勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    フィリピンのドゥテルテ大統領は、その奔放な発言で米同盟国でありながら、「反米姿勢」を見せるなど中国寄り言動を見せることもあった。だが、最近はすっかり様子が変わってきた。ロシアのウクライナ侵攻によって、「中ロ連帯」が取沙汰されるとともに、フィリピンは本籍である米同盟国として襟を正す様相を見せている。

     

    ウクライナからの避難民は、300万人を超えている。これら人々の避難先として、EU(欧州連合)やG7のほかに、フィリピンも名乗り出ている。これは、同じキリスト教国という背景もあろうが、フィリピンが西側諸国と連帯していく意志を明確に表明したものだろう。

     

    日本、フィリピン両政府は4月9日、都内で外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を初開催した。自衛隊とフィリピン軍の共同訓練の拡大に向けた協定を検討する。東南アジア諸国連合(ASEAN)はウクライナ侵攻でロシアや中国への配慮が目立つ。その中で、フィリピンは日本と「2プラス2」協議を行ない、安全保障協力を確かなものにする意図を明確にしている。

     

    『ニューズウィーク 日本語版』(3月27日付)は、「中国、南シナ海で新たに3環礁を軍事基地化 米比は合同軍事演習を過去最大規模で実施へ」と題する記事を掲載した。筆者は、大塚智彦(フリージャーナリスト)氏である。

     

    フィリピン軍と米軍による合同軍事演習「バリカタン」が3月28日から4月8日までフィリピン北部ルソン島を中心に行われることを3月22日にフィリピンが発表した。「バリカタン」は2020年には折からのコロナ感染拡大や米国との関係がこじれた影響などを受けて中止。2021年は規模を縮小して実施された。2020年にはドゥテルテ大統領がフィリピン国内での米軍の活動を認める「訪問軍地位協定(VFA)」の破棄を表明。米国との関係が一時悪化した時期もあった。

     


    (1)「今回の「バリカタン」はこれまでを上回る最大規模で実施される予定で、フィリピン軍から3800人、米軍からは5100人の合計8900人が参加。南シナ海での中国の一方的な領有権主張、海洋権益拡大を受けて、水陸両用作戦や航空作戦、人道支援、対テロ作戦などを実施する予定で、過去最大規模の演習になるという。ちなみに「バリカタン」はタガログ語で「肩を並べる」という意味だ。

     

    フィリピンは、同盟国として安全保障の砦を米国に求めている。ウクライナ戦争はいつ何時、災難が降りかかるか分らないリスクを示した。フィリピンには、中国からの侵略危機である。

     


    (2)「今回のバリカタン合同軍事演習は、2月24日のロシアによるウクライナ軍事侵攻と無関係ではなく、3月10日には駐米フィリピン大使がドゥテルテ大統領の意向として、「ウクライナ情勢がアジアに波及した際は、米軍がフィリピン国内の軍事施設を自由に使用できるようにする用意がある」として、米軍の有事の際の増派に対応する姿勢を明らかにしている。今回の「バリカタン」はこうした背景からロシアによるウクライナ軍事侵攻、そして南シナ海での中国の活動を意識したものとなるとみられており、3月22日には米軍の輸送機オスプレイがスービック基地に先着している。米軍はかつて基地があったスービックやクラーク基地を拠点にルソン北部の演習場所に展開するものとみられている」

     

    下線のように、アジアに危機が及んだときは、米軍が「フィリピン国内の軍事施設を自由に使用できるようにする用意がある」とフィリピンは言明した。具体的には、中国の台湾侵攻である。フィリピンは、はっきりと米国陣営に入ることを意思表示したと言えよう。

     


    (3)「南シナ海は、中国が一方的に海洋権益を主張し「九段線」なる境界線を設定して自国の権益が及ぶ海域としている。このためフィリピン、マレーシア、ベトナムなどと領有権問題が生じている。フィリピンは、2014年にオランダ・ハーグの「常設仲裁裁判所」に対して仲裁を訴えた。そして2016年7月に同裁判所が「九段線」内の海域に対する中国の「主権主張は国際海洋法などの法的根拠がなく、国際法違反である」との裁定を下した」

