勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    在日本の中国大使館は29日、日本人向けの渡航ビザ(査証)の発給手続きを同日から再開すると発表した。この問題の発端は、日本が中国のコロナ感染急増に対して、日本入国の際にコロナ検査することに不満を示したものである。日本は、今なお依然として中国人に対して入国の際の検査を続けているのだ。それにも関わらず、中国は日本人へのビザ発給を再開したもので、中国が折れてきたのだ。

     

    中国政府は1月10日、日本と韓国を狙いビザ発給停止を発表した。中国外交部の汪文斌報道官は、「少数の国がわざと中国に差別的入国制限措置をした。中国は対等な措置をする」と明らかにした。こういう中国の理屈付からすれば、ビザ発給再開はできない筈である。それだけに、中国側に困った事情が発生したものと見るほかない。具体的には、次のような問題が起こっている。

     

    日本とオランダは、中国による先端半導体関連装置へのアクセスを制限する米国の取り組みに参加することで合意した。中国の半導体製造能力構築を阻止目的だ。自民党の青山繁晴参院議員は、中国からの報復が「100パーセントある」との見解を示したほどである。それが、全く逆の「ビザ発給」という事態へ展開している。このシグナルをどう読むかだ。中国が、半導体製造装置への「緩和」を要請しているのであろう。

     

    一方、韓国へは「ビザ発給停止」を続けている。日韓ともに中国へのコロナ対策は同じである。それにも関わらず、「プラスとマイナス」という別のシグナルを送った。韓国には「日米韓台」の半導体連合へ加わるなというけん制であろう。中国の見方では、日本をけん制するのはもはやできないが、韓国は可能というのだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(1月29日付)は、「中国、日本人へのビザ発給再開 ビジネス交流活性化狙う」と題する記事を掲載した。

     

    在日本の中国大使館は29日、日本人向けの渡航ビザ(査証)の発給手続きを同日から再開すると発表した。春節(旧正月)の大型連休が終わり、新型コロナウイルスを封じ込める「ゼロコロナ」政策で減速した国内経済を早期にテコ入れするため、日中間のビジネス交流の活性化を狙ったとみられる。

     

    (1)「日本政府が中国からの渡航者への水際対策を強化したことを受けて、中国政府は10日からビザの発給業務を停止した。具体的には、公務や一部の商用ビザなどの例外を除き、発給手続きが止まっていた。中国の国家移民管理局も同日、第三国への乗り継ぎに際し、一定期間のビザなし滞在を許可する制度を再開すると発表した。同制度は11日から停止していた。今回の発給再開について、中国政府関係者は「中国経済の回復にとって、日本企業の投資などは欠かせない。中国の企業活動が本格的に再開する旧正月明けからの発給再開は視野に入っていた」と指摘する。別の中国政府関係者は「日本政府がコロナの感染症法上の分類を季節性インフルエンザと同じ『5類』に引き下げることも、中国からの渡航者への水際対策の緩和を期待できるサインと受け止めたのではないか」との見方を示す」

     

    これまでの中国政府は、強硬手段で相手国を屈服させようとする例が多かった。豪州への経済制裁が、結果的に反中国気運を高め、軍事同盟「AUKUS」(米英濠)を生んでしまった。完全な逆効果になったのだ。こうした反省の上に立ち、日本へのビザ発給停止を取り止めたのであろう。

     

    (2)「中国に駐在する日本の商社幹部は、「中国では旧正月明けからビジネスが本格的に再開するので、その時期にあわせた再開に安心している。日本企業と中国企業の協力関係を後押ししたい中国政府の思惑が透けて見える」と話す。中国共産党系メディアの環球時報(電子版)は発給再開を速報し、関心の高さを示した。半導体など中国政府が支援する工場は日本の製造設備が欠かせず、中国企業にとって朗報だ。中国メーカー幹部は「新工場の建設で日本からの出張者は必要だったため、発給再開で工場を予定通り稼働できるようになった」と胸をなで下ろす」

     

