勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    中国は、4月の経済指標が急速な悪化となり、ゾッとさせるほどであった。小売り売上高は前年同月比マイナス11.1%である。中国最大の経済都市が、コロナで完全封鎖の状態に置かれたから当然と言えば、当然であろう。

     

    このように事前に予測できた事態に対して、中国政府は何ら対策らしい対策を打てないでいる。利下げすれば、米国との金利差を縮小させて資金流出のリスクを高め、人民元安となる。そして、外貨準備高3兆ドル割込みという異常事態を世界に告げることになる。こういう一連の悪循環を考えると、「無策」にならざるを得ないのかも知れない。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月18日付)は、「中国の減速、今回は何が違うのか」と題する記事を掲載した。

     

    中国最大の都市がここ2カ月、ほとんど仮死状態になっている。経済が大きな打撃を受けたのも驚きではない。むしろ驚きなのは、状況を好転させるための明確で信頼できる計画が――これまでと代わり映えしないもの以外には――見あたらないことである。

     

    (1)「16日発表された中国の4月の主要経済指標は、なかなか厳しいものだった。小売売上高は前年同月比11.1%減と、2020年3月に並ぶ急激な落ち込みとなった。当時は、新型コロナウイルス感染拡大で中国が実質的に閉鎖状態になった初のロックダウン(封鎖措置)中だった。固定資産投資と鉱工業生産も、それほど劇的ではないにせよ伸びが鈍化し、後者は3月の5%増から2.9%の減少に転じた。しかし、投資家が本当に注目すべきなのは、こうした状況への政府の反応がいかに鈍いかである。政府の上層部は景気浮揚の必要性を盛んに議論しているが、実際のところ、これまでの政策対応は何とも期待外れだ」

     


    経済は生き物である。そのとき時に応じて動くのは当然としても、中国政府がそれを均す力を失っていることが最大の問題である。ロックダウンという、非科学的は根拠に基づく原始的な防疫対策が、中国を衰弱させているのだ。

     

    (2)「中国の目下の信用・金利環境は多くのことを示している。中国経済の信用残高(実体経済への総信用供与)に関する最も広範な指標は4月、前年同月比10.2%増と再び減速し、2021年終盤からのトレンドは基本的に横ばいとなっている。半面、成長は急減速し、中国の輸出という原動力への逆風は強まり、パンテオン・マクロエコノミクスによれば国内生産の3分の1に外出禁止令が影響し、不動産部門はなお崩壊の瀬戸際にある。国内のインターバンク市場の短期金利は4月半ば以降に低下した一方、長期金利は相変わらず高止まりしている。5年物国債の利回りは2021年終盤以降、2.6%近辺にとどまっている」

     

    金融面から見た中国経済は、「停滞」一色である。中国の社会的融資残高(貸出+シャドーバンキング+債券+株式)は、10.2%と過去最低の10%台に止まっている。中国の経済活動がロックダウン状態になっていることを示す。長期金利の5年物国債の利回が2.6%と低位である。米国債10年は2.96%(5月17日)であり、中国は米国を下回っている。中国の設備投資停滞を告げているのだ。

     


    (3)「一方、中国人民銀行(中央銀行)は4月の悲惨な統計を受け、指標となる1年物の中期貸出金利を引き下げるのではなく、住宅ローン金利の下限を小幅に引き下げた。これらのことから示唆されるのは、次の2点のどちらかだ。まず一つ目として、政府上層部は新型コロナのオミクロン変異株をいずれ制御できるとの自らの能力について、非常にバラ色で、おそらく非現実的な見解を持っている」

     

    異常に悪化している経済状況でも、本格的な利下げをしない理由は何か。一つは、ロックダウンに自信を持っていると思われることだ。

     

    (4)「あるいは単に、ロックダウンの公衆衛生上の必要性と米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げサイクルという厄介な現実を踏まえ、現時点で積極的な刺激策に打って出ることは有害無益との結論に達しているかだ。経済の多方面が部分的にロックダウンされた状態で金融エンジンをふかせば、実体経済の活性化に役立つどころか、単に資産バブルを崩壊させるか、より多くの資本の国外逃避を促すことになるかもしれない」

     

