勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    ロシア軍のウクライナ侵略は、ロシアの抱える数々の弱点を曝け出している。他国を侵略する道徳的欠如だけでなく、ロシア軍の中央集権的な指揮命令系統が、いかに機能しないかを露呈した。すでにロシアの将官クラス(大将・中将・少将)20人中、5名が戦死したと報じられている。

     

    将官クラスが、最前線に立つこと自体が驚きである。第一線の現場では、将官を欠くとそれに代わる指揮官がいないことから混乱は必至である。これに伴い兵士が、暴徒化する危険性も増す。ロシア軍では、兵士の規律を監視する下士官が存在しないこともあり、将官不在というタガネが外れると、兵士の行動で収拾がつかなくなるというのだ。

     

    『ニューズウィーク 日本語版』(3月23日付)は、「将官が次々と死亡し暴徒と化すロシア軍」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナ侵攻から1カ月弱で、ロシア軍はすでに前線で戦う将官を少なくとも5人失ったと、西側当局者が321日に発表した。通信障害と何十万人もの徴集兵を含むロシア軍の規律の欠如によって、前線に命令を伝えることが困難になっているためだ。死亡したロシア軍将官は、そのほとんどが准将や少将など星1つあるいは2つの司令官で、少なくとも中将が1人含まれている。ロシア軍将官の死傷率は第2次世界大戦以来最も高いとみられている。

     


    (1)「西側情報機関の情報分析に詳しいあるヨーロッパの外交官は21日、『フォーリン・ポリシー』誌に、少なくとも5人のロシア軍将官が死亡していると語った。その主な原因は、電子通信機器の故障で指揮官の居場所を特定され、攻撃の標的にされたこと、さらに約20万人という大部隊(その多くは若い徴集兵)を命令に従わせるために、将官が前線に出向かざるをえなくなっていたことだという。「彼らは最前線にいる部隊に命令を理解させるのに苦労している」と、この外交官は、最近の戦場での情報活動について、匿名を条件に語った。「指揮官は命令を実行させるために現地に赴かざるをえないため、通常では考えられないほど大きな危険にさらされている」という」

     

    ここでは、ロシア軍が20万人の大部隊で編成されたという。これだけの部隊を統括するには、将官クラスが前線へ出て指揮を執るという。

     


    (2)「この外交官によると、ロシア軍将官の死者数は、ウクライナに展開する部隊の司令官の5分の1(西側情報当局の推定では20人)に上り、軍の活動能力も低下しさらに行き詰っているという。「すべては軍の準備不足が原因だ」と外交官は言う。「何かをするために部隊に命じても、それが実現しない」。21日未明、政府寄りのタブロイド紙『コムソモリスカヤ・プラウダ』は、ウクライナでの約1カ月の戦闘でロシア軍兵士9861人が死亡、1万6153人が負傷したと報じた。ロシア国防省の公式統計のリークまたはハッキングによる数字と見られている。この記事は後に削除された」

     

    ロシア軍の戦死者は、9861名に上っているという。負傷が、1万6153人で戦死者と合せ2万6014人となる。派遣部隊を20万とすれば、13%に当る。部隊の1割以上が欠ける場合、戦闘能力が著しく低下するとされる。ロシア軍が現在、主要都市で進軍が止まっているのは、こうした背景があるからであろう。

     

    (3)「約1カ月に及ぶウクライナ侵攻は、30年以上前のソビエト連邦崩壊以来、ロシア軍にとって最大規模の派兵となるようだ。1980年代のソ連による9年間のアフガニスタン戦争では、ピーク時に11万5000人の兵士がいた。チェチェンでの2回の戦争におけるロシア軍の戦力は10万人をはるかに下回っていた。ロシアは2008年にジョージア(旧グルジア)に、2014年にウクライナに、さらに少数の部隊を派遣し、時には軍服を着用しない部隊を使ってその動きを隠した」

     

    ロシア軍が、約20万の兵士をウクライナへ派遣したとすれば、1991年にロシアへ衣替えして以来の「大軍」の出撃となる。過去の戦争とは規模が異なるし、間接的に西側諸国全体と戦うことになった。

     


