勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    a1180_012903_m
       


    儒教社会に人権はない

    北朝鮮がナンバーワン

    国連も乗り出す事件へ

    根深い女性蔑視の社会

     

    立つ鳥跡を濁さず、という。韓国前大統領の文在寅氏は退任後、世間から忘れられたいと言っていたが、どうも希望通りになりそうもない雲行きだ。在任中に、韓国公務員が北朝鮮軍により射殺された事件が蒸し返され、責任を追及されているからだ。射殺された遺族は、文氏を訴えると発言しており、事件の行方が注目されるにいたった。

     

    この問題は、文政権が北朝鮮とのいざこざを恐れて「不問」に付した疑惑が持たれている。韓国公務員は、北朝鮮領海を漂流して生存していることを確認されながら、韓国政府が直ぐに救助の要請をせず3時間後に北朝鮮軍により射殺・焼却されたという衝撃的事件である。この事件の顛末が、韓国新政権で明らかになった。政権交代がなければ、隠蔽されたままで葬り去られたであろう。

     


    儒教社会に人権はない

    事件の詳細は後で触れるが、文氏は「人権派弁護士」として名前を売ってきた人物だ。これを足がかりにして大統領まで上り詰めた。文氏は、果たして人権派であったか。そういう疑問の声が最近、米議会からも上がっている。文氏が、北朝鮮外交重視の結果、最も大事な人権問題を棚上げするご都合主義者になったと批判されているのだ。韓国にとっても、極めて由々しい批判である。

     

    この人権問題と関係あるのが、大統領夫人への嫌悪感である。大統領夫人は、「私人」であって批判対象になるべき存在でない。ところが、韓国では大統領夫人を「公人」扱いし、批判対象にしているのだ。「出しゃばり」とか、「目立ちたがり屋」とまで批判される始末だ。極めつけは、尹大統領が愛妻家で食事の支度をしていたことを、進歩派メディアまで批判していることだ。これは、夫人が「良妻賢母」という儒教社会のイメージとかけ離れていることを指摘しているのであろう。

     


    韓国は朝鮮李朝以来、儒教が国教になったことから、無意識のうちに儒教倫理で社会を規制している。儒教の基盤である宗族社会では、個人の認識はなく集団の認識が先行している。「私」という概念は邪悪なものとされており、「私たち」が優先概念である。ここには、個人の「人権重視」という概念は、口先では存在しても、心の奥まで響かない曖昧な概念になっているのだ。この事実に注目すべきであろう。

     

    儒教倫理では、男女平等という認識もない。女性蔑視を意味する、「男女七歳にして席を同じうせず」という言葉通りに男尊女卑社会が形成された。韓国で、大統領夫人への批判が絶えないのは、伝統的に根付いている儒教の男尊女卑の認識が無意識に働いている結果だ。韓国が、真に近代社会へ脱皮するには、こういう儒教倫理の残滓を一掃することであろう。

     


    北朝鮮がナンバーワン

    冒頭から、儒教倫理などと「小難しい」ことを持出したのは、理由あってのことである。それは、前記二つの「人権」と「女性蔑視」の問題を何の脈絡もなく取り上げると、「三文記事」に堕する危険性があるからだ。韓国社会が、いかに儒教に毒されているかを検証するには、まずその検証ツールを明らかにしておかなければならない。こういう私の流儀をご理解いただきたい。

     

    まず、「人権問題」に該当する事件からとり上げたい。

     

    2020年9月22日、北朝鮮軍の銃撃を受け遺体を燃やされて死亡した韓国海洋水産部の公務員、故イ・デジュンさんの事件に関する事件だ。韓国政府は、故イさんが多額の債務を抱えており、勤務中の水産部調査船から姿をくらました、という説明をした。自分の意思で北朝鮮領海へ泳いで行き、北朝鮮軍から「不審者」として射殺された、という説明で事件の幕引きとした。

     


    政権が代わって大逆転が起こった。海洋警察庁の丁奉勳(チョン・ボンフン)庁長が6月22日、「多くの誤解をもたらした」として、国民と遺族に向け謝罪したのだ。

     

    海洋警察は同事件を巡って、男性が行方不明になった8日後に中間捜査結果を発表。軍当局と情報当局が傍受した北朝鮮の通信内容や本人の債務などを根拠に、「男性が自ら北朝鮮に渡ろうとした」との判断を示した。国防部と海洋警察庁が今年6月16日、「自ら北に向かったという証拠はない」とし、文在寅政権当時の立場を覆したことから、海洋警察庁トップが謝罪会見に追い込まれたものだ。

