勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    ウクライナ東部は、平原が多く戦車戦が想定されている。ウクライナ軍は、戦車戦に備えた兵器が不足していることから、米欧諸国がこの補強に着手している。早ければ5月末からの東部反攻作戦が開始されると報じられてきた。その準備が、確実に始まっている。

     

    その手始めに東部ハリコフ州で6日、ロシア軍が侵攻した5つの集落を奪還したと発表した。米シンクタンクの戦争研究所によると、ウクライナはハリコフ北東部で攻勢に転じており、今後数日で「ロシア軍をハリコフの射程外に追いやる可能性がある」と指摘した。

     


    『日本経済新聞』(5月8日付)は、「米欧、長期戦へ重装備供与 火砲・装甲車でウクライナ防衛増強」と題する記事を掲載した。

     

    米国と欧州はロシアによるウクライナ侵攻が長期に及ぶことを想定した軍事支援に乗り出した。訓練に時間が必要な火砲や装甲車なども供与し、防衛態勢を増強する。東部制圧のため戦力を集めるロシア軍との地上戦拡大に重武装で備える。

     

    米政権は6日、ウクライナへの1億5000万ドル(およそ200億円)相当の追加の軍事支援を決めた。バイデン米大統領は同日の声明で「ウクライナが次の局面で成功するには米国を含む国際社会の仲間が団結し、絶え間なく武器供給する決意を示し続ける必要がある」と強調した。ロシア軍は3月下旬、ウクライナの首都キーウ(キエフ)周辺から東部へと部隊の再配置を決めた。米国はそれ以降に大型の軍事支援を立て続けに決めている。

     


    (1)「ウクライナ軍は、キーウ付近で携行型の対戦車ミサイル「ジャベリン」や地対空ミサイル「スティンガー」などを効果的に活用して、ロシア軍に抵抗した。これらは米欧が侵攻前から譲渡してきた武器だ。次にロシアが照準を合わせる東部戦線はキーウなどとは環境が違う。オースティン米国防長官は「異なるタイプの地形であり、長距離砲が必要だ」と訴える。起伏が少ない開けた地形で火砲や戦車の重要性が増すとみる。ロシア軍の電波を妨害する装置もわたす」

     

    オースティン米国防長官が、ウクライナでゼレンスキー大統領と会談して以来、米国は重火器の供与に転じている。現地で詳細な軍事情報に接した結果であろう。ウクライナ東部は、北部と違って起伏が少ない開けた地形で火砲や戦車の重要性が増す。対ロシアの戦い方が大きく変わってくる。ウクライナ得意の奇襲攻撃は効かなくなるのだ。

     

    (2)「米欧の軍事支援の内容が実際に変わってきた。米政府が4月13、21日に承認した計16億ドル(2000億円)相当の武器供与には、射程が30キロメートルほどある155ミリりゅう弾砲計90門を初めて盛った。これから主戦場となる東部の平地で機動的に対応できるように装甲車も新たに送る。りゅう弾砲を移動するための輸送車72台と砲弾20万発超も届ける。ウクライナ側の弾薬の在庫は減ってきており、激しい地上戦に備えて態勢を充実させる。ロシア軍による砲撃位置を特定するレーダーも加える。りゅう弾砲と装甲車は訓練が必要になる。ウクライナ軍は同国外で訓練を受けている。200台を予定する装甲車の納入までには数週間かかる可能性がある」

     

    このパラグラフに登場する武器は、近代戦に不可欠なものであることが分る。ロシア軍による砲撃位置を特定するレーダーも加えるというから、ウクライナ軍は正確な反撃が可能になる。ロシア軍は、精密弾でなく着弾地点の定まらない非精密弾とされる。今後の戦闘には、差が出てくるであろう。

     


