勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    a1380_000583_m


    中国政府が笛や太鼓で騒いできた「一帯一路」計画が、あちこちで「不都合な真実」が暴露されている。当初は、第二次世界大戦後、欧州経済復興援助で実績を上げた「マーシャルプラン・アジア版」という触れ込みであった。マーシャルプランとは、当時の米国務長官の名前をとり、米国が欧州の経済的な復興を支援した事業である。

     

    最近、中国政府は自国のメディアに対して「マーシャルプラン」なる言葉の使用を禁じる通達を出した。マーシャルプランは米国の援助であったが、「一帯一路」は援助でなく高利の貸付である。高利の債務を返済できない国では、担保を差し押さえられるという事態にまで発展し、中国がにわかに批判される側になっている。そこで、「マーシャルプラン」なる言葉を禁じたもの。

     

    マレーシアは、今年5月にマハティール氏が首相に返り咲いたことから、「一帯一路」計画の一環として契約済みの高速鉄道、「東海岸鉄道」(ECRL)計画を7月5日に中止決定された。中止期間は定められていない。同事業の第1期分契約額は、460億リンギット(約1兆2500億円)である。マハティール氏は、これだけの巨額投資が財政的に負担であることや、それに見合った効果が期待できないと指摘した。

     

    『サーチナー』(7月9日付)は、「マレーシアで『一帯一路』構想が躓き」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「マレーシア政府が同プロジェクトを中止した理由は、総工費が当初予算を上回る見込みとなり、財政悪化を防ぐためとしている。マハティール氏は今年5月の選挙戦でも中国との間で進んでいるプロジェクトは『国益にそぐわない』という見方を示していた。ECRLの総工費は当初550億リンギット(約1兆5050億円)と見積もられていたが、マハティール政権の最新試算によれば、中国への金利支払などを含むと810億リンギット(約2兆2100億円)に膨らむ見通しになったという」

    「東海岸鉄道」(ECRL)計画は、総工費が約1兆5050億円と見積もられていたが、金利分を含めると約2兆2100億円に膨らむ見込みだという。実に、当初金額に比べて46%増である。何か、「悪徳商法」の典型例という感じである。安い見積もりを出して契約を取り、その後に契約金額の上乗せをする。多分、こういうやり口で、スリランカなどを食い物にしてきたのだろう。

     

     

    (2)「マレーシアでは、同プロジェクトの他、中国との間で『一帯一路』関連で複数の大型プロジェクトの計画がある。これら計画に絡んで、ナジブ・ラザク前首相が背任、収賄罪容疑で逮捕されている。今回のECRLの中止に合わせて、中国企業との間で交わされたマレー半島とボルネオ島をつなぐパイプライン建設計画についても事業中止の判断が下されている。マレーシアにおける相次ぐプロジェクトの中止発表は、その他の地域での『一帯一路』プロジェクトの進行にも影響を与える懸念がある」

    マレーシアでは、前政権が「一帯一路」関連でいくつかのプロジェクトを中国政府との間で進めていた。ナジブ前首相が逮捕されたので、中国との間でいかなる契約があったかが、裁判過程で明らかにされるはずだ。そうなると、中国のメンツは丸つぶれだ。「一帯一路」計画は、中国の資金的行き詰まり感を反映して、すでに縮小方向に向かっている。マレーシアでの「取りこぼし」は、中国の野望を阻止するきっかけになり

    26

    7月6日からの対米関税引き上げをめぐって、中国国内では通関に遅れたために、特別関税を掛けられる「不運」が起こっている。同じ荷主で9個のコンテナで3個は「フリーパス」、残りの6個には引上げ関税が掛けられたという妙なニュースが報じられた。

     

    『ブルームバーグ』(7月9日付)によると、カリフォルニアから上海税関を通じて食肉を輸入しようとしていた中国の大手食肉輸入業者、蘇州華東食品は極めて高コストの米国産ステーキを何とかしてさばかなければならなくなった。新たな関税導入前に税関を通過できたのは冷凍の牛プライムリブや豚ロースなどを積んだ3個のコンテナだけ。残り6個には、1個当たり最大50万元(約830万円)の関税が課された。いかにも中国で起こりそうな嫌がらせである。輸入業者には何の落ち度もないのだ。

     

    コンテナ1個分の食肉の関税が830万円とは驚く。食肉輸入業者は「米牧場からの食肉購入を大幅に減らすことは確実だ」と語ったという。この嫌がらせには裏があって、商務省は米国以外からの輸入を促進させる手段に利用している節が窺える。

     

