勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    北朝鮮との外交交渉は、「忍耐」の二文字を必要とするようだ。約束した場所へ現れない。「ドタキャン」どころか「すっぽかし」である。先に米朝の実務者会談が板門店で開催される予定であった。だが、北朝鮮側が現れず、米国代表団は待たされた挙げ句に連絡も無いままに終わった。徹底的に独りよがりな国である。こういう相手と交渉するにはどうするか。世界覇権国の米国が、最貧国の北朝鮮に振り回されている構図は漫画そのものである。

     

    韓国の文大統領は、こう言っている。

     

    北朝鮮が望んでいる相応の措置に関連しては、『過去のような制裁緩和や経済的補償ではなく、敵対関係の終息と信頼の構築』としながら『これは北朝鮮の過去の交渉態度とは大きな違いがある』と強調した」(『中央日報』7月13日付「文大統領、北の米国非難は戦略、実務交渉長くかかるだろう」)

     

    北朝鮮は、米国の出方を見ながら信頼感を増しながら交渉する。過去のような制裁緩和や経済的な補償を第一義にする姿勢から変わった、というのだ。だが、約束した時間に現れず、すっぽかすのは困った相手である。米国はいつまでも北朝鮮の好き勝手にさせるわけにはいかない。ぴしっとさせる必要がある、それにはやっぱり軍事力という背景がなければ、実務交渉を引き延ばされるだけで、過去と同じ失敗の繰り返しに終わる。

     

    そこで、米国が取りつつある戦術は、つぎのようなものだ。ステルス戦闘機搭載のミニ空母を西太平洋(北朝鮮を含む)へ配置し、無言の圧力をかけることである。「米国を舐めるなよ」というファイティングポーズを取って緊張感を保とうという戦術である。

     

    『中央日報』(7月17日付)は、「米軍、斬首作戦戦力が静かに出港、北朝鮮を意識か」と題する記事を掲載した。

     

    この記事では、「ミニ空母」の「エセックス」がサンディエゴを出港式もなく静かに北朝鮮を含む西太平洋海域へ派遣されたという記事である。注目すべきは、ステルス戦闘機(F-35B)を搭載していることだ。北朝鮮防空網を突破して主席宮やバンカーなど北朝鮮最高指導者を精密打撃する『斬首能力』を備えている。北朝鮮が、米軍を欺いて核実験を行なっていたというような最悪事態に備えていることが窺える。米国は和戦両様の構えだ。

     

    (1)「米国が非核化交渉を進行中の北朝鮮を意識したのか。ステルス戦闘機を搭載した米海軍の『ミニ空母』が7月10日(現地時間)、米カリフォルニア州サンディエゴを出港した。目的地は韓国が含まれる西太平洋。『エセックス』は全長257メートル、排水量4万500トン規模の大型艦。飛行甲板があるため『ミニ空母』とも呼ばれる。『エセックス』には米海兵隊の第211海兵戦闘攻撃飛行大隊(VMFA)が配属されている。この飛行大隊はステルス戦闘機F-35Bを保有する。ステルス戦闘機が関心を引くのは、北朝鮮防空網を突破して主席宮やバンカーなど北朝鮮最高指導者を精密打撃する『斬首能力』を備えているからだ」

     

    (2)「米海軍は、『エセックス』揚陸準備団の出港を発表しなかった。盛大な出港式もなかったという。3月に別のミニ空母『ワスプ』(LHD1)がF-35Bを搭載して出港したが、当時の盛大は出港式に比べると音沙汰なく出港したということだ」

    出港式もなく、静かに任地に向かって出港したことは、北朝鮮の万一の「騙し作戦」にも対応可能な意気込みを内外に示しているように思える。米国が不退転の決意で、「絶対に騙されない」ことを前提に対応しているように見える。


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    鉄の団結を誇る中国共産党の内部がざわついている。習近平国家主席への個人崇拝に反対する動きが表面化しているからだ。毛沢東に対する個人崇拝が、10年にわたる文化大革命という騒乱をもたらした。この反省に立って、個人崇拝を止めたはずである。だが、習氏の無期限「国家主席」への道が開かれた途端に、再び習氏への個人崇拝の動きが出始めたもの。

     

    党内で、個人崇拝を阻止しようという動きがあることは、習氏の統治が万全でないことを物語っている。この背景には、米中対立問題が蔭を落としていることは言うまでもない。「中国製造2025」は習氏が音頭を取って始めた事業だ。米国がここへ狙いを付けて、貿易戦争を仕掛けてきた。中国は有効な対応ができず、右往左往している。

     

