勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    パソコンで文章を書き終えて翌日、作業を続けようとしたら「アクセス禁止」と画面に出て仰天した話が報じられている。中国政府が、私文書まで検閲している事態が明らかになり、中国社会の異常性を浮き彫りしている。

     

    政府が、国民の書く文書まで検閲しているのは、謀反が起こることを恐れた結果であろう。この状態で、習氏は今秋に3期目の国家主席ポストを狙っているのだ。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月16日付)は、「中国ネット検閲、『個人文書』にもと題する記事を掲載した。

     

    6月25日昼頃、作家志望の中国人女性ミッフィー・グーさん(25)は、いつものように執筆中の小説原稿の文書ファイルをクリックした。しかし、次の瞬間に起きた出来事は程なく、数百万人の中国ネットユーザーを恐怖と不満で結束させることになる。市民のデジタル生活に政府がさらに深く侵入している実態が露呈したためだ。

     


    (1)「グーさんが目にしたのは、自身のファイルではなく、文書ソフトウエアからの警告メッセージだった。「この文書には禁止コンテンツが含まれている可能性があります。アクセスが凍結されました」。「パニックに陥った」というグーさん。「すでに100万ワードも書いていたのに、ファイルが開けなくなるなんて」。グーさんが使っていたのは中国国産のオフィス向け文書ソフトウエア「WPS」で、国内では最もダウンロード数が多い。グーさんは文書へのアクセスを回復するため、WPSのメーカーである金山弁公軟件(キングソフトオフィス)とのやりとりを重ねるうちに、当初のパニックは怒りへと変わった」

     

    突然の「アクセスが凍結されました」という表示には驚いたであろう。政府は、ここまで個人の言論監視へ目を光らせているのだ。

     


    (2)「グーさんの体験が物議をかもしている現状は、共産党支配から逃れられる私的空間をある程度確保したいという気持ちが中国市民の間で強いことを物語っている。また、この問題は金山弁公軟件に対する信頼危機にも発展した。同社のソフトウエアは中国を中心に世界で5億7000万相当のデスクトップやモバイル端末に搭載されている。同社は11日声明文を公表し、中国のネット規定に違反する文書への第三者によるアクセスを制限したと説明した。グーさんの名前も、文書ファイルから締め出されたという彼女の訴えについても言及しなかった」

     

    文書ファイルは、個人所有の筈だ。それとも、ソフト提供会社の所有で、個人はそれを借りているのか。そういう法的な問題まで発展する事件だ。政府が、言論領域を監視しているのは驚きだ。

     

    (3)「13日には別の声明文を公表し、ソーシャルメディアで指摘が上がっている「ユーザーのハードドライブ上のファイルに介入している」との見方については、誤解だとして否定。その上で、中国のサイバー関連規制はネットに接続されている文書を検査・承認するよう義務づけているとし、ユーザーのプライバシーを守るため暗号化技術を使って実施していると説明した。ウェイボーの元検閲担当者で、現在はカリフォルニアから中国のネット検閲について研究しているエリック・リュ氏は消費者にクラウド保存サービスを提供するハイテク企業はすべて、検閲を義務づけられていると述べる

     

    中国は、監視カメラだけでない。文章までチェックしていることが分った。

     


    (4)「『WPSオフィス』は、ドナルド・トランプ前米大統領が退任直前の2021年1月、大統領令で禁止しようとした複数の中国製ソフトウエアの1つだ。トランプ氏はその理由として、これらソフトウエアの情報収集能力が米国の安全保障に脅威となると指摘していた。ジョー・バイデン大統領はその後、大統領令を撤回したが、ホワイトハウスはこれらの製品が及ぼすリスクについて引き続き懸念しており、検証を続けると述べている」

     

    「WPSオフィス」が、米国でも使われているという。米国は、無防備過ぎる。ファーウェイの5Gでは、あれだけ問題したのに文章作成という重要手段が、北京で監視されている可能性もある。中国製監視カメラも排斥されている時代である。危険だ。