    (4)「米国防当局の高官は21日、匿名を条件に、戦況の率直な評価を記者団に語った。「ロシア軍は伝統的に、欧米の軍隊より厳格なトップダウンの指揮系統を持つため、下士官の柔軟性がはるかに低く、戦術的な意思決定の細部に至るまで、上級士官が関与しているという。どのように組織され、どのように指揮するかという点では、(米国と)大きな違いがある」

     

    ロシア軍の中央集権的な指揮命令系統は、将官の戦死というアクシデントに見舞われると機能しない現実を見せつけている。極めて、硬直的な組織であることが分る。ウクライナ軍は、ゲリラ的に柔軟な戦いをしているので、勝機に恵まれているのだ。

     


    (5)「欧米の情報機関は、ロシア軍が当初から直面している後方支援の問題とともに、ロシアの指揮能力の劣化を感じ取っており、その結果、命を落とす将官が増えていると考えている。また、将官だけではなく、多くの佐官級将校が犠牲になっていると伝えられている。元米海兵隊員だった外交政策研究所のシニアフェロー、ロブ・リーは、「部隊の指揮官を失うと、問題が大きくなる。誰かが任務を引き継ぐのか難しいためだ」と話す」

     

    指揮官を失ったロシア軍は、烏合の衆になる。現状は、この状態に陥っている。

     

    (6)「前述したヨーロッパの外交官は、『フォーリン・ポリシー』の取材に対し、ロシアの徴集兵が食料を求め、店舗や民家で略奪行為を働いたときなど、ロシアの将官が現場に出向いて規律を説かなければならない場面もたびたびあると述べている。現役や過去の米政府高官たちは、ロシアは西側の軍隊とは異なり、下士官の規律を維持する専門組織がないため、ソーシャルメディアをにぎわしているような戦争犯罪につながっていると述べている」

     

    旧満州で、ロシア兵が日本人の家庭へ押し入り、貴重品を略奪した話が伝わっている。昔も今も、こういう行状に変わりないのだ。ロシア軍には、兵士の規律を維持する専門組織がないという。略奪は当然、起こることだ。 

     

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    ロシア軍は、ウクライナの主要都市で攻めあぐねている。ウクライナ軍の防空体制が強化されているためだ。旧ソ連軍が残した防空システムと西側諸国から供与された武器の一体化運用で効果を上げている結果である。

     

    ウクライナ軍は、旧ソ連時代の中央管理型の指揮系統を捨て、北大西洋条約機構(NATO)型に近づいたことも要因と指摘されている。これにより、下位の小部隊に攻撃権限が与えられ機動的な戦術が可能になった。ロシア軍は、いまだに中央管理型指揮体系を取っているので、将官クラスが最前線に立って戦死する事態を招いている。ウクライナ戦争で、すでに4人の将官が戦死している。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月23日付)は、「
    ウクライナ防空網、対ロシアの意外な切り札」と題する記事を掲載した。

     

    ロシア軍は2月、戦闘機や爆撃機、誘導ミサイルなど最新鋭兵器を投入してウクライナへの侵攻を開始した。だが、ここ3週間余りの戦闘で大きな打撃を受けており、ロシア軍が完全に制空権を握ることができるのか疑問が生じている。

     

    (1)「ウクライナ軍は1980年代の旧ソ連製地対空ミサイルに加え、米国など西側から提供された肩撃ち式ミサイルなど最新兵器を組み合わせ、ロシア軍の戦闘機やヘリに甚大な被害を与えている。米国や同盟国はウクライナへの防空システム補充を急いでいる。ウクライナ軍当局者によると、こうした取り組みが奏功し、少なくとも一時的にはロシア空軍の作戦が止まった。ロシア軍幹部はこのところ、巡航ミサイルや弾道ミサイルで標的を狙っていると強調している」

     


    ロシア軍は、ウクライナ上空からの攻撃ができなくなっている。ウクライナ軍に反撃されて撃墜される危険性が高まっているためだ。そこで、遠距離からミサイル攻撃をするようになっている。ロシア軍の劣勢を示す現象であろう。

     

    (2)「西側諸国が供与した短距離の最新型対空システムはウクライナの防衛力強化で重要な役割を果たしている。西側からの武器提供により、ウクライナは防衛力を高めることができたが、軍事・民間施設へのロシア空爆による深刻な被害は防げていない。ロシア軍はここ数日、東部への攻撃を強化しているほか、ポーランドとの国境に近いウクライナ西部にも空爆を加えている」

