勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    ロシアのウクライナ侵攻は、すでに開戦6ヶ月を経た。ウクライナ軍は、南部戦線でヘルソン市奪回を目指してロシア軍へ攻勢を強めている。ドニプロ川岸には、ウクライナ軍によって兵站線を破壊された結果、数千名のロシア兵が孤立状態とされている。ロシア軍は、物資補給を目指す渡河作戦を封じられているからだ。

     

    ロシア軍にとって不利な戦いになっているが、ロシアの世論はウクライナ侵攻についてどのような見方か注目される。戦争が長期化の気配を強めると共に、「賛否」が拮抗していることが分った。すでに、熱狂的な支持は消えているのだ。

     


    『NHK』(9月2日付)は、「“侵攻継続と和平交渉で意見が二分” ロシア 世論調査」と題する記事を掲載した

     

    ウクライナ侵攻をめぐってロシアの独立系の世論調査機関は、ロシア国内では侵攻の継続と和平交渉への移行で意見が二分しているとする調査結果を発表しました。ロシア軍によるウクライナ侵攻後、ロシアの世論調査機関「レバダセンター」は毎月下旬に全国の1600人余りを対象に対面形式で調査を行っています。

    (1)「9月1日、8月の調査結果を発表し、この中で「軍事行動を続けるべきか和平交渉を開始すべきか」という質問に対して、
    「軍事行動の継続」  48%  「和平交渉の開始」  44%

    意見がほぼ二分しました。このうち40歳未満では過半数が「和平交渉」を選んでいて、若い世代ほど和平交渉への移行を望んでいることがうかがえます。特に18歳から24歳までの若者の30%は「ロシア軍の行動を支持しない」と答え、情報統制が強まる中でも、およそ3人に1人が侵攻への反対姿勢を示した形です。「レバダセンター」はいわゆる「外国のスパイ」を意味する「外国の代理人」に指定され、政権の圧力を受けながらも、独自の世論調査活動や分析を続けています」

     


    この調査では、戦争継続(48%)と和平交渉(44%)がほぼ拮抗した状態である。ロシア政府が情報統制していても、ロシア軍の死傷者が最大8万名(米国防省推計)という、壊滅的な打撃を受けたニュースは浸透していると見られる。勝ち戦であれば、「戦争継続」派がもっと多かったであろう。

     

    18歳から24歳までの若者では、30%が「ロシア軍の行動を支持しない」としている。この状況では、徴兵強化が大きな反対論を巻き起こすことは確実である。ロシア軍の兵士不足は深刻である。「60歳まで応募可能」という信じられない募集条件を出しているほどだ。

     

    間違いなく、ロシアで「厭戦気分」が強まっている。これが、プーチン戦争の先行きを占う「カギ」になりそうだ。2024年は、ロシアの大統領選挙である。プーチン氏は、これがデッドラインになって、自ら解決策を模索せざるを得ないであろう。

     


    最近、ロシアで気になる動きが増えている。国家主義者による「戦争批判」である。これは、ロシア軍部への批判であって、プーチン氏を対象にした批判でない。戦争を始めた張本人のプーチン氏でなく、軍部の稚拙な戦闘を非難する意味は、何かである。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月24日付)は、「ロシアで異例の政府批判、極右の国家主義者ら」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアで国家主義者の大物や戦争支持派のブロガーらが、ウクライナ戦争でのロシア軍の失敗やミスについて政府に批判を浴びせている。ロシア政府は戦果に関する否定的な報道を抑圧しており、そうした人たちの主張は政府が流布している内容と矛盾している。

     


    (2)「ソーシャルメディア「テレグラム」のチャンネルでは、概してロシアのウクライナでの作戦を支持する論客が、ロシアの戦争への準備不足や不必要に多い犠牲者数、攻撃ペースの遅さについて、ウラジーミル・プーチン大統領率いる政府を非難している。「クレムリン(大統領府)がのんびりといつものように鼻くそをかみ続けている間、われわれの尊敬するウクライナの相手は、事もなげに手当たり次第破壊している」。極右の国家主義者イゴール・ガーキン氏は、ウクライナ軍が7月に米国から供給された兵器でロシアの標的を攻撃した後、こう書き込んだ。さらに今月、「ウクライナにおけるロシアの軍事戦略の失敗は明らかだ」とも述べた」

     

