勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    「中国マネー」という怪物が、まだ棲息しているかのように報じられている。その実態は、不動産バブルで荒稼ぎした利益である。その中身は、地道な貯蓄や国際収支の経常黒字ではない。中国の貯蓄率は、合計特殊出生率の低下とともに下落している。今年の経常黒字は、初めて赤字見通しだ。海外投資の原資は、この経常黒字である。それが消えかかっている段階で、中国マネーなど生まれるはずがない。

     

    これまでの「中国マネー」は、ほとんど「氏素性」のよろしくない不動産投機で得た利益である。永続性のない「刹那マネー」だ。それがあたかも「正統性」を得た資金のように振る舞ってきた。世界もそれを崇め奉ってきた。大誤算である。もはや、中国マネーなるものは日の目を浴びないであろう。

     

    『日本経済新聞』(6月16日付)は、「中国マネー、不動産投資が急減速、米13月、7割減」と題する記事を掲載した。

     

    世界の不動産市場で中国マネーによる購入の勢いが弱まっている。201913月の米国への投資額は前年同期比7割減に落ち込み、欧州やオーストラリアなどでの減速も目立つ。中国当局の資本規制に加え、米国では米中貿易戦争も響く。世界各地でホテルや高級マンションを買い上げてきた中国マネーの退潮は、世界の不動産ブームの変調を物語る。


    (1)「米調査会社リアル・キャピタル・アナリティクス(RCA)が一定額以上の不動産取引を調べたデータによると、18年中に中国の投資家や企業が世界の主要地域の不動産を購入した金額は約230億ドル(約25000億円)と前年比46%減少した。中国本国向けのほか、中東やアフリカなどを除いて集計した。12年以前の100億ドル未満から16年には425億ドルにまで急増し、17年もほぼ横ばいだった。19年以降も減退は続く。米国では13月(4四半期移動平均)の投資額が64000万ドルと前年同期比で72%減少した。ピークだった1679月の1割強の水準にまで落ち込んだ」。

     

    中国の投資家や企業が世界の主要地域の不動産を購入額の最近の推移

     

    12年以前は年間100億ドル未満

    16年には425億ドルへ急増

    17年もほぼ横ばい

    18年は230億ドルと前年比46%

    9年以降も減退は続く

     

    海外の不動産投資が盛り上がったこと自体、その買収資金が不動産バブルで儲けた利益の海外移し替えという印象が強い。製造業への投資でないことが、中国資本の脆弱性を物語る。「あぶく銭」は、さらなる「あぶく銭」を求めて不動産「投機」を狙ったのであろう。最近の不動産売却増加が、それを物語る。

     


    (2)「米国では今年13月(4四半期移動平均)の投資額が6億4000万ドルと前年同期比で72%減少した。ピークだった16年7~9月の1割強の水準にまで落ち込んだ」

     

    米国では、中国の不動産投資を安全保障上の理由で抑制していないので、純粋に中国側の資金事情に基づくと見られる。

     

    (3)「中国投資家の米不動産投資は15年後半から目立ち始めた。中国人民元の切り下げや中国株バブルの崩壊を受け、企業や富裕層が資金を海外に振り向けた時期と重なる。安邦保険集団や海航集団(HNAグループ)などの企業グループは高級ホテルや高層ビルの積極的な買収に乗り出した。流れが一転したのは17年後半以降だRCAのシニア・バイスプレジデント、ジム・コステロ氏は「中国当局が人民元の下落に歯止めをかけ、企業債務の削減を進めるために投資制限を強化した」と解説する。18年春から激化した米中貿易戦争も、米国投資をためらう心理的な重荷になった」

     

    下線を付けた部分が、不動産バブルと密接な関係を示している。日本でも同じ傾向を見せた。ただ中国の不動産バブルは、歴史的に「空前絶後」であるから、大量の中国マネーが、海外不動産へ利益の移し替えを図ったと見られる。それも終わった。


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    けさ、下記の目次で発行しました。よろしくお願い申し上げます。

     

    ファーウェイ問題の衝撃度

    習近平が兵法「詭道」実践

    半導体国産化に障害の技術

    中国マネー切れ新技術断念

     

    中国の習近平国家主席は、今月の28~29日開催のG20への出席について発表していません。6月16日現在の話ですが、開催まで10日余りしかありません。中国は、何が理由で公表が遅れているのか、関心が集まっています。

     

