勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    ロシアは、理由もなく隣国ウクライナを侵略。戦況が不利になると、ウクライナの発電所をミサイル攻撃し「エネルギー攻め」にしている。すでに零度以下になっているウクライナ国民は、電気も水もない中で寒さに震え苦痛を強いられている。ロシアは、残酷な仕打ちをしているのだ。

     

    『ロイター』(11月25日付)は、「ウクライナ政府、市民の苦痛終わらせること可能ーロシア大統領府」と題する記事を掲載した。

     

    ロシア大統領府(クレムリン)は24日、ウクライナのエネルギー関連施設に対する攻撃が民間人を標的としたものであるという見方を否定した。同時に、ウクライナ政府が紛争終結に向けロシアの要求に応じれば、市民の「苦痛を終わらせる」ことができるという認識を示した。

     

    (1)「ロシア軍によるウクライナ全土の主要インフラに対するミサイル攻撃によって、各地では停電や断水が発生。気温が氷点下となる中、数百万人の市民が数時間もしくは数日間にわたり、暖房や水のない生活を強いられる状況となっている。クレムリンのぺスコフ報道官は「『社会的』な標的に対する攻撃は行われておらず、細心の注意が払われている」と強調。ウクライナ市民の苦しみとプーチン大統領の立場についてどのように折り合いをつけるのかという質問に対しては、「ウクライナ指導部には、ロシア側の要求を満たす形で状況を解決し、ウクライナ市民の苦しみを終わらせるあらゆる機会がある」と応じた」 

    ウクライナは、ロシア側の要求通りに応じれば発電所攻撃を止める、としている。ロシアが、一方的に始めた侵略戦争である。要求に応じなければ、真冬に向かう中で「エネルギー攻め」にすると豪語している。21世紀の現在、こういう侵略国が存在するのだ。

     

    『BBC』(11月25日付)は、「ウクライナ、インフラ一部復旧も電力需要の50%しか満たせず ロシア軍の攻撃で」と題する記事を掲載した。 

    ウクライナの国営電力会社ウクルエネルゴは、主要インフラの修復が最優先だが、修復にはより多くの時間がかかるとした。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、首都キーウを含む15州で、電力だけでなく水の供給も「最も困難な状況」にあると述べた。冬の到来を迎えたウクライナ全土では降雪が観測され、気温は氷点下にまで低下。低体温症による死者が出ることが懸念されている。 

    (2)「キーウでは24日朝、市民の7割が電力を喪失していた。同市のヴィタリ・クリチコ市長はBBCウクライナ語に対し、電気、暖房、水が使えなくなる「最悪のシナリオ」を排除できないと述べた。しかしその後、ウクライナ当局はすべての地域で電気と水の供給が徐々に回復しているとした。ウクライナ大統領府のキリロ・ティモシェンコ副長官は、まず重要インフラの電力が復旧したと述べた。そして、「現時点で、一般家庭向けネットワークの接続が徐々に進んでいる」と付け加えた」 

    キーウでは24日朝、市民の7割が電力を喪失した状態という。ロシアは、苦しければ「降伏せよ」とせせら笑うような姿勢だ。戦争が終わった後、ロシアは世界中から糾弾されて、二度と立直れない程の罰を受けなければならない。

     

    (3)「ウクライナ当局によると、携帯電話を充電したり、お茶やコーヒーを飲んだりできる仮設の暖房テントが全国に4000以上設置されている。ゼレンスキー大統領は24日遅く、毎晩定例の演説で、ロシア軍は「戦い方を知らない」と述べた。「彼らにできるのは、恐怖を与えることだけだ。エネルギーテロか、砲撃テロか、ミサイルテロか。それが現在の指導者のもとで堕落したロシアのすべてだ」と憤る」 

    ウクライナ国民の団結は、さらに固くなろう。ロシアが期待するような、和平交渉への声が出てくるか疑問だ。ロシアは、ここでも道を間違えている。 

    (4)「こうした中、ウクライナのイリナ・ヴェレシュチュク副首相はBBCの番組ワールド・トゥナイトで、「テロリストのロシアは我々に対してエネルギー戦争を始めた。その目的は大規模な人道的危機を作り出すことだ。私たちにとって最大の課題は、高齢者や子供連れの女性、入院中の病人など最も弱い立場にある人達を守ることだ」と述べた。「(ウクライナ)国民は120日間持ちこたえなければならない。この日数が冬の期間にあたり、それこそがロシアの狙いだからだ。ロシアは冬の間、(ウクライナ)国民に最大級の苦痛を与えようとしている」。ヴェレシュチュク副首相によると、南部ヘルソン市など一部地域はいまも砲撃を受けており、ウクライナ政府はすでに自主避難の指示を開始しているという」 

