中国は、ますますロシアとの経済関係を深めている。4月の貿易統計(ドル建て)によると、中国のロシア向け輸出は前年同月の2.53倍の96億ドル(約1兆3000億円)となった。遡れる1993年1月以降で最大となり、伸び率も3月の2.36倍からさらに拡大した。2年4ヶ月ぶりに輸出が輸入を上回ったのだ。
こうした、中ロの蜜月関係を見ながら、G7(主要7カ国)は、中国の台湾侵攻抑止力をどう働かせるか苦心している。ロシアと同様に中国の外貨準備高を凍結すれば、中国へ進出強いる企業の工場設備が接収されることは間違いない。とすれば、別の方法を探さなければならない。
『ロイター』(5月9日付)は、「G7結束が最善の中国抑止策、依存引き下げと防衛力強化の加速を」と題するコラムを掲載した。
ホメロスの「オデュッセイア」を基にした「スキュラとカリュブディスの間」はどちらの道を選ぶか判断が困難であることを指すことわざだが、広島で今月開かれる主要7カ国首脳会議(G7サミット)では、中国に関して同じような状況に置かれていると感じられるかもしれない。台湾を中国に侵攻してほしくないが、同国との戦争も避けたい。
(1)「この2つの「怪物」(注:ロシアと中国)の間で舵を操る最善の方法は、G7が強力な抑止戦略で合意することだ。そうすれば中国の習近平国家主席は台湾への侵攻に消極的になるかもしれない。そうでなければロシアのプーチン大統領がウクライナ戦争に当たって西側が弱すぎると誤って判断したように、習氏はG7の分裂を利用できると考えるかもしれない。米国のアジアの同盟国に断固とした姿勢のメリットを説得する必要はないだろう。しかし、欧州の指導者の中には疑念を抱いている者もいる。フランスのマクロン大統領は先月、欧州連合(EU)が台湾を巡る危機に巻き込まれないよう警告を発した」
プーチン・ロシア大統領は、NATO(北大西洋条約機構)が分裂することを想定してウクライナ侵攻へ踏み切ったと言われている。これと同様に、習氏がG7の分裂を前提に台湾侵攻を始められたら大変な事態になる。G7は、結束して行動しなければならない。
(2)「G7各国が抑止の必要性に合意できたなら、次にそれを達成するための効果的な戦略を立案する必要がある。それは、中国への(経済的)依存度引き下げと防衛力強化の両方を加速させることだ。イエレン財務長官を含む米高官は最近、経済の「デカップリング(分断)」とは対照的に、中国へのエクスポージャーを「デリスキング(リスク低減)」する政策を求める欧州に賛同している。また、米国は中国が先端半導体など軍事的に有用な技術を獲得するのを阻止するため同盟国に働きかけている。中国と米国およびその同盟国の軍事的格差が縮まるのを防ぐことができれば、それも侵略の抑止になり得る。G7が冷戦時代のココム(対共産圏輸出調整委員会)のように、輸出管理に関する行動を調整する事務局を設置すればより効果的だろう」
G7は、中国との経済的依存度を下げることと同時に、防衛力強化が必要である。ココム(中国の場合は、チンコム)のような禁輸品目を明らかにすれば、中国の軍拡を阻止できるであろう。
(3)「G7各国は、軍事力強化に向けた既存の計画を加速する必要もある。これは米国とアジアの同盟国だけでなく、欧州諸国も同様だ。欧州の防衛力を強化することで、米国の焦点はより東方に向けられる。米国が欧州から目をそらすべきと言っているわけではない。結局のところ、中国を抑止する唯一の最良の方法は、ウクライナがロシアを撃退するのを支援することだ」
下線のように、ウクライナがロシアを撃退すれば、中国も台湾侵攻を諦めるだろう。それには、ロシアに対してもG7の結束が不可欠である。
(4)「G7の抑止戦略のもう一つの柱は、中国が台湾に侵攻した場合にどうするかというコンティンジェンシープラン(不測の事態を想定した緊急対応策)だ。中国との関係を急速に断ち切った場合の経済的、財政的コストはG7にとっても、そして他の国々にとっても恐ろしいものになる。例えば、米国とその同盟国が対ロシアと同じように中国の3兆2000億ドルに及ぶ外貨準備を凍結すれば、中国は外国人が保有するほぼ同額の国内資産を没収することで対抗できる。したがって、侵略に対抗して全面的な経済戦争を起こさないという戦略であればG7内のコンセンサスを得ることはより容易になりそうだ」
G7は、中国の台湾侵攻でも経済戦争を起こさない有効な戦略についてコンセンサスをつくっておくべきだ。それは、中国への貿易依存度の引下である。EU(欧州連合)とTPP(環太平洋経済連携協定)の合体も必要だ。そうなれば、中国とは経済的に関係性が薄れる。こういう大がかりな構想で西側諸国が結束すべきであろう。