勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    習近平氏にとって、香港問題を解決したので次は台湾問題である。台湾を取り戻し、名実共に、中国共産党革命を完成して、「終身国家主席」の座を確実にしたいところであろう。だが、台湾問題の裏には、米国を筆頭にして日本や豪州が中国軍事力の拡大阻止という命題を抱えている。それだけに、軍事攻略という荒っぽい手を使えば、敗北の場合に習氏の政治生命に関わるという重大な選択になるのだ。

     

    習氏は、今年6月15日の誕生日で満68歳になった。今はまだ60代であるから、意気軒昂であろう。だが、70代に入ればいつまでも「終身皇帝」という地位を欲しがってばかりでもいられなくなろう。改めて、「人生の意義」を考える時期ある。要するに、人生に円熟味が加わって、性格に「丸み」も出るのでないか。そういう心情変化を期待する声も出てきたのだ。結論として台湾問題の帰趨は、習氏にしか分からないという推測である。習氏は、自分の人生の損得を考えるだろうという視点である。

     


    私の見立てによれば今後も、習氏は台湾で瀬戸際政策を続ける。それによって、国内に緊張感を煽りたてるが、肝心の台湾侵攻を控える。開戦に乗じて起るだろう「反習」の動きを封じるためだ。こうして、自らの一生を安泰のうちに終えるという青写真を採用するだろう。これが、習氏にとっての最高の権力維持の方法であるからだ。その点では、北朝鮮の金正恩氏と同じで、瀬戸際政策を続けると見る。私のメルマガ279号で詳説した。

     

    『日本経済新聞 電子版』(7月31日付)は、「『新皇帝』、台湾統一の思惑」と題する寄稿を掲載した。筆者は、英『フィナンシャル・タイムズ』前編集長のライオネル・バーバー氏である。

     

    秦の時代から2000年以上がたったが、習近平(シー・ジンピン)国家主席は「中国の夢」や「中華民族の復興」といったスローガンを軸に、偉勲を立てようとしている。武力などによる台湾の統一も、習氏が(本気で)最高指導者としてかなえたい夢に含まれるのかという疑問は、差し迫った重要性を持つ。

     

    (1)「7月の中国共産党の創立100年記念式典で、習氏は「台湾独立」の動きを粉砕する決意を表明した半面、台湾との平和統一プロセスを推進するという姿勢を踏襲した。強気ながらも計算された言葉遣いによって、基本方針を維持したかたちだ。とはいえ中国は、台湾周辺の軍備を増強しており、米国は本音を探りかねている。中国は国内のウイグル族の弾圧や香港の民主主義の締め付け、インドとの国境対立の扇動といったかたちでも強硬さを増す。米国のバイデン政権は中国をけん制しつつ、摩擦や戦争を引き起こさない方法をみつけなければならない」

     

    習氏は、中国国内向けに強硬発言を繰返している。これが、同時に海外へ発信されることで、西側諸国は一段と警戒心を強める予想外の事態を招いている。習氏が、自分で自分の首を締める結果になる悪循環に陥っているのだ。

     


    (2)「米国は(中国との国交樹立に伴い台湾関係法を成立させた)1979年以降、中国の武力行使も台湾の一方的独立も認めないような「戦略的曖昧さ」を打ち出してきた。米国が台湾問題で武力介入するかどうか決まってなかった。米シンクタンク外交問題評議会のリチャード・ハース会長らは2020年、戦略的曖昧さは役割を終えたと指摘した。「戦略的明確さ」に切り替えるべき時期が到来したという主張だ。
    台湾の独立には引き続き反対だと中国政府に伝えつつ、現状を変えようとする中国の試みがあれば、断固として対処すると宣言すべきだとの見方だろう」

     

    日米豪印の「クアッド」は、事実上の「戦略的曖昧さ」否定である。だが、米国はそれを明言しないのだ。明言すれば、中国を徹底的に追込むというマイナス要因があるからだ。そこまで追込まないで、「逃げ場」をつくって外交交渉の余地を残す戦略と思われる。「窮鼠猫を噛む」という最悪事態の回避だ。

     

