勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    過熱化する米中貿易戦争に一陣の風が吹いた感じだ。

     

    7月13日の東京株式市場が活況を呈した背景に、米中貿易戦争において好転気配を材料としたもの。その中身は、いたってあやふやなものであった。

     

    中国商務省の高峰報道官は7月12日の定例会見で、「中国で業務展開する米国企業に対し、米国の通商措置で影響を受ける企業利益を守るため、米国政府へのロビー活動を望む」という発言をしたことが空気を変えた。従来の強い調子での「米国批判」から一歩下がった印象を受けるからだ。これは、中国で事業を行う米企業の7割近くが、不公平な競争や知的財産権保護不備への報復として、米国の関税引上げに反対している結果だ。在上海米国商工会議所が、7月12日公表した「中国のビジネス環境に関する年次調査」で判明したもの。中国は、この在中国の米国企業の調査結果に勇気づけられたに違いない。

     

    『ブルームバーグ』(7月13日付)は、次のよう報じた。

     

    「米中両国は、貿易摩擦問題を巡り協議再開に前向きな姿勢を示し始めた。ムニューシン米財務長官は、米国の関税措置やそれに対する報復が国内景気の落ち込みにつながっていないとした一方、自身と米政権当局者は貿易を巡る中国との協議に応じることができるとも述べた。中国商務省は12日遅くの声明で、経済摩擦激化の責任は米国側にあるとしながらも、対話と協議を通じて意見相違の解消を図ることに誠実な姿勢で臨んできたともえた」

     

    たったこれだけの報道である。中国側の激烈な米国批判がないことだけを理由にして、「何か話合が始まるのか」という期待先行である。

     

    詳細情報では、『日本経済新聞 夕刊』(7月13日付)、「米財務長官、中国構造改革が条件」と題して、次のように報じている。

     

    「ムニューシン米財務長官は12日、貿易で対立する中国について『中国が真剣に構造改革を進めるなら、いつでも話し合う用意がある』と述べた。中国とは貿易不均衡の是正策でいったん合意したが結局、関税をかけ合う事態に発展した。中国にとってよりハードルの高い構造改革の実行が、貿易協議再開の条件になるとの見方を示した」

     

    この内容では、米中貿易戦争が解決の兆しがあるという期待はゼロである。米国は、中国が構造改革=不正貿易慣行の是正に取り組む意思があれば、という前提条件がついている。株式市場は、「何でも材料にする」というムード面が支配する場所だから、そうあって欲しいという期待感の表明と見られる。

     

    私がもう一つのブログ(「勝又壽良の経済時評」7月15日)では、次のような見立てをしているので参考までに上げておきたい。

     

    中国経済の成長率鈍化がハッキリするのはいつか。今年の4~6月期に第一波が現れる。輸出の新規受注は、すでに6月から落込んでいる。この状態は、月を追うごとにマイナス幅を拡大するであろう。これを反映して、株価と為替相場が下落する。外貨準備高の取り崩しが顕著になれば、元相場の下落も不可避となり、世界経済全体を巻き込むリスクが顕在化する。その時、米中の話し合いが始まる。その時期は、来年前半当たりに来る可能性を否定できまい。中国経済の疲弊度が、話し合い時期を早めるのでないか」

     

     


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    ドル高と米中貿易戦争の影が、世界中に金融危機の暗いムードを醸し出している。中国の人民元相場の急落や上海総合株価指数の値下がり。新興国通貨の下落。そう言えば今年は2008年のリーマンショックから10年になる。当時と比べた金融環境は、決して改善している訳でない。むしろ過剰債務が中国を中心にして積み上がっている。

     

    世界経済は、10も経てば新たな矛楯が起こっても不思議はない。この10年間、世界中が先進国による金融大緩和でマネーは、新興国へ向け逆流した。そのマネーが、ドル高に誘因されて米国へ還流し始めている。金融の世界的な潮流は、満ち潮から引き潮へ変わっている。この蔭で、「何かが起こる」という予測が登場している。

