勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    韓国は今、日韓関係修復がいかに重要であるかを肌身で知ったようである。米中対立が激しくなると共に、米国は日本を最重要同盟国として遇せざるを得ない立場だ。それは、日韓関係において、韓国側よりも日本側の意向を重視することである。文政権時代、南北交渉が上手く行かなかった裏に、日本側の協力がなかったという厳然たる事実に直面した。

     

    韓国はこれまで、外交面で日本を軽く扱ってきた。旧慰安婦問題では、米国を通して日本へ圧力を掛ければ解決できると思い込んできた。だが、韓国は解決済みの慰安婦問題を自ら踏みにじり、無効にしてしまい米国から不信を買い立場が逆転している。もはや米国頼みで、日本へ圧力を掛けることが不可能になったのだ。

     

    『韓国経済新聞』(2月11日付)は、「強制徴用賠償、戦犯企業の参加がカギ岸田首相の決断が必要」と題する記事を掲載した。国民大の李元徳(イ・ウォンドク)日本学科教授へのインタビューである。

     

    韓日関係の正常化は尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が掲げた主要外交政策の一つだ。特に上半期の訪米を控え、この問題を終えて韓日米の連携をより一層強め、韓日首脳間のシャトル外交を復元するというのが尹大統領の期待だ。5月に広島で開催される主要7カ国(G7)首脳会議にも招待国として出席することが検討されている。しかし現在、強制動員交渉は基金に日本企業が参加するかどうかをめぐり両国間で隔たりがある。

     

    (1)「(質問)尹錫悦政権での対日政策は文在寅(ムン・ジェイン)政権当時とは大きく変わった。尹政権が韓日関係の改善に取り組む理由は。(答え)尹錫悦政権は韓日関係の不必要な悪化によりグローバル外交戦略に支障が生じていると考えているようだ。特に対米外交をより一層活性化するために、日本との関係正常化が必要だと判断したとみられる。韓日関係は単純な2国間関係で見るよりも、韓米関係の中に隠れたヒドゥンコードと見ることができる。韓日関係が悪い時、韓米関係は円滑に進まないからだ。米国も韓日を一つのセットとして見る傾向が強い

     

    冷静に考えれば、GDP世界3位の日本外交が、GDP世界10位の韓国外交に左右されることはあり得ない。逆はあっても、小が大に影響を与えられるはずがない。それが、国際外交の現実である。韓国もようやく、これに気づいたのであろう。

     

    (2)「(質問)なら、日本を外交的に活用する必要がありそうだが。(答え)実際、日本は韓国にとって大きな外交的資源であり空間だ。うまく活用すれば東京はワシントンに緊密に接近できる通路となり、北京に行く重要な経路となり得る。さらに北との関係でも日本を外交的に活用することができる。また、米国や中国に比べて韓国の外交が動ける空間が相対的に大きい。こうした認識は現政権内にもあると聞いている」

    韓国は、隣国・日本を飛び越えて対米・対中の外交を行えないという現実に直面しているのだろう。文政権時代は、全く逆の発想であった。「反日」を叫べば、日本がビクビクするという前提であった。こういう小児的な外交術は、もはや通用しない現実が、韓国外交を襲っているのだ。

     

    (3)「(質問)国内では依然として日本を親日と反日の構図で見る傾向がある。(答え)19世紀のパラダイムだ。例えば、我々が反日に固執しながら戦略的利益を追求できるのなら反日も悪い選択ではないだろう。しかし現実はそうでない

    反日を叫べば、日本との関係悪化はもとより、対米・対中の外交も上手く行かないという現実を指摘している。

    (4)「(質問)日本の韓国に対する態度も大きく変わった。日本政府が見る韓国の戦略的価値は。(答え)安倍政権当時に、日本が韓国に対する戦略的比率を大きく低めたのは事実だ。日本は、韓国の過去の政権が強硬態度を見せて協力の空間が狭まったという。そして、米国とは緊密な関係を維持しながら韓国を排除する動きを見せた。米国と日本が主導するインド太平洋戦略の枠組みでみると、韓国の位置づけは非常にあいまいだ」


    韓国が、「クアッド」(日米豪印)に参加できないのは、文政権が拒否したことが大きな理由だ。同時に、反日を叫ぶ韓国をクアッドへ入れないという日本の意向も強く働いている。日本は、旭日旗を拒否する韓国軍と合同演習できるはずがないからだ。踏み絵は、韓国が旭日旗を認めるかどうかだろう。