    ロシアの目的は、ウクライナで人道危機をもたらすことだ。これによって、和平論の出てくるのを待っている。拷問と同じ手法である。ウクライナには、西側諸国が支援していることを忘れたような振る舞いである。 

    (5)「多くのキーウ市民は自分たちが直面している困難な状況を冷静にとらえ、それを乗り越える方法を見出しているように見える。実際、発電機を設置する人が増えている。ウクライナでは23日にミサイル攻撃を受ける以前から、水道水の確保もままならなくなっている」 

    こういう事態に、ウクライナ軍の前線部隊は、一段と士気を高めて領土奪回に向け奮闘するであろう。ウクライナ国民は、この試練を乗り越えれば、ロシア上回る強靱な国民性を身に付けるであろう。

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    韓国メディアが、カタールW杯初戦で日本が優勝候補とされるドイツを破ったことに高い評価を与えている。ノーベル賞で、日本人学者が授賞する以外には見せない日本への激賞ぶりだ。 

    『朝鮮日報』(11月25日付)は、「カタールW杯、日本サッカー 欧州に学んで欧州を超えた」と題する記事を掲載した。 

    日本の森保一監督が23日、2022年国際サッカー連盟(FIFA)ワールドカップ(W杯)カタール大会グループリーグ第1戦でドイツに21で勝つという波乱を巻き起こした後、「ドイツの皆さんは日本のサッカーの発展に大きく貢献してくれた。ドイツに学びながら日本の良さを発揮したい」と話した。背景を知らないと、まるでドイツをからかっているようにも聞こえるが、日本が過去十数年間、どのように代表チームを作ってきたのかを知れば、おのずとうなずけるだろう。

     

    (1)「日本には「和魂洋才」という言葉がある。「日本固有の精神(和魂)」と「西洋の技術(洋才)」を結び付けるという意味で、19世紀に近代化が始まった日本が掲げたスローガンだ。約150年過ぎた今も日本を説明するキーワードの一つになっている。日本サッカー協会は2005年、「JAPAN’sWay(日本の道)」というプロジェクトを始動させると発表した。目標は2050年までにW杯で優勝することとした。最も神経を使ったのはユース育成だった。始動期(5-8歳)、成長期(9-12歳)、挑戦期(13-17歳)、成熟期(18-21歳)と年齢を細かく分け、体系的なプログラムを導入した」 

    明治維新で、日本が欧米から科学・技術・制度・兵法などすべてを学んだ。それが、近代日本の基礎をつくった。サッカーもこれと同じ道を歩んできた。

     

    (2)「そのためには、何よりも欧州で先進のサッカーを学ぶことが最も重要だと判断した。同協会はユースクラブを運営する日本のプロサッカーリーグ「Jリーグ」と緊密に協議し、若い有望選手をできるだけ早く欧州に行かせた。2007年にオランダのチームに入った本田圭佑(36)を筆頭に、多くの有望選手が欧州に行った。このように欧州に行って今もプレーしている選手たちが今回のW杯代表最終メンバー26人のうち19人いる」  

    今回のW杯代表最終メンバー26人のうち、19人は欧州でプレーしている選手である。W杯の試合は、普段通りの雰囲気で戦える点で有利であろう。

     

    (3)「日本はさらに、近くドイツ・デュッセルドルフに「欧州進出前哨基地」を作るという計画を持っている。韓国の坡州NFC(韓国代表トレーニングセンター)のようにトレーニングから回復まで、すべての施設が完備されている所だ。欧州でプレーする日本の選手たちがここに随時集まり、共にトレーニングをして調整を行うことになる」 

    欧州には、日本サッカー協会から派遣されている駐在員がいる。この駐在員が、欧州サッカーの現況を日本へ伝えると同時に、選手送り込みの役割も果たしているのであろう。サッカーも情報戦だ。 