     

    文前大統領は、事件の報告を受けてから3時間後に、公務員は北朝鮮軍による銃撃で死亡した。その3時間に文氏がどのような対応したかが問われている。遺族側の弁護士は、文氏が何ら救命指示を出さなかったならば、職務放棄罪で告発。事態を放置するよう指示したのであれば、職権乱用罪で文氏を告発すると強い姿勢である。(つづく) 

    次の記事もご参考に

    2022-06-06

    メルマガ366号 韓国、山積みになった「請求書」 長期低迷期に入る覚悟あるか

    2022-06-02

    メルマガ365号 習近平10年の「悪行」、欧米から突付けられた「縁切り状」

     

     

     

     

    テイカカズラ
       

    中国は、中ロ枢軸を形成して欧米へ対抗する姿勢を見せたことから、NATO(北大西洋条約機構)が「体制上の挑戦国」と位置づけ、世界包囲網形成へ着手した。中国にとっては、経済的にも取引範囲を狭められることから、失うものの余りにも大きいことに愕然としているはずだ。

     

    主要7カ国(G7)首脳が、中国に対しロシアへの影響力を活用しロシアによるウクライナ侵攻を阻止するよう要請したことに対して、挑戦的な姿勢を取った。中国外務省の趙立堅報道官は、29日の定例会見で「G7は世界の人口の10%を占めるに過ぎず、世界を代表する権利も、自分たちの価値や基準を世界に適用すべきと考える権利もない」と述べたのだ。こういう傲慢な姿勢が、中国をジリジリと追い込んで行くだろう。

     


    『日本経済新聞 電子版』(6月29日付)は、「NATO『中国は体制上の挑戦』、戦略概念で初言及」と題する記事を掲載した。

     

    北大西洋条約機構(NATO)は29日、今後10年の指針となる新たな「戦略概念」を採択するとともに、首脳宣言を発表した。NATOの戦略概念として初めて中国に言及。中国が「体制上の挑戦」を突きつけていると明記した。

     

    (1)「2010年に採択した戦略概念はロシアとの関係を「戦略的パートナーシップ」と呼ぶ一方、中国には触れていなかった。新しい戦略概念はロシアを「最も重要で直接の脅威」と定義。ウクライナに侵攻し、NATOと対立を深める現状を反映した。中国について、核兵器の開発に加え偽情報を拡散したり、重要インフラ取得やサプライチェーン(供給網)を支配したりしようとしていると分析。宇宙やサイバー、北極海など海洋で、軍事的経済的な影響力を強めていると主張した。中ロが、ルールに基づく秩序を破壊しようとしていることは「我々の価値と利益に反している」と強調した」

     

    中国が、NATOから警戒される存在になった背景に、ロシアのウクライナ侵攻へ精神的な支援を送っていることがある。侵略行為を是認する中国は、自らも侵攻するであろうと疑われたのだ。

     


    中国海軍が北極海にまで出没する事態に、欧州各国も神経を尖らせている。さらに、一帯一路による途上国への債務漬けによって、担保として港を取り上げるなど大胆な振る舞いを始めている。これは、「第二のロシア」として領土拡張に動く前哨戦と見られたのだ。NATOは、中ロ枢軸として一括して警戒対象に加えた。

     

    中国が、受ける経済的打撃は極めて大きい。米中関係が悪化しているだけに、欧州とは良好な関係維持を願ってきた。その最後の望みを絶たれたのだ。中国は、技術的にもEUに大きく依存してきた。EU関係の悪化は打撃である。日本とはすでに溝が深まっている。中国は今後ますます、ロシアとの関係を深めて袋小路に嵌り込むのだろう。

     

    中国は歴史上、一度も覇権を求めたことがないと主張している。現実には、南シナ海の他国所有の島嶼を占領して軍事基地をつくっており、言行不一致の面が多多あるのだ。最近は、空母3隻態勢にして、「侵攻作戦」への準備に余念がない。先進国で、中国の発言に信頼を置く国はあるだろうか。

     