    今回の米中貿易戦争は、「中国の敗色」濃厚である。中国は、メンツのため負け戦を覚悟で臨んでいる。その対策が始まっているのだ。引上げられた関税収入を、米国での関税引き上げで採算困難になった企業の救済に当てるというもの。中国商務省が7月9日に発表した。

     

    中国は、米国への報復で大豆に25%の関税を掛けると発表している。輸入季節の関係で、米国産大豆に依存せざるを得ない事情がある。そこで編み出された手が、「国家備蓄用の大豆には引き上関税分を還付する」という方針である。中国特有の「上に政策あれば下に対策あり」という抜け穴が準備されているように思える。

     

    『ブルームバーグ』(7月9日付)は、「米国産大豆の輸入関税、国家備蓄分は業者に払い戻しへ」と題する記事を掲載した。

     

    「中国は米国からの大豆輸入について、国家備蓄用の購入を対象に25%の関税負担分を輸入業者に払い戻す方針だ。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。関係者らによると、現時点で海上輸送中の米国産大豆のうち、少なくとも貨物1隻が国家備蓄用に購入されたものという」

     

    先の食肉業者の例から言えば、同じ輸入貨物でも7月5日の時間ぎりぎりで通関したものと、暦の上で6日になって通関したのは荷主の責任でない。通関業務を担当している側の責任である。この場合は、関税引き上げ前の税率を適用すべきもの。一方、国家備蓄用の大豆については、海上輸送中で通関どころの話でない。明らかに7月6日を過ぎている。それにも関わらず、関税を還付するという特別待遇を行なうのは不公平な扱いである。

     

    先の食肉業者が法的に訴えることが可能であれば、中国政府のこの矛楯した対応の是非が明らかになろう。と言っても、中国では政府が絶対権力の保持者である。食肉業者が訴えてももみ消されるか、後から酷い報復されるに決まっている。中国は、法があっても無きに等しい国である。泣き寝入りするほかないのだろう。

     

     


    a0555_000063_m


    中国経済が昨年、予想外にも6.9%成長が可能になった背景に、輸出増加が寄与した。その輸出は今、米中貿易戦争で先行きが怪しくなっている。6月のPMI(製造業購買者担当指数)の輸出受注では、好不況の分岐点である50を割っている。「警戒警報」だ。

     

    こうなると、中国の奥の手は人民元相場の下落容認である。手綱をしっかりと握りしめながら、人民元相場の軟化を認めて輸出の支えにしたいのは明白である。下落の限界はどこか。ここ10年間の人民元相場を見ると、1ドル=6.9元は安値の限界線であることが分る。相撲で言えば、ここが徳俵という感じがする。

     

    中国は、米中貿易戦争の長期化に備え、輸出競争力を維持するために、1ドル=6.9元台へと大幅な元安水準にすると報じられている。中国政府は、ここまで「後退」しながら経済の態勢立て直しを図る意思表示のように思える。こうなると、6.9元は徳俵であり、かつて、独仏国境に敷かれたマジノ線という位置づけだ。

     

    『大紀元』(7月9日付)は、「中国当局、米中貿易摩擦、1ドル6.9元台付近の元安を容認か」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「人民銀行の公表では、61日の対ドルの人民元基準レートは1ドル=6.4078元だったのに対して、6月29日は1ドル=6.6166元となった。元は1カ月で対ドルにおいて約3.25%と大幅に下落した。ロイターが市場関係者を対象に行った調査では、米国は通商問題で中国への圧力を強化しているため、元相場が対ドルで一段と下落する可能性が高いとの見方が多かった。一部の関係者は、3.25%の下げ幅を回復するのに1年かかると推測する」

     

    中国のように管理型変動相場制では、人民元相場は政府管理である。大きな変動はあり得ない。ここが、自由に変動すべき為替相場の性格から見て、極めて問題含みの点である。世界のGDP2位になりながら、政府という「親がかり相場」では、企業に自立性が育つはずもない。中国政府は、こういう矛楯に気づかない振りをしている。この状態で、世界覇権に挑戦するなど夢のまた夢、である。6月の人民元相場の変動幅が3.25%で、これが回復するには1年かかるとは驚きだ。

     

    (2)「ロイター通信は7月5日、中国当局高官の話を引用して、国内景気減速と米中貿易摩擦の激化を背景に、中国当局が元安を歓迎する姿勢を示し始めたと報道した。報道によると、情報筋は『当局はある程度の元安を認めている。しかし、元相場は1ドル=6.90元台を割り込むことを望んでいない』と話した。今後中国当局が元相場の急落の阻止と投資家の信頼回復を目的にする時のみ、為替介入を実施するという。英調査会社キャピタル・エコノミクスの最新調査によると、中国当局は人民元の動きをコントロールする姿勢を鮮明にした」

