中国の消費者物価上昇率が、3月の1.0%上昇(前年同月比)が4月に0.1%、5月に0.2%と底這い状態である。生産者物価指数のマイナス(同)という世界的に珍しい状況を反映したものだ。中国経済は、完全な「低体温体質」に陥っている。人間の「低体温」の場合、免疫力の低下が懸念される。経済では、「流動性の罠」という金利低下に反応しない最悪の経済状況に落ち込む危険性を示唆している。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月12日付)は、「中国のインフレ問題『インフレがない』」と題する記事を掲載した。
西側の中央銀行が根強い高インフレの抑制を目的に利上げを続ける中、中国ではデフレのリスクが高まっている。中国の5月の生産者物価指数(PPI)は7年ぶりの下落率を記録し、消費者物価指数(CPI)はほぼ横ばいだった。世界第2位の経済大国である中国が国内外で難題に直面していることが改めて示された格好だ。
(1)「エコノミストによれば、インフレ圧力がないということは、経済が早期に回復しなければ中国でデフレ――幅広く物価が下落する現象――がしばらく続く恐れがあることを意味する。長引くデフレは成長の圧迫につながることが多く、なかなか抜け出せないこともある。中国で長期にわたって物価が下落することはおそらくなさそうだが、それでも同国の政策立案者はデフレリスクを食い止め、経済を再び回復軌道に乗せるために金利を引き下げたり、元安に誘導したり、家計や企業への現金など消費の「呼び水」を提供したりして対策を強化する必要がある」
中国で、インフレ懸念がないことは、デフレに落ち込む危険性を示している。現状は、まさにその分岐点にある。気休めの楽観論を言っている段階ではない。
(2)「中国人民銀行(中央銀行)の易綱総裁は7日の会合で、CPIが今年下半期に徐々に上昇し、12月には1%を超えるとの予想を示した。また易氏は人民銀行が政策ツールを活用し、景気を支え、雇用を促進すると述べた。総裁の発言は9日の月次インフレ統計の発表後に公表された」
人民銀行総裁は、12月には消費者物価上昇率が1%を超えると言っている。だが、2020年10月~21年9月まで0%台を記録している。過去にも、こういうデータがある以上、中国の消費者物価が「低体温体質」に罹っていることは間違いない。需要不足基調にあることから、中国経済の活力は損なわれていると見るべきだろう。
(3)「中国の物価下落は世界経済にとって必ずしも悪いニュースではない。中国製品の輸入コストが下がれば、多くの国で続いている不快なほど高いインフレ率の引き下げに貢献することが期待されるからだ。「ある意味で、中国は既に世界にデフレを輸出している」。ユニオン・バンケール・プリベのアジア担当シニアエコノミストで香港に拠点を置くカルロス・カサノバ氏はそう話した。デフレの輸出は、インフレを抑制しようと奮闘している米連邦準備制度理事会(FRB)など中央銀行に対する圧力の緩和に役立つ可能性があるとカサノバ氏は言う」
中国の物価下落は、中国が数少ない世界への貢献とも言えよう。米国では、4月のCPIの前年同月比の伸び率が4.9%に減速したが、中国の生産者物価指数の下落がもたらした面もある。
(4)「中国の5月のPPIは前年同月比4.6%低下し、2016年前半以降で最大の落ち込みとなった。指数の低下は8カ月連続となった。中国国家統計局が9日に発表した5月のCPIは前年同月比0.2%上昇。4月の0.1%上昇をわずかに上回ったものの、政府・中央銀行が設定したインフレ率の目標の上限である3%を大幅に下回っている。一方、米国では4月のCPIの前年同月比の伸び率は4.9%に減速したが、まだFRBの目標である2%の2倍を超える水準にある。20カ国で構成するユーロ圏の5月のインフレ率は前年同月比6.1%だった」
中国の生産者物価指数は、劇的な下落である。国際商品市況の下落の影響もある。中国の成長率が、先行き怪しいことのもたらした結果だ。中国は、世界最大の原材料輸入国である。
(5)「原油や食料など一部のコモディティー(商品)の価格は昨年、ロシアのウクライナ侵攻後に急騰したが、その後は下落し、中国の低インフレの一因になった。国内外の消費不足も中国が苦境に陥った理由の一つだ。中国の工場が値下げしているのは、各国で利上げが始まる前ほど活発に海外で中国製品が買われていないからだ。中国の経済成長を後押しするはずだった待望の消費ブームは起きていない。不動産は低調で、投資は大幅に減少している」
パンデミックが、もたらした世界サプライチェーンへの圧力は、すでに調整済みで消えている。中国は、パンデミック特需に潤ったが、もはやその再来は起らないのだ。中国の生産者物価指数の下落が、それを示している。