勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    あじさいのたまご
       
     

    「生兵法は大怪我のもと」という諺がある。中国が、半導体技術で米国に頼らずに独立路線を選んだのは、2018年に発表した「中国製造2025」である。この「独立宣言」が、その後の「米中デカップリング」によって、大怪我を負う原因になった。習近平氏の焦る「中華再興」が、招いた惨事と言えそうだ。 

    『中央日報』(4月26日付)は、「『半導体独立』に失敗した中国を見よ、韓国 サプライチェーンに加わるべき」と題するコラムを掲載した。筆者は、コラムニストのノ・ジョンテ氏である。クリス・ミラー米タフツ大教授の著書『Chip War』の韓国語翻訳者である。 

    筆者が最近翻訳したクリス・ミラー米タフツ大教授の著書『Chip War』の内容から我々の現実を眺めてみよう。1960年代末、中国は文化革命の狂風に巻き込まれた。初歩段階に入った半導体産業もその暴風を避けられなかった。毛沢東の教示に基づき、電子工学者、半導体技術者は田舎に行って農作業をしなければならなかった。

     

    (1)「研究室を突然失った人たちに出された指示はさらにひどかった。「人民の半導体を作りなさい!」。そして中国は「失われた30年」を迎えたのに対し、韓国は高度成長の機会を迎えることができた。毛沢東が死去し、鄧小平が執権した後、中国は改革・開放の道を歩んだ。多くの農民工が提供する安い労働力を基礎に中国は最も単純な電子製品の組み立てから徐々に技術レベルを高めていった。頭を下げて米国中心の世界秩序、特に経済・貿易秩序に編入し、自分たちの持ち分を増やしていく方向を選んだのだ。このようにして数十年が経過すると、中国はアリババ、テンセント、タオバオなどに代表される巨大IT企業を保有する国になった」 

    毛沢東が、いかに権力の亡者になって文化大革命を10年間も行ったか。それによって、中国科学界は大きなダメージを受けた。

     

    (2)「習近平主席体制の下、異なる経路を選択することにした。米国を中心に構成されているグローバル半導体サプライチェーンの一員として残らないことを決めた。半導体だけでなく素材、部品、装備まで最大限に国産化する巨大な投資計画を立てた。いわゆる「中国製造2025」計画だった。『Chip War』は2010年代の中国の野心に満ちた「半導体独立」の動きが失敗に帰したことを叙述している。今日の半導体産業は全世界の先端企業がつくり出した成果物をすべて投入してこそ作動する。最も多くの基礎技術を保有する米国さえも半導体産業をすべて国産化するのは不可能だ。後発走者の中国が短期間の投資でそれを成し遂げることはできなかった」 

    「中国製造2025」は、中国再興のシグナルである。米国は、これを見せつけられて初めて、中国が米国覇権へ挑戦していることを知ったという経緯がある。米国は、それまでの中国の「低姿勢」が米国を騙す手段であったことを認識したのだ。トランプ政権の対中「高姿勢」は、それを反映している。

     

    (3)「中国が、米国中心の半導体サプライチェーンに参加してより大きな持ち分を確保しようとした従来の政策方向を10年以上維持したとすれば、半導体産業の主導権を握ろうとした中国の野望は容易に達成できる可能性もあった。中国市場の力で米国企業を引き込み、技術移転を受けながら時間を稼いで、半導体と素材・部品・装備分野の核心技術を中国化することが不可能でなかったということだ」 

    中国は、10年も早く「打倒米国」の狼煙を上げたことで、米国の警戒心を煽ってしまった。習近平氏の戦略判断における大きなミスだ。米国は、中国が「獅子身中の虫」であることを見抜いたのである。 

    (4)「中国は、米国中心の世界秩序を少なくとも半導体サプライチェーンだけは拒否しようと考えた。半導体の生産と消費において「参入する」独立ではなく「抜け出す」独立をしようと考えた。その結果、半導体独立は成し遂げられなかった。現在、中国は武力を使用してでも台湾を屈服させるべきだとして連日、緊張感を高めている。これは結局、中国が自ら決定的な時期に誤った判断を下した結果とみることもできる」 

    中国は、半導体技術が米国発祥という現実を無視したことで取り返しのつかない失敗となった。半導体は、機械と化学の総合技術とされる。基礎科学がしっかりしていなければ、発展はおぼつかないのだ。習氏は、精華大学出身であるが、この面の知識を欠いていたのだろう。

