勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    118
       

    パンデミックがもたらした世界的デジタル化によって、半導体需給は一挙に急迫化している。米国もその影響を受けていることから、12日(現地時間)ホワイトハウスで世界主要半導体メーカー19社を集め「半導体増産会議」を行なった。これに対して、中国メディアが一斉に反発している。

     

    『朝鮮日報』(4月14日付)は、「中国、『米国、半導体を武器に政治工作』」と題する記事を掲載した。

     

    バイデン米大統領が出席し、ホワイトハウスが12日開いた半導体対策会議について、中国は「中国の成長を阻もうとするもう一つの政治工作だ」として、激しく反発した。

     

    (1)「中国紙の環球時報とその英語版グローバルタイムズは同日、「米国が世界の半導体関連企業19社を呼び集めた会議を通じ、中国企業を排除し、米議会も中国を狙った制裁計画を推し進めている」とし、「米国は半導体を中国の技術発展を抑える武器と見なしている」と批判した。グローバルタイムズは「米国が半導体分野で同盟国に中国と対立するよう圧迫するのも、結局は米国に(中国と競争する)自信がないからだ」とし、「中国企業に対する制裁に効果がなかったことから、米国企業ではない台湾積体電路製造(TSMC)やサムスン電子などに無理に中国とのデカップリング(分離)を要求したものだ」と主張した」

     


    半導体が、「21世紀の石油」とされる戦略物資である以上、米国が囲い込みを始めたのはやむを得ない措置である。中国が、露骨な海洋進出によって世界地図を塗り替えようと狙っている以上、米国の自衛措置である。

     

    戦前の日本が、米国覇権に対抗して太平洋戦争を準備したことで、米国は対日経済制裁で石油と鉄くずの禁輸措置を取った。米国の半導体増産計画は、これと同じ主旨だ。

     

    (2)「グローバルタイムズはまた、「バイデン政権は多国間主義に復帰すると言いながら、実際には(トランプ政権時代の)一方主義、孤立主義の政策を続けている」とし、「中国を孤立させることは結局米国自体を孤立させることだ」と述べた。米国の半導体覇権確保の動きが結果的に世界の半導体サプライチェーンを崩壊させ、世界経済に逆効果を生むと主張した格好だ」

     

    世界経済の理想図は、グローバル化である。だが、中国は正統な理由もなく他国へ経済制裁を行なっている。豪州では、石炭・牛肉・ワイン・小麦などを輸入禁止にした。韓国ヘは、「限韓令」と称して、文化・芸能の交流禁止である。自らが、こうした不当措置を行いながら、他国を非難する資格はない。

     


    『朝鮮日報』(4月14日付)は、「バイデン大統領『米国の競争力、あなたがたの投資次第』…サムスンに事実上の投資圧力」と題する記事を掲載した。

     

    米ホワイトハウスが12日、非公開で開いた半導体対策会議は1時間半にわたり続いた。会議の最後に登場したバイデン米大統領は約10分間発言し、「アメリカ」を19回、「投資(インベスト)」を18回も口にし、世界的企業に米国へと投資を促した。会議の目的が米国への投資を迫ることだという本音を隠さなかった格好だ。

     

    (3)「世界的な半導体供給不足は米国の主力産業である自動車の工場をストップさせ、スマートフォン、生活家電などIT産業へと被害が拡大している。海外メディアや半導体メーカーは今回の会議について、サプライチェーン再編を通じた半導体自立、中国のテクノロジー崛起(くっき)けん制、米国内での雇用創出などさまざまな目的があったとみている」

     

    米国が、国内での半導体自給化を目指しているのは明らかである。安全保障という視点から見れば、当然の措置であろう。もはや、米中は冷戦状態に入っている。

     


    (4)「バイデン大統領は同日、「(半導体)インフラを修正するのではなく、新たに構築すべきだ」と述べた。輸入に依存してきた半導体を米国内で生産する方式に改めるという意味だ。米国は半導体設計分野で世界最強だが、生産は台湾、韓国に大部分を任せている。ボストン・コンサルティング・グループによると、世界の半導体市場で米国内での生産割合は1990年の37%から昨年には12%にまで低下した。半導体ファウンドリー(受託生産)企業のうち、米国企業はシェア7%のグローバルファウンドリーズが唯一だ」

