フィリピンのドゥテルテ大統領は、その奔放な発言で米同盟国でありながら、「反米姿勢」を見せるなど中国寄り言動を見せることもあった。だが、最近はすっかり様子が変わってきた。ロシアのウクライナ侵攻によって、「中ロ連帯」が取沙汰されるとともに、フィリピンは本籍である米同盟国として襟を正す様相を見せている。
ウクライナからの避難民は、300万人を超えている。これら人々の避難先として、EU(欧州連合)やG7のほかに、フィリピンも名乗り出ている。これは、同じキリスト教国という背景もあろうが、フィリピンが西側諸国と連帯していく意志を明確に表明したものだろう。
日本、フィリピン両政府は4月9日、都内で外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を初開催した。自衛隊とフィリピン軍の共同訓練の拡大に向けた協定を検討する。東南アジア諸国連合(ASEAN)はウクライナ侵攻でロシアや中国への配慮が目立つ。その中で、フィリピンは日本と「2プラス2」協議を行ない、安全保障協力を確かなものにする意図を明確にしている。
『ニューズウィーク 日本語版』(3月27日付)は、「中国、南シナ海で新たに3環礁を軍事基地化 米比は合同軍事演習を過去最大規模で実施へ」と題する記事を掲載した。筆者は、大塚智彦(フリージャーナリスト)氏である。
フィリピン軍と米軍による合同軍事演習「バリカタン」が3月28日から4月8日までフィリピン北部ルソン島を中心に行われることを3月22日にフィリピンが発表した。「バリカタン」は2020年には折からのコロナ感染拡大や米国との関係がこじれた影響などを受けて中止。2021年は規模を縮小して実施された。2020年にはドゥテルテ大統領がフィリピン国内での米軍の活動を認める「訪問軍地位協定(VFA)」の破棄を表明。米国との関係が一時悪化した時期もあった。
(1)「今回の「バリカタン」はこれまでを上回る最大規模で実施される予定で、フィリピン軍から3800人、米軍からは5100人の合計8900人が参加。南シナ海での中国の一方的な領有権主張、海洋権益拡大を受けて、水陸両用作戦や航空作戦、人道支援、対テロ作戦などを実施する予定で、過去最大規模の演習になるという。ちなみに「バリカタン」はタガログ語で「肩を並べる」という意味だ。
フィリピンは、同盟国として安全保障の砦を米国に求めている。ウクライナ戦争はいつ何時、災難が降りかかるか分らないリスクを示した。フィリピンには、中国からの侵略危機である。
(2)「今回のバリカタン合同軍事演習は、2月24日のロシアによるウクライナ軍事侵攻と無関係ではなく、3月10日には駐米フィリピン大使がドゥテルテ大統領の意向として、「ウクライナ情勢がアジアに波及した際は、米軍がフィリピン国内の軍事施設を自由に使用できるようにする用意がある」として、米軍の有事の際の増派に対応する姿勢を明らかにしている。今回の「バリカタン」はこうした背景からロシアによるウクライナ軍事侵攻、そして南シナ海での中国の活動を意識したものとなるとみられており、3月22日には米軍の輸送機オスプレイがスービック基地に先着している。米軍はかつて基地があったスービックやクラーク基地を拠点にルソン北部の演習場所に展開するものとみられている」
下線のように、アジアに危機が及んだときは、米軍が「フィリピン国内の軍事施設を自由に使用できるようにする用意がある」とフィリピンは言明した。具体的には、中国の台湾侵攻である。フィリピンは、はっきりと米国陣営に入ることを意思表示したと言えよう。
(3)「南シナ海は、中国が一方的に海洋権益を主張し「九段線」なる境界線を設定して自国の権益が及ぶ海域としている。このためフィリピン、マレーシア、ベトナムなどと領有権問題が生じている。フィリピンは、2014年にオランダ・ハーグの「常設仲裁裁判所」に対して仲裁を訴えた。そして2016年7月に同裁判所が「九段線」内の海域に対する中国の「主権主張は国際海洋法などの法的根拠がなく、国際法違反である」との裁定を下した」
中国が、強引にフィリピン、マレーシア、ベトナムの島嶼を奪った結果、フィリピンが常設仲裁裁判所へ提訴して、勝訴を勝ち取った。だが、中国が居座っており,軍事基地化している。
(4)「米軍とフィリピン軍がこの時期に過去最大級の合同軍事演習を実施する背景の一つとして、中国による南シナ海での環礁の軍事化が急速に進んでいることもあるとの見方が有力だ。米軍の偵察衛星などの情報から、米軍は少なくとも南シナ海の3つの環礁が最近中国による軍事拠点化が確認されたという。」
中国は最近、南シナ海の3つの環礁を軍事拠点化してことが米国によって確認された。フィリピンには不気味である。最近の米軍の報告では、中国が対空ミサイルや戦闘機などの配備が完了し、完全な軍事基地としての機能をもつようになったとしている。
(5)「フィリピンは長い期間、米の同盟国として国内にスービック海軍基地、クラーク空軍基地などに大規模な米軍が駐留していた過去がある。しかし1991年に両基地に近いルソン島中部のピナツボ火山が爆発し、噴煙などで両基地に甚大な被害がでたことや、支援を求めたフィリピンに米側が難色を示したことなどが重なり、当時のコラソン・アキノ大統領の意向に反してフィリピン議会が米軍駐留の法的根拠となる法案を否決したことから米軍の撤退が決まった経緯がある」
米軍がフィリピンを撤退した後に、中国が南シナ海の島嶼を占領して軍事進出した経緯がある。米軍が撤退しなければ、今日の事態を招かなかったのだ。その意味で、フィリピンには深い悔悟の気持ちがあるだろう。中国の南シナ海進出という危機によって、フィリピンは米比同盟関係を再認識しつつある。目が覚めたと言える。