    利下げしないもう一つの理由は、米国の利上げサイクルに巻き込まれないように、じっと我慢している。経済活動が停滞しているので、金融緩和は実需に結びつかず、資本逃避を増やす最悪事態を招くと警戒しているのであろう。

     


    (5)「中国共産党の習近平総書記は今秋、党トップとして前例のない3期目を目指す可能性が高い。そのため、歴史的な弱さの経済を望んではいまい。だが、足元のワクチン普及率と医療能力では、100万人以上の中国人が死亡するかもしれないとの試算もある中、抑制が利かないままの新型コロナ流行はさらにまずい状況をもたらし得る。最終的に上海の感染流行が十分抑制されたとしても、今年後半の寒さがまた新たな問題を引き起こす可能性は高そうだ」

     

    ロックダウンは、「人流」遮断によって一時的に感染者を減らすが、根本的な防疫対策ではない。仮に、上海市が6月に入ってロックダウンを一部解除しても、再び寒い季節になればぶり返すリスクを抱えている。よく効くワクチンと治療薬を用意しないかぎり、このイタチごっこは続くであろう。

     

    (6)「景気下降局面の手ぬるい対応の背後にあるのが過剰な自信なのか、冷徹な現実主義なのかはともかく、起こり得る結末は同じである。それは、4~6月期の急減速に始まる、長期にわたる中国の低成長だ。中国政府が自ら創り出したゼロコロナの迷宮からの抜け道を見つけ、太平洋の向こうでFRBが巻き起こしつつある金融政策の嵐を乗り切るまで、それは続く。シティバンクやS&Pグローバルなどのアナリストがこのところ、慌ただしく2022年の中国成長見通しを4%強へと引き下げているのも、不思議ではない。だがそれすら、楽観的だったということになるかもしれない」

     

    このパラグラフは、皮肉に満ちている。内容はその通りである。権威主義中国が落込んだ最大の問題点が、眼前で展開されているのだ。習氏は、権威主義が民主主義に優る。中国は発展するが米国は衰退すると豪語した。この言葉が、いかに空虚であったか。それが、分る時期は近いであろう。

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    中国経済は、右を向いても左を向いても暗い話ばかりである。上海市の2ヶ月近いロックダウン(都市封鎖)が、中国GDPの2割を占める長江経済圏を麻痺させているからだ。こうして、4~6月期のGDPはマイナス成長に転落する予想が出始めている。

     

    中国は、こうした状況下で民間テクノロジー企業に対する規制を緩和する方向に動き出している。その象徴的な話が、ネット企業の海外上場許可への動きである。配車アプリ最大手の滴滴出行(ディディ)は、当局の指導を受けて米国上場の廃止手続きを進めるなど、ネット企業の海外上場は難しくなっていた。それが、一転して許可されるというのだ。

     


    こういう「逆転劇」の裏には、李首相の粘り強い習氏への説得があったと見られている。
    李氏は4月、視察先の江西省で電子商取引(eコマース)企業が集積する産業パークを訪れた。eコマース業界は、ハイテク企業への弾圧に加え、制約のない自由市場主義的な行動を「無秩序な資本の拡大」として罰した習氏によって深刻な打撃を受けている。李氏は業界幹部や従業員を前に、「プラットフォーム経済」の活性化と起業家精神の促進を確約した。イベントの様子をとらえた動画によると、李氏は喝采する聴衆に向かって「プラットフォーム経済を支援する」「起業家を支援する」と訴えている。プラットフォーム経済とは、アリババグループなどネット関連のビジネスを指す。以上は,米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月12日付)が報じた。

     

    『日本経済新聞 電子版』(5月17日付)は、「中国、ネット企業の海外上場容認へ転換 副首相『支持』」と題する記事を掲載した。

     

    習近平指導部は中国のネット企業の海外上場を容認する方向に転換する。配車アプリ最大手の滴滴出行(ディディ)が当局の指導を受けて米国上場の廃止手続きを進めるなどネット企業の海外上場は難しくなっていた。新型コロナウイルスの感染封じ込めを狙う「ゼロコロナ」政策で経済状況が悪化しているため、ネット大手の活性化でテコ入れをめざす。

     