     

    1980年代後半から、日米は半導体をめぐる厳しい対立状態に入った。これが、急速な円高への伏線にされ日本は「敗北」した。米国は、戦略物資となれば同盟国でも容赦しない「冷酷」な面がある。米国が、その素顔を再び覗かせてきたと見るべきだろう。

     


    (5)「こうした状況で台湾積体電路製造(TSMC)やサムスン電子など東アジアの企業が半導体をタイムリーに供給できなければ、米国のテクノロジー産業全体がストップしかねない。日本経済新聞は「仮に中国が台湾を自国の影響下に置けば、世界の半導体サプライチェーンが根底から揺らぐ」とし、「そうしたリスクを解消すべきというのがバイデン政権の考えだ」と指摘した。ホワイトハウスのサキ報道官は会議に先立ち開かれた定例会見で、「大統領は半導体を安全保障の問題ととらえているのか」との質問に対し、「そうだ」と答えた」

     

    このパラグラフにはっきりと、米国の意図が安全保障であると明確にされている。「準戦時」という認識である。米国の「怖さ」は、ここにあるのだ。

     

    (6)「今回の会議を契機として、サムスン電子の対米半導体投資が近く決定される可能性が高まった。崔時栄ファウンドリー事業部長(社長)が会議に出席したサムスン電子は、現在稼働しているテキサス州オースティンのファウンドリーのそばに20兆ウォン(約1兆9400億円)規模の生産ライン増設を検討している。半導体業界関係者は、「米大統領が直接投資を要求しただけに、サムスン電子がそれに応える形で、近く決定される可能性が高い」と指摘した」

     

    韓国政府は、対中関係ではのらりくらりとしているが、企業になれば死活問題である。米国の要請に応えて、サムスンは半導体工場を増設する。これは、かねてからの計画であった。

     

    a0960_005453_m
       

    中国外交を取り仕切る楊潔篪(ヤン・ジエチー)共産党政治局員の妻子が、10年以上も米国に滞在していると報じられた。先のアラスカでの米中外交トップ会談冒頭で、楊氏は痛烈な米国批判を行なった。だが、私的には妻子を米国に滞在させている「二つの顔」を持っている。

     

    米国では、巨額な資産を保有していることが判明した。娘は、米国の中学・高校・イェール大学の全てで奨学金を支給されるという「厚遇」を受けてきたという。楊氏は私的には、米国の「悪口」を言えない立場である。

     

    『大紀元』(4月13日付)は、「中国外交トップ楊潔篪氏も『裸官』か、妻娘が10年以上滞米 脱税疑惑も」と題する記事を掲載した。

     

    3月、アラスカで行われた米中外交トップ会談の冒頭で、中国の外交担当トップ、楊潔篪(ヤン・ジエチー)共産党政治局員は、「アメリカには上から目線で中国にものを言う資格はない」「中国はその手(アメリカのやり方)は食わない」などとまくし立て、16分間にわたって過激な言葉で米国を批判した。その好戦的な姿勢は世界に衝撃を与えた。しかし会談を終え、楊氏はその足で米国滞在中の娘を訪ねていたと暴露された。同氏は妻子を米国に住まわせる「裸官」のようだ。

     


    (1)「あるツイッターユーザーがネット上で、「楊氏の戦狼ぶりは、国内向けのショーだった。会議の後、楊氏はイェール大学に留学中の娘を訪ねていた」などと投稿した。このツイートには、楊氏の妻と娘の住所の詳細も書かれている。ワシントンD.C.にある1200万ドル(約13億円)の豪邸と、マンハッタンにある210万ドル(約2.3億円)のリバービューマンションである」

     

    (2)「47日付のセルフメディア「ジェニファーの世界」の独占報道によると、同メディアを主宰する曾錚(ジェニファー・ゼン)氏はこのツイートの情報を元に、米プロ調査員であるブライアン・オシェア氏に調査を依頼した。2つの邸宅が、10年以上米国に住んでいる楊潔篪氏の妻と娘の米国での住所であることを確認したという。曾氏は記事の中で、中国の外交担当トップである楊潔篪氏が、10年前に妻と娘を米国に移住させ、共産党の政治舞台で一人「反米愛国」を叫んでいる典型的な「裸官」であると指摘した」

