勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    あじさいのたまご
       

    中国の消費者物価上昇率が、3月の1.0%上昇(前年同月比)が4月に0.1%、5月に0.2%と底這い状態である。生産者物価指数のマイナス(同)という世界的に珍しい状況を反映したものだ。中国経済は、完全な「低体温体質」に陥っている。人間の「低体温」の場合、免疫力の低下が懸念される。経済では、「流動性の罠」という金利低下に反応しない最悪の経済状況に落ち込む危険性を示唆している。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月12日付)は、「中国のインフレ問題『インフレがない』」と題する記事を掲載した。

     

    西側の中央銀行が根強い高インフレの抑制を目的に利上げを続ける中、中国ではデフレのリスクが高まっている。中国の5月の生産者物価指数(PPI)は7年ぶりの下落率を記録し、消費者物価指数(CPI)はほぼ横ばいだった。世界第2位の経済大国である中国が国内外で難題に直面していることが改めて示された格好だ。

     

    (1)「エコノミストによれば、インフレ圧力がないということは、経済が早期に回復しなければ中国でデフレ――幅広く物価が下落する現象――がしばらく続く恐れがあることを意味する。長引くデフレは成長の圧迫につながることが多く、なかなか抜け出せないこともある。中国で長期にわたって物価が下落することはおそらくなさそうだが、それでも同国の政策立案者はデフレリスクを食い止め、経済を再び回復軌道に乗せるために金利を引き下げたり、元安に誘導したり、家計や企業への現金など消費の「呼び水」を提供したりして対策を強化する必要がある」

     

    中国で、インフレ懸念がないことは、デフレに落ち込む危険性を示している。現状は、まさにその分岐点にある。気休めの楽観論を言っている段階ではない。

     

    (2)「中国人民銀行(中央銀行)の易綱総裁は7日の会合で、CPIが今年下半期に徐々に上昇し、12月には1%を超えるとの予想を示した。また易氏は人民銀行が政策ツールを活用し、景気を支え、雇用を促進すると述べた。総裁の発言は9日の月次インフレ統計の発表後に公表された」

     

    人民銀行総裁は、12月には消費者物価上昇率が1%を超えると言っている。だが、2020年10月~21年9月まで0%台を記録している。過去にも、こういうデータがある以上、中国の消費者物価が「低体温体質」に罹っていることは間違いない。需要不足基調にあることから、中国経済の活力は損なわれていると見るべきだろう。

     

    (3)「中国の物価下落は世界経済にとって必ずしも悪いニュースではない。中国製品の輸入コストが下がれば、多くの国で続いている不快なほど高いインフレ率の引き下げに貢献することが期待されるからだ。「ある意味で、中国は既に世界にデフレを輸出している」。ユニオン・バンケール・プリベのアジア担当シニアエコノミストで香港に拠点を置くカルロス・カサノバ氏はそう話した。デフレの輸出は、インフレを抑制しようと奮闘している米連邦準備制度理事会(FRB)など中央銀行に対する圧力の緩和に役立つ可能性があるとカサノバ氏は言う」

     

    中国の物価下落は、中国が数少ない世界への貢献とも言えよう。米国では、4月のCPIの前年同月比の伸び率が4.9%に減速したが、中国の生産者物価指数の下落がもたらした面もある。

     

    (4)「中国の5月のPPIは前年同月比4.6%低下し、2016年前半以降で最大の落ち込みとなった。指数の低下は8カ月連続となった。中国国家統計局が9日に発表した5月のCPIは前年同月比0.2%上昇。4月の0.1%上昇をわずかに上回ったものの、政府・中央銀行が設定したインフレ率の目標の上限である3%を大幅に下回っている。一方、米国では4月のCPIの前年同月比の伸び率は4.9%に減速したが、まだFRBの目標である2%の2倍を超える水準にある。20カ国で構成するユーロ圏の5月のインフレ率は前年同月比6.1%だった」

     

    中国の生産者物価指数は、劇的な下落である。国際商品市況の下落の影響もある。中国の成長率が、先行き怪しいことのもたらした結果だ。中国は、世界最大の原材料輸入国である。

     

    (5)「原油や食料など一部のコモディティー(商品)の価格は昨年、ロシアのウクライナ侵攻後に急騰したが、その後は下落し、中国の低インフレの一因になった。国内外の消費不足も中国が苦境に陥った理由の一つだ。中国の工場が値下げしているのは、各国で利上げが始まる前ほど活発に海外で中国製品が買われていないからだ。中国の経済成長を後押しするはずだった待望の消費ブームは起きていない。不動産は低調で、投資は大幅に減少している」

