中国の7月主要統計は、いずれも事前予想を下回り6月よりも悪化した。人民元相場はすでに今年5月、防衛ラインである1ドル=7元を割り込んで一段安へ進んでいる。8月16日の人民元相場は1ドル=7.29元台で推移。16年ぶりの安値水準だ。これは、経済停滞色が強まりながら何らの具体策も打ち出されないことへの悲観論の表れである
『ブルームバーグ』(8月17日付)は、「中国指導部、消費拡大と民間部門支援を確約ー具体的施策は示さず」と題する記事を掲載した。
中国共産党指導部は国内消費の拡大と民間部門の支援を表明したが、新たな景気刺激策の詳細は示さなかった。市場が低迷し、経済成長が予想を下回る中、指導部は口先で国内経済への信頼感向上を図っている。
(1)「中国国務院は、「的を絞った強力」なマクロ経済調整と政策協調の強化を通じて年間経済目標を達成すると確約した。中国国営ラジオの中央人民放送(CNR)が李強首相主宰の16日の国務院全体会議を引用して報じた。李首相は高額商品購入を含めた国内需要・消費拡大に一段と取り組むよう呼び掛けたが、具体的な新措置の発表はなかった。同首相は「大きなリスク」の阻止と国有セクター改革の深化も公約した」
下線部は、中国指導部が「口先介入」だけに終わっていることを示している。現在、行うべきことは国民の信頼感回復である。高額商品の消費拡大ではない。国民は、中国経済の先行き展望が見えないことに絶望している。
(2)「最近の統計で個人消費の伸び鈍化、投資の低迷、失業率上昇などが示され、中国経済の問題が山積する中で国務院全体会議は開かれた。不動産へのエクスポージャーを持つ大手信託会社が数十の商品の支払いを滞らせるなど、不動産不況の悪化による連鎖リスク懸念が金融セクターにも広がり始めている」
下線部は、シャドーバンキング問題である。6%台という高利回り金融商品(運用期間は半年)の期日返済が滞り始めた。今時、こんな高い利回りを実現できるはずはなく、返済不能の事態は目に見えている。こういう金融商品に手を出す方も常識を疑われるが、急激な景気悪化の結果とも読める。
(3)「李首相の同会議での発言でも、16日の米株式市場で同国上場の中国株は続落。中国企業の米国預託証券(ADR)などで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数は1.6%下落し、9営業日で8回目の下落となった。同指数は今月13%下落している」
李首相発言が、全く中身のないことから、米国で上場の中国株が売られている。8月に入って「ナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数」は、13%もの下落になった。
(4)「中国当局が、成長テコ入れと景気回復加速に取り組む中、中国人民銀行(中央銀行)は15日、中期貸出制度(MLF)の1年物金利を予想に反して2.5%へ引き下げると発表した。引き下げ幅は2020年以来の大きさとなる。しかし共産党政治局が7月末に成長促進を示唆したにもかかわらず、当局者は大規模刺激策の実施に今のところ抵抗している。世界金融危機時や15年前後など過去の景気後退期における刺激策は住宅価格の急伸や債務水準の急増につながった。当局はこのような事態を再び招かないよう注意を払っている」
下線部は、完全な政策を実行しない「言い訳」に過ぎない。現状で、住宅バブル再現などありえないほど落ち込んでいる。
『ブルームバーグ』(8月17日付)は、「中国の住宅不振、公式データよりはるかに深刻かー仲介業者や民間情報」と題する記事を掲載した。
中国の公式統計から判断すると、景気減速や不動産開発企業の記録的なデフォルト(債務不履行)にもかかわらず、国内住宅市場は極めて底堅く推移している。
(5)「政府のデータによれば、新築住宅価格は2021年8月に付けた高値から2.4%下落するにとどまっている。一方、中古住宅価格は6%下げている。だが、不動産仲介業者や民間のデータ提供者が明らかにする状況はこれよりもはるかに厳しい。こうした情報によると、中古住宅価格は上海や深圳など主要大都市圏の一等地のほか、二線・三線都市の半数超で少なくとも15%下落している。電子商取引大手アリババグループの浙江省杭州本社近くの中古住宅は、21年終盤の高値から約25%値下がりしたと、地元の仲介業者は明かす」
中国の公的統計は、改ざんされていると見るべきだ。エコノミストに対して「弱気発言」を禁じている國の統計が、どこまで真実を伝えているか分らない。それよりも民間データを見るべきだ。民間データの中古住宅相場は、21年終わりの高値から25%も値下がりしている。この状態で、住宅バブル再現などあり得ない。中央政府が財政資金を投入する「意思」がないだけだ。そういう資金は、台湾侵攻計画にそって軍事費に回す意図であろう。