     

    (3)「楊氏の妻である楽愛妹(ルー・アイメイ)氏は、中国の在外公館に派遣される職員の思想や汚職を監督する、中国外務省の機関党委員会(部党委国外工作局ともいう)で参事官を務めている。楽愛妹氏が2001年から住んでいるワシントンD.C.の豪邸は、中国政府の所有物として登録されており、資産価値は813万ドル(約8.9億円)相当。楽氏は、1998年にメリーランド州で発行された米国の社会保障番号(ソーシャル・セキュリティ・ナンバー、SSN)を持っている。しかし、調査の結果、このSSNはルーベン・ラミレスという人物も保有していることが判明した」

     


    (4)「
    楊潔篪氏の娘、楊家楽(アリス・ヤン)氏は現在、イェール大学に通っている。ニューヨーク州政府の公開資料によると、アリス・ヤン氏は2010年9月以来、イェール大学から130キロ離れたニューヨーク市マンハッタンの2つの住所に居住していた。いずれもニューヨーク中国総領事館から数百メートルしか離れていない一等地にある」

     

    (5)「一つは、リバービュー高層マンションの一室で、購入日は2011年9月1日、購入価格は178万ドル(約2億円)。2015年8月から入居しているもう一つの高級タワーマンションは、2014年11月7日に166万ドル(約1.8億円)で購入したもの。2つの邸宅の所有者はそれぞれYan JingboHe Zheとなっている。共産党高官の個人情報を晒すウェブサイト「孤児展覧館」によると、Yan Jingboはアリス・ヤン氏の夫だという」

     


    (6)「2012年7月付の米国の華字ニュースサイト「明鏡新聞網」によると、楊氏の娘は2011年、イェール大学に全額支給奨学金で入学した。また、中学・高校もワシントンD.C.にある私立の名門校、シドウェル・フレンズ・スクールに全額支給奨学金で通っていた。在米華僑が運営するニュースサイト「チャイナ・ニュース・センター」は3月19日、楊潔篪氏の娘が米国の名門校に全額支給奨学金で通うことができたのは、米国の名門校が中国共産党幹部との利権取引のために、「紅二代」「紅三代」(高級幹部子弟)の入学基準を下げたことを示唆している」

     

    (7)「中国共産党には、妻や子供、資産を海外に送り、一人で国内に残って役人を務める「裸官」が多くいる。中国当局は、共産党幹部の財産や裸官に関する内部統計を持っているが、それを内部の権力闘争の駆け引きの材料にしており、国民には開示していない。2010年の全国人民代表大会(全人代)で、全人代代表で中央党校教授の林喆(リン・ゼー)氏が、1995~2005年までの10年間で、中国に118万人の「裸官」がいたことを漏らした。中国では裸官を「反米は仕事、妻子をアメリカに行かせるのは生活だ」と揶揄している」

     

    楊氏の家族に関する詳細な情報である。習近平氏も一人娘を米国へ留学させていたが、数年前に帰国させている。政府高官の子弟は原則、米国留学先から帰国させたはずだが、楊氏の場合は特権で米国滞在が許されたのであろう。こういう「米国依存」で米国批判をしても、中国国内では迫力が減殺されよう。

     

    a0960_008531_m
       


    韓国政府は、悪質である。福島原発のトリチウム(三重水素)海洋放出について、科学的に無害であることを知りつつ、日本への反対姿勢を打ち出している。文政権は、先の韓国二大市長選で与党候補が惨敗したことから、福島のトリチウム放出を格好の反日テーマに据えて、人気挽回策に利用しようという魂胆である。

     

    トリチウムは自然界に存在しており、人間はその中で生きているから、希釈すれば「無害」である。この常識が通じない韓国は、小学生以下の科学知識と言うべきだろう。実は今年1月、韓国の月城(ウォルソン)原発でトリチウムが溜まっていたことが判明し、韓国与党と政権支持メディア『ハンギョレ新聞』が尻馬に乗って大騒ぎしたことがある。

     