    (1)「中国国営中央テレビ(CCTV)のニュースサイトなどによると、中国の国政助言機関である全国政治協商会議(政協)が17日、デジタル経済の健全な発展の推進をテーマとする会議を開き、劉鶴(リュウ・ハァ)副首相が「プラットフォーマーの経済、民営企業の健全な発展、デジタル企業の国内外の資本市場での上場を支持する」と述べた。中国共産党は4月下旬に開いた中央政治局会議で、プラットフォーマーと呼ばれるネット大手が手がける経済について、健全な発展を促進するとの方針を確認した。今回のネット企業の海外上場を容認する方針への転換は具体的な進展とみられる」

     

    習氏は、民間資本に対して強い不信感を抱いている。そのため、習氏がこういう決定を承認することは、中国経済が極めて厳しい局面にあることを覗わせている。昨年決めたネット企業への抑圧を、緩和するのは習氏の「敗北」を意味するからだ。

     

    (2)「習指導部のネット大手に対する統制は、2020年11月にアリババ集団傘下の金融会社アント・グループの上場延期で始まった。アリババに対しても独占禁止法違反にあたる行為があったとして過去最高額の罰金も科した。ネット統制の法整備も進めた。「ゼロコロナ」政策などで中国経済への逆風は強まっている。海外上場容認への転換に続いて、習指導部がどのようなネット企業の活力を引き出す政策を打ち出すのかに注目が集まる」

     

    李首相の影響力が、足元で高まっていることは確かだ。米クレアモント・マッケナ大学の裴敏欣政治学教授が中国国営メディアの報道を分析したところ、李氏が2021年に新聞の見出しを飾った回数は前年比で15回増えており、22年初頭のトレンドが続けば、通年では前年比でおよそ倍になる見通しだという。

     

    同教授によると、21年以前の李氏は「実質的に存在していなかった」。だが、今では「日増しに良くなっている」とし、「習は根底では左派的な思想を持っているが、経済については戦術的な譲歩が必要だ」と述べる。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月12日付)から引用した。 

     

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    中国外交を見ていると、清国時代と寸分違わぬことを行なっている。相手国へ武力を見せつけ威圧することだ。中国海軍は、3日間も黄海で駆逐艦と護衛艦3隻の編隊を組み、実弾演習を行なった。一方、沖縄沖の太平洋では空母「遼寧」によって10日連続で発着艦を200回以上も繰返す演習を行なった。黄海の演習は、韓国を威圧する目的。沖縄沖の発着艦は、日本への牽制である。中国の軍事的優越性を見せびらかす小児的振る舞いである。

     

    中国は清国時代にも、日本に対してこういう威圧的行為を行なったことがある。英国から購入した最新鋭艦4隻を、二度も長崎港へ回航して日本をけん制したのだ。日本はこれに奮起して、国内で軍艦を建艦し、やがて日清戦争の伏線になった。いざ、戦いになると清国海軍は大敗、戦場から逃走する戦艦まで現れた。この艦長は後刻、清国によって処刑されたという。

     


    孫氏の兵法では、「戦わずして勝つ」ために、こういう威圧行為を行なう。だが、少なくとも日本に対しては逆効果である。日米両政府は、5月23日に行なう首脳会談の共同声明で、中国の行動を共同で「抑止し対処する」方針を明記する予定である。中国は、「やぶ蛇」になったのだ。

     

    『中央日報』(5月17日付)は、「中国外相、韓国外交部長官に『遠い親戚より近くの隣人が良い』」と題する記事を掲載した。

     

    「遠い親戚より近くの隣人が良い」。中国の王毅外相は16日、韓国外交部の朴振(パク・チン)長官と初めてのオンラインでの顔合わせで「隣人論」を説いた。バイデン米大統領訪韓を4日後に控えてだ。「韓中は引っ越すことはできない隣人であり分かつことのできない協力パートナー」とも強調した。

     


    (1)「米国は「遠い親戚」、中国は「近くの隣人」という含意が込められた。朴長官はこれに対し「自由・平和・繁栄に寄与するグローバル中枢国」というビジョンを掲げて「それぞれの価値とビジョンを尊重し共同利益を模索しよう」と原論的に明らかにした。バイデン大統領が就任して16カ月が過ぎたが、米国と中国の首脳はまだ対面での会談をしていない。そんな中国がバイデン大統領の韓日歴訪を控え牽制球を投げた」

