勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    ロシアのウクライナ侵略は、どう見ても状況が芳しくない。黒海艦隊旗艦「モスクワ」が炎上沈没した一件は、ロシアとプーチン氏の運命を予告するような現象である。歴史を遡ること120年近いロシア海軍で、次のような不吉な事件が起こっていたのだ。

     

    バルチック艦隊は1905年5月、日本海海戦で敗北し軍の士気は大幅に乱れていた。こうした背景において、黒海で同年6月に戦艦「ポチョムキン号」の水兵が一斉蜂起し,将校と艦長を射殺する事件へ発展した。1905年ロシア革命の影響であった。この戦艦「ポチョムキン号」事件はその後、ロシア社会が大きく動く前兆になった。今回の旗艦「モスクワ」沈没が、ロシアとプーチン氏の将来を暗示するように見えるのだ。

     


    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(4月11日付)は、「典型的な産油国独裁者に化したプーチン氏」と題する寄稿を掲載した。筆者のルチル・シャルマ氏は、米ロックフェラー・インターナショナルの会長。前職は米モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントのチーフ・グローバル・ストラテジストである。

     

    1990年代後半に金融危機とデフォルト(債務不履行)で疲弊した国のトップを引き継いだプーチン氏は、民営化と規制緩和を推し進めていた。一律13%の所得税を導入し、米国の保守派を味方につけた。原油価格の上昇と改革を背景に、ロシアの1人当たり年間所得は2000年の就任当初の2000ドル(約25万円)から、10年代初めにはピークとなる1万6000ドルに増加した。

     


    (1)「権力と成功がプーチン氏を変えた。2010年、私はプーチン氏が同席する会合で、ロシア経済の「率直な」評価を伝えるようモスクワに招かれた。会合がテレビ中継されるとは知らず、招待を額面通り受け取った私は、ロシアの成功が持続するのは難しいと話した。ロシアが中所得国として成長するためには、石油以外に産業を広げ、大手国営企業への依存を減らし、まん延する汚職に取り組まねばならないと訴えた

     

    ロシア経済の発展には、市場経済によって不合理な部分を排除しなければならない。プーチン氏は、これと逆に新興財閥を庇護して、巨万の富を蓄積させた。これが、新規産業発展の芽を摘んだ。

     

    (2)「翌朝、親プーチン派の国営メディアが私の名前を挙げ、無礼な客人だと批判していた。そんな海外の論評や資本はロシアには不要だと切り捨てていた。その数カ月後、ジョージ・W・ブッシュ第43代米大統領(当時)にインタビューすると、同じようにプーチン氏の変化を指摘した。初期のころは常識的だったが、2000年代後半には尊大になったという。プーチン氏は今や、ロシア帝国の勢力圏を取り戻すことに執着するロシア特有のリーダーのように語られることが多い。だが、経済の視点で見れば、国家のリーダーとして普遍的なタイプに属する」

     

    プーチン氏は、2000年代後半に尊大な振る舞いをするようになった。ブッシュ(子)米大統領もそれを感じていたという。

     


    (3)「私の研究によると、独裁的な指導者の国では、次のような3つの条件を備えている。

    1)民主的な指導者が率いる国よりもはるかに経済が不安定化する傾向がある

    2)独裁者が長く権力の座に居続けるほど経済は悪くなる

    3)特に石油国家で不安定さが顕著である

    プーチン氏はこの3つの条件にすべて当てはまる「産油国に長く君臨する独裁者」だ」

     

    プーチン氏は、世界3位の産油国の座に酔っている。地下資源が莫大な富になるのだから、経済改革という地味な努力を忘れるのだろう。

     

    (4)「プーチン氏は2000年代後半になると、独善的になり、改革を推進しなくなった。14年のクリミア侵攻によって、欧米諸国が経済制裁を科すと、同氏は新たな変革に着手した。それは成長を促すよりも、外資に影響されない「フォートレス(要塞)ロシア」を作り上げることを目的にしていた。こうした防御体制がしばらくは機能したように見えた。今、新たに厳しい制裁を受けて、ひび割れし始めている。ロシアの1人当たり所得は過去のピークの1万6000ドルからウクライナ侵攻前の時点で1万2000ドルまで落ち込んでいた。原油価格が上昇しているにもかかわらず、22年末には1万ドルを下回る見込みだ」