    この裏には、日米開戦時に日本によるハワイでの首脳会談提案を拒否して開戦に至ったことを悔いているのであろう。あのとき、米国は日本から最大の譲歩を引き出す機会を逸したのだ。対中戦略では、中国の譲歩を引き出す余地を狙っていると見る。

     

    (3)「米国に残された時間は少ないという。習氏の軍事顧問の一部は、中国人民解放軍が、米国に効果的な反撃を許さずに台湾を急襲できると考えている模様だ。米国は、日本や韓国などとの同盟関係の絆を確かめる必要もある。バイデン政権の外交チームは、習氏が15年、当時のオバマ米大統領に対し南シナ海を「軍事拠点化はしない」と表明したのを念頭に置いているようだ。実際は、中国は軍事拠点の整備を進める。米政府は現状を踏まえ、国際的な協調を通じ、台湾統一の代償が高すぎると中国に思わせようとしている。日本などと合同で、南シナ海や東シナ海での緊張を想定した軍事演習を実施してきた」

     

    中国が、台湾を占領するには30万の兵員が必要という。その大軍が、台湾海峡を渡ってくるには前兆現象ある。それに、人工衛星で常時監視しているので、台湾が気付いたら中国の手に墜ちていたなどということにはならない。そんなに簡単であれば、もっと早く侵攻してきたはずだ。

     

    (4)「米国は、台湾との外交的な接点も増やしている。台湾の駐米代表を1月のバイデン大統領の就任式に招いたほか、6月の主要7カ国首脳会議(G7サミット)で台湾海峡の安定の重要性を記した首脳宣言を採択するなどしている。ただ危険なのは、台湾に期待を持たせすぎることだ」

     

    台湾の独立宣言は、中国の侵攻を誘引する口実になる。それゆえ、これを抑えなければならない。

     


    (5)
    「習氏にとって比較的リスクの低い戦略は、台湾の人々の独立の期待をもみ消し抵抗を抑え込みながら、中国本土と台湾の統一が歴史的な必然と受け止められる機運を高めることだろう。「煙のない戦争」とも呼ばれる方法だ。中国軍が28機を使って台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入したり、台湾を外交的に孤立させる動きを強化したりする最近の対応も、習氏の戦略に含まれる。習氏は台湾にどれだけ魅力を感じているのだろうか。既に68歳の習氏が、あと10年待とうとするだろうか。権力の座にとどまり続けるだろうか。習氏の思惑は、新たな皇帝として君臨する本人にしか分からない

     

    習氏は、晩年の毛沢東の哀れな姿を想像すれば、「皇帝」であり続けることの不安と葛藤がどれだけ大きいかを覚るはず。最後まで皇帝を狙っても、「反習」が立ち上がれば終わりである。これまで多くの政敵を粛清してきただけに、その恨みも受けている。人生、「ほどほど」が一番、幸せであろう。

     

    次の記事もご参考に。

    2021-07-19

    メルマガ276号 バイデン、米中関係「総決算」ねらう 中国追い払う「準備完了」

    2021-07-29

    メルマガ279号 「習一人体制」の矛楯噴出、社会不安高まり 開戦すれば反習派の動き「警戒」

     

     

    テイカカズラ
       


    韓国の高齢者は気の毒である。年金受給率は53.2%(2019年)にすぎず、約半分弱の人々は「無年金」である。これでは、60歳定年後の生活は覚束ないのだ。自殺率が、OECD(経済協力開発機構)でワースト・ワンである理由はこれである。

     

    老後の生活費に貯めた資金は、子どもの教育費に消えてしまった。その子どもは、就職が決まらず親の仕送りもできない。これが、偽らざる韓国社会の縮図である。この現実を打破するには、労働規制を緩和して労働市場を流動化させなければ、問題の解決にならない。だが、文政権は大手労組の意見に従って大幅な最低賃金引上げで、逆に失業者を増やす逆行政策である。追詰められる高齢者は、気の毒と言うほかない。

     

    『東亞日報』(7月28日付)は、「高齢層の『労働希望』が1000万人 政府は手をこまねいて傍観するつもりか」と題する記事を掲載した

     

