勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    習近平氏は、何を考えているだろうか。上海市で小学生の英語試験を禁止する一方で、習近平思想を必修化することになった。習近平思想と言っても中身があるわけでない。中国の民族再興を教える「民族主義教育」である。

     

    習氏が、2012年の国家主席就任時に提唱したのは、「二つの百周年」(一つは中国共産党建党100年=2021年、二つには人民共和国建国100年=2049年)を成功裏に迎えることであった。第19回党大会「政治報告」では、二つの百周年の間に2035年を節目として設定した。総合国力と国際影響力でトップの国になり、中華民族を世界民族の林に屹立(きつりつ)させるという内容だ。言わずと知れた世界覇権論である。

    習氏が、小学生から習近平思想なるものを教え込む狙いは、習氏の「終身国家主席」を想定しているのであろう。それには、英語教育が邪魔物となる。戦時中の日本が、英語を「敵性語」として禁じた、あの暗黒時代を思い出させるニュースである。

     


    『日本経済新聞』(8月13日付)は、「中国・上海で小学生の英語試験禁止 習思想は必修化」と題する記事を掲載した。

     

    中国の習近平(シー・ジンピン)指導部が教育分野の監督を強めている。上海市は9月の新学期から小学生の期末試験で、これまで実施していた英語の試験を除外する。試験の回数も減らす。学生の負担を軽減するためというが、同時に「習近平思想」を必修にして思想教育は徹底する。米国との対立長期化をにらみ、子供の時から愛党精神を育む狙いもあるとみられる。

     


    (1)「上海市は今月3日、新学期から35年生(上海市の小学校は5年制)の期末試験の対象科目を数学と国語に変更すると公表した。これまでは英語を含む3科目が試験の対象となっていた。一学期に中間と期末の2回実施していた試験の回数も期末試験の1回のみに改める。習指導部は「(受験競争の激化が)放課後の自由な時間を奪い、小・中学生に多大なプレッシャーを与えている」と問題視する。放課後の学習塾や家庭教師の利用は教育費の増加につながっており、少子化を助長する要因にもなっている。中国最大の国際都市である上海市の取り組みは今後、ほかの都市にも広がる可能性が高い」

     

    下線部で驚くべき事実が指摘されている。期末試験ではこれまで「英数国」の3科目が対象であったが、今後は英語を外すというのだ。英語を外すのも驚きだが、たった2科目の試験成績だけが義務教育対象であることに、さらに驚くのだ。「全人教育」という人間性を全面的に磨く教育でない。これでは、中国人が短見で物欲が強い人間に育たざるを得ないであろう。同じ人間として、気の毒というか哀れさを感じるほかない。

     

    (2)「同時に思想教育は加速している。上海市は9月の新学期から「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想の学生読本」と題した教材を使用する授業を小・中・高生の必修科目として新たに設ける。習氏の重要発言を暗記したりするとみられる。すでに一部の大学では習思想が必修になっているが、上海は小中高にも対象を広げる。北京市も10日、当局の認可を受けていない外国教材を義務教育で使用することを禁止する方針を公表した。思想教育を徹底し若者の共産党への関心を高めるほか、香港でのデモ活動などを念頭とした社会運動の芽を摘むという思惑があるとみられる。米中対立が長期化しそうなことも底流にありそうだ」

     

    「全人教育」を捨てて、習近平思想を教え込む。人間ロボットを育てるようなものである。英語を知っていれば、外国事情も分かるがその道も塞がれる。習氏は、国民を徹底的に「内向き人間」「習近平万歳」にさせる積もりである。これで、習氏への謀反を防ごうという狙いだ。

     

    東条英機も英語教育を廃止させた。だが、江田島の海軍兵学校では、堂々と英語教育を行っていた。陸軍に従わないという反骨精神とされたが、海軍が英語を知らなければ、通用しない意味もあった。中国は、世界から引離される孤立の道を選ぶのであろう。その先に待っているものは、破滅の二字である。

     