    (3)「元米海兵隊員で、米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)で上級顧問を務めるマーク・カンシアン氏は「りゅう弾砲も装甲車も専門的な訓練がなければ運用できない」と指摘する。
    米国が長期戦を想定していることを示している」と分析する。ウクライナのゼレンスキー大統領は攻撃力の高い兵器の供与を繰り返し呼びかけてきた」

     

    下線のように、米国は長期戦の構えである。東部でロシア軍に支配されている地域の奪還が目標と見られる。

     

    (4)「本格的な重火器支援に慎重だったドイツが4月26日、低空の飛行機を狙う「ゲパルト対空戦車」の供与に踏み切ると発表した。英国は3月下旬に戦闘車両にも搭載できる対空ミサイル「スターストリーク」を送ると決めた。英軍は英国内でウクライナ軍に装甲車や欧米諸国が支援した兵器の使用法などを訓練している。チェコは4月上旬に旧ソ連製戦車など数十両の戦闘用車両の譲渡を決定した。スロバキアは旧ソ連製の地対空ミサイルシステム「S300」を提供したと明らかにした。米国は旧ソ連時代に開発されたヘリ「Mi17」のほか、無人の沿岸防衛艇も支援する。ウクライナの要望を踏まえて米空軍が開発した攻撃型のドローン(小型無人機)「フェニックスゴースト」121機も提供する。すでに渡している自爆攻撃機能を持つドローン「スイッチブレード」に加え、攻撃能力の向上を支える」

     

    このパラグラフは、軍事情報に精通していない向きにとって難しい内容である。要するに、近代兵器によってウクライナ軍がロシア軍へ立ち向かえるということだ。旧ソ連領であった国々が、それぞれ武器を提供している点に、かつて受けた「ソ連恐怖」を見ることができる。

     


    (5)「ロシアがウクライナに侵攻した2月24日以降、米国が6日までに決めたウクライナへの軍事支援は計38億ドルにのぼる。2020年のウクライナ国防費59億ドル(ストックホルム国際平和研究所調べ)の6割超に達する。EUは4月中旬に5億ユーロ(約700億円)の追加軍事支援を発表し、その時点で支援額は累積で15億ユーロとなった。ボレル外交安全保障上級代表は「ウクライナの領土と市民を守り、さらなる苦しみを防ぐためには、軍事支援強化が重要」と語る」

     

    ウクライナの国防費(2020年)の6割超が、すでに米国から支援されている。第二次世界大戦で、米国はナチスドイツを倒すべく連合軍へ巨額の武器弾薬を供与した。こういう歴史を見るとかつてのナチスが現在は、ロシアに代わっただけという印象である。ロシアは、ウクライナをナチスと呼んでいるが、実態はあべこべになっている。

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    ロシアは、ウクライナ侵攻よって西側から強烈な経済制裁を科されている。ロシアは抜け穴探しをして対抗しているが、これには限界を伴う。世界経済のメインストリームである、ドル決済から隔離されることで、まさに「鉄のカーテン」で仕切られてしまったことを意味するのだ。流血を伴わないものの一種の「大量破壊兵器」である。ロシア経済が、長く持ち堪えられないのは言うまでもあるまい。

     

    『日本経済新聞 電子版』(5月4日付)は、「経済制裁という大量破壊兵器」と題する寄稿を掲載した。筆者は、米シカゴ大学教授ラグラム・ラジャン氏である。インド準備銀行(中銀)総裁。国際通貨基金(IMF)チーフエコノミストを経て現職へ。

     

    戦争はどんなやり方でも恐ろしいものだ。各国はウクライナに戦闘用の兵器供与だけでなく、ロシアに経済兵器を動員した。ロシアは軍事力に比べて経済力は小さいものの、兵器の種類や対象地域を拡大して攻撃を仕掛けてくる可能性がある。それは世界が受け入れなければならないリスクだった。

     