    韓国原子力学界は、月城原子力発電所の敷地で見つかったトリチウムが、年間バナナ3~6本を食べた時の被爆量にすぎないと明らかにした。学界は「トリチウムで恐怖を助長する非科学的怪談は止めなければならない」と注文をつけたほど。この原子力学会の説明でその後、「月城トリチウム問題」は消えた。それにも関わらず、福島原発トリチウムで再び騒いでいるのだ。

     


    福島原発トリチウムの海洋放出は、なぜ無害なのか。

     

    日本政府の放出基準は1リットルあたり6万ベクレルである。この水を70歳になるまで毎日約2リットル飲み続けても、被曝は年間1ミリシーベルト以下におさまるという。日本で1年間に自然界から受ける放射線による被曝量と同等かそれ以下で、国際的に許容されるレベルにとどまる。福島原発では、この基準の40分の1まで薄めるとしている。以上は、『朝日新聞 電子版』(4月13日付)から引用した。要するに、韓国政府の言分は、反日のための言いがかりである。

     

    『中央日報』(4月13日付)は、「韓国、原発汚染水の批判だけを繰り返している時 日本は、米国とIAEAから支持を引き出していた」と題する記事を掲載した。

     

    日本政府が13日、東京電力福島第一原子力発電所に保管中の汚染水を海洋放出することに正式に決定した。韓国政府はその直後に具潤哲(ク・ユンチョル)国務調整室長の主宰で関係部署次官会議を開いて「一方的措置」として強い遺憾を表わした。



    (1)「韓国政府は会議後に公式コメントを出して「日本政府に反対と懸念を伝えてわが国民の安全と海洋環境の被害防止のための具体的な措置を強力に要求する」と明らかにした。また「あわせて国際原子力機関(IAEA)など国際社会に韓国政府の懸念を伝えて今後日本の措置に対する安全性検証情報の共有、国際社会の客観的検証などを要請する計画」と説明した」

    日本政府は、これまで海外のメディアに対してもトリチウムの海洋放出が無害であることを懇切丁寧に説明してきた。IAEAの検査も受けており万全を期している。韓国政府の発言は、単なる「嫌み」としか言いようがない。


    (2)「日本は放流決定以前にすでにIAEAの支持を確保していた。ラファエル・グロッシ事務局長は昨年12月、日本の報道機関とのインタビューで、汚染水放出が「技術的に可能だ」と明らかにしていた。米国も直ちに支持の立場を出した。国務省のネッド・プライス報道官は公式立場を出して「日本政府がいくつかの選択肢と効果を綿密に検討してきたことを米国はよく知っている。日本は決定を下す過程で透明な態度を取り、国際的に容認される核安全基準に符合する方法を選んだとみられる」と明らかにした」

     

    トニー・ブリンケン国務長官は別途、「放出決定に対する努力の透明性に感謝する」とツイートしたほど。韓国政府は、十分な協議がなかったという点をあげて容認できないといったが、米国は日本の透明性に謝意を表わしたのである。冷え切った日韓関係である。日本が、韓国の承認を得るような行為をするはずがない。



    (3)「国際社会でも韓国政府が、日本に対する外交的抗議や糾弾の他に取ることができる妙手がないのではという懸念が出ている。文在寅(ムン・ジェイン)政府任期末、韓日関係改善への努力にまた別の悪材料が持ち上がったといえる。これに関連し、当初から韓国政府は福島問題に対して科学的にアプローチするのではなく、日本に対する政治的対応カードとして利用しようとしたが、結局行き詰まってしまったのではないかという指摘もある」

     

    韓国は、トリチウムを科学的問題として取り上げず、反日カードに利用しようと企んでいた。だが、科学的に無害であるゆえ、日本を圧迫する材料にはならず、逆に日本の反発をうけることになった。今回も、米国が事前に事情を知りながら、隣国の韓国へ通報しなかったのは、韓国の底意を見抜いていたからだ。反省すべきは韓国である。

     

    (4)「日本の輸出規制による経済報復で、日韓両国の関係が最悪に突き進んでいた2019年中旬ごろ、韓国政府は福島問題で日本を圧迫する方案を考え出した。2019年8月の1カ月間だけでも、外交部報道官の汚染水放出危険性公開議論、担当局長の駐韓日本大使館経済公使招致、康京和(カン・ギョンファ)外交部長官の韓日外相会談時の公式問題提起などが続いた。当時、国際社会でこの問題を提起したのは韓国だけだった」