     

    (5)「世界秩序が、必ず米国中心の秩序でなければいけない必然的な理由はない。しかし2023年現在、軍事、経済、技術などあらゆる分野で最も進んでいる国が米国であることも明白な事実だ。また韓国はすでに米国と韓米同盟を組んでいて、経済的にも不可分の関係にある。米国は、経済的に韓国を引き離すこともできる。一方、米国中心の国際経済から離脱すれば大韓民国は資源貧国にすぎない。世界秩序を理解し、その中に参入することこそ、韓国の独立を確実に実現できる唯一の方法だ。中国の「半導体独立」が失敗に帰結したのを見ると分かる。世界から抜け出すことを目標にする時、独立は「孤立」になってしまう。真の独立の道は逆説的に、世界の流れにさらに深く快く参入して世界と一つになる時、到達することができる」 

    米国は、多民族国家である。世界民族のエッセンスは、米国の掲げる自由へ憧れて、自然に集まってくる流れができている。これを無視した、習氏による「米国衰退・中国繁栄」のお題目は、余りにも現実離れしたものだった。中国の「半導体独立」の夢が、無残にも壊れたのは、米国の総合力を軽視した結果である。

     



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    ウクライナ侵攻が引き金

    米国に負ける3つの理由

    老人vs青年の一騎打ち

    内外の債務に悩む人民元

     

    中国が、物騒なことを決定する。スパイ行為を摘発する「反スパイ法」を改正強化するのだ。現行法より対象範囲を広げる。当局が、「国家の安全と利益」に関わる情報の提供や収集の疑いがあると判断すれば、取り締まりが可能になる。

     

    「反スパイ法」は、「国家の安全と利益」に反する行為を取り締まるとされる。だが、取締り範囲が不明確であることから、相手国への報復に利用するのでないかと警戒されている。中国が、対中「技術封鎖」と非難する規制への報復として、中国の利益を害するリスクの少ない産業や企業へ照準を当て、「鬱憤晴らし」をするという戦略だ。中国は、こういう形で人質外交をエスカレートさせると懸念されている。

     

    近い例では、ファーウェイ副会長孟晩舟氏が、米司法省の要請によりカナダで逮捕された直後、無実のカナダ人2名が「人質逮捕」された一件だ。これを見ても分る通り、自国の要求を受け入れさせるために手段を選ばないのだ。今回の「反スパイ法」強化は、相手国への見せしめという「非人権的」な行為を助長するリスクが指摘されている。

     

    日本には、本格的なスパイ取締りの情報機関が存在しない。この結果、「中国スパイ」を逮捕しにくいことから、強気で自国民の返還交渉をする手段を持たないのだ。こういう経緯で、中国の人質外交によって、日本が特に影響を受けやすいと見られている。中国が2014年に反スパイ法を施行して以来、少なくとも17人の日本人が拘束されている。今回、拘束されたアステラス製薬の社員を含む5人が、未だ解放されずに獄窓につながれている。日本は、中国にとって最も狙われやすい国になった。

     

    ウクライナ侵攻が引き金

    「反スパイ法」強化は、米中対立の副産物だ。米中対立は、経済面での米中デカップリング(切り離し)という形で進んでいる。米国のトランプ大統領(当時)が、2017年から始めた政策である。バイデン政権に引き継がれ、さらに強化されている。具体的には、中国へ先端技術(特に半導体中心)を禁輸する措置だ。中国は、完全に受け身に回っており、報復手段も見つからず不満を鬱積させている。こうした事情で、「反スパイ法」が強化されて、海外企業を狙い撃ちする「陰湿」な戦略を立てているものと見られる。

     

    米国が、米中デカップリング策を強化している理由は、中国の世界覇権奪取の阻止を目的としている。米国は、中国が世界を権威主義(共産主義)で塗り固めるという旧ソ連の野望を引き継いだ存在と認識している。これを確固不動の信念に固めさせたのは、ロシアによるウクライナ侵攻に対する中国の「間接支援」姿勢だ。これが、中国の台湾侵攻を前提にしているという疑念を強固にさせ、NATO(北大西洋条約機構)まで同調させている。現実に中国は、台湾侵攻を最終手段にしていることを認めているのだ。

     

