勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    中国は、ゼロコロナ政策という莫大な無駄の積み重ねによって、これだけで財政を圧迫していることがわかった。国民の半分が、週1回のペースでPCR検査を受けると、そのコストはGDPの0.4%にもなるという。時間と費用の莫大な無駄を行なっているのだ。習氏が、国家主席3選を実現する手段である「ゼロコロナ政策」は、国家財政に穴を開けると同時に、経済活動にも計り知れない被害を及ぼしている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月6日付)は、「中国『ゼロコロナ』政策に募る不満、負担増で財政悪化」と題する記事を掲載した。

     

    中国での新型コロナウイルスの感染急増を受け、大規模なPCR検査の実施など「ゼロコロナ政策」による政府の費用負担が膨らんでいる。財政の悪化で公務員のボーナスが削られた地方もあり、習近平指導部が維持する同政策への不満も募っている。

     


    (1)「中国の14月の医療・健康向けの政府支出(国・地方合わせた全国ベース)は、7303億元(約14兆3500億円)だった。前年同期比7.%増、2019年同期比で22%増えた。21年通年では中国全体では1兆9205億元で国内総生産(GDP)の1.%相当の規模だった。北京市政府は4月、衛生・健康支出の増加について「PCR検査やコロナワクチン、防疫物資の備蓄などが主な原因だ」と発表した。陽性患者の治療費や臨時病院の建設費などもかさんだ」

     

    TVで流れてくる中国のPCR検査場の様子は、日常的な光景になっている。漠然と、あの費用はどれだけかかっているのかと頭をかすめることはあっても深くは考えなかった。PCR検査やコロナワクチン、防疫物資の備蓄などで、21年はGDPの1.7%もかかったという。これも、GDPを押し上げる要因だが、経済活動圧迫で結果はマイナスである。

     


    (2)「中国では感染力の強い変異型「オミクロン型」の感染拡大が続き、住民に求めるPCR検査については政府が主に費用を負担している。証券会社の華創証券は、20年から現在までのPCR検査の総費用は、中国全体で約3000億元。そのうち政府が、87%を支払ったと推計する。国家衛生健康委員会によると、4月までに延べ約115億回のPCR検査を実施した。野村国際(香港)の推計によると、4月11日時点では約3億7300万人が都市封鎖の対象となり、検査回数が急増した。4月以降も北京市や杭州市など各都市が定期的なPCR検査を事実上義務化した。
    人口の50%が週に1回のPCR検査を行った場合、コストはGDPの0.%に相当する」(野村国際)という」

     

    下線部のように、人口の50%がPCR検査を週1回受けるコストは、GDPの0.4%にも達する。厖大な無駄を行なっている計算だ。

     


    (3)「ワクチンや入院費負担も膨らむ。国家医療保障局は4月、コロナワクチンを延べ32億回接種し、費用が1200億元を超えたと発表した。当然、政府の財政負担は増している。国営新華社によると、江蘇省蘇州市は年間6億2000万元ある22年のコロナ対策予算のうち、2月13~17日だけで1億2000万元を使ったという。長城証券の蔣飛アナリストは「財政力の弱い地方政府にとってコロナ対策の医療費はプレッシャーだ」と指摘する」

     

    コロナ対策の経費は、財政力基盤の弱い地方政府にとっては負担になっている。何ら、効果を生まないPCR検査に莫大な費用がかかっているからだ。日本のように、ウイズコロナでコロナ感染に疑いのある者だけをPCR検査する。これが、防疫対策の王道である。「全数PCR検査」は、WHO(世界保健機関)でも邪道とされている。

     

    (4)「ゼロコロナによる経済への打撃で、政府収入は細っている。財政省によると、一般公共予算の収入(全国)は22年1~4月に前年同期比で4.%減少した。企業の資金繰りを支えるための税還付が主な原因だ。地方政府が依存する土地使用権の売却収入も14月、同30%減った。地方では経済成長のためにインフラ投資を求められており、借金はもともと増加傾向にあった。習近平指導部はあくまでゼロコロナ政策を維持する方針で、経済対策との両立は厳しさを増す。野村国際のティン・ルー氏らによる調査チームは526日、政府収入から支出を引いたギャップは6兆元にのぼるとの試算を公表した。「政府が国債の発行などを増やしても、ギャップは埋められない」とみている」

