勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    韓国では、与野党で次期大統領選の予備選が始まっている。政策論争をするのかと思えばゼロ。あるのは、候補者や家族のあら探しをしている。ちょうど、日本でも自民党総裁選が始まった。こちらは、政策論争一本槍である。本人や家族の中傷合戦をすることはないのだ。この日韓の選挙戦は、両民族の品性を実に良く表して興味深い。

     

    『日本経済新聞 電子版』(9月17日付)は、「韓国大統領選、中傷合戦早くも過熱 かすむ政策論争」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙のソウル支局長 鈴木壮太郎氏である。

     

    2022年3月の韓国大統領選の候補者を決める与野党の予備選が本格化するなか、候補間の中傷合戦が早くも過熱している。集中砲火を浴びるのは支持率首位を争う革新与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事と、尹錫悦(ユン・ソクヨル)前検察総長だ。現地報道ではスキャンダルが連日のように報じられ、政策論争はかすんでいる。

     


    (1)「李在明氏を巡って急浮上しているのがソウル近郊にある城南市大庄洞の都市開発に関する疑惑だ。李在明氏は城南市長に就任後、民間主導の計画を行政主導の開発に転換し、事業者を競争入札で決定した。韓国メディアは落札したコンソーシアムの参加企業の代表者が李在明氏に近い元ジャーナリストで、わずかな出資で法外な配当を受け取っていたと報じた。国民の力の大統領候補は李在明氏の息子がこの事業に関連する企業に就職したとの疑惑を提起した。疑惑報道に大統領候補も加勢した。民主党の予備選で劣勢の李洛淵(イ・ナギョン)前党代表は13日「関心を持って見守っている」と発言。国民の力で支持率首位の尹氏の陣営は14日、新設された捜査機関、高位公職者犯罪捜査処(公捜処)での捜査を要求した」

     

    李在明氏には、女優から不倫事件で訴えられるという「おまけ」もついている。大の「反日論者」だ。この李氏が大統領に当選したならば、文大統領以上の反日に走るだろう。あるいは、「対日断交」を宣言しかねない人物である。貧しい家庭の育ちで大変な苦労をして司法試験に合格した努力家である。共感する部分もあるが、余りの独断ぶりに「ノーサンキュウー」を言いたいほど。

     


    (2)「李在明氏は14日に記者会見を開いて疑惑を全面否認した。もともとは韓国土地住宅公社の開発計画を事業者が不法ロビーで民間開発にひっくり返したが、それを公共開発に戻したと経緯を説明。「賃貸住宅の供給や公園造成を通じ、5503億ウォン(約515億円)相当の利益を市民に還元した模範的な公益事業だ」と強調した。元ジャーナリストへの高額配当は「利益配分はコンソーシアム内部の問題。城南市は一切関知していない」と線を引いた。息子の就職疑惑も「事実ではない」と強く否定した」

     

    ジャーナリストを使って、いろいろと工作してきた点で、「胡散臭さ」を滲ませている。貧しい育ちが、品性を変えてしまったとも言える。

     


    (3)「尹氏には検察総長時代の職権乱用疑惑が浮上した。20年4月の国会議員選挙前、検察幹部が検察改革を訴える与党政治家やメディア関係者らを刑事告発するよう野党関係者に働きかけた。野党はその後、検察の働きかけと一部合致する刑事告発をした。因果関係は未解明だが、もし検察の働きかけが影響したのなら、検察が「自作自演」の捜査をしようとしたことになる。尹氏の関与を疑う市民団体は尹氏を告発し、公捜処が職権乱用など4つの容疑で尹氏の捜査に着手した。「政治工作するならしっかり準備してからやってほしい」。尹氏は8日の記者会見で疑惑を全面否定した。「私を国会に呼んでほしい。堂々と私の立場を説明する」と訴えた尹氏は怒りに震えていた」

     

    尹氏は、父親が大学教授という恵まれた家庭である。ソウル大学入学と司法試験で、何回も苦杯をなめたという意味で苦労人だ。権力への反骨ぶりは徹底しており、朴前大統領の捜査も担当。文大統領の犯罪にも斬り込んでいる。日本に対しては中立姿勢。やや、親日的言動も聞える。