    (4)「その一方で、代表チームの司令塔には、日本でのみ選手・監督を務めた森保一監督を2018年から据えている。田嶋幸三日本サッカー協会会長は「日本の長所を生かして『日本らしさ』を出すことが必要だ」と理由を説明した。森保監督は速いパス回しで前進するサッカーをする。1人のスター選手のパワーではなく、11人が自分の役割を果たし、歯車のように動く典型的な「日本スタイル」を追求するのだ。普段から「日本を代表するということに誇りを感じる」としばしば言っている森保監督らしく、戦術も日本的な情緒に合わせてきた。成績不振のたびに日本国内で否定的な世論が高まり、辞任要求にさいなまれたこともあったが、協会との強い信頼のもと、しっかりと組織力を固めてきた」 

    森保一監督の人柄の良さは、地元長崎の人たちが異口同音に語っている。特に、人とのつながりを大事にしている。メンバー26人の心を一つにしており、「この監督のためには死んでも良い」というぐらいに結集しているという。

     




    (5)「ドイツ戦の前半では一方的に攻められ、先制ゴールまで許した。この状況に対して森保監督は後半に入りDFを4人から3人に減らし、その代わりMFを4人から5人に増やして中盤で人数的に優位にすることで勝負に出た。結局、交代出場したMF堂安律=独SCフライブルク=と浅野拓磨=独VfLボーフム=がそれぞれ同点ゴールと決勝ゴールを入れた。日本だけで指導力を磨いた森保監督が後半に投入したドイツ・ブンデスリーガの日本人選手2人が連続ゴールを決め、ドイツを破ったのだ。この試合が現在の日本のサッカーを象徴的に示していると評されている」 

    試合後半で、DFとMFの人数を入れ換えたのは、OB選手すら予想もできない戦術であったという。まさに、状況判断で戦術を変える柔軟性が森保一監督の真骨頂とされる。すでに、試合ごとのメンバーと戦術が出来上がっているとも言われる。今後も、世界のサッカー界を驚かす試合運びが見られるであろう。

     

     

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    韓国銀行は、24日に政策金利を0.5%引上げ年3.25%とした。金融不安が増大している中での利上げである。韓国経済は、最も厳しい局面を迎えている。都市銀行の変動型住宅担保貸付金利は年5.70~7.83%で上限が8%台に迫っている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(1124日付)は、「韓国経済、景気と通貨防衛の板挟み 減速下で高速利上げ」と題する記事を掲載した。

     

    韓国経済が景気と通貨防衛の板挟みになっている。経済成長が鈍化するのに、韓国銀行(中央銀行)は24日、政策金利を0.25%引き上げた。米国との金利差拡大で資本流出圧力がくすぶり、ウォン安が加速しかねないからだ。半導体市況の低迷で主力の輸出が振るわず、消費減退も重なって成長のけん引役が見当たらない。

     

    (1)「利上げは6会合連続で政策金利を年3.25%にした。2021年8月以降の利上げ幅は累計2.75ポイントに及び、異例の速いペースといえる。問題はこの「高速利上げ」を景気減速下で実施していることだ。韓銀は24日、23年の実質国内総生産(GDP)成長率見通しを1.%と発表した。22年の成長率見通し2.%からさらに落ち込む。23年の輸出は0.%増で低迷し、消費も2.%増にとどまる見通し。設備投資は3.%減との厳しい見方を示した。24年の成長率は2.%まで回復するとした。民間の見通しはさらに厳しい。韓国大信証券の23年成長率予測は1.%にとどまる」

     

    ウォン安がもたらす物価上昇を食止めるには、金利の引上げしか道はない。このため、債券市場では金融不安が起こっているが、敢えてこれに目を瞑っての利上げである。韓国経済の苦衷を示している。

     

    (2)「減速の主因は屋台骨である輸出の鈍化だ。24日記者会見した韓銀の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁は「23年は輸出と投資が想定を下回り、消費回復傾向も鈍化する」と説明した。8月時点の見通し(2.%)から0.4ポイント下方修正したことについて「主要国の成長率低下に伴う輸出低迷が要因の9割を占める」とした。21年の輸出総額の2割を占めた半導体は市況悪化が続き、底打ちの兆しは見えない」

