勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    韓国は、あの手この手を使って日韓首脳会談を開きたいと迫っている。一種の「ストーカー」的な振る舞いである。一国の大統領として気の毒なほどの焦り方である。2年前に見せた「反日不買」を煽った時の勢いはすっかり消えている。

     

    全ては、文在寅氏が日本を軽く見た結果であろう。日本は、日韓併合時代の弱みがあるから、韓国が強硬策に出れば折れてくると錯覚していたのだ。終戦から76年も経っている。日本が新たに贖罪すべきことはない。国際法的に解決済みである。

     

    『韓国経済新聞』(7月5日付)は、「『文大統領との対話は得にならない』 菅首相、次期政権発足時まで待つ腹ずもり」と題する記事を掲載した。

     

    「サミットで一番警戒したのは韓国(文大統領)だった」。6月11~13日、英国で開かれた主要7カ国(G7)首脳会議(サミット)が終わった後、菅義偉首相は周辺にこのように漏らしたという。文在寅(ムン・ジェイン)大統領と会談をしなければならない状況になることを心配して避けていたという「告白」も同然だ。

     

    (1)「G7サミットで明らかになった菅首相のこのような行動は、現在の韓国に対する日本の態度を象徴的に見せている。一言で言えば「対話をしても(日本側に)良いことはないから話しかけないでくれ」に要約される。菅首相は日本が韓国政府に強制徴用・慰安婦問題などの解決策を提示するよう求めている状況で「手ぶら」で来た文大統領と会話が深まる場合、日本国内の批判世論が高まることを懸念したと朝日新聞は分析した」

     

    韓国が、旧徴用工問題の解決案を示さず、ただ日韓首脳会談を開こうと考えること自体、外交慣例にそぐわぬ話である。韓国が、対案を出すまで菅首相は会うべきでなかろう。韓国の甘えを糺さなければ、今後も同じことが起るだろう。

     


    (2)「日本は初めから対話を拒否したわけではなかった。強制徴用判決で葛藤が深まると、1965年韓日請求権協定により仲裁委員会を構成して問題を議論しようと韓国政府に数回要請した。韓国は「無応答」でこれを拒否した。すると日本は「輸出規制」という経済報復で応酬した後、韓国を「国家間の約束を自分勝手に破ってしまう信頼できない国」と規定して世論戦に入った」

     

    文政権は、政権発足時から日本へ横柄な態度であった。あの傲慢さをへし折って、今後の韓国政権に日本への対応で礼を尽くせと教え込む良い機会である。

     

    (3)「今年初めには米国でジョー・バイデン政府が発足し、韓日関係改善の糸口が見つかるだろうとの展望も提起された。先に手を差し出したのは韓国だった。文大統領は年初の記者会見などで「日本企業資産の現金化は望ましくない」「2015年慰安婦合意は両国政府の公式合意だった」等のメッセージを発信して日本と外交的対話に出る意向を明らかにした。だが、日本の反応は冷たかった。文大統領の発言にも「真意を把握中」という立場だけを示した。発言の後に別の「真意」が隠されているかもしれないという不信の表れだ」

     

    バイデン政権が、日本を説得して日韓会談を開くように言える立場ではない。米国は対中戦略で、日本を最も必要としているからだ。日韓慰安婦合意をお膳立てしたのはバイデン副大統領(当時)である。そのバイデン氏は、文氏による日韓慰安婦合意の骨抜きで煮え湯を飲まされたのだ。日米は、同じ怒りである。

     


    (4)「文政府に対する日本政府の不信は、韓国が考えているよりもはるかに強いというのが外交消息筋の共通した伝言だ。韓国の立場転換に対しても、首相官邸と外務省では「バイデン政府を意識した一時的な態度変化ではないだろうか」「実質的な対策を示す前までは信じることはできない。振り回されてはいけない」という見解が支配的だという。東京のある消息筋は「特に首相官邸には韓日関係の複雑性を理解する人物がほとんどいない」とし「文政府とは対話しないという原則に立って次期政権が発足するまでは動かない可能性が高い」と展望した」

     

    「首相官邸には韓日関係の複雑性を理解する人物がほとんどいない」とは、どういう意味か。もはや、自民党にも「韓国通」なる政治家は消えている。国家間の約束を守らない韓国の肩を持つ政治家などいるはずがないのだ。韓国国会で、徴用工関連の法律が提案されている訳でもない。韓国は、この問題で手を引いている。