    (3)「中国政府は、学習塾など教育産業の監督にも躍起だ。オンライン教育の大手15社に対し、虚偽の授業料を提示したとして6月に罰金を科した。高まる教育熱もあり、自宅で本格的な授業を受けられるとオンライン教育は注目されていた。だが、高額な授業料を要求する業者も少なくなく、返金トラブルなどの苦情も相次いでいた。7月には学習塾の新規開業の認可を中止し、既存の学習塾は非営利団体として登記すると公表。今後は学費も政府が基準額を示して管理する方針だ。学習塾の株式上場による資金調達も禁止し、営利目的で競争が激化する業界をけん制した」

     

    習氏は、学習塾の取りつぶしも狙っている。高額な費用が、家庭の負担になるというもの。だが、高い塾の費用を払ってまで子どもを通わせる理由は、就職難が最大理由である。良い大学=良い就職先という方程式は、すでに崩れている。大学院修士課程を卒業しても、タバコ工場の現場工員にしかなれない現実が、今の中国である。

     

    習氏は、テック企業虐めを行っている。この業種こそ高学歴者を雇用できる場である。それが潰されれば、せっかくの高学歴も生かせないのだ。そういう根本的な矛楯を抱えていることに気付かないようである。塾を規制するならば、義務教育で「全人教育」を行うべきだろう。子ども達の学びへのエネルギーを、多方面に導くことが必要不可欠である。

     

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    中国経済は、ひたひたと危機の波が押し寄せている。国民生活にのし掛る経済的な負担を排除すべく、ハイテク企業の規制に取りかかったからだ。これだけに止まらない。中国国務院(政府)は、11日遅くに発表した声明で、国家安全保障や技術革新、独占禁止を含む分野での法整備に「積極的」に取り組むと表明したのだ。食品や医薬品、教育など国民の直接的な利益に関わる分野で規制が強化されるとしている。以上は、『ブルームバーグ』(8月12日付)が伝えた。

     

    このように突然の「強権発動」の背景には、個人消費の回復が芳しくないという事実がある。政府は、その原因が学習塾やインターネット・ゲームで金を使い果たしている結果と見ているがそれは浅慮というべきだろう。最大の原因は、家計債務の増加である。高額な住宅ローンを抱えて、その返済が個人消費を抑制しているのだ。この分かりきった理屈は、本欄で早くから指摘してきた点である。

     


    政府は、これまで不動産バブルを煽って住宅購入を推進してきた。これにより、GDPを押し上げてきたがついに家計債務の急増で、それも限界に達したのである。やむなく、学習塾やインターネット・ゲームをヤリ玉に上げているが、はっきり言って「的外れ」である。不動産バブルによる債務急増こそ、個人消費停滞の原因である。

     

    『日本経済新聞』(8月12日付)は、「中国、『血気』抑制でしぼむ期待」と題する寄稿を掲載した。筆者は、米エール大シニアフェロー スティーブン・ローチ氏である。モルガン・スタンレー・アジア会長などを経て現職。研究対象は中国経済など。

     

    中国経済について、25年以上も楽観的な見方を貫いてきたが、いまでは重大な疑念を抱くようになっている。中国政府は、デジタル技術をベースとする「新経済(ニューエコノミー)」に関連するIT(情報技術)企業を狙い撃ちにする。国家が「アニマルスピリッツ(血気)」を抑制しようとする深刻な問題だ。(建国100年の)2049年までに「社会主義現代化強国」を実現するという、習近平(シー・ジンピン)国家主席の掲げる「中国の夢」が危機にさらされる可能性がある。

     


    (1)「中国ネット通販最大手のアリババ集団は20年11月、傘下の金融会社アント・グループの大型上場が、当局の監督方針の変更で延期に追い込まれた。21年4月には、独占禁止法の管轄当局がアリババに約182億元(約3100億円)の罰金処分を下した。

    中国配車アプリ最大手の滴滴出行(ディディ)は6月、米ニューヨーク証券取引所に上場した。こうした動きに対し中国の規制当局は7月、「国家安全法」とネット空間の統制を強化する「インターネット安全法(サイバーセキュリティー法)」に基づいて審査を始め、立ち入り調査にも踏み切った。ネット大手の騰訊控股(テンセント)に対しても独禁法違反での処分が下され、出前アプリ最大手の美団なども調査を受けている」