     

    (5)「グーさんによると、3日後に文書にアクセスできるようになった。金山弁公軟件の社員は、コンテンツ監視機械が誤作動を起こしたとして、グーさんに電話で謝罪した。だが、作品の中で何がアクセス停止を招く原因になったのかについては、決して説明されなかったという。グーさんがネット上で自身の体験を打ち明けると、他の物書きからも似たような状況に遭遇したとの声が寄せられた。犯罪小説を書いていたあるユーザーは、WPSから度々アクセスを停止されたと明かした。彼女は血や遺体切断に関する描写が問題視されたと推測している」

     

    「WPSオフィス」は、何が原因でアクセスを凍結したかの説明はなかった。手の内を教えることになるからだろう。こうやって、秘密の謀議なでの文書化を封じようとしているのだ。

     

     

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    韓国メディアに凄い「日本劣等論」が登場した。韓国が、日本と経済的に対等になったというのだ。ならば、問いたい。なぜ、日本へ日韓通貨スワップ協定を期待したり、韓国向け輸出手続き規制を問題にするのか。

     

    日本の技術を導入して発展して来た韓国経済は、中国と並んで世界で最大の技術導入国である。いわば、日本からの借り物技術と中間財で輸出を伸ばしているにすぎない。すべて、日本という掌の上で踊っているのだ。現象面だけを見ないで、本質論で日韓を比較すべきであろう。

     


    『朝鮮日報』(7月18日付)は、「特別ではない『普通の国』日本との対面」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の朴正薫(パク・チョンフン)論説委員である。

     

    東京特派員として勤務した後、韓国へ戻ったのは2002年初めのことだった。日本は静かで平穏な国だった。そんな場所で暮らしてきた記者にとって、韓国はあまりに変化の速度が速く、目が回りそうなほどだった。

     

    (1)「長い間、日本は韓国にとって「特別な」国だった。この言葉には、うらやましく思う羨望の対象という意味とともに、異質で異常な存在という意味が併せて込められている。日本は、豊かな先進国の象徴も同然だった。「メード・イン・ジャパン」は信頼の代名詞で、日本式のモデルは国家発展のロールモデルとしての役割を果たした。強力な経済、安定した社会秩序、ウォークマンやカラオケに象徴される革新能力、他人に配慮する国民性は、いつも感嘆の対象だった。同時に、理解し難い、疲れる隣国でもあった。「刀のDNA」が刻み込まれた民族性は韓国人の警戒心を刺激し、反省することを拒否する歪曲された過去認識は韓国人を憤らせた。肯定的にせよ否定的にせよ、日本は「普通の」国ではなかった」

     

    筆者が、東京駐在記者当時の日本は、バブル経済の余韻が未だ残っていた時代であろう。その頃の日本経済は、GDPも世界2位の座にあった。だが、人口動態の変化によって潜在成長率も低下した。その意味では「普通の国」である。だが、高度経済成長期に日本は年金制度を完備したほか、基礎技術力を磨いて米国に次ぐ技術輸出国になっている。対外純資産は、世界一を誇こる。GDPの成長率は低下したが、骨格は他国の借り物ではない。韓国とは、ここが本質的に異なる。日本は自前の家に住むが、韓国は借家住まいなのだ。

     


    (2)「韓日関係もまた「特別な日本」を前提として構築されていた。日本には強者特有の余裕があった。日本の技術・知識移転と資本支援、韓国産業界の「日本に学べ」がなかったら、「漢江の奇跡」は不可能だったろう。日本の歴史認識は貧弱極まるものだったが、加害者として最低限の負債意識は持っていた。歴史歪曲や政治家の妄言に韓国が反発したら、聞くふりはした。今では全ての前提が変わった」

     