     

    中国が、強引にフィリピン、マレーシア、ベトナムの島嶼を奪った結果、フィリピンが常設仲裁裁判所へ提訴して、勝訴を勝ち取った。だが、中国が居座っており,軍事基地化している。

     


    (4)「米軍とフィリピン軍がこの時期に過去最大級の合同軍事演習を実施する背景の一つとして、中国による南シナ海での環礁の軍事化が急速に進んでいることもあるとの見方が有力だ。米軍の偵察衛星などの情報から、米軍は少なくとも南シナ海の3つの環礁が最近中国による軍事拠点化が確認されたという。」

     

    中国は最近、南シナ海の3つの環礁を軍事拠点化してことが米国によって確認された。フィリピンには不気味である。最近の米軍の報告では、中国が対空ミサイルや戦闘機などの配備が完了し、完全な軍事基地としての機能をもつようになったとしている。

     


    (5)「フィリピンは長い期間、米の同盟国として国内にスービック海軍基地、クラーク空軍基地などに大規模な米軍が駐留していた過去がある。しかし1991年に両基地に近いルソン島中部のピナツボ火山が爆発し、噴煙などで両基地に甚大な被害がでたことや、支援を求めたフィリピンに米側が難色を示したことなどが重なり、当時のコラソン・アキノ大統領の意向に反してフィリピン議会が米軍駐留の法的根拠となる法案を否決したことから米軍の撤退が決まった経緯がある」

     

    米軍がフィリピンを撤退した後に、中国が南シナ海の島嶼を占領して軍事進出した経緯がある。米軍が撤退しなければ、今日の事態を招かなかったのだ。その意味で、フィリピンには深い悔悟の気持ちがあるだろう。中国の南シナ海進出という危機によって、フィリピンは米比同盟関係を再認識しつつある。目が覚めたと言える。

     

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    ロシア経済は、資源輸出で支えているようなものだ。税収の4割が資源から得た利益である。その大黒柱を支えてきたのがドイツの旺盛な需要である。ロシアが輸出している天然ガスの内、ドイツは15.9%(2020年:米国エネルギー情報局調べ)と断トツである。ドイツが、ロシア経済制裁に最後まで慎重であった理由は、このエネルギー問題であった。

     

    そのドイツが、ウソのように「脱ロシア」で動いている。24年にロシアからの天然ガス輸入比率を1割までに下げるというのだ。ロシアにとっては恐怖であろう。ウクライナ侵攻の経済的代償は、これから「未来永劫」にわたりロシア経済を苦しめることになろう。

     


    『日本経済新聞』(4月10日付)は、「ドイツ、脱ロシア依存急ぐ」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツが化石燃料のロシア依存脱却を急いでいる。ショルツ首相は8日の会見で、ロシア産原油の輸入を年内に停止できるとの見通しを示した。当面は資源の調達先を分散しつつ、再生可能エネルギーの普及を急ぐが、安定調達へ課題も残る。

     

    (1)「8日、ジョンソン英首相と会談したショルツ氏は、「我々は原油のロシア依存脱却へ活動している。今年中にそれが実現できる」と共同記者会見で強調した。ドイツがロシアから天然資源を買い続ければ資金の供給を通じて経済制裁の効果を弱めるとの批判は国内外で強い。ただロシアからの調達が止まれば、独経済への打撃は大きい。ロイター通信によると、ドイツ銀行協会のゼービング会長(ドイツ銀行最高経営責任者)は今月、ウクライナ侵攻の影響で2022年の独成長率が2%程度に減速する見通しを示したうえで、ロシアからのガス・石油の供給が止まると「独経済は深刻な景気後退に陥る」と予測した」

     

    欧州世論では、ロシアから天然資源を買付けることが、ウクライナ戦争を長引かせるという批判に繋がっている。それだけにドイツ政府は、ロシアへの石油や天然ガス依存度引下げが、大きな課題だ。

     

