画自賛しているが、ベトナムは、韓国よりも防疫効果では好成績を上げている。賃金も韓国の5~6%の水準だ。これでは、労組天国の韓国が敵うはずがない。

     

    (5)「韓国が強い情報・バイオ分野は規制に縛られている。正常に運営されていたライドシェアサービス「タダ」事業まで法を変えて閉鎖に追い込んだ。このままでは文大統領が話す「絶好の機会」はないだろう。解決策はビジネス環境が一日も早く国際的に認められる道しかない。労働市場を柔軟化し、規制を革新することが急がえる。すでにグローバル生産施設再配置は始まっている。もたつけば国内外の企業は離れていく。時間はない」

     

    規制改革の前に立ちはだかる労組と市民団体は、既得権益集団である。広い視野からの反対でなく、自らの組織にプラスかマイナスかで判断する狭量な集団である。韓国政治を動かすこの二大集団が存在する限り、韓国経済の正常化は不可能である。衰退が待ち構えているのだ。


     

    テイカカズラ
       

    韓国が唯一、日本へ優越感を示してきたコロナ対策自慢は今日で終わりになる。日本政府が25日に、首都圏と北海道のコロナ緊急事態宣言解除が有力になったからだ。本欄は一貫して、日本の防疫対策の有効性を信じてきた。メディアは懐疑論に陥って、「韓国を見習え」とまで報じるほどだった。日本は防疫対策の原則に則って、きちんと対応して来たのだ。それを信用できず、フラフラした論調が現れたのは残念と言うほかない。物事は、すべて原理原則から捉えるべきである。その原則論を理解していないから、論調が狂うのであろう。

     

    『朝鮮日報』(5月23日付)は、「『他の模範』から『反面教師』に」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「数日前、日本で兵庫県の子どもたちが新型コロナウイルスと戦う地域の医療従事者たちに手作りの防護服を寄付したことがメディアで大きく報じられた。医療用防護服が不足しているため、ある学校法人が幼稚園児まで動員してビニール袋、ハサミ、テープで簡易防護服1400着を作って寄贈したという内容だった。「美談」のように仕立てられてマスコミで流れた」

     

    この記事が存在したことは、初めて知った。良い話だと思う。園児までが防護服をつくったことは、それが実際に使用に耐えられるかどうかは別として、感染防止意識を高める教育効果は抜群である。この園児たちは一生、感染症への注意を怠らないであろう。

     

    (2)「日本人たちの反応は冷ややかだった。「人の命が懸かったことは、おままごとではない」「防疫にとって害になるので記事にするな」などの意見が相次いだ。その中で「戦時中の竹やりのようでおぞましい」という表現が目についた。第二次世界大戦当時、日本軍が兵士たちに竹やりに爆弾を付けて戦車相手に戦ったことや、「爆撃機を撃墜する」として女性や子どもまで竹やり術を訓練したことに由来する。無謀なことの代名詞とされる」

     

    読者の反応は、長期の家庭滞留を余儀なくされているストレスのはけ口であろう。下線部の竹槍訓練は、母親が参加していたので記憶している。だが、園児のつくった防護服は使用に耐えられないものならば、贈呈するはずがない。幼稚園の関係者が「実用可能」と判断したのであろう。となれば、「竹槍論」を持ち出す読者の方が先走っている。朝鮮日報記者もそれを確かめず、韓国優越感に悪乗りした記事だ。

     


    (3)「さまざまな災難が起きるたびに「〇〇して応援しよう」とキャンペーンを繰り広げ、それに呼応する日本社会が、これほどまでに無気力で懐疑的な感じに陥るのは異例のことだ。これまでにないほど自国の政府の失策・無能ぶりがストレートに出てしまったからだろう。その比較対象が韓国だという点が、日本人たちをいっそう敏感にし、虚脱感に陥らせている。韓国はコロナの初期には防疫が困難を極めたが、保健当局や医療従事者たちの献身、多数の市民の成熟した意識のおかげで、大きなヤマを越えたと評価されている。感染経路の把握と感染者の管理過程で活用したビッグデータなどの情報技術は、日本ではみられないものだ。竹やりと比べれば超音速戦闘機ぐらいに見えるだろう」

     

    このパラグラフは、日本の防疫体制を全く取材もしないで、「韓国優越感」に浸って書いている。日本が、それほど科学的に無能力であるはずがない、という事実を無視しているのだ。韓国の防疫体制は異質である。感染症対策は、全数調査でなく、クラスター把握が優先される。これが、防疫学の原点である。韓国が大邸(テグ)で引き起した大量感染者発生時の全数調査は、韓国防疫学会が反対したものだった。だが、大統領府の政治的意図で強引に行なわせたのだ。

     

    日本の欠点は、マスコミが現象だけ報じて、その問題の構造論にまで踏込んで報じることはない点である。韓国メディアは、問題点を報じていたが、その後忘れてしまい「韓国優越論」に肩入れして行った。こちらもすこぶる問題である。

     

    (4)「日本では、韓日の差が「経験の有無」から来ているとの見方が大勢を占める。日本社会が前例とそれに伴う指針に左右されるというのはよく知られている。韓国は2015年、MERS(中東呼吸器症候群)の発生当時、感染者・死者数が世界2位(感染者186人、死者38人)となった。一方の日本は感染者が0人だった。すると「なぜ必死で韓国に学ばないのか」(ニューズウィーク日本版)という声が上がった。マニュアルがなければ韓国を手本とせよ、と主張したわけだ。ニューズウィークはいまだに保健所が紙と鉛筆と電話で感染者の経路を追っている日本の現実を、「戦車に竹やり」で向かう以上の戦いで、「ロケットに弓」で対抗しているようなものだと嘆いた」

     

    『ニューズウィーク日本版』の記事では、過去にも勇み足があり、本欄は批判対象にしたことがある。日本はノーベル科学賞受賞者を輩出している国である。その日本が、韓国に引けをとるような「手抜き」があると思うところに間違いがある。日本の底力を信じないのは、日本の本当の姿を知ろうとしない結果である。日本をただ、信じろというのは、国粋主義(民族主義)の通弊だが、もっと深く日本を学ぶべきである。日本を深く理解しないで、知ったかぶりした付和雷同の論調が一番迷惑するのだ。

     

    (5)「しかし、日本が韓国を羨ましがる時間はそんなに長くなかった。ソウル市内の繁華街、梨泰院で集団感染が発生し、1日の感染者数が2桁に増えている。地方自治体と一部の若者の気の緩みが招いた失策だ。この問題もリアルタイムで日本に伝わっている。日本では各メディアの記事の論調から読者の反応までもが一瞬にして変わった。「韓国のミスを参考にし、我々は絶対に警戒を緩めないようにしよう」といった具合だ。日本で韓国のイメージが「他の模範」から「反面教師」へと急激に反転してしまった。何かと注目を集める「K防疫」だが、このような見本になるのはうれしくない」

     

    韓国が、自慢しすぎた結果が招いた事態である。文大統領は、総選挙対策で「K防疫は世界の標準」と自慢した。この伝でいえば、緩い規制でコロナ非常事態を解除できる日本は、「J防疫は世界の標準」と宣伝してもいい。だが、控え目な日本は決して言わないだろう。


    このページのトップヘ