勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    韓国通貨当局は、ウォン防衛で多忙である。文政権の経済政策が、ウォン売りを誘導するような「逆さま政策」を行っているからだ。この政策的な暴走からウォン相場をどう守るのか、通貨当局にとっては、頭痛の種であろう。1ドル=1200ウォン割れは、通貨危機への第一歩と警戒されている。この危険ラインから、ウォンをどう守るのかが当局の課題だ。

     

    『中央日報』(10月1日付)は、「1200ウォン崩壊防げ、韓国外為当局は上半期に38億ドル放出」と題する記事を掲載した。

     

    外為当局が上半期に外国為替市場で38億ドルを売り越したことがわかった。5月に対ドルでウォンの価値が急落すると外為当局が保有するドルを売って防衛に出たのだ。

    (1)「韓国銀行が、9月30日にホームページで公開した「外為市場安定措置内訳」によると、企画財政部と韓国銀行は1~6月にソウル外為市場で38億ドルを売り越した。この内訳はドル売り総額からドル買い総額を差し引いた純取引金額で、実際のドル買い・ドル売りの金額は公開しなかった。韓国銀行は具体的な介入時期は明らかにしなかった。韓国銀行関係者は「外為市場の急激な変動がある時に市場安定化措置を取るというのが外為当局の大前提。為替相場が急に動く時に介入が実施されたとみれば良い」とだけ説明した」

     

    米韓貿易協定では、外為市場へ介入した場合にその金額を公表することになった。韓国は、これまで秘かに為替相場に介入することで有名である。それだけに、米国が釘を刺したものだ。下線を引いた部分では、ドルの売買純額で38億ドルの売越し(ウォン買い越し)となっている。

     

    (2)「今年に入り1ドル=1100ウォン台初めにとどまっていたウォン相場は、4月中旬以降急落。5月17日には終値基準1195.7ウォンと1200ウォン水準に近づいた。1カ月でウォンの価値が5%以上急落する状況だった。外為当局が保有するドルを売って市場に介入したのもこの時期と推定される。市場専門家らは実際の売り渡し金額は韓国銀行が公開した数値よりはるかに大きかったとみている。ある民間専門家は「5月に外為当局は1ドル=1200ウォン水準を超えることに大きな負担を感じ積極的に介入した。ただ売り越し額があまり大きいと困るのでこれを希釈するための取引をしただろう」と推測した。外為当局が4~5月にドルを大量に売った後、再び6月末になる前にドルを買い入れ純取引額(買い越し額-売り越し額)を適正水準に減らした可能性がある」

     

    韓国は、米通貨当局から「要注意国」とされているので、尻尾を捕まれないように注意している。米国は、対韓貿易でさらなる赤字拡大がないように目を光らせているからだ。

     

    (3)「米財務省が定めた為替操作国指定要件の中には、国内総生産(GDP)の2%を超過する外為を6カ月以上買い越すことが含まれている。韓国の今回の外為市場介入は、ドルを売ってウォンの価値急落を防ぐ取引のためこれとは関係がない。韓国のGDP規模1兆5302億ドルの2%は約306億ドルだ」

     

    韓国のGDPからみれば、2%相当額の306億ドルを、6ヶ月以上買い越すことが問題になる。今年上半期では38億ドルの買い越しであり、上限306億ドルには全く問題とならない金額である。



    (4)「外為当局の市場介入は7~8月も上半期に劣らず続いたというのが外為専門家らの意見だ。別の外為担当アナリストは「洪楠基(ホン・ナムギ)経済副首相ら当局者が急激な為替相場変動時に介入するとの意志を示しており、実際に7~8月にも当局の介入の動きが多く見られた」と話した」

     

    日韓関係の悪化から、ウォン相場は1ドル=1200ウォン割れを起こしている。上半期以上の規模でドル売りが行われたことは間違いない。韓国銀行は、半期に1度発表する市場安定措置内訳を、今年7~9月期からは四半期に1度発表する。韓国銀行関係者は「7-9月期の内訳は12月末、10-12月期は来年3月末に四半期別に公開するだろう」としている。7~9月のウォン相場急落で、どの程度の介入があったか注目される。 



     

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    中国は、10月1日の「国慶節」軍事大パレードで、大陸間弾道ミサイルを登場させた。1発のミサイルに10発の核弾頭を搭載できるという恐怖の武器だ。米国を射程に収めた、この大陸間弾道ミサイルによって、米国に屈しないという意思表示をした。

