勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    ロシア大統領プーチン氏は、インターネットを使わないので、生の情報に直接接する機会はない。側近が、情報を整理してから手元に届けるシステムだ。このため、プーチン氏に不都合な情報は割愛されている。「裸の王様」という最も危険な状態に置かれている。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(12月26日付)は、「孤立し不信抱くプーチン氏、頼るは強硬派顧問」と題する記事を掲載した。

     

    この記事は、現旧のロシア当局者や大統領府に近い人々に行った数カ月にわたる取材に基づく。その証言が描き出したのは、おおむね、ウクライナが成功裏に抵抗することを信じられないか、信じようとしない孤立したリーダー像だ。彼らは大統領が22年をかけて自身にこびへつらうためのシステムを構築してしまったと述べ、周囲の人々は彼を落胆させるデータを伏せたり、取り繕ったりしたと指摘した。

     

    (1)「事情に詳しい関係者によると、大統領との会合に参加した軍事専門家や武器メーカーの代表団は夏の間中、プーチン氏が戦場の現実を理解しているのかと疑問を呈していた。大統領はそれ以来、戦争の実態をより明確に把握するためにあらゆる努力をしてきた。だが、同氏の周りにいるのは依然として、人的・経済的な犠牲が増大しているにもかかわらず、ロシアは成功するという彼の確信に応える政府高官らだという」

     

    「敗戦情報」が、プーチン氏の元に届かないのは極めて危険である。太平洋戦争中、天皇は敗北の事実を知っていたが、プーチン氏は実態を知らないままに戦争を継続させている。

     

    (2)「11月にプーチン氏に解任されるまで、同氏が選んだ人権委員会のメンバーだったエカテリーナ・ビノクローバ氏は、「プーチン氏の周りにいる人たちは自分たちを守っている。彼らには大統領の気分を害するべきでないという深い信念がある」と述べた。その結果生じた間違いが、ロシアの悲惨なウクライナ侵攻の基盤となった。(ロシア)兵士らが花束とともに迎えられるだろうとプーチン氏が考えていた開戦当初から、北東部および南部で屈辱的な撤退をした最近に至るまでだ。兵役に就いたことのないプーチン氏は、時間が経つにつれ、自身の指揮系統に対する強い不信感から、前線に直接命令を出すようになった」

     

    側近は、プーチン氏を不愉快にさせてはならないと信じているという。これこそ、亡国の前兆である。こういう事態を招いたのも本人の責任ではあるが。

     

    (3)「米国とロシアは、互いの大使館、米国防総省や中央情報局(CIA)を通じてほぼ毎日連絡を取っているものの、米当局者によれば、対話は制約を受けている。米当局者によると、プーチン氏に最も近い側近の一部は、権威主義的指導者である大統領自身よりも強硬派だと判明している。プーチン氏は毎朝午前7時頃に目を覚まし、戦争の概況を記した書面を読む。ロシアの元情報当局者と現旧のロシア当局者によると、その概況は成功を強調する一方で失敗を重要視せず、慎重に調整を加えた情報を掲載している」

     

    米ロ間には、確実な対話チャネルが存在している。米ソ時代からの蓄積だ。プーチン氏の側近は、プーチン氏以上の強硬派という。

     

    (4)「事情に詳しい関係者によると、戦地の最新情報がプーチン大統領に伝えられるまでに数日かかり、情報が古くなっていることもあるという。前線の司令官は旧ソ連の国家保安委員会(KGB)の後継機関であるロシア連邦保安局(FSB)に報告する。FSBはロシア連邦安全保障会議の専門家らのために報告書を編集し、専門家らはニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記(プーチン氏にウクライナ侵攻を説得したタカ派の知謀家)に託す。そして、パトルシェフ氏がプーチン大統領に報告書を渡す」。

     

    戦地の最新情報が、プーチン氏に伝えられるまで数日かかるという。悪い情報ほど、早く伝達するのが組織の原点である。ロシアはこれと逆であり、危険な状態に陥っている。

     

    (5)「7月、米政府が供与している衛星誘導型の高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」がロシア軍の兵站基地を攻撃し始めると、プーチン氏は防衛企業の幹部約30人をモスクワ郊外ノボオガリョボの邸宅に招集したと、この会合について知る関係者は明らかにした。プーチン氏は、ロシア軍のワレリー・ゲラシモフ参謀総長に説明を求めた。ゲラシモフ氏は、ロシアの兵器はうまく標的に命中し、侵攻は計画通りに進んでいると述べた。関係者によると、兵器メーカーの幹部らは、プーチン氏がこの紛争について明確に把握していないとの感想を持って、会合の場を去った」