     


    (5)「日本国内の世論も菅首相の選択を裏付けている。深刻な葛藤の時間を送り、いまや「普通の日本人」にも韓国のイメージは急激に悪くなった。先月、読売新聞と韓国日報が実施した共同世論調査で、日本人の69%は「韓国を信頼できない」と答えた。「文大統領を信頼できない」という回答はなんと80%にも達した。
    新型コロナで両国の民間交流が1年以上ストップしている中で、「韓国は約束を破る国」という日本政府の明瞭なフレームが一般の人たちにも浸透してしまったという分析だ。最近、日本メディアは野党「国民の力」の李俊錫(イ・ジュンソク)代表選出と尹錫悦(ユン・ソクヨル)前検察総長大統領選出馬などをメインニュースとして報道し、韓国の政権交代の可能性に大きい関心を寄せている」

     

    韓国進歩派には、信頼できる人物が見当たらない。仮にいたとしても、反日の嵐にかき消されている。韓国保守党のほうが、人間として信頼できそうである。日本と同じ価値観であるように見えるのだ。

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    韓国は、来年3月の大統領選で与党「共に民主党」の有力候補とされる李在明(イ・ジェミ)京畿道(キョンギド)知事が、「侵略国家である日本が分断されるべきだった」と述べた。選挙のたびに出てくる「反米・反日狩り」とされるが、1980年代の「親中朝・反日米」の歴史観を引きずっている。

     

    李氏は、この「反米・反日狩り」発言によって進歩派の支持者を結集させようという狙いである。だが、尹錫悦(ユン・ソクヨル)前検察総長がこうした非建設的発言を厳しく批判している。韓国は、再び建国をめぐる論争を始めた。山積する現在の問題解決に取り組まず、「反米・反日狩り」発言を繰り広げる精神状態を疑いたい。

     

    『中央日報』(7月5日付)は、「韓国大統領選1・2位走者の歴史観衝突与野の全面戦に広がる様相」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「京畿道の李在明知事の「大韓民国は親日勢力と米占領軍の合作」という発言に対し、尹錫悦前検察総長が4日「大韓民国の正統性を否定する勢力が国民の成就(国民が成し遂げたこと)に寄生している」と直撃を加えた。尹氏が李知事を直接攻撃したのは初めてだ。これに対して李知事も直ちに「歴史的事実をわい曲操作した旧態のセッカル(色、理念志向)攻勢」と反撃に出た。8カ月余り後に大統領選を控え、与野党大統領候補1位の間で歴史戦争が点火されたという見方が出ている。

     

    李知事の「大韓民国は親日勢力と米占領軍の合作」発言は妄言というべきだ。日本憲法は、米占領軍が押し付けたものだから「自主憲法」をつくるべきという議論と似たようなものである。現実に対する認識が足りないから、李氏のような発言が飛び出るに違いない。

     

    朝鮮は、朝鮮総督府による行政で動いていた。それが突然の日本敗戦の到来であった。韓国人官僚と米占領軍が合作で行政を継続させなければ、韓国の行政は止まるほかなかった。こういう事実を認識すれば、李知事のような発言は出ないだろう。

     


    (2)「尹氏はこの日午前、フェイスブックに「セルフ歴史わい曲、絶対に容認できない」という題名の文で「光復会長の『米軍は占領軍、ソ連軍は解放軍』という荒唐無稽な妄言を執権勢力次期有力候補の李在明知事も受け継いだ」と記した。あわせて「国政最高責任者である大統領や青瓦台(チョンワデ、大統領府)がどのような立場表明もしていないことのほうが大きな衝撃」としながら「彼らは大韓民国が恥ずかしく汚い誕生の秘密を抱いているかのように語る。国政を掌握して歴史をわい曲し、次の政権まで狙っているあなた方は今何を指向して誰を代表しているのか」とした」

     

    ユン前検察総長の発言が真っ当である。「米軍は占領軍、ソ連軍は解放軍」という扇情的な発言も流布されている。これらは、1980年代からの「親中朝・反日米」論を受け継いだもので、韓国進歩派が拠り所としている主張である。文政権もこの考えに囚われている。文氏がこれまで仕掛けてきた「反日」は、全てこの「親中朝・反日米」論にある。

     