     

    ウクライナは、防空体制の整っていない地方都市で、ロシア軍の猛攻を受けて被害を広げている。

     


    (3)「ロシア軍がウクライナ上空で制空権を確立できないのは、開戦後数日間の手痛い過ちに関係している、と軍事専門家は指摘している。ロシアはウクライナ軍施設に弾道ミサイルや巡航ミサイルを発射し、空港の滑走路や早期警戒レーダーシステムを破壊した。しかし、ウクライナ軍が保有する地対空ミサイルの多くは残った。ウクライナ陸軍予備軍大佐で軍事専門家のオレグ・ジダノフ氏は「ロシア軍は最初の48時間にわれわれの防空システムを消滅させなかった」と話す。「これはロシア軍にとって致命的な過ちだ。今ではわれわれの防空システムに接近することはほぼ不可能になった」と指摘」

     

    下線のように、ロシア軍は開戦48時間でウクライナ防空システムを壊滅できなかった。これが、致命傷になっている。ウクライナの主要都市は、防空システムが健在で機能している。

     


    (4)「ロシア空軍機は、ウクライナの長距離対空ミサイルから逃れるため低空飛行を余儀なくされており、携行型兵器の射程に収まる高度で飛行していると指摘されている。そのため、ロシア機は熱線追尾式の短距離ミサイルの格好の標的となり、ウクライナ軍の射撃練習場と化している区域もあるという。ウクライナ東部のドンバス地方でロシアが支援する分離主義派との戦いが始まった8年前以降、ウクライナ政府は一段と強力な敵に対してどう臨むべきか戦略を練ってきた。空軍の広報担当者は「われわれは敵を痛い目に遭わせるため、さまざまな戦術を開発してきた」と述べる」

     

    映像でも分るように、ロシア機が低空飛行している。ウクライナの長距離対空ミサイルを逃れるためだが、皮肉にもこれによって、ウクライナの短距離ミサイルの餌食になっている。プーチンの豪語も形なしである。

     


    (5)「ウクライナの対空装備は、30年前の旧ソ連崩壊で残された兵器で主に構成される。これには1970年代の就役当時は最新鋭だった旧ソ連製の地対空ミサイルシステム「S300」が含まれる。老朽化しているが、40キロ余り離れた標的を撃ち落とせるものもある。ロシア製の地対空ミサイル「ブーク(BUK)」も45キロ離れた標的を撃ち落とすことが可能だとされる。ウクライナは短距離システムの「オサー」「ストレラ」「ツングースカ」も配備しており、いずれも冷戦時代のものだ」

     

    ロシアは、旧ソ連時代にウクライナへ残した防空システムで苦しめられている。開戦前に、こういう事態を想定していなかったとすれば、杜撰な侵略戦争を始めたものである。

     

    (6)「ウクライナ軍がこの種の旧型装備の使い方を心得ているという点には、西側諸国も留意している。ドイツとオランダはスロバキアにパトリオットを送り、同国が保有するワルシャワ条約機構時代の地対空ミサイルシステム「S300」をウクライナに提供するよう促した。米国は極秘に取得していた旧ソ連製の対空ミサイルシステム「SA8」をウクライナに送っている」

     

    旧ソ連地域であったスロバキアは、地対空ミサイルシステム「S300」をウクライナへ提供するように促されている。こうして、旧ソ連時代の兵器体系がロシア軍に立ち向かう事態になっている。

     


    (7)「ウクライナの防空網は1カ月近い戦闘で損害を被っている。南東部の港湾都市マリウポリなど、ウクライナの一部地域は空からの攻撃に対して守りが極めて手薄なままだ。
    一方で、首都キエフを筆頭に、他の都市では万全な防空態勢を整えていると、アナリストやウクライナ当局者は話している」

     

    首都キエフなどの主要都市が、万全な防空態勢を整えているとなれば、ロシア軍は最後に何を仕掛けるか。化学兵器などの最悪手段を用いれば、ロシアはNATO軍の介入という事態を招きかねないであろう。そうなると、ロシアは自滅の危機だ。

     

     

     

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    ロシア軍は、クライナでの戦争を率いる軍の指揮官を指名しているのかどうか。米国は、確認できないことが分かった。米『CNN』(3月22日付)が以下のように伝えた。

