勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    a0070_000030_m
       

    来年3月の大統領選へ向けて、最有力候補者と見られている尹錫悦(ユン・ソンニョル)前検察総長が6月29日、正式な立候補宣言をした。

     

    ユン氏は検察改革などを巡って文在寅(ムン・ジェイン)政権と鋭く対立し、今年3月に検事総長を辞任せざるを得なかった。法務部長官から二度もの懲戒処分を受け、行政裁判所へ上訴して復権してきた。それも、限界として辞任したもの。

     

    大統領選立候補に当り、ユン氏は記者会見で次のように語った。『聯合ニュース』(6月29日付)が報じた。

     


    1)「ユン氏は、「この政権が犯した無道な振る舞いはいちいち列挙することも難しい」として、「この政権は権力を私物化するだけにとどまらず、政権を延長して国民を略奪し続けようとしている」と批判。「自由が抜けた民主主義は本当の民主主義ではなく独裁」とし、「到底彼らをこのままにして置くわけにはいかない」と強調した」

     

    ユン氏は、文政権から捜査妨害を受けるという圧力を加えられてきた。蔚山市長選と月城原発の疑惑は、文政権を直撃するだけに絶対に捜査させないという強烈なものだった。民主派を名乗る政権が、こういうあくどいことをしたのである。

     

    2)「また、「これ以上彼らの欺瞞(ぎまん)とうその扇動に騙されない」として、「腐敗し無能な勢力の政権延長と国民略奪を防がなければならない」と述べた。その上で、「同意するすべての国民と勢力は力を合わせなければならない。必ず政権交代を成し遂げなければならない」と訴えた」

     

    文政権は、さらに進歩派政権の継続を狙って司法を味方につける露骨な干渉を人事面でしている。ユン氏にとっては、いずれも生々しい経験だけに、「検事の正義感」も手伝って、徹底的に洗い直すであろう。

     


    日韓関係では次のように答えた。『産経新聞 電子版』(6月29日付)が伝えた。

     

    (3)「文政権下で極度に悪化した日韓関係の改善に向けて意欲を示した。ユン氏は「今の韓日関係は回復不可能なほどだめになった」と指摘。イデオロギーにこり固まった文政権の姿勢に原因があったとの認識を示した上で、政権末期の現政権には収拾できないとの見通しを語った」

     

    ユン氏は、文政権が対日外交でイデオロギーに固執したことで、日韓関係悪化をさせたと、はっきり認識している。後一年足らずの任期中に日韓関係改善は難しいとしている。

     

    (4)「ユン氏は、日本との関係について、歴史問題の重要性に触れつつも「未来の世代のために実用的に協力しなければならない」と強調した。慰安婦やいわゆる徴用工問題に加え、日韓間の安全保障協力や貿易問題なども「全て一つのテーブルに上げて協議する方式でアプローチすべきだ」とも述べた。日韓間に防衛と外務の「2+2」形式や、防衛と外務、経済の「3+3」形式など各担当相による協議体を立ち上げ、関係回復を図っていく必要性にも言及した

     

    日韓関係改善では、防衛・外務・経済の「3+3」委員会などの立上げに言及するなど、具体策に踏込んだ発言をしている。ユン氏は、検察総長辞任後に安全保障、外交、経済などと幅広い勉強会を行なってきた。予備知識は十分とみられる。

     

    ユン前検察総長の辞任のほかに、28日は崔在亨(チェ・ジェヒョン)監査院長(日本では会計検査院長)が、「大韓民国のための役割を熟考する」として辞任した。政界は事実上、大統領選出馬の手順だと見なしている。文在寅政権が任命した二つの監査機関の首長が、任期を待たずに政治参加へ向かう珍しい現象が現れている。

     


    これは、文政権がいかに非道なことを検察総長と監査院長に押し付けていたかを証明している。

    『中央日報』(6月29日付)は、「検察総長・監査院長が政治を宣言する未曽有の事態」と題する社説を掲載した。

     

    尹錫悦前検察総長がきょう、大統領選出馬を公式宣言するという。昨日は崔在亨監査院長が任期を待たず辞任した。特に、崔監査院長の辞退は格別だ。検察庁法に任期(2年)が明示された検察総長と違い、監査院長は憲法が任期(4年)を保障した憲法機関長だ。憲法は三権分立のために国会議員と大統領・大法院長の任期を明示しているが、監査院長も同じだ。崔院長に向かった一部の批判が、一見適切に見える理由だ。



