中国は、新築マンションが売れないだけでない。中古マンションも値下がりしている。住み替え計画は頓挫する一方、老後資金に備えて貸家にしてきたマンションも大幅な値下がりだ。日々の消費を切り詰めて貯蓄に励んでいる。こうして、消費は一段の低迷を来たしている。不動産バブル崩壊のもたらした「津波」が押し寄せている。
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月26日付)は、「住宅不況に苦しむ中国、多くの家計が支出抑制」と題する記事を掲載した。
中国では、過去20年間の不動産ブームで多くの世帯がより豊かになったと感じていた。しかし市場環境が一変した現在、資産価値の減少を受けて支出を抑制している家計も多く、景気減速に拍車を掛けている。
(1)「数十の都市で新築・中古住宅の平均価格が昨年9月以降下落しており、回復の兆しは見られない。多くの不動産開発業者がデフォルト(債務不履行)に陥り、建設を中断したため、売り上げが減少し、市場への信頼感が一段と失われている。中国の不動産所有者の多くは現在、住宅価格がさらに下落する可能性を懸念し、支出を抑え、貯蓄を殖やしている。市民の間で中国経済の先行きに対する自信が揺らいでいるのは、住宅市場の低迷だけが理由ではない。所得の伸びは鈍化し、インフレが高まっており、経済成長率は2年ぶりの低水準に減速している。16~24歳の若者の約5分の1は仕事に就いていない」
中国では、家計資産の約70%が住宅である。これが値下がりすれば、家計支出に影響するのは当然。その現象が現在、中国経済の足を引っ張っている。住宅バブル華やかな頃と、真逆の事態が始まっている。
(2)「住宅価格の下落により、万が一に備えて支出を減らすべき時期だとの考えが多くの世帯で強まっている。中国では家計資産に占める住宅の割合が約70%と、米国に比べて高い傾向にあることがこうした懸念を高めているかもしれない。米国では、住宅保有率がもっと低く、株式保有がより一般的だ。中国の小売売上高は今春に数カ月連続で減少した後、6月は前年同月比3.1%増、7月は同2.7%増にとどまり、伸び率は新型コロナ流行前の水準を大幅に下回った。中国の不動産価格がおおむね上昇していた2000年から2019年末までの間、小売売上高は月平均約12%増加していた。今年上半期のテレビ、冷蔵庫、エアコンなどの家電の売り上げは、前年同期から11%減少した」
不動産バブル崩壊で、すべてが逆回転を始めている。本欄は、こういう事態の到来に警戒観を唱えてきたものだ。それが今、現実化しているに過ぎない。
(3)「一方で、中国国民は貯蓄を殖やしている。上半期の銀行での貯蓄額は過去最高の10兆3300億元(約209兆円)と、前年同期の7兆4500億元を上回った。5月の消費者信頼感を表す指標は、中国の統計局が1991年に統計を取り始めて以降最低の水準に落ち込んだ」
消費節約による個人貯蓄増は、中国経済全体の循環過程にマイナス影響を与えている。貯蓄は増えても銀行貸出が増えないのだ。要するに、「流動性のワナ」に陥っている。事態は深刻である。
(4)「一部の人々にとっての問題は、住宅価格への信頼感が損なわれたことよりむしろ、市場が好調だったときに購入した資産を売却できないことだ。中国南西部にある人口70万人の貴州省凱里市のある住民は、息子が北京で家を買う資金を調達するため、自分が持っているいくつかのアパートを売ることを計画。しかし、地元の住宅価格はパンデミック(世界的大流行)が始まって以降20%も下落した。アパートを売ることができなかった。結局、北京の物件の頭金を払うために、自身の全貯蓄をはたき、親族から借金をして資金を集めた。そのため、日々の出費を抑えている。彼は「誰もが中国の住宅(購入)は確実な賭けだと考えていた。状況がこれほど急に変化するとは思っていなかった」と話した」
中古住宅が値下がりしており、転売もままならなくなっている。これまでは、いつでも高値で売却できたので貸家需要が増え続けた。この現象が、住宅値下がりでストップした。不動産バブル崩壊とは、こういう事態を引き起こす。もともと、投機需要で支えられていただけに、投機が止まれば価格は急落するもの。一般の経済現象と同じことなのだ。
(5)「四川省成都市の西南財経大学の研究者らが、2019年に発表した調査報告によると、中国では不動産価格が10%上昇すると、消費全体が約3%増えることが分かった。シーフェアラー・キャピタル・パートナーズで中国市場調査ディレクターを務めるニコラス・ボースト氏は、今年出した調査報告の中で、不動産市場の大きな調整を受けて、家計支出が抑制されるとの見通しを示した。同氏は、中国の家計は住宅市場のリスクにさらされている度合いが大きいためだ」
下線部の指摘は、その通りであろう。資産価格の上昇は、消費行動を拡張型にする。資産価格の下落では、逆現象を招くのである。