    習氏は当初、「米国に殴られたら殴り返す」と威勢いのいい啖呵を切っていたが、7月に入って方向転換した。「米国と争うな」と言う始末である。米国への報復関税を科す前に、党内では闘わずに妥協の道を選べという意見が公然と出ていたほど。それを一蹴しておきなら、トランプ氏が「5000億ドルの製品に10%の追加関税」と発言した途端、方向転換を言い出したことへの批判だろう。

     

    米中対立の始まりは、習氏の演説である。昨年秋の党大会で、2050年ごろに米国の覇権に対抗する経済力と軍事力を保持すると言い放った。これが、米国トランプ大統領の怒りに火を付けた可能性がある。「米国第一」は「世界第一」の宣言であったとも読める。習氏は、米国を甘く見て「放言」したのだ。

     

    以上の習氏を取り巻く事態の変化を頭に入れて、次の記事を見て頂きたい。

     

    『共同』(7月15日付)は、「習主席統治に不満噴出か、党内に異変相次ぐ」と題する記事を掲載した。

     

    中国共産党内で、権力集中を進める習近平国家主席の統治手法に不満が噴出しているとの見方が出ている。国営メディアが習氏への個人崇拝批判を示唆、習氏の名前を冠した思想教育も突然中止されるなどの異変が相次いでいるためだ。米国の対中攻勢に手を焼く習氏の求心力に陰りが出ている可能性も指摘される。『習近平同志の写真やポスターを全て撤去せよ』。12日、習氏の宣伝用物品を職場などに飾ることを禁じる公安当局の緊急通知の写真が出回った。通知の真偽は不明だが、写真は会員制交流サイト(SNS)などで一気に拡散された。同時期に国営通信の新華社(電子版)は、毛沢東の後継者として党主席に就任した故華国鋒氏が個人崇拝を進めたとして党内で批判を受けた経緯を詳述する記事を伝えた。党が80年に『今後20~30年、現職指導者の肖像は飾らない』と決定したことにも触れた。記事はすぐ削除されたが、習氏を暗に非難したと受け止められた」

     

    習近平氏は、どんなに力んでみても毛沢東にはなれない。そういう限界を教えているのかも知れない。毛沢東が率いた中国社会と、習近平が率いる中国社会では質的に異なっている。それに、毛沢東は共産党「創業者」である。習近平は雇われ社長に過ぎない。習氏は、この違いを自覚して行動しないと、永久政権は空手形に終わる可能性が強い。党員と国民を畏れる。そういう謙虚な姿勢が求められているように見える。

     

     

     


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    中国政府のシンクタンク、社会科学院などが12年後の30年に週休3日制になったら、どうするか、という提案をした。お堅い政府のシンクタンクがこういう夢物語をする意図は何か。むしろ興味はそちらに向く。若者の不満を逸らす高等戦術に見える。

     

    週休3日制を実現させるには、労働生産性上昇が前提である。中国の生産性は低下しており、週休3日は先ずここが壁になる。事実、提案では、「労働生産性が一定のレベルに達したならば」という前提がついている。その具体的なレベルは明示されていない。

     

    週休3日制実現の前提が、このようにあやふやだから「真夏の怪談話」になりそうだ。ただ、実現した場合、中国の経常収支は赤字スレスレに落ち込む危険性が高い。その理由は、次のようなものだ。

     

    中国人が、週休3日制を利用して海外旅行を楽しむことは必至である。国内に留まって政府からITとAI(人工知能)で監視される鬱陶しさから逃れるべく、海外へ旅行するに違いない。その場合、命の洗濯を日本で行なう公算が大きい。日本で別荘を持つ人も増えるだろう。こうなると、今でも大赤字のサービス収支は赤字幅を拡大する。経常収支の黒字幅は減るので人民元相場が下落する。経常収支構造と週休3日制は絡み合うと思われる。週休3日制を実現するほどの経常収支黒字を稼げなければ、「真夏の夢」に終わるだろう。

     

    『人民網』(7月16日付)は、次のように報じた。

     

    中国社会科学院などの共同主催による、『余暇と美しい生活:アンバランスで不十分な問題を解決する』をテーマとした発表会・シンポジウムが北京で13日に開催された。同報告では、『中国における労働生産性が一定のレベルに達したという前提のもとで、19時間労働、週休3日(週36時間労働)制度の実施が可能となる』の提案が出された。また、報告では、導入開始時期(2030年)についても言及された。報告が発表されると、たちまち多くの人々の物議をかもした。大々的に支持する人がいる一方で、反対の声もかなりあった。華西都市報が伝えた」

     