     

    習近平国家主席は、米中貿易戦争の最中にあえて軍事大パレードを行ったのは、国民の不満を「国威発揚」で消し去る狙を込めている。不動産バブルによって、GDP世界2位の座を勝ち得たものの、内部の所得格差は深刻である。

     

    中国は、バブルによって押上げた経済規模の拡大である。正常な経済活動の結果だけではない。バブルという「仮需要」で膨張した経済が、いかなる結末を迎えるか。歴史が示すように、決してハピーなものでなく、逆に不幸な形で終わっている。

     

    これから始まる「不幸な結末」は、最終的に家計の債務膨張が消費を圧迫することである。家計における債務膨張は、中国経済を蝕んでゆく。ここから生じる生活への不満。政府はどのように扱うか。昔ながらに、軍事による国威発揚でしか対処する道はない。中国が、これから辿る危険な道は、軍事的な緊張感を生み出す「新冷戦」である。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月1日付)は、「消える中国の夢、刺激策で広がる不平等」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国の経済改革に着手した鄧小平が、一部の人々が先に豊かになっても構わないと述べていたことは、よく知られている。最終的にだれもが豊かになるのであれば、それは共産党指導者である鄧にとって、払う価値のある代償だったのだ。しかし、まだ豊かになっていない中国人が今後豊かになるのが一層難しくなることを示す兆候は増えている。不平等の度合いは2010年代初めに急激に低下した後、実質所得の伸びが横ばいに推移するなか、再び上昇している。この不平等の広がりによって、中国政府が現在の景気減速に対応することがさらに困難になるだけでなく、アジア地域や世界全体にまで問題をきたす可能性がある」

     

    米中貿易戦争は、中国に大きなプレッシャーをかけている。経済活動を制約しているからだ。米国の要求は、冷静になって考えれば、中国の経済活性化に資するところ大である。イデオロギーの違いが、その受入を拒ませている。惜しいことである。結局、中国は袋小路を選択するに違いない。

     

     (2)「中国経済の2つの小さな変化がそれを物語る。所得の不平等さの指標となるジニ係数は中国で2008年から15年にかけて低下した後、再び急上昇し始めた。2つ目に、2016年以降、住宅価格の上昇はおおむね所得の伸びを上回っており、2011年から15年までと逆の状況になっている。中国の若い住宅取得者には、米国人にはない支援源がある。しばしば両親が支援するという点だ。それでも、彼らの住宅購入は急勾配の道を上るような厳しい状況だ。これが所得を侵食する。調査会社ガベカル・ドラゴノミクスは2018年の家計所得のうち債務返済の占める比率が8.1%に達し、2010年時点の5%未満から上がって、米国に匹敵する水準になったと推測している

     

    所得の不平等さ、住宅価格の値上がりが所得の伸びを上回る矛楯。この二つが、中国経済に構造的な問題を引き起こしている。鄧小平の言うところの「遅れてきて豊かになろうとする人々」に、高いハードルを突付けている。これが、社会的な不満をかき立てるであろう。

     

    (3)「米国で金融危機前のバブル経済が住宅価格を高騰させ、負債と不公平さを拡大したように、政府の政策が一部の責めを負うべきだ。中国の政策立案者らは2012年以降、とりわけ機能不全に陥った銀行システムなどの厳しい改革を何度も回避してきた。中国の銀行システムは資金を起業家たちではなく不動産や国営企業の金庫に流す傾向がある2015年と2018年の景気刺激策は住宅価格を押し上げ、既に住宅を保有している人々を助けることになったが、負債を拡大することになり、中国の経済成長の長期的な鈍化傾向を食い止めることはほとんどできなかった

     

    これまでの金融緩和が実物投資を刺激せず、住宅価格引上げに寄与するだけであった。これは、「金利の罠」という現象である。資産価格高騰のテコとして働き、一時的に景気を潤わしただけであった。長期的な投資資金として流れるパイプが詰まっている。

     

    (4)「中国政府は、住宅価格の急速な上昇を絶え間なく維持していくことは無理だと分かっている。だが、金融システムの不安定化を招く不動産市場の下落も容認できない。思い切った市場自由化に向けた改革や、予想外の生産性向上といった事態が起きなければ、今後10年間の中国では、所得増加のペースが鈍り続け、既に豊かになった階層と、その他の人々の格差は一段と開いていくことになる可能性が高い」