     

    尹氏は、夫人と義母をめぐる問題で悩まされている。夫人は才色兼備で博士号持ちである。その学位がインチキだというもの。また、夫人の結婚前の交際話も話題にされている。義母は、詐欺罪で服役の身である。

     


    (3)「中傷合戦は日増しに激しくなり、政策論争はすっかり置き去りにされている。保守系大手紙の『中央日報』は李明博氏と朴槿恵(パク・クネ)氏が野党候補の座を巡って激突した07年を振り返り「ネガティブ合戦も激しかったが、互いの公約をまる裸にして分析する政策検証も同じくらい激しかった」と指摘した。それに比べて今回の大統領選は「与野党ともに歴代最悪のビジョン貧困と時代精神ゼロの勝負だ。大統領選のレベルは回を重ねるごとに下がっている」と痛烈に批判した。拡大する格差の是正や雇用環境の改善、米中対立時代の外交のかじ取り、日韓関係の改善など、新政権が取り組むべき課題は山積みだ。中傷合戦はほどほどにして、今からでも真摯な政策論争をすることを期待したい」

     

    文政権を支持する『ハンギョレ新聞』によると、こういう中傷合戦は必要という立場だ。一国元首になる人物やその家族は、徹底的な「身体検査」を受けるべきというのが持論である。こういう筆法にも驚かされるのだ。韓国の進歩派を以て任じるメディアは、何よりも政策論争を進めるのが本筋のはず。だが「朱に交われば赤くなる」で、この中傷合戦を楽しんでいる風である。呆れた社会である。

     

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    米英は、門外不出の原子力潜水艦技術を豪州へ提供することになった。新たに米英豪三ヶ国の安保協力体「AUKUS」を設立する。AU=豪州、K=英国、US=米国である。

     

    米英豪三ヶ国は、南シナ海や東シナ海で奔放な動きを見せる中国軍に対して、有事の際は「開戦72時間以内」に中国海軍の全艦船を沈没できる攻撃体制を整える。これにより、中国の際限ない軍事膨張に対してトドメを刺す狙いだ。中国が、台湾や尖閣諸島へ行う侵攻作戦を諦めさせようとするものである。

     

    『朝鮮日報』(9月17日付)は、「中国けん制のため 米英、原子力潜水艦の極秘技術を豪に移転」と題する記事を掲載した。

     

    米国が英国、豪州と共に3カ国の新たな安保協力体「AUKUS」を立ち上げることを9月15日(現地時間)正式に発表した。米国、日本、豪州、インドによる4カ国連合体「クアッド(Quad)」に続きまた新たな対中けん制ネットワークが誕生する運びとなった。

     


    (1)「AUKUSは3カ国による初の協力事業として、豪州に「原子力潜水艦艦隊」を立ち上げることにした。米国と英国が全面的に支援を行うという。米国が原子力潜水艦の建造に必要な原子力関連技術を他国に移転するのは、1958年に英国に移転して以来63年ぶりとなる。3カ国首脳はこの日発表した共同声明で「可能な限り早い時期に豪州がこの能力を実戦配備できるようにしたい」との考えを示した。豪州は近くアデレードで原子力潜水艦の建造を開始する予定だ」

     

    豪州は、フランスと進めてきた潜水艦建艦契約を破棄した。これに対してフランス側は激怒している。歴史的な英仏対立の構図を覗かせている。歴史は、こうして繋がっていることを示唆して興味深い。

     

    豪州が、米英最新技術の原子力潜水艦を建艦すれば、南シナ海に潜む中国潜水艦を一網打尽にできるのであろう。中国が、これまで練ってきた「第一列島線」防衛構想は、「AUKUS」によって簡単に崩されるのだ。

     


