中国が、発展途上国において政治的覇権と経済的利益を目的に始めた「一帯一路」は、自国労働者をも搾取する機構であることが暴露されている。中国から連れて行く労働者は当初、好条件で募集する。だが、現地に着くとパスポートを取り上げ、契約時とは違った劣悪な労働条件を押し付け、帰国もままならない事態に追込まれている。
中国政府の宣伝した「一帯一路」プロジェクトは、工事を行う現地で労働者を集めて工事するという触れ込みであった。実際は、建設資材も労働者も全て中国から「持込む」形になった。「一帯一路」プロジェクトに期待した欧州企業は、完全に蚊帳の外に置かれて、「一帯一路」宣伝に利用されるだけとなった。中国は、このようにあくどいことを平気でやっているのだ。
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月28日付)は、「『一帯一路』で搾取される中国人労働者」と題する記事を掲載した。
中国人労働者のジャン・チャンさん(31)は今年3月、中国からインドネシアに向かった。中国鉄鋼メーカーの現地工場で働くためだ。6カ月後、彼は4人の男たちとマレーシア沿岸で岸にたどり着こうともがいていた。「詐欺」から逃れるためだった。5人はマレーシアの地元当局に拘束された。ジャンさんは現地のインタビューで「われわれはだまされたと感じたし、自分ではどうすることもできないと感じた」と語った。
(1)「中国政府の公式データによれば、8月末時点で約60万人の中国人出稼ぎ労働者が国外で働いている。その多くは、習近平国家主席の看板政策である巨大インフラ建設事業「一帯一路」と関連する中国企業のプロジェクトに投入されている。ニューヨークを拠点とする労働者の権利擁護団体、チャイナ・レーバー・ウオッチ(CLW)によると、ジャンさんらが経験したような状況は珍しいことではない。CLWが12カ国で働く中国人労働者約200人とのインタビューと、中国商務省の内部告発者1人(名前は非公表)からの情報に基づいて推計したところ、約束より少ない賃金しか支払われていないなど搾取されている出稼ぎ労働者が数万人いるという」
同じ中国人が、中国人を搾取するというケースである。これを読むと、中国人同士ですらこういうことが平然と行われている社会である。他民族に対する搾取は、言うまでもないであろう。
(2)「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の計算によると、中国企業は2013年以降、インドネシアの鉄鋼・ニッケル事業に少なくとも127億ドル(約1兆4450億円)を投じてきた。これらの企業にとってはインドネシアの豊富なニッケル埋蔵量が魅力だった。地元労働者を雇うのではなく本国からの出稼ぎ労働者に依存する中国企業の手法は、一部の国で反感を買っている。インドネシアのある主要労働組合は今年に入って、中国人の非熟練労働者を使うやり方について、地元労働者から仕事をだまし取る行為だと批判した」
地元の労働者を雇って「騙し行為」が発覚すると国際問題になる。だから、騙しても「国内問題で済む」中国人を雇っているのであろう。最初から、計画的な犯行である。
(3)「中国の労働者供給事業者は、労働者を国外に送る手配をする前に政府の認可を得なくてはならない。ジャンさんが連絡を取った民間事業者「Rongcheng Environmental Engineering Co.」がある中国東部・無錫市の商務・人材の両当局によると、地元企業でそのような認可を取っている所はないという」
労働者供給事業者は、政府の認可が必要である。悪徳業者はモグリであるので、政府の認可を取っていないのだ。
(4)「ジャンさんら中国人出稼ぎ労働者が9月初めに微信(ウィーチャット)に投稿した説明によると、彼らはインドネシアに着くと、パスポートを箱の中に入れるよう指示された。その後、中国の非上場鉄鋼メーカー、江蘇徳龍鎳業がモロワリ県で運営する金属精錬所に移動させられた。同社がインドネシアで行うニッケル生産事業は、2020年5月に中国当局が「一帯一路の主要プロジェクト」と説明していた。Rongcheng社は江蘇徳龍の下請け業者の一つ。ジャンさんらはモロワリで、約束されていた月給1万5000元ではなく、1万元の建設業の仕事を提示され、長時間労働を求められた。給与は毎月1000元が現金で支払われ、残りはプロジェクトが完了する将来の不特定の日まで支給されないという内容の雇用契約を提示された。ワンさんが明らかにした」
悪徳人材供給会社は、インドネシア雇用先企業の下請け業者であった。しかも、最初の話では月給1万5000元のはずが、1万元の建設業の仕事を提示され、長時間労働を求められた。給与は、毎月1000元が現金で支払われるだけであった。明らかに食い物されている。
(5)「パプアニューギニアとインドネシア、セルビアで働く中国人労働者はWSJに対し、(コロナ禍で)自分たちの代わりに来る新規の労働者がほとんどいないため、既存の労働者は帰国が禁じられたり帰国しないように言われたりしていると述べている。帰国したい場合は、航空券と隔離のために多額の費用を負担する必要があるという(隔離は2~4週間にわたる)。労働者は通常、往復航空料金の支給を約束されているが、コロナ流行下では雇用主が帰国時の航空料金を出し渋り、労働者を長く仕事にとどまらせるケースが多い」
コロナ禍で、後続の労働者が中国から来ないので、既存の労働者が帰国できずにいる。酷い労働条件がさらに延ばされている。「地獄の延長」である。
(6)「インドネシアにいるジャンさんと、同郷の労働者4人は、自分たちの家族に対し、ジャカルタの中国大使館に何度も助けを求めるように頼んだ。ワンさんによれば、大使館は彼らを助ける力はないとし、代わりに警察に通報するようアドバイスした。雇い主は敷地を警備するために銃を携行した地元の警備員を雇っており、5人はこの雇い主からの反発を懸念し、行動を思いとどまったという。ジャンさんによれば、中国大使館はその後、モロワリにある江蘇徳龍の事務所に5人に関する書簡を送った。これを受け、彼らの管理者は腹立たしげに、パスポートの返却と帰国用チケットの確保と引き換えに7万5000元(約133万円)を要求してきたという。ジャンさんは「国から出たいのであれば、必ず正規のルートを使い、出国前にまず契約書に署名することだ。われわれのようになってはいけない」と語った」
ジャンさんは、自分の家族にジャカルタの中国大使館に何度も助けを求めるように頼んだという。中国大使館は、ようやく重い腰を上げたが、企業側は法外にも約133万円を帰国費用として要求した。この結果、彼ら5人は違法出国を決意したが悪徳ブローカーに騙されて官憲に逮捕される始末になった。当局は、彼らの置かれている事情を理解し、中国送還となったが、まだ出国日程は決まっていないという。