     

    米国の現旧当局者によると、ロシアの攻撃が拙劣で無秩序なように見える主因が、最高指揮官不在の可能性が高いとしている。米国防当局者2人によると、全戦域を統括する最高指揮官がウクライナ国内や周辺にいない中、異なるロシア軍管区から来てウクライナ各地に展開する部隊は、互いの活動を調整するどころか、むしろリソースを奪い合っているように見えるというのだ。

     


    こうした、ロシア軍の混乱ぶりの裏に、ロシア本国で「プーチン暗殺計画説」という物騒な政情不安が起こっているのでないかという疑問が持ち上がっている。

     

    『ニューズウィーク 日本語版』(3月22日付)は、「ロシアエリートがプーチン暗殺を計画──ウクライナ情報」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのエリート層はウラジーミル・プーチン大統領の「排除」を計画しており、後継者候補も既に考えてある――ウクライナの情報当局がこう伝えた。

     


    (1)「ウクライナ国防省の情報総局長は3月20日、同省のフェイスブック公式ページにこのセンセーショナルな主張を投稿した。その書き出しはこうだ。「毒殺、突然死、事故――ロシアのエリート層がプーチン排除の可能性を模索している」。投稿文はさらに、「ロシア政財界のエリート層の中に、反プーチンを掲げる、影響力のある人々のグループが形成されている」と指摘する。「彼らが目指すのは、プーチンを権力の座から排除すること。そしてウクライナでの戦争が原因で失われた、西側諸国との経済的なつながりを回復させることだ」としている」

     

    「脱プーチン」が、ロシアやウクライナばかりでなく、世界を救う唯一の方法であることは確かだ。民主社会であれば、国会が不信任して職を解くという穏便な方法がある。だが、ロシアのように独裁社会では、そうした手法が効かないのだ。プーチン氏が、「戦争を止める」と決めなければ、戦争の悲劇は無限に続くシステムになっている。

     


    すでに,ロシア経済は復活が不可能なまでのダメージを受けている。ロシアだけでない。ウクライナは、さらにおびただしい人命の損傷を被っている。ロシア・ウクライナという世界の穀倉地は、戦乱で小麦やトウモロコシの輸出ができず、世界食糧危機へ向かわせているのだ。プーチンは、米バイデン大統領が決め付けたように「戦争犯罪人」である。

     

    (2)「この投稿によれば、このグループはプーチンの暗殺を目論んでおり、既に後継候補も決めている。ロシア連邦保安局(FSB)の長官で、ウクライナ侵攻に先立ってウクライナの世論や軍事力に関する分析を率いた、アレクサンドル・ボルトニコフだ。ウクライナ国防省情報総局長は、プーチンとボルトニコフの関係が最近、悪化したと主張。ウクライナでの戦況が思うように進んでいないことについて、プーチンがFSBに責任をなすりつけていることが原因だという」

     


    問題は、暗殺という手法の犯罪性である。さらに、暗殺計画や後継候補まで公にされている点が、ウクライナからの「情報戦」という疑問を感じさせる。要するに、ロシア側を揺さぶる戦術が透けて見えるのだ。

     

    (3)「ボルトニコフは現在、ロシアのエリート層と手を組んで、寵愛を失った」と同局長は投稿文の中で主張する。「その公式の理由は、ウクライナ侵攻についての致命的な誤算だ。ウクライナの世論やウクライナ軍の能力の分析は、ボルトニコフ率いるFSBの担当だったからだ」

     

    プーチン氏は、ロシア連邦保安局(FSB)幹部を自宅謹慎させているという情報が飛び交っている。これが、プーチン氏との不仲説を生んでいる理由であろう。

     


    (4)「一連の文章は、ウクライナ政府の公的機関が投稿したものだが、その主張を裏づける具体的な証拠は、ほとんど示されていない。忘れてはならないのは、今回のように戦況が刻々と変化する紛争においては、どちらの当事者も、相手側が「不安定化しつつある」という主張を展開することで、得をする可能性があるということだ。本誌は一連の疑惑について、在米ロシア大使館にコメントを求め、また投稿内容が正確かどうか複数の専門家にも意見を求めた。彼らから返答があり次第、最新の情報をお伝えする」

     

