勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    ベトナムは、西側諸国から「モテモテ」である。7月には、英国防相と米国防長官が訪越した。8月には米副大統領も訪越している。米中対立の激化とともに、ベトナムの地政学的な価値が高まっていることが背景にある。

     

    この中で、日本はベトナムと極めて良好な関係を維持している。TPP(環太平洋経済連携協定)では、米国が抜けた後に日本を側面から支援して、TPP11を結成させた功労国である。こうした背景もあって、昨年10月、菅義偉首相が就任後、初の外国訪問地としてベトナムを選んだ。

     

    今や日本にとって、ベトナムが安全保障上で最も信頼できる東アジアのパートナーになっている。中国は、南シナ海や東シナ海において国際法を無視して拡張主義的な動きを展開している中で、日越両国は航行の自由、法の支配、紛争の平和的解決、米軍のプレゼンスなどの戦略的利益を共有しており、「自然の同盟関係」にある。

     


    昨年10月時点で、日本で働く外国人労働者約172万人の内、ベトナム人は約44万人であり、中国人を抜いて初めて1位となった。ベトナムの若者達が人口減少と労働力不足に苦しむ日本を支える形になっている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(9月11日付)は、「ベトナムで日中外交戦、コロナ・安保駆け引き」と題する記事を掲載した。

     

    岸信夫防衛相は11日、訪問先のベトナムでファン・バン・ザン国防相と会談した。日本からの艦艇の輸出に向けて協議を加速すると確認した。中国の王毅(ワン・イー)国務委員兼外相も同じ時期にベトナムを訪ね、新型コロナウイルスワクチンを供与すると表明した。

     

    (1)「ベトナムは、南シナ海で中国との間に領有権問題を抱える。東南アジア諸国のなかで現在は、中国に強硬な立場を取る。日米欧は、中国の軍事的な拡大を懸念して外交の要衝と位置づけ、中国も関係改善を目指して働きかける。岸氏は11日のザン氏との協議で、中国が活発に活動する東シナ海や南シナ海の情勢に言及した。中国が海警局を準軍事組織に位置づける海警法を整備したことに深刻な懸念を示し、緊張を高める行為に反対すると伝えた」

     


    ベトナムは、中国に島嶼を奪われた被害国である。その「恨み」を胸の奥に秘めて、いつの日か、「取り返す機会」をじっと待っているところだ。ベトナムが、最も頼りにしている国は日本である。韓国に言わせれば、日本は「非道徳国家」だが、ベトナムにとっての日本は「頼りになる紳士国」である。

     

    (2)「日本からの装備品の輸出も話し合った。会談後、両国は輸出に必要となる「防衛装備品・技術移転協定」に署名した。第三国への装備品の拡散を防ぐため、転売時には日本の同意が必要になるルールだ。何を輸出するかは今後、検討する。海洋での防衛力を重視して艦艇などが候補にあがる。既に日本の防衛装備庁とベトナム海軍が議論を始めた。岸氏は会談後のオンラインでの記者会見で、「ベトナムと新たな段階の協力をさらに発展させ、地域や国際社会の平和と安定に積極的に貢献する」と述べた」

     

    今回の岸防衛相の訪越目的は、日本からベトナムへの「防衛装備品・技術移転協定」署名である。日越は、TPPに加盟国同士であり「ツーカー」の関係にある。日本は、「ベトナムと新たな段階の協力をさらに発展させ、地域や国際社会の平和と安定に積極的に貢献する」と将来展望を述べた。日本の後ろには、米英が控えておりベトナムとの友好促進を期待している。



    『日本経済新聞 電子版』(9月12日付)は、「『困ったときはお互いさま』 岸防衛相、ベトナムで講演」と題する記事を掲載した。

     

    岸信夫防衛相は12日、訪問先のベトナムの国防省で基調講演した。中国が南シナ海で軍事拠点化を進め「行動をエスカレートさせている」と指摘した。日本とベトナムの防衛協力の強化が必要だと訴え「困ったときはお互いさま」と話した。