    (3)「特に尹氏は李知事に対して鋭利な表現をためらわなかった。李知事を「常識を破壊する勢力」であり「歴史の断片だけを浮き彫りにして脈絡を無視する勢力」と規定した。また「国民の成就に寄生」と「大韓民国を誤った理念を追従する国に変貌させようとしている」と批判した。続いて「李知事らの言動はわれわれの未来を削ぐものだ」としながら「理念に酔い、国民意識を引き裂き、苦痛を与えることに反対する。私は歴史と外交に対する冷徹な認識を基に、自由民主主義の価値を守って国際社会と連帯する」と強調した。尹氏側の関係者は「1980年代左翼歴史認識に今も閉じ込められたままの強硬民主党コアグループに対して批判するための趣旨」と伝えた」

     

    ユン氏は、進歩派の歴史認識と異なることを明確にしている。韓国が、日本の敗戦によって生まれた国家であることは紛れもない事実だ。日本の敗戦相手が米国である以上、韓国が米国と深い関係を持ったことは当然のこと。それを批判的に取り上げ、「反日米」につなげようというのは、「親中朝」と見なされるのであろう。

     

    (4)「李知事の「親日、米占領軍合作」発言は1日、「大韓民国が他の国の政府樹立段階とは少し違い、事実は親日清算ができず親日勢力が米占領軍と合作して再びその支配体制をそのまま維持しなかったか」と話したことに始まる。これに対して野党圏では、「李知事が話した新しい大韓民国は、まさかロシア・中国・北朝鮮と手を握った国を言ったものなのか」「李知事が大統領になったら『占領軍在韓米軍』を追い出すのか訊ねたい」など強い反発が出てきた。李知事と党内競争者である丁世均(チョン・セギュン)前首相も「民主党大統領はただの一度もこのような形の不安な発言をしなかった」と話して批判に加勢した」

     

    李知事が、建国76年も経とうという時点で建国論争を始めた理由は何か。「親日清算をできず、親日勢力が米占領軍と合作して再びその支配体制をそのまま維持」という批判は、日本を完全に悪者にした議論である。これは、選挙目当ての発言であってまともに扱える話でない。韓国は、日本の資金と技術で経済復興できた事実を棚に上げている。中国や旧ソ連は、韓国を支援するどころか、戦争を仕掛けてきた国である。現実をよく見るべきである。

     

     

     

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    韓国与党は、「反日」となると一丸となって問題を探してくる。旧慰安婦や旧徴用工だけでない。最近は、福島原発処理水、東京五輪HPでの竹島問題などと口角泡を飛ばして大騒ぎしている。日本から見た韓国は、反日の種が見つかって大喜びしている図にしか見えないのだ。

    福島原発処理水は、IAEA(国際原子力機関)の承認の下に無害化の処理を行なっている。これは逐一、外交団に説明してすでに100回を数えている。こういう地道な努力を無視して空騒ぎしているのだ。東京五輪HPでの竹島問題は、IOC(国際五輪委員会)が問題視していないにも関わらず、韓国で騒いでいるに過ぎない。



    『韓国経済新聞』(7月4日付)は、「韓日対立『一難去ってまた一難』、政界が反日・嫌韓あおる」と題する記事を掲載した。

    韓日関係が最悪の状況だ。なかなか回復する兆しが見られない。1965年の両国国交正常化以降で最も悪いというのが両国の外交界の共通した診断だ。関係回復に向けたモメンタムとなる首脳会談は2019年12月以降中断されている。

    (1)「日本は、現在の状況では首脳会談の必要はないという立場だ。日帝強制徴用被害者に対する韓国裁判所の賠償判決に韓国政府が先に解決法を提示すべきといってだ。これに加え2015年の慰安婦合意も守られなければならないと主張している。茂木敏充外相も「韓国政府がゴールポストを動かしている」として韓国に責任を転嫁した」

    いずれも、すでに法的な解決が済んでいる問題だ。それを蒸し返しているが、日本政府が相手にしないのは当然である。



    (2)「韓国政府は、「日本が過去に表明した謝罪と反省の精神に逆行している」として対抗している。ここに東京五輪ホームページの独島(ドクト、日本名・竹島)表記議論、福島汚染水放出攻防、中国牽制と対北朝鮮政策での立場の違いなどが重なり両国関係はますます悪化する様相だ。外交界では「それでなくとも平行線をたどっている韓日関係に悪材料が幾重にも重なり、『一難去ってまた一難』の局面が長期化しかねない」という懸念の声が高まっている」