    このパラグラフでも指摘しているように、戦況の膠着がもたらした「情報」という面もあろう。プーチン暗殺計画の真偽は別として、独裁者に暗殺がつきまとうことは真実である。あのヒトラーでさえ、側近から命を狙われた未遂事件に遭遇した。プーチン氏にも、そういうリスクが高いことは疑いないであろう。

     

    (5)「米上院議員のグラム氏は33日のツイッターで、「これ(ウクライナでの戦争)を終わらせる唯一の方法は、ロシア国内の誰かが奴(プーチン)を始末することだ」と投稿し、さらにこう続けた。「それがロシアに、そして世界に大きく貢献することになるだろう」。ホワイトハウスのジェン・サキ報道官はグラムの発言を強く非難し、国際社会に対して、ジョー・バイデン政権がそのような行動を支持することは決してないと断言した」

     

    米政府は、米国内においてプーチン暗殺計画が取沙汰されること自体、関わっているような疑惑を生みかねないリスクがある。この問題について、西側諸国は沈黙するのが得策に違いない。

     

     

     

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    ウクライナ軍は、旧ソ連時代の兵器体系に慣れ親しんできた。この特性を生かすべく、米国は数十年前に入手した旧ソ連製防空システムをウクライナ軍へ提供する。この意表をつく作戦にロシア軍は驚くであろう。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月22日付)は、「米、旧ソ連製ミサイル防衛システムをウクライナに提供」と題する記事を掲載した。

     

    米国はウクライナ軍を支援するため、何十年も前にひそかに入手した旧ソビエト連邦製兵器をウクライナに提供している。複数の米当局者が明らかにした。

     

    (1)「米国は、情報専門家に点検させ、米軍の訓練に役立てる目的で少数の旧ソ連製ミサイル防衛システムを入手していた。今回ウクライナに提供するのは対空ミサイルシステム「SA-8」など。ウクライナ軍はソ連解体後にこの種の兵器を受け継いでおり、慣れている」

     

    ポーランドが、ソ連製戦闘機「ミグ21」をウクライナへ提供したいと米国へ提案した件は、米国の反対で白紙になった。米国は、ロシアとの直接戦闘を回避するのが基本戦略である。米国の最大の「仮想敵」は中国である。雌雄を決する「世紀の戦い」の前に、中国へ手の内を見せる戦争をしたくないのだ。それだけ、余裕を残したいという戦術である。

     


    (2)「米国防総省は、ほとんど知られていない旧ソ連製兵器を提供するという判断についてコメントを控えた。バイデン政権はウクライナの防空能力の強化に取り組んでいる。米当局者によると、ウクライナに提供する兵器にベラルーシの「S-300」は含まれない。米政府はウクライナの防空能力を高め、同国が設定を要請している飛行禁止区域(NFZ)を実質的につくり出したい考えだ」

     

    米国は、旧ソ連製の対空ミサイルシステム「SA-8」などをウクライナへ提供するという。ウクライナが、米国へ切望しているロシア機の飛行禁止区域(NFZ)設定に代わる機能を構築する意向である。NFZ設定には、NATO(北大西洋条約機構)も否定している。設定によって、ロシア軍との直接戦闘に陥るリスク回避が目的である。戦線拡大が、人命損失を招くという理由である。

     


    『ウォール・ストリート・ジャーナル(3月22日付)は、「ロシア、ミサイル攻撃多用 ウクライナへ圧力強化」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアはウクライナの首都キエフやオデッサなど各地への攻撃を続けている。ウクライナに南部と東部の領土を放棄させることを狙い、ロシアは作戦の転換を図っているとの見方がある。

     

    (3)「ロシアの軍事侵攻に停滞が目立つ中、民間人が住む地域への空爆が増えてきた。ウクライナ政府への圧力を強化し、譲歩を引き出したり要求をのませたりすることを目的とした消耗戦の様相も呈している。一方、ジョー・バイデン米大統領は今週、欧州を訪れる。対ロシア制裁や人道支援などについて、北大西洋条約機構(NATO)や先進7カ国(G7)、欧州連合(EU))の首脳らと話し合うとみられる。ロシア外務省は21日、米国との2国間関係は「崩壊寸前」だと警告した。同日に米国のジョン・サリバン駐ロシア大使を召喚し、ウラジーミル・プーチン大統領を「戦争犯罪人」と呼んだバイデン氏に抗議した」