     

    (3)「海警局を準軍事組織に位置づける中国の海警法について、「国際法との整合性の観点から問題がある規定を含む」と訴えた。「東シナ海と南シナ海をつなぐ位置に台湾がある」と述べ、台湾海峡の平和と安定の重要性を説明した。「今や自衛隊は自由で開かれたインド太平洋の維持、強化のために貢献する存在となった」と力説した。ベトナム軍が「この地域の平和と安定を維持するうえで不可欠」だと言及し、能力強化を支援する意向を強調した。ベトナムとの防衛協力を「新たな段階へと進化させる」と語った。11日に署名した防衛装備品・技術移転協定をもとに、装備品の輸出について協議を加速すると言明した。サイバー防衛能力の向上や医療分野の技術提供を促進する考えも示した」。

     

    岸防衛相は、「東シナ海と南シナ海をつなぐ位置に台湾がある」と台湾の重要性をアピールしている。ベトナムも、台湾防衛に協力して欲しいというニュアンスである。中国にとっては神経を逆なでする発言だが、台湾問題は「独裁との戦い」という意味を持ち始めている。

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    8月末、米国のケリー気候変動担当大統領特使は訪中して、中国の気候変動担当特使を含む高官と会談した。その際、中国側が口火を切った問題は、米国での孔子学院追放中止であった。これは中国が、孔子学院を利用してスパイ活動をしてきた証拠であろう。中国は、気候変動問題よりもスパイ活動再開がメリットを感じていることを示唆している。

     

    こうした米中のさや当てを離れて、台湾が米国で中国語の講座を開設している。米国は、政治意図のない台湾による純粋な中国語講座の開設を受入れている。

     

    『大紀元』(9月11日付)は、「孔子学院が去って 台湾当局、米国内で17カ所の中国語教室を開設」と題する記事を掲載した。

     

    米国で、台湾政府が出資する中国語教室「台湾華語学習センター」の設置が進んでいる。米台は昨年12月、言語学習を含む教育分野での提携を強化する文書を交わしており、中国語教室の開設はこの取り組みの一環。米政府高官によれば、中国共産党が管理する言語教育機関・孔子学院は宣伝機関との批判が起こり、米各地で孔子学院の閉鎖が続いていることも米台協力の強化の背景にあるという

     


    (1)「台湾華語学習センターは、台湾当局の中国語教室をサンマリノ、ロサンゼルス、サンフランシスコのシリコンバレーなど17カ所に開設を予定している。9月9日、台湾華語学習センター長で台湾僑務委員会の童振源委員長は、大使館に相当する米国在台協会(AIT)で記者会見を開いた。童氏は、過去数十年にわたる華僑華人会と米国内の360以上の中国語学校との協力関係を活用して、米国の成人は「ゼロ」の状態から中国語を学べるようにしていると述べた」

     

    台湾は、前米で17カ所の「台湾華語学習センター」を開設予定である。これは、米国での台湾の位置がしっかりと見直されてきた意味で、大きな役割を果たす。今後、米国での「中国忌避・台湾歓迎」ムードを定着させるだろう。中国共産党にとっては痛手である。中国が、孔子学院復活を米国に要求する背景でもあろう。

     

    (2)「童氏は、台湾系華僑は半世紀前から米国などの海外の教育機関と連携していると述べ、中国共産党体制の言論統制との違いを示した。「台湾は自由、民主、多元的で開かれた教育環境があり、教科書に何が書かれていようと、みんなで議論すればいい。私たちは干渉しない」と述べた。また、孔子学院とは同じ土俵に立っていないことも付け加えた。「孔子学院は米政府により制限されたり、追い出されたりしている。 台湾は米国と同じ価値観を共有している。米主流層から多くのサポートを得られると考えている」と指摘する」

     