    日本企業の中国熱は、今や冷めかけている。地政学的リスクに敏感になり、いち早く逃げ出す体制を構築しているほどだ。中国での新規投資に前向きな企業は珍しいほどになっている。中国が、完全に受け身になった証拠だ。「買い手市場」から「売り手市場」へ変って来たとみるべきだろう。

    あじさいのたまご
       


    「二分法」が示唆する危険性

    反対派とは食事・結婚タブー

    滅びを告げるXデーはいつか

    簡単には見つからない解決法 

    韓国社会をウォッチして気づくことは、敵味方の「二分法」で物事を見ていることだ。具体的に言えば、右派と左派の対立である。現在の韓国政治は、右派と左派が水と油の関係であり、絶対に相手の存在を認めようとしない点で特異な関係にある。左派系メディアは飽きもせずに、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と夫人について非難攻撃を続けている。公的メディアが、人身攻撃に似た記事を報じて恥ずかしくないのか、と首を傾げるほどだ。 

    こういう記事を好む読者がいるから報じるのであろうが、「二分法」は韓国社会の発展を大きく阻害していることに気づくべきだろう。韓国では、「二分法」について「陣営の論理」という言葉を使って批判している。文在寅(ムンジェイン)氏が大統領に就任後、この「陣営の論理」で全て割り切られ実践された。文政権は、自らの支持層の利益を実現することに眼目が置かれたのである。

     

    代表的なものは、最低賃金の大幅引き上げ(労組向け)と、脱原発による太陽光発電推進(市民団体向け)である。韓国は、地形的に太陽光発電適地が少なく、山を切り崩して太陽光発電を行なって自然災害を多発させた。結局、脱原発を中止するほかなかった。前記二つの政策失敗が、雇用構造破壊と韓国電力に多額の赤字をもたらし資金調達に苦しむなど、後遺症を残しただけだった。 

    「二分法」が示唆する危険性

    「二分法」が、いかに社会一般を混乱させるかという研究がある。これは、韓国を直接の研究対象にしたものでないが、そのまま当てはまる点で極めて有益である。最後に取り上げることにしたい。 

    先ず、韓国が「二分法」や「陣営の論理」という凝り固まった物の考え方に執着してきたのは、韓国が朝鮮半島という地勢的な影響を無視することはできない。半島は、下記の二つの分類からはみ出ている点をまず記憶に止めて頂きたい。 

    一般的に「大陸型」と「海洋型」という二つの考え方が指摘されている。一口に言えば、「大陸型」は閉鎖的と指摘される。「海洋型」は開放的とされる。大陸型の典型は欧州である。海洋型は、米国、英国、日本がその典型例とされる。日本が現在、安全保障で米英と共同歩調を取っているのは、文化的背景に通じ合う部分があることも影響している。

     

    韓国は、半島ゆえに「大陸型」とも異なり、大陸型の閉鎖性がより凝縮していることだ。もっとはっきり言えば常に、世界の変化をダイレクトに肌で感じない「時間の遅れ」を伴っている。これは、韓国を非難するために言っていることではない。100年以上も過去の日韓併合を、あたかも昨日まで続いていたかのように論じて日本を批判する。この精神構造の裏には、「閉鎖性の凝縮」がテコになっているはずだ。同時に、朝鮮民族は日本民族よりいかに優れていたかという「誇大型特権意識」が働いている。これが、「二分法」での大きな特色だ。 

    韓国国内では、この誇大型特権意識がぶつかり合っている。右派と左派が、妥協なき争いを続けている裏には、対立する相手を敵視するまことに悲劇的な事態を生んでいる。相手を敵視する結果、妥協は生まれない。政治は妥協の産物とされる。反対派の意見を入れれば、妥協は当然のプロセスなのだ。 

    韓国政治には、ほとんど妥協がなく「多数決」で一蹴している。「多数決」だけが民主主義という信念である。妥協のない多数決は、数の横暴になる。文政権は、この乱発によって左派政権の永続性を狙っていた。右派(保守派)政権に左派政権の恥部を捜査させないとして、検察捜査の骨抜きまで行なったのだ。驚くべきことを行なった政権である。これが、韓国政治の偽らざる実情である。

