来年2月の北京冬季五輪開催を前に、米国が「外交ボイコット」を検討している。欧州も同調の動きを見せている。英国と豪州は、「AUKUS」結成し対中軍事戦略で団結しているので、米国と同一行動の可能性が論じられている。この三ヶ国の外に、高度諜報機関「ファイブアイズ」(米英豪加NZ)に加入するカナダやNZ(ニュージーランド)も加わり、5ヶ国が声明を発表して外交ボイコットするとの説も伝わっている。
こういう状況を前に、中国はどういう姿勢を取るかである。「幸い」とでも言うのか、最近は南アを発生源にする新たなコロナ変種「オミクロン株」が発見された。強い伝染力を持つとされるので、中国はこれを理由にして、「外国賓客を招待しない」という決定をして肩すかしを食わすのでないか、という予測が出て来た。
『ニューズウィーク 日本語版』(11月27日付)は、「北京五輪の外交ボイコットに対抗する中国が打つ『先手』」と題する記事を掲載した。筆者は、サム・ポトリッキオ ジョージタウン大学教授である。
アメリカは、中国の人権問題を理由に2月の北京冬季五輪をボイコットするのか。五輪のボイコットに前例がないわけではない。歴史を振り返ると、正式なものだけでも、1956年メルボルン大会、64年東京大会、76年モントリオール大会、80年モスクワ大会、84年ロサンゼルス大会、88年ソウル大会の6つの大会を一部の国がボイコットしている。しかし前回の五輪ボイコットは34年も前のことだ。しかも、大会の規模も昔とは比べものにならないくらい大きくなっている。もしアメリカが北京五輪のボイコットに踏み切れば、激震が走るだろう。
(1)「もっとも、五輪のボイコットは象徴的な意味しか持たない。80年代にアメリカと当時のソ連が互いの国で開かれた大会をボイコットしたときも、五輪に向けて生涯を懸けて準備してきたトップアスリートたちの努力が台無しになる一方で、世界秩序が大きく変わることはなかった。もしアメリカが今回の北京五輪をボイコットすれば、新たな超大国によって地位を脅かされている旧超大国が恐怖心を募らせ、いら立っているという印象を与えかねない。アメリカの国際的な威信と相対的な経済力が低下していることは、ボイコットを思いとどまらせる要因になるかもしれない。中国が報復措置を取った場合にアメリカが被るダメージは昔よりも大きい。五輪スポンサー企業の多くにとって、中国市場の重要性が増していることも無視できない」
この記事は、かなり中国へ偏重した内容である。米国が衰退していると決め付けているが、実態は逆である。中国経済は不動産バブルの崩壊で、経済成長の主柱を欠いた状態だ。この筆者は多分、経済分析では不得手であり、中国包囲の国際情勢についても無関心である。あるいは、中国サイドの学者かも知れない。それほど、経済分析の素養を感じさせないのだ。
中国が、米国へ与えるダメージはない。中国の「借り物技術」の限界が明らかに露呈している。半導体という戦略部門が、未だ「離陸せず」という状態だ。ここで、さらに米国が締め付ければ、中国経済は瀕死の重傷を負うほど追い込まれている。
外交ボイコットは、米国単独で行なうのではない。最低限、米英豪の三ヶ国が行なう。これに、欧州などが中国の人権弾圧反対で起ちあがる。こういう、国際情勢の変化を全く見落とした記事である。
(2)「アメリカでは、米国オリンピック・パラリンピック委員会も大多数の選手も、五輪への不参加には強く反対している。それよりも無難で実行しやすいのは、いわゆる「外交ボイコット」だ。選手団は派遣するが、政府高官は派遣しないという形の対応である。このアプローチは開催国である中国に屈辱を与える一方で、80年のモスクワ五輪をボイコットした際の失敗を繰り返さずに済む。アメリカがモスクワ五輪への選手団派遣を見送ったことは、当時のソ連政府に絶好のプロパガンダの機会を与えてしまったという見方が根強くあるのだ。80年のソ連や今の中国のように政府が厳しく情報統制を行っている国では、アメリカが五輪に参加しなければ、アメリカの衰退の表れだと自国民に印象付ける材料に使われかねない」
中国は、必死で「米国衰退・中国繁栄」というプロパガンダを行なっている。だが、この「嘘宣伝」をどれだけの中国人が信じるだろうか。パンデミック下で雇用不安を抱え、不満足なワクチンで「ゼロコロナ」に付合わされ、都市封鎖させられている中国に先進性は全く見られないのだ。中国人は、意外に裏情報に精通している民族である。「小話」の多いことが、それを証明している。
(3)「アメリカの国際的な地位が低下していることを考えると、アメリカ政府が北京五輪の全面的なボイコットに踏み切ることはおそらく難しい。では、外交ボイコットで落ち着くのか。中国は、非常にプライドを重んじる国だ。アメリカが政府高官を派遣せず、自国のメンツがつぶされる事態は、避けようとするだろう。つまり、アメリカ政府が正式な決定を下す前に先手を打つ形で、新型コロナウイルス対策を口実にして外国政府高官の参加を全て拒否する方針を打ち出すのではないかと、私は予想している」
コロナ変種「オミクロン株」が発見された以上、有効ワクチンを持たない中国は、さらに窮地へ追詰められる。「海外要人招待」を中止は、メンツの問題でなく実利的であるかも知れないのだ。