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中国は、台湾蔡政権が「一つの中国論」を明確の打ち出さないことに不満だ。そこで、手を変え品を変え、台湾へ圧力を加えている。WHO(世界保健機関)への台湾代表出席を阻止したほか、中国空軍の台湾領空域への侵入や、戦艦の航行などやりたい放題だ。

 

これにたまりかねた米海軍が7月7日、米駆逐艦2隻で台湾海峡を通過させ、中国をけん制した。これは、前々からの懸案事項である。この間の事情は、次のようなものだ。

 

『ロイター』(6月6日付)は、「米、台湾海峡への軍艦派遣を検討、中国の反発必至」と題する記事を一ヶ月前に掲載していた。

 

(1)「米高官によると、米国は今年に入り航空母艦の派遣を検討したが、実施しなかった。恐らく中国への配慮という。前回米航空母艦が台湾海峡を通過したのは2007年。頻繁ではないが、定期的に海軍の別の軍艦を台湾海峡に派遣することも選択肢のひとつとなっている。前回実施されたのは2017年7月で、航空母艦の派遣ほどは中国を刺激しない行為とみられている」

 

台湾海峡は公海である。米海軍が航行しても何ら問題があるわけでない。ただ。米中は「一つの台湾論」を認めている関係で、米艦船が台湾海峡を通過するのは、軍事的な意味を持っているので中国が反対してきた。トランプ政権は、過去の仕来りに縛られず、再検討する意向を表明している。米国には、「台湾関係法」という国内法がある。これに基づき、米台関係の強化・見直しが始まったと言える。

 

(2)「トランプ大統領はこれまでの慣例を破り、2016年に正式な外交関係のない台湾の蔡英文総統と電話会談を行った。ただ、ここ数カ月は、北朝鮮の核問題で中国の支持を取り付けるため、以前よりも台湾との距離を置いている」

 

米朝関係は、ギクシャクしながらも前へ進む気配である。米朝が直接対話することが可能になったので、あえて中国へ依頼する必要性もなくなった。それに、米中貿易戦争という新たな事態の展開で、米台関係の緊密化が中国の反発を受けたとしても「聞き流す」方針に転換したのであろう。中国軍は、海と空の両面から台湾へ圧迫を加えていた。米国は、これに対する「回答」をしたもの。米国は、民主国の台湾を見捨てないというシグナルだ。

 

『大紀元』(6月22日付)は、「アジア太平洋地域の安定、台湾の現状維持にかかっているー米政府官員」と題する記事を掲載した。

 

米国務省のアジア太平洋担当次官補代理は621日、中国が圧力で台湾の国際的立場を変えようとしていることに、米国は非常に懸念していると述べた。また、台湾はトランプ政権のインド太平洋戦略において、重要な役割を果たすと語った。米国務省ウォン次官補は、アジア太平洋地域の安定は、台湾が現状維持できるかどうかにかかっており、今の状況を変えようとする中国政府の動きに対して、米国は強い懸念を抱いていると述べた。6月12日には、在台湾米国公館の役割を果たす米国在台湾協会(AIT)の新庁舎が完成した。ウォン次官補はAITを通じて、米国の対台湾、対中国政策を強化すると述べた。米国は台湾について、インド・アジア太平洋の自由・民主主義の価値を象徴する存在だと位置づけているという。この価値の意義には、市場経済、国際社会の積極的な貢献、安全保障が含まれる」

 

米中関係の悪化は、米台関係の強化でもある。在台湾米国公館の役割を果たす米国在台湾協会(AIT)の新庁舎が完成し、新たな米台関係が進む気配である。なぜ、この時点で米台関係の強化が見られるのか。中国の軍事力強化が大きな背景にある。南シナ海問題が、ここまで手遅れになった理由は当初、米国が毅然と対応せず黙認した形で放置したことだ。この失敗に鑑み、台湾問題では断固として防衛する姿勢を見せてけん制した。中国は、戦前のドイツと同じで隙を見て軍事行動を起こす危険性を秘めている。尖閣諸島へもいつ牙を向けてくるか分らない。そういう不気味さを見せている。