    日本は、太平洋戦争敗戦という現実をすべて認め、反省して再出発した。正しい歴史認識を持っている。韓国は、日韓併合時代を正しく認識しているか。日本統治によって近代化への助走が始まったという認識を持っているのか、だ。その意味で、韓国の歴史認識は「修正主義」である。都合のいいように変えてはならない。ありのままを認める勇気を持つべきだ。

     


    (3)「
    日本は、もはや韓国のロールモデルではない。20年前に記者が韓国へ戻った当時、日本の国民1人当たりのGDP(国内総生産)は韓国の3倍だった。今ではほぼ同水準だ。20年の間に韓国人の所得は3倍に増えたが、日本は足踏みしていた。およそ100年かけて蓄積した日本の知的・物的資産と科学技術力は依然として強力で、日本が重要な国であることに変わりはない。しかし、かつてのように圧倒的ではない」

     

    高度経済成長時代の日本が、現在の韓国のロールモデルではあり得ない。当然のことだ。だが、高齢社会の日本は、韓国のロールモデルの筈である。韓国は、未だに年金受給率が低くいのだ。金額も満足すべき水準でない。

     


    (4)「サムスンのギャラクシーが世界市場を席巻している間、日本はろくなスマートフォンブランドすら作れない国になった。トヨタのハイブリッドカーや拡張現実(AR)ゲーム「ポケモンGO」以降、世界をとりこにする日本発のイノベーションは出現していない。黒沢明を生み出した日本映画は『イカゲーム』に代表されるKコンテンツに押され、日本の漫画は韓国のウェブトゥーンに、任天堂のゲーム機は韓国型オンラインゲームに、JポップはKポップに膝を屈した。先進的だった日本式のシステムは、コロナ・パンデミックによって虚像と判明した。確定患者数の集計をはじめとする全ての行政手続きを時代遅れのファクスに依存する日本の後進性が、世界の人々を驚かせた」

     

    韓国の娯楽部門の発展は、日本という基礎があったからこそ発展できたのだ。何の基盤のないところに生まれたという「独創性」なものではない。

     


    製造業には、技術伝播の「雁行型発展論」がある。米国に始まり日本へ、さらに韓国へと技術伝播してゆく。現在は中国へシフトしたが、すでにASEAN(東南アジア諸国連合)やインドが次なる候補地である。韓国が、日本へ向かって言っていることは、いずれASEANから韓国へ投げかけられる言葉となろう。

     

    (5)「韓国人は、軍事的にも経済的にも、安全システム面でも特別ではない「普通の国」日本と向き合うことになった。沈滞に直面している国は内向的になり、排他性を帯びやすい。日本で湧き上がる嫌韓感情も、韓国に追い付かれたという集団憂鬱症の噴出にほかならない。韓日関係を解きほぐしていく上で、韓国側がもう少し主導的なリーダーシップを発揮しなければならない。国力の低下でデリケートになっている日本を抱き寄せ、韓国が先に立って引っ張っていく、大きな絵の戦略外交が必要だ」

     

    韓国は、昨年から人口減社会になった。日本は2011年、中国は今年からだ。日韓の差は10年に過ぎない。韓国も、これから日本の後を追うことになる。こういう現実を知れば、下線のような「傲慢発言」は出ないはずだ。

     

    日中韓の三カ国は、人口動態面から急成長を遂げたが、欧米より早い人口減入りである。この中で、最後まで光り輝ける条件は何か。基礎科学力のもたらした「技術的蓄積」である。その点、韓国は借り物だ。中国しかりである。韓国のKポップも、韓国社会の老齢化で寿命はつきる。その点、技術的蓄積は「利子」を生んでくれるのだ。

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    人口は23年に1位陥没

    90年代日本と同じ行動

    住宅バブル終焉を知らず

    GDP成長率は急悪化へ

     

