日英が新時代を迎える。英議会は、先ごろ日本との通商協定「日英包括的経済連携協定(EPA)」を承認した。日本の国会でも既に承認されており、来年1月1日に発効する。英国にとっては、今年1月末の欧州連合(EU)離脱後、主要国との間で初めて結ぶ通商協定だ。
これだけでない。英海軍が、最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を中核とする空母打撃群を、沖縄県などの南西諸島周辺を含む西太平洋に向けて来年初めにも派遣する。長期滞在させるとロイター通信などが報じた。英政府の香港問題などをめぐる強い懸念が、背景にあると指摘されている。
『レコードチャイナ』(12月13日付)は、「英海軍、来年初めにも空母打撃軍を日本など西太平洋に派遣し長期滞在 中国の反発必至」と題する記事を掲載した。
(1)「2017年就役の『クイーン・エリザベス』は全長約280メートル、排水量約6万5000トンと英海軍最大級の艦船。操艦要員は700人で、航空要員を加えると乗員は1600人に達する。展開時には垂直離発着型の最新鋭ステルス戦闘機F-35Bを2個飛行隊搭載し、45型駆逐艦なども随伴する。昨年2月、英国のウィリアムソン国防相(当時)はクイーン・エリザベスの太平洋派遣を表明。英政府は日本など関係国と協議を進めていた」
米空母『ロナルド・レーガン』(排水量約10万1000トン)は、横須賀基地を母港としている。これに次ぐ規模の英空母『クイーン・エリザベス』が、西太平洋を中心にして派遣されることは、日本の防衛にとって強力な助っ人登場となる。米英空母が、日本近海に展開することは、中国にとって大きな圧力となろう。
(2)「今年7月には英紙『タイムズ』が軍高官らの話として「クイーン・エリザベスを中心とする空母打撃群が来年初めに極東に派遣され、周辺海域に当面の間とどまる計画が進められている」と伝えた。海洋でのプレゼンスを強化する中国に対抗する狙いで、日本や米国との合同演習も想定しているという。17年12月には小野寺五典防衛相(当時)が同空母を視察。海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦「いずも」との共同訓練を提案した」
英空母『クイーン・エリザベス』は、朝鮮戦争(1950~53年)の国連決議に基づき定められた国連軍地位協定により、横須賀(神奈川)、佐世保(長崎)、ホワイトビーチ(沖縄)などの在日米軍施設・区域で補給を受けられるという。日本が、「準母港」ということになるのだ。
(3)「ロイター通信は共同通信の記事を引用し、複数の日本政府関係者の話として派遣計画を報道。「日本は世界有数の海軍力がある英国と連携を深め、海洋進出を強める中国に対抗し秩序維持の姿勢を打ち出す狙いだ。西太平洋で日本と同盟関係にある米軍や周辺国以外の空母が継続的に活動するのは極めて異例」などと言及した。背景には中国の南シナ海での領有権主張に加え、香港の「一国二制度」が破棄されたことに対する英政府の強い懸念がある」
香港を巡る中英協定は、中国によって一方的に破棄された形だ。英国にとっては、香港問題には強い姿勢を取り続けるであろう。『クイーン・エリザベス』派遣は、重要な意味を持つっている。
(4)「関係者によると、『クイーン・エリザベス』や打撃群の艦艇、航空機は自衛隊や米軍と合同演習を実施する見通し。F-35は米ロッキード・マーチン製で、三菱重工の愛知県・小牧南工場はアジア太平洋地域のF-35の整備拠点となっている。数年に1度の定期点検など本格的なメンテナンスが可能で、英軍機の受け入れが可能か調整を進めている。空母をはじめとする艦隊が日本周辺に到着する時期は未定という」
『クイーン・エリザベス』搭載のF-35は、三菱重工の愛知県・小牧南工場がアジア太平洋地域におけるF-35整備拠点であるので、これを利用できる。日本近海で展開する上で、多くの利便が得られるのだ。
英国は、ブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)後もインド太平洋地域に関与すべきだと提案する英シンクタンクの報告書が11月22日に発表されている。報告書では、英国がインド太平洋地域にあるオーストラリア、インド、日本、韓国、台湾などの友好国と緊密な連携を提案し、これらの国々とともに、1941年に英国と米国が署名した大西洋憲章と同様の21世紀の民主主義憲章にコミットすることを提案している。大西洋憲章は、第2次世界大戦後の世界平和回復のため、英米の両国が合意した基本原則である。
大西洋憲章は、互いに領土の拡大を求めないことや、妨害のない通商の開放の維持、さらには国連憲章にも通じる、侵略の脅威を与える国の武装解除と安全保障体制の構築に務めることなどを約束している。こういう視点から、米英の協力で「アジア版大西洋憲章」が成立すれば、アジア軍事情勢は大きく変るだろう。今回の英空母「クイーン・エリザベス」の西太平洋派遣は、中国海軍の暴走を阻むものとなろう。