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    中国の家計は、消費に慎重である。1月の貯蓄残高は、6兆2000億元(約120兆円)と、統計で確認できる2005年以降で最高となった。ゼロコロナが打ち切られたものの、未だ先行きが不確実な現在、収入は使わずに貯蓄する緊縮姿勢が続いている。

     

    2022年末時点で、預金残高と貸出残高の差は44兆5100億元(約871兆円)となり、年末時点で比べると遡れる1997年以降で最大であった。景気の先行き不安が強く、預金の伸びが貸し出しの伸びを上回ったもの。金融面で見た中国経済は、混乱が続いている。消費者は、先行き見通しが付かない限り、財布のヒモを緩めることはない。

     

    『日本経済新聞』(2月11日付)は、「中国家計のひも堅く 1月の貯蓄増 過去最高に」と題する記事を掲載した。

     

    中国で家計の貯蓄志向が根強く残っている。1月の新規貯蓄は6兆2000億元(約120兆円)で、確認できる2005年以降で最高となった。新型コロナウイルスを封じ込める「ゼロコロナ」政策が終わり外食や旅行などが持ち直しつつあるが、家計は慎重な姿勢を崩していない。持続的な消費回復には雇用や所得の改善が欠かせない。

     

    (1)「中国人民銀行(中央銀行)が10日、1月の金融統計を発表した。現預金総額(M2)は前年同月末から12.%増えた。16年4月以来の高い伸びとなった。中国では、春節(旧正月)休暇に入る前に従業員にボーナスなどを支給する企業が多い。春節前は他の時期と比べて貯蓄が増えやすい。22年も1月に新規貯蓄が膨らみ最高を記録したが、23年1月は前年同月をさらに15%上回った」

     

    春節前の1月にボーナスが支給される。従業員は、使わずにそのまま預金している形だ。1月の現預金総額が、前年比12.6%増である。将来のことを考えると、消費を控えているのであろう。

     

    (2)「中国の証券会社、広発証券は「住宅や耐久消費財の購入需要の戻りが鈍い」と分析する。住宅ローンが大半を占める家計による中長期資金の借り入れは1月、前年同月比7割減少した。昨年から続く2ケタ減の傾向に終わりが見えない。対照的に、企業による中長期資金の借り入れは7割伸びた。前年同月の3.6倍だった22年12月に比べて増加率は鈍ったが、22年8月以降2ケタ以上の伸びが続いている。政府が景気のテコ入れへ国有銀行を動員して、国有企業向け融資を増やしているとみられる」

     

    家計による中長期資金の借り入れは、住宅ローンが大半を占める。1月の中長期資金の借り入は、前年同月比で実に7割も減少した。住宅販売に動意が見えないのだ。新規に住宅を求める層が、減っている証拠である。これまでも住宅需要の過半が、値上りを見込んだ投機であった。これが手控えられれば、住宅販売に動きなどあるはずがない。

     

    『日本経済新聞 電子版』(2月10日付)は、「中国新車販売 1月は35%減 春節変動や減税終了響く」と題する記事を掲載した。

     

    中国汽車工業協会が10日発表した1月の新車販売台数は、前年同月比35%減の164万9000台だった。前年実績を3カ月連続で下回った。春節(旧正月)に伴う大型連休の影響で来店客数が減ったほか、減税や販売補助金が2022年末に打ち切られた反動もあり、多くの企業の販売が落ち込んだ。

     

    (3)「販売内訳は乗用車が32.%減の146万9000台、商用車が47.%減の18万台でともに振るわなかった。春節連休が前年より早く1月に食い込み、販売店の客足が落ち込んだ。ガソリン車の乗用車を対象とする自動車取得税の減税が22年末に終わった反動も出た。電気自動車(EV)などの新エネルギー車は6.%減の40万8000台で、20年6月以来のマイナスになった。春節休暇の影響に加え、新エネ車が対象の販売補助金が22年末で打ち切られたことも響いた。輸出は30.%増の30万1000台だった」

     

    ガソリン車もEVも、それぞれ自動車取得税減税や販売補助金が22年末で打ち切られたので、今年の1月は反動減に見舞われている。

     