    中国の4~6月期経済は、前年同期比で0.4%成長である。事前の予想では、マイナス成長も当然と見られていた。辛うじて、最悪事態を回避した。だが、先進国の採用している「前期比」ではマイナス.6%。年率換算では、マイナス10.8%もの大幅な落込みである。

     

    中国はなぜ、GDPの増減を前年同期比で発表するのか。前年同期比は、1年前と移動平均するので大きなフレがないという意味だけである。前期比で発表して、景気動向を敏感に示すべきである。それを避けているのは、景気変動が共産党統治へ与える影響を配慮しているからだろう。

     


    今年上半期(1~6月)のGDPは、前年比で2.5%増に止まった。これを、政府目標の5.5%前後へ押上げるのは事実上、不可能な事態となっている。習近平氏は、今秋の党大会で国家主席3選を目指している。まことに困った状況になった。できるだけ、目標に近いレベルまでGDPを押し上げるべく、無理なインフラ投資へ拍車をかけている。地方政府にさらなる債券を発行させて工事を強行する方針だ。

     

    中国は、2008年のリーマンショックの際も同じ手法を使った。当時としては、大規模な「4兆元」のインフラ投資というカンフル注射で、世界経済の落込みを乗り切った。だが、この際の無理な投資が、地方政府の財政を狂わせて過剰債務を抱えるきっかけになった。その後2012年、習近平氏の「突撃命令」(インフラ・住宅の投資強行)で、地方財政は改善されないどころか悪化を続けている。もはや、限界を超えているのだ。

     


    人口は23年に1位陥没

    一言で言えば、中国経済はすでに疲弊へ向かっている。人口も今年から減少に向かう。23年には、人口世界一の看板はインドに奪われる。人口減は、中国社会が斜陽化に向かう第一歩である。すでに、生産年齢人口は2011年にピークを迎えた。中国は、人口減によって高齢者負担がぐっと重くなる社会になっているのだ。

     

    これまでのような経済政策は今後、通用しなくなる。習氏に、その認識がゼロである。無理矢理なインフラ投資で経済を支えても、あとには過剰債務が残され、問題を大きくするだけである。習氏は、米国との対抗だけしか頭になく、傷を深くしていることに気付かないのだ。人口動態から言っても、中国は絶対に米国に勝てない構造になっている。人口動態こそ、一国経済の潜在成長率を左右する重要要因である。日本が米国へ開戦したような無謀さを、中国もしようとしている。習氏は負け戦をせず、14億国民の老後を第一に考える段階に来ているのだ。

     


    以上のような視点で、この4~6月期のGDP成長率の急速な落込みを分析すると、中国社会の直面している「人口高齢化」が、経済成長率の急悪化の主因であることが理解できるであろう。

     

    1)ロックダウン(都市封鎖)が、経済活動を麻痺させた主因の一つである。この背景には、高齢者のコロナ罹患が、死者を増やすというリスクを抱えていた。中国では、高齢者のワクチン接種が遅れている。しかも、中国製ワクチンの効果が米欧製に比べて劣ることから、その被害を最大に受けるのが高齢者である。

     

    中国は、儒教社会である。形の上でも、高齢者を敬う形を取らざるを得ない。コロナで高齢者の死者が増えることは、中国社会ではタブーである。こうした状況下において、医療体制の不備も手伝い、世界で唯一の「ゼロコロナ政策」を踏襲する事態へ追込まれた。北京市トップは、「今後5年、ゼロコロナ政策はありうる」と発言し、物議を醸した。この発言は、直ぐに削除されたが、本音を物語っている。

     


    2)住宅不況の長期化も、中国経済の足を引っ張っている。住宅価格下落(主要70都市)は昨年9月から始まっている。今年6月まで連続10ヶ月の下落だ。住宅購入世代は、若年層である。人口動態において、高齢者の比率が高まることは、若年層の減少を意味する。つまり、中国の住宅ブームは購入者層の減少によって終わったと気付くべきである。

     