    法的に解決済みの問題を持ち出すのは、外交的に言えばルール違反である。韓国国内で自主的に解決すべきことがらだ。先のソウル地裁は、そういう判決であった。日本へ「ツケ」を持込んではいけない。

    (3)「世宗(セジョン)研究所のチン・チャンス日本研究センター長は「現在の関係悪化はこれまでの不信がひとつふたつと積もって作られたもの。だが菅政権は東京五輪と自民党総裁選などを控え韓日関係に気を遣う余裕がないため解決の糸口を見つけるのが難しい状況」と分析した」

    安倍政権であろうと、菅政権であろうと、対韓国問題は一貫している。文政権を相手にしないということだ。解決能力のない政権を相手に交渉しても時間の無駄である。



    (4)「独島が東京五輪組織委員会ホームページに登場し韓日関係の緊張はさらに高まっている。聖火リレーコースを紹介しながら独島を日本の領土のように表記したものだ。韓国政府が修正を要求したが拒否された。むしろ加藤官房長官は「竹島は歴史的事実に照らしても国際法上も明確に日本固有の領土だ」という主張を展開した。すると韓国の一部からは東京五輪をボイコットすべきという声まで出てきた。外交部は「(独島問題によって)東京五輪不参加までは検討していない」と明らかにしたが、これをめぐる両国間の対立と議論は五輪開幕まで続く見通しだ」

    韓国は、竹島の地図(すでに削除済みだが、痕跡は残る)が不満であれば、ボイコットすれば良い。これまで、韓国与党ではボイコットすると連呼してきたのだから選手団を送らなければよいのだ。その度胸もなく空騒ぎしているに過ぎない。



    (5)「2011年、東日本大震災時に爆発した福島原発は、日本と周辺国の間のまた別の火種だ。先月末にもこの問題が再びふくらんだ。東京五輪選手村に福島産ヒラメとカツオ、ニジマスなどの水産物を供給するという日本政府の方針のためだ。東京五輪を福島産食品の安全性を積極的に広報する機会にするという戦略だ。日本産水産物の輸入を制限している周辺国は激しく反発した。すでに原発事故で発生した放射能汚染水を海に放出することにした日本政府を強く非難していたところだった。外交部も「周辺国と十分な協議なく福島原発汚染水を放出する行為は受け入れ難い」と批判した。それでも日本は放出設備工事を終える2023年から本格的な放出に出る計画に変わりはないという立場を守っている」

    すでに記したように、IAEAと問題処理について協調している。この事実は、天下周知のことである。それにも関わらず、こういうウソ記事を書くとは取材していない結果であろう。これ以上、韓国へ説明しても時間の無駄である。理解しようとしていないのだ。



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    台湾が民主主義擁護の天王山

    習氏の加齢で開戦判断は困難

    離島奪取で小規模の戦争危機

    先進国の「中国嫌い」が激増

    中国との貿易遮断が現実課題

     

    中国共産党100周年は、習近平氏の一人舞台であった。一時間余の演説で、中国を圧迫する勢力を粉砕する、台湾解放は歴史の使命、とアピールした。習氏は、国内向け演説の積もりで発言したであろうが、思想的に中国と対立する西側諸国は「宣戦布告」と受け取ったはずだ。

     

    西側諸国には台湾問題が、民主主義の価値観を守る砦という位置になっている。世界は、香港が無惨にも自由と民主主義を踏みにじられてゆく姿を何らなすところなく傍観した。この歯がゆさは、台湾を守らなければならないという意思を強めている。

     


    習氏の感覚では、香港の次は台湾という陣取り合戦であろう。だが、米国は第一次・第二次の世界大戦へ参戦した理由として、一貫して自由と民主主義を防衛するという大義があった。対中国への防衛意識もこの大義の延長であろう。習氏にとって台湾解放が、歴史的使命であるとすれば、米国には自由と民主主義防衛を大義とする。結局、歴史的使命と民主主義防衛の大義が対立して、不幸にも武力で最終決着を求めるリスクを抱えるにいたった。

     

    台湾が民主主義擁護の天王山

    習近平氏は7月1日、台湾問題で何を語ったのか、次に要約したい。

     

    台湾問題を解決し中国の完全な再統一を実現することが、中国共産党の歴史的任務であり、揺るぎないコミットメントだと強調した。

     