     


    ロシアは、市街戦による被害増大を恐れて、ミサイル攻撃を行っている。これによって、ウクライナ側を恐怖に陥れ、ロシアに有利な停戦に持込もうという狙いだ。ウクライナ側は、停戦にはウクライナ国民の賛成が必要と切り返している。ミサイル攻撃の恐怖に屈しないという意思表示なのだ。

     

    (4)「戦闘が膠着状態に陥っているキエフ周辺では、ロシア軍は砲撃や長距離ミサイル攻撃でウクライナ軍の陣地破壊を狙ったとみられ、21日は集中砲撃の轟音がほぼ絶え間なく鳴り響いた。ロシアは、武器庫として使われているとみなすショッピングモールを破壊した。ロシア国防省は21日、攻撃の様子を映した動画などを公開。ウクライナがキエフ近くの前線にいるロシア軍に向けてミサイルを発射するために駐車場を使っていた証拠なども示されているとした。ウクライナ当局によると、この攻撃で少なくとも8人が死亡した」

     

    ロシア軍が、下線のようなミサイル攻撃の動画を公開している理由は、ウクライナ市民へ厭戦気分を高めて、ロシアに有利な停戦条件を引き出す狙いである。

     


    (5)「ウクライナ側では、ロシア工作員が潜入して自軍のための標的探しを行っているとの懸念が広がっている。キエフの市長は現地時間21日午後8時から35時間の外出禁止令を発表した。南部の港湾都市マリウポリでは、ロシアがウクライナ軍に投降を要求。ウクライナのイリナ・ベレシチューク副首相は投降の選択肢がないと述べ、ロシアに対して民間人を安全に退避させるよう求めた」

     

    ウクライナ人が、ロシアへ抱く敵愾心は価値観の違いに基づく。ロシア人の中世的道徳観に対して、ウクライナ人は親西欧の近代価値観に憧れているのだ。旧ロシア帝国への郷愁は、ウクライナ人にゼロである。こういう状況で、ウクライナがロシアへ「白旗」を掲げる可能性はない。ロシアは、無益な戦争を仕掛けていることに気付くべきなのだ。

     

     

     

     

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    ロシアのウクライナ侵略戦争をきっかけに、中ロの蜜月関係が世界的に浮き彫りにされている。米国の安全保障への警戒感は、いやが上にも高まっているのだ。こうした背景で米議会では、世界的EV(電気自動車)メーカーに成長したテスラ社の経営者マスク氏が、中国と「ベッタリ」な関係であることに警戒感を強めている。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月22日付)は、「マスク氏と中国の蜜月、米議会で安保上の懸念に」と題する記事を掲載した。

     

    イーロン・マスク氏の中国とのつながりを巡り、米ワシントンで警戒が強まっている。こうした危機感はマスク氏の熱心な支持者である共和党議員の間にも広がっているようだ。米国側で最も懸念されているのが、マスク氏が率いる非公開の宇宙開発ベンチャー、スペースXが持つ機密情報を中国が入手するリスクだ。中国政府とつながりのあるスペースXの外国サプライヤーを通じて、情報が漏れる可能性などが警戒されている。

     


    (1)「米議員の一部は、同じくマスク氏が率いる電気自動車(EV)メーカーのテスラとスペースXの間に明確な線引きがない点を問題視している。テスラは中国で大規模な事業を展開。中国はマスク氏が推進する比較的安価な「リン酸鉄リチウム(LFP)」バッテリーを採用している。米議員らが懸念する背景には、中国が宇宙技術の開発に力を入れていることで、米中の覇権争いがさらに激しさを増しているとの事情がある。さらに中国の習近平国家主席がロシアのウラジーミル・プーチン大統領との関係を深めていることも、米中間の緊張が高まる要因となっている」

     

    米議会は、マスク氏のスペースX(宇宙技術)が中国へ漏れることを警戒している。マスク氏が、中国絶賛発言を続けているので、中国との密着ぶりに注目が集まっているものだ。

     


    (2)「クリス・スチュワート下院議員(共和、ユタ州)は、情報衛星の打ち上げを調整する米国家偵察局(NRO)など関係機関の当局者による非公開の説明会開催を求めている。中国政府がスペースXと直接的あるいは間接的につながっていないか見極めるためだ。下院情報委員会のメンバーであるスチュワート氏は、「私はイーロン・マスクとスペースXのファンだが、中国との金銭的なつながりがあれば誰もが懸念するだろう」と述べた。「議会はこの件に関して十分な監視の目を持っていない」と指摘する」