    (1)「ロシアの中央銀行への厳しい制約でルーブルは、暴落し国境を越えた決済や融資の新たな制限は即座に影響を及ぼし、ロシアの銀行に対する信頼は低下した。貿易制裁や多国籍企業の撤退は、即効性はなくても、いずれ経済成長率は低下し、失業率は大幅に上昇するだろう。やがてロシアの生活水準は低下し、健康状態は悪化し、死者が増えると予想される」

     

    ルーブルは、経済制裁発動で急落したが、ロシア当局の高金利と送金禁止という強硬策で表面的には回復した。だが、その永続性には多くの疑問が付されている。今年のGDPは、マイナス10%前後、来年も数%のマイナス成長が予測されている。軍事侵攻が招いた経済制裁の結果である。

     


    (2)「経済兵器は、侵略や野蛮な行為に対して有効でありながら、文明的な対応を可能にする。だが、これらの兵器がもたらすリスクを軽視すべきではない。ビルを倒したり、橋を壊したりはしないが、企業や金融機関、生活、そして生命さえも破壊する。罪のある者だけでなく無実の人にも打撃となる。現代世界の繁栄を可能にしたグローバル化のプロセスを逆行させることになりかねない。

     

    経済制裁は、グローバル化経済とは真逆のことである。侵略戦争を止めさせるには必要不可欠な手段である。古来、侵略戦争の勝敗が決まってから賠償などという後始末が行なわれた。だが、現実に起こっている戦争を止めるにはどうするか。経済制裁を科して、侵略側の戦費調達に圧力をかけるしか道はない。だが、その圧力は、一般国民を苦しめるマイナス効果がある。

     


    (3)「この点について、いくつか関連する懸念がある。まず、経済兵器は一見流血を伴わず、統治する規範がないため、乱用される可能性がある。これは単なる臆測ではない。米国は、キューバに対する厳しい制裁を続けている。また中国は最近、オーストラリアの輸出に制裁を科したが、同国が新型コロナウイルスの起源に独立した調査を求めたことへの報復だったのは明らかだ。同じくらい心配なのは、企業に特定の国での事業活動の停止を求める世論の高まりだ。こうした要求は、政策立案者が意図した以上の制裁拡大になる可能性がある」

     

    制裁は、一国レベルで行なうと恣意的なケースになりかねない。それゆえ、今回のように戦闘に参加しない代わりに、複数国が経済制裁で侵略国へ対抗する方法もある。この方が、経済制裁の目的がはっきりして明瞭である。

     


    (4)「無差別な制裁への不安が広がれば、各国が自衛の行動をとるかもしれない。ドルやユーロの外貨準備ほど流動性の高い資産が他にほとんどないため、各国は国境を越えた企業の借り入れなど、外貨準備を保有する必要がある活動を制限し始めるだろう。また、国際決済網である国際銀行間通信協会(SWIFT)に代わる代替手段を模索する国が増え、世界の決済システムが細分化する可能性がある。民間企業は、政治・社会的価値観を共有しない国同士の投資や貿易の仲介により慎重になっていくかもしれない」

     

    経済制裁は、詰まるところ同じ価値観の国が集団で行えば、正統性が明らかになる。一国で行なうのは、「恣意的」なもので共感を得られないのだ。現実世界になぞらえると、民主主義国と権威主義国の紛争解決手段になる有力ツールである。権威主義国が、経済制裁を恐れるならば、貿易は「金」で取引するほかない。「金本位制」の世界は1816年からおよそ200年間続いた制度である。ロシア・中国・イラン・北朝鮮が、この古典的取引の世界に戻るとすれば、完全に世界の潮流と離れた経済世界を形成するであろう。

     

    (5)「先進国は、自国の力を制約することに消極的だろう。だが、世界経済が分裂すれば、すべての人に痛手だ。「経済的軍備管理」に関する協議は、壊れた世界秩序を修復する一歩になるかもしれない。平和的共存は、どのような形態の戦争よりも常に優れている」

     