    農民工(出稼ぎ労働者)に大卒者が混じっている時代だ。大卒の就職難が厳しくなっている証拠である。毛沢東によると、社会主義に失業者は存在しないと胸を叩いていた。それが、裏切られて久しい。社会主義に幻想を持てないように、週休3日制もその類いと思われる。


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    文在寅政権は、経済音痴であることを世界に告知した。

     

    来年の最低賃金上げ率が10.9%に決めたことだ。今年の引上げ率16.4%を加えるとなんと2年間で29.1%にもなる。超インフレ時ならともかく、デフレが懸念される韓国経済にとって重圧であることは間違いない。こういう経済の合理性を無視した最低賃金引き上げが、韓国経済の落勢を強めることになろう。

     

    韓国の最賃制度は、日本と異なり週休1日分を含んでいる。文氏は、2020年に日本並の最賃(1万ウォン=1000円)を目標にして、最賃引上計画を発表した。ところが、日韓の最賃制度の違いを理解しておらず、今年の最賃引上で実質的に日本並となっていることが分った。なんとも、杜撰な話である。これでは、韓国小企業は経営的に耐えられずはずもない。

     

    『朝鮮日報』(7月17日付)は、「韓国中小企業、日本より高い人件費」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「2年間で最低賃金29%引き上げというショックは、自営業だけでなく、中小製造業にも広がっている。中小企業経営者は週休手当を含む最低賃金が日本を超えたのに続き、来年には日本との差が1000ウォン(約99円)以上開くと懸念している。製造業経営者『人件費ですら日本企業に押されることになった。さらに労働時間まで短縮され、これまで強みだった納期対応能力まで失えば、世界市場で競争力が完全に低下してしまう』と話した。こうした雰囲気の中、16日に開かれた中小ベンチャー企業部の洪鍾学(ホン・ジョンハク)長官と中小企業経営者の懇談会では、政府に対する不満が爆発した」

     

    韓国企業は、街のクリーニング屋でも納期を守ることで有名である。それだけ競争の激しいことを裏付けている。だが、最賃の大幅引上げと労働時間の大幅短縮で、韓国小企業は国際競争力を失うと指摘している。これまでの週労働時間上限の68時間が、52時間に引き下げる。このこと自体は歓迎すべきである。ただ、法案成立が今年の2月末。実施は7月1日という性急さだ。その後、6ヶ月の猶予がつくことになった。日本の場合、こういう大きな改革では1~2年の準備期間をおくのが普通である。

     

    韓国の年間労働時間は2069時間(2016年)で、OECD加盟国ではメキシコに次ぐ2位という不名誉な事態である。これを改善することは当然としても、最賃の大幅引き上げが重なるショックを考えるべきであろう。そういう考慮がなしで、最賃だけをドカーンと引上げるという、政策の整合性が全く見られことが驚きだ。

     

    (2)「全羅北道群山市の自動車部品メーカーD社の経営者は、来年も最低賃金が2桁台で引き上げられることについて、『虚脱感を覚える』と述べた。今年から最低賃金が16.4%上昇したことを受けて実施した構造調整が、来年もさらに10.9%引き上られ、1年足らずで役に立たなくなったからだ。D社は年初来、従業員数を100人から80人に減らし、利益率が低い製品群の生産を取りやめ、コスト構造を改善した。売り上げは10%ほど減少したが、黒字が出るように体質を改善したのだ。経営者は「来年最低賃金が10%以上上昇すれば、人件費が8%増え、再び赤字を心配しなくてはならない。座して赤字を出すか、従業員を解雇しろというもので、製造業はもうやめろと言っているに等しい」と訴えた」

     

    ここで取り上げられている自動車部品メーカーの例では、大幅最賃引上が雇用減になっていることだ。こうなると、最賃引上目的が労働者の利益にならず、逆に解雇要因になっている現実を知るべきだろう。文政権は、こういう失政によって韓国経済を衰退に導いていくに違いない。そのことを知らないのだ。


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    古代から中国と朝鮮半島は、切っても切れない関係にある。宗主国としての中国は、無条件で韓国に影響力を与えられるものと過信している。習近平政権になって、韓国への姿勢はますます露骨になった。だが、米朝の直接交渉が始まるとともに、中韓関係は微妙になりつつある。韓国はこれまで中国へご機嫌伺いの外交をしてきた。理由は、中国の影響力に期待した、北朝鮮の軍事的な暴走の抑制にあった。

     

    この中国への期待は、もはや消えている。南北会談によって直接の意思疎通が可能になったことである。米朝会談が破談にならない限り、安保面における対北朝鮮問題の比重は、ぐっと下がってきたことは疑いない。