    1)「われわれは『台湾独立』に向けたいかなる試みも徹底的に打破する断固たる行動を取るとともに、国の再生の明るい未来をつくるため協力しなければならない」と指摘。国家主権と領土保全を守るための中国人民の大いなる決意と強い意志、偉大な能力を誰も過小評価すべきでないと語った。

     

    2)「中国人はいかなる外国勢力の抑圧も断じて許さない。そのようなことを試みる者は誰であれ、中国の14億人の血と肉で築かれた鋼鉄の長城で頭を割られ血を流すことは確実だ」と述べた。

     

    私のコメントを付したい。

    1)では、台湾問題だけに触れているが、中国は尖閣諸島も中国領土と妄言を吐いている。となれば、「台湾・尖閣諸島」はワンセットで解放作戦なる戦争を仕掛けてくると見なければならない。日米防衛当局は、中国が「台湾・尖閣諸島」を同時に攻撃するという前提で防衛線を構築している。

     

    2)では、中国国内に向けての抗戦意識を植え付けている。これは、一部の「愛国青年」にとって血湧き肉躍る話であっても、すでに顕著になっている「寝そべり族」(中国社会への絶望に苛まされている無力感の青年)には、他人事である。経済停滞感が、強まれば強まるほど、こうした無気力層を増やすに違いない。それは、反戦意識の醸成に繋がるであろう。

     

    台湾問題は現在、習近平氏にとって自らの政治生命を延長させる有力な材料になっている。だが、台湾侵攻に失敗すれば習氏の運命は逆転する。国家主席の座を退かざるを得ない事態になろう。台湾侵攻は、そういう「一か八か」という賭けでもあるのだ。

     


    中国が台湾侵攻に失敗すれば、世界覇権奪取という夢は嘲笑されるだけだ。それは、中国国内で政変を呼ぶに相応しい大事件になる。習氏が、こういう大きなリスクを計算すれば、果たして、台湾侵攻策に出てくるのか疑問なきにしもあらず、である。

     

    習氏は、今年で68歳になった。実際に、開戦を最終決断する年齢は70歳代に入ってからとすれば、開戦するに当って正常な判断を下せるだろうか。「老人の一徹」で間違った判断を下せば、自分の運命はもちろんのこと、中国の運命をも左右する大博打になるからだ。

     

    習氏の加齢で開戦判断は困難

    習氏は、生粋の軍人ではない。精華大学卒業後、人民解放軍の秘書に就職した。これは、父親の配慮であって、解放軍に席を置けば後々、官界生活が有利になるという見通しによるものだった。この経緯からも分かるように、軍事知識が豊富というのでなく、「開戦の最終決断」をする役割としては不十分である。そうであれば、70歳代に入っての軍事的采配は危険である。

     

    戦前の日本軍の定年は、陸軍大将が65歳、海軍大将も65歳であった。自衛隊では、陸将・海将・空将(戦前の大将)ともに60歳である。こういう日本の実例から見て、70歳代の習氏が、開戦を決断するには年齢的に無理であろう。習氏が、自らの加齢とともに開戦決断を回避すれば、習氏は、開戦危機を煽って国内政治の引締めに利用することになろう。

     

    北朝鮮の金正恩氏は、瀬戸際政策を取り続けている。これは、国内の「反金派」を一掃する道具に使って、権力基盤を固めているためだ。習氏にも同様の選択が可能である。前述のような過激な発言を繰返しながら、危機感を高めて自らの権力基盤強化につなげる「国内戦術」もあり得るのだ。(つづく)


     

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    習近平氏は、7月1日の中国共産党100周年で「台湾解放」が歴史的使命と宣言した。台湾解放なしで、中国革命は終わらないという認識を表明した。こうなると、台湾侵攻が「時間の問題」という切迫感が出てくる。

     

    その「Xデー」は、来年について2月は北京冬季五輪であるから2021年をスルー。計算上は再来年以降に、開戦危機を迎えることになろう。米軍トップは、「3年以内」説を取っている。現場の司令官としては、「最悪ケース」を想定しなければならぬので、早期開戦危機を唱えていると見られる。

     

    その場合、いきなり台湾本島へ侵攻する前に、離島奪取して台湾政府を揺さぶる戦術に出ると見られる。習氏としては、リスクが小さくて済むからだ。

     


    『大紀元』(7月4日付)は、「台湾有事、日本の参戦は中国軍への抑止力を増大=米誌」と題する記事を掲載した。

     

