勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    中国が、発展途上国において政治的覇権と経済的利益を目的に始めた「一帯一路」は、自国労働者をも搾取する機構であることが暴露されている。中国から連れて行く労働者は当初、好条件で募集する。だが、現地に着くとパスポートを取り上げ、契約時とは違った劣悪な労働条件を押し付け、帰国もままならない事態に追込まれている。

     

    中国政府の宣伝した「一帯一路」プロジェクトは、工事を行う現地で労働者を集めて工事するという触れ込みであった。実際は、建設資材も労働者も全て中国から「持込む」形になった。「一帯一路」プロジェクトに期待した欧州企業は、完全に蚊帳の外に置かれて、「一帯一路」宣伝に利用されるだけとなった。中国は、このようにあくどいことを平気でやっているのだ。 



    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月28日付)は、「『一帯一路』で搾取される中国人労働者」と題する記事を掲載した。

     

    中国人労働者のジャン・チャンさん(31)は今年3月、中国からインドネシアに向かった。中国鉄鋼メーカーの現地工場で働くためだ。6カ月後、彼は4人の男たちとマレーシア沿岸で岸にたどり着こうともがいていた。「詐欺」から逃れるためだった。5人はマレーシアの地元当局に拘束された。ジャンさんは現地のインタビューで「われわれはだまされたと感じたし、自分ではどうすることもできないと感じた」と語った。

     

    (1)「中国政府の公式データによれば、8月末時点で約60万人の中国人出稼ぎ労働者が国外で働いている。その多くは、習近平国家主席の看板政策である巨大インフラ建設事業「一帯一路」と関連する中国企業のプロジェクトに投入されている。ニューヨークを拠点とする労働者の権利擁護団体、チャイナ・レーバー・ウオッチ(CLW)によると、ジャンさんらが経験したような状況は珍しいことではない。CLWが12カ国で働く中国人労働者約200人とのインタビューと、中国商務省の内部告発者1人(名前は非公表)からの情報に基づいて推計したところ、約束より少ない賃金しか支払われていないなど搾取されている出稼ぎ労働者が数万人いるという」

     

    同じ中国人が、中国人を搾取するというケースである。これを読むと、中国人同士ですらこういうことが平然と行われている社会である。他民族に対する搾取は、言うまでもないであろう。

     


    (2)「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の計算によると、中国企業は2013年以降、インドネシアの鉄鋼・ニッケル事業に少なくとも127億ドル(約1兆4450億円)を投じてきた。これらの企業にとってはインドネシアの豊富なニッケル埋蔵量が魅力だった。地元労働者を雇うのではなく本国からの出稼ぎ労働者に依存する中国企業の手法は、一部の国で反感を買っている。インドネシアのある主要労働組合は今年に入って、中国人の非熟練労働者を使うやり方について、地元労働者から仕事をだまし取る行為だと批判した」

     

    地元の労働者を雇って「騙し行為」が発覚すると国際問題になる。だから、騙しても「国内問題で済む」中国人を雇っているのであろう。最初から、計画的な犯行である。

     

    (3)「中国の労働者供給事業者は、労働者を国外に送る手配をする前に政府の認可を得なくてはならない。ジャンさんが連絡を取った民間事業者「Rongcheng Environmental Engineering Co.」がある中国東部・無錫市の商務・人材の両当局によると、地元企業でそのような認可を取っている所はないという」

     

    労働者供給事業者は、政府の認可が必要である。悪徳業者はモグリであるので、政府の認可を取っていないのだ。

     


    (4)「ジャンさんら中国人出稼ぎ労働者が9月初めに微信(ウィーチャット)に投稿した説明によると、彼らはインドネシアに着くと、パスポートを箱の中に入れるよう指示された。その後、中国の非上場鉄鋼メーカー、江蘇徳龍業がモロワリ県で運営する金属精錬所に移動させられた。同社がインドネシアで行うニッケル生産事業は、2020年5月に中国当局が「一帯一路の主要プロジェクト」と説明していた。Rongcheng社は江蘇徳龍の下請け業者の一つ。ジャンさんらはモロワリで、約束されていた月給1万5000元ではなく、1万元の建設業の仕事を提示され、長時間労働を求められた。給与は毎月1000元が現金で支払われ、残りはプロジェクトが完了する将来の不特定の日まで支給されないという内容の雇用契約を提示された。ワンさんが明らかにした」