    韓国は、反日に利用して失敗したのだ。トリチウムが無害である以上、政治問題化できなかったもの。

     


    (5)「当時の福島強硬対応が残した実益は、何だったのかという疑問が外交界から出ている。その間、日本はIAEAと米国の支持を確保して、駐韓日本大使館は今年3月に東日本大震災10周年を契機に韓国メディアに汚染水放出の安全性に対して大々的に説明会まで開くなど緻密に放流決定を準備してきた」


    韓国は、対日感情外交で失敗したというのが結論だ。科学的問題は、科学的見地で議論すべきである。これが、今回の教訓である。

    あじさいのたまご
       

    習近平氏は、側近に民族主義者を抱えており、「中華再興論」で燃えている。民族主義の落し穴は、非合理性にある。不可能を可能と信じ込むところが、最大の危険な点だ。戦前の日本がそうであった。あの無謀な太平洋戦争を始めた裏には、「神州不滅」という大きな盲信があった。経済力の差を考えれば、どんなことがあっても回避すべき開戦であった。

     

    現在の中国が、かつての日本と同じ状況に置かれている。「米国衰退・中国繁栄」という全く根拠のない理屈で、西側諸国へ対抗している。これが、開戦のリスクを高める要因になる。

     

    これを回避するには、西側諸国の結束しかない。具体的には、インド太平洋戦略「クアッド」(日米豪印)が軍事的に対抗する姿勢を固めることだ。「クアッド」は軍事同盟でないが、親密国であることは間違いない。このクアッドが軍事同盟化するとき、中国は「米国衰退・中国繁栄」という誤りを覚るはずだ。

     


    4月16日の日米首脳会談が、どのような共同声明を発表するか。これによって、日米の決意のほどを世界に示すであろう。菅首相は、5月の連休中にインドとフィリピンを訪問して、それぞれ首脳会談を行なう。日米の決意をこれら両国に伝えて「クアッド」強化へつなげるのであろう。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月13日付)は、「『米国と対等』意識する中国、秩序打破目指す」と題する記事を掲載した。

     

    米アラスカ州アンカレジで先月行われた米中高官会談で、すぐに明らかになったことがある。中国の習近平国家主席の外交使節団が会談の場に持ち込んだものが、和解の象徴であるオリーブの枝ではなく、新たな世界観だったということだ。米バイデン政権の当局者らが予想していたように、外交政策トップとして習氏を支える楊潔篪(よう・けつち)共産党政治局員と王毅外相という中国側カウンターパートはこの初会談で、トランプ政権時代の中国を標的とした政策の転換を求めた。

     


    (1)「楊氏は予想外の行動も見せた。同氏は16分間にわたって、米国の人種差別問題や民主主義の失敗について説教したのだ。中国側当局者らによると、そこには、中国政府が自らを米国と対等の存在とみなしていることを明確に示す狙いがあった。同氏はまた、中国政府が主権にかかわる不可侵の問題ととらえる台湾との最終的な統一について、米政府が干渉すべきではないと警告した。これは中国指導者の姿勢が大きく変化したことを示すものだ。中国の歴代指導者らは長い間、世界のリーダーとしての米国に盾突かないよう気を配り、鄧小平が数十年前に示した「韜光養晦(とうこうようかい)=力を隠して内に蓄える」の教えに従ってきた」

     

    中国は、米国と対等であると思い込み始めた。これは、中国に軽挙妄動させる大きなリスクを抱えさせる。このリスクを、いかにして顕在化させないかが問われている。

     


    (2)「習氏は現在、こうした関係を変えようとしている。中国の時代が到来したというのが、彼の見方だ。彼は3月初めに開かれた全国人民代表大会(全人代)で「中国は既に、対等な立場で世界を眺められるようになった」と語った。中国メディアの間ではこの発言は、中国がもはや米国を目上の存在とみなしていないという宣言だと広く受け止められている。中国国務院参事で、北京のシンクタンク、中国グローバル化研究センター(CCG)の代表でもある王輝耀氏は「中国側の態度の変化の中で特に目立つものの一つは、今や競争状態が存在していると認識していることだ。これまでは、そうした認識を表明することは全くなかった」と語る。

