勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    中国経済は、恒大集団の過大債務問題の表面化で不動産バブルに支えられていることが世界の目に明らかになった。一方、この経済力をバックにしてきた軍事力膨張の矛先が、台湾と尖閣諸島攻略へ向けられていることもはっきりしている。

     

    こうした状況下で、日本の安全保障に危機はないのか。岸田首相は、防衛費を対GDP比2%へと引き上げる目標を示している。この2%は、NATO(北大西洋条約機構)の申し合わせ水準でもあって、突出したレベルではない。韓国はすでに、2%を超えている。

     

    『日本経済新聞』(10月17日付)は、「日本の安全、迫る脅威 抑止力向上が必須 
    台湾防空圏に中国軍56機進入/尖閣に海警局船3年前の倍」と題する記事を掲載した。

     

    日本周辺は近年、中国の軍機や船舶の活動が急増している。特に台湾は4日に最多の進入数を記録したばかり。緊迫度を増す安全保障環境への対応を示す必要がある。

     

    (1)「自民党総裁選や衆院選が関心を呼ぶ間、海外は台湾に注目している。台湾が周辺空域に設定した防空識別圏に4日、延べ56機の中国軍機が進入した。近代型戦闘機「殲16」38機、大型爆撃機「轟6」12機など攻撃力を誇る陣容で威圧した。台湾が中国軍機の進入数を逐次公表するようになったのは2020年9月からだ。「中国軍機の飛来が急増し、脅威を内外に明示しなければ危険だ」と判断した時期だったともいえる。今月は月半ばにもかかわらず既に延べ150機を超え過去最高を更新した。昨年9月の3倍の水準になる。

     

    中国機が、台湾の防空識別圏へ進入するのは、政治的に何らかの不満があるとき、中国政府の抗議姿勢を見せる「ショー」となっている。過去の事例では、雨の日に進入しないことが分かっている。「水に弱い中国機」とも揶揄されているが、西側諸国を警戒させるには十分な材料である。

     


    (2)「進入は4段階で増えた。

    (1)バイデン米政権が誕生した1

    (2)日米首脳が共同声明に台湾海峡を明記した4

    (3)米英豪が安保枠組み「AUKUS(オーカス)」をつくった9

    (4)日米英など6カ国が沖縄周辺で共同訓練した10月23日以降――のタイミングだ。

    いずれも日米などが対中戦略をとった節目にあたる。軍事的な警告だ。米外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」は6月、台湾への中国の武力侵攻について「現実的な可能性がある」と説く論文を掲載した。世界は台湾有事を心配する」

     

    軍事行動だけを見れば、中国の台湾侵攻の可能性を示唆させる。だが、中国はそれだけで単純に開戦への引き金を引くわけにいかない。開戦になれば、西側諸国は全て貿易活動を停止し、中国貨物の移動を阻止するはずだ。食糧自給率で劣る中国が、国民の反乱を最も恐れていることを考えれば、国民の不満を招く開戦に踏み切るだろうか。

     

    短期では済まない戦争になる。世界を巻き込むだろう。そういう総合性を考えれば、いくら独裁者の習近平氏といえども、自分の任期も考えれば軽率な振る舞いはできぬはずだ。要は、危機感を煽って、中国国内を引締めることに利用する魂胆だろう。

     


    (3)「沖縄県・尖閣諸島は台湾から170キロメートルと、中国の最新鋭戦闘機なら5分ほどの近距離にある。海上保安庁が1~6月に接続水域で確認した中国海警局の船は延べ642隻で3年前の同時期の2.2倍。領海侵入日数も倍増した。日本に他国軍機が近づいた際の緊急発進(スクランブル)の回数をみると、安保環境の激変が分かる。ソ連崩壊後の1990~00年代は大幅に減ったものの、10年代から急増した。原因は中国軍機だ。日本の防衛は海も空も対中国が軸になる」

     

    中国軍機を「のさばらせる」訳にはいかない。それに十分、対抗できる準備を怠れば、中国の思う壺に嵌る。要は、日本の決意と準備のほどを明確にすることだ。

     

    (4)「日本は4月の日米首脳会談で台湾海峡の平和と安定に言及し、米国と共に台湾問題に関与する姿勢を示した。日米豪印の枠組み「Quad(クアッド)」の協力も強める。中国が台湾を攻めれば、沖縄県の南西諸島が戦域になりかねない。在日米軍が対処すれば基地がある日本も関わる。そもそも台湾周辺は日本とアジア、中東を結ぶ海上交通路(シーレーン)で、海上が封鎖されれば原油の輸入も滞る」