     

    悪徳人材供給会社は、インドネシア雇用先企業の下請け業者であった。しかも、最初の話では月給1万5000元のはずが、1万元の建設業の仕事を提示され、長時間労働を求められた。給与は、毎月1000元が現金で支払われるだけであった。明らかに食い物されている。

     

    (5)「パプアニューギニアとインドネシア、セルビアで働く中国人労働者はWSJに対し、(コロナ禍で)自分たちの代わりに来る新規の労働者がほとんどいないため、既存の労働者は帰国が禁じられたり帰国しないように言われたりしていると述べている。帰国したい場合は、航空券と隔離のために多額の費用を負担する必要があるという(隔離は2~4週間にわたる)。労働者は通常、往復航空料金の支給を約束されているが、コロナ流行下では雇用主が帰国時の航空料金を出し渋り、労働者を長く仕事にとどまらせるケースが多い」

     

    コロナ禍で、後続の労働者が中国から来ないので、既存の労働者が帰国できずにいる。酷い労働条件がさらに延ばされている。「地獄の延長」である。

     

    (6)「インドネシアにいるジャンさんと、同郷の労働者4人は、自分たちの家族に対し、ジャカルタの中国大使館に何度も助けを求めるように頼んだ。ワンさんによれば、大使館は彼らを助ける力はないとし、代わりに警察に通報するようアドバイスした。雇い主は敷地を警備するために銃を携行した地元の警備員を雇っており、5人はこの雇い主からの反発を懸念し、行動を思いとどまったという。ジャンさんによれば、中国大使館はその後、モロワリにある江蘇徳龍の事務所に5人に関する書簡を送った。これを受け、彼らの管理者は腹立たしげに、パスポートの返却と帰国用チケットの確保と引き換えに7万5000元(約133万円)を要求してきたというジャンさんは「国から出たいのであれば、必ず正規のルートを使い、出国前にまず契約書に署名することだ。われわれのようになってはいけない」と語った」

     

    ジャンさんは、自分の家族にジャカルタの中国大使館に何度も助けを求めるように頼んだという。中国大使館は、ようやく重い腰を上げたが、企業側は法外にも約133万円を帰国費用として要求した。この結果、彼ら5人は違法出国を決意したが悪徳ブローカーに騙されて官憲に逮捕される始末になった。当局は、彼らの置かれている事情を理解し、中国送還となったが、まだ出国日程は決まっていないという。

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    韓国は、コロナ接種2回目終了が70%を超えたと鼻高々だった。例によって日本を上回ったと自慢していたのだ。だが、韓国は、10月18日からソーシャルディスタンスを一部緩和したことからコロナ感染者が一日2000名を超える日が続いている。自慢もほどほどにしないと、後から引っ込みがつかなくなるのだ。

     

    日本は、コロナ新規の感染者数が順調に減少過程にある。10月28日(23時50分現在)、新規感染者数は全国275人で前週同曜日比68人減となった。東京都は、21人(同15人減)となった。

     

    韓国の中央防疫対策本部は28日、この日午前0時現在の国内の新型コロナウイルス感染者数は前日午前0時の時点から2111人増え、累計35万8416人になったと発表した。市中感染が2095人、海外からの入国者の感染が16人。10月8日(2172人)以来、20日ぶりに2000人を上回った。

     


    韓国は、27日の検査件数は4万9879件で、陽性率は4.23%だ。日本の28日の検査数は、5万8721人で陽性率は、0.53%である。韓国は、日本の新規感染者数が少ないのは、検査数が少ないためだと言い張るが、日韓の検査数でも日本が韓国を上回っている。日本の感染者数が減っている理由は、次に指摘しておきたい。