    不思議なことに、中国ではこういう認識がないのだ。その背景には、住宅を投資対象にしていることがある。利殖対象が金融資産でなく、住宅という実物資産を選択するのは、中国経済の後進性を物語っている。中国は、世界に門戸を広げた金融資産投資を認めれば、狂ったように住宅投資へ群がることもなかったはずだ。一方では、これによって貯蓄が海外へ流出するので、国内需要は低下する。だが、経済の安定化を考えれば、海外への個人投資を認めるべきだった。習氏の偏見が、これを禁じたのだ。

     

    日本は、中国経済と反対の道を選んだ。早くから資本自由化へ踏み切ったので、個人の資金も出入り自由である。企業も積極的に海外投資している。これが、一旦緩急あれば、円安相場を利用して日本へ戻ってくるのだ。中国にはこういうバッファーもなく、14億人が国内の不動産バブルで仮の繁栄を楽しんだに過ぎず、その「賭場」である不動産市場は、すでに幕を閉じたのである。(つづく)

     

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    中国は、ここ10年ほど海軍軍拡に力を入れている。米国との覇権争いの舞台がインド太平洋になることを認識しているからだ。だが、にわかに海軍国家を目指す中国が、世界最初の近代海軍を創設した米国と対抗するには、余りにも「格」が違い過ぎるというのが実感だ。

     

    米海軍は、100年余の歴史と日本海軍との死闘の歴史がある。片や中国は、ただ艦船を増やしただけである。しかも戦闘経験はゼロだ。中国海軍は、ロシア海軍と日本列島を一周したぐらいで、もっぱら威圧用の役割を果たしている程度である。米国は、有力同盟国を持つ。中国は実質的にゼロである。この差は大きいのだ。中国海軍が、思い上がって米海軍と衝突する事態は起こるのか。危機感が広がっている。

     


    『ニューズウィーク 日本語版』(7月6日付)は、「
    ウクライナ戦争に『酷似した戦争』が20世紀にあった、その『結末』から分かること」と題する記事を掲載した。

     

    ロシア軍がウクライナで破壊の限りを尽くすなか、世界は再び二極化された構造に移行しつつある。ただしアメリカが対峙する相手はロシアではなく、ほぼ対等なライバルとなった中国だ。

     

    (1)「米ソ二極化に向かう流れを決定づけたのは朝鮮戦争だった。この戦争はNATOが結束を固めるきっかけにもなった。ウクライナ戦争もまた、同様の地政学的な再編を加速させている。ここ数年、中国の経済・軍事力の拡大に伴い、米中間の競争が新冷戦に発展する可能性やアメリカが中国封じ込めに走る可能性が声高に論じられていた。二極化構造への回帰が始まっていることはあらゆる兆候から明らかだった。それでもなお、かつて朝鮮戦争が冷戦構造を決定づけたように、ウクライナ戦争はアメリカと中ロ枢軸の2陣営への分断を加速し、固定化しつつある。その背景には4つの主要な要因が働いている」

     

    朝鮮戦争が、米ソ対立から冷戦をもたらした。今回のウクライナ侵攻は、米中対立を激化させて新たな冷戦を生み出す危険性を孕んでいる。その背景には、次に指摘する4点がある。

     


    (2)「第1に、ウクライナ戦争を契機にロシアの対中依存度が高まった。中ロはここ10年ほど、経済関係を拡大し、合同軍事演習を行い、先端技術の開発で手を組むなど、着実に協力関係を深めてきた。ロシアの最大の貿易相手国は中国だ。ロシア産原油の輸入量では中国がトップを占め、中ロを結ぶ天然ガスパイプラインの増設も進んでいる。西側は中ロの接近に警戒感を募らせてきたが、ウクライナ侵攻でロシアに制裁を科すことになり、西側との取引を断たれたロシアはますます中国頼みに傾くようになった」

     

