勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    ロシア軍は、ウクライナ侵略で多くの戦死者を出している。その中で、少数民族出身者が2割を占めている。ロシア連邦の民族構成から見て多すぎると指摘されている。

     

    ウクライナ軍当局の発表によるとゼレンスキー大統領暗殺のために差し向けられた危険な任務の特殊部隊は、チェチェン出身者である。チェチェンは、ロシアの「属国」的な存在である。その意味では、少数民族と見て間違いない。このチェチェン特殊部隊兵士は、発音の違いなどから見破られ、ことごとく排除されたという。首都キーウ西部のブチャで破壊された大規模車両もチェチェン部隊の所属であることが分かった。また、戦争初期ホストメル空港に侵入しようとしたチェチェン兵士は、ウクライナ軍の攻撃で数百人が死亡した。

     

    韓国紙『中央日報』(4月1日付)は、「『ロシアの少数民族兵士、特に多くの犠牲者』と題する記事を掲載した。

     

    希望の見えないロシアの辺境を脱するために軍に入隊し、ウクライナ侵攻に動員された少数民族の青年たちが相次いで遺体となって故郷に帰ってきている。

     

    (1)「英国の日刊紙『ガーディアン』の3月30日の報道によると、シベリアの端のモンゴル国境に接するブリヤート共和国の首都ウラン・ウデで3月28日(現地時間)、ウクライナで戦死した4人の兵士の葬儀が仏教の比丘尼たちの取り仕切る中で行われた。戦死者の一人、ブラト・オドエフさんは軍隊生活10年目の軍人で、3月15日に故郷から6400キロ離れたウクライナのキエフ(現地読みキーウ)付近で死亡した。兄の妻のオルガさんは「彼は、仲間の期待に応えようとして参戦した。私たち家族の(戦争についての)考えは、政府当局とは異なるが、私たちには何もできない」と語った。そして「私たちは混乱している。この流血事態は終わらせるべきだ。私たちの青年たちが死んでいっている」と嘆いた」

     


    貧しい辺境の少数民族出身者が、軍隊を志願している。戦前の日本では、貧困な農家出身の若者が、軍隊では満足な食事が摂れると喜んで出征したという「悲話」が残されている。少数民族出身者は、これと似たような生活環境であるのだろう。

     

    (2)「ブリヤート共和国は、モンゴル系のブリヤート族が全人口の40%ほどを占めるロシアの辺境中の辺境だ。住民たちの月平均給与は、4万4000ルーブル(約6万4000円)に過ぎない。このような貧困から脱するために、多くの若者が軍への入隊を選択している。ブリヤートの地域メディア「ルディ・バイカラー」は、ブリヤート出身の戦死者はこれまでに45人確認されているとしつつ、実際の戦死者はこれよりはるかに多いだろうと伝えた」

     

    少数民族の月平均給与は、約6万4000円程度という。こういう中では、軍隊へ入ったほうが生活も楽かも知れない。だからと言って、侵略戦争の最前線へ立たせるのは、余りにも残酷な話である。

     


    (3)「近隣のトゥバ共和国出身の兵士もこれまでに96人が死亡しており、カスピ海に接する山岳地域ダゲスタン共和国からも少なくとも130人の戦死者が出ているとガーディアンは伝えた。これら3つの共和国出身の271人の戦死者は、ロシア政府が公式発表している1351人の戦死者の20%にのぼる。人口を考えれば、この高い割合はアンバランスだ」

     

    ロシア政府発表の戦死者名簿では、少数民族出身者が約2割を占めている。人口構成を考えれば多すぎて不自然である。何らかの意図があったと見られる。

     


    (4)「ロシアの軍事専門家パベル・ルージン氏は、「ブリヤート共和国のような貧しい『少数民族』出身の兵士に戦死者が多いということが、ますます明らかになりつつある」と指摘した。そして、階級の低い兵士は主に少数民族出身者が占めていると語った。ルージン氏は「不幸にも、普通のロシア人はモスクワやサンクトペテルブルク出身の青い目の兵士が死んだ時と比べると、ブリヤートやダゲスタン出身の兵士の戦死はあまり気にとめない」と指摘した。軍事作戦を企画する幹部たちもこれを知っているため、他の兵士を送らない場所に少数民族の兵士を送ると同氏は付け加えた」