     

    韓国世論には、こうした「多数決」で押し切る政治を容認する政治風土がある。右派は右派政権を、左派は左派政権を絶対的に支持するというものだ。中間派が、時の情勢で右派か左派かを選択する構造であり、これが政権交代の行方を決めている。両派は、ほぼ互角の支持率である。 

    反対派とは食事・結婚タブー

    論より証拠である。『朝鮮日報』(1月20日付)が、韓国社会の政治意識を世論調査したところ、「二分法」そのものの実態が見事に浮き彫りとなった。 

    それによると、韓国国民の10人中4人が、政治的傾向の異なる人とは食事・酒席を共にできないと感じていることが判明した。政治的傾向が違うと本人や子どもの結婚にとって不都合、という回答も43%に達したのだ。欧米では、食事・酒席において政治や宗教の話がタブーとされている。「市民意識」が徹底しているので、プライバシーに関わることを話題にしないのだ。 

    韓国では、食事・酒席で自分の政治信条を明らかにしているのであろう。意見が対立した場合、甲論乙駁で収拾が付かなくなり暴力沙汰にもなりかねない。これでは、気まずい思いをさせられるから、気心の知れない相手とは酒席を共にしないという選択になるのだろう。(つづく) 

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    ウクライナ軍には、ドイツ製戦車「レオパルト2」300両以上が供与される見通しとなった。ロシア製戦車と異なって、装置ははるかに優れているとみられる。ロシアは、気がついたらNATO(北大西洋条約機構)軍を相手に戦っているような状況へと変わっている。だが、プーチン・ロシア大統領は、西側諸国がいずれウクライナ支援疲れを起して、休戦に応じるであろうという読みがあるようだ。 

    『ブルームバーグ』(1月28日付)は、「プーチン氏、ウクライナ戦争の長期化に身構えー新たな攻勢も準備」と題する記事を掲載した。 

    数週間で決着を付けるはずだった侵攻から1年近くがたつ中で、ロシアのプーチン大統領はウクライナで新たな攻勢を準備している。同時にロシア国内では、自身が今後何年も続くとみる米国やその同盟国との衝突に身構えさせようとしている。

     

    (1)「ロシアの狙いは、数カ月にわたって劣勢続きの軍が再び戦争の主導権を握れることを誇示し、ロシアが現在支配する領土が認められる形でのある種の停戦に合意するよう、ウクライナとその支援国に圧力をかけることだ。事情に詳しい政府の当局者や顧問、関係者が述べた。非公表の内容だとして匿名を条件に語った関係者によると、当初占領した面積の半分以上を失い、プーチン氏ですら自身が数十年かけて作り上げてきたロシア軍の弱さを否定できなくなっている。後退続きでロシア政府の多くが短期的な目標についてより現実的にならざるを得なくなり、現在の占領地を維持するだけでも成果だと認めている」 

    ロシアは、現在の占領地保持を前提に「停戦」を考えているという。これは、ウクライナの見解と真っ向から食い違っている。ウクライナは、「原状回復」が停戦条件としている。

     

    (2)「プーチン氏はこれまでの失敗にもかかわらず、規模に勝る軍と犠牲をいとわない姿勢がロシアを最終的な勝利に導くとなお確信している。米国や欧州の見積もりによると、ロシア軍の死傷者数は既に数万人に上り、第2次世界大戦後のどの紛争よりも多い。ロシア大統領府関係者は、新たな攻勢は2月か3月にも始まる可能性があると述べた。ウクライナとその支援国も、米国や欧州が新たに約束した戦車が届く前にロシアが攻勢を開始する可能性があると警戒している」 

    ロシアが、2~3月に再攻勢説に疑問符がつく。昨年も2月24日開戦で、ロシア戦車は雪解けで行動力を失った経緯があるからだ。春になって大地が乾かなければ戦車は動けないのだ。 