    ロシアは、経済制裁によって中国への依存を深めている。中国もまたエネルギー依存を高めている。ただ、中ロは軍事同盟を結んでいないのだ。中国は、この点を極端に強調している。プーチン氏と習氏は昵懇だが、国家関係へは発展していないのだ。これは、中国側の国内で反対意見があるからであろう。中ロの一体化が、米中対立を抜き差しならぬものにする警戒感である。

     


    (3)「2にロシアが軍事侵攻に踏み切ったため、中国もやりかねないと欧州勢が警戒感を強めた。欧州勢は伝統的に中国をさほど重大な安全保障上の脅威と見なしてこなかった。雲行きが変わり始めたのは最近のことだ。ウクライナ侵攻開始のわずか20日前に中ロ首脳が共同声明で「無制限」の協力関係を宣言したことは西側の警戒感をかき立てた。EUのジョセップ・ボレル外交安全保障上級代表は、この声明を「挑戦的」と批判。6月末にNATO首脳会議で採択された今後10年の行動指針となる新たな「戦略概念」も中国に初めて言及し、西側に「体制上の挑戦」を突き付けていると警戒感を示した」

     

    中国は、米中対立をEUとの関係強化によって緩和させる外交目的を持っている。そのEUが、中国を警戒している。NATO(北大西洋条約機構)は、戦略概念で中国を「体制への挑戦」と位置づけ、ロシア(敵国)に次ぐ警戒感を示したのだ。こうして、中国は、EUも失う羽目になっている。

     


    (4)「第3に、ウクライナ戦争は米中の経済的分断を深めており、相互依存を限定的なものにしようとする動きを加速させる。二極対立の世界において、2つの超大国は経済的な相互依存が互いの弱点になると考えるだろう。米中はこの34年で、密接な経済関係のデカップリング(切り離し)の第1段階を緩やかに進めてきた。中国は、ロシアに対する欧米の迅速かつ強力な経済制裁を見て、自分たちが欧米の技術や市場に依存することについて懸念を強めている。アメリカも、ヨーロッパがエネルギー安全保障をロシアに依存している現状を、対中関係でまねしようとは思わない」

     

    中国のデカップリングは、米国のデカップリングからの余波を受けた消極的なものだ。米国は、積極的に中国を排除する目的である。ロシアも中国も、西側諸国の技術を導入している国だ。技術面で遮断されれば、中ロともに立ちゆかない経済である。その意味で、米国はデカップリングが可能でも、中国は不可能(自滅)な国である。

     

    もともと、中ロは共産主義を信奉している国である。社会的進歩の遅れた国特有の政治選択だ。中ロが、技術的に独立できる可能性があれば、政治制度も民主化されているにちがいない。そういう面の分析を置き去りにして、中国の技術的問題を云々するのは誤解を招くであろう。

     


    (5)「4に、ウクライナ戦争はNATOおよび環大西洋コミュニティーの一体感を新たにした。ここ数年は欧米の溝の深まりが懸念されていたが、風向きは逆転した。アメリカはヨーロッパで軍事的プレゼンスを高め、ヨーロッパのNATO加盟国は国防費を増強している。歴代の米大統領が求めてきた同盟内の負担のバランスに、ヨーロッパがようやく応えつつある」

     

    ウクライナ侵攻は、NATOを結束させた。それは、米国とEUが中ロへの危機感を共有したことである。

     

    (6)「米中対立の新時代は多くの点で冷戦時代に似ているが、独自の特徴もある。米ソの対立は冷戦時代の初期、危険なほど不安定だった。現在顕在化している米中対立は、高度な相互関係を考えれば、そこまで二極化しないだろうが、そこまで安定するわけでもないだろう。1970年代にリチャード・ニクソン米大統領(当時)は、中国との関係改善でソ連を牽制するという「チャイナ・カード」を切った。以来、中国はアメリカ主導の自由主義的な国際秩序の中で台頭してきた。現在、中国は欧米と経済的な相互依存関係にあり、二極化がそこまで進むことはなさそうだ」

