勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    ロシア軍は、ウクライナ侵攻開戦当初から躓きを指摘されている。どうやらその原因が、ロシア製戦車の構造的な重大欠陥に帰せられることが分った。戦車が被弾すると、ほとんど同時に戦車内に積んでいる爆薬に引火し爆発炎上するのだ。むろん、乗員3名は運命を共にする。

     

    ロシア軍は、ウクライナ軍を圧倒すべく、ウクライナ北部の部隊を撤収させて、東部攻撃に向かわせている。だが、米国防総省高官は4月28日、ロシア軍の成果について「緩慢でむらのある段階的な進展をしている」と指摘した。補給体制の立て直しを重視し、支配地拡大のスピードを最優先事項としていないと分析したのだ。

     


    上記の戦況は、ロシア戦車部隊が計画通り進軍できないことを覗わせている。ウクライナ軍による攻撃で、戦車が被弾しているのであろう。ロシア軍は、北部の戦いと同じ状況になっているのかも知れない。

     

    米『CNN』(4月29日付)は、「まるで『ビックリ箱』、ウクライナで戦うロシア軍の戦車が抱える設計上の欠陥とは」と題する記事を掲載した。

     

    砲塔部分が吹き飛ばされたロシア軍の戦車の残骸は、同国のウクライナへの侵攻が計画通りに進んでいないことを示す最新の兆候だ。ウクライナ侵攻の開始以降、これまで破壊されたロシア軍の戦車は数百台に上ると考えられている。ウォレス英国防相は4月25日、その数を推計で最大580台と発表した。

     

    (1)「専門家らは戦場を写した画像から、ロシア軍の戦車がある不具合を抱えていることが分かると指摘する。西側諸国の軍隊が、数十年間にわたり認識している欠陥で、「ビックリ箱」効果と呼ばれているものだ。ロシア軍戦車は、回転式砲塔の内部に多数の弾薬を搭載している。被弾の際の危険は極めて大きく、直撃(被弾)ではない場合でさえもそこから連鎖反応が始まり、搭載する最大40発の砲弾がすべて爆発する恐れがある。その結果、生じる衝撃波の威力で、砲塔は2階建ての建物ほどの高さにまで吹き飛ぶこともある」

     


    ロシア軍戦車は、回転式砲塔の内部に多数の弾薬を搭載している。被弾すると、直撃弾でなくとも連鎖反応により、最大40発の砲弾がすべて爆発するというのだ。西側諸国の戦車では、この点が改良されている。

     

    (2)「最近ソーシャルメディアに投稿された動画に映っている通りだ。米シンクタンク、海軍分析センターでロシア研究プログラムの顧問を務めるサム・ベンデット氏は、上記のような問題を「設計上の欠陥」と説明。「とにかく弾が当たりさえすれば、たちまち搭載した弾薬に引火し、大爆発を引き起こす。砲塔は文字通り吹き飛ぶ」と述べた。こうした欠陥に対し戦車の搭乗員はなす術がないと、英国陸軍の元将校で現在は防衛産業アナリストのニコラス・ドラモンド氏は指摘する」

     

    ロシア製戦車は、戦車のどこでも被弾すれば即、爆発という極めて危険な構造になっている。ロシア軍は、この点の改良をしないかった。それが、致命傷になっている。

     


    (3)「戦車には通常、砲塔に2人、運転席に1人の兵士が乗り込んでいるが、被弾から「1秒以内に脱出しなければトースト状態」だという。
    ドラモンド氏によると、弾薬の爆発はロシアが現在ウクライナで使用するほぼすべての装甲車両で問題を引き起こしている。特に搭乗員3人に加えて兵士5人を輸送する歩兵戦闘車「BМD4」は、同氏に言わせると「動く棺桶(かんおけ)」であり、ロケット弾が命中すれば「全滅する」。こうした欠陥について、西側の軍隊は1991年の湾岸戦争や、2003年のイラク戦争を通じて察知していた」

     

    戦車には、砲塔に2人、運転席に1人の兵士が乗り込む。装甲車両では、搭乗員3人に加えて兵士5人を輸送できる。ここへロケット弾が命中すると全滅する危険性を抱えている。