     

    ゲラシモフ参謀総長は、プーチン氏にロシアの兵器はうまく標的に命中していると「ウソ情報」を報告している。事態は深刻だ。

     

    (6)「プーチン氏は9月にウズベキスタンで、中国の習近平国家主席と会談したが、会談内容を知る人々によれば、プーチン氏は習氏に静かに語りかけ、戦争は間違いなくうまく進んでいるとの見方を伝えたという。その週にロシア軍は、数百平方キロもの占領地を失った。プーチン氏の侵攻作戦が明らかにつまずき始めた3月以降、西側の指導者らはある疑問を抱いてきた。それは、対ウクライナ政策とロシア軍の威光を取り戻すことばかりに強く執着してきたプーチン氏がどうして、ウクライナの力を過小評価し、ロシア軍の戦力を読み間違えたのかという疑問だった」

     

    プーチン氏は、自己陶酔に陥っている。この状況から目が覚めるとき、どんな事態が起こるのか。プーチン氏は、正常な心理状態でいられないであろう。

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    半導体産業は、今や国家の盛衰を左右するほどの大きな影響力を持っている。米国が、多額の補助金を付けて、半導体設備投資を奨励する時代だ。日本も国策会社「ラピダス」を設立し、最先端半導体へ乗り出す。

     

    韓国は、半導体生産シェアでは世界2位だが、総合力では5位とランキングされている。基礎力が劣る結果である。そこで、半導体特別法を立案中だが、税額控除規模は8%にとどまった。韓国財政が逼迫しているので、「稼ぎ頭」の半導体産業からの税収減を恐れたものである。他国の手厚い保護から見て、韓国半導体に氷河期が来ると懸念されている。

     

    『中央日報』(12月26日付)は、「大幅に後退した韓国の半導体特別法、業界は『半導体氷河期懸念』」と題する記事を掲載した。

     

    韓国の半導体産業支援に向けたいわゆる「K-CHIPS法」(半導体特別法)が与野党の草案から大幅に後退したまま国会を通過し、未来競争力低下を懸念する声が大きくなっている。

    (1)「半導体業界と財界・学界などは25日、国会が23日にK-CHIPS法の二本柱である租税特例制限法改定案を通過させたことに対し「こうしたことでは半導体氷河期がくるかもしれない」「未来の人材育成が水泡に帰した」として反発する雰囲気だ。この日、従来6%だった大企業の税額控除規模は、与党案の20%控除だけでなく野党案の10%控除にも満たない8%とわずかに引き上げられた。中堅企業8%、中小企業16%はそのまま維持される」

     

    税額控除とは、「税額から直接差し引くことができるもの」である。端的に言えば、納税額がそれだけ減ることだ。半導体企業に対して、与党案では当初20%控除案が出ていた。それが、何と8%と大幅に圧縮されたのは、韓国に占める半導体産業のウエイトが大きい過ぎる結果だ。

     

    韓国の財政当局は、半導体企業の税収がどの程度かというデータを公表していない。だが、韓国株式の時価総額でサムスンとSKハイニックスの占める比率が、12月20日現在で22%になる。たった2社で韓国時価総額の2割を占める現実から言えば、韓国法人税で前記2社が最大限2割程度になっていることを伺わせている。これは、「池の中の鯨」である。

     

    (2)「企画財政部は、与党案の大企業20%が通過する場合、2024年の法人税税収が2兆6970億ウォン減少するとして反対したという。一部では「民生法案処理に半導体法案を抱き合わせた。企画財政部が不意打ちした」という話も出てきた。全国経済人連合会のユ・ファンイク産業本部長は「国会と政府が短期的な税収減少効果を懸念したようだ」と残念がった」

     

    財政当局の企画財政部は、与党案の大企業20%が通過する場合、2024年の法人税税収が2兆6970億ウォン(約2700億円)減少すると試算して反対したという。韓国財政に穴が空くのだ。法人税全体の規模は分からないが、大きなウエイトに違いない。

     

    (3)「米国と日本など競争国は税制優遇を「ニンジン」として半導体投資を積極的に誘致している。米国は自国に半導体工場を作れば企業規模と関係なく25%の税額控除をする「CHIPS法」を制定した。中国は半導体企業の工程水準により法人所得税を50~100%減免しており、2025年まで1兆元(約19兆円)を半導体産業に支援する。台湾も半導体企業の研究開発税額控除率を15%から25%に引き上げる法改定を推進中だ」