    (3)「プーチン氏が示す決意は、戦争が再びエスカレートする前兆となる。一方でウクライナも国土からロシア軍を駆逐する新たな攻勢を準備しており、ロシアの占領維持を認める停戦協定には応じない姿勢だ。関係者によると、プーチン氏はロシアの存亡を懸けて西側と戦っているとの認識で、戦争に勝利する以外に選択肢はないと信じている。新たな動員が今春行われる可能性もあるという。ロシアは経済や社会を二の次とし、戦争のニーズを最優先する性格をますます強めている」 

    下線部は、ロシアが受ける傷の深さを示している。ロシアが、ウクライナへ領土を拡張しようとすれば、西側諸国が認めないという大きな枠が掛かっているからだ。

     

    (4)「政治コンサルタント会社Rポリティクの創業者タチアナ・スタノワヤ氏は、「プーチン氏は事態の展開に失望しているが、目標を断念する用意はない」と指摘。「それが意味するのは、道のりが長くなり、さらなる犠牲を伴い、全員にとって一層悪い展開になるということだ」と述べた。米国と欧州の情報当局は、昨秋に30万人を追加動員したロシアに再び大規模な攻勢をかける資源があるのか疑問視している。一方で、ウクライナ支援国は兵器供給を強化。ウクライナ軍がロシア軍の防衛線を突破できるよう、初の主力戦車や装甲車両の供与に向け準備が進む」 

    下線部のように、西側諸国はロシアが30万人以外に、さらなる大規模動員を掛ける資源があるか疑問視している。 

    (5)「ロシアの政府系シンクタンク、ロシア国際問題評議会のアンドレイ・コルトゥノフ会長は「何かが変わらない限り、第1次世界大戦のような消耗戦を目にすることになる。両陣営とも時間が自分に味方すると考えているため、長期戦になる可能性がある」との見方を示し、「プーチン氏は西側やウクライナに戦争疲れが広がると確信している」と述べた。原油輸出に対する上限価格設定など相次ぐ制裁でロシアの財政は圧迫されているが、戦争の資金力を断つには今のところ至っていない。制裁の影響を受けていない中国人民元建ての多額の準備金に対するアクセスをロシアは維持しており最長で2~3年の財政赤字を穴埋めする資金として利用できるだろうと、エコノミストらはみている」 

    ロシアは、あと2~3年は戦時経済に耐えられる資金力があるという。だが、ウクライナへの被害を増やせばその賠償金が自動的に増えていくことを忘れている。

     

    (6)「ウクライナを支援する側にも、戦争長期化への不安は広がりつつある。「ロシア軍をあらゆるウクライナの土地から、あるいはロシアが占領したウクライナの国土から軍事的に排除するのは、今年は非常に困難だろう」と米国のミリー統合参謀本部議長は1月20日、同盟国との国防担当相会合で発言。「ただ、この戦争も過去の多くの戦争と同様、最後にはある種の交渉で終わることになると思う」と語った」 

    米国のミリー統合参謀本部議長は、一貫して「和平交渉」の必要性を主張している。ただ、統合参謀本部議長は、実質的発言権が弱いと指摘されている。

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    中国は、去年から人口減社会へ突入した。労働力人口は、2030年まで毎年1000万人ほど減っていく中で、高速鉄道の延伸工事は今年も続行する。全て、債務で建設費を賄うという異常な事態だ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(1月29日付)は、「中国高速鉄道、見えぬ収益改善 延伸でも旅客需要鈍く」と題する記事を掲載した。

     

    中国の高速鉄道が膨張を続けている。同鉄道を独占運営する国有企業、中国国家鉄路集団は総延長を2023年に22年末比で約6%延ばす方針を示した。ただ従来から赤字路線が多いうえ、新型コロナウイルス禍で旅客需要も振るわない。22年1〜9月期は2兆円近い最終赤字に陥り、改善の見通しはなお立っていない。

     