    (2)「米国のバイデン大統領はこの日、豪州のモリス首相、英国のジョンソン首相と共に行った遠隔による3カ国共同記者会見で「我々はインド・太平洋の長期的な平和と安定を何としても保証する必要性を認識しているため、今日3カ国間の協力を深め、これを正式なものとする一つの歴史的一歩を踏み出した」と述べた。バイデン大統領は「我々3カ国と世界の未来は、自由で開かれたインド・太平洋が引き続き維持され、繁栄するかどうかにかかっている」「米国はさらにASEAN(東南アジア諸国連合)、クアッド、インド・太平洋の条約同盟5カ国および近いパートナー、欧州と世界の同盟国やパートナーと引き続き協力を進めるだろう」との考えも示した」

     

    米国は、対中安保体制においてAUKUSのほかにASEAN、クアッド、インド・太平洋の条約同盟5カ国などと協力する。NATO(北大西洋条約機構)との連携も視野に入れて、何重もの防衛網を敷くと宣言した。こうなると、中国は迂闊に他国侵攻を行えば、重大な反撃を食い、習近平体制そのものの瓦解を招くリスクを生む。「中華の夢」も萎むであろう。

     


    (3)「3カ国の首脳は、この日発表した共同声明で「情報と技術の共有を深めて行き、安全保障および国防と関連した科学、技術、産業基盤、サプライチェーンの統合を深めていきたい」の考えも明らかにした。さらに「合同の力と相互の運用性を強化するため、より多くの分野で3カ国による協力を始める」とした上で、サイバー能力、人工知能、量子技術、海底での新たな技術開発を初期の重点事項とした」

     

    AUKUSは、防衛面だけでない。科学、技術、産業基盤、サプライチェーンの統合を深めるという。米国は、クアッドも率いており西側陣営の頂点として中国へ対峙する決意を示している。

     

    (4)「米国が伝統的な同盟国である英国に続き、63年ぶりとなる原子力潜水艦技術の移転先として豪州を選んだ背景には、豪州による中国けん制の意思とその力の双方を高く評価したことがあげられる。バイデン大統領はこの日行った共同記者会見の際、英国と豪州について「長きにわたる誠実かつ有能なパートナーだ」と表現した。最近になって豪州は中国と明らかに対立する姿勢を示しており、また豊富な天然資源などで中国も軽々しく扱えない立場にある点も考慮した発言だった」

     

    豪州は、中国と鋭く対立している。中国の経済制裁を受けても「馬耳東風」の構えだ。今回の原潜装備によって、逆に中国へ圧力を加える立場になった。中国は、これで完全にお手上げとなろう。

     


    (5)「米国からの原子力潜水艦技術移転は、「有事に3日以内の中国海軍壊滅」を目標にしているとの分析もある。米国のシンクタンク「アトランティック・カウンシル」のマシュー・クロニック戦略イニシアチブ局長はこの日、ホームページを通じ「中国の軍事攻撃を抑止するために米国と同盟国は72時間以内に中国海軍を壊滅する能力が必要だ」「米国の支援を受けて豪州が建造する攻撃用潜水艦は敵艦破壊に適しており、これこそまさに中国に対抗して我々がインド・太平洋において強化すべき抑止力と防衛能力だ」と説明した」

     

    下線部分は重要である。中国の潜水艦部隊は南シナ海に潜航して攻撃体制を敷いても、米豪の原潜部隊がこれら中国艦船を72時間以内に破壊できるというのだ。戦闘経験のない中国艦船にとって脅威であろう。

     

    (6)「バイデン大統領就任直後に国防長官候補として名前が上がっていたミシェル・フロノイ元国防次官は昨年6月、米国の外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ』に「米国が72時間以内に南シナ海の全ての中国軍艦船、潜水艦、商船を沈没できると信じさせるほどの脅威を与える力があれば、中国の指導者たちは台湾に対する封鎖や侵攻などを始める前に再考するだろう」と主張した。豪州海軍がこの海域で原子力潜水艦を展開するようになれば、このような効果も実際に期待できるということだ」

     

    米軍が、開戦72時間以内に中国の艦船や商船を破壊できる能力を持つことは、中国に対して無謀な開戦を思いとどませる要因となろう。無益な戦争を防ぐには、西側諸国が圧倒的な軍備を持つしかない。

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    習近平氏は、経済が最悪事態へ突入していることを隠すために必死である。当局が、金融関連情報を投稿するブログやSNS(交流サイト)の取り締まりに乗り出しているからだ。投資家は、中国経済に関して信頼できるデータの入手が一層困難になっている。

