勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    文大統領はきょう、三一節(独立運動記念日)の記念演説を行う。これが事実上、日本に向けた最後の三一節演説になる。日本が、外交上の反応を見せ、行動する機会であるからだ。

     

    文氏は大統領就任以来、この三一節演説で日本へ強硬姿勢を見せてきた。それが、どれだけ日本側の反発を呼んできたか分からない。三一節は、韓国国内行事であるが、対象国は日本である。日本がその内容に注目するのは当然であろう。

     

    『中央日報』(3月1日付)は、「文大統領、徐々に軟化する対日メッセージ 注目集まる三一節の演説」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「強硬→衝突→宥和→混沌。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政府の過去4年の対日関係の流れだ。文大統領はきょう、任期中4回目の三一節(独立運動記念日)の記念演説を行う。政府が自ら釘をさした司法府判決尊重と被害者中心主義原則の中で、「結者解之」(自分の過ちは自分で解決する)次元の任期内韓日関係回復は可能だろうか。専門家は最近、青瓦台(チョンワデ、大統領府)がさまざまな解決方法を日本に提示したが、結局、日本政府および企業の資産現金化をしないという政治的決断がないなら、韓日関係の改善は次の政府の仕事になる可能性が高いと展望している」

     

    強硬→衝突→宥和→混沌。これが、文氏の対日姿勢の変遷を示している。「混沌」のまま、結論が出ず、下線のとおり解決は次期政権と見られる。私もこの見方をすでに表明した。

     


    (2)「2018年、任期最初の三一節記念演説で、文大統領は慰安婦問題を「反倫理的人権犯罪行為」と規定して「加害者である日本政府が『終わった』と言うべきではない」と話した。日本は直ちに反発した。菅義偉当時官房長官は「(2015年の)日韓合意に反するものだ。全く受け入れられず極めて遺憾だ」と明らかにしたが、韓国政府の「強硬ドライブ」は続いた。文大統領は慰安婦をたたえる日には「(慰安婦被害は)両国間の外交的解法で解決される問題ではない。日本が深く反省して初めて解決できる問題」と断言した」

    下線部では、文氏が意気揚々としている姿が浮かぶ。国際法で解決済みの問題を穿り返して、日本へ要求を突きつけたことが、文氏の外交センスのなさを示している。

     

    (3)「2020年に入ってからも反転はなかった。文大統領は慰安婦をたたえる日のメッセージで「政府はおばあさん方が『もういい』と言うまで解決方法を探す」としながら、被害者中心主義が最も重要な原則であることを再確認した。光復節の祝辞では「(徴用関連の)大法院判決は大韓民国領土内で最高の法的権威と執行力を持つ」と明らかにした。最高裁判決の「執行力」を強調したのは、日本企業の国内資産を現金化することも可能だという意味だと日本が受け入れるには充分だった」

     

    文大統領側近には、国際法に明るい人材がいなかったことが、日韓を泥沼に陥れた原因であろう。文氏の安直な「人権論」が、国際法に敗れたことを証明している。

     

    (4)「こうした流れに変化が見え始めたのは昨年末。11月に朴智元(パク・ジウォン)国家情報院長と金振杓(キム・ジンピョ)韓日議員連盟会長がわずか3日間隔で相次いで菅義偉首相に会って協力メッセージを伝えた。東京オリンピック(五輪)を、膠着状態に陥った北朝鮮問題進展の契機にしようとする文大統領の意中を反映した宥和の歩みだった」

     

    文氏は、東京五輪を利用して日米韓朝4ヶ国首脳会談を思いついたが、余にもハードルのたかい夢物語である。トランプ氏が、米大統領であれば実現性はあったかも知れない。バイデン大統領の外交手法では、不可能な夢である。