    (1)「『将来働きたい』という高齢層が初めて1000万人を超えた。統計庁によると、55〜79歳の国民1476万人のうち68%の1005万人が将来労働を希望した。1年前より43万人が増えた数字だが、平均73歳まで働くことを望んだ。しかし、高齢層の半分は失業者であり、働いても単純労務職や公共臨時職が中心となっている。彼らの貧困層への転落を防ぎ、むしろ労働力として積極的に活用する対策が急がれる」

     

    日本では、健康と生きがいのために老後も働きたいが多数である。韓国は、生活費を稼ぐために老後も働きたいという切実な訴えである。その比率が、高齢者の68%にもなる。年金受給者率が53%であることを考えれば、年金を貰えないので老後も働きたいという切羽詰まったものだ。

     

    (2)「高齢層が主に仕事を辞める年齢は、平均49.3歳だった。50歳になる前に働き口を失い、低賃金の働き口に追い込まれていることになる。高齢層10人に6人は、生活苦のため労働を希望した。彼らの雇用問題を解決できなければ、OECDの加盟諸国のうち、「老人貧困率1位」という不名誉をぬぐい切れない」

     

    韓国では、50歳前に退職している。これは、自主退職である。職場で出世の見込みがなくなると退職して自営業を始める。これが韓国型である。後輩が上司になっても我慢することがないのだ。儒教社会ゆえに、年齢の上下が厳しい秩序意識を形成している。だから、後輩に使われることは御法度になる。転職市場もないことから、自営業に転じるが成功率は低い。韓国の独特の社会風土が災いしている。

     

    韓国の65歳以上高齢者の相対的貧困率(所得が中央値の半分を下回っている人の割合)は、2017年に43.8%でOECDワースト・ワンである。年金受給率の低さと合せ考えれば、納得のいく状態である。ちなみに、日本は19.6%で韓国よりも恵まれている。

     


    (3)「15歳以上の人口の3人に1人は高齢層だが、この割合は日増しに高くなっている。彼らを失業者として放置すれば、人口減少とあいまって、労働力不足や成長減速へとつながりかねない。高齢層の雇用率は56%と、2005年に統計を取り始めて以来最も高いが、雇用の質は落ちている。(高齢者)就業者の約7割が付加価値の低い公共雇用や農林漁業、卸小売・宿泊飲食業などに携わっている。専門性を生かし、再教育を通じて付加価値の高い仕事をすることができるよう、政策的な裏付けが必要だ

     

    高齢者を再教育するといっても、難しい問題である。最大の解決案は、生産性向上を上回る最低賃金引き上げを止めて、広く雇用可能な状態に戻すことだ。そうすれば、自営業も成り立つし「八方丸く収まる」のだ。諸悪の根源は、現実を無視した大幅最賃引き上げにある。

     

    (4)「労働界では定年の延長をとりあげている。しかし、企業の負担は増大し、若者失業を悪化させる懸念が少なくない。韓国経営者総協会(経総)によると、定年を65歳に延長すれば、企業が負担する追加費用が年間14兆ウォンを越える。専門家たちは、労働の柔軟性を高めることが優先だと指摘する。年功序列中心の賃金体系と硬直した雇用構造を変えてこそ、雇用期間を延ばすことができるという意味だ

     

    実際の年金支給年齢が、65歳に引き上げられている。一方、定年は60歳である。この差の5年間をどうするのか。そういう配慮がない。下線部の提案は、その通りである。この実現を阻止しているのが労組である。解雇や転職を自由に行える社会を実現する。日本は、すでに流動化されている。これが、結果として失業率を引下げる妙薬である。

     

    (5)「人口政策タスクフォース(TF)を稼働している政府は今月初め、「高齢者継続雇用」は議論の課題でないと釘を刺した。青年層の反発を意識したためと見られる。政府が手をこまねいる間、高齢層は貧困に追い込まれ、生産可能人口は減っている。政府は、青年と高齢層の雇用対立がないように雇用柔軟性を高め、再教育と雇用延長など高齢層の雇用環境全般を時代の流れに合わせて整えなければならない」

     

    韓国政府は、労組の言分をそのまま受け入れている。労組のエゴが、年功序列賃金と終身雇用制の維持である。これが、労働市場を硬直化させて、労働者は全体を苦しめている。現に、50歳未満で企業を退職しているのだ。終身雇用制の恩恵を自ら放棄している。こういう現実を受入れれば、改革は可能である。

