勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    米中貿易戦争の激化とともに、中国の人民元相場の動向が関心を集めている。中国政府は、米国による関税引き上げ分の一部でも、元安で相殺したいことは明らか。それを、露骨にやると米国政府の目が光っておりできない。そういうジレンマに立っているはずだ。

     

    人民相場が、1ドル=6.8元台で留まっていればいいとしても、いつ7元を割り込むか分らない。現状は、「徳俵」に足をかけながら様子を見ている段階であろう。中国人民銀行は8月6日夜、将来に元を売って外貨を買う為替予約を扱う銀行に、契約額の20%を「危険準備金」として預けるよう求めた。人民元の売り投機を予防するためである。同措置は2015年8月の元切り下げ後、ほどなくして導入。17年9月に中止していたもの。この「お蔵入り」政策をこの段階で持出したのには理由があった。

     

    実は、8月6日に今年上期の経常収支統計が発表されている。2018年1~6月期の経常収支は283億ドルの赤字であった。半期ベースの経常赤字転落は、2001年12月、WTO(世界貿易機関)へ加盟以来のこと。中国経済が、国際競争力を失い掛けていることを暗示する重大なシグナルである。それを知らねばならない。

     

    2018年6月末の経常収支は、58億ドルの黒字を計上した。だが中身を見ると先行きが懸念される。すなわち、経常収支を構成する、①貿易黒字、②サービス収支、③所得収支の推移が次第に悪化していることだ。サービス収支は、特許料・旅行の収支。所得収支は、利息・配当金の収支である。

     

         2018年6月末  2017年6月末  2016年6月末

    経常収支   58億ドル     526億ドル   662億ドル

    貿易収支   1042億ドル  1321億ドル  1247億ドル

    サービス収支 -737億ドル  -727億ドル  -517億ドル

    所得収支   -208億ドル   -30億ドル   -55億ドル

     

    前記のデータを見ると、中国の経常収支の黒字が細っている状況が分るはずだ。その要因は、貿易収支の黒字減少。サービス収支赤字がもっとも拡大していること。所得収支の赤字もそれに次いで拡大していること、である。

     

    経常収支が問題になるのは、一国経済の国際競争力が端的に表れているからだ。中国が、これまで「一帯一路」計画で多額の資金を融資や投資してきた「元手」は、過去の経常収支の黒字累積である。その元手が減ってきている現状は、中国にとっては相当に深刻なはずだ。肝心の貿易黒字は過去2年間を比較しても明らかなようにじりじりと減っている。

     

    サービス収支の赤字拡大は止めようがない。中国企業がこれまでの技術窃取とは逆に、技術輸出できる見込みは少ない。国民の海外旅行熱は今後ますます盛んになってゆく動きだ。次の記事がそれを示唆している。

     

    『中央日報』(8月8日付)は、「中国旅行客が選ぶ最も親近感のある国1位は日本」と題する記事を掲載した。その要約を掲載する。

     

    「中国の若い世代ほど、旅行中の消費額が増えている。調査に応じた中国人は、平均的に所得の28%を旅行に使っていることが明らかになった。90年代生まれは所得の36%を旅行に使うと答えた。この数字を見て、本当だろうかと訝るほどである。中国の若い世代は、国内で自由を奪われた生活を余儀なくされている。せめて海外へ出たときは「パッ」とカネを使う気持ちも分らないではない。中国の国際収支で、「サービス収支」が大赤字になっている理由の一つは、この海外旅行での消費にある」

     

    中国人の海外旅行先では、日本が「オモテナシ精神」を発揮しているためか、好感度1位になっている。この「オモテナシ精神」がさらに磨きをかけ、中国人旅行客を魅了すればするほど、中国の「サービス収支」の赤字幅が増えて、日本が黒字になるという関係だ。現在の日本はわずかな赤字である。

     