    ロシアが、こうしたドイツの動きに先手を打って、輸出を止めるという「自殺行為」も予想できるが、プーチン大統領は「契約を守る」としている。厖大な戦費を稼ぐには、「輸出停止」はできない相談である。

     


    (2)「ドイツは欧州域内でロシア産原油の最大の輸入国だ。国際エネルギー機関(IEA)によるとドイツは21年12月時点で推計60万バレルの原油をロシアから輸入する。ウクライナ侵攻前まではロシアへの依存度は35%だったが、足元は25%まで低下した。中東などの主要産油国は大幅増産に消極的だ。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の野神隆之首席エコノミストは「在庫も取り崩しながら、米国やアフリカ、南米など他の産油国も含めて少しずつ確保して穴埋めすることになろう」と指摘する」

     

    国連統計によると、ドイツは2021年に114億ドル(約1.4兆円)相当の原油をロシアから輸入し、対ロ依存度は29%だった。ウクライナ侵攻前まではロシアへの依存度は35%だった。冬場で需要が高まっていたのだ。これからその需要期も過ぎる。

     


    (3)「他の国にも禁輸の動きが広がれば、ロシア産の穴埋めはより困難さが増す。欧州全体では21年にロシアから原油を推計日量240万バレル、石油製品で115万バレルを輸入している。限られた石油資源の争奪戦となり、原油価格には上昇圧力が大きくかかることになる。24年夏にもロシア依存から脱却するとした天然ガスは、3月に有力生産国のカタールと長期の調達契約を結んだ。独政府によると、ロシアへの依存度はすでに5割を下回っているという」

     

    ドイツの天然ガス調達のロシア依存の割合は、調達先の切り替えなどでウクライナ侵攻前の55%から40%にまで下がっている。今後も調達の多様化や再生エネルギーの拡大などが進めば、24年夏にはロシアからの輸入割合を1割程度にまで下げられるというのがドイツ政府の見立てという。

     


    ドイツは、ウクライナ侵攻など予想もしていなかったので、ロシアへ全幅の信頼を置いてきた。米国は、こういうドイツの「能天気」な動きに、これまでしばしば忠告してきた。ドイツは、これまで聞き流してきた咎めに苦しんでいる。地政学的リスクを無視していたのだ。

     

    (4)「エネルギーの分散も進める。6日に新たなエネルギー戦略を策定し、35年までにほぼ全ての電力を風力や太陽光などの再生可能エネルギーで賄う方針を打ち出した。原子力発電については明確な言及を避けたが、引き続き再エネへの転換を電力源の軸とする立場を維持している」

     

    ドイツは、原発廃止で動いている。その穴埋めとして、ロシア依存を高めたという背景もある。フランスの原発重視と好対照である。

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    ウクライナ戦争は、今からざっと120年前の日露戦争(1904~05年)と酷似している部分がある。ロシアは、アジアの「小国」日本を相手に戦った。この日本を支援したのが英国と米国である。英米は、ロシアの南下政策(満州と朝鮮半島の権益を握る)を食止めるべく、日本を支援した戦争である。日本は、日本海海戦勝利を機に、米国の勧奨によってロシアと講和条約を結んで終結した。

     

    今回のウクライナ戦争は、ロシアが「小国」ウクライナを侵攻した。これに対して、英米が主体であるG7(主要7ヶ国)によって、ウクライナ支援体制が組まれている。開戦当初は、ロシア軍の圧倒的に優勢な戦況が予想された。だが、ウクライナ軍の抵抗で善戦しているのだ。西側諸国は、さらなるウクライナ支援体制を敷いている。

     


    日露戦争とウクライナ戦争は、三つの共通点がある。

    1)ロシアが、「小国」と戦っている。

    2)「小国」側に、米英がついて支援している。

    3)ロシアは、小国相手ゆえに簡単に勝てると踏んで開戦している。

     

    こうした、共通点から、今回のウクライナ戦争は「第二の日露戦争」スタイルの決着になるかどうか。見ておきたい。

     


    『毎日新聞 電子版』(3月23日付)は、「日露戦争で大敗しながらウクライナでも同じ過ちを繰り返す 懲りないロシアの時代遅れな『帝国主義』ー河東哲夫」と題する記事を掲載した。筆者は、元外交官の河東哲夫氏である。

