「生兵法は大怪我のもと」という諺がある。中国が、半導体技術で米国に頼らずに独立路線を選んだのは、2018年に発表した「中国製造2025」である。この「独立宣言」が、その後の「米中デカップリング」によって、大怪我を負う原因になった。習近平氏の焦る「中華再興」が、招いた惨事と言えそうだ。
『中央日報』(4月26日付)は、「『半導体独立』に失敗した中国を見よ、韓国 サプライチェーンに加わるべき」と題するコラムを掲載した。筆者は、コラムニストのノ・ジョンテ氏である。クリス・ミラー米タフツ大教授の著書『Chip War』の韓国語翻訳者である。
筆者が最近翻訳したクリス・ミラー米タフツ大教授の著書『Chip War』の内容から我々の現実を眺めてみよう。1960年代末、中国は文化革命の狂風に巻き込まれた。初歩段階に入った半導体産業もその暴風を避けられなかった。毛沢東の教示に基づき、電子工学者、半導体技術者は田舎に行って農作業をしなければならなかった。
(1)「研究室を突然失った人たちに出された指示はさらにひどかった。「人民の半導体を作りなさい!」。そして中国は「失われた30年」を迎えたのに対し、韓国は高度成長の機会を迎えることができた。毛沢東が死去し、鄧小平が執権した後、中国は改革・開放の道を歩んだ。多くの農民工が提供する安い労働力を基礎に中国は最も単純な電子製品の組み立てから徐々に技術レベルを高めていった。頭を下げて米国中心の世界秩序、特に経済・貿易秩序に編入し、自分たちの持ち分を増やしていく方向を選んだのだ。このようにして数十年が経過すると、中国はアリババ、テンセント、タオバオなどに代表される巨大IT企業を保有する国になった」
毛沢東が、いかに権力の亡者になって文化大革命を10年間も行ったか。それによって、中国科学界は大きなダメージを受けた。
(2)「習近平主席体制の下、異なる経路を選択することにした。米国を中心に構成されているグローバル半導体サプライチェーンの一員として残らないことを決めた。半導体だけでなく素材、部品、装備まで最大限に国産化する巨大な投資計画を立てた。いわゆる「中国製造2025」計画だった。『Chip War』は2010年代の中国の野心に満ちた「半導体独立」の動きが失敗に帰したことを叙述している。今日の半導体産業は全世界の先端企業がつくり出した成果物をすべて投入してこそ作動する。最も多くの基礎技術を保有する米国さえも半導体産業をすべて国産化するのは不可能だ。後発走者の中国が短期間の投資でそれを成し遂げることはできなかった」
「中国製造2025」は、中国再興のシグナルである。米国は、これを見せつけられて初めて、中国が米国覇権へ挑戦していることを知ったという経緯がある。米国は、それまでの中国の「低姿勢」が米国を騙す手段であったことを認識したのだ。トランプ政権の対中「高姿勢」は、それを反映している。
(3)「中国が、米国中心の半導体サプライチェーンに参加してより大きな持ち分を確保しようとした従来の政策方向を10年以上維持したとすれば、半導体産業の主導権を握ろうとした中国の野望は容易に達成できる可能性もあった。中国市場の力で米国企業を引き込み、技術移転を受けながら時間を稼いで、半導体と素材・部品・装備分野の核心技術を中国化することが不可能でなかったということだ」
中国は、10年も早く「打倒米国」の狼煙を上げたことで、米国の警戒心を煽ってしまった。習近平氏の戦略判断における大きなミスだ。米国は、中国が「獅子身中の虫」であることを見抜いたのである。
(4)「中国は、米国中心の世界秩序を少なくとも半導体サプライチェーンだけは拒否しようと考えた。半導体の生産と消費において「参入する」独立ではなく「抜け出す」独立をしようと考えた。その結果、半導体独立は成し遂げられなかった。現在、中国は武力を使用してでも台湾を屈服させるべきだとして連日、緊張感を高めている。これは結局、中国が自ら決定的な時期に誤った判断を下した結果とみることもできる」
中国は、半導体技術が米国発祥という現実を無視したことで取り返しのつかない失敗となった。半導体は、機械と化学の総合技術とされる。基礎科学がしっかりしていなければ、発展はおぼつかないのだ。習氏は、精華大学出身であるが、この面の知識を欠いていたのだろう。
(5)「世界秩序が、必ず米国中心の秩序でなければいけない必然的な理由はない。しかし2023年現在、軍事、経済、技術などあらゆる分野で最も進んでいる国が米国であることも明白な事実だ。また韓国はすでに米国と韓米同盟を組んでいて、経済的にも不可分の関係にある。米国は、経済的に韓国を引き離すこともできる。一方、米国中心の国際経済から離脱すれば大韓民国は資源貧国にすぎない。世界秩序を理解し、その中に参入することこそ、韓国の独立を確実に実現できる唯一の方法だ。中国の「半導体独立」が失敗に帰結したのを見ると分かる。世界から抜け出すことを目標にする時、独立は「孤立」になってしまう。真の独立の道は逆説的に、世界の流れにさらに深く快く参入して世界と一つになる時、到達することができる」
米国は、多民族国家である。世界民族のエッセンスは、米国の掲げる自由へ憧れて、自然に集まってくる流れができている。これを無視した、習氏による「米国衰退・中国繁栄」のお題目は、余りにも現実離れしたものだった。中国の「半導体独立」の夢が、無残にも壊れたのは、米国の総合力を軽視した結果である。