     

    下線のような産業構造の構築を目指したが、耐久消費財の4割は依然として輸入依存である。経済制裁に弱い経済体質である。

     

    (5)「ウォール街が時として独裁者を受け入れてきたのは、彼らが好景気をもたらす場合があるためだ。しかし、実際には、活況をもたらした独裁者の34倍の数の独裁者が景気低迷、あるいは永続的な経済危機を招いてきた。その顔ぶれは、歴史上、キューバのカストロ氏から北朝鮮の金一族、ジンバブエのムガベ前大統領やエチオピアの皇帝ハイレ・セラシエ1世、ウガンダのムセベニ大統領を含むアフリカの数々の大物独裁者まで多岐にわたる」

     

    独裁者は、景気を好況に導いた3~4倍が不況と長期低迷を引き起している。経済の安定的な成長には不適格である。市場経済原理をないがしろにする結果だ。

     


    (6)「世界150カ国について1950年以降の統計を分析すると、極端な例を挙げると、数十年の間に急成長とマイナス成長を行き来した国は36カ国あり、その75%が独裁国だった。その多くは、ナイジェリア、イラン、シリア、イラクなどの産油国だった。プーチン氏は、ロシアをこの極端なケースに仲間入りさせる可能性がある。金融市場のデータは同国が99%の確率でデフォルトに陥ると示唆している。これはまさに政権初期のプーチン氏が懸命に防ごうとした運命だ」

     

    世界150ヶ国について、約70年間のGDP統計を分析すると興味深いことが分る。急成長とマイナス成長を行き来した国36ヶ国のうち、75%が独裁国である。ロシアもこの分類に陥る公算が強い。

     

    (7)「かつて改革者だったプーチン氏は今や、どう見ても典型的な老化する独裁者だ。長期強権体制の国々でも、同様の経済危機が進行している。これらの事例をみると、独裁政権はその成否にかかわらずしぶといことがわかる。経済の悪化でプーチン氏が失脚することを期待している欧米の指導者たちは、この歴史を認識すべきだ。独裁者は政治と経済のつながりを断ち、いつまでも権力の座にとどまることができる」

     

    プーチン氏は現在、69歳である。2036年まで大統領を務める積もりのようだ。これが、実現すれば、ロシア経済の停滞は必至となろう。これが、独裁国経済の宿命である。 

     

     

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    ロシア軍は、これからウクライナ東部で大攻勢をかけるべく部隊再編成中である。この矢先に、ロシア海軍の黒海艦隊旗艦「モスクワ」が沈没した。ロシア国防省が4月14日に発表した。

     

    これまで、こうした重大ニュースを発表しなかったロシア国防省が、なぜ正確に事実を明かしたのか。この点も関心が持たれる。ロシア軍部内に、ウクライナ侵攻の不条理を感じている「分子」が存在しているのか、という憶測を呼びそうだ。

     

    黒海艦隊は、ロシア海軍5艦隊の一つである。黒海艦隊は戦艦巡洋艦、攻撃型潜水艦が配属されるなど主力艦隊の一翼を担ってきた。だが現在、最大の問題は艦艇の老朽化である。依然として旧式艦が多数在籍しており、約40隻の在籍艦艇中、稼動状態にあるものは20隻程度とされている。その旗艦が沈没しただけに、黒海艦隊は作戦機能を失ったのも同然と言えよう。

     


    米通信社『ブルームバーグ』(4月15日付)は、「
    ロシア軍旗艦沈没、黒海艦隊防空戦力と士気に打撃も-ミサイル命中か」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナでの戦争が重大局面に入る矢先、ロシア軍は黒海艦隊旗艦のミサイル巡洋艦「モスクワ」を失った。13日夜に火災に見舞われた状況は双方の説明に食い違いがあるが、ロシア側にはプライドへの打撃にとどまらず、軍事的にも重要な防御と戦力の喪失を意味する。

     

    (1)「ロシアのメディアは14日、艦上の弾薬庫で爆発があり、港にえい航中に荒天の中で沈没したとの国防省の説明を報道。一方、ウクライナ南部オデーサ(オデッサ)のマルチェンコ知事は同国国防省を引用し、対艦巡航ミサイル「ネプチューン」2発の攻撃を受けたと主張した。同艦沈没はウクライナにとって戦果だが、ロシアにとっては黒海艦隊の長距離防空と指揮統制システムの要を失う痛手であり、そうした機能を容易に代替できない。約500人の乗組員は退避したと同国は明らかにした」