    いかなる言分があろうとも、国際的な紛争を戦争で解決することは「悪」である。国連設立の意義はここにあるのだ。それを破った国には、経済制裁で対抗することを宣言すればいい。ロシアや中国のように、依然として軍事力で相手国を圧倒することを「国是」とする国に対しては、経済制裁がやむを得ない罰である。難しい理屈は要らない。侵略戦争の当事国は、経済的罰を受けることを覚悟すべきなのだ。

     

    あじさいのたまご
       

    中国製ワクチンは、「不活化ワクチン」という伝統的な製法による。効果は低いという評価が世界的に広がっている。このため、4月の輸出高はピークであった昨年9月に比べ97%と激減した。中国が、ゼロコロナ政策で封じ込める原始的手法を取らざるを得ない理由である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(5月7日付)は、「中国ワクチン輸出97%減、オミクロン型に効果低く」と題する記事を掲載した。

     

    中国製の新型コロナウイルスワクチンの輸出が急減している。国連児童基金(ユニセフ)によると、ピークだった2021年9月に比べて4月はわずか3%に落ち込んだ。感染力の強い変異型「オミクロン型」の感染予防効果で米ファイザーなど欧米製より劣るからだ。ワクチン提供と引き換えに途上国で展開している「ワクチン外交」の逆風となる。

     


    (1)「中国医薬集団(シノファーム)、科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)、康希諾生物(カンシノ・バイオロジクス)の輸出量を集計した。瓶詰めなど一部工程を海外でてがける量を含む。4月は計678万回分で昨年9月(2億2508万回分)から97%減った。英調査会社エアフィニティのデータでも同じ傾向が裏づけられる。一方、ファイザーと独ビオンテックが共同開発したワクチンは4月の輸出量が5569万回。昨年9月比の減少幅は71%で、輸出量は中国勢の8倍超。米モデルナも4月は同57%減の1649万回で、初めて中国3社を上回った」

     

    中国製ワクチンは、一言で言えば品質管理が上手くできず「粗製濫造」である。生産工程で、ワクチンの有効性が異なるという致命的な問題を引き起した。ワクチンを接種する側では、そういう工程上のミスが起こっているとは想定もしていなかったのである。

     


    中国は、米独の「mRNAワクチン技術」を導入したが結局、これまで製品化できずに放置している。製造技術全般が極めて低い状況だ。

     

    (2)「エアフィニティによると、中国製ワクチンは12回目の接種では使われても3回目の追加接種(ブースター接種)では利用が激減している。パキスタンは1回目と比べて3回目が98%減、インドネシアは93%減、バングラデシュは92%減、ブラジルは74%減だった。北京の調査会社ブリッジ・コンサルティングによると、ブラジルとインドネシアは21年に終了した中国製ワクチンの購入契約を更新しなかった」

     

    中国のワクチン外交は華々しかったが、3回目接種では継続発注を受けられなかった。ワクチンの品質に問題があったからだ。

     


    (3)「新型コロナワクチンは中国、欧米勢ともに20年末ごろに実用化したが、輸出では中国勢が先行した。東南アジア、中東、南米などにいち早く供給し、20年12月~21年3月は中国3社がファイザーを上回った。欧米製はまず先進国が大量確保し、新興国や発展途上国は中国製しか選べなかった事情もある。いったんはファイザーに抜かれたが、21年9月に再逆転した。習近平(シー・ジンピン)国家主席も「世界の防疫に貢献している」と自賛したが、勢いは続かなかった」

     

    中国は、「マスク外交」でミソを付けた。粗悪品が混じっており、欧州では大量の返品を行なったほど。「ワクチン外交」でも、効かないワクチンであり、後続の注文を受けることはなかった。どうしてこういう「事故」が起こっているのか。真摯さが欠如している結果であろう。

     

