習近平氏が、いよいよ歴史の歯車の回転に取り込まれそうな状況を見せ始めている。中国の経済失速原因をつくったのは、「習独裁システム」が生み出したものだ。胡錦濤政権下であれば、武漢コロナの発症はすぐに北京へ報告されたであろう。党内の厳しい締め付けが、地方党幹部にコロナ隠蔽へ走らせたのだ。党内の風通しが良ければ、このようなパンデミックもたらすことはなかったであろう。独裁が、中国のみならず世界を破綻へと追い込んでいるのだ。
中国経済は惨憺たるものだ。地方から北京へやってきた農民工は、2ヶ月間で2日しか働けなかったとNHK・TV(5月24日夜9時)で放映された。これでは、食っていけないと農民工が再び地元へ帰らざるをえなくなっている。街では、「仕事をください」と僅かな工賃(100円)でも稼ごうと、街頭でミシンを踏み作業している姿が映し出された。店舗の売却の張り紙も増えている。中国経済は、徹底的に打ちのめされている。不平・不満が溜まって当然という状況になっているのだ。
コロナの不満に、仕事のない不満が重なればどうなるか。中国の群集心理は、過去の歴史が示すように暴動へ向かう。中国社会は、簡単に暴動へ加わる精神構造である。ここで、習近平氏が編み出したのは、不満を外に向けさせる「帝国主義」手法である。香港へ国家安全法を適用して、民主化要求デモを取り締まろうという強硬策に打って出る方針を固めたのだ。
『日本経済新聞 電子版』(5月24日付)は、「香港で『国家安全法に反対デモ』180人以上を逮捕」と題する記事を掲載した。
香港で24日、社会統制を強める「香港国家安全法」に反対する数千人規模のデモがあった。警察は物を投げつけた若者らに催涙弾を発射し、180人以上を逮捕するなど混乱が広がった。香港では国家安全法が「一国二制度」を骨抜きにして、言論の自由や政治活動の抑圧につながるとの反発が強い。今後、抗議活動が激しくなる可能性がある。
(1)「今回のデモは香港政府が新型コロナウイルス対策で9人以上の集会を禁止してから最大規模。警察は違法なデモだと解散を命じたものの、若者らは制止を振り切って幹線道路を行進した。デモはSNS(交流サイト)で呼びかけられた。香港島の繁華街、銅鑼湾(コーズウェイベイ)に集まった若者らが「天滅中共(天が中国共産党を滅ぼす)」「香港独立」などと書かれたプラカードを掲げた」
中国の「一国二制度」を踏みにじる行為は、絶対に認められない。これが、民主化要求側の姿勢である。自由と民主主義の拠り所である「一国二制度」が崩れれば、香港の良さはなくなるのだ。その危機感が、デモ参加者を増やすのであろう。
(2)「デモ参加者は道路に障害物をおいて火を付けたり、一部の店舗を破壊したりした。新型コロナがほぼ終息した香港の繁華街は多くの買い物客らでにぎわっていた。多数の武装警察が出動し、公共交通機関が止まるなど混乱した。香港政府は「暴徒が傘や物を警察官に投げた。警察は暴力行為を阻止するために催涙ガスを使用した」と取り締まりを正当化した。香港では逃亡犯条例改正案をめぐる一連の大規模デモから6月で1年の節目を迎える。中国が開催中の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で香港議会を通さずに国家安全法を制定する方針を突然打ち出し、市民の間では「一国二制度」が崩壊するとの危機感が高まっている」
香港民主化要求側は、死に物狂いの抵抗をするであろう。実は、中国の暴挙に制裁を加える準備が、米国政府によって着々と進んでいる。
『共同通信』(5月24日付)は、「香港安全法導入なら制裁も、米高官『自治保てず』」と題する記事を掲載した。
オブライエン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は24日、中国が全国人民代表大会(全人代)で審議中の香港への国家安全法制を導入すれば、米国は中国と香港に制裁を科す可能性があると述べた。米NBCテレビに語った。
(3)「オブライエン氏は、同法制について「中国が香港を乗っ取ろうとしている」と批判した。導入すれば、「一国二制度」の下で中国が香港に保障した「高度の自治」が維持されていると、米国務省が認定するのは難しくなると指摘。「そうした事態が起きれば、中国と香港に制裁が科されることになる」と強調した」
中国と香港にとっては、取り返しのつかない事態が始まろうとしている。米ホワイトハウスは5月21日に発表した「対中国戦略的接近」報告書で、中国共産党の略奪的な経済政策、軍事力拡張、偽情報の散布および人権侵害など「悪質な行為」を概説したうえ、対中戦略の転換を打ち出した。この20ページに及ぶ報告書にトランプ大統領が署名し、米議会に送られた。中国にとって、まことに間の悪い事態となってきた。
香港問題が、大きくクローズアップされ、習近平氏の想像もしていなかった事態が起こりそうである。専制主義が嵌り込んで、歴史の歯車の回転が始りそうである。