     

    人民元は2015年に、大荒れ相場になった。あれ以来、厳重な相場管理を行い、資本移動にまで網を張っている。行き場を失った国内の過剰貯蓄は、不動産バブルに火を付けて回っている。人民元相場の変動を抑えて、バブル経済を結果的に奨励する形になった。最終的には、中国経済の足腰を弱めており、米中貿易戦争ではその弱点を狙い撃ちされている。こういう総合的な視点を欠いたまま、目先の利益を求め動き回る。海の向こうでは、トランプ氏が高笑いしている姿に気づかないのだろうか。


    36



    中国浙江省といえば、浙江という土地柄ビジネスマインドが旺盛で、昔から「中国のユダヤ人」とも言われているほどだ。先行きを読む能力が長けていると定評がある。

     

    その浙江省出身では、中国経済界を代表する人物の一人に、馬雲(ジャック・マー)アリババグループ創業者がいる。この馬氏は、できるだけ政治から距離を置こうとしているとも伝えられる。自のビジネス感覚を政治によって染められないようにしているのかも知れない。この馬氏は後で取り上げるが、今回の米中貿易戦争に絡む「微妙」な発言をした。今や国際ビジネスマンになった、馬氏の発言だけに重みがあるのだ。

     

    中国国内では、米中貿易摩擦が深刻化し始めて以来、上海株価が下落に転じた。投資家は、中国経済の抱える病根である過剰債務問題が、解決しない上さらに米中貿易摩擦が加われば、中国経済は容易ならざる局面に突入する。そういう危険性を察知したのだ。株価は正直である。リスクが見込まれると下落する。

     

    日本でも、この傾向がハッキリと掴める。太平洋戦争勃発(1941年12月)後は、政府命令で株価テコ入れで上昇に転じた。開戦以前は、盧溝橋事件や国家総動員法、三国同盟など日本の運命に深く関わる事件が起きるたびに、株価は下落している。この伝で言えば中国の投資家も、米中貿易摩擦が中国経済に深刻な打撃を与えることを察知している。

     

    『朝鮮日報』(7月8日付)は、「米中貿易戦争後を見据える中国企業」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の崔有植(チェ・ユシク)中国専門記者 である。

     

    「浙江省のビジネス関係者約200人が6月初め、省都杭州市で総会を開いた。杭州出身の馬雲(ジャック・マー)アリババグループ創業者は演説で、『米中貿易戦争が続く30年間で世界経済の地図は再編される。改革開放当時と似た大きな変化が起き、ここにいる200社の企業のうち生き残れるのは20社ほどではないか』と述べた。政府の輸入拡大政策と中産階級の急成長などで、中国が米国に引けを取らない消費市場に変貌する一方、市場開放で外国企業が大挙して進出し、激しい生存競争を繰り広げるとみられる。情勢を素早く読み、利益に目ざといことから『中国のユダヤ人』と呼ばれる浙江商人は既に貿易戦争後を見つめ、変化に備えている最近、韓国を訪れた林毅夫元世銀副総裁は、『貿易戦争で中国では0.5ポイント、米国では0.3ポイント成長率が鈍化する』と予想した」

     

    この記事では、中国政府の怒りを買わないように用心深く発言していることが分る。要約すると、次のようになろう。

    . 米中貿易戦争が続く30年間で世界経済の地図は再編される。

    . 市場開放で外国企業が大挙して中国へ進出し、激しい生存競争を繰り広げる。

    . ここにいる200社の企業のうち生き残れるのは20社ほどではないか。

     

    まず、米中貿易戦争は30年間という長期間続くと見ていることだ。米国は簡単に妥協せず、中国への抑制措置を続ける。この結果、何が起こるのかと言えば、中国は国内市場の完全開放を迫られる。その結果、国内企業と外国企業の厳しい競争が始まる。現在は、中国政府の保護政策で国内企業は惰眠を貪っていられるが、浙江省の企業200社は、30年後には20社ほどに整理されてしまう、というのだ。

     