     

    日韓で、新規感染者数で大きく差がついているのは、クラスター発生の有無である。韓国は増えているのだ。これは、日本が企業や大学などの職域でのワクチン接種効果が上がっている結果と見られる。韓国は、ワクチン接種率の高さにだけ関心が向いてしまい、クラスター対策を軽視したものと言えそうだ。日韓では、防疫対策でも違いがあるのだ。

     

    『聯合ニュース』(10月28日付)は、「韓国の新規コロナ感染者、20日ぶり2千人超 規制緩和など影響か」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「11月1日から新型コロナの防疫体制が「段階的な日常生活の回復(ウィズコロナ)」に移行するのを前に、10月18日から私的な集まりの人数制限(首都圏で8人、首都圏以外で10人まで)などの防疫規則が多少緩和された影響もあるとみられる。また、日常生活の回復に対する期待感から気が緩み、集まりや移動が増えた影響も反映されたと分析される。今月31日のハロウィーンでは外国人コミュニティーを中心とするイベントなどで感染が拡大する恐れがあり、当局は神経をとがらせている」

     


    韓国の中央防疫対策本部は、療養施設、療養型病院だけでなく、学校や託児所などでもクラスター(感染者集団)発生が相次いでいると警戒している。韓国は、11月1日から新型コロナウイルスの防疫体制が「段階的な日常生活の回復(ウィズコロナ)」に移行することで、気の緩みも出てきているとみられる。今月31日のハロウィーンも含め、週末に集まる機会が増えれば感染が再拡大する恐れもある。その場合、来週以降の円滑なウィズコロナ移行の妨げにもなりかねず、韓国政府は状況を注視しているという。

     

    韓国は、ワクチン接種率の高さを大いに自慢してきたが、盲点はクラスター対策を怠ったことである。その点で、日本は職域などの集団接種がクラスター発生を防いでいる形である。

     

    ワクチン接種の完了率が84%で、韓国に先立ち「ウィズコロナ」に入ったシンガポールで一日新規感染者が歴代最多を記録して警戒体制を敷いている。

    10月28日、現地の日刊紙『ザ・ストレーツ・タイムズ』(ST)やロイター通信などは、シンガポール保健省(MOH)が前日基準の一日新規感染者数が5324人、一日新規死亡者数10人だと明らかにしたと報じた。発表によると、新型コロナの合併症で亡くなった10人は54歳から96歳の患者で、ワクチン未接種者1人を除いて全員基底疾患者だった。



    これに伴い、人口545万人のシンガポールの累積感染者は18万4419人、累積死亡者数は349人を記録した。保健省は異例の感染者急増で、今後数日間は動向を注視する予定だと明らかにした。シンガポール政府は高いワクチン接種率を前面に出して「感染者ゼロ(0)」よりも重篤患者の管理に重点を置き、新型コロナとの共存を目指すいわゆる「ウィズコロナ」を強力に推進中だ。だが、コロナ感染者数が記録的に急増し、防疫を再び引き締めようとしている。これまで実施してきた防疫規制を来月21日まで延長し、これに加えて来年1月からはワクチン未接種者が原則的に勤労事業場に出勤できないように制限することにした。

     

    以上は、『中央日報』(10月28日付)が報じたものである。シンガポールでは、当初からクラスター発生が問題とされていた。出稼ぎ労働者の衛生状況が、良くないと指摘されていたのである。軽々に結論は出せないが、その辺に問題があるように見える。クラスター対策は、防疫の原点である。日本は当初からこれをしっかり守ってきた。

     

    シンガポールにはもう一つの悩みがある。早くから中国製ワクチンを接種して、効果が少ないことだ。シンガポール政府は新型コロナワクチン接種者に対し、集まりに参加する時の検査を免除しているが、中国製ワクチン「シノバック製ワクチン」を接種した場合、例外的に新型コロナ検査を再度受けさせることにした。こういう隠れた事情も影響しているのだろう。