    台湾が、米国で自由、民主、多元的で開かれた国というイメージを広げられれば、大きな成果になろう。これが、米国国民の台湾支持を根付かせるはずだ。

     


    (3)「米国在台協会のブレント・クリステンセン所長(当時)は昨年12月、米台教育イニシアティブの立ち上げ時に、「中国の検閲や悪質な活動が知られ、世界中で多くの大学が孔子学院を閉鎖している」と指摘。同時に、「米国や海外の学生の間では中国語学習の関心は依然として高く、台湾はその関心に応えるために重要な役割を果たすことができる」と答えた。米国務省は昨年8月、米国にある孔子学院を統括する「孔子学院米国センター」を中国政府の在外公館とみなしたと発表。トランプ政権の国務長官マイク・ポンペオ氏は、昨年10月中旬のインタビューで「年末までに全てを閉鎖することを望む」と語ったことがある」

     

    米国人が、中国共産党に嫌悪感を示しても、中国という存在には興味を持つ。台湾政府は、そういう層に向けて中国語講座を開設し、台湾の開かれた価値観に親しみを持って貰うのが狙いであろう。

     


    (4)「バイデン政権以降も孔子学院に対する厳しい対応を続けている。今年3月、米上院では孔子学院に対する資金やカリキュラムの情報開示を求める法案を全会一致で可決。大学側が助成金や人員に関する権限を全て持ち管理することを定め、管理が不十分な場合には、政府の補助金が削減されるという」

     

    孔子学院が、スパイ機関であることは紛れもない事実だ。FBI(連邦捜査局)は、そのスパイ手口を前米の研究機関や大学へ紹介して注意を呼びかけているほどだ。中国は、米国であくどいことをやり過ぎたのである。

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    韓国の民主主義は死にかけている。言論弾圧法案は、国連高等弁務官事務所から中止を求められる事態に直面。これ加えて、文政権が強行突破して設立した高位公職者犯罪捜査処(公捜処)が9月10日、野党の有力な大統領候補へマスコミ報道と同時に、強制捜査に着手して批判の嵐に巻き込まれている。

     

    事件の発端は、次のようなものである。

     

    尹錫悦(ユン・ソクヨル)前検察総長が在職当時、孫準晟(ソン・ジュンソン)検事に対して金雄(キム・ウン)国民の力議員に、与党側の政治家と言論人に対する告発状を伝えて告発をそそのかしたという疑惑である。これを報じたのが、文政権支持メディアの『ハンギョレ新聞』である。これだけを材料にして、公捜処が家宅捜査に入り、しかも抗議されて捜査を中止するというお粗末さを見せている。

     

    この事態に驚いたのが、当の『ハンギョレ新聞』というおまけまで付いている。いったい、韓国の民主主義はどうなっているのか。日本に対しては奢り昂ぶって非難しているが、韓国こそ検察が政治の手先になって動いているのだ。それに加えて、マスコミまで同調している。韓国の権力機構は、メディアまで巻き込んで腐敗しているのだ。

     

    『ハンギョレ新聞』(9月11日付)は、「超重量級の事件に初めて着手した公捜処ユン前総長の疑惑に『猛スピード』の理由は」と題する記事を掲載した。

     

    「あの当時の検察総長ではなかったのですか」。汎与党陣営の要人らに対する告発教唆疑惑の強制捜査に着手した高位公職者犯罪捜査処(公捜処)は10日午後、告発状作成の疑惑が明らかになったソン・ジュンソン前最高検察庁捜査情報政策官と共に、ユン・ソクヨル前検察総長を立件したことを明らかにした。

     