     


    (4)「オープンソースインテリジェンスのモニタリングウェブサイト、オリックスは28日、少なくとも300台のロシア軍戦車が破壊され、さらに279台が損傷もしくは放棄、鹵獲(ろかく)されているとの見方を示した。ウォレス英国防相は冒頭の戦車の損失に関する推計のほか、1万5000人を超えるロシア軍要員が侵攻中に死亡したとも述べている。このうち戦車の搭乗員が何人いるのか突き止めるのは困難だが、疑いなく言えるのは搭乗員らの補充は容易ではないということだ」

     

    戦車の搭乗員補充は簡単にできない。特別訓練が必要であるからだ。ロシア軍の戦車が、約579台も失っていれば搭乗員は最大1737人失った計算になる。これだけの補充には、相当の時間を必要とする。

     

    (5)「戦車の搭乗員の訓練には最短でも数カ月かかり、1年でも早いとみなされることがある。フィンランド国防軍の元戦車搭乗員、アレクシ・ロイニラ氏はそう語る。そのためロシアが戦争の続くこの時点で数百人の搭乗員を補充するのは無理な注文だろう。使用するつもりの戦車に重大な欠陥があるならなおさらだ」

     

    戦車搭乗員の教育期間には、最低6ヶ月を必要とし、1年が必要という。ロシアにとって、戦車579台の損失は、戦力的に大きな痛手を被ったことを示している。

     



     

     

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    習近平氏の威厳に関わるロックダウンは、上海市から北京の一部を巻き込む勢いで拡大している。上海市トップの李強氏は、習氏の腹心と言われており、次期首相候補の一人とされてきた。だが、国際金融都市の上海が1ヶ月もロックダウンされる事態に陥って、市民からすっかり信用を落としている。党内の評価低下にも結びつきかねず、習氏は頭を痛めているだろうと話題になっている。

     

    米『CNN』(4月29日付)は、「上海に続き北京も一部ロックダウン、中国全土で1億6500万人に影響」と題する記事を掲載した。

     

    中国経済を支える2大都市、北京と上海が新型コロナウイルス対策のロックダウン(都市封鎖)に入っている。上海の住民は疲弊し、北京では封鎖拡大への恐怖に火がついている。

     


    (1)「上海では1日あたり1万人を超す新規の症例が報告される日が続く。全市的なロックダウンは数週間に及び、人口2500万人のほぼ全員が、自宅や居住地区から出られない状況にある。一方、北京は集団検査を開始して、学校を閉鎖し、感染の拡大を抑えるために一部の集合住宅を対象とするロックダウンを開始した。中国は厳格なゼロコロナ戦略に固執し続けているが、感染力の高いオミクロン変異株が猛威を振るう中、その戦略を維持することへの疑問が突き付けられている」

     

    上海市内の感染者ピークは、最近の東京のピークよりも低かった。本来ならば、あれだけ騒いでロックダウンする必要性はなかったのだ。だが、東京に比べれば看護士の不足や治療器具の少なさは明瞭。これを隠蔽すべく、ロックダウンという人海戦術に出たのだ。防疫体制の未熟さが招いた「人災」である。

     


    (2)「全土では、少なくとも27都市で部分的なロックダウンや全市的なロックダウンが実施され、CNNの計算によれば、最大で1億6500万人が影響を受けている。北京市の朝陽区を対象とするロックダウンでは、集合住宅13棟の住人が自宅から出られなくなり、別の33棟の住人は居住区からの外出を禁止された。28日には北京市内の人口密集地の多くで学校が閉鎖され、大手病院が相次ぎ閉鎖を発表。映画館など娯楽施設に対する閉鎖命令も増えている」

     

    全土で、すでに最大1億6500万人が、ロックダウンの影響を受けている。北京市の高級街の朝陽区も封鎖されている。北京は、この朝陽区だけで収まるはずもなく、隣接区への感染拡大は不可避であろう。

     