    中国は、ロシアのウクライナ侵攻への「間接支援」によって、欧州まで「敵」に回すという思わざる事態を招いている。中国は、欧州に対して米国との対立を緩衝させる重要な外交的役割を期待してきた。それが、予想外の展開となって「八方塞がり」の状態に陥っている。こうして、中国はロシア・イラン・北朝鮮を除けば、国際的に不利な立場に追込まれている。ここから編み出された戦略が、「閉じこもり政策」である。

     

    広大な国土を背景に、ロシアを味方につけて経済の「双循環モデル」という構想を打ち出している。国内市場を中心にして補足的に輸出を行う「閉鎖経済モデル」である。中国は、2001年のWTO(世界貿易機関)加盟による「解放経済モデル」をテコに経済発展してきた。それが一転して、「閉鎖経済モデル」へ縮小するとしている。

     

    中国は、これでも世界覇権を握れるというのだ。論理的に考えれば分るように、現在、利益を享受している「解放経済モデル」という本流から外れて、「閉鎖経済モデル」という支流へ移ることだ。「大魚」は釣れず、「小魚」だけで14億人の国民が暮らせるはずがない。習近平氏の戦略は矛盾に満ちたものである。14億の民の生活を保証するには、現在の「解放経済モデル」にとどまる以外にないのだ。

     

    米国に負ける3つの理由

    習氏が、「閉鎖経済モデル」へ逃げ込もうとしているのは、毛沢東の「長征」が頭にあるためであろう。蒋介石の攻撃から赤軍(共産党軍)を守るために、1934~1936年にかけて江西省瑞金から陝西省延安に至るまで、実に1万2500Kmを徒歩で移動した苦難に倣おうとしている。習氏はかつて、「長征」を思えば、苦しいことはない発言したことがあるのだ。この延長線で、「双循環モデル」が提案されたと見られる。

     

    習氏は、ここまでの長期戦になっても米国覇権へ対抗しようとしている。だが、根本的な見誤りを犯している。「米国衰退・中国繁栄」という何ら根拠のない妄念に酔っていることだ。現実は逆であって、時間が経てば経つほど、「米国繁栄・中国衰退」が明白になる。

    (つづく)

     

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    https://www.mag2.com/m/0001684526

     

    テイカカズラ
       


    米中関係は悪化している。両国の外交当局の意思疎通もできない状況にある。この状態では、誤解を大きくするリスクをはらむ。今、米国は何をすべきか。2008年の金融危機の際に財務長官として対応したポールソン氏は、米中関係の将来に危機感を強めている。 

    ポールソン氏は今年、「米国による中国政策は機能していない」と題する文章を米外交専門誌『フォーリンアフェアーズ』に書いて、話題を呼んだ。来年に100歳になるヘンリー・キッシンジャー元米国務長官やマイケル・ブルームバーグ元ニューヨーク市長(81)などの一部の著名政治家らと連動し、ポールソン氏は米国のタカ派の一致した意見に反対しようとしている。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(4月17日付)は、「ポールソン米元財務長官『米中関係は瀬戸際』」と題する記事を掲載した。元米財務長官ポールソン氏へのインタビュー記事である。 

    中国には100回以上行っているが、ポールソン氏は来週、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)が始まって以降で初めて北京に渡航する。習近平(シー・ジンピン)国家主席や前任者の胡錦濤(フー・ジンタオ)氏をはじめ、すべての指導者をよく知っている。「数年前と比べても、まったく違う中国だ」とポールソン氏は言う。「米中関係は瀬戸際にあり、対話は停止している。世界では多くのことが起きているが、私にとって最も心配なのは米中関係だ」 

    (1)「誰が(米中関係悪化の)責任を負うべか聞いてみた。ポールソン氏は「我々が目にしているのは、バイデン氏が習氏との切実な対話を待っているのに対し、習氏は『米国を除く全方位戦略』に忙しい状況だ」と述べた。「習氏は世界的な政治家を演じ、世界中や中国国内で各国首脳と会談している。中国は、米国が自分たちを封じ込めようとしていると主張しており、国民も間違いなくそれを信じている。中国はビジネスのために再び門戸を開いていると、世界や米国のCEOらに発信している。もし、米国が中国との貿易や投資を大幅に減らし、同盟国やパートナーの希望を大きく超えてしまえば、結果的に米国を孤立させることになるだろう」 