    (5)「今年1月、ソウル中央地方法院(地裁)が、日本政府が慰安婦被害者に賠償するよう命じる判決を下して再び分岐点を迎えた。文大統領は1月の新年記者会見で宥和的メッセージを述べて状況管理に努めた。判決に対して「困惑している」と述べ、一貫して内容・手続き上の欠陥を指摘してきた慰安婦合意に対して「政府の公式的合意だったことを認める」と話した。また「現金化などは望ましくなく、外交的な解決方法を探すことがさらに優先」としながら180度変化した立場を出した」

    文氏が、方向転換したのは今年に入ってからである。「時すでに遅し」だ。韓国議会が、次期大統領選に向けて動き始めている。日本と融和する法案を提案しても、選挙に不利と見れば受け付けないであろう。文氏が、政治家としての勘が鈍いことを証明するだけである。文氏の外交感覚が、完全に狂っていたとしか言いようはない。

     


    (6)「ソウル大学国際大学院の朴チョル熙(パク・チョルヒ)教授は「慰安婦合意に対する文在寅政府の立場は破棄と尊重を行き来して、事実上、自己否定に近い姿を見せた」とし「関係改善のためには韓国が韓日関係の復元を望むという真意が入ったメッセージを正確に伝えなければならない」と話した。聖公会(ソンゴンフェ)大学の梁起豪(ヤン・ギホ)教授は「韓国は司法府判断尊重、被害者同意という原則を守りながらも日本の信頼を回復しなければならないという三重苦を抱えている」とし「まず国内議論を通じて自主的な解決方法を導き出し、これを元に日本に提案するというような責任感ある態度を示差なくてはならない」と提案した」

     

    文氏には、自ら泥を被っても日韓関係を解決するという決意がない。日本が、妥協してくるのでないかという甘い感覚である。金大中氏のような見識がない以上、日韓関係は冷却化したままであろう。

     

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    北朝鮮の貧困は、核開発で資金を使い果たしている結果だ。国連から制裁を受けている核開発を中止せず、蟻地獄に陥っている北朝鮮へ人道的理由で支援すべきなのか。韓国政府は目下、支援すべしと大騒ぎである。

     

    『東亜日報』(2月27日付)は、「『北朝鮮住民の暮らしが困難になったなら見直す時』 統一部長官が制裁緩和を訴え」と題する記事を掲載した。

     

    李仁栄(イ・インヨン)統一部長官が、北朝鮮住民が直面した人道主義的危機を考慮し、対北朝鮮制裁を見直す必要があると明らかにした。北朝鮮が新たな戦略兵器を誇示し、核保有国の地位を公式化する状況で、李氏は連日、制裁緩和の必要性を強調している。




    (1)「李氏は26日に公開された英紙『フィナンシャル・タイムズ』とのインタビューで、「制裁の目的ではなかったが、結果的に(北朝鮮)住民の暮らしが困難になったなら、これをどのように改善していくのか」とし、「しっかり評価し考えなければならない時になった」と強調した。北朝鮮が、核放棄の意思を明らかにしていないが、制裁の効果と限界について見直しが必要だという主張だ。最近、李氏は連日、制裁緩和と3月に予定された韓米合同軍事演習の縮小を主張している」

     

    北朝鮮自身が、経済的な苦境に陥っていると発言した訳でない。韓国統一部が、「以心伝心」で北朝鮮支援を主張しているのだ。北朝鮮国民には何の罪もないし、気の毒に思う心は変わらない。韓国の「仏心」が、北朝鮮の核開発を間接的に推し進めることになるのも事実だ。ここは、心を鬼にしても北朝鮮が核開発を継続していれば、国が消えるという危機感を持たせねばダメであろう。

     


    (2)「これに対して米国務省は、「北朝鮮の挑発と武力使用を阻止し、北朝鮮が最も危険な兵器プログラムを手に入れないよう制限することが米国の重大な関心事」と反論した。しかし李氏は、インタビューで、「国際社会の共感が形成されるなら、非商業用の公共インフラのような分野で、もう少し制裁の柔軟性が拡大されることが望ましい」と再度強調した。李氏はまた、制裁の長期化、新型コロナウイルス、台風被害、水害など北朝鮮が直面した三重苦に触れ、「経済的な困難が続き、北朝鮮住民を中心に、人道主義的な危機、その可能性が増加していることは否定できない」と指摘した」