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    中国は、すでに台湾侵攻作戦の準備が整っているとの説が登場した。米軍トップは、「5年後が危機」と米議会で証言している。ただ、米同盟国が油断すれば、中国はいつでも「作戦開始」に踏み切るという切羽詰まった見解である。

     

    こうした新たな「台湾危機説」と、これまでの米中の動きを付合わせると、米国はすでに具体的な中国の台湾侵攻作戦情報をキャッチしている感じが強い。

     

    米バイデン政権は登場以来、矢継ぎ早に「対中国包囲網」づくりに動いている。以下が、その主な動きである。

    1)日米首脳会談の共同発表で台湾問題の緊急性を訴える

    2)G7首脳会談の共同発表でも台湾問題の緊急性を訴える

    3)NATO(北大西洋条約機構)でも台湾問題をとり上げる

    4)日米豪印4ヶ国の「クアッド」(インド太平洋戦略対話)を発足させる

    5)米英豪3ヶ国の「AUKUS」(軍事同盟)を発足させる

     

    「AUKUS」は、豪州が米英から攻撃型原潜技術を移転されて建艦するという内容である。建艦するまでに時間がかかるので、米英が原潜を貸与して防衛に当ると決定している。この「AUKUS」結成は、フランスとの摩擦を生んでいるが、それでも敢えて結成したところに米英豪の緊急性が滲み出ている。

     

    実は、米英豪加NZの5ヶ国が「ファイブアイズ」という共同諜報機関を運営している。世界最高の機密情報を収拾している機関だ。この「ファイブアイズ」が、中国の台湾侵攻情報を掴んだのであろう。米英豪が、迅速に行動して「AUKUS」を結成して、3ヶ国が攻撃型原潜で中国の台湾侵攻作戦に待ったをかけたのでないか。

     

    中国はこれに驚き、台湾侵攻作戦がないことをカムフラージュすべく急遽、TPP(環太平洋経済連携協定)申請を行って、煙幕を張ったとみられる。米国が、中国のTPP加盟申請に対して何らの反応をしないのも不思議である。庇を貸して母屋を取られかねない。そういう状況にもかかわらず、米国は静観しているのだ。これは、中国がTPP加盟を隠れ蓑にして、「台湾侵攻はない」と宣伝したいに過ぎないと見抜いているのであろう。まさに、この当たりの米中の動きは、虚々実々の駆け引きに映るのだ。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月28日付)は、「
    台湾有事は目前、米はアジアに集中を」と題する寄稿を掲載した。筆者のエルブリッジ・コルビー氏は、2017~18年に米国防次官補代理(戦略・戦力開発担当)を務めた。

     

    (1)「中国が差し迫った軍事的脅威と言える理由は何か。第一に、中国政府は台湾を支配下に置くために武力行使をいとわないと明言している。台湾を支配するということは、かつて失ったとする領土を取り戻すだけでなく、中国がアジアで覇権を確立する上で欠かせない一歩となる。これは机上の空論ではない。中国軍は上陸作戦の演習を行っている。また商業衛星の画像から、アジアで米軍を標的とした大規模攻撃の訓練を行っていることがうかがえる」

     

    下線部は、間違った認識である。日本が日清戦争の賠償で台湾を取得する際、清国は台湾を「化外(けがい)の地」として厄介者扱いしていた。日本へ譲渡して、「ホット」していたのが真実である。日本が無理矢理奪ったものでない。台湾は、この間の事情を知っている。日本が植民地にして近代化を進めたのだ。現在に至るも、台湾の「親日」はこれが根拠になっている。

     

    (2)「第二に、中国は台湾を侵攻する意思があるだけではない。それを成功させる能力を増強している可能性がある。中国は25年かけて軍を近代化してきた。その主な目的は台湾を従わせるためだ。だからといって、中国が明日にでも台湾侵攻をやってのけると言っているわけではない。非常に近いところまで来ている可能性がある」

     