    習氏は、世界中へ向けて米国に虐められていると訴えている。これは、中国経済が極めて困難な局面にあることを示唆している。米国はこれ以上、中国を経済的に追い詰めないこと、とポールソン氏は指摘している。米国が、すでに経済的勝利を収めているということだ。

     

    (2)「現在、産業界は沈黙することで逆に目立っている。ポールソン氏は「人々は静かにしている。なぜなら、あなたが企業のCEOであり中国で事業をしているとして、中国で何を言うことが受け入れられ、米国で何を言うことが受け入れられるのかを(複数の集合の重複などを表す)ベン図に描いたら、白い部分はほとんどない」と語った。「これは非常に危険な状況だ。バイデン氏は中国との関係を安定させたいだろうと強く信じていが、米議会の共和・民主両党ともにバイデン氏の立場を複雑にする強硬的な立場を築いている。議会は中国の相対的な力、中国の永続性、多くの国と中国の関係を過小評価していると懸念している」と指摘する」 

    米議会は、超党派で対中国強硬論になっている。これが、バイデン政権の柔軟な対中政策の手足を縛っている。下線部のように、米議会は中国に対して過小評価をしている。それによって一層、強硬論へ傾かせている。中国の永続性に疑問符がつくことは、人口動態からも一目瞭然である。ただ、「窮鼠猫をかむ」のことわざの通り、ここは一呼吸置くべき、というのがポールソン氏の意見だ。

     

    (3)「筆者は、平和的に2つの大国が何とかやっていく歴史的な前例はあるのか尋ねた。ポールソン氏は「非常に危険な時期だ。大国は戦争の開始を目指すことはない。見込み違いや誤認、事件などの組み合わせを通じて戦争を突然始める。台湾に関するレトリック(修辞)を弱めることが重要だ。読んだもの、習氏が最終的に必要なものが台湾侵攻だとしてもだ」と語った。同氏は、来年が重要になると付け加えた。24年には米大統領選があるだけでなく、それより前に台湾で総統選もある」 

    米国は、台湾問題について冷静に扱うべきだとしている。中国に誤解(台湾独立論)を与えないように十分に留意することである。 

    (4)「ポールソン氏の中国側の相手は誰なのだろうか。「私が言いたいことは我々が賢く、タフであり、現実的な手法で対応する必要がある。結果に関心がある。米国による(中華人民共和国を唯一の合法政府と承認する一方で、台湾が中国の一部であるという中国の立場をただ認識しているという)『一つの中国政策』は何年も非常によく機能しており、これに固執することが非常に重要だ。この政策にこだわり、戦争抑止力を持つことで、戦争を回避できないことはない」と指摘した」

     

    米国は、中国の「メンツ」を立ててやる配慮が必要である。一方的に追い詰めるのでなく、「逃げ道」も用意してやる戦略が必要である。それには、中国の主張する「一つの中国論」を尊重することだと、ポールソン氏は言っている。ただし、米国は戦争抑止力を持つことが不可欠であるとも指摘する。要するに、硬軟両様の構えだ。 

    太平洋戦争は、米国が日本を追い詰めた面もある。日本は、ルーズベルト大統領(当時)へ最後の日米会談をハワイで開きたいと提案したが拒否された。これが、真珠湾攻撃へ踏み切った背景だ。歴史の誤りを繰り返してはならない。

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    中国政府は、頭を痛めている。16〜24歳の失業率が3月、19.%2月から1.5ポイントも上昇し、ほぼ5人に1人が失業状態だ。今年6月に卒業する大学生や大学院生は過去最多の1158万人に上り、労働市場へ参入する。若年失業率が今夏、20%の大台を突破し、過去最高を更新する公算が大きくなった。

     

    政府は、就職難に対処して若者の失業者に「農村行き」を勧めている。遊んでいるよりも、田畑を耕せという話だが、そう簡単に「ハイ、そうですか」という返事にもなるまい。何のために大学まで行ったのか、という反発が出るからだ。

    『フィナンシャル・タイムズ』(4月23日付)は、中国 就職難の大卒者に単純労働のすすめ」と題する記事を掲載した。

     

    中国政府は高止まりする若年失業率の責任を、職のない大卒者に転嫁している。彼らは、専門職に就く望みを捨てずに単純労働に従事することを拒んでいると非難した。この数週間、国営メディアは専攻した分野に沿ったキャリアを求めるのではなく、屋台で食べ物を売ったり果物を栽培するなど高い技術を必要としない仕事で財産を築いたとする大卒の若者を、十数本もの記事で取りあげている。