    情報統制の中で、こうした発言が放置されているのは、プーチン氏へ向けられた非難でないから許されるのだ。プーチン氏は、軍部に責任を取らせて自らは逃れられると見ている証拠だ。

     


    (3)「米シンクタンク、外交政策研究所(FPRI)の上級研究員を務めるロブ・リー氏は、「こうした論客の多くは、ロシア政府が手ぬるいと不満を訴えている」とし、「もしプーチンが戦争をエスカレートさせることを決めれば、彼らはそれを支持し、喜ぶだろう。その点で、彼らは政府にとって有用だ」と述べた。さらに同氏は「プーチンは恐らく、否定しきれない大きな軍事的失敗があることに気づいているだろう」と指摘。「そのはけ口が必要だ。それが政治指導者ではなく、軍事指導者に向けられている限り、問題ないだろう」と述べた」

     

    ロシア内部で、こうした「内輪揉め」が起こっていることは注目に値する。一般大衆へは、厭戦ムードを高める効果として働く筈だ。ロシア内部で「化学変化」が起こっている前兆である。開戦当初、勝利を意味する「Z」マークが街中に氾濫していたが、現在は180度変わったのだ。

     

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    G7(主要7ヶ国)財務相会議は、ロシアの戦費調達に斬り込むべくロシア産原油価格に上限制を設けることで合意した。1バレル40~60ドル見当が目安にされている。現在の国際価格(WTI)は、87ドル(先物価格)程度。実現すれば、西側諸国にプラスだが、ロシアにとっては大きな圧迫材料になる。EU27ヶ国も共同歩調の見込み。

     

    『ロイター』(9月2日付)は、「G7財務相、ロシア産石油価格の上限設定で合意」と題する記事を掲載した。

     

    主要7カ国(G7)の財務相は2日開催したオンライン会合で、ロシア産石油および石油製品の価格に上限を設定する措置を導入する方針で合意した。

     


    (1)「原油価格の高騰を回避しつつ、ウクライナ侵攻を続けるロシアの戦費調達を阻む。しかし、バレル当たりの価格上限については「技術的インプットの範囲に基づき」今後詰めるとし、重要な詳細は盛り込まれていない。G7財務相は声明で「ロシア産原油および石油製品の海上輸送を可能にするサービスの包括的な禁止を決定し、実施するという共同の政治的意図を確認する」と表明した」

     

    G7は、EUが12月5日に発動する予定のロシア産原油の部分的禁輸措置に合わせて上限価格を導入する計画だ。声明で、制裁内容の変更にはEU加盟国全てが合意する必要があると明記した。ただ、最終的な上限価格のレンジには言及していない。上限価格は、「これを着実に守り実行する各国の幅広い連合によって決定される」とし、「明確かつ透明性ある方法で公に発表される」と説明している。

     

    G7とEU加盟27ヶ国が、ロシア産原油価格上限制に参加すれば、ロシアにとっては大きな圧力だ。米国はインドにも働きかけている。

     


    (2)「価格上限を超えるロシア産石油や石油製品の海上輸送への保険・金融サービスなどの提供は禁止される。声明はまた、「欧州連合(EU)の第6次対ロシア制裁に含まれる関連措置のスケジュールに合わせて実施することを目指す」としている。EUは12月からロシア産石油の禁輸を施行する。米国財務省の高官によると、ロシア産原油については特定のドルの価格上限を設け、石油製品については別の2種類の上限を設ける見通し。価格は必要に応じて見直すという」

     

    この上限制に参加した国々のロシア産原油の輸送には、正規の海上保険契約を認めることにしている。ロシアは、これに対抗して独自に保険機能を付けるとしている。だが、果たして事故が起こった時、保険金支払いができるか疑問視されている。

     

    (3)「議長国ドイツのリントナー財務相は会見で、ロシアの石油価格に上限を設けることで、ロシアの歳入が減少するとともに、インフレが抑制されるとし、「われわれはロシアの収入を制限したい。それと同時にわれわれの経済への打撃を軽減したい」と語った。さらに、G7は上限設定でコンセンサス形成を目指しており、EUの全加盟国が参加することを望んでいるとした。イエレン米財務長官も声明で「世界のエネルギー価格に下押し圧力をかける、ウクライナでの残忍な戦争の財源となるプーチン大統領の収入を断つという2つの目標」達成に役立つという認識を示した」

     