     

    韓国の対GDP輸出依存度は、36.14%(2021年)である。主要国では、ドイツの38.25%(同)に次いで高い比率だ。韓国経済は、世界経済の停滞に大きく揺さぶられる特質を持っている。構造的な脆弱性と言ってもいい。

     

    (3)「輸出低迷は投資意欲も冷やす。半導体大手のSKハイニックスは23年の設備投資を22年比で50%超減らすと表明した。半導体メーカーの投資抑制が国全体の設備投資の減少につながり、経済成長を押し下げる。資源高・原材料高にウォン安・ドル高が重なり、輸入物価は高水準が続く。足元の貿易収支はアジア通貨危機だった1997年以来、25年ぶりに7カ月連続の赤字だ。貿易赤字がウォン安につながり、ウォン安による輸入物価上昇が赤字拡大を招く悪循環に陥っている。頼みの消費も振るわない。新型コロナウイルスに伴う行動制限は解除されたものの、金利上昇が足かせとなる」

     

    韓国の輸出依存度の大きさ→貿易赤字→ウォン安→輸入物価上昇という悪循環構造を作り上げている。国内市場が狭隘ゆえにもたらす構造的な問題である。

     

    (4)「韓国は家計負債が大きく、金利上昇が利子負担拡大に直結する。住宅ローンの8割超が変動金利で、9月末時点の平均貸出金利は4.79%1年間で1.78ポイントも上昇した。23年も金利上昇は続きそうで、利払い拡大が可処分所得を減らす構図だ。それでも利上げするのは足元で米国との金利差が拡大しており、ウォン安と資本流出が連鎖する懸念を拭えないからだ。米連邦準備理事会(FRB)の急速な利上げによってウォン相場は10月に対ドルで年初比2割超下落し、1ドル=1444ウォンと13年ぶりの安値をつけた。足元ではややウォン高に戻したが、ウォン安の懸念は消えていない」

     

    ウォン安対策で、日本との通貨スワップ協定が今も話題に上がっている。日本は、全く関心を示していない。

     

    (5)「韓国北東部に5月オープンした「レゴランド・コリア」が足元の金融不安の発端となった。韓国では思わぬ形で金融不安も表面化した。発端は韓国北東部に5月に開業したテーマパーク「レゴランド・コリア」を巡る債務不履行問題だ。9月に償還期限を迎えた2050億ウォン(約210億円)のレゴランド開発公社のコマーシャルペーパー(CP)を巡り、地元自治体の江原道が支払い保証を撤回する方針を示した。野党系の元知事らの過去の債務保証判断について、与党系の現知事が「不当」と判断したためだ。尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は、金融市場へ50兆ウォン以上の緊急支援金の投入を表明した。それでも市場の動揺は収まらない」

     

    「レゴランド・コリア」を巡る債務不履行問題は、完全に政争がらみで始まったもの。現在の江原道知事は、債務保証の打切りが金融不安問題を引き起こすという認識がなかったようだ。その後、発言を取消して保証債務を実行するとしている。韓国の政争は、これほど酷い物である。

     

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    フィリピンは、南シナ海の自国所有の島嶼を中国軍に占領されており、防衛面で米国と積極的に協力する姿勢を見せている。ドゥテルテ前大統領時代は、米国と摩擦を起していたが、マルコス新大統領になって対米姿勢が一変した。

     

    『ニューズウィーク』(11月22日付)は、「南シナ海でわが物顔の中国を警戒、米比が防衛協力拡大で合意」と題する記事を掲載した。

     

    中国は南シナ海で、いわゆる「九段線」内の全ての島や礁、砂堆の領有権を主張している。オランダのハーグにある国際仲裁裁判所は2016年、この九段線には法的根拠がなく無効だと認定した。フィリピンと中国が争ったこの裁判の判決を受けて、アメリカをはじめとする複数の国がフィリピンへの支持を表明したが、中国は判決を全面的に拒否した。

     