     

    『ブルームバーグ』(7月5日付)は、「カタツムリの歩みで忍び寄る信用収縮-世界的なセルオフが示唆か」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「債券リサーチの第一人者として知られる英銀HSBCホールディングスのスティーブン・メージャー氏らは、株式相場急落やボラティリティーの急激な高まり、仮想通貨の価格崩壊は偶然の一致ではなく、いずれも世界的なクレジットクランチ(信用収縮)が起きつつある兆候だと指摘した。カタツムリのようにゆっくりしたペースで事態が進行しているだけだという。メージャー氏らのチームは、世界のリスク市場で見られるセルオフ(大量の売りによる急落)の『ロングリスト(一覧表)』について、ドルの流動性逼迫に伴う混乱の兆しと受け止めている。こうした状況に対応し、同氏らはドイツ国債の利回り見通しを引き下げ、クレジットに一層弱気になり、新興国市場債への警戒も一段と強めた」

     

    新興国の株価や為替相場が下落している。仮想通貨も一頃の勢いはない。これらから、世界を暗い雲が静かに覆い始めている予感がするという。この背景には、リーマンショック10年という暗い記憶が頭をかすめるのだろう。

     

    (2)「こうした懸念は、金融市場の至る所で拡大するより広範な不安を反映している。米国の金利上昇やイージーマネー(低利で楽に手に入る資金)時代の終わり、既存の貿易秩序に挑戦するトランプ米大統領のアプローチといった要因が複合的に作用し、よりリスクの高い資産から資金流出を促している」

     

    中国株ファンドマネジャー20年の大ベテランが、中国株を全て売り払ったというニュースを見た。理由は、中国経済のマクロ指標悪化という。プロの投資家は、経済指標で判断する。このベテランは、こう発言した。なるほど、と相づちを打った次第だ。


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    北朝鮮外交はつかみ所がない変幻自在である。握手をしたと思って安心していたら、翌日は知らん顔という事態が起こっている。米国と北朝鮮は7月12日、板門店において朝鮮戦争で戦死した米兵の遺骨返還に向けた方法や日程などを話し合う実務協議を開催する予定だった。とこが、北朝鮮側は姿を見せず協議は行われなかった。こういう北朝鮮の動きを見ると、驚くことばかりだ。

     

    一方、金正恩氏は米大統領トランプ氏に送った親書では、別の顔を見せている。トランプ大統領が公開した手紙は7月6日に作成されたもので、マイク・ポンペオ国務長官が北朝鮮を訪問した時だ。ポンペオ長官が受け取ってトランプ大統領に届けたものとみられる。金委員長の親書は次の通りだ。

    『中央日報』(7月13日付)が、下記のように報じた。


    「『24日前、シンガポールで行われた閣下との意味深い初めての対面と、我々が一緒に署名した共同声明はまことに意義深い旅程の始めとなりました』という言葉で始まる。続いて『私は両国の関係改善と共同声明の忠実な履行のために傾けている大統領閣下の熱情的で格別な努力に深い謝意を表します』とし、『朝米間の新たな未来を切り開こうとする私と大統領閣下の確固たる意志と真剣な努力、独特の方式は必ず立派な実を結ぶことになると堅く信じています』と記した。また『大統領閣下に対する変わりない信頼と信頼が今後の実践過程により一層強固になることを願いつつ、朝米関係改善の画期的な進展が我々の次回の対面を操り上げるだろうと確信します』と終え、首脳会談が再び開催される可能性も示唆した」

     

    この親書では、「朝米関係改善の画期的な進展が我々の次回の対面を操り上げるだろうと確信します」として、次回の首脳会談開催に言及している。こうなると、先の板門店における米朝事務会談のすっぽかしはどういう意味なのか。

     

    韓国の文在寅大統領は、訪問先のシンガポールで次のように「解説」している。

     