    (3)「中国国内では杭州(人口1220万人)、蘇州(同1270万人)、ハルビン(同950万人)など20都市以上で部分的なロックダウンや全市的なロックダウンが実施されている。対象は北東部の黒竜江省から南部の広西スワン族自治区、西部の青海省まで14省区に及ぶ。上海はロックダウンの影響で機能不全状態に陥り、混乱が拡大。住民は食料が足りないと訴え、医療機関も受診しにくくなり、その場しのぎの隔離施設は劣悪な環境にある。当局は感染した子どもを親から引き離すなどの強硬な対策を講じている」

     

    ロックダウンは、14省区に及ぶ。オミクロン株は感染力が強いので、ロックダウンの度合いはますます強く、長期化せざるを得なくさせている。「ゼロコロナ」の弊害が、強くなっている理由である。

     

    (4)「3月には、上海市内の病院に勤務する非番の看護師が、消毒のために閉鎖された勤務先の病院への緊急入院を拒まれて死亡した。今月初めには、陽性と判定された飼い主のペットのコーギー犬を保健職員が撲殺。先週は、職員が未明に92歳の女性の自宅に押し入って隔離施設に強制的に入所させたと伝えられた。そうした情報は中国のSNSで拡散され、憤りの声が広がる異例の事態となっている。同じような報告は他都市でも相次ぐ」

     

    ゼロコロナ自体が、原始的な防疫である。それゆえ、想像もできないような問題を引き起している。あたかも、原始社会のような騒ぎである。習近平氏が、推奨している方法ゆえに、誰も異を唱えられないという異常社会だ。

     

    (5)「北京はまだ、高リスクと指定された地域以外で住民の移動が制限される事態にはなっていない。しかし住民の多くはロックダウンが広がることを恐れてパニック買いに走り、スーパーマーケットには長蛇の行列ができた」

     

    北京市もいずれ、上海市の二の舞いを演じるであろう。

     

    (6)「ロックダウンや移動制限の影響は、特に上海や深センといった経済中心地に打撃を与えている。3月の失業率は21カ月ぶりの高さに上昇。自動車メーカーのフォルクスワーゲンやテスラ、アップルのiPhone(アイフォーン)を製造するペガトロンなどは操業停止に追い込まれた。中国の通貨、人民元は今週、2020年11月以来の水準にまで急落した。中国指導部が神経をとがらせる兆しは見えている。習近平(シーチンピン)国家主席は26日、成長を促進するためインフラ投資に総力を挙げるよう指示した。具体的な経済計画を自ら打ち出すことがほとんどない習主席にとっては異例の発言だった

     

    ロックダウンが経済に及ぼす影響は甚大である。すべての経済活動をストップするのだから当然であろう。4~6月期のGDPが大きく落込むのは不可避である。ゼロ成長を予測する向きも出ている。

     

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    習近平氏は、10年近いプーチン氏との友情を大事にしている。共に手を携えて、米国へ対抗しょうと誓い合った仲であるからだ。2月4日に発表した米中共同声明では、「限りない友情」を謳い上げたほどである。

     

    「習・プーチン蜜月」が、中国の将来に大きな禍根を残すことは確実である。EU(欧州連合)は、ロシアへの警戒感が強めると同時に、その「盟友」中国へ警戒感を強めているからだ。EUが、「脱中国」姿勢を強めていることは、世界覇権を狙う中国にとって潜在的な味方を失うことであり、大きな外交的失敗と言うほかない。

     


    中国の金融ビジネスは、政治と逆に米国の「恐ろしさ」が身に浸みている。ファーウェイ副会長が、カナダで米国の要請によって逮捕(後に釈放)された事件は、米国の対イラン禁輸令に違反した「二次制裁」であった。米国の二次制裁に引っかかると、大変な事態に陥ることを知った中国ビジネスは、今回の対ロ制裁に対してビリビリした姿勢を見せている。迂闊に動けないという警戒感だ。米国の経済覇権が、圧倒的であることを物語っている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(4月27日付)は、「中国銀聯、ロシア銀との協業拒否 米欧の制裁警戒か」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナ侵攻で米欧から制裁を受けるロシアでの事業をめぐり、中国企業の一部でもリスクを警戒する動きが出てきた。ロシアメディアによると、中国カード大手の銀聯(ユニオンペイ)がロシア最大手銀ズベルバンクなど制裁対象の銀行との協業を拒否した。事業の継続性への不安や自らも制裁対象になりかねないとの懸念が背景にある。