     


    旗艦「モスクワ」は、黒海艦隊の長距離防空と指揮統制システムという要の役割を果たしてきた。ミサイル巡洋艦であり、皮肉にもウクライナ軍のミサイル攻撃が沈没の原因になった。防空システムに重大な欠陥があって撃ち落とせなかったとすれば、ロシア海軍の実力の低さを示すことになりかねない事態だ。このように問題はあったにせよ、ウクライナ侵攻では長距離防空と指揮統制システムの役割を果たしてきた。その「目」とも言える旗艦が消えてしまったのだ。ロシア軍の打撃のほどが推し測れる。

     

    (2)「英王立防衛安全保障研究所(RUSI)の特別研究員(海軍力)、シッダールト・コウシャル氏は「モスクワ」について、「長距離防空システムを担うこのクラスとしては、ロシア海軍が現在保有する唯一の艦船」だとした上で、「黒海艦隊の軍事活動のため、艦隊全体の防空と同時に指揮統制機能を果たす役割があり重要だ」との見解を示した。西側の当局者の1人は、ミサイル攻撃を受けたとするウクライナ側の主張は信頼できると述べ、同艦を失ったことは、ロシアにとって深刻な打撃だと指摘した」

     

    下線部は、重要な指摘である。ロシア海軍には、「モスクワ」に代替する艦船がないこと。これによって、黒海艦隊全体の防空と指揮統制機能を失ったのである。暗闇で戦争するような事態に追い込まれたのだ。これから始まるウクライナ東部攻撃作戦で、今後は艦砲射撃が難しくなる。事態の急変である。

     


    英国『BBC』(4月15日付)は、「ロシア国防省、黒海艦隊の旗艦モスクワが沈没と発表」と題する記事を掲載した。

     

    全長186.4メートル、乗員最大510人、排水量12490トンの「モスクワ」は、ロシアの軍事力の象徴で、ウクライナ侵攻では海からの攻撃の中心を担っていた。ウクライナの攻撃で撃沈したことが確認されれば、第2次世界大戦後に敵の攻撃で沈没した最大の軍艦ということになる。ロシアがウクライナ侵攻開始後、海軍艦を失うのは2隻目。南東部ベルジャンスクで3月24日には、大型揚陸艦サラトフがウクライナの攻撃で撃沈した

     

    (3)「ロシアは、巡洋艦モスクワ沈没の原因が、ウクライナのミサイル攻撃によるものとは認めていない。しかし、アメリカのイラク駐留多国籍軍司令官、中央軍司令官、アフガニスタン駐留多国籍軍司令官などを歴任したデイヴィッド・ペトレイアス元中央情報局(CIA)長官はBBCに対して、ロシア政府が黒海艦隊旗艦の沈没を認めたことは、「珍しい真実の瞬間」だと話した。「(ロシアが)認めたことに驚いている」と、ペトレイアス氏は述べた」

     

    ロシア国防省は、これまで「ウソ」の発表をし続けてきた。だが今回、巡洋艦モスクワ沈没を正確に発表したのはなぜか。ロシア陸軍はウクライナ東部作戦で、後方支援の艦砲射撃を期待できなくなった。その厳しさを、プーチン大統領へ告げる目的と読めるのだ。ロシア軍全体の士気低下を招くことを発表した意図が解しがたいのである。

     

     

     

     

     

     

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    ウクライナ軍の反攻体制が、これまでのゲリラ的戦いから、大型兵器を使った反撃に移っている。その一例として、ロシアの黒海艦隊の旗艦である巡洋艦「モスクワ」が14日、沈没したことと無縁でないからだ。ウクライナ軍の反撃態勢確立への証とも言えよう。

     

    ロシア海軍の巡洋艦「モスクワ」沈没原因については、ウクライナ軍のミサイル攻撃説とロシア軍による火災説が出ている。だが、常識的に言えば戦闘中の事故であるゆえ、攻撃説が常識的であろう。

     