     

    米国は、半導体設備投資に対して25%の税額控除を行なう。台湾は、研究開発税額控除率を25%に引上げる。このように、半導体育成に全力を挙げている。この点で、韓国は見劣りする。韓国が、半導体総合力ランキングで5位とは、それだけ将来の発展性が劣るという意味だ。ちなみに、日本は米・台に次いで3位である。韓国産業研究院(KIET)が、今年11月に発表したデータによるもの。

     

    (4)「半導体ディスプレー学会のパク・ジェグン会長は、「韓国は補助金どころか税額控除率も低い。いま投資のタイミングを逃せば2~3年後には技術があっても生産できずに市場を奪われることになる。一度市場を失えば元に戻すことはできない」と話した。キム教授は「企業の立場では事業環境が良い側に投資するほかない、資金と人が流出すれば半導体氷河期に追いやられる恐れもある」と話した」

     

    半導体は、技術開発が日進月歩の世界である。同時に、研究成果を設備投資に反映しなければ脱落する意味で、一種の「チキンレース」のような過酷さを持っている業界である。国家の運命が、この半導体の発展に懸っていることを考えれば、補助金や税額控除も必要であろう。

     

    (5)「税額控除とともに専門人材養成、許認可簡素化なども大幅に後退したり空転が続いている。当初先端産業特別法改定案には「首都圏の大学の定員規制と関係なく半導体など戦略産業関連学科の定員を増やす」という内容が盛り込まれていたが、政府与党協議の過程で首都圏の大学優遇をめぐり論議が起き、大学内の定員で調整する方向に後退した」

     

    半導体の人材育成は不可欠である。サムスンは、成均館(ソンギュングァン)大学と手を組んで、人工知能(AI)特化の人材を育成する採用連携型契約学科を新設する。学士から修士までの全額奨学金はもちろん、インターンシップなど様々な体験プログラムとサムスン採用にまでつながる学科という。『東亜日報』(12月26日付)が報じた。

     

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    韓国の労働組合は、左派政党の有力な支援団体であることから左派政権時には、既得権益を拡大する立法を実現させてきた。これが、韓国の労働改革を大きく遅らせていると批判されている。尹(ユン)政権は、労働改革による労働市場流動化を主要政策に上げている。終身雇用制と年功序列賃金制の改革によって、労働市場の流動化を目指すとしているもの。

     

    ユン政権は、その手はじめとして労組の不正会計の調査要求を出している。これに対して、世論調査では70%が賛成するという圧倒的な支持を見せている。

     

    『東亜日報』(12月22日付)は、「尹大統領、『労組の不正を撲滅、会計は透明でなければ』」と題する記事を掲載した。

     

    尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が21日、「労組の不正も、公職・企業の不正とともに韓国社会から撲滅しなければならない3大不正の一つ」とし、「法を厳格に執行しなければならない」と述べた。

     

    (1)「尹大統領が、労働・教育・年金改革の「3大改革」で、労働改革を最優先課題に挙げている中、労働組合の会計不正などの疑惑に鉄槌(てっつい)を下す考えを明らかにしたのだ。尹大統領は同日、大統領府領迎賓館で開かれた企画財政部の「2023年経済政策方向」発表前の冒頭発言で、「今、韓国の成長と発展を妨げる誤った制度、積弊を清算し、制度の改善に向けた改革を稼働させなければならない」と強調した」

     

    韓国左派政権は歴代、「反企業・親労組」の立場から労組優遇策を取ってきた。もちろん労働組合の存在は保証されなければならないとしても、違法行為に対しても見て見ぬ振りをして違法行為を野放しにしてきたことは異常である。その意味で、労働運動は一種の「治外法権」的な形を取っている。これが、進歩派政党の「あるべき姿」という誤解を生んでいるほどだ。

     

    ユン政権は、こういう異常な労組の行動の裏に、不正会計があるという疑いを持っているのであろう。それを糺さなければ、韓国に正常な労働運動が生まれないという危惧を持っていると見られる。韓国労組が、「貴族労組」と揶揄されていること自体、問題を孕んでいる証拠だ。

     

    (2)「特に、「その中で最も優先にすべきことが労働改革」であり、労組の透明な会計に向けて制度を改革する考えを明らかにした。尹大統領は、「通貨危機後、多くの困難があったが、会計の透明性強化を通じて韓国企業を世界的な企業に導くことができた」とし、「労働運動、労組活動も透明な会計によって健全に発展できる」との認識を示した。これと関連して、与党「国民の力」は最近、労組の会計不正の可能性を遮断するための立法に乗り出し、政府の労働改革を積極的に支持している」

