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年配の日本人にとって、「天津」と聞けば甘栗を想像する。「天津と甘栗」は切っても切れない関係だ。これは、昔のイメージである。現在は、近代的なビルが林立する中国5大都市へと変貌した。北京への海の玄関口として発展したのだ。

 

この天津市が、経済的に身動きできない事態に落込んでいる。今年1~3月期の経済成長率は、前年同期比1.9%増。中国全体にGDPが6.8%成長であったから、4分の1強の成長率に留まっている。これは、地方政府の省規模地域としては最低水準で、市の歳入は17%も減少している。原因は、不動産バブルの崩壊である。借金で建設したビル群が、入居者もいなく放置されている。現在の苦境にあえぐ中国の先行きを象徴している。次は、どこの都市が転落するのか。

 

中国の土地は全て公有制である。地方政府は、この土地利用権を民間に払い下げて利益を上げるシステムだ。土地が打ち出の小槌であるから、「不可能なことはない」天国のような環境にあった。地方政府のトップは、自由自在に公有地の利用権を売却して、公共施設を建設できたのだ。地域で最も豪華な建物は、全て地方政府関連である、と言われてきた背景がこれである

 

天津市も、公有地を「打ち出の小槌」に使ってきた。余りにも派手にやり過ぎて市の財政が窮迫した。こういう、笑うに笑えない話である。中国では、経済成長率の高い地方政府トップほど、昇進も早い人事制度である。こうなると、公有地の利用権を可能な限り売却してインフラ投資を行なう。それをバネにして、内外の企業を誘致し経済活動を活発化させる。これが成果を上げると、めでたく中央政府の要人として引き立てられる。エスカレーター人事ができあがってきた。

 

地方政府の官僚は、2年程度のローテンションである。この期間に成果を上げるにはますます「土地依存」にのめり込まざるを得なかった。官僚が出世するには、先輩官僚の「引き」がなければならない。こうなると、先輩官僚が置き土産にしたプロジェクトが失敗していても、中央に報告せず隠蔽する仕儀となる。中国の東北3省(遼寧・吉林・黒竜江)が、長年にわたり経済統計を改ざんした理由は、この官僚人事制度に行き着く。

 

天津市の転落は、以上のような要因(①土地公有制、②土地依存の財政制度、③官僚の出世システム)が、複雑に絡み合って発生したことが分る。これは、中国全土に共通だ。となると、中国の不動産バブル崩壊で、天津市に似通った事例が多発することを予想させる。事態は、極めて深刻である。

 

天津市の実態は、次の記事が取り上げている。

 

『ロイター』(6月15日付)は、「頓挫する中国版『マンハッタン』、債務抑制が天津を直撃」と題する記事を掲載した。

 

「中国北部の港湾都市・天津の経済に、ほころびが生じつつある。同都市の景観をここ数年大きく変貌させてきた借金頼みの投資を、地元政府が抑えこもうと悪戦苦闘しているからだ。一部の国営企業は債務不履行に陥るか、債務返済のための資金繰りに追われており、金融機関の中には地元企業に対する融資を拒否するところも出てきているという。ロイターによる金融機関や政府関係者への取材や閲覧文書で明らかになった」

 

「かつて、『中国版マンハッタン』ともてはやされ、今では少し控えめに『中国版カナリーワーフ』などと呼ばれる天津市の新たなビジネス街では、多くの高層ビルが未完成、あるいは空室だらけのまま、とり残されている。経済規模がベトナムのそれに匹敵する天津市だが、悩みの種は、『中国経済を債務依存の成長モデルから脱却させる』という習近平国家主席が掲げた公約のテストケースとして注目を集めてしまうことだ」