     

    ロシア大都市出身者が戦死した場合、「反戦運動」が起こりやすい。だが、少数民族出身者の戦死では、社会的な反響が異なる。ロシア政府は、そういう計算をしているという。

     


    (5)「兵士の犠牲が相次いでいることで、ブリヤート族の間からは反戦の声もあがっている。ブリヤート出身のビャチェスラフ・マルハエフ国家ドゥーマ(議会)議員は、ウラジーミル・プーチン大統領が「最も近い我々の隣人と全面戦争するという計画を隠した」としてウクライナ侵攻を批判した。外国に居住するブリヤート人たちも「戦争に反対するブリヤート人」という反戦キャンペーンを繰り広げている。だが、ブリヤート現地は恐怖と戦争支持が交錯する中、表向きは平穏を保っているとガーディアンは伝えた」

     

    少数民族出身者は、じっと声を潜め泣き寝入りさせられている。だが、いつかこの不合理な事実が、ロシア社会全体に知れ渡ったとき、大きな衝撃を呼び起こそう。プーチン氏が引き起した少数民族出身者を使った侵略戦争。今回のウクライナ戦争の隠された事実である。

     

     

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    プーチン氏が、「手軽」に始めたウクライナ侵略戦争は、電撃的な勝利を収められず苦境に立たされている。停戦する大義名分を求めているが、ウクライナ側の強い愛国心と西側諸国の軍事支援で思い通りの結果は得られなくなっている。ロシアも停戦のタイミングを探っているはずだ。

     

    その理由は、厖大な戦死者数と戦費膨張である。国内の兵力も限界を迎えている。傭兵を投入するほどまでに人的資源が枯渇している。戦費が、ロシア財政を傾かせる。いつまでも続けられる侵略戦争でないのだ。

     

    ウクライナは、気候的に3月下旬から雪解け季節に入る。原野が泥沼化するのだ。ロシアは過去、このドア沼に助けられて二度の国土防衛に成功した。今度は皮肉にも、この「泥沼」がロシア軍の進軍の足かせだ。ウクライナの原野で、戦車や装甲車が立ち往生し、ウクライナ軍の餌食になっている。ロシアのウクライナ侵略は、最初から計算違いの連続である。

     

    『日本経済新聞』(4月1日付)は、「ロシア戦死者・損失、膨大に」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナ侵攻を巡るロシアの戦死者や軍備の損失が大きくなってきた。米欧の分析によると戦死者は米軍が過去20年にイラクやアフガニスタンの戦闘で出した死者数を上回った。ロシアで国内世論の反発や経済的な負担が増せば、戦況に変化が生じ得る。

     

    (1)「タス通信によるとロシア国防省が3月25日に公表した戦死者は1351人で、CNNは23日にウクライナ軍参謀本部の推定では15600人だと紹介した。これらの数字は情報戦の意味も含めてばらつきがあるが、ロシア軍のダメージが徐々に増えているのは確かだ。相手国領内に軍隊を送った近年の戦争事例としては、米国のイラク戦争やアフガニスタン戦争がある。米ブラウン大ワトソン研究所が2021年にまとめた報告書によると、01年の米同時テロ以降に戦闘行為で死亡した米兵は7000人強だった。大半をイラクとアフガンでの戦死者が占める。米欧の分析に基づけばロシア軍の戦闘での人的損失は侵攻開始から1カ月ほどで米軍の20年分に達したことになる

     


    ロシアのウクライナ侵略戦争は、1ヶ月で米軍20年間に相当する戦死者を出す結果になった。いかに、杜撰な戦争であるかが分る。ロシアが、人命を「鴻毛の軽し」と見ている証拠だろう。

     