     

     

     

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    困ったことである。東京五輪で、中国選手が日本選手に負けた試合になると、大量の誹謗中傷が日本選手に向けられている。日中間での政治的摩擦が背景にあるとしても、中国政府が、常にSNS上で「政府擁護」の書き込みをさせている「五毛党」による仕業と見られている。この「五毛党」は、刑務所に収容されている囚人たちで、早く釈放されたくて事務的に書かされているケースが報じられている。最大の悪は、この「五毛党」を背後で操る中国政府である。SNSに現れた「戦狼外交」の一環だ。

     

    IOC(国際オリンピック委員会)も立ち上がるべきだ。中国政府に対して、こういう違法な投書を取り締らせるべきであろう。中国政府が動かなければ、来年2月の北京冬季五輪のボイコット宣言を出すべきだろう。事態は、そこまで悪化している。

     


    『大紀元』(7月31日付)は、「日本選手を中傷する中国ネットユーザー 背後に『不公平オリンピック』印象操作する中共政府」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「東京五輪で数々の好成績を残す日本選手団。しかし、いわれのない誹謗中傷がSNSに書き込まれ、アスリートたちの心を傷つけている。女子個人総合決勝で村上茉愛は、日本勢最高位の5位につけた。笑顔だった村上は、SNSでの中傷について記者団に聞かれると、「すごく残念、悲しい」と吐露し、大粒の涙を流した」

     

    やっぱり、中国社会の未発達を裏付けた話である。

     

    (2)「こうした嫌がらせを受けているのは、村上だけではない。伊藤美誠との混合ダブルスで日本卓球史上初の五輪での金メダルを獲得した水谷隼も、7月28日、自身のツイッターで、「かの国から」とぼかし、攻撃的な内容のメッセージが来ていることを報告した。体操男子の個人総合で金メダルを獲得した橋本大輝や、サーフィン男子の五十嵐カノアもその経験があることを明らかにしている。ツイッターや動画共有サイトYouTubeには、日本選手の競技の審査結果を否定する投稿が相次ぎ、なかには侮辱的な編集画像などもある。これらの表現には、不自然な日本語や英語、中国本土の簡体字を使用した中国語アカウントから多いことが確認できる

     

    匿名で悪質な投書をしても、発信国はすぐにばれるもの。恥さらしなことを止めるべきだが、そういう「セルフ・コントール」の効かない社会なのだ。気の毒な存在である。

     


    (3)「中国SNS微博には、日本選手の勝利を受け入れ難いとするクレームがあふれている。中国のアスリートもこの問題を知り、中傷をやめるよう呼びかけている。橋本と同じ競技の舞台に立った体操銀メダリストの肖若騰は7月29日、自身の微博に橋本らメダリスト3人の写真を添え、「あまり選手を攻撃しないで。選手たちは皆すばらしく、目標に向かって努力し、非常に励みになる」と書き込んだ」

     

    中国選手は、同じアスリートとしてこういう心ない書き込みに胸を痛めているのだ。

     

    (4)「これらの中国ユーザの負の感情の背景には、中国メディアや政府系SNSアカウント、暗躍する世論工作員の存在がある。これらの印象操作を受けて、中国ネットユーザーは東京五輪では日本偏重のジャッジが行われていると思い込んでいるようだ。SNS微博では「中国体操チームが受けた不公平」が上位検索ワードになった」

     

    中国人は、いつからこれほど思い上がった民族になったのか。習近平氏の「中華復興論」に酔わされているのだろう。だが、こういう「人間失格」的な振る舞いをしている限り、誰も中国を尊敬することはない。その逆になろう。

     


    (5)「中国事情に詳しい、東京大学大学院総合文化研究科の阿古智子教授は、多くの日本人は中国のネットユーザーの行動に不快感を抱いており、「中国はひどい」というネガティブな印象を持っているとRFAに語った。「五輪のアスリートたちは、理由もなく数々の中傷を受けた。これらのコメントの多くは、中国政府に雇われたオンライン言論を誘導する『五毛党』などによるもの、との報道もある」と阿古氏は述べた。また、党の世論扇動によっていたずらにナショナリズムが高まり、相互の感情悪化に結びついていると指摘した」