    (1)「現時点では、告発状の受理による単なる被告発人の立場での立件ではあるが、ソン検事とユン前総長のつながりが具体的に明らかになっていない状況で、強制捜査の初日にユン前総長を立件したのは、通常の捜査の進め方に比べ、かなりテンポが速いといえる。公捜処はこの日午前の時点では、「ソン検事だけを立件した。追加の立件の可能性は確認できていない」と述べたが、午後には「午前は誤って立件者が漏れていた」と伝え、ユン前総長立件の事実を公開した。これに先立ち、韓国野党の国民の力のキム・ウン議員は、自身の家宅捜索令状にユン前総長の名前が摘示されていることを明らかにした。公捜処がこの事件の爆発力を考慮し、非公開から一足遅れて立件の事実を公開した可能性がある」

     


    公捜処は、最高検察庁が捜査にはいっているにも関わらず突如、横槍を入れて強制捜査に乗出すという異例の動きをしている。来年3月の大統領選で有力な野党候補に踊り出ると見られる、前検察総長潰しを狙ったのは明らかである。通常は、選挙に影響が出ないように配慮するものだが、文政権からの強い圧力が掛かっているのであろう。

     

    (2)「この日午後の公捜処の会見では、ユン前総長の立件理由と根拠を問う取材陣の質問が集中した。公捜処関係者は、「メディアは、捜査情報政策官は検察総長の右腕だと言っていたではないか。ユン前総長も(記者会見に)出てきて、私を捜査しろと言った」と述べた。また、「国民的な疑惑の提起がなされたからには、実体の究明が必要だ。罪があるかないかは、その次のことだ。捜査機関が立ちあがり、事実関係を明らかにするということが、メディアの要求ではないのか」と語ったりもした。「現状では明確な根拠はないが、ひとまず捜査から進め、罪を捜してみる」というニュアンスが読みとれる発言であるため、ユン前総長側と国民の力の激しい反発が予想される」

     

    下線部は、語るも落ちたというのが実感である。確かな犯罪証拠を掴んで、それを補強するための家宅捜査ではないのだ。「ユン前総長が記者会見で、私を捜査しろと言った」から捜査するとは言語道断である。韓国の公捜処は、この程度の見識しか持たずに、政権の「番犬」役を担っている。韓国民主主義のために惜しむのである。

     


    (3)「今回の捜査は公捜処の第13号事件だ。1月の公捜処発足後、発足の目的に合わない“小さな”事件だけを扱ってきた公捜処が、ライバル機関である検察を追い越し、先に跳びこんだ“超重量級”の事件だ。大統領選を控え、検察総長出身の第1野党の有力大統領候補、現職検事、国会議員などが幅広く関与しており、政治的な揮発性が高いうえ、すでにほとんどの物証は毀損または削除された可能性が高く、捜査の成果を断言するのは難しい状況だ」

     

    この記事では、ハンギョレ新聞が政権の番犬になっていることを自ら認めている。同紙は、証拠物件なるものを大々的に報道している。ならば、「すでにほとんどの物証は毀損または削除された可能性が高い」と断定できるはずがない。自らが掲げた証拠なるものが「インチキ」であることを認めたようなものなのだ。

     


    (4)「公捜処は、「時間が過ぎるほど証拠を失う恐れが強く、他の事件より優先して捜査する必要があると判断した」と説明した。法曹界の内外では、そのような場合であればあるほど、捜査の方向と強度、緩急を調節し捜査を進めていかなければならないという指摘が出ている。特に、捜査対象者がこのような形の捜査に最も精通している専門家だという点を考えればなおさらだ。ソウル地域のある部長検事は「現状では、公捜処の捜査の力量に疑問が残る。もし、公捜処で(性急に捜査に入り)これという成果を出せなかった場合、その後の状況も考慮しなければならない」と述べた。公捜処の関係者は会見で「(公捜処には)人材もおらず経験もないというが、事件の重大さを分かっているのだから、人材をすべて投入してでも速やかな事実の究明を試みる」と述べた」

     

    下線部は、公捜処が捜査に失敗すれば後々、大変な事態になることを示唆している。文政権が窮地に立つだけでない。文政権の太鼓持ちである『ハンギョレ新聞』の信頼も、大きく揺らぐだろう。