     

    パンデミックが、もたらした世界サプライチェーンへの圧力は、すでに調整済みで消えている。中国は、パンデミック特需に潤ったが、もはやその再来は起らないのだ。中国の生産者物価指数の下落が、それを示している。

     

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    韓国社会は、感情過多で知られている。「感情8割、理性2割」とも言われほどの激情型である。これを証明するように、会社で役員に昇格できなかった恨みに、会社の技術秘密情報を中国へ売り飛ばすという産業スパイが摘発された。 

    韓国警察庁国家捜査本部は11日、この3ヵ月間、産業技術流出など経済安保危害犯罪をめぐり特別取り締まりを行った結果、計35件を摘発し、A容疑者など77人を逮捕したと明らかにした。35件のうち27件は国内企業間の技術流出であり、8件は海外に機密が流出したケースだった。海外機密流出件数は、昨年同期に行った特別取り締まりの時は4件に過ぎなかったので。この1年間に倍増している。 

    『中央日報』(6月12日付)は、「また77人摘発された産業スパイ、軽い処罰で防げるのか」と題する社説を掲載した。

    産業スパイがまた77人捕まった。韓国警察庁国家捜査本部が特別取り締まりから4カ月で上げた実績だ。今回摘発した35件のうち22.9%の8件は韓国の技術を海外に持ち出した事例だ。海外に持ち出してこの5年間に韓国国家情報院に摘発された事案だけで93件だ。被害額は25兆ウォンに達する。特に半導体分野が核心ターゲットになっている。

     

    (1)「サムスン電子の核心技術資料を狙った犯罪が相次ぐ。被害が日増しに深刻化すると全経連は最近大法院(最高裁)量刑委員会に「技術流出犯罪の量刑基準を改善してほしい」という意見書を提出した。軽い処罰に対する懸念だ。現在の量刑基準は営業秘密侵害行為の基本懲役刑が1年~3年6カ月にすぎず、「真摯な反省」などが軽減要素になり実刑が宣告される割合は極めて低い。リスク負担が少ないため技術を持ち出して大金を稼ごうという誘惑に落ちやすい構造だ」 

    韓国の産業スパイは、基本懲役刑が1年~3年6カ月程度にすぎず、摘発された場合の「リスク」が少ないという。これが、安易に犯罪へ手を染める理由でないかと指摘されている。 

    (2)「これに対し米国の量刑基準は被害額によって最大33年9カ月の懲役刑を下せるようにしている。米国の基準を韓国に適用すれば平均的に10年1カ月~21年10カ月の懲役刑を宣告できるという分析が出ている。今年に入り大統領室と検察、警察、特許庁、産業通商資源部が一斉に強力な処罰を主張して出た。きょう開かれる大法院量刑委員会全体会議では被害が大きくなる産業スパイの危険性を考慮して量刑基準を強化する案を導出しなければならない」 

    米国では、産業スパイに対して重刑で臨んでいる。被害額によって量刑が決まるので、最大33年9カ月の懲役刑も可能という。この米国式量刑を韓国の産業スパイへ適用すると、平均的に10年1カ月~21年10カ月になる。こうなると、いくら積まれた金に目がくらんでも、摘発された時のリスクの大きさに冷静になるかも知れない。これが、量刑引上げの理由だ。どんな産業スパイが摘発されたか。推理小説を読むようなケースもある。

     

    『中央日報』(6月12日付)は、「サムスン電子半導体工場を中国に『複製』建設しようとした元常務を起訴」と題する記事を掲載した。 

    サムスン電子の半導体工場をそのまま複製して中国に建設しようとした元サムスン電子常務が起訴された。元サムスン電子常務A(65)が拘束起訴された。また、Aが設立した中国半導体製造会社の職員5人と設計図面を渡したサムスン電子の協力会社の職員1人の計6人を不正競争防止法違反などの容疑で在宅起訴した。Aは、サムスン電子の常務を経てSKハイニックスで副社長を務めるなど、国内半導体製造分野で権威者と呼ばれた人物。
    (3)「Aは、2018年8月から2019年までサムスン電子の営業秘密である半導体工場と工程配置図、設計図面などを不正に取得・使用した疑い。Aは中国西安にあるサムスン電子半導体工場とわずか1.5キロ離れたところにサムスン電子を「複製」した別の半導体工場を建設しようとしたことが分かった。幸い、台湾の電子製品生産会社がAと合意した8兆ウォン(約8640億円)の投資が不発となり、工場は建設されなかった。検察は今回の技術流出でサムスン電子に少なくとも3000億ウォン(約324億円)の被害が生じたと推算した」 