    ウクライナ軍は3月24日、ロシアに占拠されたアゾフ海に面する都市ベルジャンシクの港に停泊していたロシア海軍の複数の艦船を攻撃した実績がある。攻撃から数時間後、ロシア艦隊は港を離れざるを得なかった。これにより、ロシア軍は地上部隊への支援やウクライナ各都市への攻撃が困難になった。軍事専門家は、「ロシア軍の後方支援にとって大きな打撃」と指摘している。米国が、このようなウクライナ軍の戦い方を見ながら、大型兵器供与に傾いたと見られる。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月14日付)は、「米、ウクライナへ情報共有拡大 大型兵器提供も」と題する記事を掲載した。

     

    バイデン米政権はウクライナ軍への機密情報の提供を大幅に拡大する。東部ドンバス地方やクリミア半島を制圧しているロシア軍への攻撃を可能にする狙いがある。

     


    (1)「ホワイトハウスはこれとは別に、重火器や装甲兵員輸送車(APC)、ヘリコプターなどを含む8億ドル(約1005億円)相当の追加の軍事支援を発表した。ロシア軍は今後、ウクライナ東部で猛攻を仕掛けると予想されており、ウクライナの反撃を支えることが目的だ。バイデン政権は機密情報の提供拡大や重火器供与の決定により、今回のウクライナ紛争に対するアプローチを軌道修正する」

     

    ロシア軍が、5月9日の対独戦勝記念日に向けてウクライナ東部での勝利を目指し集中的な攻撃に移るとみられている。ウクライナ軍には、これに対抗する本格的武器が不足している。士気は極めて高いが「素手」では攻撃を防げないのだ。それ相応の武器弾薬が必要である。そこで、米国は重火器・装甲兵員輸送車(APC)・ヘリコプターなどをウクライナ軍に供与することになった。

     

    (2)「米国はすでに対戦車ミサイル「ジャベリン」や地対空ミサイル「スティンガー」などの武器をウクライナに提供しているが、これまで戦闘機の供与には踏み込んでこなかった。戦闘機を供与すれば、ロシアが米国を戦闘相手とみなしかねないと懸念していためだ。またウクライナが求める飛行禁止区域の設定にも応じていない。だが、ロシア軍はここにきて、首都キーウ(キエフ)周辺などウクライナ北部から撤退し、兵力を集中させているドンバス地方など同国東部に激しい攻撃を加える戦略にシフトしている。そのため、バイデン政権は先週終盤、ロシアの攻撃計画をより正確に把握するため機密情報を共有する仕組みを設け、ウクライナが重火器やドローン(小型無人機)などを駆使して反撃できるようにすることを決めた

     

    NATO軍は常時、情報収集目的で6機の偵察機を飛行させている。その情報は、各加盟国へ即時通報されている。米国は、これらの情報と独自に得た情報をウクライナと共有して、ロシア軍撃破に使用するという。

     


    (3)「だが、米国は情報共有の新たな指針においても、ウクライナによるロシア領土内への空爆を可能にするような情報の共有までは踏み込まない方針だ。米当局者はこれについて、紛争を拡大させないために設けられた制限だと説明した」

     

    米国は、ウクライナ軍と情報を共有しても限度を設ける。ウクライナ軍が、ロシア領を爆撃して戦線拡大させない歯止めを設ける。

     

    『日本経済新聞』(4月15日付)は、「米欧、ウクライナに追加軍事支援1680億円 ヘリや無人機など」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアがウクライナ東部への総攻撃を近く開始する可能性が高まっていることを受け、米欧は追加支援を決めた。バイデン米政権は13日、ヘリコプターや無人機など8億ドル(約1000億円)相当の追加軍事支援を発表し、欧州連合(EU)も同日5億ユーロ(約680億円)の追加支援を決定した。軍事装備品などを供与し、ロシアの戦力増強に備える。

     


    (4)「米国防総省によると、米が追加供与するのは旧ソ連時代に開発されたヘリ「Mi17」11機、携行型の対戦車ミサイル「ジャベリン」500基、自爆攻撃機能を持つ無人機「スイッチブレード」300機など。侵攻後、米の軍事支援は計26億ドルに上る。ウクライナ側の要望を踏まえ、ロシアの東部攻撃に備えた攻撃型の兵器を増強した。米メディアによると、ロシア軍の動向を正確に把握するため、米機密情報の提供も大幅に拡大する」

     

    米国の供与する武器は、攻撃型に移っている。ロシア軍の総攻撃に合わせた武器である。

     