    (4)「背景にあるのが、昨秋からのオミクロン型の感染拡大だ。中国の衛生当局も「中国製ワクチンのオミクロン型への有効性は下がる」と認める。香港大などが3月に公表した論文では、香港でワクチンを2回接種後に感染した約4300人の調査で、シノバックを接種した人の重症者はファイザー製の3倍以上だった。中国勢は「不活化ワクチン」という昔ながらの技術が中心。遺伝情報物質を投与する「メッセンジャーRNA(mRNA)」という新技術を使うファイザーやモデルナに比べて「有効性は低い」(米マサチューセッツ大医学部の盧山教授)との指摘はかねてあった」

     

    中国は、最初からワクチンの効能を証明する文書の公表を渋ってきた。WHO(世界保健機関)を抱き込み、効果があるような発表をさせていた。後になって、3回目接種では、中国製ワクチンを避けるように発表する事態に追い込まれた。

     


    (5)「中国製ワクチンの急減は、「ワクチン外交」にも影を落とす。中国は途上国にワクチン供与をちらつかせ、台湾問題などで自らの主張に賛同するよう迫ってきた。南米ガイアナは対外事務所開設で台湾といったん合意したが、中国のワクチン寄付表明を受けた後の21年2月、合意を破棄した。アジアで新型コロナの新規感染者が減るなか、中国では上海などで感染が止まらない。「中国本土では有効性の低い国産ワクチンしか許可されていないことが一因」(大連市の30代の男性会社員)との不満も出ている」

     

    中国は、「ワクチン外交」と名前がつくほど、ワクチンを政治的に利用してきた。「ゼロコロナ政策」は、防疫対策を政治的に利用している証拠である。習氏の国家主席3期目を確実にするべく、ゼロコロナ政策を続ける計画を鮮明にしているのだ。

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    ロシアのウクライナ侵攻は、日本の安全保障問題に新たな視点を与えている。中国が、ロシアを支援したことにより、台湾が第二のウクライナ化する潜在的な危険性を告知しているからだ。ロシアと中国が一体化すれば、これまで欧州とアジアの安全保障が別領域と考えられてきた考えはご破算だ。欧州とアジアの安全保障は、同一視点で捉えられるべきであろう。

     

    『日本経済新聞 電子版』(5月4日付)は、「頼れぬ米国、日本の覚悟は『ミドルパワー』が担う国際秩序」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の菅野幹雄編集委員である。

     

    2カ月半近いウクライナでの戦乱は、戦後にできた国際秩序の亀裂を決定づけ、安全保障に関する新たな現実を我々に突きつけた。日米欧の民主主義勢力と中国、ロシアなどの強権主義勢力は交わることなく、それぞれの道を歩み始めている。

     


    (1)「5月22日、バイデン米大統領が就任後で初めて来日する予定だ。ロシアの侵攻に対抗した制裁やウクライナ支援、インド太平洋で脅威を増す中国へのけん制など、強固な日米同盟を確認する場となるだろう。そのうえで留意すべき点がある。我々は米国にどこまで頼れるのかという根源的な問いだ。国際情勢の厳しさを考慮すれば、日米同盟の維持と強化の歩みを止めることは考えられない。だが同時に「頼れない米国」という時代の到来に賢く備えることも、日本が留意すべき点ではないか。トランプ前大統領が17年の就任後、米国と欧州の同盟関係を自ら壊した前例もある」

     

    世界の安保条件は大きく変わった。権威主義国の中ロが一体化して現行の世界秩序へ挑戦する姿勢をはっきりさせた。こうなった以上、米国という大黒柱を中心にするものの、「四天王」である日英独仏がしっかりとスクラムを組んで民主主義の価値を守ることが重要になってきた。

     