    この上限制に参加することは、一種の踏み絵になる。国連の「ロシア非難決議」では、棄権や反対した国が、原油を安く買えるとなれば、どのように対応するのか。見ものである。

     

    ロシア大統領府のペスコフ報道官はG7の声明を受け、世界の石油市場を不安定化させる措置という見方を示し、上限価格を設定する国への石油販売を停止すると述べた。これは、ロシアとして販売先を失うことになる。痛し痒しであろう。

     


    (4)「G7の高官は、ロシア産石油価格の上限設定を巡り、他国からも参加に向け「前向きなシグナルを受け取っているが、確固としたコミットメントには至っていない」と述べた。同時に「われわれはロシアや中国などに対する結束のシグナルを送りたかった」と述べた。

    ウクライナのゼレンスキー大統領のウステンコ上級経済顧問は、「ロシアの収入を減らすためにまさに必要な措置」とし、G7財務相会合での決定を歓迎。価格上限が4060ドルのレンジになるという見通しを示した。ゼレンスキー大統領はビデオ演説で、ロシアの天然ガス輸出にも上限を設けるべきと訴えた」

     

    ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア産天然ガス輸出にも上限価格制を設けるべきと主張している。原油で成功すれば、天然ガスにも適用されよう。

    ムシトリナデシコ
       


    韓国の8月貿易赤字は95億ドルである。これは、過去最大の貿易赤字を出した1996年通年での赤字幅(206億ドル)のほぼ半分に達する規模だ。8月の一ヶ月でこれだけの赤字になった裏には、稼ぎ頭の中国と半導体に見られる変調が大きな理由である。

     

    韓国貿易は、これまで中国輸出で稼いだ黒字で対日赤字を埋め、対米輸出で黒字を出す構造になっていた。その「お客さん」であった中国輸出が赤字になったのだ。その上、世界的に半導体需要が落ちているので、韓国経済にとっては「一大事」という騒ぎになっている。

     

    さらに不吉なのは、今年4月にデフォルト(債務不履行)を宣言したスリランカに続き、バングラデシュ、ラオス、パキスタンなどアジア諸国が連鎖的に国家危機に陥っていることだ。1997年のアジア通貨危機を連想させる動きである。当時、韓国ウォンも危機に陥ったのである。それだけに、韓国の警戒観は高まっている。

     

    『中央日報』(9月3日付)は、「このままではいけない、中国・半導体による錯視が消えると『暗鬱』」と題する記事を掲載した。

     

    8月の韓国貿易収支が過去最大の赤字になったことを受け、専門家らはこのように分析した。「中国錯視」「半導体錯視」が消えると、韓国の輸出の問題点が表れたのだ。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は2日、「心配しなくてもよい」というメッセージを出したが、産業界と専門家はこのまま進めば韓国の輸出がさらに大きな危機に直面すると懸念している。

    (1)「産業通商資源部によると、8月の貿易赤字は94億7000万ドルと、関連統計を出し初めて以降の最大額となった。今年1~8月の貿易赤字も247億2700万ドルで過去最大だ。韓国の輸出の素顔が表れたのは2本の軸をなす「中国」「半導体」輸出に亀裂が生じた影響だ。韓国の最大輸出国の中国は都市封鎖などで景気が冷え込み、対中輸出が減少している。しかし需要が急増した電気自動車バッテリーの素材などの中国依存度が高まりながら中国からの輸入は急増し、対中貿易収支は5月から4カ月連続でマイナスとなった」

     


    今年1~8月の貿易赤字は247億2700万ドルである。過去最大の貿易赤字が、1996年の206億ドルである。すでに、当時の通年赤字幅を超えている。原因は、稼ぎ頭であった「中国」と「半導体」の輸出に亀裂が生じているからだ。この2要因は、短期間で改善する見込みはない。となれば、韓国経済はSOSの信号が灯る。

     

    (2)「韓国経済を支えていた半導体は世界的な景気沈滞で需要が減少し、上半期に輸出物量が減り始め、先月から減少に転じた。韓国の主力商品のメモリー半導体は中国の激しい追撃を受けている。ウォン安ドル高による輸出増大効果も以前ほどではない。これまでは韓国企業の価格競争力につながっていたが、競争国の通貨も同時に下落している最近はこうした効果も期待しにくい状況だ」

     

    中国では、スマホ需要が急減しており、国内生産の半導体が余剰になってきたので韓国へ輸出攻勢を掛けている。これまでに見られなかった現象である。

     