     

    ナショナリズムの怖さが、今回の一件によく表われている。習近平氏の狙いは、こういう民衆を煽って世界覇権獲得の野望へ引き込むことだ。先ず、その第一歩がこれだ。

     

    (6)「阿古氏によれば、日本ではオンラインにおける誹謗中傷の対応を強めており、多くの日本人はネット上で、中国ネットユーザーのバッシングに反論して対処に努めているという。実際、日本政府は、今回の五輪アスリートに対するSNSを使った誹謗中傷の制止を呼びかけている。加藤勝信官房長官は29日の記者会見で、「差別的な書き込みなどあってはならない。五輪憲章でも人種差別などが禁止されている」と強調した。丸川珠代五輪相や国際オリンピック委員会(IOC)も30日、中傷を止めるよう呼びけた。共同通信によれば、警視庁も被害届が出れば対応する方針を示している」

     

    中国政府は、愚かにも日本の「反中勢力」を拡大させる「オウンゴール」を演じている。これでは、いくら「ニーハオ」と猫なで声で日本へ擦り寄って来ても無駄だ。スポーツは、スポーツとして割り切れないところに、中国共産主義の後進性と泥臭さを感じるのだ。

     

     

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    韓国大統領選は、「何でもあり」である。最低限、守らなければならないルールが存在しないのだ。相手候補者への身辺攻撃もそうだが、最大の問題は反米主義を煽るというポピュリズムに走っていることである。反日もその一環である。コリア・ポピュリズムが満開した形であり、不幸な国である。

     

    『朝鮮日報』(7月31日付)は、「『韓国の一部大統領選候補、人気集めに反米主義を使い続けている』」と題する記事を掲載した。

     

    ビンセント・ブルックス元在韓米軍司令官は7月29日(現地時間)、韓国の大統領選挙に関連して「既に人気迎合的な候補らが、反米主義と反同盟政治を続けようとする兆しが明らかになっている」と語った。

     

    (1)「ブルックス元司令官はこの日、米外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ』にイム・ホヨン元韓米連合司令部副司令官と共同名義で掲載した「北朝鮮との一括妥結」という寄稿記事で、「トランプ前大統領、文在寅(ムン・ジェイン)大統領時代に韓米同盟が悪化したが、これは人気迎合的民族主義を満足させようとする『国防の政治化』が主たる原因だった」として、このように指摘した。文在寅政権の継承を打ち出す一部与党候補が、反米主義・反同盟の流れを引き続き堅持するとみられる、というのだ」

     


    ブルックス元司令官は、「国防の政治化」という言葉を使っているが、誠に言い得て妙である。その通りである。「外交の政治化」も行っている。党派を超えて継続すべき問題が、政権維持の手段に利用されている。文政権は、それが顕著なのだ。「政治化」とは、支持率を高める手段に利用することである。

     

    韓国の国防問題は、対北朝鮮防衛である。在韓米軍は、常に演習をして防衛力を高めなければならないのだが、文政権はそれを中止、ないし規模縮小をさせている。人気取りに汲汲としている。

     

    (2)「ブルックス元司令官は、2016年4月から文在寅政権初期の2018年11月まで在韓米軍を率いた。米バイデン政権の駐韓米国大使候補の1人として取り沙汰されたこともある。ブルックス元司令官は「韓米同盟は韓国の大統領選挙期間とその後も、その連続性を必ず維持しなければならない」としつつも、「統合航空ミサイル防衛システムや指揮統制システムの現代化といった『ホット・イシュー』がポピュリズム的民族主義政治に弱いということもあり得る」と懸念を示した」

     

    防衛力維持には、不断の努力が求められる。指揮統制システムの現代化という言葉に集約化されるだろうが、文政権は、それをポピュリズムによって中断させている。文大統領の出自が、北朝鮮(両親は北朝鮮出身)にあるという感情論がもたらしているのであろう。

     