    (5)「それにもかかわらず、二人の政治参加を非難ばかりするわけにはいかないのが昨今の状況だ。このような事態を自ら招いた1次的な原因が文在寅政権にあるためだ。文在寅政権はチョ・グク元法務部長官一家の不正捜査や月城(ウォルソン)原発の早期閉鎖事件に対する監査を執拗に妨害した。人事権を振り回して両機関の政治的中立性と職務上独立性を押し倒し窮地に追い込んだ」

     

    文政権は、政権疑惑捜査を封じるためにやりたい放題のことをしてきた。その咎めがこういう選挙の場で明らかにされようとしている。自業自得と言うほかない。

     

    (6)「約1年間、ユン前総長を追い出すために行った秋美愛(チュ・ミエ)前法務部長官の無理な方法や、最近、朴範界(パク・ボムゲ)法務部長官の政権捜査を無力化するための検察中間幹部の人事などが代表的だ。崔院長は、月城原発を監査して民主党議員から辞職の圧力を受け、市民団体の告発で捜査対象になる状況に追い込まれた。事実上、監査院・検察の制度的根幹を揺るがす、とうていあり得ない異常な状況を招いた」

    文政権の幹部は、法廷に立たせてその恣意的な権力執行の実態を暴かねばならない。過去の政権にも見られなかった権力の私物化を図ってきた。そのテコに「反日」を利用してきたのである。日本から見れば、許しがたい政権である。

     

    韓国の保守政界では、ユン大統領と崔首相の組み合わせを要望する声もあるという。仮に実現したならば、文政権の権力乱用が白日の下に曝け出されるであろう。韓国政治の大掃除を期待したい。

     

     

    a0960_006628_m
       
       

    韓国は、中国けん制の軍事演習への参加する、これまで、言い逃れをして逃げ回ってきた。だが、先のG7へゲスト国として出席し、国際情勢の厳しさにようやく気付いたようである。韓国は、これまで中国を恐れて萎縮してきたが、G7の対中強硬論を聞いて安心したのだろう。

     

    『朝鮮日報』(6月29日付)は、「韓国、『中国けん制』米豪合同演習に初参加へ」と題する記事を掲載した。

     

    中国の膨張をけん制するための米国とオーストラリアの大規模合同演習に、韓国海軍が史上初めて参加する。米国とオーストラリアは6月25日、豪クイーンズランド一帯で「タリスマン・セイバー2021」演習を開始した。米豪と共に「ファイブ・アイズ」と呼ばれる英国・カナダ・ニュージーランドの、米国のアングロ・サクソン系列の最友好国と日本も演習に参加する。同演習は05年から隔年で実施され、日本は19年から参加している。今回の演習参加を契機に米国の中国けん制連帯へ韓国が本格的に加わるのかどうか、注目されている。

     


    (1)「韓国国防部のプ・スンチャン報道官は6月28日「タリスマン・セイバー2021演習に韓国海軍が今年初めて参加する」と発表した。韓国海軍の駆逐艦(4400トン級)1隻とヘリ1機、海軍・海兵隊の将兵およそ240人が7月中旬ごろ演習に参加する予定だ。中国けん制という観点から演習に参加するのかという質問に対し、プ報道官は「何らかの特定の国を対象とするものではなく、連合作戦遂行能力の向上のため参加するもの」と答えた。また、米豪の側からまず演習参加を要請してきたのかという質問にも、国防部と海軍は「外交的な事案なので回答は難しい」とした

     

    下線部は、韓国が依然として中国が「怒らないか」と気にしている様子が手に取るように分かる。だが、中国はここで韓国へ報復すれば、さらに韓国を遠ざけるリスクを抱えるので、静観するであろうという見方がある。

     


    (2)「
    韓国政府や韓国軍内外は、5月の韓米首脳会談で両首脳がコンセンサスを形成した「同盟強化」と「中国けん制」の延長線上で今回の演習参加を受け止めている。当時、会談では「台湾海峡」「南シナ海」など中国がデリケートに反応する文言が多く含まれた。今月初めに韓国が初めて参加したG7(主要7カ国)首脳会議でも、中国を批判するメッセージが採択された。韓国政府の関係者は「今回の演習参加は、韓米同盟がかつてよりずっと強固になる契機となるだろう」と語った」

     

    5月の米韓首脳会談で韓国は、「同盟強化」と「中国けん制」のコンセンサスができたので、今回の演習参加がその延長線上であると認識しているようだ。となれば、渋々と米韓同盟の基本線に乗った行動のように見える。