     

    最近は、「悪しき隣人」に侵攻された国もある。価値観が異なれば、平気で他国へ侵攻する。これが、現実世界である。となれば、同じ価値観で結ばれた同盟の方がはるかに信頼できる。米韓同盟や日米同盟もその一つだ。価値観が180度異なり、同盟関係にもない隣国をどうやって信頼するのか。安全を保障する証拠もなく、「信頼せよ」と言い募る方が無理強いと言うべきである。

     


    (2)「王外相は会談で韓中間の「4つの強化」を希望した。▽疎通協力▽互恵協力▽人文交流▽国際協力――を強化しようと話した。特に互恵協力をめぐり「デジタル経済、人工知能、新エネルギー分野で『1+1は2より大きい』という肯定的効果を実現しよう」とし、「デカップリングとサプライチェーン断絶の否定的傾向に反対する」とした。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領とホワイトハウスが取り上げたインド太平洋経済枠組み(IPEF)に対する懸念を伝えたものと分析される」

     

    このパラグラフは、中国のウイークポイントを韓国の助力で強化したいという切なる願いが込められている。それならばなぜ、中国は北朝鮮の核やミサイルの開発を止めなかったのか。北朝鮮には遣りたい放題やらせておいて、韓国からも利益を得ようという。この戦術は、無神経過ぎて公平なものではない。文政権であれば、「グラッ」とするかも知れないが、現政権では無理だろう。韓国はIPEFへ参加の意思を表明している。

     


    (3)「外交指令塔の楊潔チ政治局委員は、16日付人民日報に長文の記事を寄せ、米国を公開批判した。「取り巻きを組織し『小集団』を結成して陣営対決を助長し、中国周辺の安全保障上の安定を破壊し、中国の核心的な重大利益を侵害しようとする試みは絶対に実現されることはない」とした。「中国を阻止して制圧しようとする米国のいかなる試みと言動にも断固として対応する」と宣言した」

     

    中国は、力尽くで世界秩序へ挑戦する意思と計画を表明していることが、世界混乱の元凶である。権威主義が民主主義に取って代わろうとしている限り、中国との戦いは止む筈がない。グローバルな世界経済成長の中で、急成長を遂げられたのが中国である。そのメリットを存分に受けたにも関わらず、中国はこの自由主義制度へ挑戦しようと企んでいる。「獅子身中の虫」と言える存在である。中国は、その矛楯に気付かぬ振りをしているのだ。

     

    (4)「中国は黄海で力も誇示した。1万2000トン級055型駆逐艦「拉薩」と056型護衛艦「東営」「平頂山」「黄石」の編隊が黄海海域で3日間実戦訓練を繰り広げた。中国中央テレビは15日、主力艦砲と補助砲、攻撃を防ぐ撹乱弾の実射場面まで公開した。「拉薩」は中国版「ズムウォルト」で、世界で2番目に強力な軍艦だと香港紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストが16日に報道した。追加訓練も予告した。大連海事局は17日午前8時から22日17時まで黄海北部海域で軍事任務執行を理由に船舶運航を禁止した。バイデン大統領の訪韓期間の20~22日と重なる」

     

    韓国を脅すには、身近な黄海での実弾演習を3日もやれば効き目があるだろう。中国は、こういう計算を立てて動いているのだ。愚かな脅しである。 

     

     

     

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    尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領は、就任1週間で日韓関係改善策に着手している。こういう書き方をすると、怪訝に思われるだろう。すでに、必要な3つの策のうち、2つは実行に移されているのだ。氷のように冷え切った日韓関係であるから、華々しい「宣言」でも出さなければ回復軌道に乗らないと見られるかも知れない。

     

    そういう派手なものでなくても、これまで日韓に見られた普通のことが再開されて行く中で、自然と話合いムードが出てくるのであろう。結論は簡単であるが、最後にその「回答」を示したい。

     

    『ニューズウィーク 日本語版』(5月16日付)は、「日韓関係改善のため、韓国・尹錫悦大統領がすべき3つのこと」と題する記事を掲載した。筆者は、チョ・ウニル韓国国防研究院准研究員である。

     