     

    不動産開発企業に最大手である中国恒大は、銀行に対して9月20日の金利支払いが不可能な旨を通告する事態である。普通の感覚であれば、デフォルト間違いなしだ。ここまで追込まれているだけに、中国当局は「臭いものに蓋」という戦術に出ている。

     

    中国で抜本的改革の行方を知っているのは、習近平国家主席を含め10人程度にとどまるという。この秘密主義を守らせるには、「見ざる聞かざる言わざる」の「三猿主義」になるほかない。中国経済は、死に急いでいる。

     


    『フィナンシャル・タイムズ』(9月16日付)は、「中国が『金融ブログ規制』、投資家は情報不足に」と題する記事を掲載した。

     

    対中投資が賢明な選択だったのかどうか、米ウォール街トップの見解の相違が広がるなかで、当局が金融情報の取り締まりをさらに強化した。ベテラン投資家でさえ相次ぐ政策の全面的な見直しには意表を突かれた格好で、市場は動揺し、中国政府の次の標的はどの部門かという疑念を呼んでいる。

     

    (1)「中国国家インターネット情報弁公室(CAC)が8月に始めた「特別是正」キャンペーンの対象となったのは、市場に疑心暗鬼を生じさせたり、中国経済について悲観的な意見を述べたりするブログのほか、誤情報や違法行為を拡散する金融ニュースサービスやSNSのアカウントだ。中国を専門とするエコノミスト、アナリスト、研究者もネット上での不正確な論評や詐欺的行為の横行が金融市場の問題になっている点は認める」

     

    8月からインターネット上での経済情報の取締りが始まっている。中国経済危機の進行を反映している。

     


    (2)「一方で、過剰に規制すれば中国政府の公式見解とは異なる有益な意見の口封じになりかねないと心配する。匿名を条件に取材に応じたベテランの中国市場アナリストは、中国に関する情報の不足は計算違いや誤った判断を誘発する環境を「確実に」生み出していると懸念し、こう話した。「リスクが大きすぎる。どんな発言にも気を使うようになる。とても心配だ。いま何が起きているのか、本当に知ることができるのか。これまでもデータの内容には問題があったが、今後はさらに社会の実態が見えにくくなるだろう」

     

    明らかに詐欺的な情報はチェックしなければならないが、正常な情報まで規制されているのは、危機襲来の証明である。

     

    (3)「地方政府は、規制当局の取り調べに素早く呼応し、無謀な株価操縦をしたとされる容疑者を次々に逮捕した。ライブ配信や対話アプリ「微信(ウィーチャット)」を使って株価を「操作」したとされる事件の被疑者たちだ。上海では当局による一斉逮捕を受けて、証券会社とインターネット企業が1万7000件超の「有害情報」を削除し、約8000件の違法アカウントを閉鎖した。深圳でも当局が株価操縦事件を暴き出し、14人の容疑者を逮捕した」

     

    地方政府は、株価操作を目的にしたライブ配信などは取締り対象になろう。問題は、それで済まないことだ。正しい分析までも弾圧されている。

     


    (4)「500万人超のフォロワーを持つ広東省の著名金融コメンテーター、黄生(フアン・シェン)氏も逮捕され、ウィーチャットとウェイボのアカウントが凍結されたもようだ。フォロワー400万人のシュ・シャオフェン氏のウェイボのアカウントは7月上旬以降、更新されていない。同じく金融ブロガーで数十万人のフォロワーを持つイ・ウェイ氏の投稿は削除されたもようだ。中国の警察当局が不正取り締まり専用アプリを使い、海外の金融ニュースサイトの利用者を突き止めて取り調べているふしもあるとフィナンシャル・タイムズ(FT)紙は今週報じた」

     

    下線部は、海外から中国の正しい中国情報の入ることを禁止している。

     

