米バイデン大統領は、北京冬季五輪への政府関係者の出席を拒否する「外交ボイコット」を検討中と答えた。米国が、外交ボイコットに踏み切る場合、同盟国との打合せがあるだろう。日本はどうするのか。
中国は、こういう事態を見越して日本の林外相へ訪中を招待した。中国は,今夏の東京五輪へ閣僚クラスを送っている。日本はこれから「外交ボイコット」問題を検討するが、米欧と同調すべきことはいうまでもない。
『日本経済新聞』(11月21日付)は、「北京五輪、岸田政権に懸念 米が外交ボイコット検討 人権巡る制裁、法律なく」と題する記事を掲載した。
岸田政権の懸念材料として2022年2月に迫る北京冬季五輪が浮上した。バイデン米大統領が中国の人権問題を理由に外交使節団を派遣しない「外交的ボイコット」の検討を明言した。日本の同調を求める声が内外で強まる可能性がある。短期間で決断を迫られる事態も起こり得る。
(1)「外交的ボイコットは国として開催への祝意を示さないメッセージになる。米国にはウイグルやチベットなどの人権問題、香港での民主化勢力への弾圧で中国側に強い姿勢を示す狙いがある。岸田文雄首相は19日、首相官邸で記者団に「日本は日本の立場で物事を考えていきたい」と語った。現時点で同盟国や友好国に追随を求める米政府の発表はないが、年末にかけて米欧との協議で俎上(そじょう)にのることもあり得る。米国務省の報道官は4月、北京五輪に米選手団が参加するかを問われ「同盟国と議論したい」と答えた。5月にはペロシ下院議長が各国に外交的ボイコットへの賛同を呼びかけた。日本が北京五輪に派遣しなければ中国の反発が見込まれる。今夏の東京五輪は中国から閣僚級が来日した」
下線部は、日本は米国と同調しない場合もあり得ることを示唆している。欧州では、中国の人権弾圧に嫌悪感を見せている。EU(欧州連合)が、対中政策で冷却化している現在、日本が、米欧の隊列を離れたパフォーマンスは、悔いを残すことになろう。はっきりと、現状が「冷戦下」という認識を持つべきなのだ。これと、日中外交は別に考えるべきである。
(2)「過去の五輪の歴史をみるとボイコットはいくつかの段階に分けられる。最も厳しいのは選手団派遣の中止で、大規模な例に1980年のモスクワ五輪が挙げられる。米国が旧ソ連のアフガニスタン侵攻を非難し、同盟国に選手を派遣しないよう要請した。西ドイツや韓国など西側諸国を中心に50ほどの国が参加しなかった。日本も国内にボイコット反対論があったが、同盟国で安全保障を頼る米国に足並みをそろえた。84年の米ロサンゼルス五輪はソ連や東欧諸国、ベトナムなどが大会に加わらなかった」
現状では、選手不参加問題は議論されていない。外交ボイコットである。中国は、東京五輪へ閣僚クラスを送ったが、最高指導部の人間でなかった。それほど、日本を重視した行動でなく、「お付き合い」程度であったのだ。日本が,このことを気にかける必要はない。
(3)「選手団が開会式の入場行進や国旗・国歌の使用を拒否する方法もある。モスクワ五輪で英国、フランスなどは選手を派遣しつつ、開会式の行進に選手が参加せず、大会で自国の国旗・国歌を使わなかった。英仏の組織委員会は遺憾の意を示しつつ、参加を望む選手との折り合いをつけた。五輪では外交の一環で開会式や閉会式に政府代表を派遣する例が多い。それを取りやめる手法が今回米国の検討する外交的ボイコットだ。2008年の北京五輪の際も米議会や人権団体から当時のブッシュ大統領(第43代)に開会式不参加を求める声が上がった。中国政府のチベット自治区のデモ弾圧に批判が集中した。最終的には対中関係を考慮して出席した」
日本は、欧米と協調して行動することが必要である。安全保障で欧米とスクラムを組む日本が、五輪だけは「別行動」はできないだろう。
(4)「開催地変更を求める場合もある。米議会の超党派議員は今夏、22年の北京五輪を延期し、開催地も変えるよう国際オリンピック委員会(IOC)に要請した。米国内で北京五輪と1936年のベルリン五輪を関連付ける声がある。ナチスドイツの人種政策などが問題になっている状況で、米国は不参加を検討しながら踏み切らなかった。ポンペオ前国務長官は3月に「1930年代の出来事はいま、中国で起きている。ベルリン五輪によって開催国の政治体制に大きな信認を与えてしまった」と指摘した。
下線部分の認識は正しい。ヒトラーがベルリン五輪をいかに利用したか、いま、史実がそれを明らかにしている。五輪はスポーツの祭典というが、政治ショーであることも忘れてはならない。
(5)「中国の人権問題に対応するため、米欧は対中制裁を始めている。新疆ウイグル自治区の公安トップらの資産凍結を実施した。米欧主要国には人権侵害を理由として外国当局者に制裁を科す「マグニツキー法」と呼ぶ法律がある。欧州各国は制裁で米国と足並みをそろえる。日本には同様の法律がない。国際人権問題担当の中谷元・首相補佐官は15日、テレビ番組で法制定は「簡単にはいかない」と語った。人権問題に対応する手段が限られる日本は五輪への対応に焦点が集まることも考えられる」
日本には海外の人権に関する法律がないから、中国の人権問題について見て見ぬ振りをする、というのは不思議な感覚である。法律問題より、倫理・道徳に関わる話である。当時の世界は、ベルリン五輪を盛大に祝ったが,その裏でヒトラーは何を企んでいたか。史実を検証すべきであろう。台湾侵攻が起こったらどうするのか。