     

    下院情報委員会のメンバーであるスチュワート氏は、未上場のスペースXに中国政府と関連のある企業が投資していないかについても、情報を求めている。

     


    (3)「テスラは上場しており、中国ネットサービス大手テンセントホールディングスは2017年、テスラの株式5%を取得したことを明らかにしている。マスク氏は当時、「テンセントをテスラの投資家およびアドバイザーとして迎えることをうれしく思う」とツイートしており、出資以上の関係であることを明らかにしていた。テンセントは2018年に持ち分を4.97%まで下げ、それ以降は情報を開示していない。テンセントの広報担当者は、今もテスラ株式を保有しているのかとの質問に対して、情報は提供できないと述べた」

     

    中国ネット大手のテンセントは、テスラの株式5%を保持していたが、2018年に4.97%へ引下げている。これは、テンセントの情報開示に絡む操作であろう。こういう関係にテスラの「暗さ」を示唆しているのだ。

     


    (4)「中国は、テスラにとって主要市場だ。共産党と習氏の支援を受けていることが大きい。低金利融資や安値での土地提供といった優遇措置を受けて建設された上海工場は2019年に稼働を開始し、車両やバッテリーの組み立てが行われている。テスラは2018年と19年初頭、米国で想定通りに生産台数を引き上げることができず、手元資金が枯渇して財務が急速に悪化していた。同社の2021年の年次報告書によると、上海工場の建設を支援する14億ドル相当のファシリティーを含め、19~20年に中国の銀行から2件の融資を受けていた。同社によると、昨年に6億1400万ドルを返済し、いずれのファシリティーも終了した」

     

    テスラは、19年初頭まで量産化が進まず経営危機にあった。それが上海工場建設で、中国から破格の待遇を受けて経営が立ち直った経緯がある。マスク氏にとって、中国は恩人に当る。低利で融資設けられたのである。

     


    (5)「上院情報委の共和党トップ、マルコ・ルビオ上院議員は12月、第三者を経由して中国が宇宙技術を入手する脅威に対処するための法案を提出した。法案は米航空宇宙局(NASA)など米政府機関が、中国とつながっているサプライヤーと取引のある企業への発注を禁じることなどを盛り込んでいる。ルビオ氏はマスク氏の主要な献金先だ。ルビオ氏の地元フロリダ州には、スペースXも使用するNASAのケネディ宇宙センターなど、複数の打ち上げ施設がある」

     

    マスク氏が、中国政府と密着していることから、スペースXを通して米国宇宙技術が中国へ漏出することが懸念されている。

     


    (6)「米議員らによると、マスク氏が中国を称賛していることで、安全保障上の懸念がさらに増幅されている。中国はまた、ロシアと足並みをそろえているほか、少数民族ウイグル族に対する人権侵害の疑いが持たれている。マスク氏は3月、中国の秦剛・駐米大使をカリフォルニア州のフリーモント工場に招待した。秦氏は訪問後、「車や星、脳研究、地球上で生きることの意味や宇宙での将来」について、マスク氏と刺激的な話をしたとツイートした」

     

    マスク氏は、度の過ぎた讃辞を中国へ贈っていることが、疑念を持たれる理由である。米中対立という国際情勢を考えると、歯の浮くようなお世辞を言うことは身を滅ぼす元になるのだ。褒め言葉も、ほどほどにすべきであろう。

     


    (7)「マスク氏は中国共産党の創立100周年に当たる昨年、「中国が実現した経済繁栄は、インフラを筆頭に実に素晴らしい」とツイートしている。2020年7月にはオートモーティブ・ニュースのポッドキャスト番組で、「(中国には)頭が良く働き者の人がたくさんいる。それに対し、米国はますます慢心して特権意識が強まっている」と述べている」

     

    下線部の米国批判と中国讃美は、米国からしてみれば不愉快であろう。マスク氏は、米国でいろいろと批判対象にされている。そのことへの鬱憤晴らしに見えるのだ。マスク氏は、氏の国籍が米国にあることを忘れると、摩擦を起す時代になったのだ。

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