パソコンで文章を書き終えて翌日、作業を続けようとしたら「アクセス禁止」と画面に出て仰天した話が報じられている。中国政府が、私文書まで検閲している事態が明らかになり、中国社会の異常性を浮き彫りしている。
政府が、国民の書く文書まで検閲しているのは、謀反が起こることを恐れた結果であろう。この状態で、習氏は今秋に3期目の国家主席ポストを狙っているのだ。
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月16日付)は、「中国ネット検閲、『個人文書』にもと題する記事を掲載した。
6月25日昼頃、作家志望の中国人女性ミッフィー・グーさん(25)は、いつものように執筆中の小説原稿の文書ファイルをクリックした。しかし、次の瞬間に起きた出来事は程なく、数百万人の中国ネットユーザーを恐怖と不満で結束させることになる。市民のデジタル生活に政府がさらに深く侵入している実態が露呈したためだ。
(1)「グーさんが目にしたのは、自身のファイルではなく、文書ソフトウエアからの警告メッセージだった。「この文書には禁止コンテンツが含まれている可能性があります。アクセスが凍結されました」。「パニックに陥った」というグーさん。「すでに100万ワードも書いていたのに、ファイルが開けなくなるなんて」。グーさんが使っていたのは中国国産のオフィス向け文書ソフトウエア「WPS」で、国内では最もダウンロード数が多い。グーさんは文書へのアクセスを回復するため、WPSのメーカーである金山弁公軟件(キングソフトオフィス)とのやりとりを重ねるうちに、当初のパニックは怒りへと変わった」
突然の「アクセスが凍結されました」という表示には驚いたであろう。政府は、ここまで個人の言論監視へ目を光らせているのだ。
(2)「グーさんの体験が物議をかもしている現状は、共産党支配から逃れられる私的空間をある程度確保したいという気持ちが中国市民の間で強いことを物語っている。また、この問題は金山弁公軟件に対する信頼危機にも発展した。同社のソフトウエアは中国を中心に世界で5億7000万相当のデスクトップやモバイル端末に搭載されている。同社は11日声明文を公表し、中国のネット規定に違反する文書への第三者によるアクセスを制限したと説明した。グーさんの名前も、文書ファイルから締め出されたという彼女の訴えについても言及しなかった」
文書ファイルは、個人所有の筈だ。それとも、ソフト提供会社の所有で、個人はそれを借りているのか。そういう法的な問題まで発展する事件だ。政府が、言論領域を監視しているのは驚きだ。
(3)「13日には別の声明文を公表し、ソーシャルメディアで指摘が上がっている「ユーザーのハードドライブ上のファイルに介入している」との見方については、誤解だとして否定。その上で、中国のサイバー関連規制はネットに接続されている文書を検査・承認するよう義務づけているとし、ユーザーのプライバシーを守るため暗号化技術を使って実施していると説明した。ウェイボーの元検閲担当者で、現在はカリフォルニアから中国のネット検閲について研究しているエリック・リュ氏は、消費者にクラウド保存サービスを提供するハイテク企業はすべて、検閲を義務づけられていると述べる」
中国は、監視カメラだけでない。文章までチェックしていることが分った。
(4)「『WPSオフィス』は、ドナルド・トランプ前米大統領が退任直前の2021年1月、大統領令で禁止しようとした複数の中国製ソフトウエアの1つだ。トランプ氏はその理由として、これらソフトウエアの情報収集能力が米国の安全保障に脅威となると指摘していた。ジョー・バイデン大統領はその後、大統領令を撤回したが、ホワイトハウスはこれらの製品が及ぼすリスクについて引き続き懸念しており、検証を続けると述べている」
「WPSオフィス」が、米国でも使われているという。米国は、無防備過ぎる。ファーウェイの5Gでは、あれだけ問題したのに文章作成という重要手段が、北京で監視されている可能性もある。中国製監視カメラも排斥されている時代である。危険だ。
(5)「グーさんによると、3日後に文書にアクセスできるようになった。金山弁公軟件の社員は、コンテンツ監視機械が誤作動を起こしたとして、グーさんに電話で謝罪した。だが、作品の中で何がアクセス停止を招く原因になったのかについては、決して説明されなかったという。グーさんがネット上で自身の体験を打ち明けると、他の物書きからも似たような状況に遭遇したとの声が寄せられた。犯罪小説を書いていたあるユーザーは、WPSから度々アクセスを停止されたと明かした。彼女は血や遺体切断に関する描写が問題視されたと推測している」
「WPSオフィス」は、何が原因でアクセスを凍結したかの説明はなかった。手の内を教えることになるからだろう。こうやって、秘密の謀議なでの文書化を封じようとしているのだ。