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人類未到と思われていた「人生100年時代」が目前に来た。今の10代の日本人は100歳が普通になると報じられている。日本政府は、定年を70歳に伸す検討を始めた。「65歳以上を一律に高齢者と見るのは、もはや現実的ではない」という認識に変わったのだ。平均寿命伸張による年金財政逼迫を考えれば、「70歳定年もありか」という感じがする。

 

焦点は、AI(人工知能)の研究が進んでいることである。すでに、定型作業のかなりの部分が、AIに代替できる時代になった。長生きは結構だし幸福の原点であるが、肝心の職業をAIに脅かされるのは本末転倒。これでは、幸福な生活がAIに奪われかねない。AIを追放するわけにはいかない。人間の側が対応して、AIを使いこなす側に回るしか方法はなさそうだ。つまり、転職できる能力を身につけることである。

 

こうなると、これまでの年功序列賃金制と終身雇用制は骨抜きになる。一度、就職すれば定年まで同じ会社、というケースは激減するに違いない。社会の変化に合わせて仕事のニーズも変わってくる。会社へ行っても仕事がない。そんな例が増えるであろう。

 

そこで、この問題を解決するヒントを取り上げたい。

 

『ブルームバーグ』(6月29日付)は、「人工知能は津波のように経済を襲う」と題する記事を掲載した。

 

    「米損保大手のオールステートのトム・ウィルソン最高経営責任者(CEO)は、人工知能(AI)がサービス経済を奪いに来ると指摘する。ウィルソン氏は、『AIが津波のように米国経済を襲うだろう』と述べた。自動化の波はトレーダーやタクシー運転手など幅広い業種に影響しそうだ。マッキンゼーの試算によると、テクノロジーに仕事を奪われ職探しをする人は2030年までに世界中で4億人以上に上る可能性がある」

 

   「こうした変化はすでに自動車保険事業にも及んでいる。ウィルソンCEOによると、オールステートは技術の進歩で業務が不要になった自動車アジャスター550人を削減。削減対象者は全て他で職を見つけたという。同社は経済の変化に対応し従業員教育に4000万ドル(約44億円)を投資している。『会計士であれ自動車アジャスターであれ、コンピュータープログラマーであれ、テクノロジーに取って代わられるだろう。コンピューターができない新しい仕事を彼らに教育していく方法を見いだす必要がある』と同CEOは語った」

 

米国損保会社の最大手であるオールステートのCEOが、厳しい予測をしている。会計士であれ、コンピュータープログラマーであれ、AIのテクノロジーに取って代わられる。こう言い切っているのは、なんとも不気味に映る。だが、その対策として社員の再教育に約44億円を投じるという。これによって、社員の知的再武装を行い新しい職務に当らせる、としている。

 

次は、日本の提言である。

 

『日本経済新聞』(6月27日付「経済教室」欄で元富士通総研会長 伊東千秋氏がAI時代に即した働き方とは」と題する投稿をしている。

    米国で富士通子会社の経営を任されていた頃、社員をすぐ辞めさせないためにどうするかを考えた。一番効果があったのは留学などの研修制度だった。転職のためのキャリアが磨けるというわけだが、それが逆に定着率を高めることになった。経営者も社員も1カ所に閉じこもっていたのでは互いに不幸になると実感した。フラットな組織、多様性に富んだ社員、アイデアを頭から否定しない寛容な風土。企業自体が丸ごと変わらなくてはならない」

 

ここでは、米国の例を引き合いにしている。社員に留学などの研修制度を行なったところ、社員の定着率が高まったという。AI時代の到来は、社会全体が高度知的社会に移行していることの反映である。この事実の認識が極めて重要であろう。AIだけが突然、飛び出してきたのではなく、それを生み出す社会的基盤が備わってきたことだ。そうなると、この動きに遅れないことが肝心であろう。

 

北欧のスウェーデンでは、大学教育の無料化が実現している。社会人が、いつでも大学で学べる(リカレント教育)制度があるのだ。日本もAIの普及と同時に、大学は若者と社会人が机を並べる時代になろう。政府は、その予算的な準備を始めている。時代は、大きく変わろうとしていることに気づくことだ。