     

    こうなると、韓国特有の「恨み」が頭を持ち上がってきた。「中国はけしからん」という思いが強くなっているのだ。

     

    第一は、韓国がTHAAD(超高高度ミサイル網)設置によって、中国から受けた経済的な報復である。中国へ進出していたロッテのスーパー(100店余)が、消防器具の設置不備というでっち上げによって閉店を余儀なくされたこと。同じく、中国へ進出していた現代自動車が不買対象にされたこと。韓流ドラマや映画の上映禁止措置を受けたこと。中国からの訪韓旅行が止められたことなど、嫌がらせのオンパレードであった。

     

    第二は、昨年の文政権が中国へ国賓として招かれながら、待遇面で酷い仕打ちを受けた。中国指導部との会食は訪中3日間で一度だけ。後は、文氏が随行団と食事をするという、国賓待遇ではあり得ないことであった。共同発表も共同記者会見もない、気の毒なほどの粗略な扱いを受けた。また、随行記者団が韓国側の雇ったガードマンに殴打され入院する騒ぎまで起こした。中国からは、謝罪もなく「韓国の雇ったガードマンゆえ中国に責任はない」という屁理屈で逃げられた。

     

    第三は、韓国に冷たい仕打ちをしながら、長いこと没交渉だった北朝鮮へは、短期間に3回も首脳会談を開くなど、韓朝に対して、全く異なる対応していることである。

     

    文在寅大統領就任(昨年5月)以来、文政権の「親中」姿勢はことごとく打ち砕かれた。こうして、「かわいさ余って憎さ百倍」にも近い心情が韓国に起こっているのだ。中国は、この変化を見落としている。従来、韓国は米中間にあって「コウモリ」のようなどっちつかずの姿勢だったが、中国へ背を向ける可能性も出てきた。北朝鮮も米国へ接近する事態となると、朝鮮半島は一度に中国から離れることになりかねない。その責任は習近平氏が負うことになろう。

     

    『中央日報』(7月16日付)は、「韓国国民が中国を非常に偏狭な大国と見なし始めた

    」と題する記事を掲載した。

     

    この記事では、韓国国民が中国を非常に偏狭な大国と見なし始めたと指摘している。超高高度ミサイル網(THAAD)の韓国配備をめぐる中韓葛藤の最大の害悪は、韓国人の中国に対する認識悪化である。習氏は、韓国を甘く見過ぎたようだ。「一寸の虫にも五分の魂がある」ことを忘れた「大国ボケ」の振る舞いであった。

     

    (1)「鄭在浩(チョン・ジェホ)ソウル大政治外交学部教授は、『THAAD紛争で韓中両国はともに戦略的な失敗をした』とし、『10・31合意』(注:韓国は中国の安保を損ねるような取り組みをしない)で、韓国は中国にTHAADがすべて永久解決するという希望を与えた。だが、THAADは依然として両国関係の障害であり、いつ消えるか分からない」と評価した」

     

    中国は、THAADが中国の安保面で技術的な阻害要因にならぬことを充分に知り抜いていた。それにも関わらず、韓国へ執拗なまでの報復を続けたのは、韓国を属国扱いして、徹底的にいじめ抜いて「骨抜きにする」という朝貢外交路線であった。これが、次のパラグラフで取り上げられる「シャープパワー」である。主導したのが、習近平氏に他ならない。

     

    (2)「鄭教授は、『中国は5年前に朴槿恵(パク・クネ)前大統領が就任すると、外交的ブルーオーシャンを見つけたと考えたが、2年半後に楽観はTHAADで崩れた』とし『朴前大統領と習近平主席の個人的な友情に過度に期待したことと、両国関係の躍動性を過度に政治化したのが誤り』と分析した。西欧は、『THAAD後の韓国に対する中国の経済報復をシャープパワー(Sharp power)と呼ぶなら、韓国人は(中国に対して)小さな大国(小気大国)と呼ぶ』と話す」

    中国外交は、首脳同士の絆が重要であると解釈している。阿吽(あうん)の呼吸で物事を決められると誤解しているのだ。こうして、相手首脳に物的な贈与をして関心を引く。こういう「物量外交」が、中国の得意戦略である。鄭教授は、これが間違いだと示唆している。外交は、腹芸でなくシステマティックに展開すれば安定的な関係が築けるはず。中国は、この面が欠落した国だ。

     

    中国は、腹芸外交ゆえに「シャープパワー」という強引な外交を展開する。韓国への経済報復はその典型だ。ドロドロした中国外交は、スマートな現代外交の基本から大きく離れた存在である。


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