世界中のメモリー型半導体市況の下落で、各国の半導体メーカーは減産体制に入っている。その中で、サムスンは減産しないと強気姿勢を見せる。メモリー型半導体に主要需要先のパソコン・スマホ・ゲーム機などは、いずれも販売不振に陥っている。韓国の半導体輸出も落込んでいるのだ。
サムスンから7~9月の仮決算が発表された。売上76兆ウォン(約7兆8136億円)、営業利益10兆8000億ウォンだ。前年同期比で、売上は2.73%増の反面、営業利益は31.73%もの大幅減益である。この状況下で、メモリー型半導体の減産をしなければ、在庫が増えるだけだ。それに耐える戦略なのだろう。
『中央日報』(10月7日付)は、「半導体不況にもサムスン電子『減産の計画はない』」と題する記事を掲載した。
(1)「メモリー半導体世界1位のサムスン電子が半導体需要急減の憂慮にもメモリー半導体減産を検討していないと明らかにした。5日(現地時間)、米カリフォルニア州シリコンバレーで開かれた「サムスンテックデー2022」でだ。ライバル社「米国マイクロン」などが設備投資縮小・減産に乗り出すことにした中で、危機を正面突破するという意志を示したものと業界では見ている」
李副会長は先に、贈賄罪による仮釈放が赦免されたことで経営への完全復帰ができたばかりだ。これまでの空白期を乗り切るべき「強気経営」に打って出た背景を見ておく必要がある。ただ、いくら「やる気満々」でも、市況崩落には勝てない。減産しないと宣言することで、市況回復はそれだけ遅れるマイナスが、サムスン自体にも及ぶ矛楯も計算に入れる必要があろう。
(2)「サムスン電子メモリー事業部のハン・ジンマン副社長はこの日、メモリー減産計画を尋ねる質問に「現在としては(減産に対する)議論はない」と答えた。ハン副社長は「人為的減産はないというのが(サムスン電子の)基調」とし「しかし深刻な供給不足・過剰が起きないように努力している」と説明した。先月29日、米国メモリー半導体大手マイクロンは生産量を5%減らし、来年の設備投資を30%削減すると明らかにした。NANDフラッシュメモリー「ビッグ3」とされる日本キオクシア(旧東芝メモリー)も最近、メモリー生産を30%減らすことにした。世界市場調査会社トレンドフォースは7-9月期NANDフラッシュ価格が13%~18%下落したことに続き、10-12月期にも15~20%下落すると見通している」
下線の「深刻な供給不足・過剰が起きないように努力している」発言は、意味深長である。過剰を防ぐには生産調整(減産)しか道はない。つまり、状況次第で減産するという意味だろう。市場調査会社によれば、10~12月も2割程度の市況下落を予測している。サムスンも揃って減産すると表明すれば、ユーザも先行き警戒姿勢を緩める効果があるはず。サムスンの意図が読めないのだ。
敢えて、強気姿勢を見せて世界の耳目を集める戦略にも読める。それは、次のパラグラフにあるとおり、システム半導体(非メモリー型半導体)への宣伝を開始しているからだ。敢えて「非減産」を打ち出して、マスコミの注目を引き出す狙いとも見えるのだ。
(3)「サムスン電子はメモリー減産を検討しない理由について、具体的には明らかにしなかった。しかし同日、製品競争力とメモリー・システム半導体のシナジー効果を通じて、半導体不況を乗り切るという考えをにじませた。この日、サムスン電子は「人間水準に近い」機能のシステム半導体を開発するというビジョンを明らかにした。頭脳の役割を果たすSoC(SystemonChip)をはじめ、イメージセンサー(目)、通信用チップ(神経網・血管)、電力半導体(心臓・免疫体・皮膚)などを披露する予定だ」
サムスンは、人間の頭脳に近いシステム半導体を開発するという。こういう高度の企業秘密を公にするメリットはあるのか。これも、不思議な戦略である。
(4)「システムLSI事業部のパク・ヨンイン部長社長は「サムスン電子はSoC・イメージセンサー・DDI(ディスプレイ駆動チップ)、モデム(通信チップ)など製品のコア技術を有機的に融合する『統合ソリューションファブレス(半導体設計会社)』になるだろう」と明らかにした。サムスン電子の関係者は「モバイル中心事業領域から抜け出し、家電、車両用半導体など様々な領域に拡大していく計画」と話した。匿名を要求した半導体業界関係者は、「景気低迷にもデジタルトランスフォーメーションのための半導体需要は増えるとみられ、メモリーとシステム半導体のシナジーを通じて競争力を確保するという意味」と分析した」
サムスンは、システム半導体で大きく出遅れている。台湾のTSMCは半導体の受託生産で世界一の実績を上げており、サムスンのはるか先を走っているのだ。サムスンは、こういう追撃の焦りが、今回の記者発表の裏にある感じだ。