     

    韓国統一部は、「北朝鮮の経済的な困難が続き、住民を中心に人道主義的な危機、その可能性が増加していることは否定できない」と強調する。その責任は、金正恩氏にあるわけで、韓国に何らの責任もあるわけでない。北朝鮮が核放棄を決めれば、人道問題は解決する。北朝鮮が困窮に陥れば陥るほど、核放棄への道が近くなる。こういう、一面も忘れてはならない。韓国の安っぽい同情論が、北朝鮮を増長させるのだ。

     


    (3)「また、新型コロナウイルスのワクチンと関連して、「自国民優先でワクチン接種するほかないが、一定の余力が確保されたら、北朝鮮をはじめワクチンの足らない国に協力する人道主義的なアプローチを怠ってはならない」と強調した」

    韓国は、ワクチン接種が終わったならば、余ったワクチンを北朝鮮へ協力するとまで言っている。南北対話を断っている北朝鮮へそのようなサービスをする必要はない。こういうお節介な手出しが、北朝鮮を最終的に甘えさせるのだ。北朝鮮は、国民を飢えさせても核開発を進めて「金体制」を守ろうとしている邪悪な政権である。そういう政権へ、同情心を見せる必要があるだろうか。米国は、こういう韓国を批判しているのだ。

     

    『中央日報』(2月11日付)は、「北朝鮮の挑発より同盟の非協力が問題「バイデン政権」、韓国に向けた発言か」と題する記事を掲載した。

     

    米国のバイデン政権は北朝鮮の核問題に関連し、北朝鮮の挑発よりも韓国など同盟国と緊密な協力が行われない可能性を憂慮すると9日(現地時間)、明らかにした。北朝鮮の核問題を解決し、米国の国民と同盟の安全を守る新しい対北朝鮮接近法を樹立する過程で、同盟国が米国と同じ考えをするかが重要だと強調しながらだ。



    (4)「米国務省のプライス報道官はこの日の定例記者会見で、「北朝鮮への関与が遅れれば、北朝鮮が核実験やミサイル発射など米国の関心を引くための行動をする可能性があるということをバイデン政権は心配しているのか」という質問に対し、「私は我々がパートナーの韓国・日本と緊密に協力しないという展望がさらに心配だと考える」と答えた。バイデン政権は北朝鮮接近法関連の質問が出るたびに「過去の政権の北朝鮮政策全般を検討した後に決める」という立場を繰り返してきたが、この日のプライス報道官の発言は米国や韓国など同盟国間の北朝鮮政策の立場調整を強調した」

     

    バイデン政権は、北朝鮮がミサイルや核の実験で脅迫するとしても、同盟国の協調を重視していることを明らかにしている。それは、米国とその同盟国が北朝鮮の瀬戸際政策に動揺せず、あくまでも北に核を放棄させる政策を追及する姿勢を打ち出す可能性を滲ませている。こうなると、北朝鮮の脅迫は通用しないことになる。北朝鮮が音無しの構えであることもこれを示唆しているように見える。韓国は、チョロチョロ騒がず、どっしりと腰を据えて事態に備えることが重要だ。

     

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    民族主義者の術中に嵌まる

    米が提示する5つの警報

    尖閣狙うが日本も十分対応

    政敵倒しにアントを利用

     

    中国の習近平氏は、国家主席2期10年という任期を改正して、期限を取り払ってしまった。従来であれば、習氏の任期は2022年までだ。鄧小平が、個人崇拝の再来を防ぐべく行った集団指導体制と国家主席任期制は、習近平氏の名誉欲によって葬り去られた。

     