     

    (1)「ロシア兵士の士気は低かった。(日露戦争の)敗戦後にはロシア革命が勃発。ウクライナ侵攻と重なってみえる。1904年10月15日、ロシアが誇るバルチック艦隊は、バルト海の港を出港した。ロシアに戦いを挑んだ東洋の小国、日本の艦隊をたたきつぶし、海上補給ルートを断ち切ってやろうという作戦。いとも簡単に思われたこの企ては、大失敗に終わる」

     

    これは、日本海までの港がだいたい日本の同盟国、大英帝国の息がかかり、自軍基地もないから補給も思うにまかせない、半年以上の船旅となった。貴族の上級士官、ついこの前まで農奴だった水兵の間には、ストレスがたまる。05年6月には、そのストレスが高まり、黒海で戦艦ポチョムキン号上の反乱――士官は射殺――が起きている。あげくのはて、バルチック艦隊は対馬の海戦で、新型の日本艦に比べて大砲が旧式であることを露呈した。

     


    (2)「こうして05年5月には、バルチック艦隊は対馬の海に沈んだ。その直後、日本の依頼を受けた米国のセオドア・ルーズベルト大統領は、ロシアに和平を持ち掛ける。日ロ両国は同9月、米国のボストン北郊ポーツマスで講和条約を結ぶのだ。ロシアは「小国日本」をなめた上、自身の戦術、装備、軍隊の士気、その他がちぐはぐで、世界のほとんど誰も予想しなかった敗北を喫した」

     

    アジアの小国日本が、ロシア軍を打ち破る形となった。現実は、日本もこれ以上の戦い継続は無理であり、米国が見かねて講和を斡旋した形になった。「渡りに船」であったのだ。

     

    (3)「同じようなことが、今のウクライナで起きたらどうなるか。まさかと思うかもしれないが、ロシア軍、そしてその背後のロシアの経済・社会は百余年前にあった構造的な弱みを引きずっている。プーチン大統領は21年7月に、ウクライナはロシアと民族的・文化的には同一、そしてウクライナはまだ国家として十分機能してもいないという、上から目線の「歴史」論文を発表し、今回の武力侵略への狼煙をあげていた。何々についての「学問的な」論文を発表し、それで政府全体を洗脳するのは、昔スターリンがよく使った手。要するにプーチン大統領たちは100年前、「小国日本」へと同じく、ウクライナをなめてかかったのだ」

     

    昔のロシア同様、現在も「大国意識」に燃えている。自意識過剰で、地に足がついた戦闘準備を怠っていた。ウクライナ戦争でもそういう脆弱性が滲んでいる。

     

    (4)「兵士の士気。これも日露戦争の時を思わせる。ロシア陸軍の兵の多くは「契約兵」、つまり徴兵よりはまともな給与をもらってはいるのだが、しょせんはそうしたカネ狙い。上官の方は、「もうこいつにはカネを払っているのだから」ということで、昔の貴族よろしく、契約兵をアゴでこき使う。加えて兵士の中には、ウクライナに行くことを知らされていなかった者が多い。ウクライナ側に捕まったロシア兵捕虜は、「演習だと思っていたら、自分はウクライナにいたんだ」と言って泣いている」

     

    兵士の士気の低さは、昔も今も変わらない。日露戦争では、黒海で戦艦ポチョムキン号上の反乱が起こっている。現在は、出動命令を拒否して、原隊へ徒歩で帰った兵士(約300人)も報じられている。士気の緩みは想像以上である。

     


    (5)「そして通信。2008年8月、旧ソ連の小国だったジョージアに侵入したロシア軍は自前の通信装置が機能せず、市販のガラケーで相互の連絡を取った。秘密は筒抜け。そこで10年以降、ロシア軍は何兆円分もの予算で大々的な近代化に乗り出したのだが、今回はその効果が見えないようだ。通信がうまく機能しないと、作戦は麻痺する。どの部隊がどこにいて何をやっているか、モスクワの参謀本部は把握できているだろうか。
    かくて戦術、士気、装備、百年前のバルチック艦隊と同じような問題を露呈して、ロシアは対欧州正面の貴重な兵力の多くを失ってしまうかもしれない」