    (3)「最近の危機は、単に原油・原材料価格の上昇によるものではないということだ。対外経済政策研究院のイ・サンフン北京事務所長は、「中国市場が沈滞し、半導体が停滞すると、韓国輸出の虚弱体質がそのまま表れた」と述べた。貿易収支が悪化する中、韓国銀行(韓銀)は先月25日、年間経常収支の目標値を年初の500億ドルの黒字から370億ドルの黒字に下方修正した。尹大統領は2日、「経常収支は300億ドル以上の黒字が予想される」とし「対外財務健全性についてはそれほど心配する状況ではない」と強調した」

     

    下線のように、韓国輸出が「中国」と「半導体」を中心に好循環してきたので、突然の変調で全体のスピードがガクンと落ちた衝撃は大きい。

     

    (4)「国内総生産(GDP)の80%以上を占める輸出入に問題が生じれば、韓国経済が危機から抜け出すのは難しい。対外経済政策研究院のキム・ジョンドク貿易通商室長は「いくつかの原因が複合的に作用していて、現在の状況が短期間に変わることは考えにくい」と話した。専門家らは中国・半導体に依存した輸出構造を改善しなければ貿易赤字が固着化するため、体質改善を急ぐべきだと口をそろえる。韓国開発研究院(KDI)のソン・ヨングァン研究委員は「米国は世界貿易機関(WTO)規定違反の余地がある法案まで作って特定産業を管理している」とし「韓国政府と産業界も輸出に寄与する商品を守り、新しい市場を発掘するための特段の対策を用意する必要がある」と述べた」

     

    韓国の輸出危機は序の口である。今後、さらに悪化する気配が濃厚であるからだ。中国経済は、すでに不動産バブル崩壊の後遺症が顕著に出ている。金利を下げても資金需要が出ないと言う「流動性のワナ」に嵌っている。日本経済が通ってきた道を歩み始めているのだ。

     

    半導体は、目先問題として需給サイクルの逆転という短期循環現象である、だが、中長期的には米国の対中半導体戦略によって、韓国企業の中国半導体生産が難しくなることだ。これは、対中半導体輸出にブレーキを掛けることにも繋がる。こうして、韓国の半導体は対中向けで抜本的な見直しを迫られる時期に近づいている。韓国経済は危機だ。

     

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    本欄で既報のように、英経済紙『フィナンシャル・タイムズ』は社説で、中国経済の不動産バブル崩壊を「宣告」した。この判断は、客観的なデータから見ても正しいものだ。問題は、習近平氏にその認識がないことである。相変わらず、米国経済を追い越すという妄念に縛られていることを覗わせている。大真面目に、台湾侵攻を考えているところにそれが現れている。

     

    中国経済を追込んでいるのは、不動産バブル崩壊だけでない。ゼロコロナ政策の継続が、人流を阻害して経済活動を抑制している。このゼロコロナは、来年も継続されるという見方が支配的になってきた。こうなると、中国経済の成長率は一段と押し下げられることは不可避である。こうして、中国国債の「格下げ」問題登場の公算が強まるであろう。

     


    今年5月、米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスが、格下げについて言及しているのだ。同社は北京での報道機関向け説明会で資料を配布し、その中で「貿易 関係の深刻な悪化も格付けを損ねる可能性があると指摘した。一方で、 格付けは『政府の強固な財政』と金融システムの強化に支えられるだろう」とも記した。だが、たった3ヶ月前の5月と現状では、事態の悪化は明らかである。不動産バブル崩壊という現実に直面しているからだ。ここで、格付けの引き下げが起これば、大きな影響が出るだろう。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(9月1日付)は、「中国は23年も『ゼロコロナ』継続へ、GDPを圧縮」と題する記事を掲載した。

     

    ハイテク産業の世界的中心地である中国広東省深圳では、わずか35人の新型コロナの新規感染者が見つかっただけで、当局は1750万人が暮らすこの大都市で大規模な行動規制を実施した。

     


    (1)「8月28日以降、南西部に位置する四川省成都や東北地方の黒竜江省ハルビン、天津市などを含む中国各地の都市で、部分的な都市封鎖(ロックダウン)、大規模な一斉検査、公共交通機関の運行停止、休校などの措置が取られた。しかしこれでもなお、中国政府は、習国家主席が主導して導入した、厳格な感染封じ込めを狙う「ゼロコロナ」政策を2023年以降も継続するだろうとの見方が一般的だ。中国の科学者がコロナ感染を完全に防ぐワクチンを開発するか、オミクロン株よりはるかに軽い症状しか起きない新型株が現れて置き換わってしまうまで、この政策は続くと予想されている」