    (5)「EUの5億ユーロの追加支援は燃料、軍事装備品をはじめ防護・救援物資にあてる。ボレル外交安全保障上級代表は「今後数週間が決定的になる」との見通しを示した。ウクライナのマルチェンコ財務相は14日「諸外国からすでに35億ドル以上の財政支援を受けている」と明らかにした。ロイター通信が伝えた。「およそ80億ドル相当の支援について交渉中だ」とも述べた」

     

    ウクライナは、これまでに35億ドル以上の財政支援を受けている。今後さらに80億ドル相当の支援を交渉中としている。これまで受けた支援の二倍以上である。ロシア軍の「皆殺し作戦」を防ぐ目的である。

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    ロシアは、ウクライナ侵攻に伴って即座に西側諸国により外貨準備高を凍結された。中国が、この動きをみて驚愕している。中国が台湾へ侵攻すれば、ロシアと同様の事態を招くからだ。世界経済は米ドルを基軸通貨とし、ドル決済が日常の貿易取引の慣行である以上、ドルを離れた対外経済活動は成り立たないのだ。

     

    中国は、こういう現実を認識すればするほど、悩みが深くなる。台湾統一は国是である。むろん、武力統一が現実の日程に上がりつつある。万一、武力行使すれば即、「第二のロシア」の苦境に追い込まれる。事前に、それを避けて西側諸国へ資金を預けなければ、台湾侵攻を予告するようなもの。一段と警戒されて台湾防衛を固められる。こうなると、妙案はなさそうだ。

     


    『日本経済新聞 電子版』(4月14日付)は、「中国、制裁に身構え 人民銀元委員『外準凍結は想定外』」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナに侵攻したロシアの外貨準備(金を含む)の半分を凍結した米欧の制裁は、中国にとっても衝撃だった。中国の海外資産もいずれ標的になり得るという厳しい現実を突きつけられた。ロシアを助ける場合だけでなく、「統一」を目指して台湾に侵攻しても米欧の猛反発は確実だ。独自の送金網を整備し、世界最大の外貨準備の「脱ドル」を目指すが、課題は山積する。

     

    (1)「米財務省によると、中国は約3兆ドル(約380兆円)の外貨準備のうち1兆ドルあまりを米国債で保有する。中国国家外貨管理局(SAFE)の直近のデータで、外貨準備の半分以上はドル建て資産だ。2016年の比率は59%だった。この配分を巡り中国では議論が盛んになっている。制裁を想定し、自国の金融システムの耐性を強める中国の取り組みは、世界経済に大きな影響を与えるかもしれない」

     


    中国の外貨準備高は3兆ドル強だが、ここ数年横ばい状態である。できるだけ有利に運用し流動性があるものになるとドル建て資産しかない。このドル建て資産を目立って減らせないのだ。

     

    (2)「中国の著名エコノミストで、中国人民銀行(中央銀行)の金融政策委員を務めた余永定氏は日本経済新聞に対し「私たちはショックを受けている」と述べ、制裁によるロシアの外貨準備の凍結に言及した。「米国が外国の外貨準備を凍結するとは予想もしていなかった。国際通貨システムにおける国家間の信頼が失われた形だ」。北京のシンクタンク、中国グローバル化研究センター(CCG)の上級研究員で、外交官として米国に赴任した経験がある何偉文氏は「中国にとって、対ロシア制裁は人ごとではない」と話す。「仮に米国が中国を壊滅させるような制裁を科すならば、こんな形になるだろう。だからこそ、備えなくてはならない」と指摘」

     

    中国が、台湾侵攻をしなければ何らの問題も起こらないのだ。それだけのことである。

     

    (3)「20年に「香港国家安全維持法」が施行された際、中国は世界の金融システムから排除されかけた。中国の銀行を国際決済網「国際銀行間通信協会(SWIFT)」から退出させるべきだとの声があがったのだ。中国は15年、世界での人民元の利用を進める名目で、独自の国際銀行間決済システム(CIPS)を稼働させた。SWIFTの代替システムだと受け止められている。だが、中国政府による資本規制が障害となり、CIPSはそれほど使われていない。人民元は外国通貨と自由に両替できず、人民元の国際化というCIPSの目的とは相いれないからだ」

     