     

    (1)「中国共産党の青年組織、共産主義青年団(共青団)は3月、大卒者が専門職に就くという野心にしがみつき、「工場でネジを締める」ことを拒否していると非難した。そして若い世代に「スーツを脱ぎ、シャツの袖をまくって、農場に行く」よう強く促した。こうした政府側の主張はソーシャルメディア上で反発を招いた。職に就いていない大卒者は、当局が高等教育を受けた若者の増加に見合うだけの雇用を生み出していないと批判した。非難を浴びせた共青団の人物に、「現在の立場と給与を捨てて清掃作業員になる気があるのか」と反論した。対話アプリ「微信(ウィーチャット)」のコメントには、多くのユーザーが賛意を示した」

     

    共産党の存在意義は、国民へ就職を保障すること。これができない政権は、「契約違反」になるのだ。中国政府は、この最低義務を果たせない状況になっている。

     

    (2)「若者の反発は、中国で社会的流動性の欠如に市民の怒りが高まっていることを示している。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う規制や民間部門への広範囲にわたる締め付けが世界2位の経済大国を圧迫し、不平等を一層深刻化させている。1〜3月期の経済成長率は4.%に上昇し経済回復が本格化しつつあるが、若年失業率は高いままだ。若い求職者はロックダウン(都市封鎖)に特に大きな影響を受け、今も苦しんでいる。対照的に全年代の平均失業率は約5%となっている。中国の政策立案者にとって、無職の若者の増加は人口動態上の課題となりつつある。経済成長が構造的に鈍化する懸念が高まるなか、中国の人口は約60年ぶりに減少し、近くインドに追い越される見込みだ

     

    下線部は、就職できなければ結婚もできず、出生率に響くという指摘である。ここ数年の合計特殊出生率の低下は、目を覆うほどだ。すでに、「1.18」(2021年)と日本を下回る状態だ。

     

    (3)「若者は長年の厳格な人口抑制策の結果、自分たちよりはるかに人数が多く、高齢化しつつある親世代を支える責任がある。しかし専門職に就ける見込みも資産を築く機会も限られている。米ニューヨーク市立大学の夏明教授(政治学)は「教育への投資は、もはや高いリターンを保証しなくなった」と指摘した。「普通の人々が社会的地位を向上させるための基本理念が損なわれている」と指摘する」

     

    大学を出ても、それにふさわしい職業に就けない現実は、経済政策の失敗だ。共産主義では、もはや新たな雇用先も見つからない事態に追込まれてきた。この矛盾を国民が知れば、後はどうなるか、だ。

     

    (4)「23年は過去最高の1160万人が大学を卒業し、すでに厳しくなっている労働市場に参入する見込みのため、状況が改善する兆しはほとんどない。中国の人材サービス企業「51job」が22年11月に国内に拠点を置く企業100社に行った調査では、半数以上が23年に採用を減らす計画だと回答した。魅力的な仕事の機会が減るなか、政府は大卒者に期待値を下げ、かつて中国のめざましい経済発展を支えたつつましい単純労働に就くよう促している

     

    企業も雇用に消極的だ。先行きの見通しがつかない結果だ。ここから、中国共産党の悩みが始まる。 

     

     

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    今や、クルマの話題と言えば「EV全盛」である。これに、やや距離を置くトヨタが「現実的EV」として、新型PHV(プラグインハイブリッド)車を発売する。航続距離で不安なEVに代って、新型PHVでその不安を消すという「現実的EV」提案である。さすがは、「堅実トヨタ」らしい動きである。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月25日付)は、「トヨタが新型PHVで攻勢、狙うは『現実的なEV』」と題する記事を掲載した。

     

    トヨタ自動車は来月、新型プラグインハイブリッド車(PHV、PHEV)を米国で発売する。背景には、ガソリン車から電気自動車(EV)への移行でPHVは橋渡し役になれるとの読みがある。

     