     

    (1)「ロシアのカード市場における銀聯カードのシェアは、2020年時点で1%程度とみられる。ウクライナ侵攻で米欧などが金融制裁に踏み切ると、米大手のビザやマスターカードがロシアでの業務を停止した。この影響で銀聯カードの需要は急増した。それでも銀聯は業務拡大に慎重だ。現地報道によると、銀聯はズベルバンク以外で制裁の対象となっている銀行との協議も取りやめた。これらの銀行は銀聯カードの発行を断念せざるを得なくなったという」

     

    ロシアでは、ビザやマスターカードがロシアでの業務を停止した後、銀聯カードへ申し込みが殺到したが慎重に対応している。米国の「二次制裁」に引っかかると、元も子もなくすリスクに直面するからだ。

     


    (2)「中国は対ロ関係で、「正常な経済貿易活動は継続する」(外務省)との立場で、米欧の厳しい対応とは距離を置いてきた。習近平(シー・ジンピン)国家主席も4月21日、博鰲アジアフォーラムで「一方的な制裁の乱用に反対」と、ロシア擁護の姿勢を示した。エール大学の調査によると、中国企業の8割強が今でもロシア事業をこれまで通り続けている。9割の企業が撤退、事業の縮小、停止などに踏み切った日米やドイツとは対照的だ」

     

    金融以外の中国企業は、よほどの「脱線」がない限り、二次制裁に抵触することはない。金融ビジネスでは、基軸通貨ドルの威力が絶対的であるのだ。

     


    (3)「それでも、大手行の中国銀行や中国工商銀行はロシアでの業務を制限しているという。中国国務院(政府)関係者も「ロシアと取引を増やす中国の金融機関への監視を米国が強めている」と警戒する。米国は中国にロシアへの支援をやめるよう求める一方、ロシア事業を進める企業に対する経済制裁の可能性もちらつかせている。国際決済市場では、ドルとユーロが8割近くのシェアを占め、人民元は2%にとどまる。制裁で中国の金融機関が国際決済網から排除されることになれば大打撃となる。ロシア事業の継続や拡大の利益と、制裁のリスクをてんびんに掛けながら、慎重に対応していく方針とみられる」

     

    よく、国際金融事情に詳しくない向きは、ドル通貨圏を離れて人民元通貨圏をつくればよい、などと「能天気」な提言をしている。米国市場が、世界に向けて解放されている現状を見れば、中国市場の規模と深みにおいてとうてい敵う相手でないのだ。こういう現実認識が、中国指導部において希薄であるから、習氏のようにトンチンカンな発言が飛び出すのだ。

     


    (4)「自らが制裁対象とならなくても、ロシアの経済や金融の混乱が長引けば、ロシア事業そのものが大きな損失を抱える恐れもある。中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)は財務の健全性を守るため、ロシアとその協力国のベラルーシに関連する全ての活動を保留している。金融以外では、ドローン(無人機)大手のDJIが26日、ロシアとウクライナでの事業を一時見合わせると発表した。同社は製品の利用目的を民生用に限っている。両国での事業がコンプライアンス(法令順守)上、問題があると判断したとしている」

     

    ドル通貨圏の威力を知り抜いているAIIBは、率先してロシアやベラルーシへの新規融資をストップした。ドローンのDJIも、米国政府からウクライナ戦争でロシア軍の「スパイ活動」の疑いをかけられ即刻、営業を一時中止すると発表。ピリピリした対応をしている。

     


    (5)「ロイター通信によると、中国国有石油大手、中国石油化工集との団(シノペックグループ)もロシアの石油化学会社シブールとの合弁事業を巡る協議を中止した。新たに5億ドル(約650億円)を投じて、石油化学プラントの建設を検討していたが、制裁の影響を考慮したとみられる」