    「文大統領は、『米朝首脳間合意はうまくいったが、具体的な実行計画づくりに向けた実務交渉は順調ではない部分もあり、時間が長くかかるだろう』としながら、『それを象徴的に示したのがマイク・ポンペオ長官の訪朝結果だった』と述べた。文大統領は引き続き『評価は交錯しているが、私は(米朝実務交渉が)正常過程に入り、具体的な実務交渉が本格的に始まったとみている』として米朝間の異見を『戦略』の側面から説明した。文大統領は、『北朝鮮が外務省の談話を通じて米国を非難したが、内容を見ると、自身は誠意を尽くして実質的措置を取っているのに米国が相応の措置を講じていないという不平』としながら、『これは交渉過程で十分にありえる戦略』と評価した」(『中央日報』7月13日付)

    文大統領は、米朝首脳間の信頼関係が維持されている限り、実務者間でのやり取りに神経を払わなくていい、という結論だ。北朝鮮の交渉担当者が、米国を非難してもそれは「戦術」のうちだから聞き流すこと、である。何か、若者の恋愛テクニックのような感じがする。「嫌いは、好きの別表現」なのだろうか。


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    米国が、中国へ2000億ドル相当の製品に10%の追加関税を発表した。中国は、いかなる報復措置を取るのか、関心が集まっている。これまで、中国が他国へ行なってきた報復措置には、一定のパターンがある。不買運動、旅行禁止、輸入時の通関業務のサボタージュなど。米国に対して、こういう月並みな嫌がらせをやったところで、効果があるのか疑問視されている。

     

    そこで、次のような案が考えられるという。

     

    中国は輸入額が相対的に少ないため、再び関税賦課で米国に対抗することはできないが、その代わり、新税導入や米企業への規制強化のほか、当局認可の引き延ばし、市民に米製品不買運動を促すなどの措置を活用し得る。また、米クアルコムによるオランダのNXPセミコンダクターズ買収計画はまだ当局の最終承認を待っている状態だ」(『ブルームバーグ』7月12日付)

     

    ここでは、「新税導入や米企業への規制強化」によって、米企業を虐めるという考えが浮上している。これは、極めてリスキーである。米企業を中国から追い出すことになりかねない。中国政府は、地方政府に対して米国企業が中国を脱出するか否かを探らせている。なんと言っても米国企業は、世界のナンバーワン。中国への誘致では三拝九拝した過去がある。それを忘れて、掌を返したような冷たい対応すれば、中国を捨てて他国へ立地する恐れも出てくるのだ。

     

    次の指摘に注目すべきである。

     

    「寧波供応鏈創新学院のシャオシュアン・リュウ教授は、関税による長期的な影響として、すでに一部の産業で始まっている新興国から米国など先進国への生産回帰の流れが加速する可能性があると指摘する。中国に生産拠点を設けている企業はすでに人件費の高騰に直面しており、関税はコストをさらに押し上げるという。リュウ氏は『関税によって変化が生じるのは確実だ』としている」(『ウォール・ストリート・ジャーナル』7月12日付「米国の対中追加関税、電子部品が標的に、水産物なども」)

     

    4次産業革命の波に乗って、製造業の技術革新は日進月歩である。中国で大量生産して、世界中へ輸出するという形態の見直しが始まっている。中国は人件費と地価上昇による賃貸料金の上昇で、生産拠点としてのうま味が消えかけている。米国企業虐めは、「脱中国」の動きを加速しかねないのだ。こうなると、中国の米国への報復措置は限られる。

     