    習氏といえども、腕力で国家主席の無期限制を利用する訳にはいかない。国の内外で、中国共産党の「威厳」を高めて、国民と党員を納得させなければならないのだ。この結果、自然に起こる問題は、習氏の「凶暴化」である。内外で腕力を振って、相手をねじ伏せなければ、習氏が勝ち名乗りを上げられない局面が増えているからである。

     

    習氏は、無理に無理を重ねざるを得ない矛楯に落ち込んでいる。毛沢東の『矛盾論』が指摘する、「正・反・合」という矛楯の深化によって、習近平氏が苦境に立たされ、自己否定の可能性が高まっているのだ。

     


    民族主義者の術中に嵌まる

    米国の著名シンクタンク「大西洋評議会」は、米国政府へ閣僚を送ることでも有名である。このシンクタンクから発表される報告書は、政策として結実する可能性が高いという評価を得ている。大西洋評議会は今年1月、The Longer Telegram」という論文を発表した。その内容は、次のようなものである。

     

    「習近平の意思決定過程は、従来の中国共産党の意思決定過程と大きく異なっていると分析している。習近平は権威主義的傾向を強めており、意思決定は共産党ではなく、習近平とその周辺により決定されることから、共産党ではなく習近平個人に注目すべきであると主張している」

     

    この点は、私もこれまで指摘してきたように、習氏を取り巻く民族主義者による独断専行に現れている。民族主義者とは、中央政治局常務委員(序列5位)の王滬寧(ワン・フーニン)氏である。戦時中の日本で言えば、大川周明という存在であろう。王氏は、明治維新以降の日本を研究しており、軍事力こそ国威発揚の主要手段と信じている主である。日本が、維新後わずかの期間に「世界5大国」へのし上がった過程をつぶさに研究した人物である。「軍事力こそ全て」という危険思想である。

     

    習近平氏は、この王氏に強く影響されている。国家主席の任期制を廃止させたのも、王氏の入れ知恵であること間違いない。習―王の危険コンビが、中国の運命を狂わせようとしているのである。

     

    このような二人の「軍事コンビ」に対して、米国はレッドラインを明示すべきというのが、大西洋評議会報告書の主旨である。レッドラインであるから、中国が以下の行為を行えば、米国が軍事的報復をすると、あらかじめ警告するものである。

     

    レッドラインは、次の5項目である。

     

    1)中国及び北朝鮮による大量破壊兵器の使用

    2)台湾への軍事攻撃、経済封鎖、サイバー攻撃

    3)東シナ海や尖閣諸島周辺で日本の国益保護活動を行っている日本自衛隊への攻撃

    4)南シナ海における新たな埋め立て、軍事化及び航行及び飛行の自由の阻害

    5)米国同盟国への軍事攻撃



    米が提示する5つの警報

    以下に、私のコメントを付したい。

     

    1)中国及び北朝鮮による大量破壊兵器の使用とは、中朝を一体として扱っており、北朝鮮が核兵器を使用したならば、中国も連帯責任でその責めを負うべきとしている。つまり、北朝鮮が核使用しないように監視せよという通告である。

     

    2)台湾への軍事攻撃、経済封鎖をしてはならない。米国は、国内法で「台湾関係法」を成立させている。これによると事実上、米国と台湾は軍事同盟で結ばれている。「台湾旅行法」によって、米台の政府高官の往来は自由になっている。こうして、「一つの中国論」は、米国によって空洞化させてしまった。

     

    3)東シナ海や尖閣諸島周辺で活動する自衛隊へ攻撃してはならない。尖閣諸島海域へは、長期にわたり中国艦船による侵犯が行なわれている。海上自衛隊は常時、哨戒活動を続けているが、これに中国軍が攻撃を仕掛けてはならない。

     

    4)南シナ海で、新たな埋め立てや基地化を行ってはならない。中国がフィリピンに近い南シナ海の要衝、スカボロー礁で埋め立ての兆候をみせた16年のことである。中国軍高官が出席した国際会議で、カーター米国防長官は軍事施設が建てられれば「米国は行動をとる」と警告した。中国はその後、現在に至るまでスカボロー礁で埋め立てをしていない。米国の警告は効いているのだ。