    習氏は、G20での米中首脳会談を避けられません。となれば、米中通商協定に対する中国の最終方針が決まっていないことが、習氏の出席を発表できない理由と見るほかありません。中国は、米国といったんは合意しました。法律改正でそれを担保することに、国内事情で反古にしました。そうなった理由は、国内の反習派が結束したとされています。習氏に一泡吹かせてやれという政治的な思惑です。

     

    中国の国内事情によって、図らずも米中が反目する。こういう予想できなかった事態に陥っています。これは、中国が政治的に複雑な事情を抱えている結果です。ただ、米中の通商交渉を妥結させず真空状態に置くことは、中国経済が一層混迷する事態になります。すでに、不動産バブルの崩壊に伴い、過剰債務が重圧になっています。そこへ、米中貿易戦争の重圧がかかると、二重の衝撃に見舞われるのです。

     

    中国の反習派には、こういう経済的な混迷を正確に認識する能力に欠ける面々が加わっているように見えます。中国経済を混迷させ習氏の政治責任を迫る。そういう狙いかも知れません。そうだとすれば、もはや手の施しようがありません。

     


    ファーウェイ問題の衝撃度

    習氏にはもう一つ予想外の事態が発生しました。米国が、中国通信機メーカーのファーウェイ(華為技術)へ技術とソフトの輸出規制(事実上の禁止措置)を決めたことです。ファーウェイは、次世代通信「5G」で世界最先端を行く企業です。このファーウェイは、形式的に民営企業です。実際は、中国政府と深い関係があると警戒されています。

     

    ファーウェイ製品には、「バックドア」が秘かに付けられており、ユーザーの知らないままに情報が中国へ流れていると指摘されてきました。「5G」は、情報インフラになることから、にわかに安全保障の危機として警戒されるに至りました。この点に、最初に気付いたのは豪州政府です。米・英・豪・日本・ニュージーランドがファーウェイの「5G」不採用を決めています。

     

    米国が、ファーウェイを直撃した狙いは、中国政府肝いりのハイテク計画「中国製造2025」を潰すことにあります。ファーウェイが、「中国製造2025」を推進する中核企業である以上、ファーウェイ潰しが中国ハイテク計画進捗に重大な影響を与えるのです。

     

    米国はなぜ、「中国製造2025」を目の敵にしたのか。それは、中国政府の補助金で研究開発が行われるというWTO(世界貿易機関)ルール違反に当るからです。しかも、中国はこのプロジェクトを通して、米国覇権への挑戦意図を臆面もなく公表したのです。中国が、米国の覇権を狙う、という口にしてはならぬことを喋ったことが、米国の警戒心を極大にまで引き上げました。米国はもはや、中国に「塩」を送る必要はない。徹底的に叩けというムードに変わりました。

     

    中国の外交方針は、秦の始皇帝時代に実践された「合従連衡」と「孫子の兵法」(紀元前500年頃)に尽きます。「合従連衡」については、繰り返し説明しましたので省略します。形勢不利な秦が、ライバル6ヶ国を制圧し統一国家を実現(紀元前221年)した裏には、「孫子の兵法」にある詭道(きどう)を利用したと想像できます。兵とは詭道也=戦争とは敵を欺く道」です。

     

    詭道は、現代中国においても基本中の基本手段になっています。常識では考えられない戦術を駆使しますが、中国の行動を冷静に見ると、見破れるのも事実です。初めて中国の戦術に出会った時は翻弄されます。二度目は、「またか」という訳で騙されないのです。この「二度目」こそ、現在の米国が見せている対中国戦略です。

     

    米国は、30年前の「天安門事件」で、中国政府を人権問題として追及しませんでした。旧ソ連との対立を抱えていたという事情もあり、中国と同一歩調を取る必要があったのです。また、中国国内の改革派を後押しすれば、いずれ中国が民主化されるという期待がありました。あれから30年。習氏の国家主席就任で、民主化の希望はかき消されました。それどころか、米国の首すら狙う野心を見せ始めたのです。(つづく)

     


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    習近平氏の政治判断が狂いっぱなしです。

     

    米中貿易戦争では、「開戦」と「協定文」を巡る騒ぎで判断を誤り、泥沼化しそうです。今度は、香港問題で「ゴー」サインを出して支持を与えていました。それが、ドデン返しの事態になっています、習さんは「3連敗」です。国家主席のメンツは丸潰れです。

     

    香港政府による「逃亡犯条例」改正に対して、習氏は支持を表明したのです。それが、参加者200万人近くに及ぶ16日夜のデモ発生を受け、林鄭月娥行政長官は同深夜、市民に謝罪する声明を発表する事態を迎えました。

     