    (2)「ブラウン大の報告書は米軍について、戦闘ではなく心理的な負担により自殺した現役兵と退役軍人の合計人数が3万人超にのぼるとも指摘した。全体の死者数は4万人近い計算になる。文化や民族が近いウクライナを攻撃するロシア兵も同じ現象が起こる可能性はある。ロシアのプーチン大統領は国内に情報統制を敷くものの、死者が増えていけば国内の厭戦(えんせん)ムードに波及しやすい。戦争継続の政治的コストが高まることになる」

     

    直接の戦死者数だけでなく、心理的な負担により自殺した現役兵と退役軍人の数まで含めれば、戦争の犠牲者はさらに拡大する。これは、米軍だけでなくロシア軍についても言える。特に、ロシアとウクライナは同じ民族である。米軍よりも心理的な負担は大きい筈だ。

     


    (3)ロシアの経済的な負担も大きい。英研究機関「経済回復センター」などは3月上旬、ロシアの戦争経費や破壊された兵器の損失額といったコストの合計を試算した。侵攻開始当初は1日あたり70億ドル(0.8兆円)だったが、その後に200億ドル(2.5兆円)規模に膨らんだと見積もった。米ハドソン研究所の長尾賢研究員は、この試算について「購入済みの兵器の損失など即座に支出が必要でないものが含まれる点は留意が必要だ」と指摘する。そのうえで「長期的なロシアへの影響を考えるには意味がある」と指摘する。ロシアの国内総生産(GDP)は1.5兆ドルほどで、1日200億ドルの損失が1カ月続くとGDPの4割、2カ月半で100%に相当する規模となる

     

    下線分は、ウクライナ侵略戦争の戦費負担が、いかに大きいかを示している。1日200億ドルの損失と仮定すれば、すでにロシアGDPの4割を費消した勘定になる。

     


    武器弾薬の費消は、次のような状況である。

    米経済誌『フォーブス』(ロシア語版)はウクライナ軍の情報による試算として、ロシアが2月24日の侵攻開始から16日間で計51億ドル(約6200億円)の軍需品を失ったと報じた。戦車などの軍用車両、戦闘機などを含む。欧州のシンクタンク、CIVITTAなどが3月上旬にまとめた報告書によると、ロシア軍が侵攻の当初4日間で失った兵器や兵員のコストは70億ドル。戦闘に関連するすべてのコストは1日あたり200億~250億ドルにのぼるという。

     

    前記の日経記事では、1日200億ドルの損失と仮定しているが、これを25%増しの1日250ドルの戦費と計算すれば、ロシアのGDPは2ヶ月で食い潰される計算だ。

     


    (4)「米議会に提出されたリポートによると、米国のイラク戦争とアフガニスタン戦争の戦費支出はピークの年でもGDP比で10%未満だった。これは戦争にかかわる財政支出の計算だった。ロシアの失った兵器の価値も合算した経済回復センターの報告書とは算出基準が異なるため比較できないものの、ロシアにとって重荷であることはうかがえる。精密誘導弾のような高価なミサイルなども戦費がかさむ要因となる」

     

    これまで、ロシアによるウクライナ戦争継続期間は、財政的に5月が限度とする見方があった。1日250ドルの戦費と計算すれば、ロシアのGDPは4月で食い潰される計算になるゆえ、5月限度が信憑性を持つ。

     


    (5)「ロシア国防省は3月29日、ウクライナの首都などでの軍事活動を縮小すると表明した。米国は懐疑的で状況を見極める構えだが、ロシア軍が戦線を絞り込むような動きではある。ロシアの前身である旧ソ連は1979年から10年間、アフガニスタンに侵攻した。ロシア国内にはその負担がソ連崩壊と冷戦終結の一因になったとの記憶がある」

     

    ロシアが、ソ連崩壊の二の前にならないためには、早く停戦することだ。プーチン氏のメンツで、停戦しなければ国家財政が破滅の危機を迎える。

     

     

     

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    天罰を受けたと言うべきか。はたまた、無知と言うべきか。ロシア軍は1986年、あの世紀の爆発事故を起したチェルノブイリ発電所付近で塹壕を掘り、多くの兵士が放射能を被爆し撤退のやむなきに至った。

     