     

    中国政府が、軒並みテック企業を狙い撃ちにしたのは、政治的な理由である。アントが上場する際、大株主に習氏の政敵である江沢民氏の一派が名を連ねていたことに驚愕したことだ。テック企業の株式を公開すれば、一夜にして「億万長者」になれる。巨万の富が政敵に渡ることを何としても阻止しなければならない。そういう疑念から、テック企業全てに網が掛けられた。

     

    (2)「中国が、IT企業を取り締まる理由がないわけではない。中国の指導層は、人工知能(AI)を活用して分析するビッグデータの所有権に対し、高い価値を置くからだ。だが、データの多くは国家のひそかな監視によって収集されたものであると考えられ、偽善的な印象はぬぐえない。いずれにせよ問題は、当局がIT企業への規制を強めていることだ」

     

    旧式の製造業しか理解できない共産党指導部には、テック企業を異質のものと眺めているに違いない。この産業が、大きな付加価値を生み中国のGDPを押し上げるという効果よりも、政敵が居ながらにして巨万の富を掴むことへの恐怖感が先行したと見られる。

     

    (3)「中国の消費者も苦しんでいる。高齢化やセーフティーネット(安全網)の不備などにより、家計は圧迫され、自家用車やレジャーといった成熟消費社会に必要な支出に回すのをためらう。消費者は不確実な未来に対して安心感を持てるようになって初めて、視野を広げ、積極的な消費行動をとるようになる。消費者主導で中国経済の再調整を成功させるには、安心感が何よりも必要だ。企業や消費者が抱く信頼感は、経済を支える極めて重要な要素だ。ノーベル経済学賞受賞者のジョージ・アカロフ氏とロバート・シラー氏は、アニマルスピリッツの幅広い理論に自信が不可欠と考えている。経済学者ケインズはアニマルスピリッツを、企業収益や個人所得の裏付けをはるかに超える総需要につながるととらえた」

     

    これまでの中国経済は、総固定資本形成が半分近くを占めるという異常な構造である。この状態を消費者主導経済に「改革」することは、百年河清を待つような話だ。もっとはっきり言えば、不可能である。計画経済において、消費者主導経済はなり立つはずがないのだ。市場経済という「自然の調節メカニズム」を生かす以外に、米国型消費主導経済にはなれないことを知るべきだった。それには、アニマルスピリッツを前提する。米国経済の強みはここにある。中国は、テック企業抑制でこのアニマルスピリッツを奪おうとしている。

     


    (4)「社会主義市場経済という混合型の中国では、アニマルスピリッツの機能が先進国と異なる。国家は市場や企業、消費者への指導にはるかに積極的な役割を果たす。とはいえ中国経済が繁栄するには他国と同様、優先課題に取り組む指導層の一貫性や透明な統治、規制当局の監督に対する信頼の基盤が必要になる。現代の中国には、アニマルスピリッツを支える信頼の基盤がないようにみえる。長年、中国の大量消費の障害になっていたが、企業部門にも不信感が忍び寄る。政府によるIT企業への攻撃は激しい競争環境の中で成長し、繁栄するために必要な創造性やエネルギー、純粋な努力を奪うものだ

     

    下線部は、極めて重要な指摘である。「指導層の一貫性や透明な統治、規制当局の監督に対する信頼の基盤が必要」になる。中国国務院声明は、それを自ら踏みにじってしまった。中国経済は、大きく暗転するであろう。

     次の記事もご参考に

    2021-08-05

    メルマガ281号 中国「窮余の策」 成長断念し社会安定を優先、経済は構造的な「停滞期」へ突入

    2021-08-12

    メルマガ283号 中国は「巣ごもり」、テック産業抑制し製造業重視へ 世界覇権狙いより「習政権永続化」

     

     