     

    日本のクアッド入りは賢明である。さらに、憲法改正が実現すれば、「AUKUS」(米英豪)軍事同盟へ参加する位の気迫を示すことも考えられるだろう。それは、中国が尖閣諸島への姿勢を改めない限り、対抗手段として有力策となるからだ。

     


    (5)「中国は香港の統治を強化し、習近平国家主席は台湾統一を「歴史的責務」と位置づける。戦闘艦艇や潜水艦の保有数で米軍と肩を並べた。米国がクアッドやオーカスといった多国間の枠組みに積極的なのは、単独で中国に対峙するのが困難になったためだ。米国は日米安保条約で日本防衛の責務を約束するが、その履行には台湾への姿勢が重要になる」

     

    米国が、同盟国の安全を保障する時代は過ぎた。相互防衛が基本型になる。

     

    (6)「検討課題は何か。まずは中国、北朝鮮の攻撃能力への抑止だ。中国も中距離型を1250発保有し、極超音速型ミサイルの実用化で先行する。量や質を考えると日本が従来の迎撃体制だけで備えるのは限界がある。「攻撃に反撃できる」という構えを示す抑止力の強化が対策にあがる。米国は日本周辺に地上配備型のミサイルを持たないため、日本に米国の中距離ミサイルを置く案がある。日本が「敵基地攻撃能力」を持つ策もでる」

     

    抑止力向上こそ、防衛の基本である。侵略は、相手国に隙を見せる結果招くものだ。戦後の日本防衛論で盛んだったのは、「ハリネズミ論」であった。日本を侵略したら、手痛い打撃を与えるという主旨である。この「ハリネズミ論」は、現代にも通用する防衛論の基本型である。 

     

     

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    中国が、TPP(環太平洋経済連携協定)加盟をめぐって、積極的な電話攻勢を行っている。最近では習氏が、直々にシンガポールへ電話して賛成を求めたほど。中国の発表では、シンガポールは賛成したというが、シンガポール発表文には記載されていない。真相は不明だ。

     

    TPPへの参加条件を全く満たしていない中国が、腕力で参加をしようという狙いであることは明らかである。それを阻止するには、日本・豪州・カナダという主要国がスクラムを組むほかに、肝心の「生みの親」である米国が復帰することである。米国は、「育児」放棄をして脱退したのだから、責任を痛感すべきである。米国の復帰こそ、中国加盟阻止の上で大きな力を発揮する。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月11日付)は、「中国からTPPを守れ、残すべき米国復帰の道」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のコメンテーター秋田浩之氏である。

     

    9月、中国と台湾が相次いで環太平洋経済連携協定(TPP)に加盟を申請した。とりわけ中国への対応はアジア太平洋にとどまらず、世界の秩序に極めて大きな影響を及ぼす。TPPは、ただの経済枠組みではない。日米などが主導し、極めて透明で公正な通商やデータ流通のルールをつくり、中国に受け入れを促すためのものだった。いわば、「対中ルール同盟」だ。

     

    (1)「TPPメンバーはどう対応すべきか。主要国の当局者や識者らにたずねると、相反する2つの意見が聞かれる。ひとつは、中国の加入を積極的に後押しすべきだという意見だ。中国がTPPに入るには、外国とのデータ流通規制を大きく緩めるほか、政府調達や補助金による国有企業への優遇、強制労働をやめなければならない。TPP加盟はこうした改革を中国に迫り、異質な体制を変えていく好機だという発想だ。もう一方の意見は、中国の加盟には慎重に対応すべきだというものである。結論からいえば、筆者はこちらの主張に賛成だ」

     


    習近平氏の「共同富裕」を見れば分かる通り、論理を飛び越えた政治決断、つまり陣営論理である。TPPを踏み台にして、いかに中国が旨い汁を吸うかが目的である。一帯一路を見れば、それが歴然としている。発展途上国を食い物にして反発を受けたのだ。その中国経済も、不動産バブル崩壊ですぐに馬脚を現す。時間の問題に過ぎない。

     

    (2)「中国は完全にTPP基準を満たすことは難しいため、一部について例外扱いを求めるだろう。いったん認めたら、中国がTPP基準に近づくのではなく、TPPが中国スタンダードに変質してしまう。これが理由の一つだ。だが、慎重論にはもっと大きな根拠がある。TPPへの新規加盟は、全メンバー国の同意が必要だ。中国が先に入ったら、台湾は言うに及ばず、米国の加盟にも「拒否権」を振るうことができる。そうなれば、米国は恒久的に排除され、中国主導のTPPがアジア太平洋に根を張ることになる。サプライチェーンはさらに中国に組み込まれ、経済秩序は紅色に染まっていくだろう。実際、中国はこれに近い国家戦略を描く」