    それにしても主催者発表で200万人のデモ行進とは、中国政府も度肝を抜かれたでしょう。香港市民の中国への反発がこれだけ大きいとは予想外だったと思います。「逃亡犯条例」改正案では、香港への旅行者でも中国の令状があれば逮捕して、本土へ拘留するという「地獄」の法案でした。

     

    米国政府は危機感を持ち、この法律が通れば香港へ与えている特恵を廃止すると予測されていました。米中対立の一環です。そうなれば、香港の金融都市や貿易都市のメリットが消失し、香港経済は成り立たなくなるのです。これに驚いたのは香港市民と香港政府です。双方が厳しい危機感をもちました。

     


    香港政府の報道官は16日夜に声明を発表しました。「政府は条例改正の作業を再開する予定がない」と強調。声明で林鄭氏は「政府の仕事ぶりで社会に大きな紛争を巻き起こした」としたうえで「市民に謝罪し、謙虚に批判を受け入れることを約束する」と述べました。一方、市民が求める条例改正案の撤回には触れませんでした。声明で逆に市民の反発は強まった、と『日本経済新聞 電子版』(6月16日付)は報じています。

     

    習氏は、中国本土では水も漏らさぬ弾圧体制を敷いていますが、香港では同じ手を使えません。民衆パワーによって敗退です。

     

    今回の香港騒動が、来年の台湾総統選に影響することは間違いありません。民進党の総統候補選びで当初、不利とされていた蔡総統が候補に選ばれました。これで国民党候補が誰になるかにもよりますが、国民党は中国と接近してきただけに不利でしょう。台湾は、中国と「不離不即」がベストの選択です。喧嘩もしない。そうかといって親しくもしないのです。


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    韓国の文大統領は、北朝鮮の「チュチェ思想」の共鳴者といわれている。先頃、韓国プロテスタント教会の会長が、これを理由にして文大統領の年内辞任要求を突付けた。38度線で対峙している「敵方思想」に染まっているのでは、韓国の安全保障が著しく不安定にならざるを得ない。

     

    文大統領が、「チュチェ思想」に染まったのは学生運動に熱を入れていた時期とみられる。当時の学生運動仲間が現在、大量に大統領府の秘書官として乗り込んでいる。大統領府は、北朝鮮と精神的につながっている連中で構成されているのだ。

     

    これを見た元・現の国防部長官が、にわかに「左傾グループ」に接近し始めて問題になっている。「敵」に理解を示す韓国軍トップでは、万が一有事が起こったとき、どのような指揮をするのか不安になる。北朝鮮へ通じて寝返るということもないではない。実に厄介な国防部長官が現れたものだ。

     

    『朝鮮日報』(6月16日付け)は、「あなたは韓国軍の恥だ」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の世論読者部=張一鉉(チャン・イルヒョン)次長である。

     

    (1)「宋永武(ソン・ヨンム)元韓国国防部(省に相当)長官が先月のセミナーで、「(北朝鮮・朝鮮労働党の)金正恩(キム・ジョンウン)委員長は自由民主思想に近づいている状態だ」と言った時、韓国軍やその周辺からは衝撃のあまり怒りが噴出した。わずか70年前にここで戦争を起こし、世界最悪の独裁制を維持し、今も韓国の自由民主主義を破壊しようと「すき」を狙っている政権の最高権力者なのに、そういう人物に向かって韓国の元国防長官が言ったとは到底信じられない修辞だった。軍関係者らは「言葉もない」と言った。海軍士官学校で宋永武元長官の2年先輩であるキム・ヒョクス初代海軍潜水艦船団長(予備役准将)はフェイスブックに「私は海軍士官学校の自慢にはなれていない。だが、宋永武、お前は海軍士官学校の恥であり、同門でもない」と書き込んだ」。

     

    軍人が立身出世を夢見て、政治家に魂を売るようでは世も末である。韓国大統領府の雰囲気は、北朝鮮一辺倒になっているのだろう。国防部長官という「武人」までが、魂を差し出して陽の当る場所を求める。さらなる出世を夢見る猟官運動の一種であろう。

     

    北朝鮮は韓国への侵略軍である。現在はさらに核武装まで始めた相手である。それに対して、「金正恩委員長は自由民主思想に近づいている」とは寝言である。観国軍兵士は、何のために訓練に励んでいるか分らなくなる話だ。

     