    塹壕を掘ったのは、発電所から10キロメートルほど離れた「赤い森」である。ここは、立ち入り制限区域内に位置しており、事故による放射性物質を含む煙やちりが雲となり、大量の放射性物質がこの地域に降り注ぎ、マツの木々は枯死した場所だ。

     

    事故後の汚染除去作業で、赤い森にあるマツの木々の大部分が伐採されて埋められた。ここが、「赤い森」である。その上を砂で厚く覆いマツの若木が植林された。伐採された木々は、放射性物質による汚染がひどかった。他の場所に移動させることは、危険を伴うためにその場に埋めざるを得なかったのである。

     


    木々は、朽ちるにつれて放射性物質が地下水に達することが懸念されてきた。こうして、近くの住民は「赤い森」の周辺の汚染された地区から避難したのである。ロシア軍は選りに選って、この危険地帯で塹壕を掘ったのだ。地下の放射能が、ロシア兵を襲ったのは当然である。ロシア軍の上官が、こうした事実を知らなかったとは迂闊であった。

     

    米『CNN』(4月1日付)は、「ロシア軍、チェルノブイリ原発から撤退 ウクライナ原子力企業が発表」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナの原子力発電所を監督する国営企業、エネルゴアトムは31日、ロシア軍がチェルノブイリ原発と周辺施設から撤退したと明らかにした。エネルゴアトムはテレグラムで発表した声明で、「チェルノブイリ原発と立ち入り禁止区域内の他の施設を奪取した占領者」が2列の隊列でウクライナとベラルーシの国境に向かったことが確認されたと述べた。

     


    (1)「チェルノブイリ原発では1986年4月26日に原子炉4号機で爆発が発生し、直後に30人が死亡。その後、大勢の人が放射線症状のため亡くなった。同原発と周辺地域は今年2月下旬、ウクライナでの戦争の最初の週にロシア軍の手に落ちていた。エネルゴアトムによると、ロシア軍は3月31日、同原発から撤退してウクライナ側の人員に管理を委ねる意向を明らかにした。エネルゴアトムはまた、ロシア国家親衛隊とロシア国営原子力企業ロスアトムの代理人、およびチェルノブイリ原発のシフト管理者が署名したとされる正式書簡の写しも投稿した」

     

    被爆したロシア軍兵士には気の毒だが、侵略されたウクライナ国民は命を落としている。命があるだけでも、ロシア軍兵士は感謝すべきかも知れない。

     


    (2)「テレグラムに投稿されたエネルゴアトムの声明によると、同原発にはまだ少数のロシア人が残っている。エネルゴアトムはさらに、「ロシア人が立ち入り区域内で最も汚染された『赤い森』に要塞(ようさい)や塹壕(ざんごう)を築いていたとの情報も確認された」「従って、占領者が大量の放射線を浴び、病気の最初の兆候にパニックになったのは驚きではない。それは非常にすぐ表れた。その結果、軍内部で暴動のようなものが発生した」などとしている」

     

    ロシア軍兵士は、大量の放射能を浴びているという。軍内部で暴動のようなものが発生したとされるが、身体の不調に気付いた結果、そこが「赤い森」であることを認識し、騒ぎに発展したのであろう。噴火口でキャンプをしていたような話である。

     


    (3)「CNNは現時点でこれらの主張を検証できていない。米国防総省高官は31日、記者団に対し、米国もロシア軍がチェルノブイリやキエフ北郊と北西郊から撤退するのを目撃していると明らかにした」

     

    米軍は常時、軍事衛星でロシア軍の動きを監視している。それによって、チェルノブイリやキエフ北郊からの撤退が確認されたのであろう。英国メディアによれば、バス7台分に及ぶロシア兵が隣国ベラルーシのゴメリにある放射線専門医療センターに搬送されたと報じられた。 

     

     

     

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    これまで海外の避難民受入れに消極的であった日本政府が、ウクライナ避難民を積極的に受入る方針へ転換する。国民世論の強い支持に動かされた形だ。政府は、林芳正外相、中谷元・首相補佐官らを4月1日夜からポーランドに政府専用機で派遣し、現地で避難民の受け入れ状況を視察することになった。政府は、帰国時に避難民を移送する計画を検討している。