     


    (3)「演習は8月7日まで、海上兵力輸送や上陸作戦などの内容で進められる。フランス通信(AFP)の最近の報道によると、オーストラリアのデビッド・ジョンストン海軍中将は「今年およそ17000人の兵力が演習に参加する」とし「オーストラリアに入国する外国将兵およそ2000人が隔離される予定」と語った。仏・印・インドネシアはオブザーバー資格で演習を参観する」。

     

    「タリスマン・セイバー2021」演習は、諜報組織「ファイブ・アイズ」(米英豪カナダNZ)5ヶ国と日本・韓国が参加する。この演習は、日本が「ファイブ・アイズ」へ正式参加する儀式のような感じがする。仏・印・インドネシアはオブザーバー資格で参加という。大掛かりな演習である。

     

    (4)「AFPは、「コロナで規模を縮小する状況でも、演習を行う」とし、同演習を「同盟諸国の象徴」と表現した。米国のラジオ放送「ボイス・オブ・アメリカ」も「このところ豪中の対立が強まる中、オーストラリアと米国の軍当局が今回の演習実施に向けて強い意志を示した」と伝えた。2年前の演習には18カ国、およそ3万4000人の兵力が参加した」

     

    諜報組織「ファイブ・アイズ」(米英豪カナダNZ)5ヶ国と日本・韓国が参加する演習は、中国にとって相当の圧力となろう。

     

    (5)「オーストラリアは今年の初め、中国のコロナ責任論を提起して中国と貿易摩擦を起こしている。中国当局は最近「オーストラリア政府の一部の人物が冷戦的思考と偏見的態度を示し、両国間の正常な交流と協力を害する措置を取った」と主張した。日本の陸上自衛隊は6月24日に報道資料を出し、演習参加の事実を明らかにするとともに、上陸作戦を目的とする「水陸機動団」が参加する予定だと発表した。韓国海兵隊もまた今回の演習に参加する。ただし、実際には上陸作戦演習の計画はないといわれている」

     

    米豪は直接、中国と切っ先を交える関係にまで外交関係が悪化している。それだけに、今回の演習を成功させなければならない事情もある。中国には一切、弱みを見せられないのだ。

    a0960_008712_m
       

    最大野党「国民の力」の代表は、36歳・非国会議員の李俊錫(イ・ジュンソク)氏である。この李氏は、代表選挙の演説で「公正と自由な競争」を訴え、20~30代の若者の支持を得た。これは、文政権下において「公正と自由な競争」が行なわれず、進歩派支持層だけが優遇されていることへの痛烈な批判である。

     

    進歩派は、李氏が最大野党の代表に選ばれた背景を理解しないで、ガリガリの自由競争論者と批判しているのはお門違いである。言葉尻を捉まえて非難しているだけである。

     

    言葉は悪いが、現政権の中枢部は「民主のゴロツキ」と評されている。「公正・公平・倫理」の旗を立てて、働かずに生きているというのだ。具体的には、次のような振る舞いである。

     

    「現政権では青瓦台、政府に進出した参与連帯出身者(注:市民団体)が60人を超える。権力機関を掌握しているのはソウル大出身者ではなく、参与連帯出身者だと言われる。尹美香議員は「正義」の名を掲げ、慰安婦被害者の女性を利用し、カネを稼いだとして起訴された。2000年代初めまでは市民団体で信頼度1位だった。現在では信頼度が5本の指にも入らないという・市民団体の公正・正義屋さんたちの実態を国民が知った結果だ」(『朝鮮日報』(2020年12月27日付コラム「民主ごろつき・正義屋さん・民族主義業者」)

     

    こういう文政権への痛烈な批判が、李氏の言葉の裏にあることを理解しようとしない上辺だけの批判が出ている

     


    『ハンギョレ新聞』(6月29日付)は、「韓国における公正な競争と能力主義」と題する寄稿を掲載した。筆者は、イ・ガングク立命館大学経済学部教授である。

     

    (1)「公正を主張する声が高まっている。国民の力の代表に選ばれたイ・ジュンソク氏は、米国のようなジャングルの競争を韓国に導入したいと述べ、公正な競争を主張している。彼の言う公正とは、保守派の立場から見た、試験のような競争の結果が地位を決定する、能力主義にもとづく手続きと形式の公正だ。彼はある演説で、誰もが教育を通じて公正な競争のスタートラインに立てる世の中を夢見ていると語った。公正でないと主張して政府に批判的な若者たちは、このような主張にうなずくかもしれない」