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    韓国が、上辺の経済データで日本へ接近と大はしゃぎしている。だが、国民生活を象徴する合計特殊出生率や年金受給率では、日本から大きく引離されている。国民生活が充実しない限り、一国経済の未来を語れるはずがない。韓国は、冷静に自己の足元を見つめるべきであろう。

     

    国民にとって、安心して子どもを育てられる環境かどうか。それは、老後の生活保障の有無とも深く関わってくる。そこで、日韓の合計特殊出生率と年金受給率を比べてみよう。

             日本    韓国

    合計特殊出生率  1.34   0.84(いずれも2020年)

    年金受給率    100%  53.2%(2019年)

     

    合計特殊出生率は、一人の女性が出産する子ども数である。「2.08」でなければ、その国の人口を維持できないので、日韓ともに総人口は縮小過程にある。だが、韓国の「0.84」は世界最低であり年々、低下に向かっている。韓国は、日本よりも速いスピードで超高齢化へ突入するのだ。

     

    その際、韓国の年金受給率が53.2%では、高齢者の生活が成り立たなくなる。この面での対策はゼロなのだ。国民が、安心して子育てできる環境にはない。この韓国が、経済指標面で日本へ接近したとはしゃぎ回るのは、虚しく映るのである。

     

    『ハンギョレ新聞』(8月12日付)は、「韓国の国家競争力『日本を追い抜いた』30年にわたる韓日の経済・競争力の変化」と題する記事を掲載した。

     

    韓国の全国経済人連合会が、8・15光復節を控え1990年代初めから約30年間の韓国と日本の経済・競争力格差の変化を比較し、12日に報告した資料で、最も総合的で象徴的な指標はスイス国際経営開発研究所(IMD)の国家競争力の順位だ。日本が1995年の4位から2020年には34位に落ちた中、韓国は26位から23位に上がり、日本を上回った。

     

    (1)「国家競争力の順位と同様に劇的な変化は、S&P、ムーディーズ、フィッチなどの国際格付機関による国別信用格付で見られる。S&P基準の格付を見ると、1990年には韓国(A+)が日本(AAA)より4段階低かったのに対し、2021年には「AA」で日本(A+)より2段階高い評価を受けた」

     

    日本の格付けが低下したのは、大量の国債発行による。だが、年金受給率は100%であり、国民生活に影響が出ている訳でない。最近の「MMT」(現代貨幣理論)では、インフレにならない限り、大量の国債発行をある程度許容する」といった主張が認められている。米国やEU(欧州連合)もすでに実施している。ただし、経常収支が黒字という前提がある。米国は、基軸通貨国であるので、経常収支が赤字でも問題ない。また、金利水準が名目GDP成長率よりも低ければ、金利負担で国家財政が破綻する懸念はない。よって、韓国の格付けが日本より上でも自慢するには値しないのだ。

     


    (2)「各国の物価と為替相場の水準を反映し国民の購買力を測定する購買力平価指数(PPP)を基準とした1人当たり経常国内総生産(GDP)を見ると、2018年に韓国(4万3001ドル)は日本(4万2725ドル)を追い抜いた後、この流れが続いている」

     

    購買力平価による比較は無意味である。経済発展度の低い国ほど物価が安いので、それを基準にした購買力平価指数に何の意味もない。ちなみに、米国の購買力平価指数による一人当たり名目GDP(2019年)は6万5298ドル、スイスの方が7万0989ドルで高いのだ。

     

    (3)「韓国と日本の代表的な産業である製造業の競争力でも、韓国が日本を追い抜いたことが分かった。製造業競争力を分析し国ごとに順位をつけた国連工業開発機関(UNIDO)の製造業競争力指数(CIP)を見ると、1990年に韓国と日本はそれぞれ17位、2位だったが、2018年には3位、5位へと逆転した」

     

    製造業だけで比較して優劣を競うのは無駄である。韓国は、日本から中間財を輸入して加工貿易で生きている。それだけ付加価値が多くなろう。産業構造比較では、第三次産業のウエイトも重要になる。製造業だけ取り出して優劣を競う限界は明らかだ。要は、全体でどれだけ雇用吸収力があるかだ。韓国の失業率は、日本より高いのが現実である。