    (5)「中国在住のある金融アナリストは、「基本的に中国政府のデータ解釈に異論を唱える人たちが対象になる。少々客観的または否定的にデータを解釈しようする人なら誰でも今回の取り締まりに危惧を抱くだろう。はっきりしたことはまだ何も言えないが」とこのアナリストは匿名を条件に話した。中国専門のある欧米エコノミストは匿名で取材に応じ、社会の混乱に関する統計など「多く」の時系列データの公表が打ち切られていると指摘した。説明のつかないデータの補正も頻繁に行われ、経済調査には不可欠な家計や企業の「ミクロデータ」が入手できなくなっているという

     

    このパラグラフでは、中国当局の取締り意図がはっきりしている。経済データの隠匿が始まっているのだ。中国経済悪化を隠すためにデータを入れ換えている。

     


    (6)「中国の抜本的改革の行方を知っているのは「世界で10人」程度ではないかとベテランエコノミストはみている。「恐らく習近平(シー・ジンピン、国家主席)と党中央政治局常務委員会委員、それに数人の規制当局首脳だけだろう」という。しかし今、中国は不確実性に覆われ、投資家は規制強化や税率引き上げ、高額寄付の呼びかけ、経営判断に対する政府の影響拡大など様々な脅威に直面している」

     

    中国の真実を知っている者は、10人程度しかいないという。極端な秘密主義で、中国経済は滅びの道を歩んでいる。気の毒なことである。

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    中国は来年の党大会において、習近平氏の「国家主席3期目」を実現すべく動き出している。毛沢東時代の悲劇を繰返さないという教訓の下に、「国家主席2期10年」の原則が設けられた。それが、習氏によって撤廃されたのである。中国の悲劇が、ここに始まるのだ。

     

    中国4000年の歴史において、一度も民主化時代を経験していないというのは民族固有の「非人権思想」に基づくものである。人間を人間として対等に尊重したことがない。支配する対象でしかないという上から目線の悲劇は、儒教による「秩序尊重」という無難を好む「事なかれ主義」の表れである。問題山積の中国に、事なかれ主義は通用しない。事態は、さらに悪化するにちがいない。

     


    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(9月14日付)は、「習氏こそ中国のリスク 個人崇拝の悲劇、歴史が示す」と題する寄稿を掲載した。筆者は、ギデオン・ラックマン氏である。FTのチーフ・フォーリン・アフェアーズ・コメンテーターである。

     

    中国の子供たちは間もなく、10歳という低年齢から「習近平(シー・ジンピン)思想」を必修科目として習うことになる。この事態は現代中国への警鐘とみるべきだ。国家主導で習氏を敬うことは、毛沢東への個人崇拝、そして毛沢東が進めた大躍進政策と文化大革命がもたらした飢餓と恐怖の時代をも思い起こさせる。個人崇拝と共産党支配という組み合わせは、スターリン統治下のソ連から、チャウシェスク大統領のルーマニア、金一族の北朝鮮、カストロのキューバに至るまで、たいていは貧困と蛮行を生む。

     


    (1)「今の中国が抱える富とその発展ぶりを考えると、こうした例とは無縁に思えるかもしれない。確かにここ数十年の中国の経済的変容には目を見張るものがある。そのため中国政府は、世界が見習うべき発展モデルとして「中国モデル」を宣伝するようになった。しかし、「中国モデル」と「習モデル」は区別する必要がある。鄧小平が軌道に乗せた改革開放の中国モデルは、個人崇拝の否定を基本にしていた。鄧小平は官僚らに「実事求是(事実に基づいて真理を追究すること)」を求めた。政策を毛沢東が出した壮大な宣言に基づいて決めるのではなく、どの政策の何が機能しているのかという現実的な経過観察を重ねながら判断していく重要性を説いた。官僚たちが新たな経済政策を試みられるようにするには、絶対権力と結びついたドグマや、それを守らないと自分がパージされるという恐怖から官僚を解放しない限り難しいと理解していたからだ」

     

    鄧小平は、官僚に対して「実事求是」を求めた。これは、「スローガン政治」のもたらす危険性を除去するためだった。政策の実効性を求めたのである。現在の習近平氏は、再びスローガン政治に戻っている。「共同富裕論」がそれだ。この名前の下に、全てが一括りで行われている。危険この上ないが、スローガン政治ではどうにもならないのだろう。