    中国は、過去25年をかけて台湾侵攻を目標にしてきた。米国は、それを知りながら放置していた。それが、中国を増長させた面は大きい。

     

    (3)「第三に、中国は好機が失われつつあると考えている可能性がある。多くの戦争は、一方がこれを逃しては機会が失われると考えることで始まっている。先の二つの世界大戦が始まったのもこれが主因であったことは明らかだ。中国はいまがその時だと彼らなりの道理で判断するかもしれない」

     

    中国は、台湾侵攻作戦準備は終わっているだろう。いつ敢行するかというタイミングだけだ。ただ、玉に傷は実戦経験がないこと。日米豪軍と戦った経験がなく、「一人っ子」で甘えて育てられた兵士である。しかも、賄賂を使って昇進した将官の指揮である、実力不足は明らかである。台湾上陸作戦は、白兵戦になる。中国軍が、この恐怖に耐えられるか疑問である。簡単に白旗を揚げる予感がするのだ。

     

    (4)「米国は、中国にアジアを支配する能力を与えないため、クアッド(米豪日印)のような連合が形成されている。中国の観点に立てば、手をこまねいていると、国際的な連合が自国の野望を阻害する一方で、米国の軍事投資がはるかに手ごわい敵を生み出すことになる。このため、中国政府がすぐにでも武力行使をした方がいいと考えるかもしれない状況にある。衝突および敗北する可能性を避けるには、米国は中国抑止に向け直ちに行動を起こさなければならない。台湾への「極めて盤石な」関与を繰り返し宣言するのはいいが、それだけでは不十分だ」

     

    中国軍は、米軍に対して恐怖感を持っているだろう。ジャングルや朝鮮のような山岳戦ではない。近代戦そのものの戦いになる。陸海空の総合作戦になるとき、どう見ても中国に勝ち目はないだろう。となれば、中国に開戦を思い止まらせることが最大の戦術になる。

     

    (5)「喫緊の優先課題は、台湾が防衛力を根本的に高めることだ。台湾自らによる努力が、自由な社会として存続できるかどうかの鍵を握るだろう。台湾はこれまで大いにないがしろにしてきた防衛予算を拡大し、次の二点に対する支出と取り組みに重点を置く必要がある。米国はまた、唯一最大の同盟国である日本にも同様の圧力をかけるべきだ。台湾が陥落した場合、日本は中国の軍事的脅威に直接さらされることになる。日本は台湾防衛で重大な役割を果たすだろう。日本は直ちに防衛予算(現在は国内総生産のわずか1%)を少なくとも倍増すべきだ」

     

    台湾軍は、練度が低いと言われている。他国が、助けてくれるだろうという甘えが指摘されているのだ。これを、いかに払拭するかである。日本の防衛予算増額が話題になっている。岸田首相は、防衛費を対GDP比2%に引き上げると公約している。


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    中国が、9月にTPP(環太平洋経済連携協定)加盟申請した。その目的をめぐって、依然として疑問に包まれている。TPPの設計では、中国が加盟できないように可能な限り、条件を厳しくしてあるからだ。中国が、それをパスするほど経済制度を「市場化」するならば、中国共産主義の原型を歪めるために、国内の毛沢東主義者から猛反発を受けるはずだ。

     

    習氏が、こうした国内情勢を知悉しつつ敢えてTPP加盟申請した理由はなにか。しかも、米英豪による「AUKUS」結成発表直後のTPP加盟申請である。TPP加盟国を攪乱させる政治目的で、各国へ接近しようと狙っているのでないか。大真面目になって、中国がTPP加盟で変わるか、などと議論するのは無益のように思える。中国は、TPP問題を政治的に利用しようとしているだけであろう。

     


    『日本経済新聞』(10月28日付)は、「TPP、中国は変われるか」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のコラムニストである秋田浩之氏である。

     

    9月に環太平洋経済連携協定(TPP)に加盟申請した中国に、日本などのメンバー国はどう対応すべきか。筆者は10月12日付本欄で、中国との協議は慎重に進めるべきだと書いた。

