中国は、衰退期に入ったかどうか。米国では、「衰退期論」が優勢になっている。その衰退を自覚している習近平氏が、敢えて虚勢を張って対外強硬策に出ているという分析である。
衰退を認識すれば、「敵方」に弱点を知られたくないと考えるのは自然の動きである。中国共産党は、これまでも情報の流れを厳しく規制してきた。習近平主席の下で、この取り組みがさらに強まっているのだ。情報開示の禁止から学者が外国人と面会する際、単独での面会が不可能になっている。まさに、「戦時下の情報規制」が始まった。要注意である。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(12月7日付)は、「中国経済の実態、データ規制でさらに不透明に」と題する記事を掲載した。
(1)「中国は、新たに導入したデータセキュリティー法(数据安全法)によって、外国の企業・投資家が、供給状況や財務に関わるものを含め、情報を得ることが一層難しくなった。中国海域の船舶の位置情報を提供してきた幾つかの企業が、国外との情報共有を停止したため、中国の港湾の運用状況を知るのは難しくなった。中国当局は、石炭の使用に関する情報を制限し、政治的な意見対立に関係する事案を公的司法データベースから排除し、他国との学術交流を停止した」
このパラグラフに取り上げられている事実は、平時におい起こり得ない現象である。習近平氏の頭の中は、すでに「戦時意識」になっているのであろう。
(2)「国際基督教大学(ICU)のスティーブン・ナギ上級准教授(政治・国際関係)は、「中国は以前から巨大なブラックボックスだった」と指摘。情報へのアクセス機会が減ったことで、外国人には中国国内で何が起きているのか理解するのが一層困難となり、「ブラックボックスは、さらに一段とブラックになった」と語った。中国を拠点とする経営コンサルタントのキャメロン・ジョンソン氏は、「中国国内で何が起きているのかだけでなく、中国が国家として目指す目的とゴールについても情報の空白が生じており、それが不信感を助長している」と語る」
もともと「ブラックボックス」の中国が、さらに一段と「ブラック」になったという。何を企んでいるのか不明だが、中国が成長期から衰退期へ向かっていることを自ら証明しているような事態だ。
(3)「航空便のキャンセルや数週間の隔離期間など新型コロナ絡みの厳しい国境規制も、中国国民が外国の人々と対面で交流する機会の大幅な減少につながっており、これが世界との断絶状態を深刻化している。中国民用航空局(CAAC)によれば、航空便による中国の出入国者数は2021年1~8月には約100万人となり、5000万人近かった2019年同期の水準を下回っている。海外への渡航を計画していた中国人の一部は、パスポートの更新を拒否されたり、空港で係官に呼び止められ、渡航を最小限にすることを求める政府の命令を理由に、出国を思いとどまるよう説得されたりしたと話している」
下線部は、一般中国人の渡航すら規制し始めている。中国の弱点が海外へ漏れることを警戒しているのであろう。
(4)「中国の秘密主義の拡大を後押しする原動力の1つは、9月1日に施行されたデータセキュリティー法だ。中国当局は潜在的にセンシティブなデータが海外に流出することに懸念を強めていた。同法は、データの収集・保管・利用と送信などデータ関連活動のほぼ全てを政府の監視対象とした。香港を拠点としている法律事務所レイノルズ・ポーター・チェンバレンの弁護士、ジョナサン・クロンプトン氏によると、同法が制定されて以降、中国本土の企業は金融・医療・公共交通・インフラなどの戦略的な分野で多国籍企業と情報を共有することを、以前に増してためらうようになっている」
9月1日に施行されたデータセキュリティー法によって、中国の本土企業は戦略的な分野で多国籍企業と情報を共有することを、以前に増してためらうようになった。中国企業の情報漏出を警戒している結果だ。
(5)「当局は何がセンシティブな情報にあたるのかを明確にしていないため、中国企業からすると、海外のパートナーと何を共有できるのかが分かりにくい状況だ。米法律事務所ハリス・ブリッケンの弁護士、スティーブ・ディッキンソン氏は、ある最近のエピソードを紹介してくれた。ある米国の顧客が、ある中国企業が信頼に足る企業かどうか判断するため、その企業に監査済みの財務諸表を要請したところ、断られた。外国人に財務諸表を公開してはならないとする中国政府の方針が理由だった。その顧客はその情報なしに連携を進めることを余儀なくされたという」
中国企業は、外国人に対して財務諸表する公開しなくなっている。これでは、海外株式市場で中国企業の上場が不可能になる。ここまでやって、中国の実態を知られたくないのだ。経済の実態悪化を雄弁に物語っている。
(6)「衛星画像は依然として入手可能なものの、中国周辺の詳細なリアルタイムの船舶動向に関する情報にアクセスができなくなったため、企業は世界最大の貿易国である中国の積み荷の出荷・入荷状況を正確に追跡するのが困難になっている。(データセキュリティー法は)中国の経済成長や貿易などに関し、正確なマクロ経済予測を行うために港湾活動の情報を収集する金融機関の能力を阻害していると指摘した」
データセキュリティー法により、中国の経済成長や貿易などに関し、正確なマクロ経済予測が不可能になるという。悪い実態を知られたくないから隠すのだ。
(7)「北京大学国際関係学院の元学院長、賈慶国氏は「過度の管理はわれわれが先進的なアイデアや研究方法、政治経験を海外から学ぶことを阻害する」とし、一部の大学では、研究者は、少なくとも他の同僚1人が同席している場合にしか外国人と交流することが認められていないと指摘した」
下線部は、学者の口から中国の悪い話が漏れないように相互監視させる目的であろう。中国が、もはや発展期を過ぎたことを自ら告知するような話だ。