    今後、中国政府は海外旅行を抑制するようなことが起こるだろうか。これは、共産党政権の「敗北」を意味する。国民に選挙権も与えずに管理している政府が、せめて国民に自由な旅行もさせられない事態になれば深刻な不満を呼ぶに違いない。海外旅行を抑制し始めたら、中国共産党の「終わり」が始まると見るほかない。

     


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    文氏は、大統領就任15ヶ月で支持率が初めて60%を割った。それだけに、危機感も強いようだ。これまで、支持母体の労組と市民団体のロボットであり、「反企業」「規制強化」一本槍できた。それが失業者を増やすという展開になり、支持母体を敵に回しても、「国民本位」の政治を行なうという。

     

    文在寅大統領の支持率が60%割れとなった。8月9日、世論調査機関リアルメーターが、アンケート調査の結果、文大統領に対する肯定的な評価は先週より5.2%ポイント下落した58.0%となった。否定的な評価は5.4%ポイント上がった35.8%だった。リアルメーターの集計で肯定的評価が60%割れとなったのは文大統領就任以降初めて。『中央日報』(8月9日付)が伝えた。

     

    58%の支持率でも「お化け」数字である。韓国国民も「経済無能大統領」に業を煮やして、「×」を付ける人が増えているのだ。本当に、これまで経済政策ではマイナスのことばかり行なう希有の大統領となっていた。

     

    『朝鮮日報』(8月9日付)は、「支持層と衝突の文大統領、規制改革で正面突破」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「文在寅大統領が市民団体・労働団体・与党強硬派らの反対を押し切って、インターネット専門銀行に対する『銀産分離(産業資本の銀行の持ち株所有を制限する制度)緩和』などの規制改革を予定通り推進するとの意向を明らかにした。文在寅大統領が支持層である進歩陣営の要求に逆らって主要政策を推進するのは、大統領就任後、事実上初めてと見られている。大統領府は、規制改革対象を医療機器・インターネット銀行だけでなく、ビッグデータ活用のための個人情報保護分野やドローン、自動運転車などにまで拡大するという。厳しい経済状況を解決するため、陣営の論理よりも現実的な選択肢を探る考えと見られる」

     

    韓国政府は、規制改革対象を医療機器・インターネット銀行、ビッグデータ活用のための個人情報保護分野、ドローン、自動運転車などにまで拡大するという。これが実現すれば、韓国もようやく「普通の国」になる。それにしても、よくぞここまで放っておいたものと感心する。今からでは遅すぎるが、やらないよりはまし、という程度であろう。

     

    (2)「大統領府関係者は、『インターネット専門銀行活性化は、既に寡占化されている金融産業にとって刺激になるだろう。何かの原則や主義に接近してはならない』と述べた。これまで所得主導の成長などをめぐり意見を述べてきた金東ヨン(キム・ドンヨン)経済副首相兼企画財政部長官と張夏成(チャン・ハソン)大統領府政策室長も規制改革には同じ意見だと言われている。市民団体の参加連帯や全国民主労働組合総連盟(民主労総)などは『規制緩和は財閥寄りの政策』主張している」

     

    韓国の遅れた産業の筆頭に銀行があげられてきた。規制が厳しく、「手数料ビジネス」はできなかった。それ故、銀行の収益率は低く、リスクを伴う成長性の望める分野へ融資できなかった。「インターネット専門銀行」へ革新IT企業が資本と技術投資を拡大できるようにするもの。中国では、「P2P」のインターネット金融が倒産続出で大きな社会問題になっている。韓国では、逆に手足を縛りすぎて寡占化が進むという逆の状態だ。IT企業が参入すれば、庶民が割高な金利に苦しむことから開放される可能性も出てくるだろう。

     

    市民団体と労組の反対論の根拠は、「規制緩和は財閥寄りの政策」と紋切り型の発言である。この「石頭」を柔らかくする薬はないだろうか。彼らの意識では、「財閥は悪」なのだ。