     

    中国は、これまでなかった対米意識として、米中が「競争状態」という認識を持ち始めている。手を伸せば、米国へ届くという考えになっていることだ。そういう意味では、これからが軍事的に危険ゾーンに入る。

     

    (3)「楊氏がアラスカで発した台湾統一に関する警告は、世界の大国間の競争関係が、紛争につながりかねないという不吉な状況を示唆するものだ。米国は、1979年の台湾関係法を含む合意の下で、台湾の自治の擁護に努めることを約束している。そしてジョー・バイデン大統領のチームは、台湾政府と経済的・政治的関係を強化する計画を盛んに宣伝している。中国政府は台湾を離れた場所にある中国の1地方とみなしており、習氏は台湾との統一を、中国復興を目指す「中国の夢」の主要要素ととらえている」

     

    習氏の「中国の夢」実現には、台湾侵攻が不可欠である。習氏が存命中=国家主席在任中は、必ず、台湾をめぐる軍事紛争が起こることだ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月30日付)は、「バイデン氏の対中戦略『米国弱体化』認識に対抗」と題する記事を掲載した。

     

    米中関係は、爆発しかねない危険な問題が埋め込まれた地雷原のようだ。しかし、その中でも最大のリスクは、気付きにくい内容である。それは、中国が米国の力の衰退を過信し、その認識に従って行動することだ。

     


    (4)「米国と西側諸国のリベラルな秩序全体が長期的衰退の初期段階にあると中国が確信した場合、自信過剰になった中国の指導部が一線を越えて余りにも挑発的になり、米国に強硬な反応を強いる恐れがある。中国のこうした認識は、同国の代表者やメディア組織によって表明されている。南シナ海、通商、とりわけ香港と台湾など、多くの地域や分野でそのリスクが表面化している」

     

    中国が、その気になればいつでも戦火は交わるであろう。アジアが、世界最大の危険地帯になっている。

     

    (5)「実際このリスクを念頭に置くと、バイデン米政権が取り始めた対中政策の多くを説明することが容易になる。バイデン政権の戦略は、中国政府との本格交渉に臨む前に、米国の経済・外交・軍事面の底力を明確に示そうと努めることで、米国が政治的に分断され衰退しつつあるとの中国の主張に対抗するというものである。そのメッセージは「米国の力を見くびるな」という単純明快なものだ」

     

    戦争抑止には、米国が絶対的な強者であることを示し続けられることが条件である。中国が米国を舐めてきた時、最も危険な時になる。

     

    次の記事もご参考に。

    2021-04-05

    メルマガ246号 中国は大丈夫か、妥協なき米欧の人権弾圧抗議を甘く見ると「自滅危機」

    2021-04-12

    メルマガ248号 碌な半導体も造れない中国、開戦恐れない狂気を米国は抑えられるか

     

    a0960_008711_m
       

    中国の新興企業に逆風が吹いている。当局の審査が厳しくなって、ハイテク企業向け市場「科創板」は、2021年に入り上場計画を取り止める企業が急増している。米中対立の余波をうけ、業績が悪化している結果だ。上場後に倒産する事態を迎えれば、株式市場は致命的打撃を受ける。すでに、不動産バブルも終息期を迎えているので、二重の打撃を回避する目的と見られる。

     

    『ロイター』(4月13日付)は、「中国IT企業、本土でIPO撤回ラッシュ 審査強化で」と題する記事を掲載した。

     

    中国ハイテク新興企業の間で、中国版ナスダック市場への上場計画を中止する動きが広がり、一部は香港での上場を視野に入れている。アリババグループ 傘下の金融会社アント・グループが計画していた370億ドル規模の新規株式公開(IPO)が昨年11月に延期されて以降、中国規制当局がIPO申請企業への審査を強化させているためだ。

     

    (1)「ロイターが中国の取引所への申請書類を調べたところ、アントのIPO中止以来、100社以上が上海の「科創板(スター・マーケット)」と深センの「創業板(チャイネクスト)」への上場申請を自主的に取り下げたことが分かった。バンカーや企業幹部によると、前代未聞の相次ぐ撤回の背景には、上場目論見書の審査が規制当局によって急激に厳格化され、IPOの延期や却下、さらには処罰にまでつながっている状況がある。企業があわてて申請を取り下げる様子は、中国のIPOの質、そして引受会社によるデューデリジェンス(注:投資対象となる企業や投資先の価値やリスクなどを調査することの頑健性に疑問を生じさせる」