     

    下線のように、今年の財政収支ギャップ(財政収入不足)は、6兆元(約118兆円)と見込まれる。とても国債発行では、埋めきれない額という。中国財政は危機を迎えている。

     

    (5)「一部地域では5月以降、財政難からPCR検査が住民の自己負担になった。中国のSNS(交流サイト)では複数の住民が「政府に金はないが、庶民にも金はない」「感染者がいないのになぜPCR検査をするのか」と不満を書き込んだ。中国共産党系メディアの環球時報の元編集長、胡錫進氏は5月、SNSで「常に都市封鎖を続けることはできない」として、ゼロコロナ政策の経済損失に警鐘を鳴らした。中国の感染症研究の第一人者である鍾南山氏も4月、同政策は「長期的に続けられない」と主張する論文を発表した。中国政府は同政策に批判的なネットの書き込みや論文を徹底的に削除している。だがゼロコロナの継続で国民の不満が募れば、習指導部の威信に傷がつきかねない」

     

    中国は、ゼロコロナの経済的負担が大きすぎて、もはや耐える限界を超えている。これからは季節的に感染者も減るが、10月以降は再び感染シーズンを迎える。ウイズコロナでなければ、乗りきれない筈だが。

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    北欧二ヶ国のフィンランドとスウェーデンが、NATOへ加盟申請した。ロシアは事前に、報復を仄めかしていたが、いまのところ無反応だ。米英は、ロシアが報復すれば防衛するとまで発言している。これでは、たとえロシでも静観せざるを得まい。このまま、騒ぎにならぬように祈るばかりである。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(6月5日付)は、「フィンランド情報機関長官『ロシア報復なし』に驚き」と題する記事を掲載した。

     

    北大西洋条約機構(NATO)加盟を目指しているフィンランドの情報機関トップが、同国のNATO加盟申請が現時点でロシアの報復措置につながっていないことに驚きを示している。フィンランドのNATO加盟には今のところ、テロ対処を巡りトルコが反対している。

     


    (1)「フィンランド安全保障情報庁のアンティ・ペルタリ長官はフィナンシャル・タイムズ(FT)紙に対し、同国政府は東の隣国ロシアが干渉してくる可能性をなおも「警戒」しているが、ロシアはウクライナでの戦争で手いっぱいだと述べた。「かなり静かな状況で、このままであることを望むばかりだ」とペルタリ氏は異例のインタビューで語った。「何も起きていないのは良いことだ。しかしそれは同時に、我々が備えを固め、社会を守れるようにしてきたという証しでもある」と指摘」

     

    ロシアが、北欧2ヶ国へ軍事的に無反応なのは、ウクライナ侵攻で勢力を削がれている結果であろう。北欧2ヶ国も多分、これを見越してNATOへの加盟申請をしたと見られる。

     

    (2)「フィンランドはNATO加盟の是非をめぐる議論の間、そして正式に加盟するまでの数カ月間、ロシアのサイバー攻撃やハイブリッド攻撃を受ける恐れがあると身構えていた。フィンランドの当局者らは、NATOに加盟するという決定をロシアのプーチン大統領は容認したのではないかと期待を抱いているが、フィンランドに外国の部隊や核兵器を配備するかどうかといった決定に関して、ロシア側は影響を及ぼそうと考えているかもしれないと受け止めている。ペルタリ氏は「NATOへの加盟後、フィンランドがどのようなメンバーになるのかに彼らは関心を持っている」と語った」

     

    ロシアが静観しているは、NATO加入後にフィンランドへ、NATO軍が駐屯するか否かを見ているとみられる。フィンランドでは、ロシアの懸念を払拭すべくNATO軍の駐屯を否定している。

     


    (3)「フィンランドは、外国の部隊や核兵器配備に何らの関心を示していないが、同時に加盟申請したスウェーデンとは異なり、その可能性を排除してはいない。かつてフィンランドは、ソ連に対して慎重にコミュニケーションをとる戦略で知られたが、今はロシアについてもっと率直に語るようになっているとペルタリ氏は付け加えた。フィンランドのニーニスト大統領は5月、自身のロシアに対するメッセージは「これを引き起こしたのは、あなたたちだ。鏡を見てほしい」と、印象に残る発言をした。ペルタリ氏はこう続けた。「大きく変わることはない。備えを固め、国の安全を期す。それがフィンランド流だ。我々の決意は固いが、騒ぎ立てたりはしない」と」