     


    (4)「総量的なマクロ経済指標で差が大幅に縮まった部分も目立つ。名目GDP基準での韓国の経済力は、1990年の2830億ドルから2020年には1兆6310億ドルへと成長し、日本に対する比重は8.9%から32.3%へと上がった。1990年の韓国の名目GDP水準は世界17位、日本は2位だったが、2020年には10位、3位へと差が縮まった。韓国の1人当たり名目GDPは1990年(6610ドル)には日本の25.5%だったが、2020年(3万1497ドル)には78.5%にまで近づいた」

     

    GDPは、生産年齢人口比率と深く関わっている。日本は1990年がピークでその後、下降に向かっている。韓国は、2014年がピークであり、その後に低下している。このように日韓のピーク時期に24年の差がある。この間に、日韓のGDP格差が縮小するのは当然で自慢することでない。韓国は今後、この下落スピードが加速する。日韓の格差縮小は、今がピークであろう。再び、その差は開くはずだ。束の間の「接近」で喜ぶのは早いのだ。

     


    (5)「両国間の差の全般的な縮小の流れの中でも、基礎技術分野で日本がはっきりと優位を示していると評価される。材料・部品分野で韓国の対日赤字の規模は1994年の83億ドルから2020年には154億ドルと2倍近く増え、全体の対日貿易収支比率(1994年70%、2020年73%)も上がったのが一例として挙げられた。基礎科学および源泉技術の競争力を示すノーベル科学賞受賞者が、日本では2020年までに24人も輩出されたのも同じ脈絡からだ」

     

    日韓で、ノーベル科学賞受賞者の数を比べると、その差は大きくなる。日本24人に対して韓国はゼロである。これでは、競争の舞台が自前(日本)か、借り物(韓国)かの違いになって現れるはずだ。こうした日韓関係から、韓国は何をくみ取るかである。「反日」の虚しさを知るべきであろう。

     

     

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    インドの対中防衛戦略は、クアッド(日米豪印)からNATO(北大西洋条約機構)まで幅広く網を張っていることが分かった。インドは、ここまで重層的な防衛戦略を組立てており、中国を慎重に対応させる狙いであろう。

     

    インドは独立後、非同盟主義を貫いてきた。だが、中国の向う見ずな軍事的な動きを見ると、理想論ばかりに頼ることもできない現実に直面している。昨年6月、ヒマラヤ山中で中国軍の急襲に遭い、20名の兵士が犠牲になった。以後、中国への警戒心が一段と高まっている。

     

    『大紀元』(8月12日付)は、「NATOと関係強化に取り組むインドと題する記事を掲載した。

     

    インド海軍は、北大西洋条約機構(NATO)同盟国4ヵ国と合同軍事演習を実施することで、相互運用性の向上および海洋脅威に対抗する複合作戦の強化に取り組んでいる。これは、「共通の価値観」が脅かされているとして、インドと北大西洋条約機構の間の協力体制強化を呼びかけた北大西洋条約機構のイェンス・ストルテンベルグ事務総長により推進された動きである。

     


    (1)「協力強化を目的とした今回の取り組みは、アラビア海で2021年4月25日から27日にかけて実施された仏印合同演習「ヴァルナ21」を皮切りに、7月21日から23日にかけてインド北東部のベンガル湾で実施されたインド海軍と英国海軍による「コンカン」演習で一応の完了を迎えた。インド海軍が発表したところでは、ヴァルナ演習ではインド海軍が駆逐艦1隻、フリゲート2隻、補給艦1隻、潜水艦1隻を派遣し、フランス海軍の空母、駆逐艦、フリゲート各1隻と共に訓練に臨んでいる。また、両軍隊のヘリコプターと哨戒機がフランスのジェット戦闘機に加わり、高度な防空訓練と対潜戦訓練に焦点を当てた演習も実施された」

     

    インド海軍は、フランス海軍と合同演習を行っている。

     

