勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    中国は、米中貿易戦争でやってはならない「米産大豆」に関税をかける。これが、中国の食糧安保に重大は齟齬を起こさないか、専門家の間で関心を呼んでいる。米国は、14億人の中国国民の胃袋を満たす上で、不可欠な食糧輸入先である。その重要な輸入先と一時的な感情で険悪な関係になった。中国は例によって、「責任は米国にある」となすりつけている。だが、今後の異常気象を考えると、これで良かったか。先々、米国にギャフンと言わされる時期が近い、という見方が成り立つ。

     

    中国は、14億人の食糧確保が最大要件になっているが、貴重な農地を潰して工場用地や宅地に転用している。農地の重要性という認識は、習氏の国家主席就任後に消えてしまった。食糧問題の重要性よりも、「中国製造2025」のような工業化が話題の中心になっている。中国が、電気自動車(EV)の世界最大の生産国になる。こういう目標を掲げるまでに「工業化フィーバー」は、留まるところを知らない。しかし、EVの増産体制を確立しても、中国国内では渋滞が激化するだけという冷めた見方もある。

     

    中国の全国民に食糧を供給し、同時に自動車交通に必要な道路、ハイウエイ、駐車場を建設しうるだけの土地が中国にないのだ。こういう指摘が、かつて中国科学院から出たことがある。となると、中国はどこかで調和点を探さなければならない。①食糧安保を保証するために、他国と紛争を起こさない。②工業化と食糧安保のバランスをとる。

     

    この2点と、習氏が目指す米国覇権への挑戦目標は全く異質である。懸念されていた通り早くも、米国と貿易戦争に突入している。米国への報復が、中国の食糧安保にそぐわないことぐらい理解しておくべきだ。米国に責任がある、と言って相手に非をなすりつけても、何らの解決策にはならないのだ。

     

    中国が、EV生産に熱を入れるという欧米型の産業開発モデルが、果たして中国にとって現実的であるか。改めて問われ始めている。そのきっかけが、今回の米中貿易戦争による米国産大豆関税問題だ。世界が最近、忘れかけていた中国の食糧安保の不安定性がクローズアップされている。

     

    中国が、いまの開発戦略を続けて行く限り、世界の土地と水資源は中国の増え続ける食糧需要を満たしきれない。こういう古くて新しい問題が浮上している。中国は、この食糧安保で最も依存しなければならない米国と、自らの技術窃取という非を棚に上げて争い始めている。これが、中国の食糧安保を根本的に脅かすことぐらいは気付くべきだ。

    『日本経済新聞 電子版』(8月20日付)は、「中国が切った禁断の対米『食料カード』」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「米中の貿易紛争で、中国が『禁断の一手』を打った。米国産の大豆に対して報復関税をかけたのだ。米国を中心に拡大する一途の貿易摩擦の中では、大豆はささいな一品目に見えるかもしれない。だが新興国の成長や人口増加が続く中、食品を通商ゲームの俎上に乗せたことは、世界の食料問題に大きな禍根を残しかねない」

     

    中国は「トランプ報復」として、トランプ氏の支持層をめがけて「関税爆弾」を打ち込んだ。さぞや、いい気持ちで「してやったり」と思っているかも知れない。だが、それは大間違いである。いずれ、そのブーメランに中国が飲み込まれて、中国国民の食糧が足りない事態を引き起こす。その遠因を、自らつくっているのだ。

     

    (2)「中国商務省の報道官は7月26日の記者会見で、米国発の世界的な貿易紛争の「被害者」として、米国の農業生産者を挙げた。「米国の農業と農民も当然影響を受ける」。米国産の大豆に高関税をかけて輸入にブレーキをかけたのは中国だが、報道官は『四方八方に貿易戦争をしかけており、責任は完全に米国側にある』と批判した」

     

    例によって、中国には責任はないと言っている。仮に責任はないとしても、食糧安保の基礎は揺さぶられ、被害が降りかかることを忘れては困る。その理由は、次のパラグラフにある。

     

    (3)「影響はすでに顕在化している。中国が標的にしたことを受け、大豆の国際的な価格が急落。安値の大豆が米国から欧州に流れ込み、同じく貿易摩擦を抱える欧米間の緊張緩和に一役買う一方で、中国はブラジルからの大豆の調達へとシフトした。そこで脅かされるのが、農産物の生産にとって最も必要とされる『安定』だ。米中の対立が長引いて相場が不安定になり、米国の農家の生産意欲の低下と天候不順が重なれば、混乱を一気に増幅させかねない」