     

    上場申請を取り下げているのは、当局のデューデリジェンスの厳重化にある。業績に自信があれば、上場が遅れても申請取り下げをするはずがない。米中対立で、中国IT企業の経営に逆風が吹いていることだ。

     

    (2)「この傾向が続けば、香港やニューヨークの取引所のような世界的取引所に対抗したいという中国の野望は危うくなる。折しも中国は、海外上場企業を呼び込むための新取引所の設置を検討中だ。中国は約2年前に科創板を立ち上げ、米国風の登録と情報開示に基づくIPO制度を導入した。国内のハイテク新興企業に海外上場を思いとどまらせるとともに、国内上場を迅速化するのが狙いだった。こうした変更は昨年、創業板にも適用された。しかし、中国の規制当局の考え方を直接知る銀行関係者によると、当局がアントの事業の一部に懸念を示して同社のIPOが延期されて以来、当局はリスク管理に関心を移した」

     

    中国当局が、上場後のリスク管理に目を向けているのは、中国経済全体のリスク増大を意味している。科創板の主要上場企業50社で構成する「上証科創板50成分指数」は、1300を下回り、20年夏の高値から3割近く下落している。世界株全体の値動きを示す「MSCI全世界株指数(ACWI)」が上昇を続けるのと対照的な値動きだ。それだけ、中国の抱えるリスクの大きさを示している。楽観は禁物なのだ。

     

    (3)「前記の銀行関係者は、「規制当局は引受幹事社に対し、より厳しいデューデリジェンスを要求している」と話す。スポンサーや主幹事会社が処罰を恐れて上場申請を取り下げる例もあるという。「一分のすきもない案件は存在しない」ためというのだ。科創板は2020年、IPO総額が200億ドルと世界4位を記録した。だが、リフィニティブのデータによると、今年第1・四半期には順位が7位に落ちた。アトム・ベンチャー・キャピタルの共同経営者、Yiming Feng氏は「中国はITバブルになっている。是正すべき時を迎えたということだ」と語る。

     

    中国は、ITバブル終息期を迎えた。きっかけは、米中対立の長期化である。中国ITは、米国からの封鎖を受ければ生きていけないことを証明している。

     

    (4)「上海に拠点を置くクラウドコンピューティングの新興企業・ダオクラウドは今年、科創板でのIPOを計画していたが、承認が遅れる可能性が出たため、今は香港上場を検討している。同社創業者のロビー・チェン氏は「(IPO申請企業は)現在、規制面で大きな不確実性に直面している」とし、「だから当社にはプランBが必要だ」と述べた。近々の海外上場計画を持たないその他の企業にとっては、私募方式での新たな資金調達を求めることの方が優先になっている」

     

    業績見通しに自信がないIT企業は、IPOを断念して私募方式の資金調達に切り変える。それだけ、企業にとって資金調達コストは上がるので負担になる。弱り目に祟り目である。

     


    (5)「
    取引所データからは、赤字のハイテク系ユニコーン(事業価値10億ドル以上の未上場の新興企業)が上場計画を棚上げにした事例が幾つも分かる。プロスペクト・アベニュー・キャピタル(北京)の創業パートナー、ミン・リャオ氏によると、現在多くの中国新興企業にとってIPOへの道は険しい。そうした一部が「持続的に成長できる潜在力を示す」のに苦労している企業だという。証監会の易会満主席は先月、引受会社にIPO候補企業の審査を厳格化するよう求め、「病んだ」企業を上場させようとする者は罰すると表明した。ある銀行関係者によると、上場までに要する期間は従来の平均6カ月から同12カ月に延び、現在100社以上が科創板への上場を待っている状態だ」

     

    中国当局は、「病んだ企業」の上場を罰するという。米国では、赤字企業でも将来への見通しがつけば上場可能である。現在の中国では、それを許し受入れる経済的な余裕を失っていることを示している。病める中国経済を象徴する話だ。

    このページのトップヘ