     

    シノペックグループも、ロシアとの商談を中止した。米国から「二次制裁」の疑いをかけられれば、それだけで世界ビジネスに支障が出るからだ。

     

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    米国バイデン大統領は、ウクライナ戦争長期化を見据えて、長期的な軍事・人道支援へ向けて330億ドル(約4兆3200億円)の追加予算を議会へ要請した。バイデン大統領は、「自由のための戦い」と称している。このほか、新興財閥(オリガルヒ)の凍結資産をウクライナ復興資金に当てる法制化を求めた。

     

    ロシアのウクライナ侵攻によって、ウクライナの個人や企業の財産を含めた経済損失全体は、ウクライナのGDPの3倍以上にあたる約5650億ドルにも達するという試算が発表されている。この復興資金の調達が、新たな課題として浮上している。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月29日付)は、「バイデン氏、ウクライナ向け予算330億ドルを議会に要請」と題する記事を掲載した。

     

    バイデン米大統領は4月28日、議会に対しウクライナへの武器供与や経済・人道支援に充てる330億ドル(約4兆3200億円)の追加予算の承認を求めた。ウクライナとロシアの戦闘は3ヵ月目に突入しており、より長期的な支援を視野に入れる。今回の予算は9月末までの支援を手当てするもので、与野党から幅広い支持を得ている。

     

    (1)「バイデン氏はホワイトハウスで演説し、「ウクライナの人々が自国を守るのを支援するか、それともロシアがウクライナで残虐行為と侵略を続けるのを傍観するかだ」とした上で、これは「自由のための戦いだ」と述べた。議会は今年に入り、ウクライナ向け軍事・人道・経済支援として136億ドルの予算枠を承認している。バイデン氏は、資金がほぼ底を突いたとして、ウクライナへの防衛支援を続けるための追加予算を議会に求めた。議員らは、ウクライナへの新たな支援策を早期に承認する考えを示している。下院議員らは来週ワシントンを離れるため、法案成立に向けた手続きが進むのは早くても2週間後になりそうだ」

     


    2022会計年度では、すでに136億ドルの予算枠を承認している。今回の330億ドルを加えれば、466億ドルになる。米議会は,超党派でウクライナ支援に賛成しているので可決成立は間違いない。

     

    (2)「政府高官によると、今回の予算案には、軍事・安全保障分野に204億ドル、危機対応や国民の生活支援として85億ドル、食糧や農業など人道支援に30億ドルを盛り込んだ。バイデン氏は軍事支援について、「ウクライナの兵士が戦場で使用して大きな成果を上げている大砲や装甲車、対装甲システム、防空能力をさらに供与できる」と述べた。このほか、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)から没収した資金をウクライナ向け支援に回せるよう議会に法制化を求めた」

     

    今回の予算は軍事支援だけでなく、生活支援や人道支援で115億ドルが含まれている。軍事支援では、大砲、装甲車、対装甲システム、防空システムなどが含まれている。ロシア軍は、ウクライナ東部の攻撃で苦戦している模様だ。ウクライナ東部のロシア軍が支配している地域で、対独戦勝記念パレード(5月9日)を開催予定だったが、取消されたと報道されている。思わしい「戦果」をあげられないことが理由のようだ。西側諸国の軍事支援がロシア軍の進出を阻んでいる。

     


    新たな話題は、ウクライナの復興支援に注目が集まっている。西側諸国が、それだけ戦況有利と見ているのであろう。

     

    『日本経済新聞』(4月29日付)は、「米欧、ロシア資産活用案 ウクライナ復興支援」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアの侵攻を受けるウクライナの支援や同国の復興にかかる莫大な費用を、ロシアに負担させる動きが米欧で広がってきた。米議会では超党派が制裁で凍結したロシア人の資産を没収し、支援にあてる法案が審議される。欧州議会ではロシアの外貨準備の活用が浮上する。いずれも国際法などに基づく検討が必要で、実現には曲折がありそうだ。

     