     

    中国は、TPPの乗っ取りを狙っている。TPP全体を中国のサプライチェーンに編成替えにすることだ。だが、来年は英国が正式加盟する。この英国は、中英協定による「香港」との一国二制度を破棄された被害国である。英国は、ここぞとばかりに中国の主張を100%論破するだろう。怖じ気づくことはない。

     


    (3)「安全保障への影響も計り知れない。15年春、カーター米国防長官(当時)は米国のTPP加盟について、アジア配備の空母機動部隊を倍増するのに匹敵するくらい大切だ、という趣旨の発言をした。逆に、TPPを中国に牛耳られたら、米国の損失は同部隊の1つを失うどころでは済まない。中国はすでに、TPPに外から影響力を強め始めている。9月16日の加盟申請後、習近平国家主席、王毅国務委員兼外相、商務省高官が手分けし、TPPメンバー5カ国に電話攻勢をかけた。中国の所期の目標がTPP内を分断し、「対中国色」を薄めることにある

     

    TPPの目標は、経済安保の確立である。その攻撃対象の中国の加盟を認めたら、TPPは、経済安保の役割を果たさず、逆効果になる。中国が加盟するなら、TPPを壊すべきである。それほどに、マジノ線的な役割を担っているのだ。

     

    (4)「この流れに歯止めをかけ、ルール同盟としてのTPPを保つには、何をすべきか。バイデン大統領がその気になったとしても、復帰への道のりは険しい。米政府筋によると、共和党のトランプ支持者だけでなく、労働組合に近い民主党左派にも、TPPへの拒否反応が根強い。自由貿易が、失業を増やす元凶とみなす見方が多いためだ。だが、全く変化の兆しがないわけではない。9月24日の日米豪印による首脳会談では、菅義偉首相(当時)が米国のTPP復帰を求めた。日本政府筋によると、バイデン氏は言質こそ与えなかったが、中国申請がもたらす影響について「考えてみる」と応じた。9月22日の日米外相会談でも、ブリンケン国務長官はTPP問題で似た回答を示したという」

     

    米国には、TPPを生んだ責任がある。また、TPPによって米国が対中国戦略で、どれだけ利益が得られるか見直すべきである。トランプ氏のような考えから脱却することだ。

     

    (5)「米国の国際経済政策に詳しい米戦略国際問題研究所(CSIS)のマシュー・グッドマン上級副所長は、こう語る。「米国がTPPに復帰する可能性はまだある。中国の申請はバイデン氏がTPP問題に真剣に向き合い、復帰の選択肢を再検討する契機になるからだ。たとえば、11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議などの演説でTPPへの関心を示し、復帰条件に言及することはあり得る」。もっとも、バイデン氏が復帰に動くとしても、米労働者の理解を得やすい条項を入れるよう、再交渉を求めるだろう。協議には長い時間がかかりそうだ」

     

    バイデン氏は、TPPに対して腹を固めるべきである。加入意志を一言発しただけで、加盟国はどれだけ安心できるか分からない。米国復帰が見込めれば、中国に対して「ノー」とはっきり返事できるのだ。 

     

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    中国恒大の経営危機は、世界中の話題になっているが、中国当局は具体的対応をせずに沈黙している。その中で、中国人民銀行(中央銀行)が、ようやく次のような発言をした。

     

    『ロイター』(10月16日付)は、「中国恒大問題の金融システムへの波及は制御可能 人民銀当局者」と題する記事を掲載した。

     

    中国人民銀行(中央銀行)の金融市場担当責任者は15日、経営危機に陥っている中国不動産大手、中国恒大集団の債務問題が金融システムに及ぼす波及効果は制御可能だと述べた。中国恒大の債務問題に関する当局者の発言はまれである。

     


    (1)「
    金融市場担当責任者は、記者会見で「中国恒大はここ数年、経営がうまく機能しておらず、市場の変化に応じて慎重に事業を運営せずにやみくもに事業を多角化、拡大していた」と指摘。中国当局は中国恒大に対し資産売却と建設プロジェクトの再開を強化するよう求めており、そのための資金調達を当局が支援するとしたほか、各金融機関の中国恒大に対するエクスポージャーは大きくないと述べた」

     