    (1)「鉄路集団は1月上旬、23年の事業計画を発表した。中国の高速鉄道は22年12月末で約4万2000キロメートルあり、日本の新幹線(約3300キロメートル)の約13倍にのぼる。23年は新たに2500キロメートル増やす方針だ。すでに1国の高速鉄道としては世界最長だ。15〜19年には総延長を年13〜21%増やした。20年以降は年5〜9%増とペースは鈍化したが、22年も2082キロメートルを敷設した。同社はこれまでに25年に5万キロメートル、35年に7万キロメートルまで延ばす計画を示している」

     

    鉄路集団は、国有企業である。政府の別働隊としてインフラ投資の先兵で景気下支えの役割を果たしている。不動産開発企業も、景気刺激の役割を担ってきたが、今や過剰債務で破綻状態だ。高速鉄道も、過剰債務を抱えている点で共通している。

     

    (2)「政府には鉄道建設で雇用を創出し、関連産業も育てて景気を下支えする狙いがある。22年7月に董事長に就いた劉氏は前任の陸東福氏と同じく、鉄道行政を取り仕切る国家鉄路局の元局長だ。他の幹部も鉄道行政当局の出身者が多く、政府と事実上一体化した会社のため、政府の意向に従わざるを得ない。「旅客事業では運行プランを適時調整し、コストを厳格に管理する」。22年10月の経営会議ではこうした方針も確認した。だが実際には、建設に関するコスト意識は希薄で、累積する債務や採算は横に置かれている」

     

    鉄路集団は、国有企業ゆえに政府の計画に基づき延伸工事を行なっている。政府は、資金調達の煩わしさもなく「丸投げ」である。こうした無計画な延伸工事で、経営上の重大問題になるのは明白である。

     

    (3)「交通に詳しい北京交通大の趙堅教授は「政府は経済成長を優先し、債務返済を気にとめない」と指摘したうえで「高速鉄道を1キロメートル延伸するために1億2000万〜1億3000万元(約23〜25億円)かかる」と試算する。25年までに8000キロメートル分を延ばすには、単純計算で1兆元規模の巨額投資が必要となる。鉄路集団の財務報告書によると、同社の負債総額は22年9月末時点で6兆0448億元。中国の国内総生産(GDP)の約5%に相当する負債を一社で背負っている形だ」

     

    22年9月末時点で、鉄路集団はGDPの約5%分の債務残高になった。乗車人口の減少は不可避であるから、遠からず経営に赤信号がつくことは間違いない。

     

    (4)「借金の返済原資を稼ぐための余力は乏しい。中国政府が新型コロナの抑え込みを狙う「ゼロコロナ」政策で都市封鎖が相次ぎ、旅客需要が落ち込んだ。22年1〜9月期は947億元の最終赤字となり、前年同期(698億元の最終赤字)から悪化した。売上高は7822億元で、同1%減った」

     

    2020年から最終赤字が急増している。コロナの影響も大きいが、無理な延伸工事によるコスト増が招いている赤字だ。今後も雪だるま式に赤字が増える構造になった。

     

    (5)「延べの旅客輸送量でみると、23年は26億9000万人を目標に据えた。22年(16億1000万人)に比べると67%増えるが、コロナ禍前の19年(35億8000万人)比でみると、なお25%減の水準だ。中国人の国内移動が増える春節(旧正月)前の15日間をみると、1月7〜21日は延べの旅客輸送量が約1億0954万人だった。22年(8616万人)から増えたが、19年(1億4300万人)と比べると回復が鈍い」

     

    22年から、人口減社会になったので延伸工事による乗客増は期待薄である。それよりも、建設費増にからむ債務増と減価償却費の増加が、経営を蝕むことは不可避である。固定費増の圧迫に耐えられなくなるのは確実である。

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    韓国輸出の4分の1は中国向けである。これが、韓国外交を「二股」にさせた大きな理由だ。だが、肝心の対中ビジネスの全盛期は終わった。中国が、自給体制を整えており韓国品の輸入に依存しなくなってきたこと。また、米中対立の激化とともに、経済安保の重要性が主張されるにおよんで、半導体輸出に規制が掛かりそうな状況になってきたことである。

     