     

    下線部の労組の透明会計とは、何を指すかである。一般的にいう「不透明」会計とは、一部の労組役員が利益を貪っているという疑惑に受け取られる。ただ、労組は民間組織であるから、通常ならば政権が口出しはできない筈である。だが、政権が「明朗会計」を求めている裏には、政府補助金が使われているのかも知れない。もし、そうとすれば労組への補助金支給は廃止すべきだ。労組が、政治の紐付きという形は最もあってはならない形である。

     

    『WOWKOREA』(12月25日付)は、「国民の70%が民主労総の会計透明性強化に『賛成』…22%が『反対』=韓国世論調査」と題する記事を掲載した。

     

    国民の70%が、民主労総の財政に対する会計透明性を強化する政府方針に賛成するという世論調査の結果が25日に出た。

     

    (3)「韓国世論評判研究所(KOPRA)が23~24日の2日間、全国満18歳以上の男女1000人を対象にした『政治社会懸案世論調査報告書』は、次のような結果を発表した。それによると、年間予算が1000億ウォン(約100億円)と推定される民主労総の財政について、『会計透明性を強化しなければならない』という主張に対し、70%が『賛成する』と答えた『反対する』は22%で、『よく分からない』は8%だった」

     

    労組の会計透明性を維持するとは、具体的に第三者機関の監査を求めているのか、である。一般的に言って、組織の中にある「監査役」が行なう「ナアナア式」監査で済ませているとすれば、問題となるに違いない。第三者の公認会計士監査が求められるのだ。その辺の具体的な事情が把握できないので、確定的なことは控えねばならない。こういう事情はあるにしても、世論の70%が会計透明性を要求している事実は重い要求だろう。

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    来年の韓国経済は、嵐が予想されている。企業は、経営難を乗り切るべく社員の肩たたきによる「静かな解雇」を進めているという。給料の割には、パフォーマンスの上がらない社員を首にしようというのだ。日本でも、バブル崩壊後に人事担当者は嫌な役目を負わされた。某大手新聞社でこの役割をさせられた役員は、後に出家して仏門に入ったほど。人生の災難である。年功賃金制を廃止すれば、この難問を解決できるという提案がある。

     

    『中央日報』(12月23日付)は、「最近、韓国企業『静かな解雇』中」と題する記事を掲載した。

     

    大企業A社の人事チームの幹部キムさんは最近悩み事が多い。チーム員が業務に困難を訴えているからだ。同社は最近非公式的に希望退職を受け付けている。「希望者に限る」とはいうものの、低成果者や高年次職員を対象とした懐柔に近い。組織のスリム化と職務再配備も進めて結局席を減らさなければならない。そのため退職意思を聞いたりチーム員の縮小を通知したりしなければならない人事チームの職員は「該当部署と当事者の激しい反応のためにトラウマができそうだ」と訴える。

     

    (1)「企業が、人員削減に乗り出すのは目前に近づいた景気低迷と実績悪化の懸念からだ。キムさんは「新政府が樹立してまもなく対外的に採用縮小や構造調整を語るのが難しくなったようだ。過去の人的構造調整が『公式的』だったとすると、今は水面下で『静かな解雇』が進んでいる」と語った。このように景気低迷が長期化するかもしれないという懸念が大きくなり、韓国の雇用市場に「静かな解雇」の動きが起きている。公式的な構造調整や名誉退職の代わりに間接的な方式で人材を減らし、費用を節減することをいう」

     

    大企業は、ユン政権発足に当たり来年の人員採用増を発表した手前、人員整理を表立ってできないジレンマに陥っている。そこで、「静かな解雇」という肩たたきを始めているもの。

     

    (2)「最近話題になった「静かな辞職」が「与えられた最低減の労働だけをして健康的な人生を優先する」という意味とするなら、「静かな解雇」は自分の意志とは関係のない雇用断絶を意味する。「L(layoff・解雇)の恐怖」が新たな顔で襲撃してきたといえるだろう。延世(ヨンセ)大学経営大学長のイ・ジマン氏は「賃金体系を合理的に改編・調整できないせいで景気の不確実性を懸念する企業が『静かな解雇』を選択している」と分析した。続いて「解雇するのが難しい労働市場の硬直性と政府など外部の顔色を伺わならない状況も静かな解雇をあおっている」と付け加えた」

     

