中国は、4月の経済指標が急速な悪化となり、ゾッとさせるほどであった。小売り売上高は前年同月比マイナス11.1%である。中国最大の経済都市が、コロナで完全封鎖の状態に置かれたから当然と言えば、当然であろう。
このように事前に予測できた事態に対して、中国政府は何ら対策らしい対策を打てないでいる。利下げすれば、米国との金利差を縮小させて資金流出のリスクを高め、人民元安となる。そして、外貨準備高3兆ドル割込みという異常事態を世界に告げることになる。こういう一連の悪循環を考えると、「無策」にならざるを得ないのかも知れない。
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月18日付)は、「中国の減速、今回は何が違うのか」と題する記事を掲載した。
中国最大の都市がここ2カ月、ほとんど仮死状態になっている。経済が大きな打撃を受けたのも驚きではない。むしろ驚きなのは、状況を好転させるための明確で信頼できる計画が――これまでと代わり映えしないもの以外には――見あたらないことである。
(1)「16日発表された中国の4月の主要経済指標は、なかなか厳しいものだった。小売売上高は前年同月比11.1%減と、2020年3月に並ぶ急激な落ち込みとなった。当時は、新型コロナウイルス感染拡大で中国が実質的に閉鎖状態になった初のロックダウン(封鎖措置)中だった。固定資産投資と鉱工業生産も、それほど劇的ではないにせよ伸びが鈍化し、後者は3月の5%増から2.9%の減少に転じた。しかし、投資家が本当に注目すべきなのは、こうした状況への政府の反応がいかに鈍いかである。政府の上層部は景気浮揚の必要性を盛んに議論しているが、実際のところ、これまでの政策対応は何とも期待外れだ」
経済は生き物である。そのとき時に応じて動くのは当然としても、中国政府がそれを均す力を失っていることが最大の問題である。ロックダウンという、非科学的は根拠に基づく原始的な防疫対策が、中国を衰弱させているのだ。
(2)「中国の目下の信用・金利環境は多くのことを示している。中国経済の信用残高(実体経済への総信用供与)に関する最も広範な指標は4月、前年同月比10.2%増と再び減速し、2021年終盤からのトレンドは基本的に横ばいとなっている。半面、成長は急減速し、中国の輸出という原動力への逆風は強まり、パンテオン・マクロエコノミクスによれば国内生産の3分の1に外出禁止令が影響し、不動産部門はなお崩壊の瀬戸際にある。国内のインターバンク市場の短期金利は4月半ば以降に低下した一方、長期金利は相変わらず高止まりしている。5年物国債の利回りは2021年終盤以降、2.6%近辺にとどまっている」
金融面から見た中国経済は、「停滞」一色である。中国の社会的融資残高(貸出+シャドーバンキング+債券+株式)は、10.2%と過去最低の10%台に止まっている。中国の経済活動がロックダウン状態になっていることを示す。長期金利の5年物国債の利回が2.6%と低位である。米国債10年は2.96%(5月17日)であり、中国は米国を下回っている。中国の設備投資停滞を告げているのだ。
(3)「一方、中国人民銀行(中央銀行)は4月の悲惨な統計を受け、指標となる1年物の中期貸出金利を引き下げるのではなく、住宅ローン金利の下限を小幅に引き下げた。これらのことから示唆されるのは、次の2点のどちらかだ。まず一つ目として、政府上層部は新型コロナのオミクロン変異株をいずれ制御できるとの自らの能力について、非常にバラ色で、おそらく非現実的な見解を持っている」
異常に悪化している経済状況でも、本格的な利下げをしない理由は何か。一つは、ロックダウンに自信を持っていると思われることだ。
(4)「あるいは単に、ロックダウンの公衆衛生上の必要性と米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げサイクルという厄介な現実を踏まえ、現時点で積極的な刺激策に打って出ることは有害無益との結論に達しているかだ。経済の多方面が部分的にロックダウンされた状態で金融エンジンをふかせば、実体経済の活性化に役立つどころか、単に資産バブルを崩壊させるか、より多くの資本の国外逃避を促すことになるかもしれない」
利下げしないもう一つの理由は、米国の利上げサイクルに巻き込まれないように、じっと我慢している。経済活動が停滞しているので、金融緩和は実需に結びつかず、資本逃避を増やす最悪事態を招くと警戒しているのであろう。
(5)「中国共産党の習近平総書記は今秋、党トップとして前例のない3期目を目指す可能性が高い。そのため、歴史的な弱さの経済を望んではいまい。だが、足元のワクチン普及率と医療能力では、100万人以上の中国人が死亡するかもしれないとの試算もある中、抑制が利かないままの新型コロナ流行はさらにまずい状況をもたらし得る。最終的に上海の感染流行が十分抑制されたとしても、今年後半の寒さがまた新たな問題を引き起こす可能性は高そうだ」
ロックダウンは、「人流」遮断によって一時的に感染者を減らすが、根本的な防疫対策ではない。仮に、上海市が6月に入ってロックダウンを一部解除しても、再び寒い季節になればぶり返すリスクを抱えている。よく効くワクチンと治療薬を用意しないかぎり、このイタチごっこは続くであろう。
(6)「景気下降局面の手ぬるい対応の背後にあるのが過剰な自信なのか、冷徹な現実主義なのかはともかく、起こり得る結末は同じである。それは、4~6月期の急減速に始まる、長期にわたる中国の低成長だ。中国政府が自ら創り出したゼロコロナの迷宮からの抜け道を見つけ、太平洋の向こうでFRBが巻き起こしつつある金融政策の嵐を乗り切るまで、それは続く。シティバンクやS&Pグローバルなどのアナリストがこのところ、慌ただしく2022年の中国成長見通しを4%強へと引き下げているのも、不思議ではない。だがそれすら、楽観的だったということになるかもしれない」
このパラグラフは、皮肉に満ちている。内容はその通りである。権威主義中国が落込んだ最大の問題点が、眼前で展開されているのだ。習氏は、権威主義が民主主義に優る。中国は発展するが米国は衰退すると豪語した。この言葉が、いかに空虚であったか。それが、分る時期は近いであろう。