    (3)「イエレン米財務長官は21日の記者会見で、「ウクライナ再建に必要な資金の一部をロシアに負担させることは、米国が追及すべきことだと思う」として、友好国と協調しロシア資産の活用を検討すると述べた。カナダのジョリー外相も27日、政府が制裁で凍結した個人や団体の資産を没収し、支援に充てる措置を検討していると表明した。米下院では3月上旬、民主党のマリノフスキー議員と共和党のウィルソン議員が共同でロシア資産を没収して支援にあてる法案を提出した」

     

    ウクライナ復興資金を、ロシアに負担させることは当然である。加害者責任である。米議会では、オリガルヒの凍結資産を復興資金に当てたいとしている。

     


    (4)「没収対象は、米国の制裁で凍結されたロシアのオリガルヒ(新興財閥)らの資産だ。200万ドル以上に相当する資産の没収を米政府に奨励するという内容だ。使い道はウクライナの復興・人道支援、同国への兵器供与などに限定する。下院は27日に同法案を可決したが、このまま成立するかどうかは不透明だ。言論の自由を監視する米市民団体などが、「資産を没収される側に反論の機会を与えなければ、憲法上の手続きを欠く」と主張する。仮に新法が成立しても、米裁判所が無効と判断する可能性があるというわけだ。

     

    オリガルヒの凍結資産は、1件200万ドル以上が対象としている。ただ、拙速に決めると法的な問題が生じるので、オリガルヒに反論の機会を与えるべきとの意見が出されている。

     


    (5)「欧州議会の議員の間では、ロシアの外貨準備を活用する案が取りざたされる。ロシア側は米欧の中央銀行などに預けている約3000億ドルの外貨準備が凍結されたと主張している。国際法違反の被害回復に関する2005年の国連決議は「被害を与えた当事者が(賠償などの)義務を果たせない場合に、被害者支援のための他のプログラムを確立するよう努める」と指摘する。バイデン米政権はイスラム主義組織タリバンが制圧したアフガニスタンでの人道支援のために、凍結されているアフガン中銀の資産70億ドルをあてる方針だ」

     

    欧州議会では、凍結しているロシアの外貨準備約3000億ドルを復興資金に充てるべきという案が出ている。2005年の国連決議では、被害を与えた国の賠償責任を認めている。これに従って、ロシアの外貨準備を没収しようとするものだ。

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    習近平氏は、今年の経済成長率について米国を抜けと無理な要求を出している。この実現を巡って国務院(政府)で意見の対立が起こっているのだ。緩和派(習側近)と慎重派が綱引きをしているのだ。中国経済は、不動産バブルの後遺症の上に、さらにロックダウンによる経済停滞が重なっている。

     

    経済政策の手直しを求める緩和派も利下げすれば、米中金利差が拡大して人民元の下落を懸念する。要するに、本格的な緩和策でなく、住宅金融を少々、緩める程度の話なのだ。これに対して、慎重派はバブル再燃に繋がると警戒する。いわば、コップの中の「対立」程度のこと。追詰められる中国経済に、実現可能な政策は極めて限られている。

     


    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(4月27日付)は、「中国指導部、不動産市場の規制巡り意見対立」と題する記事を掲載した。

     

    中国の政府高官や政策顧問らによると、劉鶴(リュウ・ハァ)副首相率いる規制機関は、不動産市場の締め付けや上海などの都市での新型コロナウイルス封じ込めのロックダウン(都市封鎖)が経済に与える影響を政府が過小評価していると懸念している。しかし、他の政府幹部は同副首相が不動産市場への圧力を緩和させようとしていることに反対している。北京の政府高官や政策顧問6人が『フィナンシャル・タイムズ』(FT)紙に明らかにした。劉副首相は長期にわたって、習近平国家主席の金融経済アドバイザーを務めている。

     

    (1)「中国政府内の政策を巡る意見対立は、同国が難しい選択に直面していることを浮き彫りにしている。中国のGDPは2022年1~3月期に前年同期比で4.%増えた。しかし、3月の小売売上高が3.%減少したことから、コロナでの規制が既に不動産市場低迷の影響を受けている経済を一段と鈍らせていることがうかがえる。4月26日の国営メディアの報道によると、習氏は重要インフラ部門への幅広い投資を加速するよう呼びかけたが、その金額や時期については明言しなかった」