     

    中国の弱さは、欧米と経済的な相互依存関係にあることだ。ここで、中国がデカップリングされれば、経済が立ちゆかなくなる危険性を持つ。

     


    (7)「地理的条件は、米中対立が米ソ冷戦より不安定になる可能性が高い理由でもある。陸上が中心だった米ソ冷戦と対照的に、米中対立の主戦場は海洋だ。インド太平洋の広大な部分が予測不可能な海域になりかねない。海洋の支配権争いは偶発的な衝突が起こりやすく、この地域の影響力を争ううちに、海上での限定的な(しかし不安定で悪化しやすい)戦闘を始めたいとの誘惑に駆られるかもしれない。さらに、既に進んでいるデカップリングは、朝鮮戦争の時代を上回る摩擦を世界にもたらすだろう」

     

    米中覇権争いの舞台は、インド太平洋である。中国は、ここで米国と戦えば、米同盟国に包囲されることは間違いない。米中が、一対一で戦う訳でない。この本質部分がこの既述には抜け落ちている。ロシア海軍は、インド太平洋に基地がない。中ロが、インド太平洋で米国と戦うことは初めから不利なのだ。

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    韓国の前政権は、日本と外交的に対立することで「無上の喜び」を感じていた節がある。これで、日韓は対等になったという錯覚に陥っていたのだ。こういう事態に、米国はハラハラしていたようである。この結果、韓国の外交的な発言権は、日本によって阻止されてきた。クアッド(日米豪印)参加も日本によって阻まれたというのだ。

     

    『中央日報』(7月17日付)は、「最終的には韓米日『3カ国協力』へと向かうべきだ」とする寄稿を掲載した。筆者は、ビクター・チャ米戦略国際問題研究所(CSIS)韓国部長である。

     

    6月末にスペインのマドリードで開かれたNATO(北大西洋条約機構)首脳会議に出席した米国のバイデン大統領と韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領、日本の岸田文雄首相は、3カ国首脳会議の写真を撮るチャンスがあまり多くなかったように見える。今回の韓米日3カ国会談は、過去数年にわたって外交的に急落していた関係を正常化する、極めて重要な努力と見るべきだ。3カ国首脳の対面がおよそ5年ぶり(49カ月)に実現したというのは異例だ。これほど長い間3カ国首脳会談が開かれないという例は、二度と起きてはならない。

     


    (1)「3カ国間協力が多くなるほど、各首脳はもちろん、各国の安全保障にも役に立つ。バイデン大統領にとって韓国・日本との協力は、中国・北朝鮮に対抗して安全保障連合を形成するインド・太平洋戦略に役立つ。米国が規範に基づいた国際秩序を後押しするためには、韓国や日本など主要パートナー国の支援が切に必要だ。先のトランプ政権の対外政策において、「3カ国協力(トライラテラリズム」は論外だった。尹錫悦大統領にとって3カ国協力は、中国との関係において以前よりも対等に乗り出したいという新政権の希望ともうまく合っている)

     

    韓国新政権は、中国と対等の外交関係を樹立したいと願っている。それには、日米との関係改善が不可欠と指摘している。特に、日本との関係が強化されれば、韓国はより強い味方ができて強い交渉が可能としている。一本の矢よりも三本の矢の喩えである。

     

    (2)「韓国が、一国で中国を相手にしたら中国からつまらない待遇を受ける。だが、韓国は米国・日本としっかりした関係を築けば、中国も韓国をぞんざいに扱えない。また3カ国協力は、アジアはもちろんグローバルな中枢国へと跳躍する尹錫悦政権の国家戦略とも調和する。韓国の一部には、日本との関係がまずくても損することはない、との主張もあるが、あまりにも誤った考えだ。実際、前政権が安全保障協議体Quad(クアッド)やインド・太平洋戦略で発言権を持てなかった理由の一つは、日本との関係が悪かったからだ。だから韓国は一国で取り残されて中国を相手にしなければならなかった」