    (3)「現役時代に訓練の重要性を強調してきたブルックス元司令官は、「韓国は在韓米軍が主な訓練施設にアプローチできないようにしている政治的障害物を除去すべき」とし、「機動や弾薬使用が可能な少数の訓練施設は準備態勢の維持において核心的」「それになのに訓練場へのアプローチが制限されてきた」と批判した。これは、慶尚北道浦項の水城射撃場において、近隣住民の反対で今年2月に在韓米軍のアパッチ・ヘリの射撃訓練が中断された状況などを念頭に置いているものとみられる。韓国陸軍のアパッチ・ヘリの訓練も、2018年の南北首脳会談以降、半分に減った。主な韓米合同演習の実機動訓練も首脳会談後に中断した」

     

    韓国住民が、在韓米軍のアパッチ・ヘリの射撃訓練を中断させることは異常である。韓国陸軍のアパッチ・ヘリの訓練も、2018年の南北首脳会談以降、半分に減ったという。こういう背景を考えれば、文政権が在韓米軍の演習に干渉しているに違いない。文氏の利敵行為と見られても仕方ない。

     


    (4)「ブルックス元司令官は、「このせいで米軍は、アパッチ攻撃ヘリ部隊など韓国国内の特定兵力を、訓練のため日本やアラスカに再配置することを検討している」と語った。直接の言及はしなかったが、慶尚北道星州のTHAAD(高高度ミサイル防衛システム)基地問題も念頭に置いたものという解釈も出た」

     

    米軍は、アパッチ攻撃ヘリ部隊など韓国国内の特定兵力を、訓練のため日本やアラスカに再配置することを検討しているという。こういう苦労をさせられる在韓米軍は、文政権が潜在的に反米主義を取っていると判断せざるを得まい。米国が、韓国を低評価するのは当然であろう。

     

    (5)「ブルックス元司令官は、韓米同盟の障害物として中国を挙げた。2016年のTHAAD配備決定後、中国が韓国へ経済報復を加えたことに言及し、「米国と韓国が近づくほど、中国は韓国をいじめるだろう」「韓米の指導者は中国の経済的強圧に対する具体的な対応案を用意すべき」と語った。ブルックス元司令官は、韓米は伝統的な軍事同盟を越え、中国・ロシアに対抗して経済・政治分野にも及ぶ共同防衛体制を確立すべきと指摘するが、中国など外部勢力は韓国の大統領選挙に介入する可能性も示唆した。ブルックス元司令官は、「韓国は選挙運動の局面に入りつつあり、巧妙かつ陰険な影響力の標的になる可能性が高い」とも語った

     

    文政権は、二股外交を標榜している。これが、中国へ「韓国与しやすし」という誤解を与える原因である。ブルックス元司令官は、中国による大統領選挙への干渉を危惧しているが、すでに現実化している。駐韓中国大使が、公然と野党系大統領候補への批判発言や寄稿をしているからだ。文政権は、こういう行為を黙認しており抗議しないのだ。韓国は、「風見鶏外交」で漂流している。不幸なのは、韓国国民である。

    あじさいのたまご
       

    文政権になってから発表される政府計画は、ことごとく実現しないというのが通り相場になっている。希望を持っても、最後は失望させられることから「希望拷問」という言葉まで生まれている。

     

    韓国で「希望拷問」なる新語が登場する背景には、脆弱な官僚制度の存在を指摘しなければならない。近代官僚制という一本芯のあるものでなく、李朝時代の「家産官僚制」に逆戻りしていることだ。日韓併合時代は、日本式の「近代官僚制」であったが、韓国になってから李朝時代の「ヤンバン」へ戻っているのだろう。

     

    こういう有言不実行の政府でも、政権維持だけには恋恋としており、醜態を曝け出している。次期大統領選で与党は、ユン前検察総長夫人のでっち上げ醜聞をバラマキ、あたかも真実のごとく流布させているのだ。最低の政権与党である。

     


    『中央日報』(7月30日付)は、「その多くの住宅とワクチンはどこにあるのか」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のハ・ヒョンオク金融チーム長である。

     

    高騰する不動産価格に緊張した政府が国民向け談話を通じて「口先介入」に入った7月28日、盧炯旭(ノ・ヒョンウク)国土交通部長官は「首都圏180万戸、全国205万戸の供給計画を迅速に進める」と明らかにした。205万戸は莫大な量だ。1990年の盧泰愚(ノ・テウ)政権当時の「住宅200万戸建設計画」以来の最大だ。当時、一山(イルソン)・盆党(ブンダン)など第1期新都市の供給物量が29万戸だったことを考えると、どれほどの規模かは見当がつく。

