中国は、長期にわたって続いた「一人っ子政策」によって、子どもは一人という認識が完全に定着した。習近平氏が、躍起になって出生数を増やそうと努力しているが、無駄ダマになっている。
最大の理由は、女性の進学率(短大を含む)が男性を上回って伸びていることだ。2020年(UNESCO調査)をみると、女子63.93%で男性の53.57%を10ポイントも上回っている。
女性は、小さい頃から「子どもは一人」という親の意見を聞かされて育っている。その上、中国社会が「男性上位」のままであり、入社時に「子どもを生みますか」と聞いて、言外に「生まないでほしい」というプレッシャーを受けているのだ。女性のキャリアにとって、出産がマイナス・イメージである。
女性の大学進学率上昇が、出生率の低下に拍車をかけるパターンを生み出している。中国社会全体が、子どもを大切に育てようという認識が不足しており、中国の将来は一段と厳しくなっている。
英紙『フィナンシャル・タイムズ』(4月19日付)は、「中国の『ゼロコロナ』政策、出生率の低下に拍車」と題する記事を掲載した。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が始まる以前から、中国は世界の少子化トレンドの中心地だった。だが、コロナ禍の2年間で出生率の低下が加速している。
(1)「中国の出生率(人口1000人あたりの出生数)は2019~21年に30%弱低下した。大飢饉(ききん)に見舞われた1959~61年以来、2年間で最大の落ち込みとなった。21年の出生数は1060万人にとどまり、共産党政権が発足した1949年以降で最低を記録した。国連人口部のジョン・ウィルモス部長は、20年後半に報告された出生数の減少について「例年の出生率の季節変動と整合しない」とし、パンデミックが出生率に影響を及ぼしている「明らかな証拠」だと指摘した。中国政府の「ゼロコロナ」政策の一環としてロックダウン(都市封鎖)が敷かれている上海など複数の都市では、コロナ禍による混乱が続いている」
中国の「ゼロコロナ」政策による都市封鎖が、出生率の急低下に大きな影響を与えているという。外出禁止という異常事態に遭遇するリスクが消えない以上、出生率低下は不可避のようだ。
(2)「中国は以前から人口減少の瀬戸際にあったと多くのアナリストはみている。数十年に及ぶ産児制限に女性の高等教育や労働市場への参入が相まって、子育てに対する意識が様変わりしている。人口統計学者は、この傾向を覆すための抜本的な措置が講じられなければ、英医学誌ランセットに掲載された研究で予想されたように、中国の人口は現在の14億人から、今世紀末までに7億3000万人に半減する恐れがあると警鐘を鳴らしている。そうなれば、中国政府にとって頭の痛い政策問題が生じる。増加する高齢者の年金や医療費を、減少する生産年齢人口の税負担で賄わなければならなくなるからだ」
中国人口は、今世紀末に現在の14億人が7億3000万人へ半減する危険性を抱えている。その理由は、若い女性のキャリア意識の向上と社会意識のギャップの大きさにある。これを変えない限り、出生率は高まらないのだ。
(3)「ロンドンを拠点とする調査会社TSロンバードのチーフ中国エコノミスト、ローリー・グリーン氏は「出生率が低下すると、経済成長に貢献する労働者や消費者は減少する」と指摘する。専門家によると、パンデミックがもたらした健康や経済面の不安から、多くのカップルが結婚や子作りの決断を遅らせたり、見送ったりしている。婚姻件数は減少しており、20年の届け出数は12%減の813万組にとどまった。婚外子を持つことはまれであるため、出生率にも影響が及ぶと専門家は警告している」
中国社会は、儒教倫理で男尊女卑の社会だ。日本もそういう傾向を持つが、欧米的な男女平等という認識が根付かない限り、人口問題が中国の社会と経済のネックになる。
(4)「南京市に住む一人っ子の母親のレア・ジャオさん(31)は「政府がどんな政策を用意しても、2人目を産む気にはなれない。子供の世話に払う犠牲は大きすぎる」と話す。彼女が生まれた1989年、中国の出生数は2400万人だった。そして第1子を出産した2020年、出生数は1200万人に半減していた。元会計士のジャオさんは、2人目に消極的な理由として社会的要因も挙げた。自分の就職がさらに難しくなるのではないかと懸念しているという。「雇用側は、私が2人目を望んでいて、家庭の事情で精力的には働けないと思うだろう」ジャオさんが以前勤めていた会社は、女性の応募者に未婚か既婚か、子どもを持つ予定があるか質問したという。「男性には決してそんな質問はしない」と指摘する」
このパラグラフで指摘されている点は、その通りであろう。中国の就職難は今後、さらに強まるはずである。不動産バブル崩壊で,潜在成長率が低下する結果だ。こうなると、就職難→結婚難→出生率低下という悪循環に陥るであろう。こうなると、万事休すである。
(5)「中国の女性運動家の呂頻氏は、現金給付を通じて出生率向上を図る政策について、女性が子どもを多く産みたがらない理由に対処できていないと主張する。「出産はキャリアに影響しないと請け負う前に、若い母親に対する職場の差別の解消に取り組む必要がある」という。ただ、男女平等が進んだとしても、中国の人口減少は止まらない可能性があるとみる専門家もいる。「(中国の)現在の出産適齢期の女性は生まれてからずっと、子どもの数を少なくするよう言われてきた」と易氏はいう。「こうして植え付けられた考え方は、政府の政策で一朝一夕に変わるものではない」
このパラグラフは、日本社会へも適用すべき事柄である。高学歴社会になると、性差別の撤廃が出生率上昇に寄与するであろう。財政的な支出によって出生率向上を図ることも大事だが、性差別撤廃は何ら金銭的な出費を伴わないのだ。