     

    筆者のイ・ガングク氏は、下線部のような演説の一部分を取り上げて批判しているが的外れである。米国経済の発展は、自由と能力を生かす社会基盤が整っている結果だ。こういう客観的事実を見落として、言葉尻を捉まえた批判はナンセンスである。

     

    韓国は、米国と並んで大学進学率(短大を含む)が極めて高い社会である。韓国は95.86%、米国88.30%(いずれも2019年)である。この状況では、公正な能力主義が不可欠であろう。韓国は、米国型の開かれた競争社会でなく、「閉じられた競争社会」=不公正の温床になっている。具体的には、進歩派支持者だけに有利になるような政策を行なっているのだ。

     

    (2)「しかし、弱肉強食のジャングルでも動物の種類が異なるように、それぞれが異なる各家庭の子どもたち同士の競争を本当に公正なものとすることは、なにぶん難しい。実際に多くの研究は、子どもたちの努力と実力は親や家庭環境に大きく影響されると報告する。幼い頃に貧しさから受ける深刻なストレスは脳の発達を阻害し、妊娠した母親の環境要因が子どもの生後の健康と所得にも影響を及ぼす。したがって、不平等が深刻な現実において、公正な競争などというものは非現実的だ。すでにスタートラインが異なり、ある人は競技場に立つことも難しい中で、形式的な公正ばかりを押し通せば、結局のところ不平等がさらに深刻化する可能性が高い」

     

    韓国の大学進学率は、世界6位である。米国は13位だ。韓国がこういう学歴社会になっている以上、公正な競争維持が極めて重要である。それには、規制を少なくすることである。実態は逆である。労組の希望を100%受入れて、規制を増やしている。労働市場の流動化にストップを掛けているのだ。これが、新たな雇用先を選ぶ道を塞いでいる。労組は、終身雇用制と年功序列賃金制を断固、守るように要求している。これが、諸悪の根源である。自由な転職が、公正な競争を実現する道である。

     


    (3)「これはやはり、現政府は公正を強調してきたものの、若者から見ると反則のようなケースが時折あったからだ。また、細心の政策によって現実の不平等は改善しうるという希望と信頼を抱かせることに政府が失敗したという事実とも大きな関係がある。不平等が激しく、過去に比べて成長と上昇の機会が減っているという現実においては、地位の配分の過程で形式的な公正に対する要求がより強まりうる。だとすれば、結果の不平等と形式的な公正との悪循環が懸念される。結局、現在の進歩勢力は、不公正と不平等をすべて改善するために積極的に努力するとともに、形式だけの公正を時には抑制することがすべての人にいかにより良い結果をもたらすのかを若者たちに説くという難しい課題に向き合わされている

     

    下線部の主張は正しい。「形式だけの公正を時には抑制することが,すべての人にいかにより良い結果をもたらす」としている。具体的には、無意味な規制を撤廃することである。最低賃金の大幅引上げは、大企業労組の利己的要求を実現したに過ぎない。多くの零細企業に勤める人々にとっては無益どころか、雇用を奪われる災難になった。 

     

    a1180_012903_m
       

    中国で経済危機の前兆が強まっている。全国の産業モデル地区である深圳市で、従業員給料の改悪が行なわれるからだ。残業手当の規定撤廃などを盛り込む。社会主義国で労働条件引下げが堂々と行なわれることに、中国経済の危機が進行していることを覗わせている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月28日付)は、「中国・深圳、従業員給料の抑制にカジ」と題する記事を掲載した。

     

    中国南部広東省の深圳市が企業の賃金抑制に乗り出す。条例を17年ぶりに本格的に改正し、残業手当の規定撤廃などを盛り込む。中国は人件費の高騰で生産拠点が東南アジアなどに移転しており、企業負担の抑制を狙う。中国の産業モデル地区である深圳の施策は全土に広がる可能性もある。

     

    (1)「深圳では2004年12月に施行した給与条例について、21年5月末から市人民代表大会(市議会に相当)で改正案の審議が始まった。可決され次第、施行に向けた手続きに入る。改正案の主なポイントは3つある。まず非正規労働者の残業代の抑制だ。従来は春節(旧正月)など政府が定める法定祝日に働く場合に残業代を平日の3倍払う必要があった。改正案では、この「3倍規定」を削除し平日と同じ水準にする」

     

    非正規労働者は、法定祝日勤務に伴う残業代の割増し制をなくすという。休日労働では割増金がつくのが普通である。これを撤廃するとは、何らかの見返り措置である平日を代替休日にすることはないのだろうか。