     

    理想論を言えば、中国は貿易戦争を即刻止めて、経済正常化に動き出すべき段階だ。それには、金融システムの強化を図ることだ。その肝心な対策が抜け落ちている。中国経済のテコ入れは困難なのだ。現状は、バブル経済崩壊後という認識を持つべきだ。政策は、ここから出直すべきである。

     

    (5)「長期的には、中国政府は成長鈍化と格差社会の問題を取り繕うために、一層のナショナリズムによる国威発揚に向かうかもしれない。このことはアジアや世界の成長、安定にとって深刻な影響を与えるだろう」

     

    昨日の「建国70年」軍事大パレードは、中国経済の抱える本質的な問題を回避させる役割をするであろう。日本は、昭和恐慌の経済的な痛手を満州進出で糊塗しようとした。中国は、南シナ海の軍事要塞化によって国威発揚を行うのだろう。これからの10年間は、厳しい「新冷戦時代」に突入する危険性が高い。勝敗の帰趨は、言うまでもなく歴史が示唆している。

     

     


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    韓国のサムスン電子は、広東省にある恵州サムスン電子の役員・社員に対し、9月末で工場稼働を停止すると公示したことが分かった。今年6月に恵州工場を対象に希望退職を実施しており、今回の稼働停止は最終措置とみられる。これで、サムスンによる中国でのスマホ生産はすべて終わり、ベトナムとインドが生産を引き継ぐ。

     

    サムスンが、中国生産を打ち切る最大の要因は、賃金コストの上昇である。ベトナムとインドの関連インフラが育成されており、もはや中国に依存する必要がなくなった。中国が、「世界の工場」として発展してきた賃金コスト安の条件消失を意味する。大きな状況変化だ。

     

    代わって中国は、高付加価値品生産に移行したいが、ここにもネックに直面している。高級半導体生産は、米中対立によって「中国製造2025」プロジェクトに暗雲が立ちこめているからだ。中国は、米国によるファーウェイへの輸出禁止で、発展基盤が弱体化している。さらに、サムスンへの半導体技術提携申入れも断られた。こうして、独自開発を宣言せざるを得ない事態へ追い込まれている。

     

    『朝鮮日報』(9月30日付)は、「サムスン電子 脱中国加速化 中国の携帯電話生産ライン完全撤収」と題する記事を掲載した。

     

    サムスン電子が脱・中国の動きを加速化させる。中国にある最後の携帯電話生産ラインを完全に撤収した後、ベトナム、インドを主力生産基地として育成する。

     

    (1)「サムスン電子は今年6月に恵州工場を対象に希望退職を実施しており、今回の稼働停止は最終措置とみられる。恵州工場は韓中が国交を正常化した1992年に稼働を開始し、2017年時点で年間約6300万台の携帯電話を生産している。これはサムスン電子が全世界で生産しているスマートフォンの17%に当たる。中国で生産されていた物量のほとんどはベトナムとインド工場に割り振られる」

     

    ベトナムとインドが、スマホでは中国の代替生産基地になった意味は大きい。中国は、周辺国に比べて、部品製造インフラの強味を強調してきたが、ついに追いつかれた。これは、中国にとって痛手だ。高付加価値化製品への技術がまだ育っていないだけに、この技術的空白がショックであろう。米国と貿易戦争するタイミングが悪かったと言うほかない。

     

    (2)「サムスン電子が中国で携帯電話の生産ラインを撤収するのは、中国で直接生産することがこれ以上プラスに働かないとの判断を下したためと解釈される。サムスン電子はこれに先立ち昨年12月末に天津の携帯電話工場を閉鎖している」

     

    サムスンの天津工場もすでに閉鎖された。

     

    (3)「中国はかつて「世界の工場」と呼ばれ、韓国企業の製造業基地の役割を果たしていた。しかし、今年に入り中国の1人当たりの国内総生産(GDP)が1万ドルに達するなど、人件費の上昇が続いている。実際に恵州工場の場合、2008年には1894元(現在のレートで約28600円)だったが、18年時点では5690元(約86000円)水準になっている。サムスン電子の中国でのスマートフォンのシェアは1%台で、これ以上の上昇は困難との分析だ。サムスン電子は今後、中国では自社生産ではなくODM生産方式(製造する製品の設計から製品開発までを受託者が行う方式)を拡大するとみられる」

