新型コロナウイルスによって、欧米は地獄の日々を送ってきたが、ようやく曙光が指してきた。感染率の「基本再生産数」(RO)が1を下回ってきたからだ。1人の感染者が、1人以下の感染者を出す状況にまで事態が改善されてきたのである。こうして、経済活動再開が具体的な日程に上がってきた。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月21日付)は、「コロナ感染の変数『RO』封鎖解除に向け注目」とだいする記事を掲載した。
欧米各国は、新型コロナウイルスの流行に関する重要な変数をある水準まで低下させることに成功したとしている。それは、各国経済を凍結状態に陥れたロックダウン(都市封鎖)によって、感染拡大の抑制に成功したことを示唆しているという。
(1)「この変数は基本再生産数(RO)で、新型コロナウイルスの感染者1人が平均で何人に感染させるかを示す。各国政府が何億人もの人々に自宅待機を強いている施策の緩和を模索する中で、この数値が大いに注目されるだろう。基本再生産数が1未満であれば、流行は収まりつつある。1未満でも1に近ければ近いほど感染者の減少は遅く、流行再燃のリスクが高い。1以上にとどまれば、流行は勢いを増す。欧州全域と米国の一部では1未満に低下しており、これは良い知らせだ。基本再生算数の推定値は、確認された感染者数および入院者数の伸びに関する情報に基づいている」
RO(基本再生産数)が、1未満になると流行が収まりつつあるというシグナルである。欧州全域と米国の一部に、明るさが見えて来た。これは、日本にとっても良い情報である。
(2)「厄介なのは、この数値が1をわずかに下回るか上回るかという点に、ウイルスの流行が非常に敏感に反応することだ。このため、各国政府は学校・工場・店舗の再開といった規制緩和措置がこの数値にどう影響するかを予測し、その影響をモニターし続けなければならない。数値が再び1を上回れば、一部の規制を復活させざるを得なくなるかもしれない」
ROが、1を大きく割り込むこと(例えば0.2~0.3)が経済活動再開のメルクマールになる。1を僅かに下回る程度では、再び1を上回る危険性が高いのだ。
(3)「米国でコロナ危機の中心となっているニューヨーク州では、アンドリュー・クオモ知事が19日、同州の基本再生産数が0.9に低下したことを明らかにした。ただ、「ここから先に進む上で許される誤差の範囲は極めて小さい」と指摘。数値がわずかに上昇して1.2となれば、「ウイルスは拡散し、流行となり、大流行となり、制御不能ということになる」と語った」
注目の米国ニューヨーク州では、ROが0.9になった。この程度では、再び大流行の危機が高まる。
(4)「欧州の政府も、数値が1未満になったと述べているが、新型コロナとの戦いに勝利したと言うにはほど遠く、数値は再び上昇する可能性があると強調している。フランスのエドゥアール・フィリップ首相は19日、フランスではこの変数が0.6に低下したと述べ、3月17日から実施されている封鎖措置のおかげで感染拡大のスピードが「急激に落ちている」ことを示すものだと語った。武漢での事例について中国の科学者が主導して行った研究では、厳格な都市封鎖によって再生算数は3.86から0.32に低下したことが示されている」
フランスも、ROが0.6にまで低下してきた。封鎖措置の効果が急激にでてきたもの。最近の数値は、何も対策がなされなかった場合の再生算数として多くの研究で推定されている平均3~4から大幅に低下している。感染のスピードが落ちなければ、一部の重症患者によって大半の国々の医療システムが崩壊する恐れがあった。
(5)「フランスのフィリップ首相は19日、再生算数の推定値について、現在5月11日までとなっている封鎖措置を段階的に解除する際に使用する数値の1つになると述べた。英国では政府の主席科学顧問パトリック・バランス氏が先週、国内の再生産数は1を割り込んだ可能性が非常に高いが、恐らく0.5を上回っていると述べた。これは、新型ウイルスの流行は縮小しているが縮小ペースは不透明という意味だ」
英国でも、封鎖措置解除の目安はROの低下である。現状では、0.5程度だが、これではまだ、自信をもって解除に踏み切れないという。
(6)「科学者はなお、ロックダウンを緩和していく手順を調整するのに役立つとみられる予測モデルを研究している。デンマークでは、11歳未満の児童を対象に学校を再開した。これは、他の国でも初期に採用される緩和策の1つになるとみられる。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの科学者らによる学校閉鎖に関する研究によると、学校閉鎖だけでは「死者数を2~4%減らすだけで、他のソーシャルディスタンシング(対人距離の確保)措置と比べ効果が非常に小さい」という」
ソーシャルディスタンシング(対人距離の確保)措置が、RO値を下げるうえで最も効果があるという。新型コロナウイルスが、ヒトからヒトへの感染である以上、対人距離の確保が最優先策になるのは当然であろう。RO値を0.2~0.3まで引下げるのは、人間の忍耐度に比例するようだ。