    (2)「それから2週間後にシンガポールで行われたアジア安全保障会議(シャングリラ会合)。今回は現職の鄭景斗(チョン・ギョンドゥ)国防部長官が軍の存在を辱めた。同長官は先月、北朝鮮のミサイル発射について、「対話で解決しようとの明確な考えを持っているというのが隠された意味だ」と述べた。ある予備役将校は「鄭景斗長官は神なのか? 一体、北朝鮮の意図が何であるかがどうして分かるというのか。あの人は本当に元軍人なのか」と言った。このような雰囲気になっているのは、元国防部長官や現国防長官の発言・発想が軍人には容認できず、踏み入ってはならない一線を越えているためだ1人の発言ならば「不純な個人の動機」と片付けることもできる。しかし、元国防部長官と現国防長官の2人ならば、「これは統治権者または執権勢力が韓国軍の準備態勢を崩そうとしているものだ」との批判は免れない」

     

    現職の鄭景斗国防部長官が軍の存在を辱めたという。同長官は先月、北朝鮮のミサイル発射について、「対話で解決しようとの明確な考えを持っているというのが隠された意味だ」と言った。これも、とんでもない発言である。国防部長官が、北朝鮮のミサイル発射をこういう認識で捉えていたとすれば、先ず初動態勢で敗北である。ピンボケな評論家レベル以下という存在である。前のパラグラフで指摘したように、大統領府がこういうだらけきった雰囲気なのだろう。これでは、金正恩氏に馬鹿にされるわけだ。


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    習近平中国国家主席は、大阪G20への参加を表明していない。米国トランプ大統領は、習氏が参加しなくても、既定方針通り3000億ドル関税引上げを表明した。習氏は、米国を焦らして、譲歩させようという戦略か。あるいは、国内事情で参加表明できない事情でもできたのか不明である。

     

    『ブルームバーグ』(6月15日付)は、「トランプ氏、中国習主席がG20で会談に応じるかは重要ではない」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「トランプ大統領は14日、米中の首脳会談に中国の習近平国家主席が応じ、貿易協議を再開するかどうかは「重要ではない」と話した。米国には中国から巨額の関税が支払われるためだという。トランプ氏はFOXニュースに対し、習氏が「姿を現せば、それは良いことだ。一方、現れなかった場合は、毎月わが国に数十億ドルが入ってくる」とコメント。「中国はいずれ取引に応じる。そうするしかないからだ。何千億ドルも負担するのだから」と語った」

     

    習氏が、G20参加を表明しないのでなく、「表明できない」のかも知れない。中国は、米中貿易協定への最終態度が決まらないのであろう。反習派が、結束して習氏の足を引っ張っている懸念があるからだ。

     

    (2)「トランプ大統領は、「中国政府は自国産業を助成しているので、米国の市民に負担はない」とし、関税負担は中国の輸出企業にのしかかるとあらためて主張。「関税というと『わが国民につけが回る』という声が聞かれるが、それは全くもってでたらめだ。そう言う人は、どういった影響が出るか本当に知っているのだろうか。企業はそれで、国内に拠点を戻すようになる」と話した

     

    米国が、第4弾の引き上げ3000億ドル(正確には3250億ドル)で関税率を25%以上に引き上げれば、中国経済は「壊滅」状況に追い込まれる。むろん、米国への影響はあるが、中国に比べれば「軽微」にとどまる。

     

    米国内の議論では、関税引き上げ分がそのまま、米国内の価格引上げになるという想定で物価上昇率を計算しているが、それは間違いである。トランプ氏の指摘が正しい。米国のバイヤーが関税分を国内価格に反映させれば、売れないことは自明である。そこで、①輸入先を変える。②中国のメーカーに負担させる。それでも回避できない部分が、③米国内の価格引上げになるのだ。この前段を飛ばして議論するから、「世界不況論」になる。

     

    中国からの輸出は、すでにベトナムやタイからの輸出などと肩代わりされている。中国の生産者価格が急速に鈍化している背景は、米国から値引き要求されている面の大きさを証明するものだ。中期的には、サプライチェーンの再編成が進む。中国から輸出製造業が他国へ脱出せざるを得ないからだ。それを承知で、中国は「最後まで戦う」と粋がっているが、自殺行為である。

     

    習近平氏が、G20を欠席する場合はどうなるか。それは、トランプ氏の宣言通り、関税引き上げを実行するほかない。その場合、米国は利下げで対応できるが、中国には何らの対応策もない。レアアース輸出規制も効果は少ない。米国債売却案も有害である。完全に手詰まりに追い込まれている中国である。

     

    中国は、意地を張るよりも米国案を受け入れ、国内経済の活性化に着手する方がはるかにメリットは大きいのだ。経済問題は、感情よりも理性で判断すべきである。「最後まで戦う」という範疇ではない。最後まで戦えば、敗者になるだけだ。

     

     


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