     

    避難民受入れは、人口減に悩む日本にとって将来、定住して貰えれば労働力不足を補う機会にもなる。潜在的成長率押し上げのきっかけになるという期待だ。日本社会の「純血主義」への変革の助けになる機会でもあろう。

     


    米国は最大10万人のウクライナ避難民を受け入れる方針だ。バイデン政権の高官が3月24日に明らかにした。さまざまな法的手段を活用して入国を認めるという。同高官によれば、こうした避難民の一部は難民として受け入れるが、臨時入国や非移民ビザの申請も認める。米国到着の具体的な時期については明示しなかったが、今後数年にわたって入国する可能性があると示唆した。ウクライナではこれまでに1000万人超が家を追われ、340万人余りが国外に避難。このうちの約200万人はポーランドに逃れた。

     

    『ブルームバーグ』(4月1日付)は、「ウクライナ避難民受け入れで異例対応、政府専用機で移送や生活支援も」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナ避難民の受け入れで日本政府が異例の積極姿勢を示しており、政府専用機による移送や入国後の生活支援も検討している。世論の後押しもあり、支援団体からは消極的だった難民政策の転換につながるよう期待する声が上がっている。

     


    (1)「岸田文雄首相は、日本での受け入れを希望する避難民の渡航費支援を検討するほか、入国後は受け入れ先との調整、日本語教育、就労・就学、定住の支援を行う考えを示している。林芳正外相、中谷元・首相補佐官らを4月1日夜からポーランドに政府専用機で派遣し、現地で避難民の受け入れ状況を視察する。共同通信によると、政府は帰国時に避難民を移送する計画を検討している」

     

    日本政府は、外相や首相補佐官を今夜、ポーランドへ派遣する。帰国時には、避難民を移送する計画を検討しているという。実現すれば、素晴らしい人道的な行為となろう。

     


    (2)「
    避難民受け入れを岸田首相が表明した32日から29日までに325人が日本に入国した。日本の難民認定数は2020年で約4000人の申請に対し47人で、認定しなかったが人道的な配慮を理由に在留を認めた外国人とあわせてもわずか91人。13万人を認めた英国などと比べて極めて低い水準にとどまっていた。一国に対する特別な措置はミャンマーやアフガニスタンに対しても行われてきたが、難民支援協会の新島彩子氏は、ウクライナ避難民の受け入れを巡る政府の対応は「今までにない異例な迅速さ」だと語る」

     

    日本が、今回のウクライナ避難民受入れへ舵を切った以上、他国の避難民も同様に遇せねばならない義務を負うはずだ。

     


    (3)「新島氏は、今回の特徴として地方自治体や民間企業、個人にも支援の輪が拡大していると指摘する。パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスが100世帯の避難民を受け入れると発表。ファーストリテイリングは1000万ドルの寄付と衣服20万点の提供を行う。東京都も都営住宅を提供する。日本経済新聞3月25~27日に実施した世論調査によると、ウクライナからの避難民を受け入れる方針に「賛成だ」と回答した人が90%で、「反対だ」の4%に大差をつけた」

     

    世論調査で、90%が避難民受入へ賛成している。これまでの各種世論調査で、これだけの高い「賛成」率はなかった。

     


    (4)「難民を教育面で支援しているパスウェイズ・ジャパンの折居徳正代表理事は、「政府は難民受け入れ、難民認定について世論が支持していない、とずっと言っていたが、政府自らが違うということを今回証明した」と指摘。日本にとって「非常に大きな出来事だ」と述べ、今後は自治体や企業の支援と避難民を円滑に結び付け、「経験として蓄積していくことが重要」と指摘する」

     

    日本社会は、外国人受入れに対して「鎖国意識」であった。それが、大きく「開国意識」へ変わったとも言えよう。貴重な転機である。

     