    人民銀行は、中国恒大支援で資産売却と建設プロジェクトの再開に必要な支援をするというもの。これまでの沈黙を破って、後始末に動き出すことを明らかにした。これで、当面の資金繰りが付くメドがついた。工事中断のプロイジェクトを再開させ契約者に住宅を引き渡す準備が始まる。

     

    (2)「海外で社債を発行した不動産会社は積極的に返済義務を果たすべきと強調した。今年の第1~第3・四半期については、「いくつかの都市で不動産価格が急激に上昇したため、個人向け住宅ローンの承認と発行が抑制されたが、住宅価格が安定すれば、これらの都市の住宅ローンの需給も正常化する」とした」

     

    下線部の外債(ドル建て債)の償還義務を果たすように強調しているが、それだけの話である。住宅ローンも住宅価格が安定すれば住宅ローンの規制緩和を示唆している。「不動産バブル」の延長線を続ける積もりだ。

     

    (3)「一方、中国恒大集団は深圳証券取引所に提出した書類で、2020年に発行した人民元建て社債について、10月19日の利払い日に予定通り支払いを行う意向を示した」

     

    人民銀行は、人民元建て社債の償還を予定通り行うとしている。ドル建て債については、人民銀行は預かり知らないという姿勢である。ここに明白になったのは、ドル建て債券はデフォルトの可能性を認めていることだ。端的に言えば、海外のドル建て債券者については、人民銀行が責任を持たないという意思表示でもあろう。

     

    中国当局は、積極的にドル建て債券を発行させて外貨準備高を積上げさせながら、いざ返済の段階になったら「われ関せず」という無責任な姿勢を取り始めている。

     

    海外投資家にとって重要なのは、中国企業の発行する社債の1割弱が外貨建て債であることだ。23年までの外債償還額は、1720億ドルにのぼる。気がかりなのは、外貨建て債で債務不履行が増えていることだ。中国恒大では、デフォルトには至っていないが、すでに3本の利払い遅延が起こっている。

     

    リフィニティブなどによると2020年以降に、少なくとも10本以上のドル債が債務不履行を起こしている。北京大学系のIT(情報技術)大手、北大方正集団は20年2月に会社更生手続きに相当する「重整」に入り、複数のドル建て債で元利払いができなくなった例もある。

     

    国有半導体の紫光集団もドル債の債務不履行を繰り返した。2月には、米シティグループの香港法人が利払いや償還を求めて訴訟を起こしている。「中国企業が債務不履行を決断するハードルが低くなっており、国債や政策銀行債しか安心して投資できない」(外国銀行)といった声が漏れ始めているという。『日本経済新聞』(5月12日付)が報じている。

     

    中国企業が発行した社債のうち、2023年までの3年間に満期を迎える総額は2兆1400億ドル(230兆円超)に達する。18~20年の1.6倍の規模だ。中国企業にとって正念場が続くことは間違いない。

     

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    習近平氏は、米国が参加していない機会を狙ってTPP(環太平洋経済連携協定)加盟を目指して、加盟国へアピールを繰返している。TPPでは、加盟条件として国有企業のウエイトの高まりを禁じている。中国は、これだけでもTPP加盟は不可能だが、こういう状況を改善する意思を見せず、一段と国営企業のウエイトを高めている。現実は、矛楯した行動を取っているのだ。

     

    国営企業は、どこの国でも非効率な存在である。中国も、その傾向に変わりない。現実に、赤字企業の比率が、民営企業を上回っているほど。一方、利益面では国営企業が民営を上回るという独占状況を顕著にさせている。民営企業は、それだけ苦境状態に置かれているのだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月16日付)は、「中国『国進民退』鮮明、18月期利益 国有強化のひずみ」と題する記事を掲載した。

     

    中国で国有企業と民間企業の収益が逆転した。18月期の利益総額は、国有企業が民間企業を8%上回った。13年ぶりに通年で国有が民間をしのぐ可能性もある。民間は、当局の規制強化で資金調達が滞り、「川下」の消費財関連に多いため原材料価格の高騰で打撃を受ける。「国進民退」と呼ばれる、習近平指導部の国有強化のひずみが表面化してきた。

     

    (1)「中国では資源や素材といった「川上」の分野で国有が大きな占有率を持つ。例えば、原油生産は中国石油天然気(ペトロチャイナ)、中国石油化工(シノペック)、中国海洋石油(CNOOC)の国有3社がほぼ独占する。3社の16月期は、売上高が原油高を追い風に前年同期比25割増だった。純利益は、ペトロチャイナとシノペックが黒字に転じ、CNOOCは前年同期の3.2倍に達した。中国政府が余剰生産能力の削減を進める鉄鋼分野で、中国宝武鋼鉄集団の生産量は世界最大規模だ」