     

    部隊間の意思疎通が、満足にできないという根本的な弱点を抱えている。西側に通話を簡単に傍受され、7人もの将官クラスが戦死している。通信面では、「ザル」同然の部隊である。

     


    (6)「ロシアでは2024年、大統領選挙がある。西側の制裁で、その時インフレは数十%、輸入に依存していた消費財は店から消えてなくなっているだろう。プーチンは当選できない。彼を支えるシロビキ(主として旧KGB=ソ連国家保安委員会。ソ連共産党亡き今、全国津々浦々に要員を置く唯一の組織)は、自分たちの権力と利権を守るため、かつぐ神輿をすげ代えようとするだろう」

     

    次の大統領選挙は、2024年である。ウクライナ出身のノーベル賞作家は次のよう言っている。「テレビと冷蔵庫の争い」と指摘する。テレビは、政府のプロパガンダ。冷蔵庫は、物価上昇を指す。物価上昇が酷くなれば、政府のプロパガンダを見破って、プーチン氏は選挙に勝てないというのだ。さて、どうなるのか。

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    ロシア大統領府のペスコフ報道官は4月7日、英『スカイニュース』とのインタビューで、ウクライナに展開するロシア軍が「多大な」損失を被ったことを認め、ロシアにとって「大きな悲劇」だとの認識を示した。

     

    これまで、ロシア軍の被った死傷者の数の発表では、極めて少ないものであった。それが、大統領府広報官によって修正され、「多大な損失」へと現実を追認せざるを得なくさせたのは、もはや隠しきれなくなった結果であろう。気の毒に戦死者の遺体が、家族の元へ返されるに及んで、「ウソ情報」がばれてきたに違いない。

     


    「多大な損失」とは、どの程度か。米当局の推測では「15%」以上としている。軍隊では、10%以上の損失を受けると、部隊機能が損なわれるという。ロシア軍は、この限界値を超えた損害率になっている。これは、前線で敵と正面から対峙して戦闘できる状態でないことを意味する。ロシア軍のウクライナ北部からの撤退は当然、起こるべくして起こったことである。

     

    米軍やNATO(北大西洋条約機構)は、部隊再編して戦闘状態に復帰するには「数週間」かかると見ている。となれば、5月9日の対独戦勝記念日に、ウクライナ侵略「勝利宣言」を発する可能性は低くなるであろう。

     

    米『CNN』(4月9日付)は、「侵攻のロシア軍、退役兵含め増強模索 6万人以上かー米分析」と題する記事を掲載した。

     

    米国防総省高官は9日までに、ロシアがウクライナ侵攻軍の強化を狙い6万人以上の兵士の徴集を摸索している兆候があることを明らかにした。新兵や退役兵で手当てするとみているが、この人数の達成が実現するのかは現段階では不明とした。また、これら集めた兵士の訓練の程度や配備先などもまだわかっていないと述べた。

     

    (1)「ウクライナで消耗も伝えられるロシアの戦術大隊群を補強する、十分な訓練を終え、武装も十分な新たな部隊が投入された形跡はつかんでいないとも説明。ロシア軍の現在の戦闘能力については、ウクライナ侵攻に踏み切る前に準備していた水準の85%以下とも指摘した。動員していた戦車、戦闘機、取り置いていたミサイルの量や兵士の人数などの要因を踏まえ、80~85%の水準と推定。侵攻作戦に伴って死亡したロシア軍兵士の総数については特定しなかった」

     


    ロシア軍の15~20%が損耗状態という。この欠けた部分を補強するには、訓練も必要である。問題は、兵士の補充をどうするかだ。

     

    (2)「ロシア軍は、軍部隊への後方支援や機能維持に関する問題を解決していないともみている。この問題はウクライナの首都キーウ(キエフ)郊外に展開していた際にも判明していたとし、解決がなければ、迅速なスピード感を持ってウクライナ東部で部隊増強を進めることもかなわない可能性があるとした」