    米国は昨年10月、中国に対する先端半導体装備の輸出を禁止。また、人工知能(AI)とスーパーコンピューターに使用される半導体輸出を制限する輸出規制措置を発表した。これに加えて最近、日本とオランダが半導体製造設備の対中輸出規制に合意したことで、韓国半導体輸出へ波及することが確実になった。

     

    『日本経済新聞』(1月29日付)は、「韓中貿易、黄金期には戻れず」と題する記事を掲載した。筆者は、韓国KBフィナンシャル・グループストラテジスト ピーター・キム氏である。

     

    尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏は2022年、米国との同盟関係の強化を掲げ、韓国大統領に当選した。投資家は尹氏の姿勢が中国を怒らせ、韓国経済に打撃を与えるのではないかと懸念していた。しかし、尹大統領は中国に対して予想外にソフトなアプローチをとっている。22年8月、ペロシ米下院議長が台湾などアジアを歴訪した際、尹氏が中国の反発を買いそうなペロシ氏との会談を拒否したことからも明らかである。

     

    (1)「22年末に中国が「ゼロコロナ」政策を転換すると、経済再開の恩恵が韓国にも及ぶことを期待する人は多かった。しかし中国は今年1月、韓国人に対する短期ビザの発給を停止。韓国が中国に対して同様の措置をとったことに報復するためだった。両国の新たな対立がどこまでエスカレートするかはわからない。韓国が、在韓米軍による地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の設置に同意した2016年のように、韓国企業や製品に対する中国の不買運動に発展する可能性も懸念されている」

     

    韓国大統領は昨年8月、ペロシ米下院議長との面会を見送った。中国を刺激しないという外交的な配慮であったが、その後も韓国への圧力を弱める兆しはみられない。中国の経済成長は鈍化し、韓国の対中貿易収支は22年57月に国交樹立以来の赤字である。韓国では、尊大にみえる中国への反発や警戒感も強まっている。米調査機関ピュー・リサーチ・センターの調査では、中国を「好ましくない」とする韓国人が80%にも達した。世論に極めて敏感な韓国政権は、親中路線を取りづらくなっている。中国は、過去の歴史経緯から韓国を「下に見る」傾向がある。韓国は、これに対して敏感に反応して「反中色」強めているところだ。

     

    (2)「THAAD以前の10年間、韓国は中国との活発な貿易から果実を得ていた。しかし中国はミサイル配備を安全保障上の脅威とみなし、韓国への貿易制裁に踏み切った。特に不買運動の標的とされたロッテグループは、中国本土の事業からほぼ撤退した。同時にサムスンの携帯電話の売り上げなども激減した。皮肉なのは、こうした影響が文在寅前大統領の5年間の任期中にも及んだことだ。文氏は北朝鮮との平和を望むなど中国の思惑と一致していたが、韓国にほとんど経済的な利益をもたらさなかった」

     

    文前大統領は「親中朝路線」を歩んだが、韓国にとって経済制裁を解除されることもなかった。韓国からの「ラブコール」が成果を上げなかっので、韓国も目を覚まさざるを得ない状況だ。中韓関係は、こうして次第に冷却化への方向へ向かっている。

     

    (3)「さらにTHAAD以降、化粧品や自動車の輸出が後退した背景には、中国の自給自足体制の推進があったことも明らかになっている。いまや韓国の半導体産業は米国による対中輸出規制をめぐるジレンマにも直面している。韓国が対中ビジネスから恩恵だけを得られた時代の終わりを認識すべきである」

     

    中国の半導体産業は、米国からの規制措置によって大きな制約を受けている。中国はこれまで、韓国へ米国主導の「チップ4」(米国・日本・台湾・韓国)へ参加しないように圧力を掛けてきたが、無駄なことになりそうだ。韓国は、安全保障で米国の傘に入りながら、米国と対立する中国へ便宜を図ることなど、常識的にもあり得ないことに気づいてきたのであろう。これまで、韓国「二股外交」が成立したのは、米中関係が対立していなかったという特殊状況があった結果であろう。そういう良き時代は去ったのだ。

     

     

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