     

    安定的な農産物生産の必要条件として、先ず価格の安定を実現しなくてはならない。大きく価格変動する農産物では、生産者がそれに翻弄されてしまい、安定的な供給が不可能になるからだ。中国はいま、腹立ち紛れに米国産大豆に報復している。「中国国民の威厳と人権を守る」とか、大変に仰々しいことを言い連ねている。だが、この美辞麗句とは異なり、いずれ世界的な食糧供給変動をもたらし、中国の台所を脅かすはずだ。そういう連関性に気付くことが求められている。

     

     


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    中国経済は、最悪事態に突入した。米国ホワイトハウスは、「中国経済は日一日と悪化」と見ているが、その通りの現象が起こっている。日本ではバブル崩壊後の現象と瓜二つだ。かねてから、マネーサプライ(M2)の伸び率急減速に警戒記事を書いてきたが、現実問題となっている。「貸し渋り」や「貸し剥がし」という典型的な信用危機が到来した。

     

    『日本経済新聞』(8月20日付 電子版)は、「中国、貿易協議控え神経質に」と題する記事を系指した。

     

    先週には中国人民銀行(中央銀行)と銀行保険監督管理委員会(銀保監会)が大手銀行への検査に入ると伝達。貸出金や預金、人民元の両替状況などを調べるという。金融当局が銀行の窓口指導にとどまらず検査にまで乗りだすのは異例。金融機関への検査を通じて企業や地方政府の資金繰り改善に万全を期すのが狙いだ。銀保監会が18日に出した通知では『経営が一時的に悪化した企業の貸し剥がしや貸し渋りをすべきではない』と明記。輸出企業への金融支援を強化することや、インフラ案件への融資を増やすことも求めた」

     

    この記事から伝わるのは、中国金融当局が必死になって信用危機を食い止める「火事場の混乱」である。中国経済が、ここまで追い込まれていることに、感慨を覚えるのだ。2008年のリーマンショックで、中国経済は大きな衝撃を受け、「4兆元」の資金をインフラ建設に投入した。これが、景気悪化を食い止めたことから、その後一貫して、この手法が使われてきた。その限界と矛楯がついに爆発したと言うべきだろう。この10年間、軌道修正する機会はあったが、習氏の国家主席就任でバブルを加速させ万事休すとなった。

     


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    韓国政府は昨日、新規就業者数の激減問題で緊急会議を開いた。成果はゼロであった。「いま少し待って欲しい」というのが回答である。これほど、当事者能力を失った政府も珍しい。深刻な雇用問題の原因は、大幅な最低賃金引き上げにあることは明白だ。これを認めると、政権の基盤が崩れるとでも思っているらしい。「所得主導成長」という左派政権が飛びつきたくなるテーマへ、無批判に飛びついた結果である。自業自得だが、国民が、その被害者になっている。

     

    この政権は、自らの政策ミスを認めようとせず、「いま少し待ってくれ」というほど混迷している。ミスを認めれば、責任をとって辞任する高官が出る。実は、それが恐ろしいばかりに逃げ回っているのだ。国民は、きょうも仕事にあぶれて職業安定所へ通っている。この苦しみと比べ、高給を貰いながら責任回避する高官がなんとも、みすぼらしい存在に見えるのだ。

     

    『中央日報』(8月20日付)は、「また『待ってほしい』という青瓦台、所得主導成長に反省はなかった」と題する社説を掲載した。

     

    (1)「政策の失敗に対する反省はなかった。昨日開かれた緊急の党・政・青会議がこうだった。この会議は今月17日に統計庁が発表した衝撃的な『雇用災難』についての対策を議論する集まりのはずだったが、大きな失望だけを残した。張夏成(チャン・ハソン)青瓦台(チョンワデ、大統領府)政策室長は『所得主導成長、革新成長、公正経済政策が効果をあげれば雇用が改善されると確信している。政府を信じて少しだけ待ってほしい』と述べた」

    張夏成(チャン・ハソン)大統領府政策室長と、金栄珠(キム・ヨンジュ)雇用労働部長官の二人が、今回の最低賃金大幅引き上げの責任者である。最賃大幅引上げが、「雇用難民」の元凶という見方が一般化している現在、もはや逃げ隠れはせきないところへ追い込まれている。潔く責任をとって、最賃政策の撤廃か大幅縮小を実行する以外に道はなくなっている。