     

    従来のフィンランドは、ロシアに対して慎重な物言いであった。最近は、NATO加盟で気持ちも大きくなり、大胆な発言になっている。これが、普通の外交関係である。フィンランドは、これまでどれだけ萎縮していたが分るようだ。ロシアの圧力が、いかに大きかったかを物語っている。

     


    (4)「フィンランドとスウェーデンのNATO加盟に残る障害はトルコの反対だ。加盟申請前にニーニスト氏がトルコのエルドアン大統領と協議した際、エルドアン氏は「前向きに」検討するだろうと明言した。だが同氏はその後、フィンランドはテロリストの「ゲストハウス」で、トルコが敵視するクルド系武装組織、クルド労働者党(PKK)の活動に目をつぶっていると主張するようになった。フィンランドは現在、外相がトルコ製ドローン(小型無人機)の購入や武器売却の条件改善の可能性を示すなど、トルコ側の歓心を買おうと攻勢に出ている」

     

    トルコが、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟に反対している。両国が、トルコの敵視するクルド系武装組織を保護しているとの理由だ。トルコの反対は、外交的な駆引きとも見られる。いずれ、米国が中に入って解決するであろう。 

     

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    韓国の家計負債は、つねに経済問題の焦点になってきた。今回は、急ピッチな利上げも絡んで不良債権化のリスクが高まっている。消費者物価の高騰もあり、韓銀(中央銀行)は一挙に「0.5%」の利上げすら示唆している。そうなると、家計への負担は重くなり、元利支払いに問題が起こることは避けられない情勢だ。

     

    引用記事では数字が多いので、私のコメントだけでも読んでいただきたい。これによって、韓国経済の脆弱性が理解できるであろう。

     

    『ハンギョレ新聞』(6月6日付)は、「韓国の低所得層の家計負債 不良債権化の危険性高まる」と題する記事を掲載した。

     

    1754兆ウォンにまで膨れ上がった韓国の家計負債は、高所得層の保有率が63.%、中所得層が25.%、低所得層が10.%の割合であることがわかった。コロナ禍の間に資産投資が増えたことで、中・低所得層よりも高所得層の負債の方が増加したと把握される。返済能力の相対的に高い高所得層の割合が高まったが、なぜ家計負債は危険なのか。

     

    (1)「専門家は、「テールリスク(予測は難しいが、一度起きれば大きな影響を及ぼす危険)」を警告している。かなり多くの家計負債が不動産市場の不安と関係しているため、高所得層の負債も決して安全だとはみなせず、加えて、割合は小さくても低所得層の負債の不良化が非常に危険な状況にあると懸念しているのだ」

     

    下線のように、かなり多くの家計負債が不動産購入がらみである。今後の不動産価格下落や利上げが重なると、不良債権化のリスクが高まる。低所得層の負債も利上げによる負担が重くなる。

     


    (2)「5日に本紙が入手した「韓国銀行家計負債データベース(DB)」によれば、昨年末現在で1754兆2000億ウォン(約183兆円)にのぼる家計融資残高に占める割合は、高所得層(所得上位30%)が63.%で最も大きく、続いて中所得層(所得区間30~70%、割合25.%)、低所得層(所得下位30%、割合10.%)の順だった。2019年末に比べて家計融資残高は約250兆ウォン(約26兆1000億円)もの急増(16%)を示しており、高所得層で約175兆ウォン、中所得層で約53兆ウォン、低所得層で約22兆ウォン増加していた」

     

    昨年末の家計負債残高の所得別構成比は、次の通りである。

    高所得層 63.%

    中所得層 25.%

    低所得層 10.%

    低所得層の割合が1割強だが、不良債権化のリスクは低くない。

     