    CIPSを過大評価してはならない。SWIFTの「枝分かれ」であり、CIPSはSWIFTから情報を得ているという関係にある。独立した存在ではない。国際金融問題で、空理空論は許されず、現実の関わりが決定要因になる。人民元をドルに代わって基軸通貨にしようという発言は、世界の現実を理解していない妄言である。

     


    (4)「中国は12年、CIPS創設に乗り出した。その3年半後のCIPSを発足させた。CIPSのおかげで、外国銀行は中国の銀行とやりとりして人民元市場にアクセスし、決済できるようになった。中国の広域経済圏構想「一帯一路」に参加する国の間での人民元の利用を促す狙いもある。CIPSには大きな欠陥がある。香港ドルに対応する場合もあるが、主に人民元で決済される点だ。これがCIPSの利用が広がらない根本の原因になっている。人民元は外国通貨と自由に交換できないため、ドル、ユーロ、円に比べると資産としての魅力に欠ける

     

    人民元の地位はこの10年で高まったが、世界の決済に占める割合はドルやユーロに遠く及ばない。その割合は2月、ドルとユーロの合計で76.%だった。一方、SWIFTのデータでは、人民元が2.%で、5番目に取引が多い通貨にとどまった。CIPSがSWIFTの代わりを十分に果たすには、中国がもっと多くの外国銀行の直接参加を認める必要がある。その場合には、海外での人民元の利用を完全には統制できなくなるだろう。

     


    人民元は、自由な資本移動に規制を掛けている。また、人民元相場は管理型であり自由変動型でない。自由な資本移動を許したら、共産党政治を嫌って一挙に資本流出する危険性が強いであろう。要するに、外国が規制の多い人民元を資産として保有する動機に乏しいのだ。

    (5)「中国政府の顧問で中国人民大学教授の時殷弘氏は、「CIPSは、SWIFTがなければ何も解決できないというのが現時点での共通認識だ。中国がロシアを支援し、制裁に苦しむリスクをおかすことはない」と明言した。イエレン米財務長官は46日の議会証言で、仮に中国が台湾に侵攻した場合、バイデン米政権は中国にあらゆる制裁を行使する用意があると語った。中国銀行の副行長(副頭取)だった王永利氏は最近の記事で、中国の外貨準備の大半は米欧にあると明らかにした。王氏はさらに、中国が(制裁に際して)保有する米国債を売却したり、金を買いだめしたりする可能性があるとの見方に反論した

     

    下線部分は重要である。中国が保有する米国債を売却して、米国へ報復せよと言う感情論がよく聞かれる。それは不可能である。中国の外貨準備高に、ドル建て債務があるからだ。ドル建て債務に見合った米国債を保有し、バランスをとっているのが現実である。

     

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    中国は、世界最大の自動車市場である。世界の自動車メーカーは、こぞって中国へ進出している。自動車工場の集中する上海市は、3月末からコロナによるロックダウン(都市封鎖)に直撃された。こうして、サプライチェーンは、大混乱を来たす羽目になった。自動車工場の多い長春市も、2月からロックダウン中である。

     

    問題は、工場の操業ストップだけでないことだ。高速道路を運転するドライバーは、感染予防で上海市内へ入れず、運転台で何日も過ごさざるを得ないという悲喜劇を生んでいる。有効なコロナワクチンがあれば、こんな漫画のような情景を見せないで済んだであろう。

     


    『ロイター』(4月13日付)は、「
    中国『ゼロコロナ』、世界の自動車メーカーに試練」と題するコラムを掲載した。

     

    中国当局が引き続きゼロコロナ政策に熱を上げているため、世界の主要自動車メーカーは「低速運転」を強いられている。新型コロナウイルスのオミクロン株に対する中国の厳しいロックダウン(都市封鎖)導入によってサプライチェーン(供給網)は動きが止まる一方、ウクライナの戦争が原材料コストを押し上げている。この状況を見ると、自動車業界は今年、2020年以上に厳しい局面に陥りかねない。

     

    (1)「現在の中国は、自動車メーカーにとってかつてないほど重要な存在になった。当初は新型コロナウイルスの封じ込めに成功し、事業を急拡大できたからだ。データストリームによると、昨年6月末までの1年間の中国の自動車輸出額は、パンデミック前から倍増して約350億ドルに達した。自動車部品輸出額も40%強増え、750億ドルを超えた。多くのブランドやサプライヤーは中国工場を利用し、同国内と海外双方の需要を満たしてきた」