    (2)「現実に背を向け、ほころびの多い所得主導成長論から後退する意思がないということを明確にした。与党『共に民主党』の金太年(キム・テニョン)政策委議長は、『2019年度雇用予算を今年の増加率以上に拡大するなど、財政をさらに拡張的に運営することにした』と明らかにした。文在寅(ムン・ジェイン)政府になってこれまで雇用政策に54兆ウォン(約5兆3300億円)が投じられたが、雇用は悪化の一途だ。雇用災難の根本原因を無視したまま血税だけを注ぎ込んだからといって雇用が改善されるなどありえない」

    政府が、この間違った政策を中止しない限り、韓国経済浮上への手がかりはない。政府与党が、仲間をかばい合って責任を曖昧にしている間も、「雇用難民」は増え続ける。他人の痛みを感じない偽りの革新政権が、韓国に出現しているのだ。

     

     


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    中国は、交渉団を米国へ送ることで米中貿易戦争解決に向けて一歩を踏み出す姿勢を見せている。この裏には、習国家主席の指示があった。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月18日付)が、次のように伝えた。

     

    「中国政府の顧問らは、習主席ができる限り早期の米中関係改善を指示したと明かす。米国との対立がさらに深刻化すれば、経済改革を断行し世界の強国になるとの習主席の計画に狂いが生じかねないとみられている」

     

    習氏が、「徹底抗戦」から後退したのは、中国経済の悪化など不利な条件が出ているためだ。前出のWSJによると、「米国家経済会議(NEC)のラリー・クドロー委員長は15日の閣議で、『投資家は中国から資金を引き揚げ、米国へとシフトさせている』とし、『中国経済は足元、ひどい状況』にあるとの認識を示した」

     

    トランプ政権内では対応を巡り、意見が分かれている。「米財務省とクドロー氏が率いるNECは、市場や米財界寄りで、交渉のたたき台になると考える中国への要求項目も、縮小したものを策定している。だが、関税を管轄する米通商代表部(USTR)は、追加関税を課すことで10月までさらに中国側から譲歩を引き出せるとして、交渉は先延ばししたい立場のようだ」(WSJ)

     

    米国が今後、中国に対してどのように対応するか未定であり、米企業の一部では長期化予想で対策を立てている。

     

    『ブルームバーグ』(8月18日付)は、「米ウォルマート、化粧品会社に中国外での生産検討要請」と題する記事を掲載した。

     

    ウォルマートは化粧品メーカーに対して、中国以外での生産を検討するよう要請している。差し迫るトランプ政権による対中関税の影響を抑制するために、小売り世界最大手が初めて示した意向の一つだ。ブルームバーグが入手したウォルマートの電子メールによれば、同社の購買部門は化粧品供給元の一部へ8月7日付で送った文書の中で、中国外に生産設備を所有しているか、そうでない場合は生産能力を拡大するために投資を検討するかを尋ねている。米政府の追加関税で打撃を受ける可能性がある中国製品のリストには口紅やシャンプーなどが含まれている」

     

    ウォルマートは、世界最大の小売業である。この企業が、中国以外での生産を要請したことは、他社の追随を招く可能性が強い。すでに、台湾のIT大手6社が中国以外での生産検討を発表している。中国は、解決の目途が立たなければ不利な状況に追い込まれる。

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    習近平氏が、中国国家主席に就任したことは、中国と世界にとって良かっただろうか。2012年、胡錦濤前国家主席の後継者に選ばれる過程は、江沢民元国家主席が事実上の「キングメーカー」として、習近平氏を推薦したと伝えられている。

     

    江氏は、胡錦濤時代10年間も院政を敷いていた。国家主席引退後も、最高指導部のオフィスがある中南海に事務所を持ち、中央政治局常務委員会の議事録もチェックしていたという人物だ。その江氏が、習近平氏を国家主席に推した理由は、「政治改革をしない人物」と見込んだ結果とされている。ソ連崩壊を招いたゴルバチョフは、民主主義に興味を持ったために政治改革を行い、それが国民の不満に火を付け、ソ連共産党崩壊の引き金を引いた。

     