    Aは、サムスン常務とSKハイニックス副社長経験者である。サムスンへの恨みか、サムスン西安工場の隣接地に、サムスンと全く同じ工場を建設する計画であった。ドラマになりそうな話だ。

     

    『中央日報』(1月27日付)、「役員昇進に脱落すると…中国に韓国の半導体コア技術を流出した韓国人」と題する記事を掲載した。 

    役員昇進に脱落すると、半導体関連の国家的なコア技術を中国に渡した50代の韓国人が拘束起訴された。3人は在宅起訴するなど6人を摘発したと発表した。特許庁によると、韓国大手・中堅企業3社の前現職職員である彼らは、コンピューターや業務用携帯電話で会社内部網に接続し、半導体ウェハー研磨工程図など会社の機密資料を閲覧し、個人の携帯電話で写真を撮影する手口などを通じて資料を流出した疑いが持たれている。

    (4)「主犯であるA氏(55)は、2018年役員昇進に脱落すると、2019年6月に中国業者と半導体ウェハー研磨剤(CMPスラリー)製造事業を同業することに約定した後、会社に引き続き勤務しながらメッセンジャーなどで中国内の研磨剤生産設備の構築・事業を管理していたことが分かった。A氏は他社所属のB氏(52)、C氏(42)、D氏(35)など3人をスカウトし、2019年9月から中国企業にそれぞれ副社長・チーム長・チーム員級に転職させた。自分も2020年5月から社長級に転職して勤めた」

    サムスンで役員になれなかった人物が、中国企業で社長に納まり韓国同業から3人もスカウトしたという。これも、サラリーマンの出世脱落の哀しい末路だ。

     

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    駐韓中国大使が6月8日、韓国最大野党「共に民主党」代表を招待した席で、痛烈な韓国政府批判を行い、中韓の外交問題に発展している。駐韓中国大使が、「米国勝利・中国敗北に賭けると後で必ず後悔するだろう」と述べたのだ。余りにも露骨な発言であり、「外交手法」には馴染まないものだ。 

    韓国左派には、これを半ば肯定するような動きがあるからさらに驚くのだ。中国を怒らせないで貿易を行ったほうが国益に叶うとしている。本音は、「米国勝利・中国敗北」であっては困るというものであろう。これは、肝心の韓国の対中輸出構造が変化しており、中国が中間財の生産を増やして「輸入代替率」を高めている現実を理解していない発言である。中韓は、産業構造がほぼ相似形になってきたので、韓国の対中輸出が伸びる保証がなくなったのだ。 

    『ハンギョレ新聞』(6月12日付)は、「国益を放棄しながら価値観に没頭する国、韓国」と題するコラムを掲載した。筆者は、キム・ヨンチョル元統一部長官・仁済大学教授である。 

    サプライチェーン分離(デカップリング)からリスク低減(デリスキング)への転換か。米国も欧州もリスク低減を強調している。グローバリゼーションを通じて絡み合うようになったサプライチェーンを分離することは、そもそも困難だった。かといって分離戦略の放棄ではない。サプライチェーンの分離という意志と相互依存という現実の格差を認めたうえで、スピードを調節しているのだ。

     

    (1)「欧州は、米中戦略競争とロシア・ウクライナ戦争の過程で「開かれた戦略的自律性」を追求してきた。文字通り開かれた概念で、エネルギー依存度の差によってロシア制裁への参加水準が異なり、産業構造の違いによって米中競争における位置取りが異なる。昨年11月のドイツのオラフ・ショルツ首相に続く、今年4月のフランスのエマニュエル・マクロン大統領の訪中には共通点がある。大規模な企業代表団が同行し、大規模な契約を交わしたのだ。欧州は価値観ではなく利益を、分離の未来ではなく依存の現実を重視する。世界的な経済危機においてはやむを得ない選択だ。中国は米国と欧州を分離するため、この隙間に食い込んでいる」 

    下線部の認識は、完全に間違えている。韓国左派に都合のいい「色眼鏡」で世界情勢を見ているからだ。ロシアのウクライナ侵攻は、西側諸国に「価値外交」の基本を再認識させたのだ。この外交路線に従って中ロとの関係を見直している。それが、「デリスキング」(リスク削減)でる。中国が、世界のサプライチェーンであることのリスクを認識して、分散させようということである。