    米国のフォーブス誌電子版は7月2日の記事で、台湾に対する中国当局の武力侵攻の可能性が高まる中、米軍と共に台湾を守るという日本政府の意思は、中国当局への抑止力の増強につながるとの見方を示した。

     

    (1)「英紙『フィナンシャル・タイムズ』(7月1日付)によると、日本政府は米国側に対して、台湾有事の際の作戦計画を共有するよう求めたことがある。しかし、米国防総省は同意しなかった。同省は、「段階的に日本との連携を強化すると考えているためだ」という。「米政府の元当局者」は、最終的には日米両軍が台湾有事のために単一の統合計画を作成することを目指していると話した。フォーブス誌はこの報道について、「西太平洋地域の地理的条件は、同盟国が台湾を防衛する際、日本が果たすべき役割を基本的に決定している」「日本の指導者たちは、中国当局が台湾を侵攻した場合、その戦いに参加することを覚悟しているということだ」と分析した」

     

    中国にとって、戦前の日本海軍が東シナ海と南シナ海を知悉していることが脅威であろう。とりわけ日本の自衛隊潜水艦部隊は、中国海軍艦艇を狙って百戦錬磨の演習を積んでいるから、中国は手が出ないであろう。

     

    (2)「同誌は、米国が中国の台湾侵攻を阻止するために、日本の支援が必要であることが明らかだとした。西太平洋地域における米軍の大半は、沖縄県の嘉手納米基地、青森県の三沢基地、横須賀基地、佐世保基地などに駐屯している。中山泰秀防衛副大臣は6月28日、米シンクタンク、ハドソン研究所が開催したオンライン討論会で、「台湾は兄弟であり、家族だ」と述べた。また、台湾が侵攻されれば、「沖縄県に直接な影響を与える」と話し、日本と米国が協力して中国側に「抑止力を見せなければならない」とした」

     

    中国が、台湾と尖閣諸島を同時攻略する前提で、日米海軍は戦略を立てているという。その場合、台湾本島を最初に攻略するよりも、台湾の離島を攻略して動揺させるという戦術が想定出来るという。

     


    (3)「フォーブス誌によれば、米太平洋艦隊は約200隻の軍艦を有する。この規模は、最前線で動く中国の軍艦360隻より小さい。しかし、米艦隊に日本の艦隊を加えれば、両陣営の軍艦数がほぼ同じになる。「日本の軍艦は重武装をしていることを忘れてはいけない。日本は、36隻の近代的な駆逐艦とフリゲート艦を運用しており、その多くはイージスシステムを搭載している。また、日本は世界最大級のディーゼル電気攻撃型潜水艦を22隻保有している」と同記事は日本側の強い海上戦力を指摘した」

     

    日本の潜水艦部隊が、中国艦船を狙って海底深く潜航すれば、中国海軍を基地から出られず、足止めに出来るという指摘もある。日本の潜水艦部隊はそれほどの脅威を中国に与えているという。

     

    (4)「いっぽう、中国の海、空軍は、日米両軍による強固な海上防御を迂回するよう、台湾への間接的なアプローチを模索しているという。そのため、中国当局が大規模な軍用機を台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入させ、さらに台湾東部のフィリピン海まで送り込んだのは「理由がある」。また、台湾東部海域での軍艦に空中からの援護をするために、「中国当局は3隻目の空母の建造を急いている」という」。

     

    3隻目の空母ができても、打撃陣までワンセット揃え戦力化するまでに数年はかかるという。当座の戦争には間に合わない。

     


    (5)「中国軍がフィリピン海に出るには2つのルートがある。1つは、台湾東南部のバシー海峡を通って台湾南部を飛行、または航行すること。2つは、台湾東北部にある宮古海峡を通過すること。今年4月、中国軍空母「遼寧」はこのルートを通り、フィリピン海と南シナ海へ展開した。日本政府が台湾有事に参戦するという明確な姿勢を示すことによって、「中国の計画が複雑になり、おそらく、台湾侵攻のリスクが容認できないほど高まるだろう」との見方を示した

     

    開戦になれば日本は事実上、台湾東北部にある宮古海峡を封鎖するであろう。中国艦船は危険で通行を回避するはずだ。となれば、台湾東南部のバシー海峡を利用する。それだけに、日本の潜水艦部隊は居ながらにして中国艦船を攻撃できるメリットが出てくる。中国海軍としては厄介な戦争になろう。

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