    江氏は、ポスト胡錦濤の条件として、「脱ゴルバチョフ」タイプを基準にしたので、習近平が浮上したとされている。胡錦濤氏は、共青団の後輩である李克強氏を推したが、ゴルバチョフ的であり、インテリ特有の弱さがあるとして、首相(国務総理)に横滑りした、とされている。李氏が国家主席であったならば、政治改革はともかく、経済改革に取り組み市場経済化路線を歩んだと思われる。習氏は、李氏から経済の司令塔役も奪った。これが後々、どのような結果をもたらすか、おぼろげながらも見え始めたようだ。

     

    こういう人事の裏舞台を改めて覗いた理由は、強硬派の習近平路線によって、中国の将来に負の影響をもたらす懸念が深まっているからだ。具体的に挙げれば、次のような点だ。

     

    第一は、習氏が自らの権力基盤を固めるべく、高目の経済成長率を求めたことだ。そのために固定資産投資へ極度に依存した経済運営を継続した。インフラ投資と不動産開発路線を継承・強化して中国経済をバブル経済色に染め上げた。

     

    習氏に長期政権構想がなく、2期10年間で引退する常識的立場であれば、自らの任期中に固定資産投資へ依存の経済構造是正に取り組んだはずだ。実は、固定資産投資依存率を低下させ、個人消費依存度を高める過渡期には、経済成長率が必然的に低下するのだ。習氏は最初から、超長期の政権構想を抱いていた。だから、構造改革による不可避的な成長率ダウンを避けて従来路線を続け、不動産バブルを放置していたのであろう。

     

    このことが、経済改革を決定的に遅らせてしまった。GDPに占める固定資産投資比率は、他国にも例がないほどの40%台という高率である。これが、中国の経済構造を歪めた。GDPに占める、固定資産投資比率が高まればそれを反映し、個人消費比率は低下する。中国の個人消費比率は40%に達していない異常な状態だ。個人消費は、比較的に安定した性格を持っている。これが経済のバッハー役になるのだ。

     

    皮肉なことに、固定資産投資の一環として長期にわたり住宅投資へ力を入れてきた。だが、地方政府は、土地国有制を利用して地価を引上げ、土地売却益を地方政府の財源に繰り入れる破天荒なことを始めた。これが、いわゆる不動産バブルの始まりである。問題は、地価高騰=住宅価格高騰によって、家計負債が急速に増えてしまったことだ。これが、家計の可処分所得を圧迫し個人消費の鈍化につながっている。要するに、固定資産投資依存経済が、不動産バブルを生み、それが個人消費を圧迫するという悪循環過程にはまり込んでいる。これが、中国経済の現状なのだ。ここから、どうやって抜け出すのか、青写真はない。

     

    最近の米中貿易戦争が、中国の経済波乱要因になっている。緊急経済対策として浮上しているのは、従来路線の固定資産投資依存経済である。この状態で、経済改革はさらに遠のいている。日暮れて道遠し。まさに、これが実感である。

     

    第二は、国内の固定資産投資依存経済を「一帯一路」計画で、海外へ「輸出」し始めていることだ。国内の固定資産投資も採算性を二の次にしているが、「一帯一路」もその傾向が極めて強い。「一帯一路」では、中国が資金の貸付け・工事受注という一貫体制である。資金貸付けでは多くの問題を露呈している。

     

    貸付資金の回収が困難になっていることだ。返済困難な相手国から、担保を取り立てているが、これがまた悪評を呼んでいる。「債務トラップ」という呼び名まで登場しているほど。私は「悪徳商法」と呼ぶ。中国は、日本のODA(政府開発援助)のような相手国本位の姿勢でなく、強硬手段を使ってでも債権を取り立てる「高利貸し」スタイルである。ただ、その担保も、売り払って資金化できない悩みがある。ここが、「一帯一路」の不採算制問題を引き起こす理由である。また、国際収支では経常収支赤字化への要因になる。

     

    「一帯一路」にまつわる不評が、次第に既契約の見直しを迫る国の数を増やしている。こういう事態になると、「一帯一路」計画が先細りになろう。中国は自らの評判を落とし、かつ貸付資金の返済が滞るケースが増えれば、中国にプラスになることはゼロだ。国粋主義者の習近平氏は、それでも国威発揚の場と考えるかも知れないが、それは間違いである。国際社会での評価を貶め、「反中国」国家を増やすだけであろう。

     

     


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