    下線部の指摘は正しい。年功賃金制であるから給与に見合う成果が上がらないという問題が起きるのだ。職務にあった給与体系になれば、社員の方もそれなりの自覚ができて、業務遂行で創意工夫をするはずである。一律の賃金では、生産性に凸凹が生じて当然であろう。

     

    (3)「米国では、テック企業に所属する若者世代を中心に「静かな辞職」ブームが起きているが雇用市場は安定的だ。米国労働省によると、先月失業率は3.7%で事実上完全雇用状態だ。新型コロナウイルス感染症(新型肺炎)の回復によって労働力需要が上昇しているからだ。反面、韓国は大企業を中心に「静かな解雇」という雇用北風が吹き付けている。これは中小・中堅協力企業の廃業や構造調整のような「台風級雇用寒波」に続く点でより一層深刻だ。雇用市場が直撃を受ける懸念が大きい」

     

    米国では、労働市場が流動化しているので、社員の選択で「静かな辞職」が可能になる。要するに、転職の余地が残されている。韓国では、年功賃金制であるから「エスカレーター」に乗ったようなもの。これでは企業も悲鳴を上げる筈だ。「静かな解雇」よりも、「静かな辞職」のほうがはるかに夢のある明るい話になる。

     

    (4)「Bバイオ企業は、11月職員説明会を開いて勤怠や成果などを詳細に確認して人材を再配置すると公示した。近く休憩空間やオンライン掲示板などに社員証を提示しないと出入りできないような「ゲート」を設置する予定だ。勤務時間を厳格に管理するという経営層の指針からだ。進行中だった採用も必須職を除いて「オールストップ」した。また別の大企業C社も最近非公式で希望退職を受け付けている。C社関係者は、「新政府発足以降、採用規模を発表したので新規採用は手を付けないが、全体人材は減らす方針」としながら「内部的には成果が高くない職員や創業・離職意志のある職員の希望退職を誘導している」と話した」

     

    下線部は、勤務時間中の「サボり防止」というのだ。これも、淋しい話だ。社員が積極的に働かないから、サボり防止のゲートを付けるとしている。年功賃金制の弊害であろう。社員の自覚欠如が問題だ。

     

    (5)「業績が大きく悪化するか悪化を予想している企業は、すでに正式な減員手続きに入った。ロッテ免税店が、会社創業以来初めて希望退職申請を受け付け、ロッテハイマートも事情はそう変わらない。ハイト眞露、OBビールなども希望退職を進めている。希望退職が「常時化」した金融圏も同じだ。ハイ投資証券・ダオル投資証券などの証券会社や、ウリィ銀行・NH農協銀行なども希望退職を受け付けている。今年5大都市銀行だけで2400人余りが希望退職で会社を離れるだろうという分析がある」

     

    5大都市銀行が、2400人余りの希望退職を募っているという。割り増し退職金が出るのだが、これに釣られて退職すると、次の職場が見つからず最後は、自営業になる危険性が潜んでいる。韓国のビジネス・パースンの悲劇は、この希望退職にうかうかと乗せられた人たちである。 

     

     

    あじさいのたまご
       

    アップル「脱中国戦略」

    準備ゼロでウイズコロナ

    先ずは戦狼外交の修正へ

     

    中国は現在、ゼロコロナの規制緩和に伴う感染者激増で大混乱に陥っている。中国国家衛生健康委員会は12月25日、毎日の感染者数と死者数の発表業務を下部組織の中国疾病予防コントロールセンターに移管した。同センターは、全国で24日に確認した新規感染者数が、わずか2940人と実態を完全に隠す発表に変更した。実態はますます掴めなくなってきた。 

    中国の感染者数は、12月だけで2億4000万人に達し、1日当たりの死者数は5000人を超えたとの指摘も出るほどの惨状を呈している。まさに、「スペイン風邪」(1918~20年)が、中国にそっくりそのまま再現し格好だ。欧米はすでに、今回の新型コロナウイルスで苦杯をなめさせられてきた。この間、中国は厳格なロックダウンで抑制し、表面的に感染を封じ込めた形になっていた。中国指導部は、これを誤解して「完治」したと大きな誤診をしたに違いない。疫学専門家の意見を無視したのだ。

     

    中国の実態は、効果の劣る中国製ワクチン接種と低い接種率が災いし、いつでも飛び火する危険な「コロナ空白地帯」をつくっただけに終わっていた。中国では、免疫学的な認識に乏しく、欧米の「ウイズコロナ」へ至る経験を全く生かさなかった。それにも関わらず、ゼロコロナからウイズコロナへ一足飛びに切り変えた結果、免疫度の低い「コロナ空白地帯」がウイルスに急襲されたのだ。これでは、コロナ犠牲者が急増して当然であろう。 