    以上の内容に整理してみると、習氏が宣言した2050年に中国は、米国経済の覇権に挑戦するほど華々しい発展するはず。馬氏は、全く異なる業界地図が描かれている。林毅夫(元北京大教授)氏がまた、「貿易戦争で中国では0.5ポイント、米国では0.3ポイント成長率が鈍化する」と発言している。林氏といえば、超強気の予測をする人物だ。その彼が、ここまで成長率を下げてきたのは初めて。それだけ、中国の受ける損害を自覚したに違いない。ただ彼の指摘する中で、「米国では0.3ポイント」の成長率低下を予想しているが、0.1ポイントの誤りであろう。中国が0.5ポイントの低下ならば、米国は0.1ポイントに留まるはずだ。

     


    38

    中国は、台湾蔡政権が「一つの中国論」を明確の打ち出さないことに不満だ。そこで、手を変え品を変え、台湾へ圧力を加えている。WHO(世界保健機関)への台湾代表出席を阻止したほか、中国空軍の台湾領空域への侵入や、戦艦の航行などやりたい放題だ。

     

    これにたまりかねた米海軍が7月7日、米駆逐艦2隻で台湾海峡を通過させ、中国をけん制した。これは、前々からの懸案事項である。この間の事情は、次のようなものだ。

     

    『ロイター』(6月6日付)は、「米、台湾海峡への軍艦派遣を検討、中国の反発必至」と題する記事を一ヶ月前に掲載していた。

     

    (1)「米高官によると、米国は今年に入り航空母艦の派遣を検討したが、実施しなかった。恐らく中国への配慮という。前回米航空母艦が台湾海峡を通過したのは2007年。頻繁ではないが、定期的に海軍の別の軍艦を台湾海峡に派遣することも選択肢のひとつとなっている。前回実施されたのは2017年7月で、航空母艦の派遣ほどは中国を刺激しない行為とみられている」

     

    台湾海峡は公海である。米海軍が航行しても何ら問題があるわけでない。ただ。米中は「一つの台湾論」を認めている関係で、米艦船が台湾海峡を通過するのは、軍事的な意味を持っているので中国が反対してきた。トランプ政権は、過去の仕来りに縛られず、再検討する意向を表明している。米国には、「台湾関係法」という国内法がある。これに基づき、米台関係の強化・見直しが始まったと言える。

     

    (2)「トランプ大統領はこれまでの慣例を破り、2016年に正式な外交関係のない台湾の蔡英文総統と電話会談を行った。ただ、ここ数カ月は、北朝鮮の核問題で中国の支持を取り付けるため、以前よりも台湾との距離を置いている」

     

    米朝関係は、ギクシャクしながらも前へ進む気配である。米朝が直接対話することが可能になったので、あえて中国へ依頼する必要性もなくなった。それに、米中貿易戦争という新たな事態の展開で、米台関係の緊密化が中国の反発を受けたとしても「聞き流す」方針に転換したのであろう。中国軍は、海と空の両面から台湾へ圧迫を加えていた。米国は、これに対する「回答」をしたもの。米国は、民主国の台湾を見捨てないというシグナルだ。

     

    『大紀元』(6月22日付)は、「アジア太平洋地域の安定、台湾の現状維持にかかっているー米政府官員」と題する記事を掲載した。

     

    米国務省のアジア太平洋担当次官補代理は621日、中国が圧力で台湾の国際的立場を変えようとしていることに、米国は非常に懸念していると述べた。また、台湾はトランプ政権のインド太平洋戦略において、重要な役割を果たすと語った。米国務省ウォン次官補は、アジア太平洋地域の安定は、台湾が現状維持できるかどうかにかかっており、今の状況を変えようとする中国政府の動きに対して、米国は強い懸念を抱いていると述べた。6月12日には、在台湾米国公館の役割を果たす米国在台湾協会(AIT)の新庁舎が完成した。ウォン次官補はAITを通じて、米国の対台湾、対中国政策を強化すると述べた。米国は台湾について、インド・アジア太平洋の自由・民主主義の価値を象徴する存在だと位置づけているという。この価値の意義には、市場経済、国際社会の積極的な貢献、安全保障が含まれる」

     

    米中関係の悪化は、米台関係の強化でもある。在台湾米国公館の役割を果たす米国在台湾協会(AIT)の新庁舎が完成し、新たな米台関係が進む気配である。なぜ、この時点で米台関係の強化が見られるのか。中国の軍事力強化が大きな背景にある。南シナ海問題が、ここまで手遅れになった理由は当初、米国が毅然と対応せず黙認した形で放置したことだ。この失敗に鑑み、台湾問題では断固として防衛する姿勢を見せてけん制した。中国は、戦前のドイツと同じで隙を見て軍事行動を起こす危険性を秘めている。尖閣諸島へもいつ牙を向けてくるか分らない。そういう不気味さを見せている。


    このページのトップヘ