     


    (2)「一党独裁国家では、後継問題がしばしば深刻な問題として浮上する。任期制限の導入には、その問題を回避する狙いもあった。そして以来、1人の指導者によるカリスマ的支配より、中国共産党の集団による指導体制が重視されるようになった。しかし、習氏が国家主席に就任して以降、中国共産党は再び個人崇拝を重んじるようになった。17年の中国共産党大会では、「習近平思想」なるものを党規約に盛り込んだ。過去、在任中にこのような栄誉ある扱いを認められた指導者は毛沢東しかいない。さらに18年には、鄧小平時代に決められた国家主席の任期制限が撤廃され、習氏にとっては終身ではないにせよ、20年でも30年でも支配を継続できる大枠が整った」

     

    任期のない政権ほど危険なものはない。任期が区切られてこそ、新陳代謝が行われる。習近平氏は、かつての「皇帝政治」へ逆戻りする。革命原点は皇帝政治の打破のはずであった。その原点を忘れて、「権力の密」に溺れるのだ。人間の弱さをこれほど見せつけている政治もない。習氏を取り巻く一握りの民族主義者が、その権力の密を吸おうと習氏を唆しているのだ。それは、中央政治局常務委員で序列5位の王滬寧(ワン・フーニン)氏である。

     


    (3)「習氏への個人崇拝強化という最近の動きは、22年の中国共産党大会に向けた下準備にみえる。習氏が党を支配している以上、この党大会は無期限に最高権力を握り続けたいとする習氏の野望に対し、正式なお墨付きを与えざるを得ない。習氏の思い通りに事が進むのはほぼ確実だ。習氏の支持者や党内のその熱烈な一派は、この動きを大歓迎するだろう。そうしないわけがない。中国の指導者は"賢帝"ということになっているからだ。賢明な指導者は、中国の現代化に向けあらゆる正しい判断を下すはずだ、と」

     

    批判を許さない政治は、誤りを是正する機会を奪うことである。まさに、中国政治の暴走が始まるのだ。それは、習氏の生命の灯が消えるまで続くもの。毛沢東で経験済みである。

     

    (4)「最もやっかいなのは、事態が悪化した場合、その事実を自由に公的に指摘することが難しくなる点だ。個人崇拝とは、どんなケースでも、その偉大な指導者が周りの誰よりも賢明な人物であるというのが前提になっている。従ってその指導者が間違いを犯すはずがない、というロジックになる。中国で新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)への習氏の対処を批判した者は刑務所に送られた。習氏の中国ではパンデミックについて公的調査が進むことも、議会での公聴会が開かれることもない」

     

    中国の「戦狼外交」は、習氏のワンマン体制確立のメッセージである。一切の批判を聞かず、逆にはね返すシグナルだ。こうして、海外に「反中国網」を自然につくらせている。自滅への第一歩である。

     

    (5)「習氏が指導者でいる期間が長引けば将来、必ず権力の継承を巡って危機が来る。現在68歳の習氏が高齢となれば、どこかで、統治するにはふさわしくなくなる。だがその時に、どうすれば習氏を退任させられるのか」

     

    68歳の習氏は、あと20年は実権を握り続ける意思であろう。中国を世界一に押し上げ覇権を握るという幻想に酔っている。現実の中国の力を知らないのだ。20年前を振り返れば、自ずと理解できるはずだが、取り巻き連中の甘言で正しい判断力を失っている。最悪事態に陥るのだ。

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    中国商務省は9月16日夜、中国が環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟を正式に申請したと発表した。王文濤商務相が、ニュージーランドのオコナー貿易・輸出振興相に申請書類を提出した。両者は電話協議で申請後の加盟手続きについても意見交換をしたという。

     

    中国の習近平国家主席は、2020年11月にTPPへの参加を「積極的に考える」と表明していた。ただ、TPPには中国と通商摩擦を抱えるオーストラリアや南シナ海の領有権問題で対立するベトナムが加盟しており、中国の加盟交渉が円滑に進むかは不透明である。

     