    (2)「ストルテンベルグ事務総長は記者会見で、「中国の威圧的な政策は、我々の利益、安全、価値に挑んでいる」と戦略概念と同様の表現で訴えた。中ロの位置づけを大きく変えたことで、米欧の軍事同盟であるNATOは歴史的な転換点を迎えた。首脳会議には、日本などアジア太平洋の4カ国を招いた。戦略概念はインド太平洋地域の情勢が「欧州・大西洋に直接影響することを考えると、同地域は重要だ」として、対話と協力を深める方針を明記した」

     

    中国が、空母3隻態勢にしたことも警戒感を深めている、戦術的には、潜水艦とミサイルの好餌とされているが、軍事的弱小国には脅威であろう。中国は、余りにも無神経である。国内対策で軍事力を強化して「強い中国」を演出している。それが、対外的には危険な存在に映ってきたのだ。現実は「張り子の虎」だが、NATOは本物の虎と見たのだ。自業自得と言うべきだ。

     

    a0960_008567_m
       

    中国は、人口増加だけをテコにして経済大国へのし上がった国である。これは、科学技術の発展を置き去りにした「模倣経済」のもたらしたものである。習氏は、国民に向かって根拠もなく「中華の夢」を煽った手前、欧米製のワクチンを導入できず、ゼロコロナ政策しか選択できない苦境に立たされている。

     

    『ブルームバーグ』(6月29日付)は、「習主席、ゼロコロナ政策は中国にとって最も経済的かつ効果的」と題する記事を掲載した。

     

    中国の習近平国家主席は6月28日、新型コロナウイルスを徹底的に抑え込む「ゼロコロナ」政策は中国にとって最も経済的かつ効果的であり、中国はコロナを根絶する目標を達成することができると表明した。

     

    (1)「国営新華社通信によると、習主席は最初のコロナ禍に見舞われた湖北省武漢市を同日訪れた。今回の発言で、中国がロックダウン(都市封鎖)や大規模検査を軸とするコロナ対応を撤回する計画がないことが明確になった。28日に渡航を巡る制限が予想外に緩和され、中国は慎重ながらも出口戦略に着手しつつあるとの見方もあったが、習氏の発言はこうした期待に水を差すことになりそうだ」

     


    中国本土株の指標CSI300指数は29日、前日比1.5%安で終了した。28日は、渡航を巡る制限が予想外に緩和され、中国は慎重ながらも出口戦略に着手しつつあるとの見方が広がり、前日比1%高で引けたものの帳消しになった。29日の香港市場では、中国のテクノロジー企業から成るハンセンテック指数が3.3%安で引け、悲観ムードに覆われている。中国経済の先行きの不安観を高めた結果である。

     

    コロナウイルスは、次々と新種が登場して感染力を高めている。中国製ワクチンでは、とうてい予防が不可能であり、米欧製ワクチン「mRNA」でなければ対抗不可能とされている。新種のコロナウイルスでも「mRNA」であれば、簡単に対抗可能とされている。こういう高度のワクチは、中国では製造できない状況が続いている。だから、ゼロコロナで都市封鎖して逃げ回っているだけだ。

     


    (2)「新華社によれば、習主席は「中国の人口基盤は大きい。『集団免疫』や『寝そべり』政策を採用すれば、その結果は想像を絶する」と説明。「一時的に経済発展に多少の影響があったとしても、高齢者や子供など人民の生命の安全や身体の健康を損ねるようなことがあってはならない」と述べた。また、中国の発展は独立性と自主性、安全性を高める必要があるとも指摘。科学技術の「命綱」は自国の手でしっかりと握り続けなければならないと言明した」

     

    習氏は、矛楯したことを言っている。「集団免疫」と「寝そべり」は無関係であり、これを並列しているところに習氏の恐怖感が期せずして現れている感じだ。

     


    「集団免疫」は、「ウイズコロナ」によって感染者が増えても、治療態勢が完備していればおのずから達成できる道である。中国では、治療態勢が不備であり、一度感染者が急増すれば、医療崩壊を起す危険性を高めるのだ。そこで、次善の策として感染者そのものを増やさないゼロコロナ対策を取らざるを得ない事情にある。苦し紛れの逃げ道であって、自慢すべきことでなく恥ずべきことなのだ。

     

    寝そべり」は、習氏の強引な政策に対して若者が絶望感のあまり、就職しない・結婚しないという形を変えた政府への抵抗運動である。習氏は、こういう表面的な現象だけを見ており、それが奥深いところで中国共産党への絶望感であることが分らないのであろう。「集団免疫」が実現できる社会環境であれば、「寝そべり」は生まれないのだ。