     

    ロシア軍が、北部でウクライナ軍の猛攻により撃退されたのは、兵站(補給)部門の脆弱性が原因とされている。米軍当局の判断によれば現在も、この弱点が補強されていないのだ。そうであれば、再びウクライナ東部や南部の攻撃において、兵站部の弱点を曝け出すことになろう。

     

    (3)「一方、ウクライナ軍参謀本部は、ロシア軍は兵士を補充する手段を探しているとの見方を示した。フェイスブック上で、ロシア軍の兵籍編入などの担当将校はこの問題の解決策を見つけるのに躍起となっていると明かした。その上で、徴兵担当者らは現在、2012年以降の除隊者を改めて取り込んでいるとした。特に、運転手、整備士、偵察の専門要員や下級の司令官級の確保に努めているという」

     

    ロシア軍は、補充兵の採用で10年前にまでさかのぼって、除隊者を集めるという。運転手、整備士、偵察の専門要員、下級指令官の確保に努めている。この兵員募集の内容を見ると、兵站部の弱点補強が中心になっている感じだ。一つ解せないのは、偵察や下級指令官という要の部分を募集する「粗雑さ」である。偵察や下級司令官は、一朝一夕に育てられるものであるまい。その枢要部分をこれから集めるというところに、ロシア軍が追詰められている感じを強くするのだ。

     


    (4)「参謀本部は、ロシアがウクライナと隣接するモルドバで分離独立運動が起きている地域内のロシアの旅券保持者をウクライナの侵攻軍に組み込む動きも見せているとした。ロシア軍は1990年代初期からこの地域に部隊を駐屯させている。ただ、同地域はロシアとは国境を接しておらず、ロシア軍に相当な規模の人数を送り込めるのかは不透明とした」

     

    モルドバで、ロシア旅券保持者を兵士にして,ウクライナ戦線へ派遣するという。これも、危険な戦術に見える。戦時中の日本が、「学徒動員」によって大学生を学業半ばで前線へ送った姿と二重写しになる。悲劇の繰り返しだ。


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    中国は、ロシアのウクライナ侵攻に対して「反対」意向を示さず、半ば支持する形を取っている。これは、中国がアジアで同様の「侵略戦争」を始める意志があることを言外に示しているのだ。こういう警戒感が、フィリピンでも顕著になっている。

     

    フィリピンは、自国領有の島嶼を中国に奪われている。このため、常設仲裁裁判所へ提訴し、勝訴した経緯がある。中国は、この判決に従わず不法占拠を続けている。フィリピンが将来、中国の軍事行動を警戒するのは当然である。日米と安保関係強化に動いている理由だ。

     

    中国の習国家主席はこれをけん制すべく、4月8日にフィリピンのドゥテルテ大統領とオンライン会談を行なった。その際に習氏は、ロシアによるウクライナ侵攻を念頭に「地域の安全が軍事同盟の強化によって実現できないことを改めて証明している」と指摘した。これは、フィリピンによる日米への接近を批判したものだ。

     


    一方で、習氏はフィリピンへ「アメ」も見せている。「フィリピンからより多くの優良製品を輸入しよう」と提案した。フィリピンにとって中国(香港含む)は、世界最大の輸出先だ。フィリピンでは電子部品や農産品などの輸入拡大への期待が高い。

     

    中国は、これまでフィリピンに対して「戦略的協力関係」を謳いながら、すべて空手形であった。こうして、フィリピンは中国への信頼度が極めて低い。その点、日本と強い信頼関係で結ばれている。4月9日、初めての日比「外務・防衛閣僚会合」(2+2会合)を開催した。日本外務省は、次のように会合結果を発表した。要約のみを掲載する。

     

    (1)「ウクライナ情勢について、日本側から、ロシアによるウクライナ侵略は明白な国際法違反かつ国際秩序の根幹を揺るがす行為であることを指摘しました。その上で、四大臣は、両国間で、今般の侵略が明白な国際法違反であり、国際秩序の根幹を揺るがす行為であること、武力行使の即時停止及びウクライナからの即時撤退を求めること、法の支配やウクライナの主権・領土の一体性の尊重、力による一方的な現状変更への反対といった点で、両国で連携して対応していくことを確認しました」