    (1)「トヨタのほか、フォード・モーター、現代自動車も新型PHVを発売する。現在、ハイブリッド車の大半はエンジンと電力モーターの双方を使用して燃料の消費を抑制する仕組みだ。一方、PHVは主にバッテリーで走行し、エンジンは充電切れへの備えという位置づけで、完全な純EVに限りなく近い存在になっている。トヨタはPHVを「プラクティカル(現実的な)バッテリーEV」として再定義することを狙う。念頭にあるのは、大半は電力で走行したいが長距離運転には不安があるという、車通勤の平均的な米国民だ。5月から米国のディーラー店舗への納車が始まるPHVの2023年モデル「プリウス・プライム」は、バッテリーだけで最大44マイル(約71キロ)の走行が可能だ」

     

    EV信仰は根強い。その煽りをくっているのがPHVである。エンジンをつけているだけで、「化石燃料」を利用すると敵視されているからだ。PHVは、自宅で給電できるメリットがある。トヨタはPHVを「プラクティカル(現実的な)バッテリーEV」として再定義することを狙うという。この提案に、消費者が賛成すれば成功だ。米国では、その基盤がある。

     

    (2)「環境保護団体の間では、化石燃料を燃やすため、PHVは環境対応車としてなお十分ではないとの意見が支配的だ。例えば、カリフォルニア州は電動化への移行を義務づける規定においてPHVを制限、もしくは除外する方向へと向かっている」

     

    カリフォルニア州では、PHVを排除の方向だ。

     

    (3)「トヨタの佐藤恒治社長は4月21日、「BEV(バッテリーEV)がスピードを上げて普及していく地域と、もう少し時間がかかる地域の両方がある」と述べ、PHVへの投資は電動化への移行を実現する現実的な方法だとの考えを示した。また、トヨタの目標はPHVの航続距離をできる限り純EVに近づけることだと佐藤氏は説明した。トヨタは、EVモードで200キロ以上走行可能なPHVを開発する計画を明らかにしている。佐藤氏は「PHEVの捉え方を変えていきたい」と述べた」

     

    トヨタは、PHVの動きを純EVへ接近させる方針だ。EVモードで、200キロ以上走行可能なPHVを開発する計画という。200キロとなれば、ユーザーも関心を向けるだろう。

     

    (4)「EV充電拠点は世界的にまだ不足しており、充電設備があったとしても、問題を抱えていることが多い。調査会社JDパワーの報告書によると、米国では昨年、公共のEV充電拠点で約2割は充電できないケースが発生した。米国では、先月のEV平均価格が5万8940ドル(約790万円)となっており、ディーラー関係者はEV本格普及への障害になっていると話している。これに対し、プリウス・プライムは3万3445ドル(約448万円)からだ」

     

    米国では、3月のEV平均価格が約790万円である。これが、本格的普及の壁になっている。中国では、150万円で売り出している。プリウス・プライムは、約448万円から。EVへの橋渡しにはなりそうだ。

     

    (5)「シカゴ周辺でディーラー網を家族経営するハンリー・ドーソン3世さんは、航続距離の制限や充電の問題による大変さを十分に理解できていなかったことが分かり、多くの顧客がEVを返却すると話す。「そこから、ハイブリッドについて問い合わせる」。PHVは世界のライトビークル(乗用車・小型商用車)販売の約4%に過ぎないが、近年は増加傾向にある。昨年のPHV販売台数は前年比46%伸びた。コンサルティング会社EVボリュームズが分析した。これに対し、EVは59%増だ」

     

    米国では、EVを買っても非効率で返却し、PHVに関心を持つという。トヨタは、こういうマーケットの現実を把握しているのだ。

     

    (6)「カリフォルニア州新車ディーラー協会のブライアン・マース会長は、EVモデルの普及や自動車メーカーが掲げる純電動化戦略が、消費者にEV購入を促しつつあると話す。「EVを試してみようという方向に影響を与え始めている」。もっとも、マース氏自身はPHVを好む。今の車は4台目のPHVで、純EVモードの航続距離は約40マイルだという。「通常の通勤にはEVモードで運転し、(環境問題への取り組みで)自分の責任は果たしていると感じられると同時に、長距離運転では別の選択肢を確保できる」と話すマース氏。「私にとって、これは理にかなっている」と指摘」

     

    PHVに厳しい姿勢のリフォルニア州新車ディーラー協会の会長は、EVとPHVをうまく利用している。短距離はEV、長距離運転ではPHVである。トヨタは、市場の隅々まで目を光らして「空理空論」に傾かない現実路線を選択している。

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