     


    2年前の武漢で発症したコロナは、2ヶ月以上かけて沈静化した。これにより、中国政府はロックダウンが最良の道と錯覚し、ついに今回の上海市での「大感染」を招いた。ろくに効かない中国製ワクチンにも関わらず、欧米製ワクチンmRNAワクチンを導入せず、今回の事態を引き起したのである。その意味で、自業自得の面が強い。

     

    (2)「代表例となったのは、米電気自動車(EV)大手・テスラ。イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)の肝いりで設立された上海工場での生産が始まったのはパンデミック発生直前で、昨年になって年間生産能力を50万台弱まで高めた。その結果、同社の中国国内販売を2倍に拡大することができた。ところが、現在の中国当局は新型コロナウイルスを徹底的に抑え込むと約束しており、全てのメーカーがリスクにさらされている。感染力の高いオミクロン株向けの対策は、2020年当時よりも厳しくする必要があるためだ」

     

    テスラは、4月一杯の操業停止を予定している。このほか、上海にあるフォルクスワーゲン(VW)の合弁工場も、3月に稼働が止まった。VWとトヨタ自動車がそれぞれ長春に展開している合弁工場は、3月半ばから止まっている。

     


    有効なワクチンと治療薬があれば、難なく乗り越えられる「オミクロン株」である。それが、これだけの大騒ぎになったのは、ひとえに防疫体制の未熟さにある。「ゼロコロナ政策」は、原始的防疫方法なのだ。

     

    (3)「実際、テスラの上海工場は少なくとも2週間は閉鎖されている。大手のフォルクススワーゲン(VW)から新興の上海蔚来汽車(NIO)まで、ライバル勢も生産を停止中。オミクロン株が出現した昨年11月以降、テスラの株価は20%、ゼネラル・モーターズ(GM)とVWの株価はともに25%以上も下落した」

     

    中国株全般が、ロシアのウクライナ侵攻との連想で売り込まれた。中国株にはそれだけ、「国家リスク」の存在を証明したのである。いつ何時、何が起こるのか分らないのが、権威主義国家の潜在的リスクとして認識されたのである。

     


    (4)「逆風はこれだけではない。上海は中国屈指の経済都市で、昨年の総生産額は約6800億ドルと、ほぼポーランドの国内総生産(GDP)に匹敵する。そこでも厳しい感染対策を打ち出したということから、当局が許容できない経済的な痛みの限界点が相当高いと分かる。つまり広州、吉林、深圳といった他の製造拠点も当面は、コロナとの共生ではなくロックダウンが選択される公算がずっと大きい。中国の自動車販売も陰りが見え始め、2月は前年比18.7%増だったが、3月は11.7%減となった」

     

    中国が、なぜ「ウイズコロナ」を採用せず、「ゼロコロナ」に固執してきたか。それは、医療体制が先進国に比べて、数段も劣る結果である。例えば、モルガン・スタンレーの分析では、中国の2021年における集中治療室(ICU)の病床数は住民10万人当たりわずか4.4床にとどまる。これに対し、韓国と英国は約11床、米国は26床だ。これでは、ひとたびコロナが感染すれば、手の施しようがなくなる。現在、この状況に追い込まれているのだ。

     


    ならば、「ゼロコロナ政策」でなく、欧米の効くワクチンを導入し、完璧な防疫体制を敷くべきであった。それを怠ったのである。中国は国民の手前、医療面で先進国並という見栄を張った。現在、その報いを受けていると言うべきだろう。

     (5)「ウクライナで起きた戦争により、人々の生活全般も苦しくなった。自動車メーカーは既に、半導体など重要部品の不足や原材料価格高騰にもがいている。例えば、バーンスタインによると、バッテリーの製造コストは最大で20%跳ね上がった。自動車メーカーからすると、今年は20年に負けないほど「アナス・ホリビリス(ひどい年)」になるのではないだろうか」

     

    自動部品のコストが、ウクライナ戦争の影響で高騰している。ゼロコロナで生産ストップの上に、部品コストの高騰が加われば、企業にとって収益的に一段と苦しくなる。自動車需要減が、これに追い打ちをかけるのだ。

     

     

     

     

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