    (2)「ヴァルナ演習実施前の2021年4月中旬に仮想形式で実施されたインド政府主催の国際会議「第6回ライシナ対話」で、ストルテンベルグ事務総長は北大西洋条約機構とインドの協力関係を再確認している。同事務総長は中国に言及しながら、北大西洋条約機構とインドが共有する自由、民主主義、法の支配といった価値観が「権威主義の台頭および同盟・提携諸国とは価値観を異にする諸国」により脅かされていると発言した。同事務総長はまた、「同じ価値観と志を持って法の支配に基づく秩序を支持する民主主義のインドのような諸国とより緊密に協力することができる」とし、「インドは同地域だけでなく国際社会においてもまさに重鎮である」と述べている」

     

    NATOは、インドとの協力関係を再確認している。下線部は、日本や豪州との緊密な関係をも想定していることを覗わせている。将来は、クアッドとNATOが連携する事態も予想されている。NATOが積極的になっているのだ。

     

    (3)「インド国防省の発表によると、2021年6月13日に地中海に向けて出航したインド海軍のフリゲート「タバール」は、74日から5日にかけてイタリアと、7月15日から16日にかけてフランスと演習を実施している。演習には防空作戦、海上補給、通信訓練、ヘリコプターを用いた飛行甲板間移動が含まれていた。 インドのPTI(Press Trust of India)通信が報じたところでは、今回の取り組みの一環として、ジブラルタル海峡西端に位置するスペインのトラファルガー岬付近まで航行したフリゲート「タバール」は、78日にスペイン海軍とも演習を実施している。スペイン海軍は同演習で「セスナ(Cessna)」海上哨戒機と「シーキング(Sea King)」哨戒ヘリコプターを展開した」

     

    インド海軍は、イタリア海軍やスペイン海軍とも合同演習している。

     

    (4)「2021年7月21日、ベンガル湾で毎年実施されるコンカン演習で、インド海軍が英国の空母「クイーン・エリザベス」を中核として構成された「英国空母打撃群21(CSG21)」と共に訓練を実施した。英国のアレックス・エリス在インド高等弁務官によると、今回の英国空母打撃群を率いる展開が本格的な初航海となった満載排水量6万5000トンのクイーン・エリザベス空母が同演習に参加したことで、これは「インドとインド太平洋の安保に対する取り組みを強力に実証する事例となった」

     

    英国空母「クイーン・エリザベス」が打撃群21を伴い、初の海外演習の航行を続けており、9月に日本へ寄港する。英国は今年の年末に向けて、哨戒艦2隻をインド太平洋地域に恒久的に展開する方針であることを発表した。英国は、海軍艦船の事実上の母港となる港湾について、現在のところ言及を避けている。港湾施設から見て、日本が有力視されている。

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    韓国ほど、他国と比べて一喜一憂する国はない。特に、日本との比較論になると口角泡を飛ばす状況だ。その日本とワクチン接種率で大きく差がついたとメディアが取り上げている。

     

    国際統計サイトであるアワー・ワールド・イン・データが8月8日まとめた集計によると、韓国の接種完了率は15%だ。反面、7月末まで韓国より後れをとっていたニュージーランドとオーストラリアの接種完了率は、それぞれ16%、17.1%となり韓国が抜かれたのである。OECDで最低の接種率である。

     


    韓国と同様、2月に接種を始めた日本とコロンビアの接種完了率は、それぞれ32.9%、25%で、韓国との格差は広がっている。こ
    のように韓国が、OECDにおいて接種完了率で最下位となったのは、「ワクチン不足」が根本的な原因だ。文政権は、ワクチン購入に動き出した時期が昨年秋以降である。これが、韓国の接種遅れを招いた。だが、文大統領は相変わらずの楽観論である。

     

    『中央日報』(8月12日付)は、「感染者2000人台を記録した日『文大統領 世界的現象 韓国はましなほう』」と題する記事を掲載した。

     

    韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は11日、コロナ新規感染者数が2000人を超えたことに関連し、「最近の感染者数の増加はデルタ株の拡大に伴う世界的な現象」と述べた。文大統領はこの日、参謀との会議で「国民の犠牲的な協力と防疫当局の努力にもかかわらず、一日の感染者数が2000人を超えることになり、強い懸念を持っている」と述べたと、青瓦台(チョンワデ、大統領府)の朴ギョン美(パク・ギョンミ)報道官が伝えた。



    (1)「コロナ防疫に限界を見せている状況を、韓国だけの問題ではなく「世界的現象」と診断した文大統領は引き続き「わが国は依然として他の国と比べて相対的に良い状況を維持している」と自評した。文大統領はただし、現状況に対しては「感染拡大を防ぐことができなければ感染者数はさらに増える分岐点になりえる重要な時点」と述べた。あわせて「成功的な防疫の主人公である国民の協力を改めてお願いする」とし「政府も感染拡大状況を安定化させるために最善の努力を尽くす」と話した」

     

    文大統領発言は、全て自慢と言い訳である。反省とか改革という意味の前向き発言が少ないことが特色である。学生運動経験者であり社会派弁護士という「生業」が、こういう発言を生み出しているのであろう。一国大統領の発言ではない。

     


    (2)「青瓦台はしかし、この日も大量確保に自信を持っていたモデルナワクチンの供給が支障をきたすことになった状況に対してコメントを出さなかった。文大統領は、これまでワクチンの需給支障などに関連する謝罪や遺憾表明を行っていない。それどころか9日、青瓦台首席・補佐官会議で「ワクチンを少数の海外企業に依存せざるを得ないため、われわれがワクチン需給を思い通りにできない」とし、事実上「仕方ない」という立場を明らかにしたのがすべてだ」

     

    韓国がワクチン接種で躓いているのは、モデルナワクチンへの依存度が高い結果である。モデルナは最近、生産に支障が出ている。韓国は、その影響を強く受けている。

     

    (3)「与党議員の間ではすでに大統領選への悪影響を心配する声が出ている。忠清(チュンチョン)圏のある議員は、「ワクチン接種率を高めて生活防疫に切り替える決断を操り上げるべきだが、ワクチンの需給から躓いている」とし、「このようなことで新型コロナの拡大防止と民生回復がどちらも失敗すれば、大統領選をやったところで結果は目に見えている」と話した。独立的ネットワーク型シンクタンク「ザモア」のユン・テゴン政治分析室長は「感染者数の増加自体よりはワクチン需給問題に対する政府・与党の一進一退する言葉と責任を回避するような態度が失望感を大きくしている」とし「大統領選の悪材料として作用する可能性が高まった」と診断した」

     

    韓国のワクチン接種率が上がらなければ当然、国民の不満は高まる。昨年4月の総選挙で与党が大勝した理由は、コロナ防疫に成功したという政府の宣伝によるものだった。今後のワクチン接種率が他国に遅れれば、来年3月の大統領選は不利となろう。

     


    (4)「野党「国民の力」は、攻勢を強めている。金ヨン珠(キム・ヨンジュ)常勤副報道官は「コロナと関連した一連の事態が悪化の一途をたどっているのは、大統領の安易な状況認識のせいではないのか」とし「大統領が『相対的に良い状態』という発言をしなければならなかったのか、真に残念だ」と指摘した。同党の大統領候補である劉承ミン(ユ・スンミン)元議員も、この日フェイスブックに「文大統領と現政府は、オオカミ少年のようにずっと国民をうそで欺いてきた」と主張した。また「そろそろワクチン不足の理由は何か、誰が間違ってこの状況になったのか、真相を究明して責任を問うべきだ」とし「国政調査を迅速に実施するよう強く要求する」と述べた」

     

    政府は、7月中のワクチン1000万回分確保できると発表していた。実際は、908万2000回分に減った。8月に850万回分を供給する予定だったモデルナのワクチンが、生産支障により半分以下に減る見通しである。これにより、50代と18~49歳の年齢層のモデルナとファイザーのワクチン接種間隔が、4週間から6週間に延びるという。こうした不満が重なっていくと、文政権への信頼度は下がらざるを得まい。日本では、3週間の接種間隔が守られている。


     

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