     

    (2)「現在、本当にリスク低減が必要なのがまさに韓中関係だ。先日、中国のアジア担当局長が訪韓し、従来の韓中THAAD合意の重要性と韓中関係における越えてはならない一線を伝えてきた。このように中国は危険を警告したが、政府には緊張緩和の意志はなさそうにみえる。政府と与党、そして保守メディアは「脱中国」という理念を叫ぶばかりで、数十年間にわたって積み重ねてきた相互依存が空白になった時に、それをどのように埋めていくかについての戦略がない」 

    中国のアジア担当局長が訪韓して、韓国へ何を申し入れたか。それは、つぎの4点だ。
    1)(台湾問題など)中国の「核心利益」を害した場合、韓中協力不可

    2)韓国が親米・親日一辺倒の外交政策に進む場合、協力不可

    3)現在のような韓中関係の緊張が続く場合、高官級交流(中国の習近平国家主席の訪韓)不可

    4)悪化した情勢のもとでの韓国の対北朝鮮主導権の行使不可」 

    中国は、韓国を属国として扱い韓国の主権に制限を加えてきたものだ。韓国は主権国家として断固、拒否すべきである。韓国左派は、この中国の要求を「受け入れろ」という立場である。かつて、THAAD(超高高度ミサイル網)の導入で、文政権が中国へ「三不政策」を申し入れたが、中国の経済制裁は撤廃されず今も続いている。こういう状況で、中国の申し入れを真面目に受け入れることこそ、国益に反する行為である。視野を広く持つべきだ。

     

    (3)「サプライチェーンの再編は長期的な過程だ。米国と欧州、あるいはその他の国々も現在の利益を維持しつつ、新たな変化に対応する。日本でさえ米中間で、あるいは米ロ間で、核心利益がかかっていれば損をしないように二者択一を避けようとする。友好同盟国間のサプライチェーンといえど、その中にあっては競争関係だということを知るべきだ。政府と企業は、安保と経済との間で活発に意思疎通しなければならない」 

    韓国は、朝鮮戦争で侵略された国だ。それを救援したのが米国を初めとする国連軍である。まさに「価値外交」そのものに生きるべき国が韓国である。韓国左派は、朝鮮戦争を「民族統一戦争」と位置づけ、中朝ロ側に立っている。これこそ、「反国益的」であろう。安保と経済との関係では、安保を重視する宿命を負っているはずだ。北朝鮮が、常軌を逸した行動を繰り返している以上、安保重視は当然の選択である。 

    (4)「価値観外交? 過去であれ現在であれ未来であれ、国家利益を放棄し価値観外交を追求した国があるだろうか。利益ばかりを追求する国は多い。利益のために価値観を選択的に利用する国も少なくない。しかし、尹錫悦政権の韓国ように国益を放棄し、価値観に没頭する国はない」 

    下線部の認識は誤りだ。北朝鮮の振る舞いを見て危機感を持たないのは、韓国左派だけであろう。左派の思想原点は、北朝鮮思想(主体思想)である。中朝ロが一体化している現在、目を覚ますべきだ。

     

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    韓国の賃金格差は、気を失うほど大きなものがある。大企業を「天国」とすれば、中小企業は「地獄」である。この原因は、大企業労組の戦闘的な賃上げで強引に引上げる反面で、中小企業は大企業への納品で買い叩かれている結果だ。

     

    韓国大企業には、財閥制度が生きている。出資と経営が分離されない前近代的経営システムである。日本は戦後の民主化で財閥制度を廃止して、出資と経営を分離させた。これが、戦後の高度成長の基盤を形成した。韓国は、日本の捨てた財閥制度を取り入れた点で、最初から戦前の日本経済システムが生かされている。

     

    これによって、韓国は大企業と中小企業との賃金格差を生んでいる。その実態は驚くべきものだ。50代では、大企業と中小企業との賃金格差がなんと2.5倍もある。卒倒するほどの格差だ。この裏には、大企業による中小企業搾取が働いている。大企業労組の「年功序列・終身雇用制」が影響を及ぼしているのだ。その犠牲が、中小企業で働く労働者の賃金へしわ寄せされている。

     

    以下の記事は、数字が多く煩雑であるので、コメントだけでも読んでもらえれば、韓国企業の実態が、日本の賃金と比較可能と思われる。

     

    『Wowkorea』(6月11日付)は、「中小・大企業の所得格差、50代前半で2.5倍」と題する記事を掲載した。

     