    (4)「企業別ではEV大手の比亜迪(BYD)が6割増でプラスを確保したが、2.4倍だった22年12月に比べ伸び率は縮んだ。中国民営大手の吉利汽車は3割減、独フォルクスワーゲン(VW)の現地合弁会社である上汽VWは4割減だった。日系大手もトヨタ自動車が2割減、ホンダと日産自動車は6割減と苦戦した。汽車工業協会は13月の国内自動車産業の見通しについて、「安定成長は非常に困難で、消費回復はまだ遅れており、政策による持続的な後押しが必要だ」と指摘した」

     

    EVでは、BYDの好調が続いている。他のメーカーは、大きく落込んだ。その中で、トヨタは2割減と落込み幅が浅かった。汽車工業協会は、1~3月について悲観的な見方で、政策支援の必要性を訴えているほど。春は遠い感じだ。

     

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    黒田日銀総裁に代わる新総裁候補に、植田和男氏が内定した。国会の承認を得て4月に就任する。黒田総裁が悲願とした消費者物価の上昇率は現在、4%を上回っている。これをテコに、賃上げも4%以上を実現して日本経済も好循環過程へ入れるお膳立てが揃う。ここまでくるのに「10年」かかった。

     

    この後を継ぐのが植田氏である。金融理論の専門家と同時に、日本銀行の政策審議委員も経験している。その意味で、理論と実務に精通した得がたい人材であることは間違いない。植田氏は、住宅バブルの実証研究をされたことがあった。それによると、生産年齢人口比率がピークになる前の数年間、多くの国で住宅バブルが起こっていると指摘した。こうした実証研究が、植田氏の真骨頂である。金融政策の運営でも手堅い手法を発揮するはずだ。

     

    『日本経済新聞』(2月11日付)は、「異次元緩和、出口へ重責 日銀総裁に植田氏起用へ 修正、理論派に託す」と題する記事を掲載した。

     

    政府が日銀の次期総裁に起用する方針を固めた植田和男氏を待ち受けるのは、10年続いた異次元緩和の手じまいという重責だ。マイナス金利政策や国債の大量購入を続けてきたが、成長と物価上昇の好循環は実現できず、市場機能の低下などの副作用が無視できなくなっている。国内屈指の金融政策の研究者である植田氏のかじ取りに市場の注目が集まる。

     

    (1)「歴代最長となった黒田東彦総裁の後任選びは難航した。政府が本命視していた雨宮正佳副総裁は、今後の金融政策に新しい視点が必要だと就任を固辞したためだ。政府が最終的に頼ったのが植田氏だった。経済学者でありながら実務経験もあり、現在の金融政策に精通していると判断した」

     

    誰が後任になっても難しいポストである。金融理論と実務を組み合わせた政策が、投機の国債売り筋に対抗する上で必須になっている。まさに、「チーム日銀」が総力を挙げて対応する局面である。

     

    (2)「日銀の異次元緩和は前例のない実験だった。国債の大量購入で、日銀の国債保有額は13年3月の125兆円から23年1月の583兆円へと4倍超に拡大。発行済み長期国債の5割以上を買い占めた。上場投資信託(ETF)の保有額(簿価ベース)も1.5兆円から36.9兆円に増え、多くの上場企業の主要株主になる異常事態となった。22年12月に日銀が副作用を解消するために長期金利の上限を引き上げると、金融政策の出口を見込んだ市場との攻防が激化した。1月の国債購入額は23兆6902億円と過去最多に達した。次期総裁は異例の混乱のなかで就任を迎える」

     

    日銀の異次元緩和が、アベノミクスを推進させた原動力である。お陰で、失業率は低く維持されたが、企業は生産性に匹敵する賃上げを忌避して,内部留保に逃げ込む超安全策に終始した。賃上げは、日銀の管轄外であるゆえマイナス金利が長期に及んだ。日銀の保有するETFの処理は、年金保有もあり得ることだ。知恵を出せば、解決策は出てくる。

     

    (3)「植田氏はマサチューセッツ工科大学で経済学の博士号を取得し、金融政策の理論に精通する。1999年のゼロ金利政策や2001年の量的緩和政策の導入に審議委員として関わった。異例の政策の導入を理論的に支えたのが植田氏だった。植田氏は22年7月の日本経済新聞の「経済教室」で「異例の金融緩和枠組みの今後については、どこかで真剣な検討が必要」との考えを示した。一方で拙速な引き締めには警鐘を鳴らすバランス感覚をあわせ持つ」

     