    習近平国家主席は、10月中旬の共産党大会を平穏なうちに終わらせるべく、ゼロコロナ政策を継続してきた。だが、共産党大会終了直後に、ゼロコロナの規制緩和が議論されていたことが判明している。不思議なのは、免疫学的な検討を全て省略し、一挙にゼロコロナへ切り変えた中国指導部の無知と無責任さだ。こういう無謀なことを決定した裏に、経済的窮迫があることは間違いない。 

    中国の新最高指導部は、全て習氏の息のかかったイエスマンの集団である。習氏の意志が、そのまま最高指導部の意思になるという脆弱な構造だ。新最高指導部内には、習氏の意思に逆らえる人間がいな結果だ。これは、今後の国運を左右する重大決定においても、同様な脆弱性を見せるであろう。これが、危惧させられる大きな点である。

     

    習氏が、焦って実質的な「ゼロコロナ」へ切り変えたのは、中国製造業で最大の雇用実績を持つ米アップルの「脱中国」の動きに刺激されたことであろう。アップルは、主としてホンハイ(鴻海)をサプライアーにして中国で「iPhone」を生産している。だが、ゼロコロナの規制によって、労働現場で若い労働者が「反乱」を起して帰郷するという緊急事態に陥っていた。地方政府は、ホンハイからの支援要請で人民解放軍の兵士や地方政府役人が現場で馴れない作業を代行する、異常事態まで生まれたのである。 

    こういう状況に危機感を持ったホンハイ創業者の郭台銘(テリー・ゴウ)氏が、思いあまって中国最高指導部へ書簡を送った。詳細な内容は不明だが、ゼロコロナ政策を続けていけば、アップルは「脱中国」へ舵を切るという主旨と見られている。これに驚いたのが、中国最高指導部である。前述のように、党大会終了後にゼロコロナの規制緩和へ踏み切る姿勢を固めざるを得なかったのであろう。 

    中国は、コロナ・パンデミックに陥って以来の約3年間、中国へ進出している海外企業が、生産中断を余儀なくされ、どれだけ苦しんでいるかという認識を深めることはなかった。同時に、米中デカップリングの進行によって、中国が「世界の工場」であり続ける条件を喪い始めていることにも無頓着であった。中国は、永遠に世界のサプライセンターであると錯覚していたのだ。人口14億人の持つ「広大な市場」という幻想に酔っていたのであろう。

     

    アップル「脱中国戦略」

    米アップルは、米国政府から「脱中国」を進められていたという。アップルが、中国をメインの生産基地にしていれば、中国で関連産業を育成強化させ、それが半導体生産を支えると見たのであろう。米国は、安全保障上の見地から、中国の先端半導体生産を抑制したい立場だ。それにも関わらず、アップルが中国で生産し続けることは、米国の立場から言えば「敵に塩を送る」に等しい行為に映るのだ。 

    アップルも、中国で生産し続ける地政学的リスクを認識するようになった。米中対立は、ロシアのウクライナ侵攻によって誘発される台湾侵攻に絡んで、ヒートアップしかねない状況になっている。こうなると、脱中国による生産基地の分散が、最もリスク分散させることになることに気づいたのである。 

    アップルは、日本が最先端半導体生産に乗り出す体制を固めたことを好感している筈だ。国策半導体企業として「ラピダス」が、すでに発足している。政府・大学・産業界が結束しており、2027年には「2ナノ(10億分の1メートル)」の生産開始を目標にしている。米IBMの「2ナノ」製造技術を導入する提携も発表した。

     

    日本政府は、国内の旧式半導体工場へもテコ入れして、態勢一新を目指している。1990年代後半まで、日本半導体は米国を圧倒して世界一の実績を握ってきたのだ。当時の半導体工場は、これまで古い設備で細々と稼働してきた。この半導体工場へテコ入れすれば、日本の半導体産業は息を吹き返す。そうなれば、アップルにとって全て好都合な展開になる。

    (つづく)

     

    次の記事もご参考に。

    2022-12-12

    メルマガ420号 中国、突然のゼロコロナ一部緩和 アップルの「脱中国」知って仰天決断

    588

    2022-12-19

    メルマガ422号 中国「ドタバタ」劇、コロナ規制緩和後の大混乱 一貫した政策不在の「悲劇」

     

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