     

    (1)「拙稿に寄せられた反対論は大きく分けて2つある。ひとつは、米国のTPP復帰は考えづらいのに、それを想定した議論を掲げるのはおかしいというものだ。確かに米国が近い将来、復帰する望みは小さい。ただ「金輪際、あり得ない」と断定するのは早いように思う。

    今回、主に取り上げたいのはもう一つの反対論である。それは次のような内容だ。

    ■TPPの加入条件は極めて詳細、厳格であり、中国が例外扱いを求めても許される余地はない。

    ■そうした前提から、積極的に中国との加盟協議に応じるべきだ。中国に改革を迫り、より公正で透明なルールを整えさせる好機を逃してはならない」

     

    中国は、米国覇権を倒して世界支配を夢見る国家である。こういう大前提を忘れた議論は、単なる技術論に陥って危険である。中国が、野望を実現するためにその場限りの約束をしても守るはずがない。それは、2001年12月のWTO(世界貿易機関)加盟の際に約束したことがすべて反古にされていることで証明ずみだ。中国は、南シナ海を中国領であると、臆面もなく主張する国である。こうした国に対して、他国が真面目に議論できるはずがない。

     


    (2)「この意見には必ずしも反対ではない。筆者も中国を門前払いし、協議を拒むべきだと主張しているわけではない。メンバー国側が一切、例外扱いを認めないという原則を貫き、中国が応じるなら、同国の経済をより自由化していくことにつながるだろう。ただ、その方向に協議を動かしていくには、極めて入念な準備とTPP側の結束が最低条件になる。仮に多くのメンバー国が中国に歩み寄っても、加入基準を曲げない強い意志が日本には必要だ。こうした大前提に立ったうえでも、巨大な中国との協議には少なからぬリスクを伴う。最大のリスクは中国の真意がどこにあるのか、よく分からないことだ。本気で全基準を満たす覚悟があるのか、初めからそのような意志はないのか、細かくチェックし、見極めなければならない」

     

    中国が、本気でTPP加盟条件を全て受入れるとするならば、先ず、国内の手続きを完了しておくべきである。加盟後に実施しなければ、加盟を取消すという条項を付けるべきである。これまでの約束が、全て空手形になっている現実を忘れた議論は空論に過ぎない。

     

    (3)「これに対し、中国は全条件を満たせないと分かっており、初めから特別扱いを期待しているという説も聞かれる。米ヘリテージ財団による「経済自由度」指数では、中国は世界107位にとどまり、TPP参加国の平均順位(約30位)には遠く及ばない。TPPでは外国とのデータ流通規制を大きく緩め、補助金による国有企業への優遇、強制労働をやめなければならない。しかし習政権の政策は、これらに真っ向から逆行する流れが目立つ」

     

    中国の経済制度は、共産主義政治を支える基盤である。共産主義国家であり続ける限り、現在の経済制度を変えるはずがない。こういう論理で考えれば、中国がTPP加盟のために、共産主義政治を危うくするような経済制度の変更はあり得ないのだ。

     

    (4)「中国の経済政策に詳しい日本総合研究所の呉軍華・上席理事は、こう分析する。「世界貿易機関(WTO)加盟交渉の時、中国では外圧を利用して経済体制を西側先進国に近づけようと思う人が多かった。だが、今は自分の経済モデルの方がより優れているとの自信にあふれている。TPP基準に近づくよりも、例外措置を設けさせることにより、TPPの中国化が図られていくのではないか」としている」

     

    この見方が、中国の本音部分をピタリと指摘していると思う。誇り高い中国が、米国の設計したTPP制度を100%受入れることなど、夢想にすぎまい。

     


    (5)「TPP協定は極めて詳細で広範にわたり、中国の例外扱いを許さない仕組みになっている。中国は加入協議前に、すべての義務に従うことにまず同意しなければならない。協議では国内の制度や法律がこと細かく精査され、どう基準を満たすのか、具体的な計画を明示するよう求められる。現参加国の11カ国は付属文書などで一部、義務の猶予期間などを定めているが、新規加盟国には認めない方針も決めたという