    (3)「すべての階層で家計負債が増えているが、高所得層の負債の増加規模が最も大きい。彼らが占める割合は、2年間で1.1ポイント拡大した。一方、中所得層の割合は0.7ポイント、低所得層の割合は0.3ポイント縮小した。家計融資を種類別に見ると、住宅担保融資と信用貸付でも高所得層の占める割合がそれぞれ63.%、71.%で最も高かった」

     

    高所得層が占める割合は、住宅担保融資(長期融資)の63.3%、信用貸付(短期融資)の71.5%である。

     

    (4)「家計負債の割合を年齢層ごとに見ると、2019年末は40代(29.%)、50代(27.%)、30代以下(24.%)、60代以上(17.%)の順だった。2021年末には、30代以下の割合(27.%)が50代(25.%)を追い越し、40代(29%)に次いで2位を記録した」

     

    昨年末で、30代以下が27.1%を占め、40代に次いで2番目の債務者層になっていることに注目されたい。これは、住宅購入のために無理して借入れたものだろう。

     

    (5)「コロナ禍中の家計負債の急増は、低所得層では「生活資金」、高所得層では「資産投資」などと、主な目的が異なるとみられる。特に、約10%を占めている低所得層の債務の不良化は非常に危険な状況だ。低所得層に占める脆弱借主(3つ以上の金融機関からの多重債務、低信用、低所得)の割合は6%と推定されるが、小商工人と20~30代が債務不良化の「雷管」と指摘されている。韓銀は今年3月の「金融安定状況報告書」で「政府の金融支援と緩和的金融条件の影響により、まだ脆弱階層の延滞率は低いが、今後は青年層および自営業者を中心として信用リスクが増大しうる」との懸念を示している」

     

    低所得層では「生活資金」目的の借入れが主目的である。小商工人と20~30代が、「生活資金」で借入れているので、債務不良化の「雷管」と指摘されている。

     


    (6)「一部の高所得層の債務は、不動産に関係しているので危険だと指摘する声もあがっている。KB不動産によると、昨年末現在で所得上位20%(第5五分位)のソウルの「対所得比住宅価格比率(PIR)」は8.4倍。これは、高所得層もその平均所得を8年間分貯めなければソウルの平均的な価格のアパートが買えないことを意味する。韓国金融研究院のチャン・ミン先任研究委員は、本紙に対し「家計負債に占める高所得層の割合が高いため健全性が高くみえるが、かなりの数の負債が高い不動産価格と関係しているとみられ、金利上昇および住宅価格の調整時に彼らの返済能力にも問題が生じる恐れがある」と語った」

     

    下線のように、高所得層の借入れだから返済に問題ないわけでない。借入れ目的が、不動産購入である。ソウルのマンション価格が最近、値下がりを見せ始めた。投機目的で購入したとすれば、転売に支障を来たすであろう。不動産価格の下落は、不良債権化と密接な関係を持っている。

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    10月からリセッションへ

    韓銀新総裁の指摘する弱点

    政策継続性はゼロのお国柄

    データで抑える中韓の寿命

     

    韓国は、5月に入って経済の先行きについて、にわかに警戒感を強めている。ウクライナ情勢の不確実性などで物価が上がり続ける一方、中国の封鎖政策による景気鈍化の可能性が強まっているからだ。こうした傾向が続くならば、物価上昇と景気鈍化がともに現れるスタグフレーション(インフレ下の景気後退)が到来する恐れがあると警戒されている。

     

    韓国では、4月に中央銀行である韓国銀行の総裁が交代した。5月には、新大統領の就任と経済の司令塔が変わった。ここで新しい司令官が、韓国経済の現状と未来をどのように分析しているか、注目される。

     


    韓銀総裁は、昌鏞(イ・チャンヨン)氏である。ソウル大学教授を経て1MF(国際通貨基金)のアジア太平洋局長を務めた経験をもつ。IMF時代は、韓国経済の分析をする立場だっただけに、韓国経済の構造的な弱点を見抜いている。アジア太平洋局長は、IMFでは上から3番目のポストである。

     

    韓国大統領は、尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏である。検察一筋の人生であったから、経済問題は門外漢である。だが毎日、大統領室へ出勤の際に記者団と会見して、質問を受けており発言している。6月3日には、「経済危機をはじめとする台風圏内にわれわれの庭が入っている」と述べた。「今、家では窓が揺れ、庭では木の枝が揺れていることが感じられないか」とも述べ、経済危機が近づいていることを強調した。