    (2)「中間選挙で動けなくなる米国、ゼロコロナ政策の難航や秋の共産党大会の準備に追われる中国の習近平(シー・ジンピン)指導部……。新興国もインフレ抑止に動く米連邦準備理事会(FRB)の金利引き上げの余波で、自国経済にストレスがかかる。ウクライナ危機は、国連など国際機関の限界もあぶり出した。厳しい環境のなかで追求すべき視点がある。「ミドルパワー」の結束だ。超大国には及ばないものの、日本やドイツ、フランスといった一定の経済力と外交力を持ち価値観や理念を共有する勢力だ。国際秩序の安定を担う数少ない存在といえるのではないか」

     

    日英独仏のいわゆる「ミドルパワー」が、米国を支えることで体制は安定したものになろう。今回のロシアによるウクライナ侵攻への対抗では、米英協力が見事である。今後、この息の合った米英コンビは、日独仏へも拡大して行くべきだ。将来、日本もNATO(北大西洋条約機構)へ加盟する準備をしておくべきだろう。これは、私の一貫した主張である。そうなれば、日本の安全保障は数段、高いレベルへ引き上げられる。

     


    (3)「前進を示す材料がある。4月24日のフランス大統領選挙の決選投票では現職マクロン氏が極右のマリーヌ・ルペン氏を下し、02年のシラク氏以来の再選を果たした。得票の差は5年前の同じ顔合わせに比べてほぼ半減した。フランス社会の分断は一段と深まっている。6月の議会選挙は地方レベルでのマクロン氏の信任投票となるだろう。それでもマクロン氏が勝利したことで世界情勢の風景は大幅に好転した。欧州連合(EU)を軸とした域内連携の強化の路線が維持され、日本と欧州の有力国が協力する下地ができた」

     

    英国の政治状況は、やや不安定さが見られるが、日独仏は、安定した政権が約束されている。こういう背景を利用して、新たな安保体制を築くことである。フランスも大統領決戦投票で、マクロン氏が超右派を破った。政治的には安定している。

     


    (4)「21年12月に就任したドイツのショルツ首相と岸田文雄首相は4月28日、東京で会談した。巨大な輸出市場の中国でなく日本を優先して訪れたことは、ドイツ外交の構造変化を示す。ショルツ氏はエネルギー調達でロシアへの依存度を急速に引き下げ、国内に慎重論が強かった重火器のウクライナへの支援も打ち出した。「質的に日独関係を新たなレベルに引き上げる」という同氏の発言は単なるリップサービスではないだろう」

     

    ドイツのショルツ政権は、反中ロ路線へと大きく舵を切っている。ウクライナ侵攻によって、過去の「親中ロ」は清算されたと見て良い。それほど、ロシアのウクライナ侵攻は衝撃であったのだ。

     


    (5)「日本はどうか。夏の参院選の結果は先取りできないものの、岸田内閣の支持率は60%台と比較的安定している。劇的な失点がない限りは、自民党を軸とする政権の優位は動きがたい。その後には、衆院議員の任期となる25年まで大きな国政選挙がない、いわゆる「黄金の3年間」が訪れる。選挙を経た日独仏の首脳がともに当面は安定した政権基盤を保つことは前向きな材料だ。気候変動や新型コロナなどの疫病対策、経済や通商のルール形成といった多国間による協議をけん引できるのは、ミドルパワーしかないのではないか」

     

    岸田政権は今夏の参院選で勝利を得られそうで、今後3年間、選挙なしの恵まれた条件にある。思い切った政策転換が可能な政治情勢が生まれる。

     

    (6)「機能不全がいわれる国連の改革、20カ国・地域(G20)の今後の運営などにも、もっと主体的に関わるべきだろう。ロシアのウクライナ侵攻が世界中に知らしめた戦闘行為の悲惨さを顧みれば、中長期的な戦争の抑止や核の不拡散についても、ミドルパワーが議論を主導する余地がある。今年と来年はそれぞれドイツと日本が主要7カ国(G7)議長国を務める。米国、中国、そしてロシアが内向きですくみ合うなか、ミドルパワーが支え役にならなければ、世界の秩序は糸の切れた凧(たこ)のように乱れてしまいかねない。その意味で岸田首相の国際的な責任は想像以上に重い」