     

    このパラグラフを読めば、中国が政治的にTPP加盟問題を利用しようとしても無理なことが分かる。下線部だけでも、中国のTPP加盟論は絵空事である。

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    中国も落ちぶれたものである。不動産バブルを収拾する能力を失っているからだ。中国当局は、中国恒大の創業者・許家印氏に対し、個人資産をなげうって債務を処理するように指示したという。当局は、これまでの恒大による高成長で雇用を維持し、税収をたっぷりと吸い上げたはずであるが、最後は逃げの姿勢である。

     

    恒大の巨額債務(約3000億ドル)は、中国当局の処理できる範囲を超えてしまったのだろうか。これは、当局で責任問題に発展していることを示唆している。許氏の資産が、恒大の債務削減にある程度の寄与ができるほど大きいのか、また資産に流動性があるかは不明であるという。ブルームバーグ・ビリオネア指数の見積もりによると、許氏の資産は2017年の420億ドル(約4兆7900億円)から約78億ドルにまで減少しているが、この数字にはかなりの不確実性があるという。『ブルームバーグ』(10月27日付)が報じた。

     


    早くも、許氏の資産が取沙汰されているのは、金融機関がどれだけ恒大債務を負担するかという事態に入っているのであろう。互いに、相手の金融機関へ少しでも恒大債務を押し付けようと逃げ回っているにちがいない。醜い光景である。

     

    『ニューズウィーク 日本語版』(10月27日付)は、「叫ばれ始めた『中国台頭の終焉』 ポスト中国の世界を(一足先に)読むと.....」と題する記事を掲載した。筆者は、元外交官の河東哲夫氏である。

     

    大手民間IT企業に対する締め付け、30兆円超規模の負債を抱えた不動産大手の苦境、そして相次ぐ停電――。中国の集権経済は、逆回転を始めた。中国の長い歴史では、皇帝の権力維持が至上命令。台頭する商人は抑えられ、役人は民がどんなに困ろうが皇帝の指示を大げさに遂行することで昇進を図る。今回もその伝で、共産党政権は政治優先。金の卵を産む鶏=経済を絞め殺し始めたのだ。

     

    (1)「その折に、『フォーリン・ポリシー』誌(10月1日付)は、「中国崛起(くっき)の終焉」と題する記事を掲載。「中国の台頭」が頭打ちになったと指摘し、それを前提に戦略を組み立てることを提唱した。隣国の日本としても中国の後退で何がどうなるのか、頭の体操をしておかないといけない。まず極端なシナリオから行くと、経済の後退をきっかけに中国国内で権力闘争が起きて中央権力が真空化する場合、何が起きるかだ。1991年のソ連では、ゴルバチョフとエリツィンが対立して権力が麻痺したが、その空隙(くうげき)を利用してバルト諸国などいくつかの民族共和国は独立した。中国でも、モンゴルや新疆ウイグル、チベットや香港で同様の事態は起きるだろうか?」

     

    中国で、経済が疲弊すると内部で権力闘争が起る。今回も、同様の習派と反習派が争うのであろう。中国経済は,2010年がピークでありその後、下降状況に入っている。すでに、この状態は10年を過ぎた。中国経済の抱える矛楯が現在、顕著になっているのは当然であろう。国内の締め付けは、それを反映している。


     

    (2)「ソ連邦の各民族共和国では多くの場合、地元民族が統治・利権構造をつくり上げ、ロシア人は外部から来てそのトップに座っていたにすぎない。だからその民族は独立後、直ちに統治を始めることができた。中国のそれぞれの地域では「漢民族」の人口比率も高くなっていて、彼らのグリップはしっかり利いているようだ。だから、北京の権力が真空化すれば、地元の共産党書記(漢民族)が税収を押さえ、地元の軍・武装警察勢力を従えて自分の権力保全を図るのではないか?」