    植田氏は、理論と実務の経験を生かして、バランスの取れた政策を打ち出すであろう。その点で、危惧する点はない。

     

    (4)「10年目の異次元緩和政策には課題が多い。物価上昇率は22年12月に4.%となり、日銀の物価目標の2倍に達した。ただ、エネルギー価格の上昇や円安などの要因が大きく、賃上げを伴いながら物価が持続的・安定的に上昇していくという日銀の目指した姿はいまだに実現できていない。政策の限界が近づくなか、海外の投機筋は金融緩和の縮小を見込んで国債を売り続けている。日銀の国債購入の副作用で「(債券市場の)流動性の低下などは続いており、日銀はこの点を無視できない」(米ニューバーガー・バーマンのフレディリック・レプトン氏)との見方がある」

     

    最大のカギは、今春闘でどの程度の賃上げが実現するかだ。それを見ないで、今後の金融政策を議論することは無理である。ただ、金融緩和だけに視点を合わせるべきでない。

     

    (5)「日銀が13年に政府と結んだ共同声明の見直しも焦点だ。物価2%目標を「できるだけ早期に実現する」という文言が、緩和一辺倒の硬直的な政策運営につながったとの指摘がある。岸田文雄首相は「見直すかどうかも含めて新しい日銀総裁と話をしなければならない」との立場だ。植田氏の判断に注目が集まる。政策修正を探るにしても、経済・物価への影響を見極めながら慎重に進めざるを得ない。金利上昇は家計や企業の負担増に直結するためだ。国債残高が1000兆円規模に膨らむ財政への影響も大きい」

     

    国債残高1000兆円規模は、どのように処理するのか。永久国債論も話題に出ている。ただ、財政規律をどのように保つかが問われる。同時に、日本経済の活力を維持する政策に何が必要か。そのような視点で財政を組み直せば、1000兆の負担を跳ね返せるか。そういう「回答」も描ける筈だ。

     

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    主要7カ国(G7)が、昨年12月にロシア産原油の輸入価格に1バレル=60ドルの上限制度を設けた。この結果、ロシアはこの1月の石油輸出収入が、前年比で40%も減少する事態になった。この大幅減収分が、原油輸入国などの「反射利益」となって転がり込んでいる計算になる。最大の受益者は、中国・インドのほかに海運会社という。

     

    『ロイター』(2月10日付)は、「制裁でロシア石油収入減少、『反射的利益』流れ込む先は」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアはウクライナ侵攻を巡る欧米からの経済制裁により、政府の石油収入が大きく目減りした。この何百億ドルという金額を思わぬ形で流入しているのが海運、製油という2つの業界だ。だが、その中にはロシア系企業の影もちらつき、制裁効果を実質的に弱めている面は否定できない。

     

    主要7カ国(G7)が昨年12月にロシア産原油の輸入価格に上限制度を設けたことを受け、ロシア財務省が発表した1月の石油輸出収入は前年比で40%減少した。

     

    (1)「カーネギー国際平和財団の非常勤研究員、セルゲイ・バクレンコ氏は「公定価格が低くなったことでロシアの国家予算はここ数週間、苦境に置かれている」と話す。一方、通関統計に基づくと、こうした状況がもたらすメリットの一部はインドと中国の製油業者に波及しているが、最大の利得者は海運業者と仲介業者、そしてロシア企業であるはずだと付け加えた。バクレンコ氏はロシア石油会社・ガスプロムネフチの元戦略責任者で、ウクライナの戦争が始まった後に退職し、ロシアからも出国している」

     

    ロシア産原油価格には、G7によって1バレル=60ドルという上限が設けられた。ロシアは、これによって輸出価格を引下げざるを得なくなっている。この値引き分が、中国・インドのほかに輸送する海運業者などに流れている。

     

    (2)「欧米の対ロシア制裁は、恐らく一国への措置としては最も厳しい。米国とEUがロシア産エネルギーの購入を全面的に禁止するとともに、輸出価格が1バレル=60ドル以下でない限り、世界のどこにもロシア産原油を船で出荷してはいけないと定められた。これに伴ってロシアは、原油と石油製品のほとんどの輸出先をアジアに切り替え、インドや中国の買い手に対して、競合する中東産などよりも大幅に価格を引き下げている。また、船舶輸送や輸出価格の制限で買い手が取引に慎重になっている上に、自前の船団で全ての輸送を賄えないロシアとしては、多額の輸送費も負担せざるを得ない状況だ」