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    米国のアフガニスタン撤退は、中国にとって「不幸」の始まりになりかねない。アフガンでは、これまでテロリストの標的が米国であった。その米国が消えた今、テロリストにとっては中国が21世紀の「新植民地」として浮上している。中国は、新疆ウイグル自治区を手中に収め、「一帯一路」によって勢力の拡大を図っていると断定されている。

     

    第二次世界大戦後、英国の歴史家アーノルド・トインビーは、中国の経済力が衰退する時期に、中国によって征服された周辺国が独立を目指すと予測した。これが、歴史においては共通であるとの不気味な予測である。テロリストが不穏な動きをすれば、中国にとって厄介な問題になりそうだ。その第一歩が現在、始まったと見るべきであろう。

     


    『ニューズウィーク 日本語版』(9月9日付)は、「新たな超大国・中国が、アメリカに代わるテロ組織の憎悪の標的に」と題する記事を掲載した。『FOREIGN POLICY誌からの転載である。

     

    数年前から、パキスタンでは中国人や中国の権益が絡む施設に対するテロ攻撃が繰り返されている。パキスタン・タリバン運動(TTP)のようなイスラム過激派や、バルチスタン州やシンド州の分離独立派の犯行とみられる。

     

    この8月20日にも、バルチスタン解放軍(BLA)が南西部グワダルで中国人の乗る車両を攻撃する事件が起きた。BLAは2018年11月に最大都市カラチの中国総領事館を襲撃したことで知られる。中国が今後、世界中で直面するであろうという現実の縮図だ。それが今のパキスタンである。中国が、国際社会での存在感を増せば増すほど、テロ組織の標的となりやすい皮肉な運命だ。

     


    (1)「2001年9月11日のアメリカ本土同時多発テロ以前にも、中国は当時のタリバン政権と協議し、アフガニスタンに潜むウイグル系の反体制グループへの対処を求めたが、タリバン側が何らかの手を打った形跡はない。中国政府が最近タリバンと結んだとされる新たな合意の内容は不明だが、イスラム教徒のウイグル人をタリバンが摘発するとは考えにくい。むしろ、この地域における中国の権益の保護を求めた可能性が高い

     

    中国は、タリバンに対してアフガンでの中国権益の保護を求めた可能性が高い。

     

    (2)「中国政府は、タリバン政権成立後にアフガニスタンの国内情勢が不安定化し、その隙を突いてETIM(東トルキスタンイスラム運動)が台頭することを強く懸念している。その脅威は国境を接する新疆ウイグル自治区に直結するからだ。タリバン側はETIMの脅威を抑制すると中国側に約束したようだが、中国政府がその言葉をどこまで信用しているかは分からない」

     

    中国が、最も恐れているのはETIM(東トルキスタンイスラム運動)による、新疆ウイグル自治区への独立運動テコ入れである。

     


    (3)「パキスタンで、中国人や中国の投資案件を狙ったテロが急増している事態は、米軍のアフガニスタン撤退を背景に、あの地域で中国を敵視する武装勢力が勢いづいてきた証拠だ。中国としては、タリバン新政権と良好な関係を築くことにより、テロの脅威を少しでも減らしたいところだ。しかし問題の根は深く、とてもタリバン指導部の手には負えないだろう」

     

    パキスタンで、中国人や一帯一路プロジェクトへのテロが急増している。中国が、タリバン新政権と仲良くしても、隣国パキスタンのテロを防げるものでない。

     

    (4)「かつてのイスラム過激派は、中国の存在を大して意識していなかった。今の中国は、世界第2位の経済大国で、アフガニスタン周辺地域で最も目立つ存在になりつつある。当然、中国に対する認識は変わり、緊張も高まる。それが最も顕著に見られるのがパキスタンだ。中国とパキスタンは友好関係にあり、戦略的なパートナーでもあるが、パキスタンで発生する中国人に対するテロ攻撃は、どの国よりも突出して多い」