     

    文政権が、クアッドやインド太平洋戦略で発言権を持てなかった理由は、日本との関係悪化が原因という。日本と協調できない韓国外交には、孤独さがつきまとったのであろう。

     


    (3)「最近、米軍のある高官が私的な場で明かした通り、今や安全保障環境は第2次大戦以来最悪だ。われわれは、アジアで中国、ロシア、北朝鮮が一つの安全保障ブロックになるのを目撃している。冷戦後には見られなかった様相だ。プーチンの戦争は欧州の平和を粉々にしてしまい、国際秩序を脅かしている。中国は2030年までに核弾頭を1000発へと、大幅に増やす計画を現実化しつつある。これまでになく多数の弾道ミサイルを2022年上半期に発射した北朝鮮の核兵器開発も止められないように見える。こうした状況で韓米日の協調が再機能できなかったり韓日関係が良くなかったりするのは、3国いずれにとっても決して利にならず、危険だ」

     

    中朝ロは、一体化して軍事行動を取る危険性が指摘されている。文政権は、その中朝ロへと接近する姿勢を見せていた。極めて危険なことであった。国際情勢の変化を認識していなかったのだ。

     


    (4)「ならば、3カ国協力をどのように履行できるだろうか。

    第一に、クリントン政権時代にウィリアム・ペリー国防長官(当時)が発足させた北朝鮮問題に関する3国調整グループ(TCOG)を活性化すべきだ。

    第二に、3カ国はミサイル防衛に関する協力を強化しなければならない。ここには、情報共有だけでなく北朝鮮が発射するミサイルを追跡し、迎撃する訓練も含まれなければならない。尹錫悦政権は今後、文在寅(ムン・ジェイン)政権が米国のミサイル防衛(MD)システムに参加しないと中国に約束したことを無効化し、韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を正常化する必要がある」

     

    文政権が、中国へ約束した防衛上の「三不政策」は撤回すべきである。国防上の重要事項を中国へ約束するなど、考えられないことを行なった。文政権の幼稚さを示している。この延長線で、GSOMIA破棄まで騒ぎ出した。安全保障のイロハを知らない政権であった。

     


    (5)「第三に、協力分野はサプライチェーンだ。各国政府は、これを経済安全保障政策上の優先課題とした。韓米日はサプライチェーン関連の会談を開くべきだ。

    第四に、3カ国は核抑止について一層協力する必要がある。韓国と日本は、北朝鮮と中国の弾道ミサイルおよび核の脅威が増加しつつある状況を懸念している。米国は、北朝鮮の戦術核にどのように対応するか検討するグループに両同盟国を参加させる必要がある。

    第五に、韓米日は防衛近代化計画や防衛費支出のプライオリティーなどを共有することを考慮しなければならない」

     

    日米韓3ヶ国は、安全保障以外のサプライチェーンでも協力を呼びかけている。韓国は、これに参加する意思を固めている。

     

    (6)「第六に米国は、日帝徴用賠償問題の解決に向けて韓日両国が乗り出すよう督励する必要がある。韓国と日本をそろって満足させる解決策が出るのは難しい状況なので、両国間の妥協をぜひとも必要とする時期がきている。敵対的な韓日関係は、両国の国益とは遠く隔たった政策だ。韓日両国が、対立を続けながらも「米国に頼ればその間隙を埋められる」と思っているのなら、それは大きな、大きな間違いだ

     

    下線部は、韓国へ向けられた言葉である。文政権は、日韓関係対立の斡旋を米国に求めて断られている。これを聞きつけた韓国メディアは、米国が日本の肩を持っていると不平不満の記事を報じていた。韓国外交が、大人にならなければどうにもならないのだ。

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