     

    5)米国同盟国への軍事攻撃もレッドラインである。これは、「アジア版NATO」と同じ意味を持つ。インド太平洋戦略では、クアッド4ヶ国(日米豪印)が結束を固めている。これに、英国が新たな参加国(α)として加わる見通しだ。英国が、最新鋭空母「クイーン・エリザベス」と打撃陣をアジアへ派遣する方針で、日本が母港になる。(つづく)

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    中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は2月25日、2020年を期限とした「脱貧困」で実績をあげた共産党関係者らを表彰した。その席上で「党創立100周年の重要なときに、わが国の貧困脱却攻略戦は全面的な勝利を収めた」と成果を改めて誇示した。

     

    習指導部は2020年12月に開いた党最高指導部会議、政治局常務委員会で脱貧困の「達成」を宣言した。今回再び内外に宣伝するのは習氏の政治的遺産(レガシー)作りの意味合いが強い。22年秋には5年に1度の共産党大会が開かれる。12年に党トップの総書記に就いた習氏は異例の3期目を視野に入れての「政治劇」である。

     


    『大紀元』(2月28日付)は、「中国当局、脱貧困を全面的達成と主張 各地の市民『嘘ばかり』」と題する記事を掲載した。

     

    中国の習近平指導部は25日、北京の人民大会堂で、2020年を期限とする当局の「脱貧困」計画の達成を祝う表彰式を開催した。その一方で、中国各地の住民は、貧困地域の人々の生活が依然と厳しく、当局の「脱貧困を達成した」との主張を信じていないと語った。

     

    (1)「習近平国家主席は表彰式で、「わが国の脱貧困攻略戦は、全面的な勝利を収めた。現行の基準の下で、農村部の9899万人の貧困層はすべて貧困から脱出した。832の貧困県と12万8000の貧困村は、(その『貧困』という)レッテルを剥がすことができた」と述べ、「人間界の奇跡だ」と自賛した」

     

    農村部の約1億人(9899万人)の人たちが、貧困を脱したと習近平氏は自画自賛している。全て、習氏の業績のお陰だという論法である。だが、現実は以下のパラグラフで示すように厳しい現実に変わりない。背伸びした軍事費が、農村部の人たちを置き去りにしている。

     

    (2)「河南省淅川県に実家のある王さん(女性)は、大紀元の取材に対して「共産党が言ったことを信じてはいけない」と語った。王さんの実家は河南省の山奥にあり、現在も生活苦が続いているという。「私たちの村では、村民が山から出る交通費すらない。普段、野菜を作って自給自足の生活を送っていて、肉料理はほとんど口にすることがない。父は電気を使うのもためらうので、お風呂などの設備はなおさらない。もちろんインターネットも繋がっていない」。王さんの村では水道水がなく、貯水池の水を使っている。「水が溜まったら、皆バケツを使って家に運んでいく」という。「医療費を出せないから、村の人は軽い病気なら我慢する。大病にかかったら、死を待つだけだ」

     

    このパラグラフには、交通費もない医療費も出せないという人間以下の生活を強いられている一群の人々の暮しを伝えている。

     

    (3)中国当局の脱貧困の基準は3つある。

    1つ目は、(従来の)年間収入は4000元(約6万4000円)であった。当局は「貧困から脱した人々の平均年収は、9000元(約14万4000円)以上に達した。残りの貧困層の平均年収は、6000元(約9万6000円)以上だ」としている。

    2つ目は、「衣食に困っていない」。

    3つ目は、義務教育を受ける保障、基本的な医療保障、住宅の保障の「3つの保障」である」

     

    中国当局の唱える脱貧困基準は3つある。これを全てクリアしたと言うのだが、パラグラフ(2)の生活実態はこれとかけ離れている。交通費や医者にかかる金もないのが農村部の実態だ。

     