     

    現状では、ゼロコロナ政策が2023年まで続くという見通しが強い。強力なワクチンがないことと、医療施設の不備が理由である。習氏は、国家主席3期目の決まる予定である10月過ぎにゼロコロナを廃止すれば、余りにも露骨過ぎるのだ。これをカムフラージュするためにも、今秋以降もゼロコロナ政策は継続されるだろう。だが、中国経済の足腰は、これにより一段と脆弱化する。

     


    (2)「北京に拠点を置く調査会社プレナムの共同創業者チェン・ロン氏は、「奇跡でも起きないかぎり(政策撤廃は)あり得ない」と言う。「中国政府は、現在世界で使われているワクチンよりはるかに効果的な"スーパーワクチン"が開発されるか、ウイルスがさらに進化して命を脅かさないようなものに変わることを望んでいる」と指摘する」

     

    ゼロコロナ政策は、中国医療システムの脆弱性を世界中に曝しているところだ。

     

    (3)「仏投資銀行ナティクシスが、小売売上高や都市間の移動などをパンデミック前の水準と比較して行った分析によると、ゼロコロナ政策による消費への影響により中国の国内総生産(GDP)の今年の成長率は1.6ポイントから2ポイント低下する。中国政府は、今年の経済成長率の目標をここ数十年で最低の5.%に設定したが、この目標でさえ達成するのが難しくなりつつある」

     

    ここでは、ゼロコロナ政策による個人消費減によって、今年のGDP成長率は1.6ポイントから2ポイント低下するという。むろん、政府目標の5.5%前後からほど遠い低成長率へ低下する。

     


    (4)「本当の影響はさらに大きなものになるだろうと、アジア太平洋担当のチーフエコノミスト、アリシア・ガルシア・ヘレーロ氏は警告する。「この分析は、住宅部門全体における市場心理の悪化や世界第2の経済における投資の縮小などの影響を反映していない、とヘレーロ氏は指摘する。中国国家統計局が31日に発表した中国の製造業購買担当者景気指数(PMI)は、2カ月連続で景気判断の分かれ目となる50を下回った。不動産部門の下振れと厳しい干ばつが響いた」

     

    ゼロコロナ政策で、個人消費だけが急減するのでなく、住宅不振や投資不振へと波及すると警戒している。となれば、今年のGDP成長率は最終的に、どこまで低下するかだ。

     


    最新の予測では、
    ゴールドマンサックスが3%に下方修正した。従来は3.3%だった。野村は2.8%(従来予測3.3%)へと引下げた。8月17日に発表したもの。シティグループとムーディーズ・インベスターズ・サービスは、それぞれ3.5%に引き下げた。8月18日に公表した。このように、3%を軸にこの前後の成長率予測である。

     

    この成長率予想が、来年はどうなるかである。不動産バブル崩壊の後遺症が強く出れば、3%台に止まって、改めて中国の格付けが議論の対象となろう。

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    米国は、中国の軍事力強化になりうる半導体の輸出を禁止した。米国の不退転の決意を見せつけた形だ。米半導体大手のエヌビディアやアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)は8月末、人工知能(AI)向けの一部半導体の対中輸出を事実上停止するよう米政府から通知されたと発表した。専門家は、中国でクラウドコンピューティングや言語などの最先端AI学習処理を手がける大手ハイテク企業に、大きな打撃になると予測されている。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月2日付)は、「遠のく中国AI覇権の夢、米が先端半導体に新規制」と題する記事を掲載した。

     

    米政府が米画像処理半導体(GPU)大手エヌビディアの先端プロセッサに輸出規制を課したことで、人工知能(AI)で世界の覇権を握ろうとする中国の野望に狂いが生じている。中国は米国が先端技術を独占しようとしているとして反発している。

     


    コンサルティング会社インターナショナル・ビジネス・ストラテジーズのハンデル・ジョーンズ最高経営責任者(CEO)は、今回の措置について「主に商用目的で利用される高性能プロセッサを標的にしており、米国は大きく一歩を踏み出した」と話す。今回の輸出規制で、アリババグループやテンセントホールディングスといった中国テク大手は、世界の最先端チップを入手する道を絶たれる。両社とも、膨大なデータ処理が可能なエヌビディアの先端チップを使ったクラウドサービスを展開している。