     

    下線を引いた部分は、10年間で賃金が3倍にも上昇しているが、生産性がそれに見合って上がらない限り、賃金コストは上昇する。これでは、採算悪化は当然だ。スマホ生産が象徴するように、中国での低付加価値品生産はコスト割れになっているはず。中国企業では、秘かに政府補助金が支給されていると暴露された。このWTO(世界貿易機関)違反の補助金が、中国工業を支える末期的症状を呈している。

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    国際格付け企業のS&Pは、日韓貿易戦争が拡大されれば、韓国が不利というレポートを発表した。日韓の貿易戦争激化は、中国を含むテクノロジーのサプライチェーンを混乱させる可能性があり、市場が織り込んでいる以上の大きな波及効果を及ぼすという内容だ。

     

    日本政府は、民生品について従来通りの輸出を許可するという態度を明確にしている。それだけに、実際の輸出許可が出ないというケースは想定しにくい。ただ、S&Pがこういう予測をしていることを知るのも参考になろう。

     

    『ブルームバーグ』(9月27日付)は、「日韓貿易戦争、市場の想定上回る大きな問題ーS&Pが警告」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「S&Pのアジア太平洋チーフエコノミスト、ショーン・ローチェ氏は東京都内でのインタビューで、影響を受けない勝ち組も株式市場に見られるかもしれないが、進行中の対立はグローバルに波及すると分析。日本が輸出許可を付与しないケースがあれば、韓国は生産を縮小するか重要な原材料確保で「相当高い」支払いを迫られるだろう指摘。最終的に中国にも影響すると付け加えた」

     

    下線を引いた部分は、日本が輸出許可を出さない場合、韓国だけでなく中国にも大きな影響が出るだろうというものだ。日本の半導体素材が韓国で半導体製品になり、それが中国へ輸出されるという連鎖が成立している。常識的に言えば、ここまで騒ぎが大きくなることを予見できる日本が、黙って輸出不許可にするケースは、よほどのことが起こっていると見るべきだろう。 

     

    (2)「同氏は、「日韓の2国間貿易の妨げになるものがあれば、中国のテクノロジーサプライチェーンが混乱に陥る。上流での小さな混乱であっても、下流に行けば極めて大きなインパクトが生じ得る」との認識を示した。最善のシナリオは今回の日韓対立が完全になくなることだが、たとえ対立が解消されても長期的に信頼の問題は残る可能性があるとも分析。ローチェ氏は「両国間の信頼とグローバルな取引システムへの信頼に持続的なダメージを与えことになるだろう。すでにわれわれはそれを目にし始めている」とし、「信頼感が低下し、企業のリスクと戦略についての考え方に恒久的な影響を及ぼす」と警告した」

     

    韓国側は、日本からの輸出困難に備えて代替品の試験使用を始めていると報じられている。同じ成分でも、生産過程で使用してみれば、いろいろと不都合な点が出てくるという。人間と同じように微妙な点で異なり、製品歩留まりに影響が出るという。サムスンでは、日本製品への強い拘りをアッピールしている。その影響かどうか分らぬが、これまでの輸出許可ではサムスンが優先されている。

     

    (3)「S&Pは、韓国の方が日本よりも厳しい状況に見舞われる可能性があるとみる。同社は韓国の経済成長率を今年が2%、2020年は2.6%と見積もっているが、現在の「膠着」が続けば、直接的な混乱が最小にとどまっても、同成長率見通しに緩やかな下振れリスクが生じるだろうとしている。日本への影響については、10月の消費増税後に見込まれる景気減速を悪化させる可能性はあるものの、韓国よりも「マイルド」とみる。S&Pによる日本の成長率予想は19年が0.8%、20年が0.1%」

     

    日本では、半導体3素材の対韓向け輸出が全体の「0.001%」という。韓国の半導体輸出の全体に占める比率は「25%」とされている。これが、中国へ輸出されれば、さらに大きな比率を占めるはずだ。このように、素材ベースの影響が製品組立の最終段階になれば、はるかに大きな影響を及ぼすことは自明。韓国側も戦略物資の管理には責任を伴う。