     

    習氏は、科学技術の「命綱」を自国の手でしっかりと握り続けなければならないと主張している。これも苦し紛れの発言だ。自国だけで有効なワクチンを開発できなければ、人命に関わるだけに米欧からの導入を躊躇してはならない。習氏は、自国ワクチンを自慢し過ぎて、今さら米欧製ワクチンを導入できないというジレンマに立たされている。それを、言葉巧みにカムフラージュしているだけだ。

    a0001_001078_m
       


    先進7ヶ国首脳会議(G7サミット)は、6月28日に終了した。ロシアへの新たな経済制裁は見送られた。G7各国への経済的負担が大きくなることが理由である。一方では、ウクライナへの支援継続を決めた。和平問題は、ウクライナが決めることとし、G7側からの働きかけをしないことを明らかにした。欧州国内での「和平論」は封印された形だ。

     

    ロシアへの新たな経済制裁を見送り、ウクライナへの支援継続となれば、軍事面でウクライナをさらに支援するほかなくなった。ウクライナの要望する大型火器を供給して、ウクライナに有利な和平条件をつくり出す段階へ移っているようだ。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月29日付)は、「即効薬なきロシア制裁策、G7会合では手詰まり感も」と題する記事を掲載した。

     

    先進7カ国(G7)はドイツで3日間にわたり開催した首脳会議(サミット)で、ウクライナ侵攻を続けるロシアへの追加制裁措置の検討を続けることで合意したものの、侵攻から4カ月が経過し、経済的手段で制裁を加えることの限界も浮き彫りになった。

     

    (1)「これまでは武器供与によって戦況がすぐに変化しており、ウクライナはロシア軍を押し戻すために支援拡大を求めている。ただ、制裁措置は効果が表れるまでに時間がかかり、一部は西側諸国への打撃となって跳ね返っている。最新の制裁措置は複雑になりすぎ、迅速な発動が困難になっている。今回のサミットでは、G7首脳はある程度の結束を示した。ウクライナへの支援を継続することに表立った反対意見はなかった。だが、ウクライナや西側の一部専門家の間では、重火器の増強以外に、ロシアの侵攻を短期的に食い止める方法はないとの見方がある」

     

    戦線で直ぐに効果の出るのは、ウクライナへの大型武器供与である。米国は、重火器供与に舵を切っている。不幸なことだが、これ以外に、侵攻解決の手段はなくなった。

     


    (2)「G7を含む各国が実施した前例のない対ロシア制裁は世界の市場に変動を引き起こし、エネルギー価格の上昇を招いた。ここにきて、高インフレや成長鈍化、さらに欧州における今冬のエネルギー不足への懸念を背景に、西側諸国ではロシアへの制裁を強化する意欲がそがれている。G7各国の間には対ロシア制裁を巡り温度差があり、具体的な追加措置で合意することができなかった。合意したのは、ロシア産石油の価格上限設定や、ロシアからの金の輸入禁止などについて検討していくことにとどまった。ロシアをすぐに罰することができる選択肢はほぼ使い果たされ、検討対象となっているのは複雑で議論の余地のある選択肢しか残されていない」

     

    これまでの経済制裁は、西側諸国の物価高騰という形ではね返っている。経済制裁の限界を示したものだ。ただ、ロシア経済は今年下半期から制裁効果が出てくるという経済予測もあるので、西側は一呼吸おいて状況を見守ることも必要だ。ここは、戦線立直しが優先されるのだろう。ウクライナは、年内の終結を目指している。これに合わせた武器供与が課題に挙がるに違いない。

     


    (3)「G7は声明で、ロシアを制裁する「さまざまなアプローチを検討する」とし、ロシアの原油や石油製品の世界的な海上輸送を可能にするサービスの全面的な禁止などを検討する方針を示した。政府関係者や専門家は、G7が声明で言及した対策はどれも、実施までに長い時間がかかると指摘する。G7議長国ドイツのオラフ・ショルツ首相は、米国が提案したロシア産石油の価格上限設定について「非常に野心的な取り組みであり、もっと時間と作業が必要になる」と述べた。ショルツ氏はその一方で、ロシアへの対応では他に選択肢がないとの見方を示し、「ウクライナ侵攻前の時代に戻ることはできない。なぜなら、状況が変われば、われわれも変わらなければならないからだ」と語った」