     

    ウクライナ侵攻について、日本とフィリピン両国が明確な国際法違反と認識した点は重要である。これは、両国が米同盟国として同じ歩調で歩むことを認め合ったことでもある。

     

    (2)「東シナ海・南シナ海情勢については、四大臣の間で深刻な懸念を共有し、比中仲裁判断や国連海洋法条約を始めとする国際法の遵守を確保していくことで一致しました」

     

    南シナ海における中国の不法占拠問題に付いて、中国が常設仲裁裁判所の決定に従うことを要求することで両国が一致した。尖閣諸島問題でも日本の領有権にフィリピンが賛成したのであろう。

     


    (3)「四大臣は、自衛隊とフィリピン国軍の間の訓練等の強化・円滑化のため、相互訪問や物品・役務の相互提供を円滑にするための枠組みの検討を開始することで一致しました。今後、円滑化協定や物品役務相互提供協定の締結の可能性も含め、検討を進めていきます」

     

    この項目は、非常に重要である。自衛隊は、すでに米軍や豪州軍と相互訪問や物品・役務の相互提供を円滑にする協定を結んだ。フィリピン軍とも同様の協定を結ぶべく協議をするというもの。これらの協定を結ぶと、相互に相手国を特別の手続きをすることなく訪問したり、弾薬やサービスの相互利用が可能になる。軍隊は別々であるが、相互に融通が可能になるという意味では、軍隊の「兄弟化」である。極めて密接な関係が成立する。

     


    (4)「四大臣は、国連安保理改革や核軍縮・不拡散体制の維持・強化に向けた連携で一致しました。フィリピン側から、日本の安保理常任理事国入りへの支持が改めて表明されました」

     

    フィリピンは、日本の安保常任理事国入りを支持するとしている。ウクライナのゼレンスキー大統領は、先の日本の国会での演説で国連改革と日本の安保常任理事国入りを支持すると発言している。ロシアのような安保常任理事国が、他国を侵略するという乱れた時代だけに、国連改革は必要である。

     

    今回の日比「外務・防衛閣僚会合」(2+2会合)は、アジアの安全保障体制がゆっくりと民主主義国の団結に向かって動いていることを示唆している。日本は、米国・豪州と密接な関係を築いているが、ここにフィリピンを加えることで、四ヶ国は、「同じ釜の飯」を食う関係になった。

     

    『日本経済新聞』(4月9日付)は、「米『中国が同盟ネットワークを懸念』、習氏発言を念頭に」と題する記事を掲載した。

     

    米国防総省のカービー報道官は、8日の記者会見で「中国が我々の同盟やパートナーシップのネットワークを懸念していることは明白だ」と強調した。中国の習近平国家主席がフィリピンのドゥテルテ大統領に米国との軍事同盟を強化しないよう促したことを念頭に置いた発言だ。

     

    (5)「カービー氏は、「米国はインド太平洋地域に戦略的利点を持っており、それは同盟やパートナーシップだ。中国にはそのようなものは何もない」と言明した。中国国営中央テレビ(CCTV)によると習氏は8日、ドゥテルテ氏と電話協議し、ロシアによるウクライナ侵攻を念頭に「地域の安全が軍事同盟の強化によって実現できないことを改めて証明している」と指摘していた。バイデン米政権は、南シナ海の実効支配を強める中国に対抗するため日本の役割拡大に期待している」

     


    中国と敢えて対決する必要はない。ただ、習近平氏が2035年をメドに、世界覇権を握ると豪語することは、プーチン氏の「ロシア帝国復活」目標と同様に、極めて軍事的に危険な目標である。フィリピンは、これまで「反米・親中」ポーズを見せてきた。だが、ウクライナ侵攻の現実を見るに及んで、ついに親米へ決断した。中国へ接近していたのでは、「第二のウクライナ」にされてしまう危機感が揺り動かしたのであろう。
     

     

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