     

    中国では、北京の権力が真空化しても、地方の共産党が権力を維持するという。だが、財源の5割は、土地売却収入である。経済混乱期に、土地を買う人間はいない。全て「現金」へ集中する。住宅の投げ売りで懐へ現金の束を押し込む。そう言えば、次のような記事が報じられた。

     

    中国版ツイッター、微博(ウェイボー)では23日、「上海市で15日、ある謎の男性が同じ集合住宅団地内の93軒の住宅物件を一気に売り出した」との投稿が注目を集めた。物件が地元名門校の学区内にあるため、購入希望者1000人が殺到したという。警官が投入され、警備に当たっていた。所有者は代金の1回支払いを求めた。投稿によると、全物件に同日、買手が付き、所有者は現金4億5000万元(約80億3200万円)を獲得した。『大紀元』(10月27日付)が報じた。不動産バブル崩壊を象徴する話である。

     


    (3)「つまり、独立国と言うより軍閥の出現だ。それにより中国は分裂するのか?
     秦朝以後、中国が分裂したのは三国~南北朝時代の400余年、五代十国時代の50余年、そして辛亥革命後17年間の3回だが、分裂期間は縮まっているし、毎回、統一を目指す者が現れている。「中国は一つであるのが常態」という暗黙の了解があるのだ。 次に、経済が悪化すれば失業は増大してインフレもひどくなるから、国中で抗議行動や暴動が起きるだろう。しかしそれらは指導者や組織力を欠き、地元の武装警察に抑えられる可能性が高い」

     

    多分、反習派が起ちあがって、共産党政権継続を訴えるであろう。だが、大衆がそれを受入れるかどうかだ。国民投票実施を呼びかけるかも知れない。

     

    (4)「中国の周辺はどうなるだろうか? 北朝鮮は中国に代わる経済パートナーを求めて韓国や日本との関係改善を目指すだろう。アメリカはもう、北朝鮮を武力で威嚇することはなくなる。台湾は独立を宣言するだろうが、中国大陸に展開した膨大な生産施設の移転先を探すことになる」

     

    日本が、北朝鮮の経済難の機会を生かして、日朝会談に持込む可能性はこれまでも指摘されてきた。日本が、北朝鮮へ賠償を支払い日韓併合時代の後始末を付けるというものだ。その場合、中韓は口出しできないだろうと言われている。台湾は独立する。中国本土の外資による生産設備は、自国へ戻るであろう。中国が台頭する前の姿に、大方は戻るのだろうか。

     


    (5)「ロシアは、アメリカと戦うための準同盟国=中国を失うばかりでなく、不安定化した大国を隣国に抱えることになる。ロシア極東やシベリアでは「食えない」ため中国難民が押し寄せることはないだろうが、ロシア極東は1860年まで清朝に服していた地域だ。中国で返還要求を掲げる者が現れるかもしれない。世界でのロシアの立場は総じて今よりも弱いものになるだろう」

     

    ロシアは、中国という相棒を失うほかに、シベリアへ中国難民が押し寄せる。中国東北部は、経済的に疲弊している地域なので、難民がシベリアへ流れると想定している。中国が衰退すれば、ロシアの力も弱体化するとしている。

     

    (6)「『一帯一路』の沿線諸国では、「カネの切れ目が縁の切れ目」。これまでの中国旋風は嘘のように静まるはずだ。日米同盟もその性格を変える。朝鮮半島や台湾など、西太平洋全体の平和と安定の保証人としての意味を増していくだろう。中国が沈んだからと言ってアメリカとの同盟を捨てるのは短慮だ。たとえ中国が沈んでも、日本は舞い上がらず、戦前のように中国の弱さに付け込むことなく、自国の安全と尊厳と生活だけはしっかりと守っていきたい」

     

    これまで、中国が衰退して日本が代わって再浮上するという見方があった。これと、軌を一にしている。超高齢社会の日本が、再浮上する可能性はない。あくまでも、日米同盟を固く守ることだ。

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