     

    下線部分は重要ある。一定の時期に「休戦」を示唆した言葉だ。西側が、十分な武器を供与して、その結果を見て最終判断するという含みに取れるのである。

     


    (4)「英国のシンクタンク「チャタムハウス」のジョン・ロック氏は、G7首脳が具体的な追加制裁で合意できなかったことは、既存の制裁措置が西側の政策立案者が許容できる痛みを超えたことを示していると指摘。その上で「ロシア経済に圧力をかけるための最初の選択肢を使い果たし、追加制裁には代償が伴うことを西側の指導者らは今になって身に染みて感じている」と述べた」

     

    経済制裁の限界は、和平交渉への精神的な準備をさせるであろう。

     

    (5)「ショルツ氏はロシアに対抗するための連携拡大を目指し、インド、インドネシア、南アフリカ、セネガル、アルゼンチンなど新興国の首脳をG7サミットに招いた。ところが、こうした国々は対ロシア制裁に加わる意向をほとんど示さなかったと西側当局者は語る。インドのナレンドラ・モディ首相はショルツ氏に対し、ウクライナでの戦争は途上国の経済に打撃を与えており、インドはロシアへのいかなる対抗策にも参加できないと告げた。両氏は27日午後に会談した。インド政府はロシア産石油の購入を正当化している」

     

    G7にオブザーバーとして出席した新興国は、経済制裁に加わる意思のないことを明らかにした。それは、各国がロシアの反撃に耐えられない経済体質であることの結果だ。

     


    (6)「シンクタンクの欧州外交評議会(ECFR)のグスタフ・グレッセル氏は現在議論されている制裁について、軍事ではなく経済でロシアに対応しようとする西側の意向を反映していると指摘する。ただ、ロシアは軍事的に敗北しない限りは侵攻を継続する公算が大きいという

     

    下線のように、ロシアは軍事的な敗北のない限り侵攻を続けるという。ならば、西側諸国も腹を括って大型火器の供与に踏み切らざるを得まい。ロシアの「核脅迫」に怯えていれば、ウクライナ侵攻を長引かせるだけだ。これが、結論のようである。 

     

     

     

     

    a0001_000088_m
       

    ドイツ経済は、1990年の東西ドイツの統合後、経済成長失速に見舞われた。だが、EU(欧州連合)発足の1993年を機にして、ドイツにとって割安なユーロを武器に輸出急拡大を実現した。特に、ロシアや中国への接近が、ドイツ経済の起死回生につながった。

     

    その中ロが、西側諸国にとって安全保障上のライバルになった以上、ドイツのロシアや中国への政策は抜本見直しを迫られている。大きな衝撃である。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月28日付)は、「ドイツの牧歌的状況の終わり」と題するコラムを掲載した。

     

    先週末、ドイツは平常通りに見えた。柔和なオラフ・ショルツ首相は他の先進7カ国(G7)首脳やゲストたちを、バイエルン州のアルプス山脈に囲まれた豪華なエルマウ城に迎え入れた。しかし、外見は当てにならない。ドイツは第2次世界大戦後の連邦共和国の建国以来、最大の試練に直面している。

     


    (1)「これは突然起きたことだ。2020年の時点では、ほぼ全世界がドイツの独善的な自己評価に同意していた。つまり、ドイツは世界で最も成功した経済モデルを構築し、世界で最も野心的な気候変動対策に着手しておおむね成功し、極めて低コストで自国の安全保障と国際的な人気を確保する「価値に基づく外交政策」を完成させた、というものだ」

     

    これまで、ドイツの経済成長は順風満帆であった。対米外交では、独自性を主張して「我が道を行く」スタイルであった。中ロに太いパイプを築いてきたからだ。防衛費も対GDP比1%と最低に抑制してきた。この状況が、ロシアのウクライナ侵攻で、根本から引っ繰り返った。

     


    (2)「そのいずれも真実ではなかった。ドイツの経済モデルは世界政治に関する非現実的な想定に基づいており、現在の混乱を乗り切れる可能性は低い。ドイツのエネルギー政策は大混乱しており、他の国々にとって何をすべきでないかを示す格好の例となっている。ドイツの「価値に基づく外交政策」への評判は、ウクライナ支援をめぐる煮え切れない対応によって大きく傷ついた。そして、ドイツの安全保障専門家らは、非常に不愉快な真実を受け入れつつある。攻撃的なロシアと対峙(たいじ)すると、ドイツは欧州全体と同様に、安全保障面で米国に完全に依存するということだ」