    (1)「フィリピンと中国の間では、2012年に中国海軍がフィリピンからスカボロー礁の実効支配を強引に奪って以降、何度も小競り合いが起きている。スカボロー礁における中国の不当行為は、これを受けてフィリピンが国際仲裁裁判所に中国を提訴し、大きな注目を集めた(この結果「九段線」は法的根拠なしとの認定が下された)。昨年11月には、フィリピンが実効支配しているセカンド・トーマス礁に向かう補給線を中国海警局の船舶が妨害する問題も発生した。中国は、フィリピンでサモラと呼ばれるスービ(中国名:渚碧)礁を含むスプラトリー(南沙)諸島の3つの礁を完全に軍事化している」

     

    フィリピンは、日本とも防衛面で積極的な交流を始めている。日本・フィリピン外交・防衛「2プラス2」会合も始めた。フィリピン軍と自衛隊の合同演習が可能になるよう、ACSA(物品役務相互提供協定)と円滑化協定(地位協定)も検討段階に入っている。これが実現すると、日本とフィリピンは「準同盟国」並みの親密さを保つことになる。

     

    (2)「こうしたなか、ハリス米副大統領が20日夜にフィリピンに到着した。ハリスはジョー・バイデン米政権の一員としてフィリピンを訪問した最高レベルの米政府高官となり、このことは、6月末にフィリピン大統領に就任したばかりのフェルディナンド・マルコスJr.新大統領が、前任者のロドリゴ・ドゥテルテ前大統領よりもアメリカとの同盟関係を重視していることを示している。マルコスは、17日にAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議に出席するため訪問していたタイのバンコクで、中国の習近平国家主席と初会談。21日にはハリスと会談を行い、「アメリカを含まないフィリピンの未来はないと思う」と述べた」

     

    フィリピンは、「アメリカを含まないフィリピンの未来はない」とまで、米国への関係強化に前向きである。日頃、中国の横暴な行動に耐えてきているだけに、中国へ一矢報いたい気持ちが強いのであろう。

     

    (3)「この会談に先立ち、ハリスはフィリピンに対して、1951年に締結された米比相互防衛条約の下での協力を改めて確認した。ドナルド・トランプ米政権以降、南シナ海でのフィリピンに対する攻撃も、米比相互防衛条約の適用対象となっている。ハリスは「南シナ海に関する国際ルールと規範を守るため、我々はフィリピンと共にある」と述べた。「南シナ海において、フィリピン軍や公用船舶、航空機が武力攻撃を受けた場合、アメリカの相互防衛の約束が発動されることになる。これがアメリカの揺るぎない決意」と指摘する」

     

    中国軍は、米軍がフィリピンから撤退した後に、南シナ海を占拠した経緯がある。フィリピンはこれによって、島嶼を中国軍に奪われる結果となった。米比相互防衛条約(1951年)がありながら中国の侵略を許したのは、米国との関係が円滑でなかった結果である。フィリピンは、大きな痛手を被ったのだ。

     


    (4)「
    ある米高官は20日、ハリスは演説で「主権や領土の一体性、航行の自由」をはじめとする原則に言及するだろうと述べた。ハリスはまた、気候変動や違法・無報告・無規制漁業の影響についても述べる見通しだ。ハリスの今回の訪問では、貿易やサイバーセキュリティをはじめとする数多くの分野で二国間協力の強化が期待されている。フィリピンにおける米軍の活動拠点拡大についても前向きだ」

     

    米国もフィリピンとの関係強化はメリットがある。中国の台湾侵攻の際に、フィリピン基地を利用できるからだ。中国にとっては嫌な事態だ。

     

    (6)「アメリカ軍は現在、フィリピン国内の5つの拠点が使用可能だ。フィリピン軍のバルトロメ・バカロ参謀総長は先週、アメリカがパラワン島を含めてさらに5カ所を増やすことを提案してきたと述べていた。米ホワイトハウスの概要報告書によれば、ハリスは既存の5つの拠点について、軍事インフラや備蓄施設などの新設・改修プロジェクト(計21件)に8200万ドルを投じる予定。同報告書は、これにより「アメリカとフィリピンが恒久的な安全保障インフラを築いて長期的な近代化を推し進め、信頼できる相互防衛態勢を構築し、人道支援および災害救助能力を維持し、同盟を強化する」ことができるとしている」 

     

    米軍が、フィリピンで最大10カ所の基地利用が可能になれば、南シナ海一帯での中国軍の動きを監視できる。また、台湾有事の際はフィリピン基地を利用した作戦も可能になる。