    (5)「今回の経験を踏まえ、難民受け入れを進めれば経済効果もあるとの見方もある。第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストの試算では、10万人の外国人材受け入れで潜在GDP(国内総生産)は0.1%増加する。永浜氏によると、ウクライナ避難民の受け入れ人数は少ないため、「マクロ的な影響は限定的」だが、今後政府が数十万人と難民を多く受け入れることになれば、経済的な「影響は出てくる」という」

     

    経済の話を持ち出すと、「計算尽くか」と非難されがちだがそうではない。日本にもプラスになる。「情けは人のためならず」である。我が身にも良いことがあるのだ。10万人の避難民が、仮に定住してくれれば潜在成長率を0.1%引き上げる。

     


    (6)「ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査部長は、ウクライナ避難民の受け入れは大国ロシアが独立国に侵攻するという非常事態に対応した極めて特殊な例であり、国際協調をアピールする意味合いが強いとの見方を示す。世界各地の地域紛争で出てくる難民を受け入れる話とは次元が違うとして、「政府の姿勢が変わったという訳では全くない」と述べた」

     

    日本政府が、避難民についてウクライナ人だけを特別待遇するのでなく、他国の人々にも同様に門戸開放をしなければならない。これは、その通りである。

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    ウクライナ大統領は、ロシアに対して「言葉だけでは信じられない」と手厳しい姿勢を続けている。ただ、先の停戦交渉によって、おぼろげながら将来のウクライナの姿が浮かび上がってきた。

     

    ロシアは、この侵略戦争で経済的に大きなダメージを受けている。欧州復興開発銀行(EBRD)によると、停戦が近く実現すれば今年のロシア経済はマイナス10%成長、23年はゼロ成長と見込んでいる。欧米から資本と技術の流入が遮断される影響は今後、長引くと予想している。ウクライナ経済は、今年がマイナス20%成長と大きく落込むものの、来年は急回復を見込んでいる。

     

    このように、停戦を前提にした経済予測ができるようになってきた。だが、停戦が実現するまでにはいくつかの問題が横たわっている。

     


    米『CNN』(3月31日付)は、「ロシアとウクライナの交渉、停戦への道筋示すも行く手には地雷原」と題する記事を掲載した。

     

    3月29日、イスタンブールで行われたロシアとウクライナの代表団による会合では政治的ムードはかなり改善され、おぞましい壊滅的戦争の全面的解決の輪郭が、おぼろげながらも見え始めた。会合では、クリミアおよびドンバス地方の今後の在り方やウクライナの中立的立場、安全保障の確約による保護、現在キエフ北部で展開しているロシア軍の大幅な撤退の他、プーチン大統領とゼレンスキー大統領の首脳会談の可能性についても話し合われた。

     

    (1)「ウクライナ側はロシアが2014年に併合したクリミアの地位について、今後の課題とすることに合意した。クリミア併合に関してはウクライナも欧米諸国もこれまで承認していなかったが、ポドリャク大統領府顧問は今後の展望として、「この領域の地位に関しては、15年間かけて二国間協議で話し合うことに双方が同意した」と述べた。「これとは別に、二国間協議が行われる15年間は軍事的敵対行為を行わないことについても話し合った」とも報道陣に語った。これにより、もっとも対立を深める争点のひとつが、とりあえず棚上げされる形となる」

     

    ロシアが一方的に併合したクリミアの地位については、両国が今後15年間かけて協議する。その間の軍事的敵対行為を行なわない点も合意した。これは、ウクライナ側の主張が通ったものだろう。

     

    (2)「歩み寄りの中でも直近のものとして、チェルニヒウと首都キエフに対する攻撃を大幅に縮小するとロシアが宣言したことが挙げられる。北部ウクライナのチェルニヒウはこの3週間ロシア軍に包囲され、甚大な被害を被っていた。とくに重大なのは、ウクライナ側の提案が十分に調整されており、「大統領に提示することができる。我々も今後適切な返答を提示する」とメジンスキー氏が発言したことだ。「合意交渉が迅速に行われ、妥協が見出せるのであれば、和平合意の可能性もより近づくだろう」と同氏は述べた――2月末の最初の交渉以来、ロシア当局者の考えとしてはもっとも前向きな発言だ」