    韓国で510日、尹錫悦大統領が就任した。その1週間前、政権移行への準備を行ってきた政権引き継ぎ委員会は110の国政課題を発表。うち18件は対北朝鮮関係、外交、国防の3分野で「グローバル中枢国家」を目指すことに焦点を当てている。

     

    (1)「韓国では、新政権発足のたびに「継続」と「変化」を訴える課題を掲げるのが常だ。グローバル中枢国家になるという目標の下、尹政権は対日関係の改善や日米韓3カ国の連携活性化を唱え、前政権と一線を画している。良好な日韓関係・日米韓関係の実現に向けて、尹は既に前向きな意思表示をしている。外相に任命された朴振(パク・ジン)は就任前の4月下旬、尹が派遣した代表団の一員として日本を訪問。それに先立ち、2015年の日韓慰安婦合意は「公式な合意だ」との見解を示した。さらに、朴は尹の大統領就任式に出席した日本の林芳正外相と会談。「現在の国際情勢においては日韓両国、およびアメリカを交えた3カ国の戦略的連携がこれまで以上に必要だとの認識」で一致した」

     

    日韓の外相会談では、下線のような共通認識を持っている。日米韓三ヶ国の戦略的連携の強化である。この、現状認識から日韓関係は再スタートを切るとしている。

     


    (2)「日本との関係改善を強調する尹(大統領)の姿勢は、米政権が重視するインド太平洋地域の連携強化にプラスの作用をもたらすと考えられる。ジョー・バイデン米大統領は5月20~24日、自身の政権発足以来、初めて日韓を訪問する予定だ。米中の競争や米ロ対立が加速する状況で、極めて重要な意味を持つ訪問と受け止められている。地域安全保障の観点から日米韓連携を唱えるバイデン政権は、日韓それぞれと2国間の閣僚級会合も開いている」

     

    日米韓三ヶ国の関係強化は、バイデン米国大統領の訪韓、訪日によって土台がつくられるであろう。

     

    (3)「今年2月に発表した「インド太平洋戦略」では、行動計画実現の取り組みの柱の1つに「日米韓の連携拡大」を据えた。3国間協力体制の大幅な推進は、アメリカにとってインド太平洋全体の同盟ネットワークを強化する手段だ。尹政権にとって、日本との冷え切った関係を改善し、両国間の信頼を回復するのは難しい課題になるかもしれない。日韓関係の重要性はどちらの国民も認識しているが、外交・経済・防衛分野ではこの数年間、行き詰まり状態が続いている」

     

    文政権の5年間は、日韓関係を根底から破壊した。韓国は、歴史問題という双方に言分のある問題に首を突っ込みすぎて二進も三進もいかなくなった。過去に解決済の問題を持出せば、泥沼に陥って当然なのだ。

     

    (4)「韓国のシンクタンク、東アジア研究院(EAI)と日本の言論NPOが20年に実施した共同世論調査では、日本に良くない印象を持っていると回答した韓国人の割合が71.6%に達した。それに対し、韓国に良くない印象を持つ日本人の割合は46.3%だった。こうした状況が背景にあるなか、尹政権の行く手には厳しい道が待ち構えていそうだ。それでも、日韓・日米韓の連携強化に向けた新たな取り組みとしては、少なくとも3つの手法が想定できる」

     

    韓国の反日は71.6%。日本の嫌韓は46.3%である。韓国は、文大統領が「反日宣言」したほどだから、国民へ浸透したのであろう。こういう状態で、どのようにすれば、ギスギスした関係が改まるのか。3つの方法を上げている。

     


    (5)「第1に、日韓関係の改善には民間に根差したボトムアップの路線が不可欠だ。根強い歴史問題はトップダウンでは解決できない。1998年の日韓共同宣言の精神に立ち戻り、両国の社会が互いを信頼できるパートナーと認識できるよう各種の交流を再開することが極めて重要だ。国内政治を理由に、こうした交流が立ち消えになってはならない」

     

    これは、ユン大統領が就任翌日に提案した、韓国金浦空港と羽田空港の直行便復活である。事前にコロナの陰性を確認した者には、相手国に到着後の自由行動を認める、というものであった。日本の外務省は16日、新型コロナの新たな水際措置として、韓国からの入国者に求めていた原則3日間の指定施設での待機を17日午前0時以降はなしにすると発表した。新型コロナワクチンの3回目接種を終えている場合は自宅などでの待機も免除される。この問題は、簡単にクリアした。

