韓国半導体の実力を診断
半導体工場が台湾“占領”
欧州にない産業が台湾に
韓国経済の屋台骨は、半導体輸出である。韓国は、5月以降貿易赤字に落込んだ。半導体輸出の不振が影響している。最近のウォン相場急落の裏には、半導体輸出不振による貿易赤字という問題があるのだ。
韓国経済は、製造業における一種の「モノカルチャー」的な現象を呈している。モノカルチャーとは、一国の産業構造が1つまたは2~3品目の農産物や鉱物資源の生産 (輸出向け)に特化した経済のことだ。韓国は、工業製品で半導体が圧倒的なシェアを占めている。その意味では、半導体が転けたらコリア経済も転ける構造だ。
韓国は、底の浅い経済である。こういう脆弱な構造にあるという認識が、ゼロというのも珍しいことだ。それどころか、GDP10位となって先進国意識に燃えている。文前大統領のように、「日本に二度と負けない」と強烈発言もある。産業構造からみて、これは不可能というほかない。韓国には、バランスの取れた産業構造へ転換することが、最も必要になっている。
韓国半導体の実力を診断
韓国は、メモリー型半導体で世界一のシェアを誇るが、非メモリー型半導体(システム半導体)では台湾の後塵を拝している。一口で言えば半導体技術力の差である。メモリー型半導体は、パソコンやスマホ、ゲーム機などに大量に使われる汎用品である。非メモリー型半導体は、自動車など一段上の品質を要求される「オーダーメイド」になる。汎用品半導体の市況は大きく変動するが、オーダーメイド半導体はその性格上、価格は比較的に安定している。注文生産ゆえに、過剰生産にならないからだ。
一口に半導体と言っても、メモリー型と非メモリー型ではこういう大きな差がある。韓国は、メモリー型半導体に依存するゆえに、すでに輸出面で市況下落の影響を受けているのだ。
韓国は、中国への輸出全体の依存度が25%と4分の1も占めている。韓国半導体輸出額に占める中国の割合は40%。香港を含めると60%にも達している。だが、中国のメモリー型半導体需要そのものが、大きく落込んでいるのだ。これを受けて、韓国からの半導体輸出も落込む結果となった。
中国国家統計局によれば、中国の8月の半導体生産は、前年同期比で24.7%も減少した。1997年に統計を始めて以来最大の減少だ。7月も前年比16.6%減である。今年1~8月までの半導体生産量は前年比10%減少である。この減少は、パソコンなどの需要減を反映したもの。ゼロコロナで生産が落ちたわけでない。半導体生産は、全自動化であるのでコロナ感染とは無縁である。ただ、停電の影響は受けている。
台湾は、半導体の中国輸出で、韓国と全く異なる様相を呈している。台湾の半導体輸出には、何の変調も出ていないのだ。中国の半導体生産は、需要減で大きく落込んでいるのに、台湾半導体にはその影が全くないのはなぜか。それは、台湾半導体が非メモリー型であることだ。自動車などに使われる「オーダーメイド半導体」であるので、需要先に変調が出ないかぎり、台湾半導体輸出に陰りは出ないであろう。
台湾半導体の対中国輸出状況を見ておこう。
今年1~8月の中国向け半導体輸出が430億ドル。輸出全体の51.8%を占めた。1~8月の半導体貿易黒字は223億ドル。貿易黒字全体の92.7%を占めた。昨年1~8月の半導体貿易黒字は303億ドル、貿易黒字全体の69.8%だった。
込み入った数字だが、言いたいことは次の点にある。今年は世界的なインフレで輸入物価が上昇している中で、台湾は半導体の貿易黒字で貿易収支全体を支えていることだ。台湾トップの半導体メーカーTSMC(台湾積体電路製造)は、設備投資資金も自己資金で賄うという「スーパー優良企業」になっている。「オーダーメイド半導体」の採算が、いかに良いかを端的に物語っているのだ。
TSMCは、半導体の進化を支える微細化技術で、世界一の実力を持つとされる。20年春には半導体の性能を左右する回路線幅が5ナノ(ナノは10億分の1)メートルの半導体を世界で初めて量産。製造分野に集中投資し、「技術力と生産キャパシティーの両面で、各社はTSMCに頼るほかない状況だ」とまで言わせる存在だ。
半導体工場が台湾“占領”
このTSMCに刺激された形で、台湾全島で半導体設備投資が進められている。台湾は、未曽有の半導体の投資ラッシュが起きている。総額16兆円に及ぶ世界でも例を見ない巨額投資だ。世界から台湾の地政学的リスクが何度も指摘されてきた。それでも、台湾は巨額投資に突き進んでいる。
それは、世界一の「半導体生産基地」になれば、いくら中国でもこれら設備を破壊する侵攻作戦を始めないだろう。また、西側諸国が「半導体」台湾を簡単に見捨てることはあるまい、という思惑に突き動かされているように見える。
台湾南部の中核都市・台南市は、TSMCが一大生産拠点を構えた場所である。世界で最も先端の工場が集まる場所として知られ、今年、TSMCが4つの新工場を完成させたばかりである。さらに、2つの工場が建設されている。(つづく)
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