     

    北部ウクライナのチェルニヒウは、この3週間ロシア軍に包囲されて、甚大な被害を被っていた。ウクライナ側は、この攻撃を縮小するように求めている。次回の停戦交渉で回答が出れば、和平合意の可能性に近づくとしている。

     

     

    (3)「これまでロシア当局者は、大統領本人が直接協議の場につく前にさらなる交渉が必要だとして、プーチン大統領の交渉参加を一切退けていた。だが今やロシア国営通信社のRIAノーボスチは――ロシア代表団の発言として――両国外相による和平協議と並行し、プーチン大統領とゼレンスキー大統領による首脳会談もありうると報じた。交渉の仲介にあたったトルコのチャブシュオール外相は「一刻も早い停戦実現に向けた最優先事項は、恒久的な政治的解決への道筋を築くことだ」とし、想定されるシナリオについて語った」

     

    ロシア側は、両国首脳会談について拒否してきたが、軟化姿勢を見せている。その前に,外相会談をすることになった。

     


    (4)「ウクライナにとって、安全保障の確約はつねに紛争解決の要だった。だが次第にゼレンスキー大統領も政府当局者も歩み寄りの姿勢を見せ、憲法で謳(うた)われているNATO加盟はウクライナの権利――むしろ義務――というこれまでの主張を譲歩している。そこへきて今、非常に異なる提案が持ち上がっている。会合の後、ウクライナ交渉団の1人ダビッド・アラカミア氏はウクライナのTVに対し、「我々は全ての保証国が署名する国際協定を策定し、批准することを強く主張する」と発言した」

     

    ウクライナ側が、NATO加盟を断念する代わりに、安全保障の国際協定を要求している。

     

    (5)「ウクライナ当局者によれば、この協定は保証当事国の議会で批准されなくてはならない。またウクライナは、保証国にロシアも含む国連安全保障理事会の常任理事国を加えたい考えだ。安全保障の確約は非常に具体的なものになるだろう、とアラカミア氏は述べた。ウクライナに対して侵攻や軍事作戦が行われた場合には「3日以内に協議を行わなければならない」。「その後、保証国には我々の支援が義務付けられる。軍事支援、兵力、武器、飛行禁止区域――我々が今非常に必要としながらも、手に入れることができずにいるもの全てだ」。ウクライナが現在目指しているものは、保護下での――かつ恒久的な――中立性と言えるだろう」

     

    国際協定は議会批准が必要であること。保証国には、ロシアも含む国連安全保障理事会の常任理事国を加えたい考えである。これによって、恒久的な中立性を保障させる意向だ。

     


    (6)「別の交渉団のメンバー、オレクサンドル・チャリー氏は次のように語った。「ウクライナの安全保障再建に向けて、あらゆる手段を講じることが主要条件だ。我々にとって根幹的要件であるこれら主要事項を確立できるなら、ウクライナは事実上、永世中立という形で非同盟国、非核国としての地位を固める立場を取るだろう」。さらにチャリー氏はこうも続けた。「(我々は)領地内に他国の軍事基地や他国の軍隊を配備しない。軍事的、政治的同盟は締結しない。国内での軍事演習は、保証国の同意のもとでのみ行う」。プーチン大統領がこれまでずっと要求の中核に据えてきたのもこの点である」

     

    ウクライナは永世中立という形で、非同盟国・非核国としての地位を確立する。この点は、プーチン氏の要求にもあう。

     


    (7)「ウクライナはNATO加盟という野望を断念する代わりに、EUへの早期加盟を目指すことがさらに明確になった――これに関しても、ウクライナは保証国の後押しを望んでいる。
    ウクライナ国民の間でも広く支持されているEU加盟の可能性が見えてくれば、ウクライナ政府が公約に掲げてきた安全保障を伴う中立性も、国民投票で全面的に承認されることになるだろう」

     

    ウクライナは、NATO加盟を諦める。だが、EUへの早期加盟を実現する。これが実現の方向であれば、安全保障を伴う中立性も国民から承認される可能性が見えてくるであろう。

     

     

     

     

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