     

    (6)「第2に、外交戦略上の共通の立場を探ることが重要になる。日本政府が掲げる外交政策「自由で開かれたインド太平洋」と「グローバル中枢国家」戦略が交わる点はあるか、尹政権は検証するべきだ。インド太平洋地域の安定促進のため、両国は協力課題を見定めなければならない」

     

    尹大統領は、5月16日の国会における施政方針演説で、「インド太平洋経済枠組」(IPEF)への参加を発表した。これには、米国、日本など10ヶ国が参加する見通しである。韓国もこれに加われば、日本と常に会合で一緒になることで意思疎通が可能になる。「同じ釜の飯を食う」関係になれば、雰囲気も変わる。こうして、第1と第2の問題は解決だ。

     


    (7)「第3に、尹政権は日米韓連携のさまざまな枠組みを考案する必要がある。いい手本が、北朝鮮の核開発問題を受けて99年に設置された日米韓調整会合(TCOG)だ。高度に制度化されてはいなかったが、TCOGは日米韓の協調慣行を醸成する戦略的プラットフォームとして機能していた。差し迫った軍事的脅威を解消し、北朝鮮の非核化に向けた道筋を整える上で、日米韓の連携を優先課題にするべきなのは確かだ。とはいえ、新興技術やサプライチェーンのレジリエンス(回復力)、気候変動危機といった新たな課題への持続的対応を可能にする協力プラットフォームの形成も、同じくらい重要になる。韓国の新政権には、戦略的な視点が求められている」

     

    日米韓調整会合(TCOG)は、北朝鮮問題を巡って話合う場であった。文政権では、朝鮮半島問題の運転手は韓国であると主張し、日本の参加を拒んでいた。こういう狭量なことでなく、日本も北朝鮮とは拉致問題などの利害関係国である点を認めて,オープンな話合いを行なう場を復活させれば、日韓で自ずと知恵が出てくるであろう。

     

     

     

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    韓国新政権発足後、最初の韓国と中国の外相オンライン会談が行なわれた。先の尹(ユン)大統領就任式に出席した中国の王岐山国家副主席は、韓国新政権へ「THAAD」(超高高度ミサイル網)の追加配備へけん制した。王毅外相も同様に韓国へけん制した。王外相は、米国が主導する「インド太平洋経済枠組(IPEF)」へ韓国が参加しないようにという狙いだ。

     

    中国は、他国の政策まで干渉する姿勢を見せている。これに対して、韓国の朴外相は「中国が責任ある国家に相応しい行動を期待する」と一矢報いた形である。文政権時のように、中国の言分をただ「拝聴する」姿勢ではなくなっている。

     


    『聯合ニュース』(5月17日付)は、「中国、韓国の米主導枠組み参加をけん制ー外相会談で」と題する記事を掲載した。

     

    韓国の朴振(パク・ジン)外交部長官と中国の王毅国務委員兼外相は16日、オンライン形式で会談を行った。韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権発足後、両国外相が会談するのは初めて。

    (1)「会談では北朝鮮の弾道ミサイル発射などで緊張が高まっている朝鮮半島情勢を巡り、両氏の微妙な認識の違いが浮き彫りとなった。朴氏は北朝鮮の核とミサイル能力の高度化は朝鮮半島情勢を悪化させるだけでなく、韓中両国の利益にも合致しないとして、韓中が協力し朝鮮半島情勢の安定的な管理を図っていくことを期待すると表明した。また、北朝鮮がさらなる挑発行為を行わないよう中国が建設的な役割を果たすことを促した。だが、王氏は「各国の努力の下で朝鮮半島は全体的に平和を維持している」との認識を示した」

     

    韓国は、これまで中国へ北朝鮮説得を期待してきたが、空振りであった。中国には、もともとそういう気持ちはなかったのだ。「各国の努力の下で朝鮮半島は全体的に平和を維持している」と平然と答えているのだ。文在寅・前大統領は随分と無駄なことをしていたかを示している。

     