     

    (1)「エヌビディアは831日、許可なしで中国顧客への先端チップ販売を禁じる新たな米国の規制により、売上高が4億ドル(約560億円)押し下げられそうだと明らかにした。また、中国から事業の一部を移行させる必要が生じるかもしれないとしている。輸出規制を担当する米商務省は、中国が米国の技術を使って軍事力を強化することを阻止するのが目的だと説明した」

     

    米国が、輸出禁止した目的は軍事転用を阻止するためだ。

     


    (2)「新たな規制は、エヌビディアのGPU「A100」の中国、香港、ロシアへの輸出が対象となる。A1002年前に発表された製品で、データセンター向けのAI演算に使われる。エヌビディアによると、今後投入される最先端の「H100」シリーズやさらに技術が進化するであろう将来の製品についても影響を受ける」

     

    エヌビディアのGPU「A100」は、中国、香港、ロシアへの輸出が禁止対象となる。A100の顧客にはアリババ、テンセント、百度(バイドゥ)が含まれると明らかにしている。いずれも中国でクラウドコンピューティングサービスを手掛ける大手だ。

     


    3)「中国は、AIを戦略技術の最優先課題に掲げており、AI関連の企業や研究所に公的支援をつぎ込んでいる。だが、複雑なAIアルゴリズムのプログラミングに不可欠な先端チップはエヌビディアなど米企業に依存しており、AIの野望を実現する上でアキレス腱となっている。エヌビディアの2022年度売上高269億ドルのうち、25%以上を中国と香港が占めた。同社の共同創業者で社長を務めるジェンスン・フアン氏は8月、アナリストとの電話会議で、中国は「当社にとって非常に重要かつ巨大な市場だ」との認識を示している」

     

    中国は、AIを戦略技術の最優先課題にしているが、肝心の半導体は米国依存である。米国はそこを狙って、野望達成の夢を断ち切ろうと輸出禁止にした。戦前の日本が、米国から石油とくず鉄の輸入禁止に遭ったと同じである。

     


    (4)「エヌビディアは近年、中国市場との関係を深めている。エヌビディアの先端チップは、中国の監視カメラ企業が画像認識アルゴリズムを学習させるのに使われている。またエヌビディア幹部によると、最近では電気自動車(EV)や自動運転車の開発促進に向け、比亜迪(BYD)などの自動車メーカーにとっても、同社の技術が不可欠になっている。エヌビディアは2020年、中国クラウドサービス大手の多くがAI分野で同社のA100を採用したと明らかにしていた。前出のジョーンズ氏は、A100やH100が入手できなくなれば、特定のAI技術に取り組む中国企業は相当な影響を受ける見通しで、エヌビディアの旧型技術に頼らざるを得なくなると話す」

     

    中国は今後、エヌビディアのA100や後継型のH100を入手不可能になる。画像認識アルゴリズムやEVなど輸出禁止の影響を受ける業種は多い。

     


    (5)「エヌビディアによると、中国クラウドサービス最大手のアリババでは、AIアルゴリズムの学習や高度な演算にA100が寄与している。アリババのクラウド事業に関するサイトでは、さまざまなA100の用途に触れており、ヘルスケア、金融、製造などの業種で迅速な分析を可能にすると説明されている。エヌビディアによると、クラウド国内第3位のテンセントは、データや動画の分析など向けにA100を導入している」

     

    アリババやテンセントは、画像処理によって新分野への進出を計画してきた。それが、最先端半導体輸出禁止でブレーキがかかった。

     


    (6)「輸出規制で影響を受けるエヌビディアの中国顧客にとっては、輸出規制に指定されていない同社の旧型プロセッサを複数使うことが代替策になる。こう指摘するのは、ジェフリーズのアナリスト、エディソン・リー氏(在香港)だ。中国のGPUメーカーには、竜芯中科技術や海光信息技術などがあるが、国内メーカーへの切り替えは難しいという。リー氏は1日のリポートで「直接的な代替メーカーは国内には存在しない」と述べている」

     

    中国には、エヌビディアの代替メーカーが存在しない。それだけに、画像処理ビジネスが頓挫することは不可避と見られる。

     

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