     

    日英独仏のミドルパワーは、国連改革へ取り組むべきだ。中ロの「武闘派」をいかにして棚上げするか。こういう改革なしには,世界の平和を確立できない。経済制裁で、ロシアの武器生産が間もなく停滞する。そうなれば、新興国でロシア製武器を購入している国々の「中ロ感情」も変って来るであろう。そこが、狙い目であるのだ。

     

     

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    メルケル首相時代のドイツは、中国と蜜月関係にあった。貿易を通じて中国改革に寄与するという目的で、ドイツは中国市場で大きな利益を得てきた。そのドイツが、ロシアのウクライナ侵攻で態度を一変させている。中国が、ロシア声援姿勢を強めているからだ。

     

    中国が、ロシアの侵攻に声援を送っていることは、欧州の価値観と全く異なる行動である。中国は、ウクライナ侵攻を将来の台湾侵攻と同一視している。将来、台湾へ軍事行動を起す含みでロシアへ声援を送っているのでないか。ドイツは、中国のロシア声援をこのように解釈している。

     

    ドイツのショルツ首相の日本訪問には、中国への警戒観が隠されているという評論が登場している。習近平氏によるプーチン氏への友情は、ドイツの信頼、ひいては欧州全体の不信感へと繋がっている。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月7日付)は、「プーチン氏との友情で欧州を失う習氏」という評論を掲載した。

     

    ドイツのオラフ・ショルツ首相が、先週の訪日で成し遂げたことは何だったのか。彼の訪日は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領によるウクライナ侵攻の影響に警戒感を抱く中国政府に対し、警鐘を鳴らすものだった。

     

    (1)「経済および戦略面での協力について協議するためのショルツ新首相の訪日は、ドイツ政府内で進行している大きな変化の一つの兆候だった。ショルツ氏が今回訪問しなかった場所が、そのことを示している。北京だ。ショルツ氏の前任者のアンゲラ・メルケル氏は、早期かつ頻繁に北京を訪問した。メルケル氏の最初の北京訪問は首相就任の6カ月後だった。16年間の首相任期中に同氏が中国を訪問した回数は訪日回数の2倍。ショルツ氏が、この傾向に逆らう兆候を示したことは重要だ」

     

    メルケル前首相は、意図的に日本を訪問しなかった。対中ビジネスで,日本をライバル視していたからだ。メルケル氏が、共産圏に関心を深めていたのは、自身が東ドイツ(生まれは西ドイツ)育ちという面もあろう。それゆえ、近代化へ向けて手伝いたいという気持ちが強かったに違いない。

     

    (2)「これもまた、ウクライナ侵略戦争の余波だ。プーチン氏のウクライナ侵攻がドイツにもたらした衝撃は心の底から痛みを伴うものだった。その経済面の影響には二つの要素がある。古くからの格言である「貿易を通じた変革」は、メルケル氏の首相就任当初からのほとんど唯一の外交戦略だったが、その戦略は突然酷評されるようになった。プーチン氏との間での緊密な経済協力関係の構築は、独裁者である彼の帝国主義的行動の抑制につながらなかった」

     

    メルケル氏の目指した「貿易を通じた変革」は、結果的には徒労であった。ロシアや中国は、ひたすら専制主義を肥大化させた。ドイツは、それを手助けしたにすぎなかったのである。ロシアのウクライナ侵攻は、こういうドイツ外交政策に根本的な見直しを求めている。

     

    (3)「こうした状況下では、すぐさまドイツと中国の関係が連想される。中国は、ドイツが貿易を通じて変革をもたらそうとしてきたもう一つの国だ。中国政府の対応は、負の印象を強める一因となってきた。習近平国家主席が2月上旬に、プーチン氏との友情に「限界はない」と断言したことの影響が特に大きい。欧州の人々は、習氏がウクライナ危機で仲介役を務めたがらないこと、務められないことに不満を募らせている」