    それでも、正式加盟を申入れた理由はなにか。TPPの実質的な主宰国である日本への「嫌がらせ」をすることであろう。TPPは、中国が加盟できないように米国が国有企業で高いハードルを付けている。それにも関わらず、何らの国有企業制度の修正もしないで、加盟を申し込むのは、無理強いをして日本などを批判する材料に使う積もりであろう。

     

    韓国は、すでにTPP参加を前提にして、国内条件の整備に着手している。それでも、制度整備が終わるのは2025年という。この韓国の例から見ても、中国のTPP参加は不可能であることを知りつつ行うという「悪質」なケースである。

     

    今年、参加を申入れた英国は当初、目標の年内加盟の予定が来年にずれ込む見込みである。自由貿易の英国が、TPP加盟に時間が掛かるのだ。ましてや「無準備」の中国である。「百年河清を待つ」状態であろう。

     

    中国のTPP加盟には、英国が強く反対している。その反対の弁を紹介しよう。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月29日付)は、「英貿易相『TPP加盟合意、22年中に』 中国参加には難色」と題する記事を掲載した。

     

    英国のトラス国際貿易相は日本経済新聞のインタビューで、TPP参加に関心を示す中国に対して、世界貿易機関(WTO)などの国際貿易ルールに従う努力が必要だと述べ、現状ではTPP参加国が加盟を受け入れることに難色を示した。

     

    (1)「TPP参加には中国も関心を示すが、TPPは加盟の条件として国有企業の改革や幅広い品目での関税撤廃を求めている。トラス氏は「不透明な政府補助金や進出企業への技術移転強制、(新疆ウイグル自治区の)強制労働などの問題がある」と中国が抱える課題を指摘した。「中国はもっと努力する必要がある」とも語り、WTOなどの国際貿易ルールに従わない限りTPP参加は難しいとの見解を示した。英国が正式にTPP加盟国となれば、中国の加盟申請を審査する立場になる」

     

    英国は、香港問題で中国に煮え湯を呑まされた関係だけに、絶対に許せないという立場を強めている。英国が先にTPPへ加盟すれば、英国は「専制国と貿易協定を結べない」という立法措置によって、中国加盟を阻止する姿勢を覗かせている。ここまで、強硬姿勢の英国が存在する限り、中国加盟は不可能だ。

     


    ベトナムも中国加盟に反対である。ベトナムが、なぜTPPに参加したかと言えば、中国と違う経済圏に生きたかったのである。それほど、ベトナムも中国を嫌っているのだ。TPP参加は、加盟国全ての参加が必要である。ゆえに、中国は参加不可能である。

     

    豪州も、中国と鋭く対立している。TPPが、米同盟国の安全保障という機能も持っているだけに、中国加盟に賛成は困難だろう。

     

    中国は、先ずWTOで苦しい立場に追込まれる。中国は不透明な政府補助金や進出企業に対する強制的な技術移転政策、強制労働などの問題がある。TPPの取り決めはWTOのルールよりも透明性の基準が高い水準だ。(TPP参加には)中国はもっと努力し、先ずWTOルールを守る必要がある、というのが英国の立場である。

     


    (2)「10月に英国で開くG7貿易相会合はWTO改革が主要な議題になる。WTOは途上国に国内産業の保護を認めたり、先進国の市場に農産品や工業製品を安く輸出できたりする特権を与えている。途上国かどうかの認定は自己申告制で、中国など一部新興国が途上国の地位を返上しない問題が起きている。トラス氏は中国経済が米国の1割程度の規模だったWTO創設当時とは状況が全く違うと指摘した。「WTOの途上国の地位は貿易を通じて人々を貧困から救い出すために支援を必要とする国にだけ活用されるべきだ」とも強調し、中国の扱いの是正が必要だとの考えをみせた」

     

    中国は、WTO改革という「ふるい」に掛けられる。これにパスしなければ、TPPは高望みになる。このように考えると、中国のTPP加盟は、突拍子もないことに映る。嫌がらせの積もりと日本の姿勢を試すのであろう。断られて「ダメ元」である。何かを狙って行動に出たことは間違いない。その狙いは、これからおいおい分かるであろう。

     

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