     

    前大統領の文在寅(ムン・ジェイン)氏は、超楽観論を喋って記者団を煙に巻いてきた。景気悪化を認めれば、自分の責任を認めることになるので、「万年強気」を通して経済政策の正当性を主張した。この唯我独尊によって、政策を間違え韓国経済は弱体化している。

     


    10月からリセッションへ

    韓国景気は、本格的な下降局面に入った兆しが出てきた。今年4月にはいって、主要統計が一斉にマイナスに転じているからだ。例えば前年同月比で、生産がマイナス0.7%、消費もマイナス0.2%、さらに投資もマイナス7.5%と、全てがマイナスを記録している。26カ月ぶりの「トリプルマイナス」になった。

     

    このままマイナス基調が続けば、10月に「リセッション」(景気後退)という判断が出てくることになろう。新政権は、初っ端から景気後退に見舞われる。文政権では、景気後退を認めない「カラクリ」を強引に行なったが、こういう「擬装工作」をすべきではない。

     

    「擬装工作」に数えられる一つが、無謀な最低賃金の引上げである。

     

    文政権が、急速に引き上げた最低賃金を支払えない小規模商工業者や中小企業は、急増していたことが判明した。過去5年間の未払い賃金が7兆ウォン(約7300億円)に達していたのだ。同期間の日本の未払い賃金に比べると14倍も多い額という。

     


    文政権は最低賃金を16.4%、10.9%と2年連続で大幅に引き上げるなど、5年間で合計42%も引き上げた。こうして、賃金をきちんと払えない小規模商工業者や中小企業が続出した。低所得労働者を救うとして推し進められた政策が、未払い賃金問題を引き起こすという皮肉な結果になった。『朝鮮日報』(6月4日付)が報じた。

     

    韓銀新総裁の指摘する弱点

    韓銀新総裁は、IMF勤務の経験を生かして、傾聴すべき就任演説を行なった。この中に、韓国経済の抱える矛楯点が、はっきりと浮かび上がっている。要約すると、次のように指摘したのだ。

     

    1)民間主導の質的な成長を目指す。

    2)少数の産業と国に集中した輸出も、多角化する構造改革を急ぐべきだ。

    3)政府が事業政策を取りまとめ、皆が徹夜で働いても経済成長は期待できない。

    4)韓国経済のリスク要因は、「二極化」と「負債」である。

     


    以下に、私のコメントをつけたい。

     

    1)民間主導の質的な成長とは、具体的に何を指しているのか。公営企業の民営化であろう。日本が、1980年代に済ませた国有企業の民営化は、韓国では議論にも上がっていないのだ。先の韓国統一地方選では、空港の民営化を類推させるような発言だけを理由に、野党「共に民主党」が大騒ぎして反対したほど。

     

    韓国は、官尊民卑の社会である。若者は、公務員志望が第一である。次は、大企業であり、後はないのだ。つまり、中小企業は眼中にないという偏った価値観に固執している。朝鮮李朝の官僚であったヤンバン(両班)に憧れる気風が、100年以上経っても消えない社会だ。日本流に言えば、「官員様」が出世頭である。こういう古い仕来りに生きる韓国社会が、その価値観を変えることは至難の業であろう。民間主導の質的成長は困難である。

     

    反日も同じだ。日韓併合が終わって、すでに77年も経つ。それでも、「謝罪と賠償」がセットになって繰返される。時計の針は,止まったままである。(つづく)

     

     

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    中国は、欧州から軍事的に警戒される存在へと評価を落としている。一方、台湾は民主主義の砦として評価を高めるなど、対照的な動きだ。

     

    『ロイター』(6月5日付)は、「スロバキア議員団が台湾到着 蔡総統と会談へ」と題する記事を掲載した。

     

    台湾の外交部(外務省)は6月5日、欧州連合(EU)加盟国のスロバキア議員団が同日、台湾に到着したと発表した。スロバキア国会のミラン・ローレンチク副議長らで構成され、蔡英文(ツァイ・インウェン)総統との会談などを予定する。台湾に対する中国の圧力が強まるなか、台湾支持を表明するため各国議員の訪台が相次いでいる。

