ロシア大統領プーチン氏は、インターネットを使わないので、生の情報に直接接する機会はない。側近が、情報を整理してから手元に届けるシステムだ。このため、プーチン氏に不都合な情報は割愛されている。「裸の王様」という最も危険な状態に置かれている。
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(12月26日付)は、「孤立し不信抱くプーチン氏、頼るは強硬派顧問」と題する記事を掲載した。
この記事は、現旧のロシア当局者や大統領府に近い人々に行った数カ月にわたる取材に基づく。その証言が描き出したのは、おおむね、ウクライナが成功裏に抵抗することを信じられないか、信じようとしない孤立したリーダー像だ。彼らは大統領が22年をかけて自身にこびへつらうためのシステムを構築してしまったと述べ、周囲の人々は彼を落胆させるデータを伏せたり、取り繕ったりしたと指摘した。
(1)「事情に詳しい関係者によると、大統領との会合に参加した軍事専門家や武器メーカーの代表団は夏の間中、プーチン氏が戦場の現実を理解しているのかと疑問を呈していた。大統領はそれ以来、戦争の実態をより明確に把握するためにあらゆる努力をしてきた。だが、同氏の周りにいるのは依然として、人的・経済的な犠牲が増大しているにもかかわらず、ロシアは成功するという彼の確信に応える政府高官らだという」
「敗戦情報」が、プーチン氏の元に届かないのは極めて危険である。太平洋戦争中、天皇は敗北の事実を知っていたが、プーチン氏は実態を知らないままに戦争を継続させている。
(2)「11月にプーチン氏に解任されるまで、同氏が選んだ人権委員会のメンバーだったエカテリーナ・ビノクローバ氏は、「プーチン氏の周りにいる人たちは自分たちを守っている。彼らには大統領の気分を害するべきでないという深い信念がある」と述べた。その結果生じた間違いが、ロシアの悲惨なウクライナ侵攻の基盤となった。(ロシア)兵士らが花束とともに迎えられるだろうとプーチン氏が考えていた開戦当初から、北東部および南部で屈辱的な撤退をした最近に至るまでだ。兵役に就いたことのないプーチン氏は、時間が経つにつれ、自身の指揮系統に対する強い不信感から、前線に直接命令を出すようになった」
側近は、プーチン氏を不愉快にさせてはならないと信じているという。これこそ、亡国の前兆である。こういう事態を招いたのも本人の責任ではあるが。
(3)「米国とロシアは、互いの大使館、米国防総省や中央情報局(CIA)を通じてほぼ毎日連絡を取っているものの、米当局者によれば、対話は制約を受けている。米当局者によると、プーチン氏に最も近い側近の一部は、権威主義的指導者である大統領自身よりも強硬派だと判明している。プーチン氏は毎朝午前7時頃に目を覚まし、戦争の概況を記した書面を読む。ロシアの元情報当局者と現旧のロシア当局者によると、その概況は成功を強調する一方で失敗を重要視せず、慎重に調整を加えた情報を掲載している」
米ロ間には、確実な対話チャネルが存在している。米ソ時代からの蓄積だ。プーチン氏の側近は、プーチン氏以上の強硬派という。
(4)「事情に詳しい関係者によると、戦地の最新情報がプーチン大統領に伝えられるまでに数日かかり、情報が古くなっていることもあるという。前線の司令官は旧ソ連の国家保安委員会(KGB)の後継機関であるロシア連邦保安局(FSB)に報告する。FSBはロシア連邦安全保障会議の専門家らのために報告書を編集し、専門家らはニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記(プーチン氏にウクライナ侵攻を説得したタカ派の知謀家)に託す。そして、パトルシェフ氏がプーチン大統領に報告書を渡す」。
戦地の最新情報が、プーチン氏に伝えられるまで数日かかるという。悪い情報ほど、早く伝達するのが組織の原点である。ロシアはこれと逆であり、危険な状態に陥っている。
(5)「7月、米政府が供与している衛星誘導型の高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」がロシア軍の兵站基地を攻撃し始めると、プーチン氏は防衛企業の幹部約30人をモスクワ郊外ノボオガリョボの邸宅に招集したと、この会合について知る関係者は明らかにした。プーチン氏は、ロシア軍のワレリー・ゲラシモフ参謀総長に説明を求めた。ゲラシモフ氏は、ロシアの兵器はうまく標的に命中し、侵攻は計画通りに進んでいると述べた。関係者によると、兵器メーカーの幹部らは、プーチン氏がこの紛争について明確に把握していないとの感想を持って、会合の場を去った」
ゲラシモフ参謀総長は、プーチン氏にロシアの兵器はうまく標的に命中していると「ウソ情報」を報告している。事態は深刻だ。
(6)「プーチン氏は9月にウズベキスタンで、中国の習近平国家主席と会談したが、会談内容を知る人々によれば、プーチン氏は習氏に静かに語りかけ、戦争は間違いなくうまく進んでいるとの見方を伝えたという。その週にロシア軍は、数百平方キロもの占領地を失った。プーチン氏の侵攻作戦が明らかにつまずき始めた3月以降、西側の指導者らはある疑問を抱いてきた。それは、対ウクライナ政策とロシア軍の威光を取り戻すことばかりに強く執着してきたプーチン氏がどうして、ウクライナの力を過小評価し、ロシア軍の戦力を読み間違えたのかという疑問だった」
プーチン氏は、自己陶酔に陥っている。この状況から目が覚めるとき、どんな事態が起こるのか。プーチン氏は、正常な心理状態でいられないであろう。