     

    習氏は、米国に負けない経済成長率を実現せよと命令しているが具体策はない。名案がないから、政策実施部隊は悩んでいる。

     


    (2)「劉副首相は、中央銀行と銀行・証券などの規制当局の間に立って政策を調整する有力な委員会を率いている。同氏は、不動産購入に関する規制を緩めた多くの地方政府による最近の動きを支持している。しかし、政府高官や政策顧問らによると、他の2人の副首相、韓正氏と胡春華氏は住宅都市農村建設省を支持し、開発業者がプロジェクトで得られた収入の使い道を厳しく制限することで、業者への圧力を維持したい考えだという」

     

    3人の副首相が、1対2で意見が分かれている。不動産金融を緩めることに2人の副首相が慎重である。

     


    (3)「劉副首相が率いる金融安定発展委員会は、負債を抱えた開発業者にもっと自由を与え、住宅購入者からの前払いで得た収入を有効活用できるようにしたい考えだ。地方政府はこの1年、業者が得た収入は関係するプロジェクトの完成のためだけに利用できるよう、使用目的を限定してきた。劉氏と懸念を共有する政府顧問は、「銀行や債券投資家などの貸し手はすでに、開発業者に返済期限の延長を認めることが普通になっている」と指摘する。「このまま不動産業界が弱体化し続けると、不良債権が急増し、金融業界全体が行き詰まることになりかねない」とこの顧問は話す

     

    不動産金融緩和の根拠は、不動産業界が金融的に追詰められていると指摘する。住宅ローンなどを緩和して、在庫物件を売却し易くする。これによって、不動産業界の不良債権急増を防ぐ、としている。

     


    (4)「韓氏と胡氏の支持者は、ほとんどが国有である中国の銀行業界が打撃を受ける恐れがあるというのは大げさだと主張する。そのうちの1人は「全ての銀行が行き詰まるわけではない。健全な銀行が苦境に陥った銀行を救済すればいい」と話す。劉氏が長く、経済・金融面で中国最強の高官だとみなされている一方、韓氏は3人の副首相の中で最高位にある。韓氏は中国共産党の最高指導機関である中央政治局常務委員会の委員であり、来年任期満了で退任する李克強(リー・クォーチャン)首相の後任として最有力候補とみられている」

     

    不動産金融緩和への反対派は、銀行のメインが国有銀行であって、不良債権により行き詰まる懸念はない、としている。仮に問題銀行が発生したならば、その都度、救済すれば済むと反論する。

     


    (5)「パンデミック(世界的流行)が始まって以来、最悪の経済状況と将来展望に直面していながら、金融当局は過去数週間、控えめな緩和しかしていない。劉副首相と中国人民銀行の易綱総裁は、広範囲にわたる金利引き下げに慎重だ。この両者は、金利引き下げによって過去5年で安定しつつある債務の対GDP比率に影響が出るのを懸念している。また、米国の金利が久しぶりに中国の金利を上回っている現状で中国が金利を引き下げれば人民元の下落につながり、資本逃避が進む可能性があることを憂慮している

     

    不思議なのは、金融緩和派が政策金利引下げに反対していることだ。米中金利差拡大が、人民元相場の急落を招くと懸念する。要するに、極めて狭いレンジでの金融操作しかできないのである。これこそ、中国経済が絶体絶命の危機にあり、綱わたりを迫られている事実を浮き彫りにしている。

     

    (6)「易人民銀行総裁の側近の1人は、「劉氏と易氏はバブルの再燃を恐れている」と話す。「両氏は、必要としている人に資金を回したいと考えているが、それを幅広い政策ではない方法(預金準備率の引き下げや狙いを定めた融資基準)で達成できるとみている」という。

     

    中国の金融緩和は、預金準備率の引下げしかできない事態に追い込まれている。政策金利引き下げに手を付ければ、人民元下落に繋がる。中国経済へ重大な影響が出るのだ。


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