    韓国の大企業と中小企業労働者の所得格差が、年齢が高くなるほど広がることがわかった。 20代前半1.4倍から、50代前半には2.5倍まで広がった。

     

    (1)「11日、韓国統計庁によると、2021年大企業労働者の平均月所得(報酬)額は563万ウォン(約61万円)で、中小企業労働者(266万ウォン、約28万円)の約2・1倍だった。年代別に見ると、19歳以下は大企業と中小企業労働者間の報酬格差が1.3倍だったが、20代前半(20~24歳)1.4倍、20代後半(25~29歳)1.6倍、30代前半1.8倍、30代後半2.0倍、40代前半2.2倍、40代後半2.3倍など徐々に広がりを見せている。大企業と中小企業労働者間の報酬格差は50代前半2.5倍がピークで、50代後半2.4倍、60代序盤・65歳以上各1.9倍と、狭まる傾向を見せた」

     

    韓国の2021年の平均月収(全年齢平均)は以下の通り。

    大企業  61万円     100

    中小企業 28万円      45.

    (韓国統計庁調査)      格差

     

    日本の2021年6月の平均月収(残業料を除く:全年齢平均)

    大企業  27万1000円  100

    中企業  25万2500円   93.

    小企業  23万5000円   86.

    (厚生労働省調査)       格差

     

    上記のように、日韓の賃金比較をすると、韓国の格差が極めて大きいことが分る。日本は格差が縮小している。韓国では、「貴族労組」とされる戦闘的労組が、中小企業労働者に回る賃金原資を奪い取っている結果と見るほかない。

     

    (2)「月平均所得を見ると、中小企業労働者の30代前半は267万ウォン(約28万8800円)、50代前半は299万ウォン(約32万3400円)だった。一方、大企業の労働者の場合、30代前半は476万ウォン(約51万5000円)、50代前半は760万ウォン(約82万2100円)だった。30代前半の大企業労働者は同年齢の中小企業労働者より209万ウォン(約22万円)多く稼ぎ、50代前半の大企業労働者は同年齢の中小企業労働者より461万ウォン(約49万8700円)多く稼いだわけだ」

     

    韓国の中小企業労働者       韓国の大企業労働者   日本の大企業労働者

    30代前半  28万8000円   51万5000円    27万8900円

    50代前半  32万3400円   82万2100円    47万7600円

     

    日本の大企業労働者は、30代前半では韓国の中小企業を下回り、50代前半では韓国の中小企業と大企業の間に挟まっている。日本の賃金は所定内給与であるから、残業料もボーナスも含んでいない。

     

    (3)「賃金格差がこのように大きいうえ、中小企業は福利厚生など他の労働条件も大企業ほど整っていない場合が多く、求職者の間では大企業を希望する現象が明白だ。だが、2021年全体の雇用件数2558万のうち、大企業の雇用は424万件(16.%)に過ぎなかった。他に中小企業が1588万件(62.%)、非営利企業が546万件(21.%)だった。前年比増減を見ても大企業は17万件増えるだけにとどまり、中小企業は49万件、非営利企業は19万件ずつ増えた」

    韓国は、相対的に見て大企業の賃金が飛び抜けて高く、中小企業と格差が極めて大きいという特色がある。これは、決して褒められたことでなく、大企業による中小企業搾取という古典的な構造が温存されていることを伺わせている。企業間競争の公正さを維持させなければならない。

     

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    推進力失う中国経済の限界

    途上国への巨額融資焦付け

    グローバルサウスは金次第

     

    中国外交最大の欠陥は、秦の始皇帝が中国統一を実現させた手法を今なお受け継いでいることだ。「合従連衡」や「遠交近攻」という策がそれである。これらが成功したのは、「漢族社会」いう前提あってのことである。同じ民族であるから、心理的にわかり合える部分があった結果だ。現代世界においては、全く条件が異なる。異民族の世界である。これを忘れて「恫喝・札びら」外交をしているので、西側諸国から警戒されている。広く解釈すれば、「文化の衝突」という面もあろう。

     

    「恫喝」外交とは、戦狼外交である。強い調子で相手国を非難する外交だ。これには、経済制裁も交え腕力で相手国を屈服させようという強引さが特色である。この被害国は、日本・韓国・豪州がある。日本は尖閣諸島帰属をめぐってレアアース輸出禁止策に出た。韓国は、THAAD(超高高度ミサイル網)設置に反対した経済制裁を実施。豪州は、新型コロナ発生源をめぐる調査要求に対して、石炭・小麦・ワインなどで輸入禁止措置にした。