     


    (1)「外交部は2日、到着に先立ち「訪問を心から歓迎する」との声明を発表した。訪問は10日までの日程で、当局関係者や研究機関と経済や科学技術の分野で交流を深める。スロバキアは45月にかけ、議会の複数の委員会が台湾の世界保健機関(WHO)総会参加を呼びかける決議を実施するなど、台湾支持の姿勢を示している。2021年10月に台湾の呉釗燮・外交部長(外相)がスロバキアを訪問し、同年12月にはスロバキア高官が訪台するなど往来も活発だ」

     

    中国は、これまで「一つの中国」を根拠にして、中国と国交のある国の台湾訪問を強くけん制してきた。だが、今やこの「けん制」は何の効果もなく、欧州から次々と使節団が訪問している。中国がロシアと「限りない友情」を誓いあったことに反発するごとく、訪台する国が増えている。

     


    (2)「台湾には5月30日~6月1日の日程で米民主党のタミー・ダックワース上院議員も訪問したばかり。相次ぐ各国議員の訪台に中国の反発は避けられない」

     

    中国は、台湾海峡へ中国空軍機を飛行させる「嫌がらせ」ぐらいしかできない状況である。

     

    『日本経済新聞』(4月12日付)は、「台湾・蔡総統、スウェーデン議員団らと会談」と題する記事を掲載した。

     

    台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は4月12日、訪台したスウェーデン議会と欧州議会の合同議員団とオンラインで会談した。中国が台湾への圧力を強めるなか、議員団は台湾支持を表明するため10~14日にかけ訪台中だ。会談で両者はロシアのウクライナ侵攻も念頭に、民主主義推進に向けた協力で一致した。

     


    (3)「総統府によると、蔡氏は会談で「台湾とスウェーデンは民主主義・自由という普遍的な価値観を共有するパートナーだ」と指摘した。その上で「世界は権威主義の持続的な拡大に直面している」と強調。台湾や欧州が「民主主義を守るために協力することがいっそう重要になった」として連携を呼びかけた。これに対し、議員団の代表は「中国は台湾に脅威を与え続けている」と指摘。「私たちは台湾の自由と民主主義を守るため、全力を尽くす義務がある」と述べた。スウェーデンではロシアのウクライナ侵攻を受け、北大西洋条約機構(NATO)加盟の機運が高まっている」。

     

    下線部のように、スウェーデン議員団は中国を批判して「中国は台湾に脅威を与え続けている」と指摘するまでになっている。中国による、高度に工業発展を見せている台湾への圧力は不当なものと映るのだ。中国にとっては、マイナスイメージである。

     

    欧州が、台湾を高く評価しているのは、出遅れている半導体技術で世界最先端を走っていることへの敬意を込めているものだ。

     


    『ロイター』(6月5日付)は、「台湾、半導体分野で貢献アピール EUと閣僚級協議」と題する記事を掲載した。

     

    台湾と欧州連合(EU)は6月2日、産業通商関係閣僚級協議を行った。王美花経済部長(経産相)は欧州委員会の通商総局総局長のザビーネ・ベヤント氏に、台湾が世界の半導体産業にとって信頼できるパートナーであり続けると述べた。EUは今年2月に「欧州半導体法」を公表し、半導体分野における協力相手として台湾を挙げた。

     

    (4)「台湾経済部の声明によると、協議では半導体分野の協力が主要議題となり、王氏は「台湾は今後も世界の半導体産業にとって信頼できるパートナーであり続け、強固なサプライチェーン(供給網)の安定を支援する」と強調した。EUなどが半導体不足に対処するのを台湾は支援してきたとした。また、これまで台湾とEUの会合は次官級だったが、今回は閣僚級に格上げされたと指摘。「これは国際経済・貿易協力に向けたEUの青写真で台湾の重要性が増したことを示し、台湾とEU関係の大きな飛躍を意味する」と述べた」

    下線のように、台湾とEUの関係は半導体を軸に発展方向にあると認め合っている。今後は、双方が閣僚級レベルの会談に格上げすることになった。台湾は、長年にわたり中国の影に隠れていたが、半導体という武器をもってEUと交渉する場を持てるようになった。

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