     

    パキスタンでは、中国を標的にしたテロの根が深い。中国が、一帯一路プロジェクトでパキスタンを食い物にしているからだ。その恨みを買っている。

     


    (5)「アフガニスタンからのテロ輸出を防いでいた米軍が撤退した以上、中国は自力で自国民の命と自国の利権を守らねばならない。中国は、これからイスラム過激派とも民族主義的な反政府勢力とも、直接に対峙しなければならない。パキスタンのシンド州やバルチスタン州で分離独立を目指す少数民族系の武装勢力は、中国を21世紀の「新植民地主義国」と見なしている。中央政府と組んで自分たちの資源を奪い、今でさえ悲惨な社会・経済状況をさらに悪化させている元凶、それが中国だと考えている。カラチでの中国人襲撃について名乗りを上げたバルチスタン解放戦線は犯行声明で、「中国は開発の名の下にパキスタンと結託し、われらの資源を奪い、われらを抹殺しようとしている」と糾弾した」

     

    下線部は、深刻である。中国を21世紀の「新植民地主義国」と見なしているほどである。中国が、米国に打勝って世界覇権を握るという大言壮語が、自らを滅ぼす要因になりかねなくなってきた。

     


    (6)「ジハード(聖戦)の旗を掲げるイスラム過激派は従来、アメリカと西欧諸国を主たる敵対勢力と見なしてきた。中国の存在は、あまり気にしていなかった。しかし、新疆ウイグル自治区におけるウイグル人(基本的にイスラム教徒だ)に対する迫害が伝えられるにつれ、彼らの論調にも中国非難が増え始めた」

     

    米国のアフガン撤退後、中国がテロの恨みを一身に受ける役回りになった。新疆ウイグル族への迫害が、中国の身を滅ぼしかねない要因になのだ。因果応報と言うべきだろう。

     

    (7)「そうした論客の代表格が、例えばミャンマー系のイスラム法学者アブザル・アルブルミだ。アルブルミは15年以降、米軍のアフガニスタン撤退後に、中国が新たな植民地主義勢力として台頭すると警告してきた。支持者向けのある声明では、「イスラム戦士よ、次なる敵は中国だ。あの国は日々、イスラム教徒と戦うための武器を開発している」と主張していた。イスラム聖戦派のウェブサイトでも、最近はウイグル人による抵抗の「大義」が頻繁に取り上げられている」

     

    中国が、新疆ウイグル族を弾圧していることから、ウイグル人による中国抵抗の「大義」が頻繁に取り上げられているという。中国にとっては、厄介な問題になってきた。

     

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    習近平国家主席は、パンデミック後の外遊を一度もしていない。また、外国人賓客も北京へ迎え入れないという厳重さである。理由は、言わずと知れたコロナの蔓延防止である。北京は、事実上の都市封鎖されているのである。

     

    ただ、軍司令官を短期間で更迭しているのも気になる。インドやアフガニスタンとの国境などを管轄する西部戦区の司令官が、わずか2か月で交代した。保安上の問題も考えられるのだ。

     

    中国製のコロナワクチンの効果が欧米並みであれば、堂々と習近平氏も外遊できるのであろう。それも自信がなければ、「巣ごもり」を余儀なくされているのだろう。

     


    習氏は9月10日、ドイツのメルケル首相と電話会談し、欧州連合(EU)による「正しい」対中政策を推進するよう促した。さらに、EUと中国による包括的投資協定の早期批准に期待を表明したほか、アフガニスタンの平和と安定に向け、中国がドイツや国際社会と連携していきたいとの考えを示した。中国国営の中国中央テレビ(CCTV)が報じたもの。

     

    習氏は、退任間近いメルケル首相に直接会って、EUによる包括的投資協定の早期批准を要請したかったはずだ。メルケル氏が退任すれば、投資協定は漂流するリスクが高い。それだけに訪欧すべき案件である。それも、電話で済まさざるを得ないのは大きな痛手に違いない。