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    米国の中国警戒姿勢は本格化している。米議会で超党派の賛成で成立した「国防権限法改定」が、中国警戒を強く打ち出している。中国は調子に乗って、これまで「太平洋は広大だから、西太平洋を中国海軍管轄に」と発言するまで増長していた。米国はそれを拒否したのは当然だが、具体的な対抗策を打ち出さずに見逃してきた。それもついに限界とばかり、中国へ「第一次警告」を送る意味で、軍需企業への輸出規制策を発表した。

     

    『SankeiBiz』(8月9日付)は、「米、中国軍需企業44社を輸出規制リストに」と題する記事を掲載した。

     

    「台湾中央通信によると、米政府の官報ウェブサイトはこのほど、米商務省は米東部時間8月1日から、国家安全保障ならびに外交上の利益を理由に、中国企業44社(8企業と36の付属機構)を輸出規制リストに入れ、技術封鎖を行うとする文書を発表した。中国の上海春秋発展戦略研究院と提携しているニュースサイト『観察者網』や香港紙『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』などの報道を総合すると、8社は中国航天(宇宙)科工株式有限公司第2研究院とその傘下の研究所、中国電子科技集団(中国電科)公司第13、第14、第38、第55研究所とその関連・傘下の単位、中国技術進出口(輸出入)集団有限公司、中国華騰工業有限公司、河北遠東通信(RP=東京)」

     

    先に、ZTE(中興通訊)が米国からの禁輸措置により、一時的に営業停止に追い込まれた。米国の高級半導体なしに、ZTEは製品を組み立てられなかったことを内外に証明した。軍需企業になればその傾向は一層深まるはずだ。代替製品を求めて日欧企業に接近するだろうが、絶対に応じてはならない。

     

    私は、以前から対中輸出では冷戦時代に行なわれていた「チンコム」(CHINCOM)復活を提唱してきた。日頃、中国からのメディア投稿を見ていて気づいたのは、日本の工作機と部品がなければ中国の武器製造はできないという現場労働者の声である。日本の精密工作機械は、世界の羨望の的だ。これを中国に輸出して日本の安全を脅かされる。これほど愚かなことはない。米国もこれに気づいて禁輸リストに中国企業44社を指定したことは良かった。EUも追随すべきである。日本も再点検して西側諸国の団結ぶりを見せる必要があろう。


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    インターネット金融の「P2P」(ピア・ツー・ピア)が、中国で大混乱状態にある。金融業者が破産、持ち逃げという事態に陥っているからだ。

     

    この問題は、すでにブログでも取り上げたが、高利に目がくらんだ投資家が騙されたもの。「ネズミ講」組織が、この「P2P」に利用されている。資金を集めても融資せず、高利配当をエサに新たな投資家から資金を吸い取る「悪魔」の金融ビジネスである。中には、真面目に事業を展開している業者もいるが、営業中の金融業者数よりも倒産業者数が多いという異常業界だ。

     

    倒産会社数は、2018年に入り約330社に達し、債務不履行額は少なくとも300億元(約4900億円)に達するというように、被害額が増えている。被害者は、政府に抗議して救済を求めているが、陳情活動は阻止されている。

     

    『大紀元』(8月8日付)は、「金融業者相次ぐ破綻、投資家が北京で陳情を計画、当局に阻まれる」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「8月6日、巨額な被害を受けた投資家は北京の中央政府に対して陳情活動を計画したが、当局に阻止された。米ラジオ・フリーアジア(RFA)が6日報道した。報道によると、中国全国各地の数千人のP2P金融投資家はソーシャルメディアを通じて、北京にある金融当局の前での陳情活動に参加しようとした。中国インターネット上に投稿された動画によると、一部の投資家は外出中、警官に身柄拘束されたほか、上海の投資家は在宅中に、無理やり自宅に押し入ってきた警官に、北京に行かないよう恫喝(どうかつ)された」

     

    陳情活動に参加しようとした被害者が、外出中に警官に身柄拘束されたり、自宅に訪ねてきて恫喝されるなど、日本では考えられないことが起こっている。この程度の国が、世界覇権を狙うというのだから呆れる。