    (1)「市場に物があふれれば価格は下落ちる。経済の基本原理だ。205万戸の住宅を供給すると言ったが、市場は反応しない。むしろ住宅価格はさらに値上りしている。何かおかしな流れだ。実際、205万戸は信頼できない数字だ。覆ることもある候補地の物量までかき集めて作り出した数字だからだ。205万戸のうち最も比率が大きい第2・4供給対策(83万6000世帯)だけを見ても、その道ははるか遠い。盧長官は「5カ月間で12万6000世帯を供給できる都心候補地を発掘した」と述べたが、実際の推進のための住民の同意を受けたところは10カ所(1万5000世帯)にすぎない」

     

    優秀な官僚制であれば、こういう実現不確かなものまで、あたかも実現しそうに扱うはずがない。韓国官僚制の質的な問題に帰着する。

     


    (2)「供給が確定した第3期新都市も、「希望拷問(相手に希望を抱かせて苦痛を与えること)」になるかもしれない。事前申し込みを進めているが、まだ用地補償金の支払いも終わっていない状態だ。用地補償手続きが終わらなければ、2023年予定の本申込み日程も延期される可能性がある。入居の時期がはるか先になることもあるということだ。事前申込みの当選が足かせになることが懸念される理由だ。本申込みまで無住宅要件を維持しなければならないうえ、工事が遅れれば「住宅難民」で苦難の行軍が予想される。用地補償の遅延ですべての日程が延期された2010年の先例もある」

     

    建物が建築されていない青写真段階で、住宅購入申し込みを受け付けるとは驚きである。これぞまさに、朝鮮李朝の出鱈目さを受け継いでいる。他国のことながら、「しっかりせよ」と叱り飛ばしたくなる。この韓国政府が、一丁前の顔で「反日」を叫んでくる。日本としては複雑な感情に陥るのだ。

     

    (3)「このため、「第3期新都市の事前申込みは物をいつ渡せるか確答できないがひとまず契約金を出してお金を先にくれというのと同じだ。物を受ける時期は5年後になるか10年後になるか分からない」という声まで出てくる。「仮想アパート」「仮想申込み」「しん気楼分譲」という新造語が出る理由だ。それだけではない。開発制限区域(グリーンベルト)解除の代わりにソウル泰陵(テルン)ゴルフ場と龍山(ヨンサン)整備倉、西部免許試験場など、ある土地ない土地をすべてかき集めて(遊休敷地)4万8000戸の住宅を供給するという計画も座礁の危機を迎えている。住民と自治体の反発のためだ」

    このパラグラフの実態を見ると、明らかに「近代官僚制」になっているとは思えない。近代官僚制なる言葉は、官僚機構が恣意性を持込まず原理原則通りに機能することを指す。家産官僚制とは、王朝に仕える官僚で恣意的な判断をする、とされる。マックス・ヴェーバーの分類である。韓国は、未だに家産官僚制である。

     

    (4)「政府の数字遊びに実体が五里霧中なのは住宅だけでない。新型コロナワクチンも同じだ。計画がないからではない。計画と現実の差が生み出す混沌だ。疾病管理庁が発表した今年のワクチン導入現況と計画によると、7月29日基準で確定した今年のワクチン導入物量は1億9300万回分だ。ファイザー(6600万回分)、モデルナ(4000万回分)、アストラゼネカ(2000万回分)、ノババックス(4000万回分)などを含む数値だ。このうち7月までに導入が完了した物量は2770万回分にすぎない」

     

    ワクチンという緊急性を伴う問題でも、計画と実態がかけ離れている。計画はあるがワクチンはない状況の中でも、政府は四半期別・月別の供給に問題はないという立場だ。11月までの集団免疫形成を目標に、9月までに全国民の70%の3600万人に対する1回目の接種を完了すると強調する。29日現在、接種を完全に終えた人は全国民の13.7%にすぎない。1回目の接種率は35.8%だ。政府への信頼は落ちるばかりである。

     

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