    (2)「両氏は、北朝鮮で新型コロナウイルスの感染が拡大していることに懸念を示した。また、北朝鮮への人道支援の必要性などについて意見交換し、協議を続けることで一致した。対外政策に関しては、朴氏は「韓国はグローバル中枢国家として発展するため努力する」と域内の共同価値と利益に基づく外交を展開する考えを示し、「中国も責任のある国家として積極的な役割を果たすことを期待する」と呼びかけた。王氏は「両国は各自の発展方法と中心利益、文化と伝統、慣習を尊重しなければならない」として、「新冷戦の危険を防止し、陣営の対立に反対することは両国の根本的な利益に関わる」と述べ、米国主導の対中けん制の枠組みに加わらないよう促した」

     

    韓国の朴外相は、はっきりと中国へ「引導」を渡す形の発言をした。「韓国は、域内の共同価値と利益に基づく外交を展開する」とした。つまり、自由と民主主義の価値観に基づく外交を行なう、と鮮明にしたのだ。

     

    中国の王外相は、これに対して米国主導の対中けん制の枠組みに加わらないように促している。これは、外交発言としては随分と内政干渉的な色を帯びている。「陣営の対立に反対する」とあたかも中国が中立の立場であるかのごとき発言である。明らかに「中ロ枢軸」に立って、陣営の対立に加担しているのだ。

     


    (3)「両氏は今年で国交樹立30年を迎えることにも言及。朴氏は「両国が各自の価値とビジョンを尊重しながら共同利益を模索し、両国の協力と域内および世界の平和・繁栄を調和させていきたい」と呼びかけた上で両国首脳の相互訪問など高官交流の必要性を強調した。王氏は「中国と韓国は引っ越すことができない永久的な隣人で、離れられないパートナー」とし、「中国は中韓関係を戦略的かつ包括的な観点から見る」と述べ、両国関係の重要性を強調した」

     

    朴外相の下線部の発言は、その通りであろう。中国は、韓国の価値とビジョンを尊重して、その上で共同の利益を模索すべしとしている。中国は、韓国を属国扱いしていることへの痛烈な批判と読むべきだ。

     

    (4)「王氏は両国がデカップリング(切り離し)の否定的な傾向に反対し、世界の供給網(サプライチェーン)を安定的に維持する必要があると指摘した。今月下旬、バイデン米大統領の韓国と日本訪問に合わせて発足する見通しの「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」への韓国参加をけん制する発言とみられる。尹大統領は16日の施政方針演説で、バイデン大統領とIPEFを通じた供給網協力強化について議論すると明らかにした」

     

    中国は、米中のデカップリングに反対している。それは、中国にとって不利になるからだ。自由貿易の名の下に、米国市場で利益を上げて、やがて米国覇権を倒すことが国是であることが分かっている。そういう中国に対して、米国が防衛措置を取ってデカップリングに出るのは当然である。現在の世界秩序に挑戦する「中ロ枢軸」が、デカップリング問題の出発点である。

     


    (5)「IPEFは、世界最大の自由貿易協定「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」を主導した中国が経済的影響力を強めることをけん制するための米国主導の枠組み。中国を排除した供給網を構築するとされる。王氏は「中国の膨大な市場は韓国の長期的な発展に絶え間なく動力を提供する」として、両国が協力すればシナジー効果を発揮できると強調した。一方、中国側の発表では朴氏が「韓国は『一つの中国』との原則を堅持している」と述べたと伝えたが、韓国側発表でその内容は含まれていない」

     

    尹大統領は、インド太平洋経済枠組み(IPEF)に参加すると国会で発言した。このIPEFとは、人権や民主主義などの価値観を共有する国・地域が、貿易やサプライチェーン(供給網)などで連携を強化するものだ。中国への経済依存を減らして経済安全保障を確立する。先に、韓国外相は「韓国が域内の共同価値と利益に基づく外交を展開する」と中国外相に発言した具体的内容は、IPEFへの参加を示唆している。

     

    IPEFは、米国のほか日本、豪州、東南アジア諸国連合(ASEAN)の一部、韓国などの参加が想定される。ただ、米国は関税引き下げといった市場開放策を考えていない。米国では、雇用への影響を懸念する労働組合が自由貿易協定に反発し、環太平洋連携協定(TPP)にすら復帰できない状態である。

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