     

    (2)「フランス通信(AFP)の報道によれば、投資家らは6日に、北京市内の月壇公園に集合した後、同区にある中国銀行保険監督管理委員会(銀監会)まで進行し、銀監会の庁舎前で陳情しようとした。事前に情報を入手した警察当局は、各地で警戒態勢を強化した。銀監会から釣魚台国賓館まで距離3キロの道路上では、陳情者を地元に送還するために、120台のバスが待機していた。北京市警察当局はまた、一部の陳情者の身柄を拘束した」

     

    中央政府に陳情することが、こうして阻止されている。いったい、国民の不満はどこが聞いてくれるのか。政府は、口を開けば「法治国家」と言うが、実態は権力国家である。不都合なことには、耳をふさいでいる。

     

    (3)「中国では2007年以降、P2P金融会社が各地で現れ、12年に急速に発展し、15年には業者数は4000社を上回った。投資家の人数も数十万人から300万人に急増したという。現在、P2P金融の利用者は5000万人いるとみられる。カナダ在住の時事評論家の文昭氏はRFAに対して、事実上『高利貸し』であるP2P金融の急速な拡大の背景には、当局の厳しい規制で、国民には十分な資産運用ツールがない現状があるとの見方を示した」

     

    中国で、「P2P」という高利貸しビジネスが異常に拡大した理由は、政府の資本規制にある。3兆ドルの外貨準備高を維持しなければ、国家の体面が維持できないという「メンツ論」が、外貨流出を抑える資本規制策を生んだ。国家のメンツとは何か。海外から中国の存在に一目置いて貰いたい。最高指導者の非合理的な欲望=メンツの維持のために、行き場を失った国内貯蓄が非正規の「P2P」という「あだ花」を生んだ。習氏は罪な男だ。


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    米中貿易戦争は、新たな段階へ進む。中国は目下、恒例により河北省北戴河の保養地に集まり、重要案件を非公式に協議している。今年の最大の焦点は、対米貿易摩擦とされている。習氏としては、メンツのためにも米国へ強く出ざるを得ない。

     

    『ブルームバーグ』(8月8日づけ)は、次のように伝えた。

     

    (1)「中国は新たに160億ドル(約1兆7800億円)相当の米国製品を対象に8月23日から25%の関税を賦課することを確認した。これより先に米政府が発表していた追加関税と同規模の措置で対抗する。発表文によれば、今回の関税は北京時間午後0時1分と、米関税と同時に発動される。中国商務省は発表文で、中国製品160億ドル相当に25%の追加関税をかけるという米国の決定は『非常に理不尽だ』とし、正当な利益と多国間貿易体制を守るために報復せざるを得ないと表明した」

     

    米国と同時刻、同金額の報復を科すことは、演出も十分に意図している。北戴河(ほくさいが)会議中であるから、米国に対して強く出て党内の不満を押しつぶす意図も透けて見える。習氏が貿易戦争へ突入した裏には、党内序列5位の王滬寧(ワン・フーリン)政治局常務委員の存在が上げられている。彼の「主戦論」に引っ張られた側面も強く、習氏は強行突破を図って、米国へ対抗する姿勢を保っているのでないか。

     

    (2)「160億ドル分のリストは6月に公表済みだが、対象を入れ替えた。品目数は114から333に増えた。原油に高関税をかければ、国際価格が高騰した時に純輸入国の中国に不利と判断したようだ。7月6日から追加関税をかけた自動車の対象車種を大幅に広げた」。以上は、『日本経済新聞』(8月9日付)が伝えたもの。

     

    対象品目から原油を外した点に注目したい。ギリギリの線で米国への配慮が隠されていることだ。米国が原油国として再登場しているので、中国は将来の対応を見据えたのではないか。原油価格高騰時に、中国へ不利というのは表向きのこと。米国への恐怖感が中国政府を支配していると見るべきだろう。


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