     


    『ブルームバーグ』(9月11日付)は、「外遊控える中国国家主席、G20やCOP26など外交への影響懸念も」と題する記事を掲載した。

     

    20カ国・地域(G20)首脳の中で最も長く国内にとどまり続けているのが中国の習近平国家主席だ。1年8カ月近く外国を訪問していない。習主席が長期にわたり外遊を控えていることで、気候変動や対米関係を含めあらゆる面で進展が妨げられるのかどうかが焦点になる。

     

    (1)「中国とブラジル、ロシア、インド、南アフリカ共和国の新興5カ国(BRICS)は9日、オンライン形式で首脳会議を開催。習主席は今年これまでに10を超えるイベントにビデオを通じて参加し、世界の首脳とは60回ほど電話会談を行っている。ロシアのプーチン大統領やドイツのメルケル首相、フランスのマクロン大統領に加え、直近ではバイデン米大統領とも電話で会談した」

     

    国家主席として直接、会って議論しなければならない重要問題が、電話で済まされているのは不都合であろう。それでも、外遊しないで「巣ごもり」を続けているのは、自身の「安全上」の問題があるのだろうか。コロナに感染すれば、中国の威信に傷がつくとか、あるいは生命を狙われるリスクとかあるのだろう。いずれにしても、独裁国ならではの特記事項である。

     

    (2)「中国が、採用している新型コロナウイルス徹底排除戦略に基づいて習主席は国内にとどまり続けようとすれば、外交に影響が出始めるのではとの懸念が強まっている。ローマでは10月末にG20首脳会議が開かれ、続いて英スコットランドのグラスゴーで第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が開催される。コロナのパンデミック(世界的大流行)発生以来、中国と欧米の関係は悪化。半導体などハイテク製品の輸入や香港の政治的自由、新疆ウイグル自治区でジェノサイド(民族大量虐殺)が行われているとの米国などの主張を巡り溝は深まっている」

     

    習氏は、来年2月の北京冬季五輪で「主役」を務めねばならない。その際は、否応なく海外から人流が増えざるを得ない。習氏も逃げ隠れはできないだけに、そのときはどうするのか。これまで北京は、都市封鎖されてきただけに「無菌状態」である。一挙に、感染拡大の危険性が高まりかねないのだ。防疫上は、最悪の防備体制と言えよう。

     


    (3)「主要な国際会議では首脳同士による直接会談も可能で、緊張緩和に寄与する機会にもなり得る。だが、習主席は外遊に消極的なことがそうした芽を摘むことになりかねない。欧州の上級外交官によると、習主席はG20首脳会議への出席をまだ確認していない。この外交官は習主席が直接参加しないかもしれない理由として、中国のコロナ対策を挙げた」

     

    下線のように、習氏のG20首脳会議への出席を確認していないという。

     

    (4)「習主席が、直近の外遊から戻ったのは2020年1月18日。隣国ミャンマーからの帰国だった。その5日後、中国政府は湖北省武漢市のロックダウン(都市封鎖)に踏み切り、世界中にコロナ感染の深刻さが知れ渡った。中国は、特に首都である北京をコロナから守ることを重視しているようだ。他の都市よりも出入りが厳しく管理されており、一人一人に行動を記録するアプリの使用を求めている。外国からの高官でさえ北京入りは許されておらず、最近訪中したケリー米大統領特使(気候変動問題担当)が滞在したのは、北京市中心部から約100キロメートル離れた天津市だった」

     

    習氏は、昨年1月19日以降、一歩も海外へ出ていない。独裁者だけに、身辺への警戒心は人一倍強いことを覗わせている。こうでなければ、政敵に寝首をかかれて失脚するのだろう。最近、人民解放軍司令官が2ヶ月で交代させられ話題になっている。この問題と関連があるのかも知れない。習氏が独裁を続けるには、人に言えない悩みもあるのだろう。

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