     

    産業の「川上」部門は、国有企業が独占している。最近の原油値上りを反映して、原油部門は大きな増益を記録している。

     


    (2)「習指導部は主に安全保障の観点から国有企業を重視してきた。習国家主席は2020年4月の共産党内組織の会議で「国有企業も改革や合理化が必要だ」と指摘したが、「絶対に否定や弱体化はできない」とも述べた。一方、民間に多い中小零細企業の就業者は全体の8割を占める。中国国家統計局によると、主力事業の年売上高が2000万元(約3億5000万円)以上の製造業(鉱業など含む)による1~8月期の利益総額をみると、国有が1兆7748億元(前年同期比87%増)、民間は1兆6429億元(同34%増)だった。通年でも国有が民間を上回れば、リーマン・ショックで世界経済が混乱した08年以来となる」

     

    主力事業の年間売上高2000万元以上の製造業は、1~8月期で国有企業が民間企業を大幅に上回った。通年でもこの基調が続けば、08年以来13年ぶりとなる。

     

    (3)「18月期に限れば、利益で国有が民間を上回ったのは19年以来2年ぶり。18年も同様だった。だが、両年はともに、12月までのデータがそろった段階で民間の利益が大きく上振れし、国有より多くなった。9月以降の見通しについて、中国の統計に詳しいエコノミストは「年末の税還付や通年ベースでの統計処理によって最終的に民間企業の再逆転もありうる」と指摘する」

     

    現状は、1~8月期であり残り4ヶ月を残している。この間に変化が起これば、逆転もあり得るという。

     

    (4)「民間には国有と比べ、大きく2つの不利なポイントがある。一つは、銀行融資など資金調達での官民格差だ。信用力が高い国有は低利の資金調達が容易だが、民間は銀行からの低利借り入れが難しいケースも少なくない。中小企業にとっては、銀行融資以外の「シャドーバンキング」が重要な調達先だったが、金融監督当局の規制強化で大幅に細っている。こうした事情で民間の財務コストは高止まりしやすく、収益を圧迫する。18月期の財務コストは国有が前年同期より0.%減ったが、民間は2割近く増えた

     

    ここがポイントである。民間が国有に比べて不利な点が2つある。

    その一つは、国有企業が民有企業に比べて金融面で優遇されていることだ。財務コストは、下線のように天と地もの差が付いている。国有は減って民間が逆に増えているのだ。

     


    (5)「もう一つは民間の価格転嫁の遅れだ。製造業では川上の分野に国有が集中して寡占状態になる一方、民間は消費者に近い川下の企業が多い。川下の方が競争の影響を受けやすい。9月の卸売物価指数をみると、川上の生産財は前年同月比14.%上がった。だが、川下の生活財は同0.%上昇にとどまった。消費回復がもたついている。8月末の赤字企業の比率で、民間は19%と、新型コロナウイルスがまん延する前の19年8月末(16%)を上回った。国有は28%で、8月末としては10年ぶりの低水準だった。

     

    もう一点は、価格転嫁力の相違である。国有は、独占的に市場を支配しているが、民間にはその力がないことだ。これは、市場への影響力の差を示している。具体的に言えば、生産者物価の高騰と消費者物価の緩やかな上昇の差に表われている。

     

    こうした市場支配力の差によって、8月末の赤字企業の割合は、国有企業が10年ぶりの低水準に止まった。民間企業は、19年8月末を上回った。

     


    (6)「国有などによる民間への出資も、国有の利益総額を押し上げているようだ。報道によると、20年に国有や政府系ファンドが経営権を握った中国の上場企業は48社。新型コロナなどで経営が悪化したハイテク分野をはじめとする民間への出資例が目立った。国有による民業圧迫は技術革新につながる活力をそぎ、雇用回復の重荷になる。国有の多くは経営がなお非効率で、成長の足かせになりかねない。中国は環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟を申請したが、TPPは国有企業の優遇を禁じている」

     

    国有企業の利益総額が伸びたのは、民営企業への出資による支配強化の結果である。これも、市場構造への影響力強化の結果である。要するに、国有企業は見せかけの利益増加に過ぎない。こういう状況では、TPP加盟など「お笑い種」と言うべきだろう。

     

     

     