     

    通常、外交上のもめ事が発生すれば、話し合いが行われる。中国の場合は、問答無用で一挙に「実力行使」だ。GDP世界2位の国家が行うことではない。ある意味で、「児戯」に等しい振る舞いをしてきたのである。

     

    「札びら」外交とは、発展途上国への一帯一路プロジェクトで多額の資金を貸付け、インフラ投資を行うことだ。中国は、資金の貸付けからインフラ工事まで、一切を賄い多額の利益を得てきた。国内の余剰生産化した、鉄鋼やセメントのはけ口に途上国を利用したものだ。途上国側は、こういう裏事情も知らずに高利(商業ベース)の金利(5%以上)を支払う羽目に陥り、財政破綻に陥る国が増えている。

     

    最大債権者の中国は、途上国のデフォルトに直面している。破綻した財政を再建する目的で、貸付元本の切り捨てが要求される立場へ一変している。中国が、商業ベースの高い金利を課しているのは、貸付資金を国際金融市場で調達して、「又貸し」している結果である。「自己資金」の貸付であれば、低利になるはずだ。中国は借りた資金の「又貸し」のために、貸付元本切り捨てには、「絶対反対」の姿勢を見せている。丸損になるからだ。

     

    推進力失う中国経済の限界

    以上の経緯によって、中国外交を特色づける「恫喝・札びら」外交は、一大転機を迎えている。裏付けになる中国経済が、従来のように「順風満帆」ではないことが明白であるからだ。不動産バブルの崩壊(内需不振)と米中対立の激化(輸出不振)に加えて、人口動態の悪化(貯蓄率の急低下)の3要因によって、中国経済はもはや昔日の面影を失う危機に直面している。

     

    一般的な「中国論」では、大国としてさらに発展してその影響力が増すと論じられている。極端な議論では、中国経済が米国を上回って世界一になるという説がまだ「健在」だ。これが、中国への正確な認識を妨げ、「中国虚像論」を膨らませている。「中国式経済成長モデル」は、不動産バブルによって支えられたものだ。そのバブルが弾けた以上、この反作用が中国経済を襲うことは不可避である。

     

    中国が、経済的に苦境に向かうと同時に、中国がウクライナを侵攻したロシアを「支援」していることが、今後の中国にとって思わざる災難をもたらすことを覚悟する段階に入った。

     

    ウクライナ軍は最近、ロシア軍への反攻作戦を部分的に開始した。現状のロシア軍は、占領地確保に必死という「守りの姿勢」である。ウクライナの反攻作戦によって、どこまで占領地を取り戻せるかが焦点になっている。ロシア軍の敗北となれば、その国際的地位は一段と低下する。もはや、「軍事大国」の称号も怪しくなろう。 18世紀以来、欧州が恐れてきたロシアのイメージは一変するのだ。

     

    これに代って、米国の外交的立場は一段と強化される。これは、逆に中国の立場を弱めるのだ。中国は、これまでのロシア支援姿勢が不利に働くだろう。中国は、米国の戦争指導力の高さを再評価せざるを得まい。その結果、台湾侵攻も再検討の余地が生まれる。中国軍は、ロシア軍の戦闘方式に倣っている。しかも、近代戦の経験がない中国軍だ。百戦錬磨の米軍へは、近寄りがたいものを感じるはずだ。

     

    ウクライナ侵攻で、ロシアが劣勢に立たされれば、中国=ロシアの外交的地位は下がり、米国と西側諸国の外交ポジションが上がる事態が想定される。これが、中国の「恫喝・札びら」外交にどのような変化を及ぼすか、である。

     

    恫喝外交に対しては、すでに「被害国」は自衛体制を強化している。日本は、防衛費の対GDP比を1%から2%へ引き上げる。尖閣諸島方面の防衛拠点を固めるのだ。豪州は、「AUKUS」(米英豪)による軍事同盟で最新鋭原子力潜水艦部隊を新設する。南シナ海で島嶼を中国に奪われたフィリピンは、新たに4カ所(合計9カ所)の米軍利用拠点を承認した。台湾有事に備えるのだ。

     

    中国は、こうして米国と同盟国によって東シナ海・南シナ海で防衛体制を固められる形になった。これが、中国恫喝外交への回答である。脅されても、屈しないという意思表明である。

    (つづく)

     

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    https://www.mag2.com/m/0001684526


     

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