習近平氏は、何を考えているだろうか。上海市で小学生の英語試験を禁止する一方で、習近平思想を必修化することになった。習近平思想と言っても中身があるわけでない。中国の民族再興を教える「民族主義教育」である。
習氏が、2012年の国家主席就任時に提唱したのは、「二つの百周年」(一つは中国共産党建党100年=2021年、二つには人民共和国建国100年=2049年)を成功裏に迎えることであった。第19回党大会「政治報告」では、二つの百周年の間に2035年を節目として設定した。総合国力と国際影響力でトップの国になり、中華民族を世界民族の林に屹立(きつりつ)させるという内容だ。言わずと知れた世界覇権論である。
習氏が、小学生から習近平思想なるものを教え込む狙いは、習氏の「終身国家主席」を想定しているのであろう。それには、英語教育が邪魔物となる。戦時中の日本が、英語を「敵性語」として禁じた、あの暗黒時代を思い出させるニュースである。
『日本経済新聞』(8月13日付)は、「中国・上海で小学生の英語試験禁止 習思想は必修化」と題する記事を掲載した。
中国の習近平(シー・ジンピン)指導部が教育分野の監督を強めている。上海市は9月の新学期から小学生の期末試験で、これまで実施していた英語の試験を除外する。試験の回数も減らす。学生の負担を軽減するためというが、同時に「習近平思想」を必修にして思想教育は徹底する。米国との対立長期化をにらみ、子供の時から愛党精神を育む狙いもあるとみられる。
(1)「上海市は今月3日、新学期から3~5年生(上海市の小学校は5年制)の期末試験の対象科目を数学と国語に変更すると公表した。これまでは英語を含む3科目が試験の対象となっていた。一学期に中間と期末の2回実施していた試験の回数も期末試験の1回のみに改める。習指導部は「(受験競争の激化が)放課後の自由な時間を奪い、小・中学生に多大なプレッシャーを与えている」と問題視する。放課後の学習塾や家庭教師の利用は教育費の増加につながっており、少子化を助長する要因にもなっている。中国最大の国際都市である上海市の取り組みは今後、ほかの都市にも広がる可能性が高い」
下線部で驚くべき事実が指摘されている。期末試験ではこれまで「英数国」の3科目が対象であったが、今後は英語を外すというのだ。英語を外すのも驚きだが、たった2科目の試験成績だけが義務教育対象であることに、さらに驚くのだ。「全人教育」という人間性を全面的に磨く教育でない。これでは、中国人が短見で物欲が強い人間に育たざるを得ないであろう。同じ人間として、気の毒というか哀れさを感じるほかない。
(2)「同時に思想教育は加速している。上海市は9月の新学期から「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想の学生読本」と題した教材を使用する授業を小・中・高生の必修科目として新たに設ける。習氏の重要発言を暗記したりするとみられる。すでに一部の大学では習思想が必修になっているが、上海は小中高にも対象を広げる。北京市も10日、当局の認可を受けていない外国教材を義務教育で使用することを禁止する方針を公表した。思想教育を徹底し若者の共産党への関心を高めるほか、香港でのデモ活動などを念頭とした社会運動の芽を摘むという思惑があるとみられる。米中対立が長期化しそうなことも底流にありそうだ」
「全人教育」を捨てて、習近平思想を教え込む。人間ロボットを育てるようなものである。英語を知っていれば、外国事情も分かるがその道も塞がれる。習氏は、国民を徹底的に「内向き人間」「習近平万歳」にさせる積もりである。これで、習氏への謀反を防ごうという狙いだ。
東条英機も英語教育を廃止させた。だが、江田島の海軍兵学校では、堂々と英語教育を行っていた。陸軍に従わないという反骨精神とされたが、海軍が英語を知らなければ、通用しない意味もあった。中国は、世界から引離される孤立の道を選ぶのであろう。その先に待っているものは、破滅の二字である。
(3)「中国政府は、学習塾など教育産業の監督にも躍起だ。オンライン教育の大手15社に対し、虚偽の授業料を提示したとして6月に罰金を科した。高まる教育熱もあり、自宅で本格的な授業を受けられるとオンライン教育は注目されていた。だが、高額な授業料を要求する業者も少なくなく、返金トラブルなどの苦情も相次いでいた。7月には学習塾の新規開業の認可を中止し、既存の学習塾は非営利団体として登記すると公表。今後は学費も政府が基準額を示して管理する方針だ。学習塾の株式上場による資金調達も禁止し、営利目的で競争が激化する業界をけん制した」
習氏は、学習塾の取りつぶしも狙っている。高額な費用が、家庭の負担になるというもの。だが、高い塾の費用を払ってまで子どもを通わせる理由は、就職難が最大理由である。良い大学=良い就職先という方程式は、すでに崩れている。大学院修士課程を卒業しても、タバコ工場の現場工員にしかなれない現実が、今の中国である。
習氏は、テック企業虐めを行っている。この業種こそ高学歴者を雇用できる場である。それが潰されれば、せっかくの高学歴も生かせないのだ。そういう根本的な矛楯を抱えていることに気付かないようである。塾を規制するならば、義務教育で「全人教育」を行うべきだろう。子ども達の学びへのエネルギーを、多方面に導くことが必要不可欠である。