     


    (2)「2つ目はボーナス支給のルール改正だ。中国では勤務期間に応じてボーナスを年末に支給する。例えば、1カ月で辞めた従業員にも1カ月分のボーナスを支払う必要がある。改正案ではボーナスについて「労働契約などで別途定めることができる」と規定する。契約などで明記すれば、短期で辞めた従業員にボーナスを払わないで済む可能性がある」

     

    ボーナスは、一定期間の勤務が前提のはずだ。日本でも、新入社員の初ボーナスは、勤務期間が短いので削減されている。

     

    (3)「3つ目は給与の支払期限の延長だ。現行では当該月の翌月22日までに支払う必要がある。改正案では(月末の)30日までに延ばせるよう明記するが、市人民代表大会では30日よりは短くすべきだという意見もあり、調整が続いている」

     

    給料支払い遅延の場合、月末30日までに支払へというもの。給料支払い遅延を認めるのは、企業の資金繰りが恒常的に悪化していることを反映している。

     


    (4)「深圳市政府は、条例改正の狙いについて「企業の経営を支えることが労働者の中長期的な利益にかなう」と説明する。改正案が成立すれば、企業は従業員1人当たりに払う給与を抑えることができる。中国では雇用水準が新型コロナウイルス禍前の水準を回復しておらず、市政府は新規雇用の増加につながるとの思惑もあるようだ。改正案は深圳市に拠点を置く外資系企業も対象になる。中国の企業法務に詳しい水野コンサルタンシーホールディングスの水野真澄社長は、改正案について「深圳で工場を運営する企業などが人件費を抑えられる利点がある」と話す」

     

    深圳は、ハイテク産業の集積地である。そこで、こうした労働条件引下げが行なわれるのは、中国経済が容易ならざる事態へ突入していることを反映している。

     


    (5)「深圳は改革開放のモデル都市として1980年に経済特区に指定された。同市で新たな産業政策や制度が試行され、後に全国に導入される場合が多い。例えば企業の破産制度を定めた条例はまず深圳で90年代半ばから施行され、その後に全国に広がった。今回の給与条例の改正案が成立すれば、中国の労働法制の転換につながる可能性もある」

     

    深圳は、改革開放のモデル都市であること。また、ハイテク産業の集積地であることを考えると、中国経済が新たな危機局面へ移行していることを示唆している。全国へ波及するであろう。

     

    (6)「中国では2008年に施行した労働契約法をきっかけに、労働者の権利を強化する方向で法整備が進んできた。給与水準も上昇が続いている。中国国家統計局によると、「農民工」と呼ばれる農村から都市への出稼ぎ労働者の平均月収は20年に4072元(約7万円)で、10年間で2倍に増えた」

     

    農民工の平均月収は、すでに約7万円と10年間で2倍に増えた。これでは、隣接国と比べて高賃金になっている。中国が、高賃金に耐えられない状況になっているのだ。中国の最も恐れる「中所得国のワナ」が、目前にきていることを物語っている。生産性上昇で、賃上げを吸収できなくなっていることを示す。実質的な賃下げを図って、対抗せざるを得なくさせている。

     


    (7)「日本貿易振興機構(ジェトロ)がアジアとオセアニアに進出した日系の約6000社から聞き取った20年の調査によると、「製造業・作業員」の基本給(月額)の平均は中国で531ドル(約5万9000円)。タイ(447ドル)やマレーシア(431ドル)など東南アジア諸国の多くを上回る。とくに電機や繊維など広東省と得意分野が重なるベトナム(250ドル)は中国の半分以下にとどまる。韓国サムスン電子は携帯電話の組み立て工場をベトナムに移したほか、中国企業も家具や繊維の工場をベトナムに移す」

     

    JETRO調査によれば、日系企業は中国と隣接国で次のような賃金である。

     

    中国    531ドル(約5万9000円)。

    タイ    447ドル

    マレーシア 431ドル

    ベトナム  250ドル

     

    中国の「製造業・作業員」の基本給(月額)は、ベトナムの2.12倍である。これでは、深圳のハイテク企業も対抗不可能である。中国経済の産業空洞化対策が、賃下げしかないことは中国の限界を示している。

    a0960_005040_m
       

    中国は、7月1日に共産党創立100年を迎える。記念館では習近平氏の写真が、鄧小平の3倍の枚数という。正直に言って、習近平氏の業績が鄧小平の3倍とはおこがましいこと。鄧小平は、文化大革命で荒廃した中国経済を発展軌道に乗せた。独裁体制を改めて集団指導体制にして、周知を集める改革をした人物である。習近平氏は、その鄧小平の3倍の大きさの写真を掲げさせた。滑稽と言うほかない。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月28日付)は、習氏の写真『鄧小平氏の3倍』、共産党100年控え権威付け」と題する記事を掲載した。