    (4)「湖北省武漢市に住む呉さん(男性)は、「物価が高いため、収入基準に達しても、政府が言う『衣食に困らず』『3つの保障』が実現できない」と語った。李克強首相は昨年5月、月収1000元(約1万6000円)の中国人は6億人いると発言した。呉さんは、中国当局の脱貧困計画は、実際は指導者や高官らが政治的な業績を上げるためであり、「統計数値上で、貧困問題を解決しただけだ」と批判した。社会保障制度の不完全、高い税金と低い福利厚生、政治腐敗が、中国の貧富の格差を作り出した主因だと呉さんは指摘した」

     

    中国政府は、名目値の収入を基準にしているが、物価が上がっている。とても、「衣食に困らず」「3つの保障」は実現していないと指摘する。李克強首相は昨年5月、月収1000元(約1万6000円)の中国人は6億人いると発言した。これが真実であろう。

     

    (5)「時事評論家の李林一氏は、「中国当局の脱貧困はねつ造だ。多くの地域はいまだに貧困から脱出していない」と述べた。李氏によると、中国当局は脱貧困計画を強制的に達成するために、国有企業や中央企業に対して、貧困地域の特産品などを大量に購入させた。習近平指導部が脱貧困計画で「全面的に勝利を収めた」と強調する一方で、共産党と国務院(内閣に相当)は、今年の優先課題に関する指示文書(中央一号文件)において、「貧困から脱出した県について、脱貧困の日から数えて5年間の過渡期を設ける」とした」

     

    下線部は、脱貧困が一時的現象であったことを臭わせている。今後5年間の過渡期を設けて、経過観察するというのだ。李克強首相が、月収1000元(約1万6000円)の中国人は6億人いると発言したことを裏付けしている。この中国は、これからどこへ行くのか。

     

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    朝鮮の王たちは、正月初日に中国の皇帝に礼をささげる望闕礼(ぼうけつれい)を行ったという。1898年に廃止されるまで1回も欠かさず行われたのである。こういう歴史が、韓国人のDNAとなっている。文政権が、中国を恐れ付き従うという盲従ぶりには、「民族の自主性」の一片も感じられない。

     

    朝鮮は、一貫して世界情勢の激浪に揉まれてきた。その意味では、極めて気の毒な民族と言えるが現在、日本だけには居丈高に立ち向かってくる。中国や北朝鮮に対する姿勢とは真逆である。これは、日本側にも責任の一半はある。余にも韓国の言いなりになってきたことだろう。韓国が、息を抜いて気楽に外交できる唯一の国であったのかも知れない。

     

    こういう状況が75年も続いてきた後に、日韓に大きな溝が生まれている。韓国からすれば、従来と全く異なる日本の対応に驚きとまどいを感じている。米国にSOSを発しても、「お前が悪い」と言わんばかりの対応である。韓国は正直、どうしていいか分からない状況である。こういう状態を適確に表わすコラムが登場した。「日本へどう対応すべき」を問うているのだ。

     

    『朝鮮日報』(2月28日付)は、「誰も助けてくれない世界の崇中事大」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の鄭権鉉(チョン・グォンヒョン)先任記者である。

     

    崇中事大(注:中国を崇め奉る事大主義)の妄想から目を覚まさせる本がつい先日発刊され話題になっている。『Disunited Nations(各自図生の世界と地政学、韓国語訳)』という書籍で、著者のピーター・ゼイハン氏は世界的な地政学戦略家だ。

     

    (1)「彼の分析によると、バイデン大統領が就任した米国はトランプ前大統領当時以上に世界の秩序から手を引くという前提で「中国は10年以内に失敗し、成功神話の終焉を告げる」と予想している。「中国は過大評価された。アジアのトップは日本になるだろう。米国は日本をアジア地域の盟主として選んだ」とも主張している」

     