     

    ドイツ新政権は元々、中国に対して警戒姿勢を強めていた。連立政権を組む「緑の党」は、中国批判で選挙運動を戦った。その党首が、外相に就任している経緯から見て、中国批判の伏線は十分。今回のウクライナ戦争によって、反中国路線がブラッシュアップされたとも言える。

     


    (4)「ウクライナへの横暴な侵攻はまた、台湾への横暴な侵攻に対する懸念をも生じさせた。欧州はこれまで、こうした見方を軽視していた。加えて、経済を破滅させる習氏のゼロコロナ政策は、海外投資家がビジネスに投資する魅力を低減させている。政府のばかげた政策ミスで、今年の中国の経済成長率は、目標を大幅に下回るとみられる。その結果、ドイツでは新たに中国に対する懐疑的な見方が生まれており、それはいま3方向に広がりつつある」

     

    習氏のゼロコロナ政策は、「科学の国」ドイツから見ればとんでもないことを行なっているという違和感を生んで当然だ。中国は、未だにドイツ生まれの「mRNAワクチン」(米国ではモデルナ)を承認しない国である。

     


    (5)「産業界は懸念を強めている。これは正確に言うと、今に始まったことではなく、歴代の最高指導者らが目指した「改革開放」の道を歩み続けない方針を習氏が示したことで、近年明確になってきた。しかし、最近のドイツ企業では中国事業の見直しを求める声がより強くなっている。ミュンヘンのシンクタンク、IFO経済研究所が2月に実施した調査によると、ドイツの製造業者の45%、小売業者の55%は中国からの輸入を減らす計画だと答えた。在中国の欧州連合(EU)商工会議所のイエルク・ブトケ会頭は最近のインタビューで、ウクライナと台湾の潜在的な類似点について産業界が懸念していることに触れ、「外国企業は停止ボタンを押している」と話した。この発言はとりわけ、同氏の母国であるドイツで波紋を呼んだ」

     

    ドイツ産業界は、中国事業の見直しを求める声が強くなっている。ウクライナと台湾の潜在的な類似性に懸念を深めているのだ。台湾には世界一の半導体企業がある。ドイツで合弁による事業を始めるだけに、台湾の持つ重要性を再認識していることは疑いない。

     


    (6)「政治家や政策立案者の間でも、中国との関係の見直しは進んでいる。ドイツ連邦議会は先週、ショルツ氏にウクライナへの重火器の引き渡しを急ぐよう求める決議案を通過させた。驚いたことに、同決議には中国に関する段落が一つ設けられた。議員らはその中で、中国が西側の対ロ制裁を妨害したり、ロシアに武器を供給したりした場合は、中国に制裁を科すことを辞さない姿勢を示すようショルツ氏に求めた。この決議に法的拘束力はないが、ショルツ氏はこれを負託と解釈すると述べている」

     

    ドイツは、100%のウクライナ支援に舵を切った。当初は、他人事のような姿勢で中立姿勢を取り、大きな批判を浴びたからだ。ロシアとの縁に縛られたが、今や吹っ切れている。

     

    (7)「ドイツのアンナレーナ・ベアボック外相は3月、外交政策レビューを発表した。同外相は演説の中で、名指しこそしなかったものの目立つ形で中国に言及した。同外相は、「欧州の高速道路、一般道、送電網、港湾に何十億ユーロもの投資を行っている権威主義的諸国もまた存在し得るという、21世紀の脆弱(ぜいじゃく)性に欧州は気付かなければならない」とし、遠回しとはほとんど言い難い表現で中国を狙い撃ちした。

     

    ベアボック外相は、「反中」である緑の党代表である。言外で、厳しい中国批判を展開しているのは当然であろう。

     

     

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