     


    7
    1日の中国共産党創立100年を控え、習近平(シー・ジンピン)総書記の権威付けが進んでいる。記念館では建国の父、毛沢東氏に次ぐ露出ぶりで、改革開放を進めた鄧小平氏よりも大きく扱う。2022年の党大会での続投を意識して環境を整備する思惑がありそうだ。

     

    (1)「6月に上海市で開館した「中国共産党第1回党大会記念館」で毛氏の次に目立つのは習氏の事績を紹介するコーナーだ。習氏が天安門で演説する場面など12枚の写真が並ぶ。革命第2世代の鄧氏が写った写真は4枚のみだった。さらに第3世代の江沢民(ジアン・ズォーミン)氏と第4世代の胡錦濤(フー・ジンタオ)氏の写真はそれぞれ3枚ずつにとどまる。記念館の結びの語は「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想の導きのもと、国民の素晴らしい生活の前進を続けよう」と強調している」

     

    習氏は、自由こそがイノベーションの源泉と位置付ける米国に対し、権威主義の体制で挑もうとしている。上海記念館で、習氏の写真が鄧小平の3倍とは何を意味するのか。それは、習氏が鄧小平をはるかに上回る実力と権威の持ち主であることを公然と示したものであろう。

     


    権威主義とは何か。権威に価値を認める主義である。すなわち、権威をもって他を圧迫する態度や行動とされている。習氏は、国民に向かって「自分を毛沢東と同様に尊敬し盲従せよ」と迫っている。中国14億人は、等しく習氏の権威に従えと迫っているのだ。毛沢東時代の中国の経済環境と、現在の習近平時代のそれは全く異なる。価値の多元化が進んでいるのだ。

     

    政治は共産党一党支配であっても、価値の多元化という複雑化している中で、習氏を神様のように崇めろと言っても無理な話だ。そう言う習氏は、国民の心においてはピエロになっている。中国共産党は、そのことに気付かねばならない。

     


    (2)「中国共産党の機関紙、人民日報が党創立100年にあわせてまとめた歴代指導者の「100句の名言」では、習氏と毛氏の発言を30句ずつ取りあげて「同格」扱いにした。鄧氏は14句で、江氏と胡氏は10句ずつだった。習氏は17年の党大会で自身の名前を冠した政治思想を党規約に盛り込んだ。指導者名を冠した思想が党規約に入るのは毛、鄧両氏以来のことだった。毛氏を政治の師と仰ぐ習氏は、経済成長を重視した鄧氏の姿勢とは距離があるとの見方は絶えない。党創立100年を機に自身の指導力を誇示し、鄧氏をしのぐ権威を確立する狙いがありそうだ」

     

    歴代共産党指導者の「100句の名言」では、習氏と毛沢東の発言を30句ずつ取りあげて「同格」扱いにしたという。だが、鄧小平は14句に格落ちさせた。鄧小平の言葉には味わい深いものが多い。覇権主義への反対を明確に打ち出していた。このほか、人生訓もある。

     


    「人づきあいとは相手があってはじめて成り立つものです。『人が、自分が』とアピールするよりは、まずは相手を敬う気持ちを持つこと。ですから人づきあいにおける最も大切な究極の言葉は『ありがとう』であると私は思います」

     

    「文化大革命のとき、牛小屋に入れられたのだが、あのときはもう終わりかた思った。しかし、私は元来楽観主義者ですから、こんなバカなことがいつまでも続くはずがないと考え直した。いまは、ただただ我慢だと耐えて生きていたら、果たせるかな、文革の嵐が過ぎてしまっていた」

     

    こうした鄧小平の謙虚な生き方を見ると、習近平氏のように「終身皇帝」を狙う気持ちは起るはずもあるまい。中国にとってはどちら選択すべきか。それは、習近平氏でなく鄧小平的な生き方であろう。習氏の「終身皇帝」狙いは、鄧小平の言葉を借りれば、「こんなバカなことがいつまでも続くはずがないと考え直した。いまは、ただただ我慢だと耐えて生きていたら」ということになろうか。

     

     

     

    このページのトップヘ