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    中国は、きょう10月1日で共産党指導の「建国70年」を迎える。大規模な軍事パレードによって、内外にその威容を示すということだ。だが、軍事力しか誇れるものがないとすれば、それはそれで哀しいことであるに違いない。国民の言論を厳しく制約し、香港では死に物狂いで「自由」への闘争が行われている。アンバランスな建国70年と言わざるを得ない。

     

    習近平氏の国家主席就任以来、国民弾圧路線が鮮明になっている。中国経済に綻びを生じている結果である。胡錦濤時代まで見られた、部分的な「自由化路線」はすでにその影も見られない。米国が、期待していた「民主化」路線は取り払われている。米中対立の火種は、この「民主化」期待が完全に消え去ったことへの失望である。

     

    中国にとって最大の不幸は、中国経済が最盛期を過ぎた段階で、米国と対決する舞台を選んだことだ。ここで言う最盛期(人口ボーナス期)とは、総人口に占める生産年齢人口比が2010年であったという事実である。2010年まで、中国経済は破竹の勢いで成長を続けてきた。2011年以降は、その生産年齢人口比率が下降局面(人口オーナス期)に入っており、経済の最盛期は過ぎたのである。

     

    日本の例で言えば、人口ボーナス期の最終局面は1990年である。日本は、それまでに社会保障の基盤づくりを終えていた。国際収支面では、資本自由化も変動相場制への移行も済んでいた。中国では、これら諸点が未だ終わっていないことだ。中国の経済成長率が急落していく中で、前記の問題をどのようにクリアするのか。軍事パレードをしている精神的ゆとりはないはずだ。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(9月30日付)は、「中国、偉大なる復興への『長い道のり』」と題する社説を掲載した。

     

    (1)「中国は101日に建国70周年を祝うが、過去の業績と現在の試練がこれ以上ないほどの対比をみせている。根深い構造問題がますます重荷となり、中国経済は減速している。米国との関係は貿易戦争が一因で疑いようもなく敵対的になっている。香港は中国の独裁的支配にあらがう民主化デモにのみ込まれ、台湾は来年の総統選で独立派の候補を選出しそうな状況だ」

     

    下線部分は、中国の抱える根本的な問題である。雪だるま式に増える過剰な債務を返済する道がない。最近、IT企業へ地方政府官僚を大量に送り込んでいる。その理由は、私営企業を公有化して資産を吸い上げる準備作業とも観測されている。中国経済は、ここまで追い込まれているのだ。

     

    (2)「中国の習近平国家主席が、今月行った演説の公表テキストで、「闘争」という言葉を60回近く使ったことは驚くにはあたらない。それでも、中国政府は直面する試練にひるむ様子は見せず、立ち向かう決意を示す。「我々は闘争で勝たねばならない」と習氏は語っている。習氏の目標は長期的だ。中国は2049年までに「中華民族の偉大なる復興」を果たすと、習氏は公約している。経済と領土の両方の意味を込めた言葉だ。経済面では中国が「完全に開発された」国となり、米国を抜いて世界最大の経済大国になることを意味する。領土面では、1949年の革命後に本土から分裂した台湾の再統一を意味する」

     

    習近平氏は、市場機構に信頼を置いていない。市場機構による自然調節機能が、理解できないのだ。これは、経済運営コストを著しく引き上げる点で最悪の手法である。中国が、2049年までに偉大な復興を遂げるには、市場機構を利用するしかない。その肝心の手法を信じていないとすれば、世界覇権論は空中分解する。

     

    (3)「本質的に、中国は数々の「闘争」において旧来の独裁主義的な反応を強めることで対処しようとしている。先週公表された政府の政策文書が、この点を端的に示している。「中国の広大な領土と複雑な国状により、中国の統治には固有の困難がある」と文書に記されている。「中央に一元化された堅固な指導力がなければ、中国は分裂と崩壊に向かうであろう」。柔軟性を高めたほうが国益に資する可能性がある場合にも、厳しい硬直的な政策が採られることが増えている。中国の過去40年間の輝かしい経済的成功は主として経済改革と外資への開放、柔軟で実利的な外交政策から生まれたにもかかわらず、である」

     

    中国は、「闘争」によって内外の問題を解決できる訳でない。まさに、市場機構という「自然調節」機能に委ねるしかないのだ。こうした柔軟な発想法を持てない限り、内外の諸課題の解決は不可能である。中国は、2049年の建国100年を盛大に迎えることができるか。現状では困難と見るほかない。

     

     

     

     

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