     

    ロシアは、窮地に立たされている。自国産原油の売り先は、アジアに限られており、輸送費まで負担する状況に追込まれているのだ。

     

    (3)「1月終盤時点で、ロシアの石油企業がインドと中国の買い手に提示した原油の値引き幅は、1バレル当たり15~20ドルだった。取引に関わった少なくとも10人のトレーダーやロイターが確認したインボイスから判明している。それだけでなくロシア側は、自国から中国ないしインドまで原油を輸送する費用として、1バレル当たり15~20ドルを支払った。結果としてロシアの石油企業が1月に国内の港で受け取ったウラル原油の代金は、1バレル=49.48ドルと前年から42%も減少。北海ブレント価格の6割程度にとどまった、とロシア財務省が明らかにした」

     

    ロシアは、原油価格を1バレル当たり15~20ドル値引きし、さらに輸送費用として、1バレル当たり15~20ドルを支払っている。こうして、ロシアの手取りは、1バレル=49.48ドルと前年から42%もの落込みだ。ロシア財政には、大きな痛手だ。

     

    (4)「ロシアの2022年の原油生産量は、日量1070万バレルで、原油と石油製品の輸出量が700万バレル。これに値引きや追加費用を加えて計算すると、今年の同国石油会社の収入は数百億ドル単位で減少することになる。国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長は5日、価格上限制のためにロシアの石油収入は1月だけで80億ドル減ったと述べた。ところが、こうした減収分のある程度がロシア企業に流れているので、同国の生産者や政府に本当はどの程度痛手だったのか、正確に数値化するのは難しい」

     

    ロシアは、今年の原油収入が数百ドル単位で減少するという。IEAによると、1月だけで80億ドルの減収に落込んだ。年に換算すると960億ドルの減収になる。これは、大変な事態だ。ロシアは、3月から5%の減産を発表している。狙いは、国際市況を押上げることであろうが、ロシア産原油価格には60ドルの上限制が引かれている。となると、中国やインドへ値上げ圧力を掛ける目的か。

     

    (5)「ロシアによる大幅な値引きで、インドと中国の製油業者も大助かりだ。インドのロシア産原油輸入は、ここ数週間で日量125万バレル超と過去最高を更新。販売価格が1バレル当たり15ドル前後安くなっているため、インドは購入代金を月間で5億ドル以上も節約できている。ボルテクサ・アナリティクスの中国アナリスト、エマ・リー氏は、昨年4月から今年1月までの中国のロシア産原油輸入が日量180万バレル強になったと話す」

     

    インドは、購入価格が1バレル当たり15ドル前後安くなっているので、最近は日量125万バレル超と過去最高を更新するほど。中国も、昨年4月から今年1月まで、日量180万バレル強の輸入になっている。この両国は、ロシア産原油価格の値下がりでメリットを享受している格好だ。

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    韓国は、年功賃金制・終身雇用制のために転職が極端に制限されている。企業は、新規採用に慎重であり、今年の新規採用は10万人強と予測されている。今年、卒業する大学生は即、卒業=失業という憂き目に遭いそうだ。何とも理不尽な話だが、韓国特有の「既得権益」にしがみつく、大手労組の身勝手が労働改革を阻んでいる結果である。

     

    韓国と反対の極にあるのが、米国の労働市場流動化である。米国は現在、大手IT企業で解雇の嵐に見舞われているが、一般求人状況は活発である。韓国も米国流に労働市場を流動化すれば、大学卒業=失業という不幸な目に遭わずに済むであろう。考え違いが招いた韓国の悲喜劇である。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月10日付)は、「米労働市場の実態、大量解雇か採用ブームか」と題する記事を掲載した。

     

    金利上昇やインフレ高止まりに加え、リセッション(景気後退)懸念もくすぶる。それでも、米国では雇用創出にブレーキがかかっていない。

     

    (1)「足元の雇用ブームをけん引しているのは、米経済で大きな規模を占めながらも、見過ごされることの多い業種だ。レストラン、病院、高齢者施設、保育所などでは、ようやく人手不足が解消されつつある。新型コロナウイルス流行からの回復局面が終盤に差し掛かっているためだ。こうした新規雇用はアマゾン・ドット・コムやマイクロソフトなど、巨大企業が発表した人員削減を補って余りある」

     