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    中国の習近平国家主席は、先の米中首脳会談で「米国に取って代わる積もりはない」と発言した。中国は、首脳会談に先立ち民間の使節団を米国へ送って米国の感触を掴む努力までしたのである。このように、しおらしい姿勢に転じた裏には、米国が先端半導体の技術・製造などすべてにおいて輸出禁止したことに驚いた結果である。このままだと、中国経済が立ちゆかぬ危険性を感じたにちがいない。

     

    中国の孔鉉佑駐日大使は11月24日、大阪市内のホテルで講演し、「中国は世界のサプライチェーン(供給網)の一部になっており、(米中の)デカップリング(分断)は実現不可能だ」と話した。これは、中国が米国から見捨てられることへの恐怖心を見せているものだ。米国が、断固たる態度で臨んでいることに改めて恐れを抱いている結果でしかない。

     

    IMF(国際通貨基金)が、対中国への「IMF年次経済点検報告」で、次のような「意味深長」な言葉を添えている。「長期的には地政学的な緊張の高まりが世界経済の分断を招く恐れがある。特に、中国が金融面で世界から分断される『デカップリング』の可能性や、貿易や外国からの直接投資やハイテク技術などへの中国のアクセスが制限されていく事態を警告した」(『ロイター』11月24日付)。

     

    中国が、世界経済か分断される危険性について、IMFという国際機関から忠告されていることは極めて重要である。中国が、戦狼外交をやり過ぎいて総スカンを食っていることを示唆しているものだ。私は、中国が世界経済と深く関わっていることで、台湾侵攻で経済制裁されることのリスクが極めて大きいと主張している。

    次の記事をご参考に。

    2022-11-21

    メルマガ414号 中国「台湾侵攻」、制裁で経済はマヒ状態へ 国内は派閥絡む「低俗な

     

    驚くことには、IMFがこういう視点で中国の潜在的なリスクの大きいことを指摘した「勇気」である。国際機関の持つデータから中国は、経済制裁に耐えられないであろうと分析しているのであろう。

     

    『日本経済新聞 電子版』(11月23日付)は、「『人民の領袖・習近平』封じる密議とほほ笑み外交」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の中沢克二編集委員である。

     

    (1)「(習近平は)インドネシアでの米中首脳会談に続き、同盟国、日本の岸田ともタイで初めて対面式で会談。岸田との握手で、わかりやすい笑顔を見せた裏には、孤立脱出をアピールしたい習の思惑があった。習は、コロナウイルス禍で引きこもっていた2年半余りで、世界が中国を見る目が一変したことを思い知ったはずだ。中国が主導する「一帯一路」に真に積極的な国が減り、2国間会談の中国側発表文でこの話題に触れることさえできない例も多かった」

     

    習氏が、岸田氏との会談に見せた笑顔は初めて見るような明るさであった。それは、中国の世界における地位が悪い方へ変わったことを自覚しているのかと思わせるものであった。「一帯一路」は金融的に完全に行き詰まった。融資の6割が焦げ付き債権化しているのだ。今後の「一帯一路」は、職業訓練をするという。金の掛からないことへ転換するほかなくなっているのだ。

     

    (2)「それは、「人類運命共同体」という中国外交の常套句(じょうとうく)でも同じである。2国間外交で中国が運命共同体であると宣言できた国はごくわずかだ。習が4月に自ら提起した「グローバル安全保障イニシアチブ」に至っては、アルゼンチンとの首脳会談ぐらいにしか登場しない。中国の発言権は、コロナ前に比べ大幅に落ちていたこのほか、大どころではインド首相のモディ、英国の新首相、スナクとも会談が実現しなかった。インドとの間では2020年6月の国境衝突で45年ぶりに死者が出た。9月にはウズベキスタンで中印首脳が同じ場にいたが、会談には至らなかった。確執は深刻である」

     

    中国が、コロナを世界中にまき散らす前に得ていた「中国観」は、2年半の間に大きく変わっている。ロシアのウクライナ支援が、中国観を変えたのである。インドとの関係は、未解決のままである。英国は香港問題以来、中国と敵対的関係になっている。このように中国が仕掛けたワナに、中国自らが嵌り込んでいる局面が多いのだ。中国が、米国に取って代わろうなどという話は、もともと寝言の類いのことである。

     

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