    「これまでのところ、中国当局は米企業を狙い打ちにしたり、10億人余りの国内消費者のナショナリスト的な感情をあおって米製品をボイコットしたりすることは避けている。過去に貿易問題で対立した韓国などに対しては、そうした戦術を持ち出した。欧米諸国は長年、中国国内で展開する外国企業のために公平な事業環境を整えるよう中国政府に迫ってきた。UBSグループの中国担当主任エコノミスト、ワン・タオ氏は『全面的な貿易戦争は自国にとって経済的打撃がより大きくなることを中国政府は理解しているため、その回避に力を尽くすだろう』との見方を示した」(『ウォール・ストリート・ジャーナル』7月12日付「米追加関税、対応に苦慮する中国、報復手段を模索」)

     

    この記事では、中国が感情任せの嫌がらせをしないで、慎重に対応するだろうとしている。中国は、弱い相手には徹底的に笠に着た、上から目線の行動を取る。だが、強い相手には慎重な対応をする「使い分け」をする国家だ。これ以上、トランプ氏を怒らせない方法を探る可能性もある。


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    英国の『フィナンシャル・タイムズ(FT)』は1888年の創刊である。世界に誇る英経済紙だ。2015年に日本経済新聞社が買収した。このFTが、トランプ米国大統領を「危険な無学者」と切り捨てるコラムを掲載した。タイトルは、「トランプ氏 貿易戦争招く」(7月11日付)である。

     

    確かにトランプ氏は、乱暴者というイメージが強い。こういう人物が育った家庭環境はどういうものだったのか。聞いてみたい気がする。それほど強烈な性格の持ち主である。

     

    さて、ここからからが本論である。

     

    トランプ氏が仕掛けた米中貿易戦争は、決して褒められるスタイルではない。ただ、中国のような名うての「ルール破り」に対応するには、トランプ氏のような「スパイス」の効いた人物でないと対応できないのも事実だ。中国は、WTO(世界貿易機関)のルールである自由貿易原則を守っていると宣伝するが、中国ほど破っている国はない。未だに、日米欧は中国をWTOの「非市場経済国」に指定しているほど、市場経済ルールを守らない国である。

     

    具体的には、あらゆる分野で企業に補助金を出すことだ。これが、企業保護に当る。研究開発費補助、生産コスト補助など形はいろいろあるが、国内企業を保護している。具体策は、次のパラグラフで取り上げる。この結果、中国に進出している外資系企業は、差別されるのが日常茶飯事となっている。

     

    こういう前歴を持つ中国に対して、公正な貿易慣行を守らせるにはどうするのか。自由貿易原則は、互いにルールを守ることが前提である。中国は、このルールを犯して政府から補助金を支給されて生産費自体を引下げている。この結果、サムスンは中国でスマホ市場を失った。生産費を補助して国内販売価格を下げるから「反ダンピング法」に抵触しない。警察に賄賂を渡しているから捕まらないような話である。

     

    以上のような事実を知らないで、FTは、次のように一刀両断だ。

     

    中国に対し301条を根拠に関税を課すのは、さらに理解しがたい。その狙いは、中国の対米貿易黒字の削減、あるいは中国のハイテク産業育成策『中国製造2025』の阻止、あるいは強制的な技術移転の阻止のようにもとれる。だが、中国に貿易赤字削減を求めるのはばかげているし、次の産業育成策阻止は交渉できる類いのものではない。最後の強制的技術移転阻止は道理にかなった要求だが、達成は難しい」

    自由公正な貿易慣行を踏みにじる中国が、自由貿易を原則とする世界市場で、「一人勝ち」するのは当然である。サッカーW杯でも、最終的には「反則」の数が少ないティームが勝利を得るように、競争(市場経済)は公正であることが前提である。この視点で言えば、中国の流儀は世界経済の障害になる。その障害を取り除くべく、やむなく関税を科すのは「次善の策」として認められるものだろう。中国の「狡」が公認されるならば、各国が見倣うに違いない。

     

    トランプ氏のやり方はスマートではないが、このくらいのパンチで対応しなければ、世界経済の障害物を取り除けないのだ。中国は、南シナ海で勝手に相手国の島嶼を奪い取る手法で、世界貿易もルール破りをしている。困った存在である。


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