    IT大手のアマゾン・ドット・コムやマイクロソフなどは、人員整理に躍起となっている。ソフト産業リードの社会から、再びハード(製造業)への回帰が見られという予測が生まれている結果だ。そうなれば、貴重な人的資源は再配置されなければならない。

     

    その第一波が始まったと見られる。そこで生み出された過剰人員は、先ずはコロナ禍で削減されたサービス業の不足人員の充足に向けられている。政府が口出ししなくても、労働市場の流れがそれを自然に決めているのだ。韓国もこういう「流れ」を参考にすべきであろう。強硬労組に、人的資源配分のカギを渡すことは間違いなのだ。

     

    (2)「ヘルスケアや教育、レジャー・ホスピタリティー、ドライクリーニングや自動車修理といったサービス業の雇用は、民間部門全体の約36%を占める。これらサービス業は過去半年に合計で119万人の雇用を創出しており、同期間における民間部門全体の伸びの63%を占めた。この割合はそれ以前の1年半の47%から上昇している。対照的に、ハイテクを中心とする情報セクターが民間部門全体の雇用に占める割合は2%で、直近は2カ月連続で雇用を削減している」

     

    サービス業は、個人生活のサポート役である。この分野の求人が増えているのは、国民生活の正常化を象徴している。韓国財閥企業ではかつて、クリーニングやパンなどの業種まで進出して社会問題になった。年功序列・終身雇用の弊害が、ここまで及んだ結果である。

     

    (3)「日常生活に密接に関わるサービス業で、採用が活発化していることは、2200万人の雇用が失われるなど、コロナ禍初期に最も深刻な打撃を受けた同業界の回復局面が継続していることを示している。これが米経済全体を下支えし、景気後退を回避できるかもしれない。雇用の伸びを押し上げているのは、店舗閉鎖や対人距離の確保といったコロナ関連規制の影響で人員削減を実施していたホテルや病院、レストランなどの業種だ。いったん経済活動が再開すると、需要が急増。一転して採用を急いだものの、新規スタッフをなかなか確保できず、既存スタッフの維持にも苦慮していた」

     

    コロナ関連規制の影響で人員削減したホテルや病院、レストランなどの業種で求人ラッシュになっている。米国経済の回復が、本物であることを物語っている。解雇された労働者は、直ぐに再就職しているのか。それが、「解雇ウエルカム」というほど、再就職が直ぐに決まっているのだ。

     

    『ブルームバーグ』(2月10日付)は、「解雇するならどうぞ、失職を歓迎する米労働者もー新たな機会と解釈」と題する記事を掲載した。

     

    ウォール街シリコンバレーで人員削減の嵐が吹く中、小規模ながら声高に自己主張する一部労働者のムードはこんな感じだ。

     

    4)「解雇されることは普通、社会人生活で最大の危機の一つだが、最近の労働市場の奇妙な不一致が職を失う従業員の重荷を軽減している。米アルファベットやマイクロソフト、アマゾン・ドット・コムといった大手テクノロジー企業などで数万人規模の削減が行われる一方で、失業率は1969年以来の水準に低下している。一部の労働者は失業について、よりのんびりとした立場をとり、嫌いな職種から逃れ、趣味に費やす時間を増やし、最終的により良い機会につながる道と見なしている」

     

    解雇が出そうだという噂で再就職先を見つけているケースもある。解雇手当3ヶ月を支給され、解雇の翌日から新しい勤め先へ出勤している例があるのだ。

     

    (5)「ブルームバーグ・ニュースの委託でハリス・ポールが1月行った調査では、Z世代の2割近くとミレニアル世代の15%がきょう解雇されても「ハッピー」だろうと回答した。力強い労働市場が解雇の不安を払拭してくれているという部分もある。入手可能な最新統計では、失業者一人に対する求人件数は1.9件に近かった。求職者と雇用主をつなぐオンラインプラットフォームを運営するジップリクルーターによると、最近採用された人の半数以上は、1カ月以内に新しい仕事を見つけている」

     

    Z世代(1980~1995年の間に生まれた世代)や、ミレニアル世代(1996~2015年の間に生まれた世代)の約20%は、解雇されてもハッピーだろうという。つまり、30代から40代の層は、体力・知力に自信があるから、新天地で再就職できるという自信がある。これは、年功序列・終身雇用で守られていないからこそ生まれる自信であろう。韓国でも、こういう気概を持たせるには、年功序列・終身雇用で囲っていてはダメなのだ。

     

     

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