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    中国企業への信頼が大きく崩れている。中国恒大は、外債の利払いが三回も不可能になる事態に陥った。この連鎖によって、不動産開発企業全般へ不安が拡大している。その根本には、中国経済への疑念の深まりがある。中国恒大がばらまいた負の材料が、改めて中国の抱える根本的な問題をあぶり出したのだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月16日付)は、「中国不動産、社債市場で強まる警戒、恒大以外も調達難」と題する記事を掲載した。

     

    中国の不動産会社の資金調達が一段と難しくなってきた。社債市場では中国恒大集団以外にも債務不履行(デフォルト)の懸念が高まり、これまでに発行した社債の価格が急落。10月の発行事例はこれまでなく、市場での調達環境の悪化を映す。当局の規制で銀行融資も減少。中国の不動産会社は日本の国内総生産(GDP)を上回る巨額債務を抱えており、金融市場で警戒が高まっている

     


    (1)「中国の不動産販売額で業界トップ3に入る恒大は9月以降3回、米ドル建て債の利払いを見送った。30日間の猶予期間が終わる10月23日ころに格付け会社によるデフォルトが確定する可能性が出ている。恒大以外の中堅も厳しさを増している。主要都市でマンション開発などを手掛けるキンエン・リアル・エステートは15日に償還期限を迎える2億ドル(約230億円)のドル建て債について、2023年満期の社債との交換を提案した。格付け会社フィッチ・レーティングスは実現すれば部分的なデフォルト(RD)になり得るとの見方を示す」

     

    恒大は業界2位であるが、過剰な債務依存で政府の設定した財務3ルールに事実上、全て不合格という悲惨な状態である。中堅の不動産開発企業も資金繰りで苦境に立たされている。

     


    (2)「中国調査会社の克而瑞(CRIC)は15日、「不動産会社は借り換えや現金確保が難しくなっており、業界全体の信用リスクが高まっている。政策が緩和されないとデフォルトが増える可能性がある」と指摘した。中国当局は不動産会社が守るべき財務指針「3つのレッドライン」や不動産融資の総量規制などを導入し、低格付け企業への視線は厳しさを増す。リフィニティブによると、7~9月の中国不動産会社の外債発行額は約19億ドルと、前年同期比61%減少した。UBSウェルス・マネジメントは年内に償還を迎える不動産関連の債券を45億ドルと推計したうえで「財務体質が脆弱なシングルB格銘柄のデフォルトリスクが高まる。新発債の発行による借り換えは難しい」とみる」

     

    7~9月外債発行額は、前年比61%減である。明らかに恒大問題が悪影響を及ぼしている。年内償還額が45億ドルと推計されているが、このうちどれだけまともに償還できるか不明である。中国の不動産開発企業は、債務に依存した経営だっただけに、ひとたび融資規制にかかるとお手上げである。

     


    (3)「銀行融資や「シャドーバンク(影の銀行)」を通じた資金調達も細っている。当局は1月に銀行の総融資残高に占める住宅ローンや不動産会社向け融資の割合に上限を設けた。銀行による9月の中長期融資は企業向けが前年同月比で35%、個人向けが同27%それぞれ減った。銀行の帳簿に計上されない委託融資、信託融資、手形引き受けは19月の累計で1兆5671億元のマイナスだった。返済が調達を上回ったことを示し、マイナス幅は前年同期の9.5倍となった」

     

    9月の社会融資総量(銀行融資+株式公開+信託会社融資+債券発行)は、前年比10.0%増であった。8月の同10.3%増から縮小している。2017年以来の低水準である。中国経済全体が、「縮み志向」になっている。信用不安による典型的な現象である。

     

    (4)「野村国際の推計では、中国の不動産開発会社が抱える債務は6月末時点で33兆5000億元(約590兆円)と、日本の名目GDP(約540兆円)を上回る。多くの企業が債務に依存した開発を続け、16年末に比べて1.8倍に急拡大した。陸挺・中国首席エコノミストらは、「中国不動産会社のデフォルトは増えるだろう。特に内陸部や北部への投資が多い中小業者がリスクを抱えている」と指摘する」

     

    中国不動産開発企業が抱える債務残高は、6月末時点で約590兆円と、日本の名目GDP約540兆円を上回っている。異常の一言である。過剰融資=過剰投資は明らかで、不動産バブルが崩れた後は、「ぺんぺん草」も生えないであろう。「ぺんぺん草」とは、戦後の日銀名物総裁の一万田尚人が言った有名な言葉である。「過剰投資した後はぺんぺん草も生えない」と。

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