     

    ドイツは、ウクライナ侵攻後に大慌てで米国から防空システムを購入した。防衛費も対GDP比2%へ引上げると発表し、「歴史的転換点」と国際情勢急変に驚愕した。日本と比べて、極めてナイーブであり過ぎたのだ。それまでのドイツは、日米一体化を日本外交の独自性喪失とみていたほど。ドイツは、目を覚ましたのだ。

     


    (3)「ショルツ氏と同氏の連立政権は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領によるウクライナ侵攻を受け、ドイツの基準で見れば一連の「革命的な変化」で対応してきた。ドイツは再軍備を始めているほか、出だしでつまずきながらもウクライナに兵器を供与している。野心的な気候変動政策を犠牲にしてまでも、ロシアからエネルギー面で独立するための第一歩を踏み出した。石炭火力発電所を徐々に復活させ、新たな天然ガス処理工場を建設する予定だ。欧州全体に対しては、もはや現実的に思えなくなった脱炭素の義務化の先送りを求めている」

     

    このパラグラフのように、ドイツは空想的世界でうたた寝を愉しんでいた。エネルギー政策は、ロシア(天然ガス)とフランス(原発)に依存し、自らは手を汚さずに気候変動政策に熱中してきた。これらの人任せのエネルギー安保政策が破綻したのだ。かねてから、米国が厳しく批判して来た点である。

     

    (4)「しかし、本当の仕事はまだなされていない。現代ドイツの国づくりは、何よりも経済プロジェクトだった。1949年に再建された瞬間から、中心的な目標は経済成長だった。経済成長は戦争による破壊を修復し、平和的な西欧への統合を促進し、共産主義の魅力を低下させた。国民の多大な努力、政治家の現実的な政策、企業経営陣の技能と決意、そして米国主導の世界秩序の形成がもたらした望ましい国際環境により、ドイツ経済は最高潮に達した」

     

    ドイツは、米国主導の世界秩序(NATO)の下で、経済的繁栄を謳歌してきた。この批判は、安倍政権登場までの日本へも向けられた批判である。世界の安全保障政策に責任を分かち合わないという共通の批判だ。

     


    (5)「近年のドイツの経済的な奇跡は、工業力、ロシアから調達する安いエネルギー、世界市場(とりわけ中国市場)へのアクセスという三つの要素に依拠してきた。現在、これらの全てが脅威にさらされている。1世紀にわたる産業界の取り組みを通じてドイツが身に付けてきた自動車の技術は、電気自動車(EV)へのシフトによる挑戦を受けている。19世紀以降、自国の技術で世界をけん引してきた化学業界は、世界的な競争が激化する中、環境面での試練に直面している」

     

    ドイツの経済的な奇跡は、次の三つの要素に依存してきた。

    1)高い工業力水準

    2)ロシアから調達する安いエネルギー

    3)中国市場へのアクセス

     

    ドイツは、前記の「成長三要素」のうち、ロシアを失い、中国はセーブされる。大きな痛手になることは避けられまい。

     

    (6)「ショルツ氏は、リベラルな価値観の重要性や気候変動の危険性に関して、理論上はジョー・バイデン米大統領に賛同するかもしれない。しかし、ドイツの実情を踏まえて計算するはずだ。当然ながら、それはロシアや中国との関係をいかに修復すべきか、という考え方につながる。バイデン氏の仕事は、ショルツ氏とともに西側の価値観を賛美することではなく、米国による安全保障の傘には代償が伴うことを独政府に理解させることだ。世界中で危機が拡大し深刻化している今、米国の政治的現実を考えれば、ドイツは米国を支えるためにさらに行動しなければ米国からの支援継続を期待することはできない」。

     

    ドイツは、いずれ自国の国益追求でロシアや中国の関係修復に動き出すかも知れない。だが、ドイツは安全保障で米国を助ける行動が求められる。そうでなければ、米国から安保上のメリットを受けられないことを知るべきである。日本は、すでに日米安全保障で同一歩調を取っている。ドイツも、同じことが求められるであろう。

    このページのトップヘ