中国経済は、恒大集団の過大債務問題の表面化で不動産バブルに支えられていることが世界の目に明らかになった。一方、この経済力をバックにしてきた軍事力膨張の矛先が、台湾と尖閣諸島攻略へ向けられていることもはっきりしている。
こうした状況下で、日本の安全保障に危機はないのか。岸田首相は、防衛費を対GDP比2%へと引き上げる目標を示している。この2%は、NATO(北大西洋条約機構)の申し合わせ水準でもあって、突出したレベルではない。韓国はすでに、2%を超えている。
『日本経済新聞』(10月17日付)は、「日本の安全、迫る脅威 抑止力向上が必須
台湾防空圏に中国軍56機進入/尖閣に海警局船3年前の倍」と題する記事を掲載した。
日本周辺は近年、中国の軍機や船舶の活動が急増している。特に台湾は4日に最多の進入数を記録したばかり。緊迫度を増す安全保障環境への対応を示す必要がある。
(1)「自民党総裁選や衆院選が関心を呼ぶ間、海外は台湾に注目している。台湾が周辺空域に設定した防空識別圏に4日、延べ56機の中国軍機が進入した。近代型戦闘機「殲16」38機、大型爆撃機「轟6」12機など攻撃力を誇る陣容で威圧した。台湾が中国軍機の進入数を逐次公表するようになったのは2020年9月からだ。「中国軍機の飛来が急増し、脅威を内外に明示しなければ危険だ」と判断した時期だったともいえる。今月は月半ばにもかかわらず既に延べ150機を超え過去最高を更新した。昨年9月の3倍の水準になる。
中国機が、台湾の防空識別圏へ進入するのは、政治的に何らかの不満があるとき、中国政府の抗議姿勢を見せる「ショー」となっている。過去の事例では、雨の日に進入しないことが分かっている。「水に弱い中国機」とも揶揄されているが、西側諸国を警戒させるには十分な材料である。
(2)「進入は4段階で増えた。
(1)バイデン米政権が誕生した1月
(2)日米首脳が共同声明に台湾海峡を明記した4月
(3)米英豪が安保枠組み「AUKUS(オーカス)」をつくった9月
(4)日米英など6カ国が沖縄周辺で共同訓練した10月2~3日以降――のタイミングだ。
いずれも日米などが対中戦略をとった節目にあたる。軍事的な警告だ。米外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」は6月、台湾への中国の武力侵攻について「現実的な可能性がある」と説く論文を掲載した。世界は台湾有事を心配する」
軍事行動だけを見れば、中国の台湾侵攻の可能性を示唆させる。だが、中国はそれだけで単純に開戦への引き金を引くわけにいかない。開戦になれば、西側諸国は全て貿易活動を停止し、中国貨物の移動を阻止するはずだ。食糧自給率で劣る中国が、国民の反乱を最も恐れていることを考えれば、国民の不満を招く開戦に踏み切るだろうか。
短期では済まない戦争になる。世界を巻き込むだろう。そういう総合性を考えれば、いくら独裁者の習近平氏といえども、自分の任期も考えれば軽率な振る舞いはできぬはずだ。要は、危機感を煽って、中国国内を引締めることに利用する魂胆だろう。
(3)「沖縄県・尖閣諸島は台湾から170キロメートルと、中国の最新鋭戦闘機なら5分ほどの近距離にある。海上保安庁が1~6月に接続水域で確認した中国海警局の船は延べ642隻で3年前の同時期の2.2倍。領海侵入日数も倍増した。日本に他国軍機が近づいた際の緊急発進(スクランブル)の回数をみると、安保環境の激変が分かる。ソ連崩壊後の1990~00年代は大幅に減ったものの、10年代から急増した。原因は中国軍機だ。日本の防衛は海も空も対中国が軸になる」
中国軍機を「のさばらせる」訳にはいかない。それに十分、対抗できる準備を怠れば、中国の思う壺に嵌る。要は、日本の決意と準備のほどを明確にすることだ。
(4)「日本は4月の日米首脳会談で台湾海峡の平和と安定に言及し、米国と共に台湾問題に関与する姿勢を示した。日米豪印の枠組み「Quad(クアッド)」の協力も強める。中国が台湾を攻めれば、沖縄県の南西諸島が戦域になりかねない。在日米軍が対処すれば基地がある日本も関わる。そもそも台湾周辺は日本とアジア、中東を結ぶ海上交通路(シーレーン)で、海上が封鎖されれば原油の輸入も滞る」
日本のクアッド入りは賢明である。さらに、憲法改正が実現すれば、「AUKUS」(米英豪)軍事同盟へ参加する位の気迫を示すことも考えられるだろう。それは、中国が尖閣諸島への姿勢を改めない限り、対抗手段として有力策となるからだ。
(5)「中国は香港の統治を強化し、習近平国家主席は台湾統一を「歴史的責務」と位置づける。戦闘艦艇や潜水艦の保有数で米軍と肩を並べた。米国がクアッドやオーカスといった多国間の枠組みに積極的なのは、単独で中国に対峙するのが困難になったためだ。米国は日米安保条約で日本防衛の責務を約束するが、その履行には台湾への姿勢が重要になる」
米国が、同盟国の安全を保障する時代は過ぎた。相互防衛が基本型になる。
(6)「検討課題は何か。まずは中国、北朝鮮の攻撃能力への抑止だ。中国も中距離型を1250発保有し、極超音速型ミサイルの実用化で先行する。量や質を考えると日本が従来の迎撃体制だけで備えるのは限界がある。「攻撃に反撃できる」という構えを示す抑止力の強化が対策にあがる。米国は日本周辺に地上配備型のミサイルを持たないため、日本に米国の中距離ミサイルを置く案がある。日本が「敵基地攻撃能力」を持つ策もでる」
抑止力向上こそ、防衛の基本である。侵略は、相手国に隙を見せる結果招くものだ。戦後の日本防衛論で盛んだったのは、「ハリネズミ論」であった。日本を侵略したら、手痛い打撃を与えるという主旨である。この「ハリネズミ論」は、現代にも通用する防衛論の基本型である。