    世界的な地政学戦略家とされるゼイハン氏は、「中国が10年以内に失敗し、成功神話の終焉を告げる」と見ているという。これは、本欄が繰り返し取り上げている生産年齢人口の急激な低下が、経済成長率を急減させることを指しているのであろう。その低下は、「劇的」と言って良いほどだ。これに合せて中国国内で市場経済派が権力を握るという構想を描いていると思われる。米国シンクタンク「大西洋評議会」中国報告書は、こういう道筋を描いている。



    ただ、米国がアジアから手を引くという想定は、非現実的である。「インド太平洋戦略」は、米国の世界覇権を守る城壁である。「城主」が、ここから引き揚げることはあり得ない。米国経済は今世紀中、ずっと生産年齢人口が小幅ながらも、増加を続けるという国連予測が発表されている。米国覇権は揺るがないのだ。

     

    (2)「日本の海軍力と空軍力は中国を圧倒するため、中国は一対一の戦いでも勝つのは難しいと分析している。著者は「韓国は再び浮上する日本と経済的に融合する道が最も賢明な選択だ」と主張する。戸惑う提言だが、日本の再浮上に伴う国際的な力学の変化に備えよと注文しているのだ」

     

    日中が単独で戦うことはない。日米は合同戦略で戦闘態勢を組む。中国軍の最大の弱点は、海上における現代戦の経験がないことだ。もう一つ、士気の問題がある。日清戦争では、戦線離脱の軍艦が出ており、「中国人」特有の負け戦から逃げる特性が表われないか。

     

    日本が軍事力で浮上することはない。裏付けになる経済力がピークを打って久しいからだ。それよりもインド太平洋戦略による同盟軍や、NATO(北大西洋条約機構)との共同作戦が、最も現実味のある安保体制となろう。

     


    (3)「(朝鮮時代)日本に滞在していた朝鮮通信使一行は思わぬ屈辱を受けた。当初の使臣派遣の目的とは異なり、徳川家康をまつる日光東照宮を参拝するよう求める江戸幕府の要求に従わざるを得なくなったのだ。吹雪と厳しい寒さの中を、通信使一行214人は江戸から日光まで往復1週間かけて行き来した。ある意味譲歩だった。「清との関係が厳しくなった状況で、日本との関係まで悪化させるわけにはいかなかったため」と日本には記録が残っている。通信使一行は1643年と1655年の2回にわたり日光東照宮を参拝した」

     

    過去には、日本は朝鮮に無理強いした。だが、通信使一行に日光東照宮参拝を強いてから380年近い歳月を経ている。もはや、当時の日本ではない。海洋国家日本として、視野を世界に展開している国家へ発展している。

     


    (4)「ゼイハン氏の予想通り、「米国が手を引き、海上で強大な力を持つ日本が今後数十年にわたり空と海で東北アジアの全てを仲裁するようになった場合」にはどのようなことが起こるだろうか。朝鮮通信使一行が日光東照宮の参拝を強要されたように、太平洋戦争の戦犯たちが神として祭られている靖国神社への参拝が求められる事態が起こるのではないだろうか。最近になって現政権関係者による問答無用の行動を見ていると、このようなとんでもない悪夢まで思い浮かんでしまう」

     

    米国が手を引き、日本が海上で強大な力を持ち、今後数十年にわたり空と海で東北アジアの全てを仲裁するようになることはない。そうなれば逆に米国は、日本の存在に疑いの目を向けるはずだ。米国が、1980年代から2000年代にかけて、徹底的に日本経済を痛めつけてきた事実を忘れてはいけない。米国は、経済力2位の国家を警戒するという「用心深さ」を備えている国である。それが、米国覇権を長続きさせている理由である。

     

    日本は、米国と争っては生きていけない国である。明治維新以降、身を以て体験したことである。日露戦争の勝利と太平洋戦争の敗北は、米国との関係が雌雄を決した。戦後の急速な復興は、米国市場開放のお陰だ。日本は、「市場経済と民主主義国」米国を敵に回す愚をいやというほど知らされた。今度は、中国がその愚に挑んでいるのである。

     

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